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タイプライターからコンピュータへ:QWERTY配列の変遷100年間(6)

2015年 8月 6日 木曜日 筆者: 安岡 孝一

タイプライターに魅せられた男たち・特別編第6回

QWERTY配列の変遷100年間(3)からつづく)

1923年7月、横浜のドットウェル商会に、アンダーウッド・タイプライター社から横書きカナタイプライターが到着しました。カナ58字、濁点、半濁点、長音符、数字10字、記号13字を収録した42キーの配列は、山下芳太郎の依頼で、スティックネー(Burnham Coos Stickney)が設計したものでした。

アンダーウッド式カナキー配列(U.S. Patent No.1549622)

アンダーウッド式カナキー配列(U.S. Patent No.1549622)

1952年12月、日本レミントンランド社は、46キーのカナ・ローマ字タイプライターを発売しました。横書きカナタイプライターに、アルファベット大文字26字を追加すべく、小書きのカナと数字の01を削除し、記号も9字に絞ったキー配列です。数字は最上段に移動しており、アルファベットのキー配列は、Pを除いてほぼQWERTY配列となっていました。カタカナのうち、シフト側にあったセソヘケムメは、別のキーに移されていました。

日本レミントンランド社のカナ・ローマ字タイプライターキー配列

日本レミントンランド社のカナ・ローマ字タイプライターキー配列

1964年4月、日本IBMは「IBMモデル72電動カタカナタイプライター」を発売しました。44キーの「IBM Selectric Model 72」をベースに、カタカナ45字、濁点と半濁点、アルファベット大文字26字、ハイフン(長音符と兼用)を含む記号5字、数字10字を収録する代わりにカタカナのヲを削除したキー配列でした。

「IBMモデル72電動カタカナタイプライター」のキー配列

「IBMモデル72電動カタカナタイプライター」のキー配列

1970年9月、電電公社は、加入データ通信サービス(コンピュータの共同利用を目的とした遠隔端末サービス)を開始するにあたり、「DT-211形データ宅内装置」を準備しました。4段シフト48キーの配列は、アルファベットや記号に関しては「Teletype Model 33」をほぼ踏襲していました。カタカナに関しては、「IBMモデル72電動カタカナタイプライター」でシフト側にあったムとロを移動し、小書きのカナを復活していました。

「DT-211形データ宅内装置」のキー配列

「DT-211形データ宅内装置」のキー配列

日本電子工業振興協会は、「DT-211形データ宅内装置」をもとにコンピュータのキー配列の標準化をおこない、このキー配列は1972年2月にJIS C 6233として制定されました。JIS C 6233は、カタカナに関しては「DT-211形データ宅内装置」のキー配列そのもので、アルファベットや記号に関しては「ISO 2530」とほぼ互換でした。

JIS C 6233

JIS C 6233

JIS C 6233は、その後1987年3月にJIS X 6002という規格番号に変更されましたが、キー配列はほぼそのままでした。日本のコンピュータのキーボードは、今もJIS X 6002に従っていて、濁点のそばにセやケがあったり、8と9のシフト側にカッコが収録されていたりするのです。

【筆者プロフィール】

安岡孝一(やすおか・こういち)

京都大学人文科学研究所附属東アジア人文情報学研究センター教授。京都大学博士(工学)。文字コード研究のかたわら、電信技術や文字処理技術の歴史に興味を持ち、世界各地の図書館や博物館を渡り歩いて調査を続けている。著書に『新しい常用漢字と人名用漢字』(三省堂)『キーボード配列QWERTYの謎』(NTT出版)『文字符号の歴史―欧米と日本編―』(共立出版)などがある。

http://slashdot.jp/~yasuoka/journalで、断続的に「日記」を更新中。

編集部から

近代文明の進歩に大きな影響を与えた工業製品であるタイプライター。その改良の歴史をひもとく連載です。毎週木曜日の掲載です。

2015年 8月 6日