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地域語の経済と社会 第336回 『Miyako♡あうぇーこなび』~高校生が作った街案内~

2015年 9月 5日 土曜日 筆者: 田中 宣廣

地域語の経済と社会―方言みやげ・グッズとその周辺―
第336回 『Miyako♡あうぇーこなび』~高校生が作った街案内~

 今回は,岩手県宮古市の中心商店街の案内パンフレット『Miyako♡あうぇーこなび』【写真1】【写真2】の方言ネーミングです。2つの観点から考えます。

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【写真1】『Miyako♡あうぇーこなび』表紙
【写真1】『Miyako♡あうぇーこなび』表紙
【写真2】『Miyako♡あうぇーこなび』内容
【写真2】『Miyako♡あうぇーこなび』内容

 まず,方言を考えます。後部の「なび」は方言でなく,カーナビの「ナビ:navigation」の意味の一つ「誘導」です。前部の「あうぇーこ」〔奥まった小路:正確な発音は[awɛːkko]〕が方言です。宮古方言の代表の一つに挙げられます。

 この小路は,京都市中心部のように格子状に街路が構成された街にみられます。こういう区画形状の街では,隣り合う建物同士の間に,街路から区画の奥に入るための(狭い)通路があります。この小路,京都ではロージと呼ばれます。東北地方では「アワイ〔間〕+コ」を語源とする地点が多く,宮古などでは「アウェーッコ」です[後注]

 この小路の発生は,室町時代以降の町屋敷に掛かる直接税「地子」(じし/ちし:現代の固定資産税に相当)が起源です。こういう街では,ほとんどの建物が街路に接する部分を短くして街路から奥に細長い構造です。よく『うなぎの寝床』と呼ばれますね。区画内での細長い建物と建物の間の通路も幅狭く細長いものになります。地子は街路に接する部分(間口)の長さ(接道の長さ)により税額が決まっていました(現代の固定資産税も税額算出の一部にこの方式を継承)。町屋敷は節税のため街路に接する部分の長さをできるだけ短くしました。建物の面積は街路から奥に伸ばすことで確保したので『うなぎの寝床』になりました。そこに,区画の反対側の街路への近道,また,奥の建物への通路として小路が設置されました。

 2つ目の観点は『Miyako♡あうぇーこなび』の制作者です。「ユースみやっこベース」という高校生のグループ(http://miyakkobase.jimdo.com/)です。次代を担う世代が方言を活用していまして,地域や方言の将来にとって大いに結構なことだと思います。制作の中心メンバー4名が現在,宮古短期大学部学生赤十字奉仕団で活躍しています。『あうぇーこなび』はhttp://miyakkobase.jimdo.com/プレゼン大会/宮古市のマップ制作/にも紹介があります。

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[注]伊藤麟市『宮古の方言と敬語』(1982年,田中タイプ印刷)の「各地(方言)比較表」に,岩手県内各地と秋田県鹿角市の諸方言の「奥まった小路」の方言形一覧があります(pp.184-185,表記は原典のまま。掲載順は引用にあたり調整)。

宮古:アワェーッコ 川井:アワェコ
田老:アワェコ 盛岡:アワェ
山田:アワェーッコ 遠野:ヒエァーコ,ヒシエァコ
大槌:アワイッコ 和賀:アエダコ
釜石:アエッコ 福岡(現二戸市):カミヨデ
大船渡:アワェーッコ   鹿角市(秋田県):アワェコ

無回答の地点:新里,岩泉,沢内,田野畑,久慈(田中調査ではロジ)

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【筆者プロフィール】

言語経済学研究会 The Society for Econolinguistics
 井上史雄大橋敦夫田中宣廣日高貢一郎山下暁美(五十音順)の5名。日本各地また世界各国における言語の商業的利用や拡張活用について調査分析し,言語経済学の構築と理論発展を進めている。
(言語経済学や当研究会については,このシリーズの第1回後半部をご参照ください)

『魅せる方言 地域語の底力』『付属語アクセントからみた日本語アクセントの構造』田中宣廣(たなか・のぶひろ)
 岩手県立大学 宮古短期大学部 図書館長 経営情報学科長 教授。博士(文学)。日本語の,アクセント構造の研究を中心に,地域の自然言語の実態を捉え,その構造や使用者の意識,また,形成過程について考察している。東京都立大学大学院人文科学研究科修士課程修了。東北大学大学院文学研究科博士課程修了。著書『付属語アクセントからみた日本語アクセントの構造』(おうふう),『魅せる方言 地域語の底力』(共著,三省堂)など。2006年,『付属語アクセントからみた日本語アクセントの構造』により,第34回金田一京助博士記念賞受賞。『Marquis Who’s Who in the World』(マークイズ世界著名人名鑑)掲載。

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【編集部から】
皆さんもどこかで見たことがあるであろう、方言の書かれた湯のみ茶碗やのれんや手ぬぐい……。方言もあまり聞かれなくなってきた(と多くの方が思っている)昨今、それらは味のあるもの、懐かしいにおいがするものとして受け取られているのではないでしょうか。
方言みやげやグッズから見えてくる、「地域語の経済と社会」とは。方言研究の第一線でご活躍中の先生方によるリレー連載です。

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2015年 9月 5日