タイプライターに魅せられた男たち・番外編第5回

タイプライター博物館訪問記:菊武学園タイプライター博物館(5)

筆者:
2015年11月5日

菊武学園タイプライター博物館(4)からつづく)

菊武学園の「Remington-Sholes Typewriter」
菊武学園の「Remington-Sholes Typewriter」

「Remington-Sholes Typewriter」は、レミントン(Philo Remington)の甥フランクリン(Franklin Remington)と、ショールズ(Christopher Latham Sholes)の息子ザルモン(Zalmon Gilbert Sholes)が、1896年に発売したタイプライターです。レミントン・スタンダード・タイプライター社とは直接の関係がなく、しかも1901年には商標訴訟に負けて、「Fay-Sholes Typewriter」に名称を変更しています。その意味では、この菊武学園タイプライター博物館が所蔵する「Remington-Sholes Typewriter」も、1896年から1901年までの約5年の間に製造された可能性が考えられます。

菊武学園の「Remington-Sholes Typewriter」のキーボード
菊武学園の「Remington-Sholes Typewriter」のキーボード

この「Remington-Sholes Typewriter」には、キーボードのすぐ奥に銘板があり、「REMINGTON-SHOLES COMPANY MFRS. CHICAGO」と記されています。2段シフト43キーのキーボードは、いわゆるQWERTY配列で、左下には「CAP」キー、そのすぐ上には「CAP」をロックするための小さなキーが見えます。「CAP」キーを押すと、タイプバスケット全体が手前にシフトし、大文字が印字されるようになります。「CAP」キーを離すと、タイプバスケット全体が奥にシフトし、小文字が印字されるようになります。「Remington-Sholes Typewriter」はアップストライク式タイプライターで、印字はプラテンの下に挟まれた紙の下面におこなわれます。オペレータからは見えません。

菊武学園の「Remington-Sholes Typewriter」右側面
菊武学園の「Remington-Sholes Typewriter」右側面

「Remington-Sholes Typewriter」の向かって右側には、「RLRLR」と書かれたノブがあります。このノブは、インクリボンの進行方向を変えるもので、「R」に合わせるとインクリボンは右へ、「L」に合わせるとインクリボンは左へ、それぞれ動いていきます。1本のインクリボンを、全部で5回(2往復半)使うための仕掛けです。インクリボンの幅は35mm (1インチ3/8)もあって、片道ごとに7mm幅ずつ使うよう、「RLRLR」で少しずつインクリボンの位置が前後にずれる仕組みになっています。

ただ、この「Remington-Sholes Typewriter」には、多少の疑問が残ります。筐体はブロンズメッキなのですが、キャリッジ(プラテンを支える枠構造の部分)はニッケルメッキに見えるのです。通常は、両方がブロンズメッキか、あるいは、筐体が黒塗装でキャリッジがニッケルメッキ、というパターンなので、菊武学園の「Remington-Sholes Typewriter」は筐体とキャリッジがチグハグなのです。もしかしたら、複数の「Remington-Sholes Typewriter」(あるいは1901年以降の「Fay-Sholes Typewriter」)を1つに組み上げたものなのかもしれません。

筆者プロフィール

安岡 孝一 ( やすおか・こういち)

京都大学人文科学研究所附属東アジア人文情報学研究センター教授。京都大学博士(工学)。文字コード研究のかたわら、電信技術や文字処理技術の歴史に興味を持ち、世界各地の図書館や博物館を渡り歩いて調査を続けている。著書に『新しい常用漢字と人名用漢字』(三省堂)『キーボード配列QWERTYの謎』(NTT出版)『文字符号の歴史―欧米と日本編―』(共立出版)などがある。

https://srad.jp/~yasuoka/journalで、断続的に「日記」を更新中。

編集部から

近代文明の進歩に大きな影響を与えた工業製品であるタイプライター。その改良の歴史をひもとく連載です。木曜日の掲載です。