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地域語の経済と社会 第343回 宮崎県都城市の『方言カルタ』

2015年 12月 19日 土曜日 筆者: 日高 貢一郎

地域語の経済と社会―方言みやげ・グッズとその周辺―
第343回 宮崎県都城市の『方言カルタ』

 子供の頃,お正月にはお年玉をもらい,着るものも履くものも新しくし,新年気分にひたったものでした。屋外では凧揚げ,室内ではカルタ取りなどが定番の遊びでした。

【写真1】『みやこんじょ方言カルタ』の大型判(提供:盆ジュール)
【写真1】『みやこんじょ方言カルタ』の大型判
(提供:盆ジュール)
【写真2】『みやこんじょ方言カルタ』
【写真2】『みやこんじょ方言カルタ』
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 この連載でも,「方言かるた」を第33回,35回,82回,105回,210回で紹介していますが,宮崎県都城(みやこのじょう)市にも『みやこんじょ方言カルタ』があります。これが他とちょっと違っているのは,室内用のふつうサイズのほかに,体育館などでも遊べるようにと,ビッグな絵札=B2サイズ大(約50cm×約70cm)の大型判も作られている点です。

 企画したのは,都城の地域おこしと情報発信をしているグループ=「盆ジュール」です(都城は盆地で,それと〔こんにちは〕の意のフランス語にかけたネーミングです)。「楽しみながら,都城の方言を子供たちに少しでも伝えることができれば……」と願い,また大型判は「体を動かしながら楽しく方言と触れあってほしい。学校や公民館などに無料で貸し出したい」と呼びかけ,賛同者からの募金を集めて作りました【写真1】。クラウドファンディングサービスのサイトに,その写真や関連の情報が載っています(https://faavo.jp/miyazaki/project/155)。

 大型判の場合,読み札が大声で読み上げられると,子供たちは一斉にめざす札に向かって走りだします。判断力・瞬発力と同時に根気と体力も必要です。特に室内に閉じこもりがちな冬には有効で,格好の運動になります。(その後,高齢者福祉施設から「ふつうのものでは小さ過ぎるが,大きなものでは参加はむつかしい。いっしょに遊びたいのだが……」という要望があり,A5サイズ大(約15cm×約20cm)の中型判も新たに加わりました)。

 読み札を見ると方言色満載で【写真2】,

「おいげん きっみやん」
  〔私の家に,来てみて〕
  俺の家に>おいげん  来てみやり>きっみやん

「げんねっせ かおかいひがでっど」
  〔恥ずかしくて,顔から火が出るよ〕
  げんね〔恥ずかし〕くて>げんねっせ  顔から>顔かい

「すんくじらにおらじ こっちき」
  〔隅っこにいないで,こっちに来い〕

「せからしやっが くっど」
  〔うるさい人が来るぞ〕

「たのかんさあ しっちょい?」
  〔田のかんさあ=この地域特有の田の神様を 知ってる?〕
  知っちょる>しっちょい

「ちんがらやっど うかぜのあとは」
  〔めちゃくちゃだよ 台風の後は〕

などに見られるように,ラ行音の変化が激しかったり,〔~くて〕を「~せ」と言ったり,長音が短くなるなど,鹿児島県の薩隅(さつぐう)方言に通じる特徴がよく現れています。都城は旧薩摩藩に属していましたから……。

 子供たちの方言の現状とはかなり差がありますが,彼らがそれを意識して周りの人たちに質問すれば,異世代間のコミュニケーションと交流を図る何よりの機会になります。

 「盆ジュール」でこのカルタの企画・制作を担当した内村学さんは,「皆さんに広く利用してもらい,子供たちにも喜んでもらっている」と,確かな手応えを感じています。

第33回 「方言かるた」あれこれ
第35回 方言かるた(おまけ)
第82回 新潟弁の方言カルタ―新方言「なまら」の使い方
第105回 魚沼方言かるた(新潟県魚沼市)
第210回 方言かるた3種(長野県)

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【筆者プロフィール】

言語経済学研究会 The Society for Econolinguistics
 井上史雄大橋敦夫田中宣廣日高貢一郎山下暁美(五十音順)の5名。日本各地また世界各国における言語の商業的利用や拡張活用について調査分析し,言語経済学の構築と理論発展を進めている。
(言語経済学や当研究会については,このシリーズの第1回後半部をご参照ください)

『魅せる方言 地域語の底力』日高貢一郎(ひだか・こういちろう)
 大分大学名誉教授(日本語学・方言学) 宮崎県出身。これまであまり他の研究者が取り上げなかったような分野やテーマを開拓したいと,“すき間産業のフロンティア”をめざす。「マスコミにおける方言の実態」(1986),「宮崎県における方言グッズ」(1991),「「~されてください」考」(1996),「方言によるネーミング」(2005),「福祉社会と方言の役割」(2007),『魅せる方言 地域語の底力』(共著,三省堂 2013)など。

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【編集部から】
皆さんもどこかで見たことがあるであろう、方言の書かれた湯のみ茶碗やのれんや手ぬぐい……。方言もあまり聞かれなくなってきた(と多くの方が思っている)昨今、それらは味のあるもの、懐かしいにおいがするものとして受け取られているのではないでしょうか。
方言みやげやグッズから見えてくる、「地域語の経済と社会」とは。方言研究の第一線でご活躍中の先生方によるリレー連載です。

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2015年 12月 19日