タイプライターに魅せられた男たち・番外編第9回

タイプライター博物館訪問記:菊武学園タイプライター博物館(9)

筆者:
2016年1月7日

菊武学園タイプライター博物館(8)からつづく)

菊武学園の「Oliver No.3」
菊武学園の「Oliver No.3」

菊武学園タイプライター博物館には、「Oliver No.3」も展示されています。「Oliver No.3」は、シカゴのオリバー・タイプライター社が、1901年頃から1906年頃にかけて製造したタイプライターです。同社のタイプライターの特徴は、左右に翼のようにそびえ立った逆U字型の活字棒(というよりは活字翼)であり、「Oliver No.3」も左右それぞれ14本ずつの活字翼を備えています。

菊武学園の「Oliver No.3」背面
菊武学園の「Oliver No.3」背面

28個のキーからは、左右14個ずつのキーに分かれて、背面の奥に繋がる長いシャフトが伸びています。各シャフトは、それぞれが活字翼につながっており、キーを押すと対応する活字翼が打ち下ろされて、プラテンの上に置かれた紙の上面に印字がおこなわれます。いわゆるダウンストライク式であり、打った文字がその瞬間に見えるのです。また、活字翼が左右にあるので、真ん中に印字された文字が邪魔されずに見える、という特長があります。

菊武学園の「Oliver No.3」の右活字翼
菊武学園の「Oliver No.3」の右活字翼

活字翼には、それぞれ活字が3つずつ埋め込まれていて、プラテン・シフト機構により、84種類の文字が印字できます。「CAP」を押すと、プラテンが奥に移動し、大文字が印字されるようになります。「FIG」を押すと、プラテンが手前に移動し、数字や記号が印字されるようになります。ただし、菊武学園の「Oliver No.3」では、2つあるシフトキーのうち「CAP」の方が取れてしまっていて、残っているのは「FIG」だけです。また、28個のキーのうち、左下の「&」も取れてしまっています。

菊武学園の「Oliver No.3」のキーボード
菊武学園の「Oliver No.3」のキーボード

「Oliver No.3」のもう一つの特徴は、マージン機構が導入されていることです。様々な幅の紙を扱うために、印字をおこなう範囲を設定できるようになっているのです。また、印字をおこなう範囲を設定できるだけでなく、印字中にどうしてもマージンを越えたい場合には、臨時にマージンを外す仕掛けが準備されているのです。具体的には、中央の「Right」キーを押すと右端のマージンが外れて、さらに右側に印字できます。あるいは、右上の「Left」キーを押すと左端のマージンが外れて、さらに左側に印字できます。ただし、菊武学園の「Oliver No.3」では、マージン機構がうまく働かず、実際の動作は、筆者には確認できませんでした。

筆者プロフィール

安岡 孝一 ( やすおか・こういち)

京都大学人文科学研究所附属東アジア人文情報学研究センター教授。京都大学博士(工学)。文字コード研究のかたわら、電信技術や文字処理技術の歴史に興味を持ち、世界各地の図書館や博物館を渡り歩いて調査を続けている。著書に『新しい常用漢字と人名用漢字』(三省堂)『キーボード配列QWERTYの謎』(NTT出版)『文字符号の歴史―欧米と日本編―』(共立出版)などがある。

https://srad.jp/~yasuoka/journalで、断続的に「日記」を更新中。

編集部から

近代文明の進歩に大きな影響を与えた工業製品であるタイプライター。その改良の歴史をひもとく連載です。木曜日の掲載です。