タイプライターに魅せられた男たち・番外編第10回

タイプライター博物館訪問記:菊武学園タイプライター博物館(10)

筆者:
2016年1月21日

菊武学園タイプライター博物館(9)からつづく)

菊武学園の「Williams No.1」(Straight Keyboard Model)
菊武学園の「Williams No.1」(Straight Keyboard Model)

「Williams No.1」(Straight Keyboard Model)は、1894年から1897年頃にかけて、ウィリアムズ・タイプライター社が製造したタイプライターで、独特の印字機構を有していました。ウィリアムズ(John Newton Williams)が発明したこの印字機構は、活字棒の動作が、まるでバッタが跳ぶような軌跡を描くことから、グラスホッパー・アクションと呼ばれています。28本の活字棒は、プラテンの前後に14本ずつ配置されており、それぞれが28個のキーに繋がっています。キーを押すと、対応する活字棒がインク溜めを離れ、いったん上方へと上がったあと、プラテンの上へと伸びていって、プラテンに打ち下ろされます(動画)。プラテンの上に置かれた紙の上面に印字がおこなわれるので、打った文字がその瞬間に見えるのです。

ただし、プラテンの前後に活字棒が配置されているため、紙を丸めてプラテンの手前(活字棒の下)にセットする必要があります。また、打った後の紙は、プラテンの奥に丸まって吸い込まれていくため、実際には1~2行分しか見えない上に、打った後の紙を取り出すのが面倒という弱点があります。

菊武学園の「Williams No.1」の直線的キーボード
菊武学園の「Williams No.1」の直線的キーボード

「Williams No.1」には、キーが扇状に配置されているモデルと、キーが直線的に配置されているモデルがあります。菊武学園タイプライター博物館が所蔵する「Williams No.1」(製造番号N5903)では、28個のキーが直線的に配置されており、いわゆるQWERTY配列です。各活字棒の先には、それぞれ3種類の文字が搭載されていて、合計84種類の文字を印字できます。キーボードの左端には2種類のシフトキーがあり、手前のシフトキーを押すとプラテンが奥に、奥のシフトキーを押すとプラテンが手前に、それぞれ移動し、各キーごとに3種類の文字が印字できるようになっているのです。

菊武学園の「Williams No.1」背面
菊武学園の「Williams No.1」背面

菊武学園の「Williams No.1」の背面には、「MADE IN THE U.S.A.」の文字とともに、「WILLIAMS TYPEWRITER COMPANY FOR EUROPE」「21 CHEAPSIDE, LONDON, ENGLAND.」の文字が刻まれています。コネチカット州ダービーでの製造だと思われますが、この「Williams No.1」は、製造当初からイギリスへの輸出用だったと推定されます。

筆者プロフィール

安岡 孝一 ( やすおか・こういち)

京都大学人文科学研究所附属東アジア人文情報学研究センター教授。京都大学博士(工学)。文字コード研究のかたわら、電信技術や文字処理技術の歴史に興味を持ち、世界各地の図書館や博物館を渡り歩いて調査を続けている。著書に『新しい常用漢字と人名用漢字』(三省堂)『キーボード配列QWERTYの謎』(NTT出版)『文字符号の歴史―欧米と日本編―』(共立出版)などがある。

https://srad.jp/~yasuoka/journalで、断続的に「日記」を更新中。

編集部から

近代文明の進歩に大きな影響を与えた工業製品であるタイプライター。その改良の歴史をひもとく連載です。木曜日の掲載です。