三省堂辞書の歩み

第47回 新撰漢和辞典

筆者:
2016年1月27日

新撰漢和辞典

昭和12年(1937)2月1日刊行
宇野哲人・長沢規矩也編/本文1044頁/四六判(縦182mm)

手前から:【新撰漢和辞典】初版(昭和12年)
【新撰漢和辞典】(増訂版)50版(昭和14年)
【新撰漢和辞典】(補修版)163版(昭和20年)
【新撰漢和辞典】新修8版(昭和28年)

【本文1ページめ】

本書の編者は2名いるが、宇野哲人編『新漢和大字典』(昭和7年)をベースに、長沢規矩也の主導で成ったものと思われる。長沢の肩書きは「前第一高等学校教授」と記されていた。当時は法政大学の講師で、3年後の昭和15年に同大学の教授となる。

『新撰漢和辞典』は、これまでの漢和辞典と比べると、異なる点がたくさんあった。まず、中等学校の生徒を対象としていたこともあり、字義・語釈が文語体ではなくなっている。凡例にいたっては、です・ます調で書かれていた。

印刷所が三省堂印刷ではなく、共立社印刷所だったことは異例である。天・地・小口の三方を染めて色小口にしたことも、コンサイス判以外ではなかった。

投げ込みの部首索引(表)

最大の特色は、部首の新設や統合、所属変更を行い、引きやすさに重点を置いたことだ。「木」の部首は位置によって、上・下・左・その他の4つに分けている。また、画数の数え方も簡単にした。例えば、本来は5画の「瓜」を6画にしている。なお、『新漢和大字典』から表紙の裏の見返し部分に部首索引が載り、本書ではさらに投げ込みの別紙による部首索引も付いていた。

字音に関しては、四声が省かれた。さらに、『新漢和大字典』と同様に、漢音・呉音などの表示がなく、半切も載っていない。

熟語は、国語・漢文の教科書から採用されたものが多い。漢語ばかりではなく、「一入(ひとしお)」といった和語もある。『新漢和大字典』で記号を付けてあった「国訓」(現代日本語)や「時文」(現代中国語)の表示はなくなった。

熟語の配列は、五十音順ではなく、画数順にしてある。親字が下に付く熟語の一覧はないが、熟語の数は増えた。「猫」は1語から2語に、「犬」は5語から12語になっている。その代わり、出典・用例は減らされてしまった。

附録には、「中華民国行政区劃表・世界主要国漢名表・世界主要都市漢名表・韻目表」4頁、「主要部首名称」1頁、「字音仮名遣簡表」12頁、「常用漢字表」7頁、「編纂ををはりて(長沢規矩也)」2頁、「音訓索引」110頁、「支那歴朝興亡表」1頁があった。

初版刊行の翌13年に増訂版、16年に補修版、24年に新修版が出ている。補修版には「支那時文用語篇」56頁が加わった。次の新修版では附録が減って、「主要部首名称」1頁、「字音仮名遣簡表」12頁、「当用漢字表」7頁、「音訓索引」110頁だった。

音訓索引は発音的仮名遣いで、「ゐ→い」「ゑ→え」「ぢ→じ」「づ→ず」としている。そのため、現代仮名遣い(昭和21年)になっても支障がなく、昭和33年まで増刷されていた。新たな長沢規矩也編『明解漢和辞典』(新版)が出るのは、翌34年のことである。

●最終項目

●「猫」の項目

●「犬」の項目

筆者プロフィール

境田 稔信 ( さかいだ・としのぶ)

1959年千葉県生まれ。辞書研究家、フリー校正者、日本エディタースクール講師。
共著・共編に『明治期国語辞書大系』(大空社、1997~)、『タイポグラフィの基礎』(誠文堂新光社、2010)がある。

編集部から

2011年11月、三省堂創業130周年を記念し三省堂書店神保町本店にて開催した「三省堂 近代辞書の歴史展」では、たくさんの方からご来場いただきましたこと、企画に関わった側としてお礼申し上げます。期間限定、東京のみの開催でしたので、いらっしゃることができなかった方も多かったのではと思います。また、ご紹介できなかったものもございます。
そこで、このたび、三省堂の辞書の歩みをウェブ上でご覧いただく連載を始めることとしました。
ご執筆は、この方しかいません。
境田稔信さんから、毎月1冊(または1セット)ずつご紹介いただきます。
現在、実物を確認することが難しい資料のため、本文から、最終項目と「猫」「犬」の項目(これらの項目がないものの場合は、適宜別の項目)を引用していただくとともに、ウェブ上で本文を見ることができるものには、できるだけリンクを示すこととしました。辞書の世界をぜひお楽しみください。
毎月第2または第3水曜日の公開を予定しております。