タイプライターに魅せられた男たち・番外編第12回

タイプライター博物館訪問記:伊藤事務機タイプライター資料館(1)

筆者:
2016年2月18日
伊藤事務機ビルディング
伊藤事務機ビルディング

JR東西線の新福島駅すぐそば、伊藤事務機タイプライター資料館を訪問してきました。完全予約制の私設博物館ですが、伊藤事務機が創業して以来のコレクションである、約100台のタイプライターが展示されています。

伊藤事務機の「Remington Standard Typewriter No.7」
伊藤事務機の「Remington Standard Typewriter No.7」

コレクションのうちの1台、「Remington Standard Typewriter No.7」は、製造番号が189331と記されており、1906年頃の製造だと考えられます。前面の向かって左側にプラテン・シフト機構を補助するバネが付いており、左右いずれかの「SHIFT KEY」を押している間だけ大文字が、「SHIFT KEY」を離すと小文字が、それぞれ印字されます。このプラテン・シフト機構により、42キーで84種類の文字を打ち分けられるのです。

伊藤事務機の「Remington Standard Typewriter No.7」のキーボード
伊藤事務機の「Remington Standard Typewriter No.7」のキーボード

伊藤事務機の「Remington Standard Typewriter No.7」には、キーボードのすぐ奥に「MADE AT ILION, NEW YORK, U.S.A.」と記されています。44キーのキーボードは、いわゆるQWERTY配列で、下段の左右の端に「SHIFT KEY」があります。数字の「1」と「0」はキーボード上になく、それぞれ「l」(小文字のエル)と「o」(小文字のオー)で代用していたと思われます。また、最上段のシフト側に「$」が見当たらず、代わりに「£」が見えることから、あるいはイギリス輸出用のモデルだった可能性が考えられます。

プラテンを持ち上げてタイプバーを見る
プラテンを持ち上げてタイプバーを見る

上面のプラテンを持ち上げると、中には42本のタイプバー(活字棒)が見えます。タイプバーはそれぞれがキーにつながっており、キーを押すとタイプバーが跳ね上がってきて、プラテンを下げた状態ならば、プラテンの下に置かれた紙の下側に印字がおこなわれます。すなわち、この「Remington Standard Typewriter No.7」は、いわゆるアップストライク式のタイプライターで、プラテン下の印字面がオペレータからは見えません。しかしながら1906年の段階では、印字面が見えるタイプライターは数多く実用化されていて、「Remington Standard Typewriter No.7」は、すでに時代遅れになりつつあったと思われます。

筆者プロフィール

安岡 孝一 ( やすおか・こういち)

京都大学人文科学研究所附属東アジア人文情報学研究センター教授。京都大学博士(工学)。文字コード研究のかたわら、電信技術や文字処理技術の歴史に興味を持ち、世界各地の図書館や博物館を渡り歩いて調査を続けている。著書に『新しい常用漢字と人名用漢字』(三省堂)『キーボード配列QWERTYの謎』(NTT出版)『文字符号の歴史―欧米と日本編―』(共立出版)などがある。

https://srad.jp/~yasuoka/journalで、断続的に「日記」を更新中。

編集部から

近代文明の進歩に大きな影響を与えた工業製品であるタイプライター。その改良の歴史をひもとく連載です。木曜日の掲載です。