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漢字雑感 第12回 実用に供される漢字はどれくらいあるだろうか

2016年 3月 14日 月曜日 筆者: 岩淵匡

実用に供される漢字はどれくらいあるだろうか

 漢字はどれくらいあるのだろうか。かつて、諸橋轍次博士の『大漢和辞典』の版元、大修館書店が、同辞典の宣伝用のパンフレットを作成したときに、「ごまんとある」という言い方と、同辞典の収録漢字数約5万字とを引っかけて、漢字が「ごまんとある辞典」として宣伝をしたことがある。当時としては、『大漢和辞典』に収められた漢字数は、世界最多であった。日本における漢和辞典の収録漢字は、日本と中国の古典における使用漢字を主体としていた。

 その後、東京の紀伊國屋書店が、パソコン用に作成された、文字鏡研究会編の『今昔文字鏡 単漢字15万字版』(2006)を販売した。添付のマニュアルによると、JIS漢字(第一水準から第四水準の漢字)を含む、総漢字数174,975字が収められていた。これは、日本、中国、台湾、韓国、ベトナムの漢字のほかに、梵字、甲骨文字、西夏文字、水族(中国の少数民族)文字、篆書のほか、日本の、ひらがな、カタカナ、変体仮名、アラビア数字、その他各種記号類等を含んでいたのである。漢字に限定するなら、15万字余である。

 しかし、日本以外の国々や地域で使用されているものを含むのであるから、日本に限定するならば、はるかに少なくなる。せいぜい、『全訳漢辞海』(三省堂 2000初版、2011第3版:約12500字)、『新漢語林』(大修館書店 『漢語林』1987初版、1991改訂版、1994新版初版、2001新版第2版、『新漢語林』2004初版:約15000字)、『角川新字源』(角川書店 1968初版、1994改訂版:9920字)等々の小型辞典類に見られる漢字数で十分なのである。専門的使用ではなく、実用上は、『角川新字源』で十分、間に合う。

 したがって、日本において、個々人が使用している漢字数は、1万字もあれば十分過ぎるといってよい。国語辞典類が、一般の語彙とともに、およそ 2000字、常用漢字数にほぼ匹敵する個々の漢字を提示しているが、いわゆる漢文を読むのでなければ、これでも十分なのである。なお、江戸時代以降使用されてきた、漢字辞典の標準とでもいえる、中国の『康熙字典』では、安永本の場合、42719字収録されているという(文字鏡研究会監修『康熙字典 DVD-ROM 解説・マニュアル』紀伊國屋書店 2007)。

 一般に、日本では数が多いことが好まれるが、国語辞典や漢和辞典などで、多すぎることは、使いにくさを生じてしまい、決して便利ではない。やはり「適正」が最上なのである。しかし、最上というのはどのくらいかということになると、判断が難しいが、国立国語研究所において行われた、漢字調査(現代雑誌九十種の用語用字 第二分冊:漢字表 1963年:現代新聞の漢字 1976年、秀英出版)の結果によると、約3000字となっている。以前の常用漢字表の内の一つは、国立国語研究所の成果を利用したもので、優れた常用漢字表の一となっていた。

 

【筆者プロフィール】

岩淵匡(いわぶち・ただす)
国語学者。元早稲田大学大学院教授。

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【編集部から】

辞典によって部首が違うのはなぜ? なりたちっていくつもあるの? 編集部にも漢字について日々多くのお問い合わせが寄せられます。
この連載では、漢字についての様々なことを専門家である岩淵匡先生が書き留めていきます。
読めばきっと、正しいか正しくないかという軸ではなく、漢字の接し方・考え方の軸が身につくはずです。
毎月第2月曜日の掲載を予定しております。

2016年 3月 14日