タイプライターに魅せられた男たち・番外編第14回

タイプライター博物館訪問記:伊藤事務機タイプライター資料館(3)

筆者:
2016年3月17日

伊藤事務機タイプライター資料館(2)からつづく)

伊藤事務機の「Densmore Typewriter No.5」
伊藤事務機の「Densmore Typewriter No.5」

伊藤事務機タイプライター資料館には、「Densmore Typewriter No.5」も展示されています。デンスモア・タイプライター社は、エイモス・デンスモア(Amos Densmore)が1891年に創業した会社ですが、「Densmore Typewriter No.5」の発売時点(1903年)では、娘婿のスタードバント(James Warner Sturdevant)が社長を継いでいました。伊藤事務機の「Densmore Typewriter No.5」は、製造番号が36037なので、1908年頃の製造だと考えられます。

伊藤事務機の「Densmore Typewriter No.5」のキー配列
伊藤事務機の「Densmore Typewriter No.5」のキー配列

伊藤事務機の「Densmore Typewriter No.5」のキー配列は、いわゆるQWERTY配列で、「5」のシフト側に「£」があり、その一方で「$」や「¥」が右端に配置されています。基本的にはイギリス輸出モデルのキー配列なのですが、香港あるいは日本用にキー配列を改造された可能性も考えられます。

伊藤事務機の「Densmore Typewriter No.5」のタイプバスケット
伊藤事務機の「Densmore Typewriter No.5」のタイプバスケット

プラテンを上げると、タイプバスケットが見えます。タイプバスケットには、42本のタイプバー(活字棒)が、上下たがい違いに円形に配置されています。キーを押すと対応するタイプバーが跳ね上がってきて、プラテンに置かれた紙の下側に印字がおこなわれます。「Densmore Typewriter No.5」は、いわゆるアップストライク式のタイプライターで、プラテン下の印字面がオペレータからは見えません。

キーを押すと滑らかにタイプバーが跳ね上がってくる
キーを押すと滑らかにタイプバーが跳ね上がってくる

「Densmore Typewriter」の特徴は、可動部分にボールベアリングを使用していることで、タイプバーの動作も非常に滑らかです。「Densmore Typewriter No.5」においても、その点は同様なのですが、他の部分は1891年以来ほとんど改良が加えられておらず、わずかに「BACK SPACE」機構と、シフトロックおよび「UNLOCK」キーが追加されただけでした。その意味で、「Densmore Typewriter No.5」は、1903年の発売時点で、すでに競争力を失っていたと考えられます。

筆者プロフィール

安岡 孝一 ( やすおか・こういち)

京都大学人文科学研究所附属東アジア人文情報学研究センター教授。京都大学博士(工学)。文字コード研究のかたわら、電信技術や文字処理技術の歴史に興味を持ち、世界各地の図書館や博物館を渡り歩いて調査を続けている。著書に『新しい常用漢字と人名用漢字』(三省堂)『キーボード配列QWERTYの謎』(NTT出版)『文字符号の歴史―欧米と日本編―』(共立出版)などがある。

https://srad.jp/~yasuoka/journalで、断続的に「日記」を更新中。

編集部から

近代文明の進歩に大きな影響を与えた工業製品であるタイプライター。その改良の歴史をひもとく連載です。木曜日の掲載です。