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三省堂辞書の歩み 博物辞典

2016年 5月 25日 水曜日 筆者: 境田 稔信

三省堂辞書の歩み 第51回 博物辞典

博物辞典

昭和13年(1938)2月15日刊行
藤本治・岡田弥一郎・三輪知雄編/本文895頁/菊判(縦226mm)


左:【博物辞典】1版(昭和13年)
右:【本文1ページめ】(クリックで拡大)

 明治以降、昭和初期(戦前)まで「博物」は小・中学校で教科のひとつだった。それ以前は、奈良時代に中国から伝わった「本草学」があり、江戸時代に盛んとなっている。

 「博物」は「博物学」の略で、『大辞林』第三版によると、
「自然物、つまり動物・植物・鉱物の種類・性質・分布などの記載とその整理分類をする学問。特に、学問分野が分化し動物学・植物学などが生まれる以前の呼称。また、動物学・植物学・鉱物学などの総称。自然誌。自然史。ナチュラル-ヒストリー。」

 日本における博物学の辞典は、以下のものが出版された。

  『博物新辞典』三余学寮編、田中宋栄堂、明治40年(1907)
  『博物学辞典』東京理科学会編、水野書店、大正元年(1912)
  『博物辞典』畠山久重著、科外教育叢書刊行会、大正7年(1918)
  『博物辞典』伊藤武夫ほか著、弘道閣、昭和7年(1932)

 本書は、中等教育に関する博物学の全般にわたる1万5000語余りを収録し、既刊の博物辞典を質・量ともに凌駕したものである。そして、これ以降に博物学の総合的な辞典は出版されていない。


カラー図版「園芸植物」

 編者は、藤本・岡田が東京高等師範学校教授の理学博士、三輪が東京文理科大学助教授だった。序文には、22人の協力者が挙がっている。

 見出しは発音仮名遣いとし、歴史的仮名遣いはルビで示された。動植物の学名はイタリック体になっている。

 既刊の辞典は4冊とも縦組だが、本書は欧文が頻出するため横組で、活字の大きさは6ポイントしかない。本文の途中にはカラー図版や写真などが別紙で39頁入っている。

 附録は184頁あり、詳細は以下のとおり。

  「植物分類表」12頁、「動物分類表」5頁、「鉱物分類表」3頁
  「火成岩分類表」1頁、「地質時代的分布表」4頁、「地質時代区分表」8頁
  「学校及び研究所」2頁、「学会・学術団体」2頁
  「雑誌・報告書」8頁、「参考書」15頁
  「全国高山植物採集一覧」6頁、「天然記念物指定に依る植物採集禁止地」3頁
  「欧文索引」81頁、「動植物名漢字索引」30頁

 本文の内容もさることながら附録の充実ぶりを見ると、むしろ大学生以上の研究者を対象にしたような印象があり、書名を「大辞典」にしてもよかったと思えるほどである。

●最終項目(画像はクリックで拡大)

●「猫」の項目

●「犬」の項目

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【筆者プロフィール】

境田稔信(さかいだ・としのぶ)

1959年千葉県生まれ。辞書研究家、フリー校正者、日本エディタースクール講師。
共著・共編に『明治期国語辞書大系』(大空社、1997~)、『タイポグラフィの基礎』(誠文堂新光社、2010)がある。

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【編集部から】

2011年11月、三省堂創業130周年を記念し三省堂書店神保町本店にて開催した「三省堂 近代辞書の歴史展」では、たくさんの方からご来場いただきましたこと、企画に関わった側としてお礼申し上げます。期間限定、東京のみの開催でしたので、いらっしゃることができなかった方も多かったのではと思います。また、ご紹介できなかったものもございます。
そこで、このたび、三省堂の辞書の歩みをウェブ上でご覧いただく連載を始めることとしました。
ご執筆は、この方しかいません。
境田稔信さんから、毎月1冊(または1セット)ずつご紹介いただきます。
現在、実物を確認することが難しい資料のため、本文から、最終項目と「猫」「犬」の項目(これらの項目がないものの場合は、適宜別の項目)を引用していただくとともに、ウェブ上で本文を見ることができるものには、できるだけリンクを示すこととしました。辞書の世界をぜひお楽しみください。
毎月第2または第3水曜日の公開を予定しております。

2016年 5月 25日