ネット座談会「ことばとキャラ」

第6回 瀬沼 文彰さん

筆者:
2016年8月5日

【発言者】瀬沼文彰

次に、「キャラかぶり」の問題についての回答をしてみます。まずは、同じ番組に同じキャラは複数いらないと言われるバラエティ番組を例に考えてみましょう。出演する芸人やタレントたちは、多種多様なエピソードを語り、それぞれに強烈なキャラがあるように思えます。しかし、見る角度を変えると、司会者はリーダーキャラ、ツッコミキャラで、まとめ役や話の進行をし、ひな壇の複数のタレントや芸人たちは、全員が、ボケキャラやいじられキャラだと考えることもできます。

キャラは、どのように見るかによって、かぶることもあれば、かぶっていないと考えることもできる性質がありそうです。とはいえ、司会者のキャラかぶりは、お互いに場を仕切ろうとすれば対立をまねく恐れがあります。だからこそ、大物司会者同士は、同一番組で共演を避ける傾向があるのかもしれません。

前回も述べたように、現代の若者たちの人間関係は、バラエティ番組に酷似しています。若者たちのグループは一見、対等に映りますが、まとめ役のリーダーキャラがいることが多いです。むろん、リーダーキャラは複数は不要です。複数いるとグループ内の対立の火種になりかねないからです。グループの他のメンバーは、広く見ればいじられキャラになりますが、バラエティ番組と同様に、いじる者・いじられる者は変化しますし、状況に応じて、それぞれの個別のキャラが活かされ、コミュニケーションを盛り上げることもあります。

若者たちは、皆で協力して、その場が盛り上がることに努めます。その方法は多様ですが、キャラの括り方、見る角度もその1つのはずです。そのため、彼/彼女たちにとっては、キャラかぶりは、状況によって容認したり、嫌がったりする問題だと考えられます。

では、若者たち自身は、キャラかぶりをどのように考えているのでしょうか。個性が重視される彼/彼女たちにとっては、キャラが友人と同じだということは嫌がられる考え方だと思われます。しかし、どのように異なっているのかはいまいち定かではありません。だとすれば、若者たちにとっては、キャラは、かぶっていないものと信じる程度のものなのかもしれません。あるいは、共感が主体の若者たちのコミュニケーションのなかで、キャラかぶりを嫌う傾向は、他者との「違い」の主張ととらえることもできそうです。キャラかぶりについては、観察者としてみるか、当事者としてみるかによって、もう一歩、深く問題に潜れるように思います。

筆者プロフィール

瀬沼 文彰 ( せぬま・ふみあき)

1978年生まれ
西武文理大学兼任講師,桜美林大学基盤教育院非常勤講師,追手門学院大学 笑学研究所 客員研究員,日本笑い学会理事
東京にて大手芸能事務所にて瀬沼・松村というコンビで漫才などタレント活動,引退後,東京経済大学大学院へ進学。同大学院 博士後期課程単位取得退学
専門は,コミュニケーション学,若い世代の笑いやコミュニケーションの研究を行っている。
単著『キャラ論』スタジオセロ(2007年),『笑いの教科書』春日出版(2008年)
共著『コミュニケーションスタディーズ』世界思想社(2010)

『キャラ論』

編集部から

新企画「ことばとキャラ」は,金田純平さん(国立民族学博物館),金水敏さん(大阪大学),宿利由希子さん(神戸大学院生),定延利之さん(神戸大学),瀬沼文彰さん(西武文理大学),友定賢治さん(県立広島大学),西田隆政さん(甲南女子大学),アンドレイ・ベケシュ(Andrej Bekeš)さん(リュブリャナ大学)の8人によるネット座談会。それぞれの「ことばとキャラ」研究の立場から,ざっくばらんにご発言いただきます。