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モノが語る明治教育維新―第6回

2017年 1月 10日 火曜日 筆者: 唐澤 るり子

第6回

 九九は九九でも割り算九九。江戸からの贈物。

 数ある掛図の中でも現代人が最も頭を捻るのが、この除算九九図でしょう。九九と言えば掛け算の乗算九九しか思い及ばず、インド式二桁掛け算に驚いているようでは、祖先の知恵に対して失礼というもの。ぜひ、頭に汗かいてこの掛図と格闘してみてください。

 明治9年発行の『師範学校改正小学教授方法』によれば、「右の行の一より九までを上の段の一より九までにて割る時は其下に書たる数となる 其読法は上の一を以て右の行の一を割る時は次の行の十分となる 又上の段の二にて右の行の一を割る時は五分となる 其下の二も三も同じ理にて三を五つにすれば六分となるが如し 日本算なれば(二一天作ノ五)(三一三十ノ一)(四一二十ノ二)(五一加一)と呼ぶ是なり」とあります。

 つまり、上の段の1~9は除数(割る数)、縦の1~9は被除数(割られる数)、交わったところの数字(基本、商と余りです)を暗記するわけですが、これは算盤を使って割り算計算するときに暗誦した割声(わりごえ)「八算」を明治8年東京師範学校が表にしたものなのです。和算の往来物(教科書)で江戸期のベストセラー数学書『塵劫記(じんこうき)』には、必ずこの八算が記載されており、江戸の人が割り算計算する際の必須アイテムでした。『小学教授方法』に日本算と記されているのがこの八算のことで、「二一天作の五」つまり、二でもって一を割ると五分になる、という意味の割声は少し前まで多くの日本人の知るところでした。ちなみに進退窮まった時に使う「二進(にっち)も三進(さっち)もいかない」という言い回しも、八算の2でも3でも割り切れない、というところからきています。

 一度この表を暗記すれば、除数が1桁なら指が自然と動いて珠算が出来るようになります。

 例えば12345÷3の場合

 まず「三一三十ノ一」(万の位の1を3で割る)と唱えながら、万の位を3に直し、千の位の2に余り1を加えると次のようになります。

次に、「三進が一十」(千の位の3を3で割る)、千の位の3から3を引き0にして、万の位に1を足します。

そして、「三進が一十」(百の位の3を3で割る)で同様に百の位についても3を0にして、千の位に1を足します。

それから、十の位の4を3と1に分けて計算します。「三進が一十」(十の位の4のうち3を3で割る)で十の位から3を引いて百の位に1を足すとこのようになり、

「三一三十ノ一」(十の位の残り1を3で割る)で、十の位の1を3に直し、一の位の5に1を足すと、次のようになります。

さらに、一の位の6を3と3に分けて考え、「三進が一十」(一の位の6のうち3を3で割る)でこのようになり

「三進が一十」(一の位の残り3を3で割る)で一の位の3から3を引いて0にして、十の位に1を足します。

つまり、答えは4115となるわけです。声に出しながら玉をはじいていくとなかなか気持ちが良いものです。

 明治5年頒布された『学制』には「算術九九数位加減乗除 但洋法ヲ用フ」とあり、算術は洋法即ち筆算(暗算・珠算ではなく、数字を書いて計算すること)を教えるように指示していますが、江戸期から受け継がれた珠算の便利さは文明開化も何のその、どっこい生き残ったわけです。

◆この連載の目次は⇒「モノが語る明治教育維新」目次へ

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【筆者プロフィール】

『図説 近代百年の教育』

唐澤るり子(カラサワ・ルリコ)

唐澤富太郎三女
昭和30年生まれ 日本女子大学卒業後、出版社勤務。
平成5年唐澤博物館設立に携わり、現在館長
唐澤博物館ホームページ:http://members3.jcom.home.ne.jp/kmuseum/
唐澤富太郎については第1回記事へ。

※右の書影は唐澤富太郎著書の一つ『図説 近代百年の教育』(日本図書センター 2001(復刊))

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【編集部から】

東京・練馬区の住宅街にたたずむ、唐澤博物館。教育学・教育史研究家の唐澤富太郎が集めた実物資料を展示する私設博物館です。本連載では、富太郎先生の娘であり館長でもある唐澤るり子さんに、膨大なコレクションの中から毎回数点をピックアップしてご紹介いただきます。「モノ」を通じて見えてくる、草創期の日本の教育、学校、そして子どもたちの姿とは。
更新は毎月第二火曜日の予定です。

2017年 1月 10日