続 10分でわかるカタカナ語

第6回 クール

2017年4月8日

どういう意味?

「冷えている・冷たい」や「冷静・落ち着いている」、「かっこいい」という意味でも使われます。

もう少し詳しく教えて

クール(cool)は、英語の形容詞で「涼しい」「冷えた」という意味を表します。例えば、冷蔵・冷凍による宅配サービスの名称に「クール」が登場するのも、その一例です。また、これも英語の意味からですが、「落ち着いた」「冷静な」という意味でも使われます。「クールな外見」「クールな態度」「クールな知性と熱い情熱を合わせ持つ」「自分は自分、他人は他人とクールに割り切る」や「クールな配色」などのように使われます。さらにまた近年では、英語のくだけた用法で「かっこいい」という意味でも使われるようになっています。「この曲は、最高にクールだ」「クールなクリエーター」「クールに着こなす」などです。

どんな時に登場する言葉?

「冷たい・涼しい」という意味のクールは、温度が関係する幅広い場面で登場します。また「冷静である」という意味のクールは、性格・思考・態度などが関連する幅広い分野で登場します。そして「かっこいい」を意味するクールは、おもに文化(芸術・デザインなど)に関連する場面で登場します。

どんな経緯でこの語を使うように?

温度や態度に使う「冷たい」「冷静な」などの用法は、古くから見られます。

いっぽう「かっこいい」意味は、比較的最近使われるようになってきました。

もともと英語の cool に「かっこいい」という意味が加わったのは、1930年代のことでした。1940年代後半にはジャズ音楽の世界にクールジャズ(cool jazz)とよばれる形態が登場。同時期に人気だった別形態・ビバップが「躍動感」を持っていたのに対し、クールジャズは「冷静なかっこよさ」を持っていました。このクールジャズの人気もあり「かっこいい」という意味でよく使われるようになりました。

日本に「かっこいい」の意味のクールが広まったのは1990年代のことです。例えば検索サービスの『ヤフー!ジャパン』(1996年開設)では、スタッフが「素晴らしい」と認定したサイトへのリンクに「COOL マーク」を付記する取り組みを行っていました。また『現代用語の基礎知識』(自由国民社)では1998年版(97年発売)の若者欄に、かっこいい意味のクールが初めて登場しています。

クールの使い方を実例で教えて!

クールだ

「冷静である」や「かっこいい」という意味のクールは、「クールだ」「クールな」「クールに」などのように使われます。例えば「この音楽はクールだ」「クールなナンバー(=曲)」「クールな装い」「どんな客にもクールに対応する」といった表現が可能です。

クールジャパン

日本は、独自のサブカルチャー(アニメ・マンガ・ゲーム・音楽・ファッション・食などにおける新興の大衆文化)が開花している国です。この日本をさして、近年「クールジャパン」と表現する機会が増えました。これは1990年代後半に英国で流行した概念である「クールブリタニア」(Cool Britannia)に倣った表現で、ゼロ年代(2000年〜09年)の中期に広まった概念でした。もちろんこの場合のクールは「かっこいい」意味を持ちます。

クールビズ

暑い夏を省エネルギーで快適に過ごすライフスタイルを「クールビズ」と呼びます。また、そのためのビジネス用軽装のことをさすこともあります。環境省が2005年に提唱した概念で、同年の新語・流行語大賞ではトップテンに入賞しました。このクールビズという語形のうち「ビズ(biz)」の部分は、ビジネス(business)を省略した言葉。いっぽう「クール」の部分は「涼しい」と「かっこいい」をかけた表現になっています

言い換えたい場合は?

低温のクールは、意外なことに日常会話での登場機会があまり多くありません。したがって言い換えについては省略します。ただし「クールな色」のように、温度を比喩として用いる色彩表現はよく見かけます。その場合は「冷たい色」「涼しげな色」などの表現を使ってみてください。

冷静のクールは「冷静である」「落ち着いている」「すましている」「冷淡である」「冷ややかである」「感情に左右されない」などの表現が使えます。例えば「クールな頭脳と温かい心を持つ」は「冷静な頭脳と温かい心を持つ」と置き換え可能です。

かっこよさのクールは「かっこいい」「よい」「すごい」「決まっている」「お洒落な」「いけてる」「洗練されている」「見事な」「秀逸な」「面白い」「最高な」(よい意味で)「やばい」などと表現できます。例えば「この音楽は最高にクールだよ」という表現は「この音楽は最高にかっこいいよ」と言い換え可能です。

雑学・うんちく・トリビアを教えて!

テレビ業界の「クール」 日本のテレビ業界に固有の業界用語に「クール」があります。「あの番組は1クールで終わってしまった」という時のクールです。これは四半期(3か月)をひとまとまりとする放送期間の単位を意味します。一見すると「冷たさ」とも「冷静」とも「かっこよさ」とも関係しないため不思議に思えますが、それもそのはず。実はこの場合のクールは、英語の cool ではなく、フランス語の cours(クール)を語源とする言葉なのです。 cours とは「流れ」のこと。英語でいう course(コース)に近い意味だと考えれば、わかりやすいかもしれません。

筆者プロフィール

もり・ひろし & 三省堂編修所

新語ウォッチャー(フリーライター)。鳥取県出身。プログラマーを経て、新語・流行語の専門ライターとして活動。『現代用語の基礎知識』(自由国民社)の「流行観測」コーナーや、辞書の新語項目、各種雑誌・新聞・ウェブサイトなどの原稿執筆で活躍中。

編集部から

「インフラ」「アイデンティティー」「コンセプト」等々、わかっているようで、今ひとつ意味のわからないカタカナ語を詳しく解説し、カタカナ語に悩む多くの方々に人気を博したコンテンツ「10分でわかるカタカナ語」が、ふたたび帰ってきました。

「インテリジェンス」「ダイバーシティー」「エビデンス」など、日常生活の中で、新たなカタカナ語は引き続き、次々に生まれています。世の中の新しい物事は、カタカナ語となって現れてくると言っても過言ではありません。

これら悩ましいカタカナ語をわかりやすく考え、解説してゆきます。

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