続 10分でわかるカタカナ語

第23回 パラサイト

2017年8月26日

どういう意味?

「他者に依存する人」という意味です。

もう少し詳しく教えて

パラサイト(parasite)はもともと英語で「寄生生物」を意味する言葉です。異種の生物に何らかの方法で取り付いて、一方的に栄養を得る生物のことを指します。例えば人間などの哺乳類に寄生して、吸血などによって栄養を奪っていくシラミも parasite の一種です。

いっぽうカタカナ語のパラサイトは「(生計などを)他者に依存する人」という意味で使われます。特に「成年に達してもなお親と同居し、金銭面も含めて生活を親に依存し続ける独身者」を指すことが多いようです。このような独身者を「パラサイトシングル」(和製英語:parasite single)と呼びます(詳細は後述)。

どんな時に登場する言葉?

社会学・報道・論評などの分野で登場するほか、一般社会でもよく見かける言葉になりました。

どんな経緯でこの語を使うように?

寄生生物を意味する外来語および専門用語としての古い用例もありますが、「他者に依存する人」の意味で、一般的に使われるようになったのは近年になってからのことです。

まず1995年、SF ホラー小説『パラサイト・イヴ』(瀬名秀明著/角川書店)が話題になりました。これは「ミトコンドリア遺伝子の反乱」を描いた作品。生物の細胞内に存在するミトコンドリア遺伝子を「寄生者」と捉えた世界観を描きました。この作品がきっかけとなり、一般社会で「パラサイト」の認知度が高まったのです。なお同小説は1997年に映画化されています。

その1997年に、社会学者の山田昌弘が「パラサイトシングル」と名付けた新概念を提唱しました(参考:日本経済新聞1997年2月8日夕刊「増殖するパラサイト・シングル」)。これは、学校を卒業しても親と同居し、生活基盤を親に依存している未婚者を意味する概念でした。ちなみにパラサイトシングルの命名について、山田は後の著書でこう述べています。「当時『パラサイト・イヴ』という恐怖映画がロードショーにかかっていたので、あやかったものである」(参考:『パラサイト・シングルの時代』山田昌弘著/筑摩書房/1999年)。

この新概念が世間で話題になって以降、「パラサイト」は一般に使われるようになりました。

パラサイトの使い方を実例で教えて!

「パラサイトシングル」

「学卒後もなお、親と同居し、基礎的生活条件を親に依存している未婚者」のことをパラサイトシングルと呼びます(「 」内の定義は造語者・山田昌弘の著書『パラサイト・シングルの時代』による)。家事を親に任せ、収入の大半を小遣いにあてることが可能な人たちです。「未婚率上昇・少子化の一因になっているのでは?」「親の経済力が低下したあとの生活はどうなるのか?」などと指摘されている存在でもあります。

なお、ニート(NEET:学校に行かず、職業に就かず、職業訓練も受けていない若者)も親の経済的支援のもとで生活していると考えられますが、ニートとパラサイトシングルは別の概念です。すべてのニートは無職ですが、パラサイトシングルは就業の有無を問いません。

「パラサイトする」

生活基盤を何かに依存することを「パラサイトする」と表現できます。例えば「実家にパラサイトする」「社会にパラサイトする」などの表現が可能です。

言い換えたい場合は?

「他者に依存している人」などの表現を試してみてください。文脈によっては「食客(しょっかく・しょっきゃく)」「居候(いそうろう)」などの言葉が使える場面もあります。いずれも「他人の家に居ついて食事の世話を受けること。またその人」を意味します。パラサイトシングルについては「学校を卒業しても親と同居して生活基盤を親に頼っている未婚者」などの文章表現を試してみてください。

動詞化した「パラサイトする」は「寄生する」「依存する」などの表現で言い換え可能です。

雑学・うんちく・トリビアを教えて!

太鼓持ち parasite の語源はギリシア語の parásītos で「他人の食卓で食べる人」を意味します(参考:『ランダムハウス英和辞典』小学館)。これは日本の「太鼓持ち」のような人物のこと。食宴の場で冗談などを言って場を盛り上げ、その見返りとして食事をご馳走(ちそう)してもらう人を指していました。つまり英語の parasite はもともと人物を指していた概念で、寄生生物を指すようになったのは後だったのです。

世界のパラサイトシングル パラサイトシングルと似た状況が世界各地で生まれています。例えば米国では「トウィックスター」(twixter)が話題に。大人と子どもの狭間の人を意味します(between の古い形 betwixt が語源)。またイタリアでは「マモーニ」(mammoni)が話題に。こちらはママっ子を意味します。

さらに韓国では「カンガルー族」が話題に。カンガルーのように子どもが親に依存する様子を表します。そして中国では「啃老族」(こうろうぞく)が話題になりました。啃とは「かじる」を意味する漢字で、「子どもが親の脛(すね)をかじる様子」を指しています。以上のいずれの概念とも「社会人になっても親と同居しつづける未婚者」を表す点で共通します。

石のパラサイト 地球に落ちてくる隕石(いんせき)の中に「パラサイト」と呼ばれる希少隕石があります。ニッケル鉄とケイ酸塩鉱物からなる隕石で、磨くと非常に美しく輝く特徴があります。このパラサイトは英語で pallasite と綴り、本稿の parasite とは別物。ドイツの博物学者 Peter S. Pallas にちなんだ命名です(参考:『ランダムハウス英和辞典』小学館)。

筆者プロフィール

もり・ひろし & 三省堂編修所

新語ウォッチャー(フリーライター)。鳥取県出身。プログラマーを経て、新語・流行語の専門ライターとして活動。『現代用語の基礎知識』(自由国民社)の「流行観測」コーナーや、辞書の新語項目、各種雑誌・新聞・ウェブサイトなどの原稿執筆で活躍中。

編集部から

「インフラ」「アイデンティティー」「コンセプト」等々、わかっているようで、今ひとつ意味のわからないカタカナ語を詳しく解説し、カタカナ語に悩む多くの方々に人気を博したコンテンツ「10分でわかるカタカナ語」が、ふたたび帰ってきました。

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