続 10分でわかるカタカナ語

第25回 ミニマリズム

2017年9月9日

どういう意味?

(生活・芸術などで)最小限の要素だけを用いる様式・手法・スタイルのことです。

もう少し詳しく教えて

ミニマリズム(minimalism)は英語で「最小限である様子」を意味する minimal(ミニマル)と「主義」を意味する -ism(イズム)が組み合わさった言葉です。

もともとは1960年代以降の美術・音楽で「簡素な形やその反復を用いて、最小限の要素で作品を構成する手法」を指していました。

いっぽうこれとは別に近年では、一般社会での用例も増えています。その場合「必要最小限の物しか持たないライフスタイル(生活様式)」を意味します。そのようなライフスタイルの実践者や支持者をさす「ミニマリスト」(minimalist)という言葉もよく聞かれるようになりました。

どんな時に登場する言葉?

一般にはライフスタイルの分野で登場する言葉です。

また美術・音楽・文学・ファッション・建築・デザインなどの分野では、表現手法としてのミニマリズムが登場します。さらに一部の学術分野でミニマリズムと名付けられた独自概念が登場することがあります。

どんな経緯でこの語を使うように?

英語の minimalism という言葉が注目されたのは、おおよそ1960年代になってからのことでした。この時代のアメリカで、ミニマリズムと呼ばれる美術や音楽が流行したのです。これ以降、ミニマリズムの概念は文学・ファッションなどの分野でも使われるようになりました。

いっぽうライフスタイルの面で注目されるようになったのは2010年代のことでした。まず2010年のアメリカで、ジョシュア=フィールズ=ミルバーンとライアン=ニコデマスが The Minimalists というウェブサイトを開設して、必要最小限の物しか持たない生活に関するエッセイを発表。これが大きな反響を呼んだのです。彼らの主張は、著書『minimalism~30歳からはじめるミニマル・ライフ』(フィルムアート社/2014年、原著は2011年)でも確認できます。いっぽう日本でも、佐々木典士が2015年に『ぼくたちに、もうモノは必要ない。』(ワニブックス)という書籍を発表しました。ちなみに同書はその副題で「断捨離(だんしゃり)(※)からミニマリストへ」というフレーズを掲げています。

(※やましたひでこが著書を通じて提唱した生活術。入ってくるいらないものを「断ち」、家にあるいらないものを「捨て」、物への執着から「離れる」ことを意味する)

ミニマリズムの使い方を実例で教えて!

美術の「ミニマリズム」

1960~1970年代のアメリカの美術界で「ミニマルアート」(minimal art)が流行しました。装飾的・説明的な要素を極力排して、単純な色や形で構成する彫刻や絵画などをさしていました。代表的作家には彫刻家のドナルド=ジャッド(Donald Judd)らがいます。

音楽の「ミニマリズム」

音楽におけるミニマリズムとは「短いフレーズを反復・持続・展開させる手法」のこと。この手法を用いた音楽を「ミニマルミュージック」(minimal music)と呼びます。1960年代のアメリカの現代音楽界で誕生した音楽ジャンルで、美術界の「ミニマルアート」になぞらえて、このように呼ばれるようになりました。代表的作曲家にはスティーブ=ライヒ(Steve Reich)らがいます。

また1990年代には「ミニマルテクノ」(minimal techno)というジャンルも登場しました。ミニマリズムの考え方は、ポピュラー音楽の世界にも広がったことになります。

文学・ファッションの「ミニマリズム」

このほかの文化的ジャンルにもミニマリズムの影響が広まりました。例えば1980年代のアメリカ文学界では「家庭内などの小さな出来事を短編として描く表現手法」がミニマリズムと呼ばれるようになりました。代表的な作家に、レイモンド=カーバー(Raymond Carver)らがいます。また1990年代のファッション界でも「装飾的要素を排して、単純な色や形で衣服をデザインする手法」がミニマリズムと呼ばれるようになったのです。ほかにも建築・デザインなどの分野で、ミニマリズムという表現が登場します。

学術の「ミニマリズム」

ミニマリズムは学術分野の専門用語として登場することもあります。例えば憲法学(アメリカ憲法学)には「司法ミニマリズム」という用語が存在します。また言語学でも「ミニマリズム」「ミニマリストプログラム」といった立場が存在します。これは、人間の言語能力の仕組みを解明するにあたり、必要最小限の言語処理操作を追究する考え方です。

言い換えたい場合は?

「最小限主義」と言い換えられることもありますが、各ジャンルにおける「ミニマリズム」を1語に置き換えることは難しいかもしれません。面倒ではありますが、「身の回りの物を最小限にして暮らす生活様式」(ライフスタイルのミニマリズム)、「装飾的・説明的な要素を極力排して、単純な色や形で作品を構成する手法」(美術のミニマリズム)などのような文章表現を試してみて下さい。

なお言語学のミニマリズムを言い換える場合は「極小主義」とすることが多いようです。

雑学・うんちく・トリビアを教えて!

最小限と最適 上で触れた「断捨離」を、ミニマリズムと同一視する立場も少なくありません。しかし、「断捨離」の提唱者であるやましたひでこはインターネット記事を通じてそれを否定しています。同氏の説明によると、ミニマリストの目標は「最小限」であるのに対して、ダンシャリアン(「断捨離」の実践者)の目標は「最適」であるとしています(参考:やましたひでこ「最小でも最大でもなく『最適』な量と関係で~ダンシャリアンがミニマリストと違う理由」2015年, <https://news.yahoo.co.jp/byline/yamashitahideko/20151121-00051672/>(参照2017-8-10))。

(わ)び寂(さ)びの侘び 日本文化に深く根付いているにも関わらず、日本人自身がうまく説明できない概念のひとつに「侘び寂び」という美意識があります。このうち「侘び」とは、茶道や俳諧で発達した美意識で「質素で静寂なおもむき」を意味します。これはミニマリズムにも通じる考え方といっても良いでしょう。

筆者プロフィール

もり・ひろし & 三省堂編修所

新語ウォッチャー(フリーライター)。鳥取県出身。プログラマーを経て、新語・流行語の専門ライターとして活動。『現代用語の基礎知識』(自由国民社)の「流行観測」コーナーや、辞書の新語項目、各種雑誌・新聞・ウェブサイトなどの原稿執筆で活躍中。

編集部から

「インフラ」「アイデンティティー」「コンセプト」等々、わかっているようで、今ひとつ意味のわからないカタカナ語を詳しく解説し、カタカナ語に悩む多くの方々に人気を博したコンテンツ「10分でわかるカタカナ語」が、ふたたび帰ってきました。

「インテリジェンス」「ダイバーシティー」「エビデンス」など、日常生活の中で、新たなカタカナ語は引き続き、次々に生まれています。世の中の新しい物事は、カタカナ語となって現れてくると言っても過言ではありません。

これら悩ましいカタカナ語をわかりやすく考え、解説してゆきます。

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