« 人名用漢字の新字旧字:「毘」と「毗」 - 『日本国語大辞典』をよむ―第17回 できないこと »

続 10分でわかるカタカナ語 第27回 レガシー

2017年 9月 23日 土曜日 筆者: もり・ひろし & 三省堂編修所

10分でわかる「レガシー」の意味と使い方

どういう意味?

 「遺産」、「従来型の」、「時代遅れの」という意味です。

もう少し詳しく教えて

 レガシー(legacy)は英語で「遺産」を意味する言葉です。本来は「亡くなった人がのこした財産」を意味するのですが、派生的に「世代から世代へ受け継ぐものごと」も意味します。日本語のレガシーは、後者をさします。例えば「前政権のレガシー」と表現した場合、ここでのレガシーは、前政権によって残された「政治的業績」を意味します。

 またレガシーという言葉は、レガシーシステムなどのように、名詞の前に付いて複合語となることもあります。そしてその多くで、レガシーが「従来型の」「時代遅れの」という意味を持ちます。例えばレガシーシステムとは、コンピューター分野で「負の遺産となった旧式のシステム」を意味します(詳細は後述)。

どんな時に登場する言葉?

 「遺産」という意味のレガシーは、政治・スポーツなどの分野でよく登場します。例えば政治分野ではレガシーが「政治的業績」などを意味します。またスポーツではオリンピックや大きな大会などの開催の成果や影響について語る場合にレガシー(後述)が登場します。

 「従来型の」、「時代遅れの」という意味のレガシーは、複合語の一部として、経営・コンピューター・航空などの分野でよく登場します。例えば経営分野ではレガシーコスト(後述)、コンピューター分野ではレガシーシステム(後述)などの専門用語が登場します。いっぽう航空分野ではレガシーキャリア(後述)という言葉があります。

どんな経緯でこの語を使うように?

 この言葉が本格的に使われるようになったのは1980年代から90年代にかけてのことでした。

 まず1989年に、自動車メーカーの富士重工業(現 SUBARU)が「スバル・レガシィ」を発売開始。レガシーという言葉が一般社会に浸透するきっかけをつくりました。また1990年代に入ると、コンピューター分野でレガシーシステム(後述)という概念が広まりました。

 近年では政治・経済の世界でもレガシーをよく見聞きします。例えば2010年には、日本航空の経営破綻問題に関連してレガシーコスト(後述)が話題になりました。またアメリカのオバマ前大統領(2009年~17年)の医療保険制度改革などの政治的業績について、各国メディアが功罪双方の観点から「レガシー」と呼んだことも、日本で盛んに報じられました。さらに2020年東京オリンピックの開催準備にあたり、大会の遺産を意味するレガシーが注目されています。

レガシーの使い方を実例で教えて!

「レガシーを残す」

 未来の遺産となり得る物事を作ることを「レガシーを残す」「レガシー(を)創出(する)」などと表現できます。例えば「任期が切れるのを前に、政権のレガシー作りに奔走する」などの表現が可能です。

「レガシーキャリア」

 航空分野では、LCC(ローコストキャリア/格安航空会社)に対する既存の航空会社のことを「レガシーキャリア」(legacy carrier)と呼びます。別名では「フルサービスキャリア」(full service carrier)とも言います。機内食や飲み物を有料で提供するなど、サービスを必要最小限に抑えるLCCに対して、従来型の航空会社のことを区別していう呼び方です。

オリンピックの「レガシー」

 国際オリンピック委員会(IOC)が定めるオリンピック憲章の中に次のような一節があります。「オリンピック競技大会の有益な遺産(positive legacy)を、開催国と開催都市が引き継ぐよう奨励する」(オリンピック憲章・2016年版/日本オリンピック委員会による和訳)。この項目は2003年版で新設されたものです。そして2020年の東京オリンピックを控え、日本語としても「オリンピックのレガシー創出に向けた活動を進める」などの用例が増えています。ここでいうレガシーとは、スポーツ・社会・環境・都市・経済の各分野で長期的に残っていく「有益性の高い影響全般」のこと。その中には競技施設のような「有形」のものもあれば、観光地としての知名度など「無形」のものもあります。

負の遺産(1)「レガシーシステム」

 コンピューターの分野には「レガシーシステム」(legacy system)という概念があります。新技術が登場したため、相対的に古びてしまった情報システムをさします。

 そもそも長期的に運用している情報システムは、それだけ業務に密着した運用が行われています。そのようなシステムが「レガシー化」すると、システムの改良や置き換えが難しくなるだけでなく、古いシステムの維持自体にもコストがかかるようになってしまいます。なお、レガシーシステムを新しいシステムに換えることを「レガシーマイグレーション」(legacy migration)といいます。

負の遺産(2)「レガシーコスト」

 過去から引き継がれており、なおかつ経営を圧迫する要因に掛かる費用を「レガシーコスト」(legacy cost)と呼びます。これを「負の遺産」と表現する場合もあります。例えば日本航空の経営破綻問題(2010年)では同社が退職者に払っていた年金がレガシーコストとして注目されました。

言い換えたい場合は?

 中立的な意味のレガシーを言い換える場合、単独であれば「遺産」、複合語なら「従来型の」「既存の」などを使うことができます。

 肯定的な意味のレガシー(多くは複合語ではなく単体で登場する)を言い換えたいときは「業績」「功績」を使うことができます。

 否定的な意味のレガシーを言い換える場合は、単独であれば「負の遺産」「過去の遺物」などの表現を使うことが可能です。また複合語では「旧式の」「古びた」や、状況によっては「時代遅れの」が使えます。

 なお「負の遺産」はレガシーコストを言い換える時にも利用可能です。

雑学・うんちく・トリビアを教えて!

枯れた技術 コンピューターを含む技術分野では、古びた技術がむしろ評価されることもあります。長期間利用されているがゆえに安定性が高い状況や、不具合も含めて取り扱いのノウハウが十分に蓄積されている状況が、有益である場合もあるからです。このような成熟した技術のことを、慣用的に「枯れた技術」と言います。この分野における「枯れた」は褒め言葉なのです。

  *  

◆この連載の目次は⇒「続 10分でわかるカタカナ語」目次へ

◆以前の連載は⇒「10分でわかるカタカナ語」へ

* * *

【筆者プロフィール】

もり・ひろし & 三省堂編修所

■もり・ひろし
 新語ウォッチャー(フリーライター)。鳥取県出身。プログラマーを経て、新語・流行語の専門ライターとして活動。『現代用語の基礎知識』(自由国民社)の「流行観測」コーナーや、辞書の新語項目、各種雑誌・新聞・ウェブサイトなどの原稿執筆で活躍中。

*

【編集部から】

 「インフラ」「アイデンティティー」「コンセプト」等々、わかっているようで、今ひとつ意味のわからないカタカナ語を詳しく解説し、カタカナ語に悩む多くの方々に人気を博したコンテンツ「10分でわかるカタカナ語」が、ふたたび帰ってきました。
 「インテリジェンス」「ダイバーシティー」「エビデンス」など、日常生活の中で、新たなカタカナ語は引き続き、次々に生まれています。世の中の新しい物事は、カタカナ語となって現れてくると言っても過言ではありません。
 これら悩ましいカタカナ語をわかりやすく考え、解説してゆきます。
 毎週土曜日更新。

【関連書籍】

●『見やすいカタカナ新語辞典 第2版』
大きく見やすい活字でカタカナ新語が引ける。約13,000語収録。詳細は こちら

●『コンサイスカタカナ語辞典 第4版』
定評あるカタカナ語辞典の第4版。約56,300語収録。詳細は こちら

2017年 9月 23日