続 10分でわかるカタカナ語

第28回 CSR(シーエスアール)

2017年9月30日

どういう意味?

「企業の社会的責任」という意味です。

もう少し詳しく教えて

CSR とは英語の corporate social responsibility を略した言葉で「企業の社会的責任」を意味します。言い換えると、企業経営の際に、自社の利益追求だけでなく、人権・環境・雇用・消費者保護・事業慣行・企業統治などにも配慮する責任を指します。

そもそも企業が果たすべき責任には様々なものがあります。このうち最低限果たすべき責任が「法的責任」(法律を遵守した経営を行うこと)と「経済的責任」(賃金や代金の支払い・納税・配当などをきちんと行うこと)とされます。

しかしながら現代の企業の責任には、これ以外にも「倫理的責任」があります。例えば従業員や関係者に対する人権問題(例:性差別・人種差別、労働者搾取など)や環境問題(例:CO2の排出、水産資源の乱獲など)について、企業は「社会の不利益にならない行動」をいっそう求められるようになりました。CSR とは、以上に示したあらゆる責任を「社会的責任」として包括的にとらえる考え方です。

以上で述べた倫理的責任は「企業が配慮すべき相手が広がった」ために生じた責任である、と表現することも可能でしょう。従来、企業が配慮すべき相手は「経営者」「従業員」「消費者」「取引先」「株主(投資家)」などに限られ、これらに対する義務だけを果たせばよいと考えられてきました。この範囲が、CSR では「社会全体」や「環境」にまで拡張されたと考えることもできます。

なお CSR は、社会貢献活動(例:寄付や文化支援など)のように「事業とは別」の取り組みとして行うものではありません。本質的には「事業そのもの」の取り組み方を問題にしている点に注意してください。ただし CSR に社会貢献活動を「追加的に」含める考え方も一般的です。

どんな時に登場する言葉?

責任の主体が企業であることから、この言葉は企業経営の分野で頻出します。また責任の及ぶ分野も多岐にわたるため、その分野から見た言及も少なくありません。例えば人権・環境・雇用・消費者保護・事業慣行(例:公正な取引など)・企業統治(→ガバナンス)・社会貢献などの分野でも、CSR に関する言及がよく登場します。

どんな経緯でこの語を使うように?

1990年代の国際社会で、CSRの重要性を指摘する声が高まった経緯がありました。この時代に経済活動のグローバル化(世界化)が進行。それに伴い、企業による直接・間接の非倫理的行動(例:途上国での労働搾取、不公平な取引による貧困の深刻化など)がいっそう問題視されたのです。そこで消費者・投資家・非営利組織(→ NPO)・国際機関などが企業に対して、より倫理的な経営を求めるようになりました。2010年に、CSR の国際的ガイドラインである ISO 26000(→サステナブル )が登場したことも、そのような動きのひとつです。

日本で CSR の概念が本格的に注目されるようになったのは2003年のことでした。経済同友会が同年に発表した「第15回企業白書」において CSR を中心テーマとしたこと、またいくつかの有名企業が社内に CSR の専任部署や担当役員を置いたことが契機となりました。

このため2003年を「CSR 元年」と呼ぶこともあります。日本の新聞記事(注:毎日・朝日・産経・読売調べ)でも、CSR の登場頻度が増えたのはゼロ年代(2000年~09年)以降のことでした。

CSR(シーエスアール)の使い方を実例で教えて!

「CSR 経営」

企業の社会的責任を果たすための取り組みのことを「CSR の取り組み」「CSR(の)活動」「CSR(の)推進」などと表現できます。また、その取り組みを行う経営のことを「CSR 経営」とも表現できます。

「CSR 推進室」

企業の組織内に、CSR 活動を行うための専門部署を設けることがあります。そのような部署を「CSR 推進部」「CSR 推進室」「CSR 委員会」「CSR 部」「CSR 室」などと呼びます。

専門部署の設置方法は様々ですが、部門横断的な組織として設立されることも少なくありません。その場合は「部」ではなく「室」「委員会」などの呼称を用いることが多いようです。また実務を行う部署と、その意思決定を行う機関を分ける場合もあります。その場合は、それぞれの組織を呼び分けることになります。

「CSR 担当」

企業の中で CSR 活動に携わる担当者を「CSR 担当」と呼ぶことがあります。また CSR を所轄する役員は「CSR 担当役員」などと呼びます。

「CSR 報告書」

CSR に取り組む企業の多くは、自社における取り組みの方針やその現状などを「CSR 報告書」「CSR レポート」にまとめて公表しています。1990年代に普及した「環境報告書」を発展的に拡張して公表している企業も多いようです。

言い換えたい場合は?

「企業の社会的責任」が定訳です。これだけで意味が伝わらない場合は「企業が人権・環境などにも配慮する責任」などの文章表現を試してみてください。

雑学・うんちく・トリビアを教えて!

三方(さんぽう)良し 日本では2000年代に外来の概念として普及した CSR ですが、日本の伝統的な商業文化の中には、昔から CSR の精神を体現していたかのような経営哲学が存在しました。例えば、近江(おうみ)商人の「売り手良し、買い手良し、世間良し」という心得です。これは商いを通じて、売り手と買い手の双方の利益のみならず、社会にとっての利益も追及しようとする考え方でした。

筆者プロフィール

もり・ひろし & 三省堂編修所

新語ウォッチャー(フリーライター)。鳥取県出身。プログラマーを経て、新語・流行語の専門ライターとして活動。『現代用語の基礎知識』(自由国民社)の「流行観測」コーナーや、辞書の新語項目、各種雑誌・新聞・ウェブサイトなどの原稿執筆で活躍中。

編集部から

「インフラ」「アイデンティティー」「コンセプト」等々、わかっているようで、今ひとつ意味のわからないカタカナ語を詳しく解説し、カタカナ語に悩む多くの方々に人気を博したコンテンツ「10分でわかるカタカナ語」が、ふたたび帰ってきました。

「インテリジェンス」「ダイバーシティー」「エビデンス」など、日常生活の中で、新たなカタカナ語は引き続き、次々に生まれています。世の中の新しい物事は、カタカナ語となって現れてくると言っても過言ではありません。

これら悩ましいカタカナ語をわかりやすく考え、解説してゆきます。

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