著者ごとのアーカイブ
地域語の経済と社会 第149回 いたわりの方言(三重県)
2011年 5月 7日 土曜日 筆者: 山下 暁美地域語の経済と社会―方言みやげ・グッズとその周辺―
第149回「いたわりの方言(三重県)」
伊賀上野城を訪れたとき、ちょうど絵手紙展が開かれていました。地元の絵手紙の会が主催しているようでした。写真1と写真2はそのとき見かけた作品に書かれていたメッセージです。
「無理せんときゃ ボチボチしい~や」(無理しないでね。ゆっくりしてね。【写真1】)は、三重県やその周辺地域でも聞かれます。心温まることばです。「~や」は、文末詞といって日本語に古くからある表現とされています。よびかけや勧誘、といかけ、命令などに使われます。「~や」から「~やん」「~やい」などが分岐したと考えられています。
「ボチボチ」の典型は、「儲かりまっか(もうかりますか)」「ボチボチでんな(ゆっくり少しずつですね)」(大阪府)でしょう。
「ありがとう。すまんなあ。(すまないね)」【写真2】の「すまん」は、「済まん」と表記しますが、気持ちがこのままではすまない、申しわけないと感じているという意味です。
伊賀南部では、「えらい、すんまへんわー」、和歌山南部では、「すまんのら」、奈良吉野では「すまんだ」、滋賀湖西では「すまんこっとすなー」などがあり、ほかにも全国的にさまざまな形で用いられている表現の一つです。
「また来てだ~こ(また来てください)」【写真3】は、三重県伊賀地方の方言とされています。街中のお店のはり紙にも「どうぞ持って帰ってダーコ(持って帰ってください)」【写真4】と書かれています。「いただく」という意味では、和歌山県や三重県の一部でも使われているようです。「いただく」という依頼の意味から派生したのかもしれません。
伊賀上野では、「おいしいさかい、たくさんあがってだーこ(おいしいからたくさん召し上がってください)」、「ゆっくりしてだーこ(ゆっくりしてください)」などと言います。
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【筆者プロフィール】
言語経済学研究会 The Society for Econolinguistics
井上史雄,大橋敦夫,田中宣廣,日高貢一郎,山下暁美(五十音順)の5名。日本各地また世界各国における言語の商業的利用や拡張活用について調査分析し,言語経済学の構築と理論発展を進めている。
(言語経済学や当研究会については,このシリーズの第1回後半部をご参照ください)

山下暁美(やました・あけみ)
明海大学外国語学部・大学院応用言語学研究科教授。博士(学術)。
専門は、日本語教育学・社会言語学。研究テーマは、移民百年を迎えた、ブラジル、アメリカ合衆国などにおける日本語の変化、外国人の日本定住化による共生時代の日本語教育政策。
著書に『書き込み式でよくわかる日本語教育文法講義ノート』(共著、アルク)、『海外の日本語の新しい言語秩序』(単著、三元社)、『スキルアップ文章表現』(共著、おうふう)、『スキルアップ日本語表現』(単著、おうふう)、『解説日本語教育史年表(Excel 年表データ付)』(単著、国書刊行会)、『ふしぎびっくり語源博物館4 歴史・芸能・遊びのことば』(共著、ほるぷ出版)などがある。
【編集部から】
皆さんもどこかで見たことがあるであろう、方言の書かれた湯のみ茶碗やのれんや手ぬぐい……。方言もあまり聞かれなくなってきた(と多くの方が思っている)昨今、それらは味のあるもの、懐かしいにおいがするものとして受け取られているのではないでしょうか。
方言みやげやグッズから見えてくる、「地域語の経済と社会」とは。方言研究の第一線でご活躍中の先生方によるリレー連載の始まりです。
この連載への質問、また「ここでこんな方言みやげ・グッズを見た」などの情報は、問い合わせフォーム( http://dictionary.sanseido-publ.co.jp/support/question.html )から、「地域語の経済と社会」への質問・情報である旨を記してご投稿ください。
地域語の経済と社会 第144回 ハワイの日本語の方言
2011年 4月 2日 土曜日 筆者: 山下 暁美地域語の経済と社会―方言みやげ・グッズとその周辺―
第144回「ハワイの日本語の方言」
日本語教育史上にはじめてハワイの記事が登場するのは、1893年開校の日本語学校です。ハワイ島ハラワ公立学校の校舎を借りて発足しました。それより1年前の1892年には、ハワイ初の日系新聞「日本週報」が発刊されています。続いて、1895年にマウイ島クラのメソジスト教会で日本語学校が、1896年には、日本人小学校が設立されました。
ハワイ大学に日本研究コースが開設されたのは、1909年でした。1923年には、ホノルル教育会編『日本語読本』が発行されています(詳しくは、山下暁美著『解説日本語教育史年表』国書刊行会をご覧ください)。
このように、ハワイの日本人移民は、2世の日本語教育に熱心でしたが、1924年の排日移民法締結以後は、英語によるアメリカ市民育成の教育に重点が置かれるようになりました。2世、3世は、学校では標準語の英語、家では両親、祖父母とは日本語、兄弟とは英語と日本語という生活を送りました。しかし、ハワイの日常生活の英語は、ピジン英語といってハワイ語、中国語、ポルトガル語、日本語などの影響をうけた英語です。ですから、正確には3言語の生活です。
日本語は、日本の教科書を基準に使用していましたから、読み書きは、日本語学校で学んだ標準語、話し言葉は、移民出身者の多い山口県、広島県、熊本県、福岡県など西日本の方言の影響を強く受けた共通語が使用されました。今日、ハワイを訪れると元気な2世、3世の方と日本語で移民の歴史や日系人社会についていろいろ聞くことができます。
ハワイで使用されている日本語の中に、西日本の方言の影響を受けたことばのほかに、ハワイで新しく生まれた日本語があります。
「Chichi Mochi(乳餅)」【写真1】は、その例の一つです。Chichi-Mochiは、乳白色の色をしたやわらかくて丸くて甘い餅です。台湾や北京には、乳餅が存在するようです。あんが入っています。
次の「Taro(タロ)」【写真2】は、タロイモのポテトチップスです。日本で「タロ、ちょうだい」と言っても通じないでしょうね。タロイモと、さつまいも(Sweet Potato)と、Trio(タロイモ・サツマイモ・ジャガイモのミックス)はそれぞれ8ドル、シャガイモだけのポテトチップスは、6ドルで売られていました。Taroは、元々ポリネシア語でTaloと表記されていたもので、原産はどうも太平洋諸島のようです。日本のさといももその一種とされています。ハワイには、タロイモのパンケーキ、パラオのみやげには、タロイモ焼酎もあります。
「Hanapua」【写真3】は、日本で花札と呼ばれるもので、ハワイ・フラワー・カード・ゲームと訳がついています。日本語の「Hana・花」とハワイ語の「Pua・花」で新語を作っています。
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言語経済学研究会 The Society for Econolinguistics
井上史雄,大橋敦夫,田中宣廣,日高貢一郎,山下暁美(五十音順)の5名。日本各地また世界各国における言語の商業的利用や拡張活用について調査分析し,言語経済学の構築と理論発展を進めている。
(言語経済学や当研究会については,このシリーズの第1回後半部をご参照ください)

山下暁美(やました・あけみ)
明海大学外国語学部・大学院応用言語学研究科教授。博士(学術)。
専門は、日本語教育学・社会言語学。研究テーマは、移民百年を迎えた、ブラジル、アメリカ合衆国などにおける日本語の変化、外国人の日本定住化による共生時代の日本語教育政策。
著書に『書き込み式でよくわかる日本語教育文法講義ノート』(共著、アルク)、『海外の日本語の新しい言語秩序』(単著、三元社)、『スキルアップ文章表現』(共著、おうふう)、『スキルアップ日本語表現』(単著、おうふう)、『解説日本語教育史年表(Excel 年表データ付)』(単著、国書刊行会)、『ふしぎびっくり語源博物館4 歴史・芸能・遊びのことば』(共著、ほるぷ出版)などがある。
【編集部から】
皆さんもどこかで見たことがあるであろう、方言の書かれた湯のみ茶碗やのれんや手ぬぐい……。方言もあまり聞かれなくなってきた(と多くの方が思っている)昨今、それらは味のあるもの、懐かしいにおいがするものとして受け取られているのではないでしょうか。
方言みやげやグッズから見えてくる、「地域語の経済と社会」とは。方言研究の第一線でご活躍中の先生方によるリレー連載の始まりです。
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地域語の経済と社会 第139回 いやしの方言(福井県)
2011年 2月 26日 土曜日 筆者: 山下 暁美地域語の経済と社会―方言みやげ・グッズとその周辺―
第139回「いやしの方言(福井県)」
これまで、方言グッズを「もてなしの方言」「おいしい方言」と分類して紹介してきました。今回は、「いやしの方言」を福井県のグッズを例にあげて紹介します。
「息子へ たまには連絡しねま! 心配してるんやでの。」(息子へ たまには連絡しなさい。心配しているからね。【写真1】)
「お父さんへ あんまり無理せんとの。ぼちぼちでいいさけ。」(お父さんへ あまり無理をしないでね。ゆっくり少しずつでいいから。【写真2】)
「ご飯食べてるか? 体に気をつけてがんばっての。」(ご飯、食べてる? 体に気をつけてがんばってね。【写真3】)
【写真1】から【写真3】までを見てグッとこない人は少ないでしょう。共通語より、方言のほうがずっと感情を揺り動かす力があると思いませんか。心の琴線に触れる力です。自分の出身地の方言でなくても泣けてくるのは、どうしてでしょうか。
かつて、テレビ番組で遠く離れたところに進学や就職をした息子や娘に、両親が作業中の田んぼから、テレビを通じて、地元ことばでメッセージを送るという企画があったのを思い出しました。あまりよく理解できない方言での呼びかけであっても、心なごむ思いをしました。
Gooブログで検索すると方言の評判が出ています。話題にしている人は、女性が多いのですが、方言をポジティブ(プラス・好き)に評価している人は、76%でした。理由は、「かわいい」「いい」「おもしろい」「ささる」「ありがたい」というものです。「ささる」は、前述の「心の琴線に触れる力」にあたるものでしょう。最近、病院の治療や学校教育に方言の紙芝居や絵本を採用するところが広がっているとのことです。個別にみると、東北弁がポジティブと評価した人は、83%、九州弁78%、関西弁66%、東京弁56%でした。東京弁については、「上から目線に聞こえる」というネガティブな評価が見られました。東京からより離れた文化的距離にある方言ほど高く評価されているという傾向が見られます。
福井県の方言手ぬぐい【写真4】の西方横綱に「だんね」(差し支えない)ということばがあります。借りたお金を返すのが来週になるときなど「来週でも差し支えないよ」と言われるより、「ああ、来週、だんね、だんね」と言ってもらうと許されてホッとします。
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井上史雄,大橋敦夫,田中宣廣,日高貢一郎,山下暁美(五十音順)の5名。日本各地また世界各国における言語の商業的利用や拡張活用について調査分析し,言語経済学の構築と理論発展を進めている。
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山下暁美(やました・あけみ)
明海大学外国語学部・大学院応用言語学研究科教授。博士(学術)。
専門は、日本語教育学・社会言語学。研究テーマは、移民百年を迎えた、ブラジル、アメリカ合衆国などにおける日本語の変化、外国人の日本定住化による共生時代の日本語教育政策。
著書に『書き込み式でよくわかる日本語教育文法講義ノート』(共著、アルク)、『海外の日本語の新しい言語秩序』(単著、三元社)、『スキルアップ文章表現』(共著、おうふう)、『スキルアップ日本語表現』(単著、おうふう)、『解説日本語教育史年表(Excel 年表データ付)』(単著、国書刊行会)、『ふしぎびっくり語源博物館4 歴史・芸能・遊びのことば』(共著、ほるぷ出版)などがある。
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地域語の経済と社会 第134回 おいしい方言(奈良県)
2011年 1月 22日 土曜日 筆者: 山下 暁美地域語の経済と社会―方言みやげ・グッズとその周辺―
第134回「おいしい方言(奈良県)」
奈良県では、京都や大阪に近い方言を使うことから、なかなか方言の使用例を見つけるのは、難しいとされていました。ところが、2010年に、平城京遷都1300年を記念して、さまざまな記念行事が行われ、多くの観光客が奈良を訪れるようになりました。経済効果があって方言の使用が見られました。

【写真1 「奈良へ行ってきましてん!!」】


上:【写真2 「よばれや」の店の看板】
下:【写真3 「よばれやの夏ごはん」の宣伝】

左:【写真4 「えんぎもんや」】
右:【写真5 「奈良、たのしかったで~」】
最初に紹介するのは、「奈良へ行ってきましてん!!」(奈良へ行って来ましたよ【写真1】)です。「~てん」「~ねん」は、話し手の見解や意志を伝達します。「~てん」は、「あの店で買いましてん」のように、過去に使います。それに対して、これからのことは、「来月、また旅行に行きますねん」のように言います。「先、行ってんか」(先に行ってください)のように相手に依頼するときにも「~てん」が使われます。
【写真2】は、「よばれや」の店の看板です。そして、【写真3】は、「よばれやの夏ごはん」の宣伝です。「奈良のおいしいもんと創作おでん」と書いてあります。
「よばれや」の「よばれる」は、動詞の「食べる」の意味ですが、もともとは、「食事に招かれる」という意味でした。「よばれ屋」という店の名前と、「食べなさい」という意味をかけています。「はよ、よばれや」(軽い命令)、「たくさん、よばれや」(勧誘)のように「や」は、そのほか、禁止、依頼などにも使います。
「えんぎもんや」【写真4】は、おなじみのキティーちゃんですが、赤い座布団に座って、「福」をかかえています。キティーちゃんのまわりには、小判がちりばめられています。この「~や」は、断定の表現です。つまり、「縁起ものだ!」と断定しているのです。奈良県では、南部で「~や」が「~じゃ」になる地方もあります。
最後の「奈良、たのしかったで~」(奈良、楽しかったですよ【写真5】)の「で~」は、「で」と短くなったり、「や」とともに「やで」の形をとることもあります。標準語の「~よ」「~ぜ」に相当します。文末につけて念押しをしたり、「ほんまやで」のように断定の意味を伝えます。
以上の例は、平城京遷都1300年記念祭に訪れた観光客がもたらした経済効果と、方言みやげの関係を「地域語と経済の関係」として考えるよい例です。方言みやげは、経済だけでなく、奈良県人みずからのアイデンティティを反映する役割も果たしています。
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明海大学外国語学部・大学院応用言語学研究科教授。博士(学術)。
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著書に『書き込み式でよくわかる日本語教育文法講義ノート』(共著、アルク)、『海外の日本語の新しい言語秩序』(単著、三元社)、『スキルアップ文章表現』(共著、おうふう)、『スキルアップ日本語表現』(単著、おうふう)、『解説日本語教育史年表(Excel 年表データ付)』(単著、国書刊行会)、『ふしぎびっくり語源博物館4 歴史・芸能・遊びのことば』(共著、ほるぷ出版)などがある。
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地域語の経済と社会 第129回「おいしい方言(京都府)」
2010年 12月 11日 土曜日 筆者: 山下 暁美地域語の経済と社会―方言みやげ・グッズとその周辺―
第129回「おいしい方言(京都府)」
「おじゃこさん」【写真1】は、京都の店先で見つけたものです。京都で「おじゃこ」といえば、温かいご飯の上にのせていただくちりめんじゃこを指すのが一般的です。京都では、料理の素材や料理名に「お~さん」をつけることが多いです。和風“れすとらん“で「あっ!お豆さんや!」とはじめて豆に出会ったような喜びを表して、豆ごはんをいただく風景が見られます。ほかにも、「おいもさん」「おこうこさん(お香香・漬物のたくわん)」など、京都の味の歴史や伝統を支えてきた食材に「お~さん」がつきやすいといえます。
「お」をつける食材に、「おかぼ(かぼちゃ)」「おなす(なすび)」「おこぶ(昆布)」「おふ(麸)」などがあります。食材以外の例として、「おけそくさん」(お華足さん)があります。仏前に供えるごはん、お餅などをいうのですが、華足は、本来、仏前に置く脚付きの小盆を指します。
「~さん」を人に使う場合の例(本来、人に使うのですが)として、「よそさん」「一見(いちげん)さん」があります。京都で生活するとき、東日本にくらべて、けじめや筋を通すということが重要視されるようです。理屈では、どうにもならない場面で、「うちはうち、よそさんは、よそさん」と割り切るときの表現などに使われます。
「一見さん(いちげんさん・見ず知らずの紹介者のない初めての客)」は、もともとお茶屋ことばであったのが、「一見さん、おことわり」のように一般の店で使用されるようになった例です。お茶屋は、芸者を呼んで、客の代金を肩代わりします。紹介者の保証なしで初めての客を入れることは難しいことから、紹介者のない初めての客をこう呼ぶようになりました。
「おいでやす(いらっしゃい)。うまい貝汁とわっぱのめし、うまおまっせ(おいしいですよ)」【写真2】は、もう少し丁寧度があがると「おこしやす(いらっしゃい)。貝汁とわっぱのごはん、おいしおすえ。」とでもなるでしょうか。「うまおまっせ」は、京都でも男性が言いますが、むしろ大阪方言に近い感じです。「わっぱめし」の「わっぱ」は、杉や檜(ひのき)の薄板を曲げて作られる円筒形の木箱で、「わっぱめし」そのものは、福島や新潟以北で見かけることが多いです。関西と東北のコラボ作品といえます。
「ほんまにおいしいお弁当とおかず」【写真3】は、祇園で見つけた看板です。
次の例は、お酒の倉庫を売りにしている店の看板です【写真4】。「今ある家ん」(今あるやん・今あります)、「配達ならすぐいく家ん」(すぐいくやん・すぐ行きます)と、「や(ん)」に「家」という字をあてて、「いつでもあるではないか」と主張しています。「ほんまやんか」「あんた、きのう、そう、ゆうたやん」など「やん」は、文末につけて強調する意味で使います。
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地域語の経済と社会 第124回 「おいしい方言(島根県)」
2010年 11月 6日 土曜日 筆者: 山下 暁美地域語の経済と社会―方言みやげ・グッズとその周辺―
第124回「おいしい方言(島根県)」
「うまいがん」【写真1】は、写真を見ると「出雲地方のおいしいという方言です」と説明があります。「~がん」は、鳥取県西部や出雲地方で「おいしいじゃない」「おいしいよ」という意味で用いられています。終助詞の「~がの」が「~がん」と変化して、軽い同意や念押しを表します。この地方では、「~がね」「~がや」など終助詞の組み合わせによって微妙なニュアンスを表現する終助詞が数多く見られます。
ショーケースの中に、「うまいがん」の隣に、「うんまいな」(おいしいな)【写真2】が並べてありました。これは、麹菌(こうじきん)が入った塩の袋に手書きで書かれていたラベルです。「うんまいな」できゅうりをもんで、一夜漬けにしていただくとおいしいと書いてあります。島根県出身の生産者からじきじきに買ってきて、さっそくいただきました。
島根県という同じ県内で「おいしい」と伝えるにも、いろいろ表現があって方言が使えると豊かな気持ちになりませんか。
「ぼてぼて茶」【写真3】は、出雲地方に伝わる庶民の間食用のお茶です。その昔、松平治郷(まつだいら はるさと・号は不昧)という松江藩第7代藩主が松江に日本茶を広めたと言い伝えられ、出雲人のお茶好きは、有名です。「ぼてぼて茶」は、茶の花を入れて煮だした番茶を熱いうちに茶筅で泡立て、その中に赤飯、煮豆、漬物などを入れて箸を使わず飲むようにして食べるお茶です。泡立てるときに「ぼてぼて」と音がするのが名前の由来だそうです。沖縄の「ぶくぶく茶」、富山の「ばたばた茶」などと共通点があって、泡立てて飲みます。
島根県の「だんだん」(ありがとう)と書かれたTシャツ【写真4】を着た店員さんがいたので、背中を写させていただきました。もともと「だんだん(重ねがさね、次から次へと、あれやこれやと)お世話になりました」と使われていましたが、後ろの「お世話になりました」がとれて、「だんだん」だけで「ありがとう」の意味を表すようになりました。
このシリーズでも「出雲弁だんだんかるた」(第35回・大橋敦夫氏)、「よこただんだん市場」(第76回・田中宣廣氏)で紹介されていますから参考にしてください。
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地域語の経済と社会 第119回 チェコ語の方言(ブルノ編)
2010年 10月 2日 土曜日 筆者: 山下 暁美地域語の経済と社会―方言みやげ・グッズとその周辺―
第119回「チェコ語の方言(ブルノ編)」
「地域語の経済と社会」のシリーズでは、日本国内にかぎらず、海外の方言事情も時々紹介しています。今回は、チェコ(Czech Republic)の首都プラハから南東180kmに位置するブルノ(Brno)の方言を紹介します。チェコは、ボヘミア地方(西部)とモラビア地方(東部)に大きく2つに分けられますが、ブルノは、南モラビアの中心地として栄えた工業都市で、人口約40万人です。
チェコ語の方言は、大きくボヘミア方言、モラビア方言、ハナー方言、ラフ方言の4つに分けられます。ボヘミア方言は、モルダウ川流域に栄えたドイツに接する西部地域に分布します。ブルノは、モラビア方言地域に属しています。地図を見てみると、首都のプラハより、オーストリアのウィーンに近く、両都市間の距離は約100kmです。
ハナー方言は、中央モラビアで話されている方言で、ゆっくりしたテンポでリラックスした感じの方言です。ラフ方言は、ポーランドに国境を接するシレジア地方で話されている方言で、母音が短くかたい感じを与えます。
(http://hlavaczek.blogspot.com/2008/04/mapa-ne-r.html)
ブルノ方言のことを、市民は、Hantec(地元言葉の意味)と呼んでいますが、Hantecのほうがチェコ語のもともとの形と音声をとどめているとベラ・フィアロバ(Věra Fialová)さんは言います。モラビア地方は、スラブ民族によって9世紀~10世紀に大モラビア王国が形成されていました。その後、ドイツ人やユダヤ人、チェコ(ボヘミア)人が移住しました。第一次大戦まで、ハプスブルク家、オーストリア・ハンガリー帝国の支配下にあったので、ドイツ語が公用語であった時期もありました。民族復興とともにチェコ語が公用語になりましたが、首都プラハより、歴史を経てきて文化遺産の多いブルノのほうが、チェコ語のルーツを保持しているのです。
【写真1】は、ビールの泡の上にブルノの丘の上の教会がそびえています。“Staro Brno”(古いブルノの意)というビール会社の宣伝です。“ŠKOPEK(ジョッキー),CO(代名詞which),HODIL(与えた),JMÉNO(名前),ŠTATLU(町の中心・旧市街)”は、「町の中心に名前を与えたビール」という意味ですが、ブルノ方言で書かれています。標準チェコ語だと、“Pivo, co dal jméno centrum města”となります。
“denki ostravaka”(追放された言葉で書いた日記【写真2】)は、方言で書かれた日記です。何冊かのシリーズになっています。50から60ページの薄い本でしたが、一冊110コルナで日本円にすると約550円です。
記事を書くにあたってご協力くださったVěra Fialováさんと、友人の重盛千香子さんに厚く御礼申し上げます。
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言語経済学研究会 The Society for Econolinguistics
井上史雄,大橋敦夫,田中宣廣,日高貢一郎,山下暁美(五十音順)の5名。日本各地また世界各国における言語の商業的利用や拡張活用について調査分析し,言語経済学の構築と理論発展を進めている。
(言語経済学や当研究会については,このシリーズの第1回後半部をご参照ください)

山下暁美(やました・あけみ)
明海大学外国語学部・大学院応用言語学研究科教授。博士(学術)。
専門は、日本語教育学・社会言語学。研究テーマは、移民百年を迎えた、ブラジル、アメリカ合衆国などにおける日本語の変化、外国人の日本定住化による共生時代の日本語教育政策。
著書に『書き込み式でよくわかる日本語教育文法講義ノート』(共著、アルク)、『海外の日本語の新しい言語秩序』(単著、三元社)、『スキルアップ文章表現』(共著、おうふう)、『スキルアップ日本語表現』(単著、おうふう)、『解説日本語教育史年表(Excel 年表データ付)』(単著、国書刊行会)、『ふしぎびっくり語源博物館4 歴史・芸能・遊びのことば』(共著、ほるぷ出版)などがある。
【編集部から】
皆さんもどこかで見たことがあるであろう、方言の書かれた湯のみ茶碗やのれんや手ぬぐい……。方言もあまり聞かれなくなってきた(と多くの方が思っている)昨今、それらは味のあるもの、懐かしいにおいがするものとして受け取られているのではないでしょうか。
方言みやげやグッズから見えてくる、「地域語の経済と社会」とは。方言研究の第一線でご活躍中の先生方によるリレー連載の始まりです。
この連載への質問、また「ここでこんな方言みやげ・グッズを見た」などの情報は、問い合わせフォーム( http://dictionary.sanseido-publ.co.jp/support/question.html )から、「地域語の経済と社会」への質問・情報である旨を記してご投稿ください。
地域語の経済と社会 第114回 おいしい方言(熊本県)
2010年 8月 28日 土曜日 筆者: 山下 暁美地域語の経済と社会―方言みやげ・グッズとその周辺―
第114回「おいしい方言(熊本県)」
おいしい方言について、今回は、九州の熊本県をご紹介します。
「うまかばい。いっぺん食べたら忘れられんけん!」【写真1】
「~ばい」(~よ・~ぞ)は、自分の気持ちを相手に伝えたいときの終助詞です。
理由を表す「けん」(から)は、中国地方以南に分布します。中国地方では「ケー」、大分県では「キー」というところもあります。火の国熊本のとんこつ特製スープ付のラーメンです。「二人前」(ににんまえ)と通常書いてあると思いますが、「お二人前」(おふたりまえ)と書いてあるのは、丁寧さをそえているのでしょうか。
「食べてみんね」【写真2・食べてみないの】は、日本一大きいと言われる天草のにわとり、天草大王が入った鍋料理です。「~ね」は、「なんばいうとね」(なにをいっているの)のように話し手の気持ちを伝える終助詞です。
「だごうまか」【写真3・とてもおいしいよ】とあるのは、熊本のおみやげ、冷しいきなり団子です。熊本のよいおみやげ「よかもん」決定戦コンクール2007で選ばれたそうです。「だご」は、「とても・非常に」の意味で「団子」(だんご)とかけことばになっています。九州では、方言のもち味をうまく活かして、若者たちがことば遊びを楽しんでいるそうです。「うまか」は、「うまい」と断定することを避けて、「うまか」「よか」などと言います。「いきなり団子」の「いきなり」には、「やりっぱなし」「でだらめ」という意味や「簡単な」という意味があります。
「どんこん、たまがっどぉ!!」【写真4】の「どんこん」は、「たくさん」「とても」「いっぱい」の意味で、「たまがっどぉ!!」は「びっくりするぞ」の意味です。「たまがる」(びっくりする)は、九州全域に分布しています。「たまがす」「たまげらかす」(驚かす)という言い方も熊本県にあります。「魂消」(たまがす)と漢字で書くと意味がわかります。「たまがる」は九州地方に分布しますが、よく似た形の「たまげる」は、東日本に分布しています。
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⇒「地域語の経済と社会―方言みやげ・グッズとその周辺―」アーカイブへ
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【筆者プロフィール】
言語経済学研究会 The Society for Econolinguistics
井上史雄,大橋敦夫,田中宣廣,日高貢一郎,山下暁美(五十音順)の5名。日本各地また世界各国における言語の商業的利用や拡張活用について調査分析し,言語経済学の構築と理論発展を進めている。
(言語経済学や当研究会については,このシリーズの第1回後半部をご参照ください)

山下暁美(やました・あけみ)
明海大学外国語学部・大学院応用言語学研究科教授。博士(学術)。
専門は、日本語教育学・社会言語学。研究テーマは、移民百年を迎えた、ブラジル、アメリカ合衆国などにおける日本語の変化、外国人の日本定住化による共生時代の日本語教育政策。
著書に『書き込み式でよくわかる日本語教育文法講義ノート』(共著、アルク)、『海外の日本語の新しい言語秩序』(単著、三元社)、『スキルアップ文章表現』(共著、おうふう)、『スキルアップ日本語表現』(単著、おうふう)、『解説日本語教育史年表(Excel 年表データ付)』(単著、国書刊行会)、『ふしぎびっくり語源博物館4 歴史・芸能・遊びのことば』(共著、ほるぷ出版)などがある。
【編集部から】
皆さんもどこかで見たことがあるであろう、方言の書かれた湯のみ茶碗やのれんや手ぬぐい……。方言もあまり聞かれなくなってきた(と多くの方が思っている)昨今、それらは味のあるもの、懐かしいにおいがするものとして受け取られているのではないでしょうか。
方言みやげやグッズから見えてくる、「地域語の経済と社会」とは。方言研究の第一線でご活躍中の先生方によるリレー連載の始まりです。
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地域語の経済と社会 第109回
2010年 7月 24日 土曜日 筆者: 山下 暁美地域語の経済と社会―方言みやげ・グッズとその周辺―
第109回「おいしい方言(和歌山県)」
今回は、和歌山県田辺市周辺で集めた味覚に関する景観方言(街角で見つけた方言)を中心にお話します。
【写真1】は、伊賀忍者の装束をした“たなべぇ”がほっぺたにごはんつぶがついているのもかまわず、「こいはうまい!」(これはおいしい!)とあがら丼を食べています。
「あがら丼」【写真2】の「あがら」とは、「わたしたち」という意味です。「わたしたちの自慢の丼」という意味で、名付けられたそうです。自分のことを「あが」と言います。一人称の代名詞「吾」に助詞「が」がついた形です。「田辺へ来たらあがら丼を食べな、あかんど」(紀伊田辺に来たらわたしたちの自慢の丼をぜひ食べてくださいね)と地元の人が勧めていました。「食べな、あかんど」は、直訳すると「食べないといけませんよ」です。「あかんど」の“ん”は、中部地方から沖縄まで分布する少し強い否定の「~ない」です。「もう、話さん」「あがは、知らん」などと言います。
「魚にするか、肉がええか?」【写真3 魚にしますか、肉がいいですか】は、海の幸、山の幸、どちらも味わいのある特産品であることをアピールしています。「ええか」(いいか)は、関西方言です。勝浦町のほうに行くと「ええにおいのし」(いいにおいですね)などと言います。「のし」(~ですね)は、文末につける丁寧なことばで、21世紀に残したい和歌山のことば10に入っています。
「にが! うま! 大人味。」【写真4 にがい! うまい! 大人味。】は、大阪府、三重県などにも見られる表現で、「にがい!」「うまい!」の“い”を省略した表現です。「あま!」(甘い!)「いた!」(痛い!)など、そのときの感覚をインパクトを持って伝えます。
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【筆者プロフィール】
言語経済学研究会 The Society for Econolinguistics
井上史雄,大橋敦夫,田中宣廣,日高貢一郎,山下暁美(五十音順)の5名。日本各地また世界各国における言語の商業的利用や拡張活用について調査分析し,言語経済学の構築と理論発展を進めている。
(言語経済学や当研究会については,このシリーズの第1回後半部をご参照ください)

山下暁美(やました・あけみ)
明海大学外国語学部・大学院応用言語学研究科教授。博士(学術)。
専門は、日本語教育学・社会言語学。研究テーマは、移民百年を迎えた、ブラジル、アメリカ合衆国などにおける日本語の変化、外国人の日本定住化による共生時代の日本語教育政策。
著書に『書き込み式でよくわかる日本語教育文法講義ノート』(共著、アルク)、『海外の日本語の新しい言語秩序』(単著、三元社)、『スキルアップ文章表現』(共著、おうふう)、『スキルアップ日本語表現』(単著、おうふう)、『解説日本語教育史年表(Excel 年表データ付)』(単著、国書刊行会)、『ふしぎびっくり語源博物館4 歴史・芸能・遊びのことば』(共著、ほるぷ出版)などがある。
【編集部から】
皆さんもどこかで見たことがあるであろう、方言の書かれた湯のみ茶碗やのれんや手ぬぐい……。方言もあまり聞かれなくなってきた(と多くの方が思っている)昨今、それらは味のあるもの、懐かしいにおいがするものとして受け取られているのではないでしょうか。
方言みやげやグッズから見えてくる、「地域語の経済と社会」とは。方言研究の第一線でご活躍中の先生方によるリレー連載の始まりです。
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地域語の経済と社会 第104回
2010年 6月 19日 土曜日 筆者: 山下 暁美地域語の経済と社会―方言みやげ・グッズとその周辺―
第104回「おいしい方言(山形県)」
今回は、しりとりゲームが終わらない県、山形県の「おいしい方言」をご紹介します。山形県では、しりとりでうっかり「ん」で言い終わっても、「しまった!」とあわてず、つぎの人が、「んまい」【写真1 おいしい】と続ければいいんです。反対の意味を表す「んまぐねぇ」(おいしくない・よくない)でもいいです。ほかに「う」が「ん」に置き換わる例として、「んだば」(それじゃ、さよなら)などがあります。
山形弁は、鼻音、濁音を多用すると何となくそれらしく聞こえます。というわけで、フランス語と似ているという人もいます。筆者が知っている人で、山形弁とフランス語がじょうずだと自信を持っている人がいて、確かにフランス語の発音で少し得をしているように聞こえます。(しかし、フランス語が通じることとフランス語らしく聞こえることとは違います)
「なんじょだべ」【写真2】は、「いかがでしょうか」という意味です。「なん(何)じょ(ぞ)」は、「どんな」と置きかえることができ、それに「だ(です)」「べ(か)」がついた形と考えられます。
山形弁の特徴は、ほかにもあって、「し」「す」と「ち」「つ」の区別をしません。「やさいだす」【写真3・4 野菜だし】はその例です。「知らない」が「スらない」となり、「好き」は、「しぎ」と変化します。
「ままけは(飯喰は)」(ごはんですよ)【写真5】の「け」は「食べなさい」で、一字ですんでしまいます。「け」と言われたら「く」(食べる)と答えたり、「かね」(食べない)と答えたりします。短くて余計なエネルギーを使わないので経済的です。「わらわら」は「急いで・さっさと」の意味です。
んだば
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井上史雄,大橋敦夫,田中宣廣,日高貢一郎,山下暁美(五十音順)の5名。日本各地また世界各国における言語の商業的利用や拡張活用について調査分析し,言語経済学の構築と理論発展を進めている。
(言語経済学や当研究会については,このシリーズの第1回後半部をご参照ください)

山下暁美(やました・あけみ)
明海大学外国語学部・大学院応用言語学研究科教授。博士(学術)。
専門は、日本語教育学・社会言語学。研究テーマは、移民百年を迎えた、ブラジル、アメリカ合衆国などにおける日本語の変化、外国人の日本定住化による共生時代の日本語教育政策。
著書に『書き込み式でよくわかる日本語教育文法講義ノート』(共著、アルク)、『海外の日本語の新しい言語秩序』(単著、三元社)、『スキルアップ文章表現』(共著、おうふう)、『スキルアップ日本語表現』(単著、おうふう)、『解説日本語教育史年表(Excel 年表データ付)』(単著、国書刊行会)、『ふしぎびっくり語源博物館4 歴史・芸能・遊びのことば』(共著、ほるぷ出版)などがある。
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2007年









