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地域語の経済と社会 第152回「台湾方言(閩南語)の書き方2種」Two ways of writing Taiwanese dialect

2011年 5月 28日 土曜日 筆者: 井上 史雄

地域語の経済と社会―方言みやげ・グッズとその周辺―
第152回「台湾方言(閩南語)の書き方2種」
Two ways of writing Taiwanese dialect

 台湾の言語事情は複雑です。電車(台北捷運MRT)の車内アナウンスの4言語が象徴的です。①「国語」としての中国語(北京語)のほかに、②閩南(ミンナン、ビンナン)語(福建語・ホーロー語とも)、③客家(ハッカ)語、④英語が使われているのです。録音を聞いてください。善導寺(Shandao temple)駅です。

 北京語は戦後国民党政権がもたらしました。閩南語が一番多く使われ、「台湾語」とも呼ばれます。客家語は中国南部から移住した人々のことばです。北京語が標準語・共通語だとすると、閩南語は、台湾の代表的方言と言えます。北京語と発音が違っていて、漢字で表わせないことばもあります。

(画像はクリックで拡大します)
【写真1 「A菜」】
【写真1 「A菜」】

 そこで書き方に工夫をこらしているのですが、その一つがアルファベットの活用です。【写真1】のように、中華料理店のメニューや八百屋の値札には「A菜」と書いてあります。食べたらすなおな味でした。漢字で書けば“萵仔菜”で、台湾の方言では「エ・ア・ツァイ」のように発音するのですが、北京語で発音した「Aツァイ」のほうが日常生活でよく使われているそうです。

 また屋台の看板に「Q」「QQ」などと書いてあります。日本語の「しこしこ」「きゅっきゅっ」(弾力のある食感)にあたる擬態語です。また台北駅付近には「K書中心」という施設があります。クーラー付きの自習室です。「K書」は勉強、がり勉という意味で、啃書(ken shu)または看書(kan shu)からきているそうです。

【写真2 「バブ」】
【写真2 「バブ」】

 次に、台湾語を表すのに、注音字母を使うこともあります。カタカナに見かけが似た文字で、子音と母音と声調を示します。【写真2】のメニュー末尾の注音字母は「バブ」と読んで、アイスクリームを売るときのラッパの音を表したものだそうです。台湾風アイスクリームの意味です。これはまだ食べていません。

 このように、民衆の話しことば、台湾語(方言)は文字に記され、街角でも見られるようになりました。近年は台湾独立運動の波に乗って、台湾語をローマ字で表わす動きもあります。これからの変化が楽しみです。

 なお台湾の方言については第89回「海外の方言事情(台湾語の看板)」でも取り上げられています。

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【筆者プロフィール】

言語経済学研究会 The Society for Econolinguistics
 井上史雄大橋敦夫田中宣廣日高貢一郎山下暁美(五十音順)の5名。日本各地また世界各国における言語の商業的利用や拡張活用について調査分析し,言語経済学の構築と理論発展を進めている。
(言語経済学や当研究会については,このシリーズの第1回後半部をご参照ください)

『社会方言学論考―新方言の基盤』『日本語ウォッチング』井上史雄(いのうえ・ふみお)
明海大学外国語学部教授。博士(文学)。専門は、社会言語学・方言学。研究テーマは、現代の「新方言」、方言イメージ、言語の市場価値など。
履歴・業績 http://www.tufs.ac.jp/ts/personal/inouef/
英語論文 http://dictionary.sanseido-publ.co.jp/affil/person/inoue_fumio/ 
「新方言」の唱導とその一連の研究に対して、第13回金田一京助博士記念賞を受賞。著書に『日本語ウォッチング』(岩波新書)『変わる方言 動く標準語』(ちくま新書)、『日本語の値段』(大修館)、『言語楽さんぽ』『計量的方言区画』『社会方言学論考―新方言の基盤』(以上、明治書院)、『辞典〈新しい日本語〉』(共著、東洋書林)などがある。

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【編集部から】
皆さんもどこかで見たことがあるであろう、方言の書かれた湯のみ茶碗やのれんや手ぬぐい……。方言もあまり聞かれなくなってきた(と多くの方が思っている)昨今、それらは味のあるもの、懐かしいにおいがするものとして受け取られているのではないでしょうか。
方言みやげやグッズから見えてくる、「地域語の経済と社会」とは。方言研究の第一線でご活躍中の先生方によるリレー連載の始まりです。

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この連載への質問、また「ここでこんな方言みやげ・グッズを見た」などの情報は、問い合わせフォーム( http://dictionary.sanseido-publ.co.jp/support/question.html )から、「地域語の経済と社会」への質問・情報である旨を記してご投稿ください。

地域語の経済と社会 第147回 方言店名の盛衰―石垣島のテレビ効果

2011年 4月 23日 土曜日 筆者: 井上 史雄

地域語の経済と社会―方言みやげ・グッズとその周辺―
第147回「方言店名の盛衰―石垣島のテレビ効果」
Rise and fall of dialect shop names — TV effect in Ishigaki Island

 東日本大震災による地震、津波と原発事故という「三重苦」で、被害を受けた方々をお見舞い申し上げます。津波といえば、石垣島で1771年に高さ85メートルの山肌まで達したと伝えられる大津波があり、住民の半数近くが亡くなりました。今回の東日本大震災でも、石垣市からは多くの義援金が寄せられました。

 その石垣市では方言が元気で、店の名前で方言が目立ちます。アーケード街の商店名簿の方言店名は、20年前の3店(89店中)から、2011年には13店(102店中)に増えました。

 隣の繁華街にも方言店名があります。南山舎という地元の出版社の『やえやまGUIDE BOOK』にはこの美崎地区の地図があります。尋ねて行って、最初の版から、地図のコピーをいただきました。現地と照合し、電話帳で調べ、統計ソフトに入力して整理したら、21世紀に入ってから方言店名が増えたと読み取れました。グラフをごらんください。

【グラフ 石垣市美崎 方言店名店舗数の推移】
【グラフ 石垣市美崎 方言店名店舗数の推移】

 地元の人の話では、NHK連続テレビ小説の『ちゅらさん』のおかげということです。グラフに放送の年(続編を含む)を記しました。観光客数の増加(沖縄県八重山支庁による八重山入域観光客統計概況のPDFへ)とも関係します。

 方言店名については、このシリーズの第127回第132回で世界の分布を扱っています。『明海日本語』16号にも論文が載っています(『明海日本語』のページに論文のPDFが公開されています)。大阪市の方言店名は1980年代に増えたようです。全国の動き、そして世界の動きはどうでしょう。実はUNESCOでは、石垣島を含む沖縄県南端のことばを、絶滅の危機に瀕した言語と扱っています(UNESCO Atlas of the World’s Languages in Dangerのページへ)。だとすると、世界各地の言語復興運動と連動していると、みることができます。

 これから方言店名がどうなるか、追跡したいところです。新たに生まれた方言店名は、住宅地図で探せます。今の店がいつまでもつかは、インターネットの電話帳で分かります。

 そんな趣味の方のために、2011年現在の石垣市美崎町の方言店名(計25種)を(掲載年の古いものから)リストにしました。

【1.今も存在する店名15】 ゆうな マーミヤ ぐるくん亭 まーさん道 ゆくい スブンテ ゆんた ゆらてぃく てぃーだ やいま日和 tilla earth(ティーラアース) ニーランカーナン やーちゅー ふがらっさ SANSIN 
【2.今はない店名6】 ばがー島 かりゆし ウムッシャ とーい なんくる亭 やいま
【3.南山舎から「ある」とご教示いただき、インターネットの住宅地図にもあるが、インターネットの電話帳で出ない店名(集計表に算入)2】 美ら島屋 花ぐるむ
【4.新たに見つけた店名(集合ビルのスナックなど)2】 マヤマヤ にいにい

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 井上史雄大橋敦夫田中宣廣日高貢一郎山下暁美(五十音順)の5名。日本各地また世界各国における言語の商業的利用や拡張活用について調査分析し,言語経済学の構築と理論発展を進めている。
(言語経済学や当研究会については,このシリーズの第1回後半部をご参照ください)

『社会方言学論考―新方言の基盤』『日本語ウォッチング』井上史雄(いのうえ・ふみお)
明海大学外国語学部教授。博士(文学)。専門は、社会言語学・方言学。研究テーマは、現代の「新方言」、方言イメージ、言語の市場価値など。
履歴・業績 http://www.tufs.ac.jp/ts/personal/inouef/
英語論文 http://dictionary.sanseido-publ.co.jp/affil/person/inoue_fumio/ 
「新方言」の唱導とその一連の研究に対して、第13回金田一京助博士記念賞を受賞。著書に『日本語ウォッチング』(岩波新書)『変わる方言 動く標準語』(ちくま新書)、『日本語の値段』(大修館)、『言語楽さんぽ』『計量的方言区画』『社会方言学論考―新方言の基盤』(以上、明治書院)、『辞典〈新しい日本語〉』(共著、東洋書林)などがある。

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【編集部から】
皆さんもどこかで見たことがあるであろう、方言の書かれた湯のみ茶碗やのれんや手ぬぐい……。方言もあまり聞かれなくなってきた(と多くの方が思っている)昨今、それらは味のあるもの、懐かしいにおいがするものとして受け取られているのではないでしょうか。
方言みやげやグッズから見えてくる、「地域語の経済と社会」とは。方言研究の第一線でご活躍中の先生方によるリレー連載の始まりです。

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地域語の経済と社会 第142回 勧誘表現「らっしぇ」「らっせ」の方言差

2011年 3月 19日 土曜日 筆者: 井上 史雄

地域語の経済と社会―方言みやげ・グッズとその周辺―
第142回「勧誘表現「らっしぇ」「らっせ」の方言差」
Dialectal differences of Solicitation expressions “rasshe” & “rasse”

 人に誘いかける言い方は、方言差が豊かでした。今は使われなくなったその勧誘表現が、新たな価値を持って、商品名や施設の名などに使われています。

 伊豆半島の稲取温泉には、「くわっせ」というお菓子があります。「食べなさい」の意味です。一方この地域のパンフレットなどでは「こらっしぇ」という言い方が使われます。インターネットのGoogle mapで検索すると、稲取温泉の店の宣伝やクチコミ以外に、他の地域でも使われることが分かります【下図参照】。

図 Google mapの「らっしぇ」
【図 Google mapの「らっしぇ」】(画像はクリックで拡大します)

 またGoogle mapでは、似た言い方の「らっせ」「らんしょ」などの分布も分かります。このような表現は、方言集にはあまり出ませんが、インターネットで集められるのです(Google地図の保存方法については、第127回をご覧ください)。

 これまでのシリーズでも、第13回第143回で東北や九州の施設で似た発想の方言が使われていることが指摘されています。また第39,44,49,54,59,64,69回で扱われた各地の「もてなしの方言」にも、似た表現が混じっています。

 商品名やクチコミの用例でなく、店名施設名として確立した勧誘表現は、電話帳で分かるはずです。様々なインターネット全国電話帳を見ましたが、Yahoo電話帳http://phonebook.yahoo.co.jp/が便利で、全国の店名が一覧できます。

 「らっしぇ」を使っている施設名は、福島県の一つでした。
   JA会津みなみ藤の郷直売所よらっしぇ

 それにひきかえ、「らっせ」は、あちこちの施設で使われています。「道の駅 らっせぃみさと そばの郷」は、岐阜県恵那市三郷町にあります(ホームページhttp://www.rassei.com/)。

 他に以下の店が見つかりました。
   宇都宮餃子「来らっせ」【池袋餃子スタジアム】
   こらっせ新庄(山形県)

 インターネットを使うと全国(ときには全世界)の様子が分かります。これは面としての情報で、鳥瞰図にあたります。研究者が偶然目にする、または足を運んで確かめるという調査法は、点としての情報で虫瞰図と言えます。

 今回の東日本大震災の津波被害は、立体航空写真の撮影技術を持った民間機と自衛隊機と自治体が連携すれば、被害の様子が全地域総なめで分かるはずです。これも鳥瞰図のレベルの情報です。

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『社会方言学論考―新方言の基盤』『日本語ウォッチング』井上史雄(いのうえ・ふみお)
明海大学外国語学部教授。博士(文学)。専門は、社会言語学・方言学。研究テーマは、現代の「新方言」、方言イメージ、言語の市場価値など。
履歴・業績 http://www.tufs.ac.jp/ts/personal/inouef/
英語論文 http://dictionary.sanseido-publ.co.jp/affil/person/inoue_fumio/ 
「新方言」の唱導とその一連の研究に対して、第13回金田一京助博士記念賞を受賞。著書に『日本語ウォッチング』(岩波新書)『変わる方言 動く標準語』(ちくま新書)、『日本語の値段』(大修館)、『言語楽さんぽ』『計量的方言区画』『社会方言学論考―新方言の基盤』(以上、明治書院)、『辞典〈新しい日本語〉』(共著、東洋書林)などがある。

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地域語の経済と社会 第137回 Googleマップによる日中の「亮月」の方言

2011年 2月 12日 土曜日 筆者: 井上 史雄

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第137回「Googleマップによる日中の「亮月」の方言」
Japanese and Chinese dialectal “bright moon” by Google maps

 インターネットのGoogleマップを使うと、言語地図が簡単に作れます。今回は、中国の方言と日本語についての複雑微妙な関係について考えてみましょう。

 中国語の方言差が大きいことはよく知られています。最近日本の岩田礼さんが、中国語の方言地図集『漢語方言解釈地図』(白帝社)を出しました。その目次は中国語と英語だけですが、以下のホームページで日本語訳も見られますから、使いやすくなりました。見本の地図も見られます。

 ⇒岩田礼さん『漢語方言解釈地図』Sample Mapsのページへ

 『漢語方言解釈地図』のおかげで、どの程度ことばが違うかの見当がつきました。「太陽」や「月」という基本的単語でさえも、方言差があります。「Google翻訳」では、世界59言語の相互翻訳ができますから、英語の“moon”を入力して中国語に翻訳したら、「月亮」と出ました。『漢語方言解釈地図』をみると、確かに「月亮」は中国北部はじめ全土で使われます。しかし他の言い方も多く、例えば「亮月」が江蘇省のあたりで使われます。

(画像はクリックで拡大します)
図 Googleマップによる日中の「亮月」
【図 Googleマップによる日中の「亮月」】

 「亮月」はどこかで見たことばです。Googleマップで検索したら、日本の料亭の名前で出ていました。また中国の各地でも使われます。またGoogleで画像を検索したら、旅館や製作所の看板も出ました。人寄せにも使われる、経済価値のあることばです。

 「亮月」は日中で共通の言い方ですが、日本の漢和辞典で調べると、「明るい月、明月」の意味です。中国語でも本来この意味だったんでしょう。しかし『漢語方言解釈地図』によると、のちに古都南京あたりで「月」の意味で使いはじめたのです。たぶん単に「月」というと短いし、年月日の「月」と区別がつきにくいので、「月亮」「亮月」のように別の要素を付けたのでしょう。日本語でもただ「な」というと分かりにくいので、「名前」「菜っぱ」「さかな(=酒+菜)」のように長くして区別しやすくしました。

 「月亮」は普通話(標準語)ですが、「亮月」は南京付近の方言です。でもGoogle マップの「亮月」は、『漢語方言解釈地図』の「月」の意味の分布より広くて、台湾やウイグル自治区でも使われています。地図左の一覧表をみると、主に店名や地名です。日本も含め、漢字圏周辺部では、本来の「明るい月」の意味で使われているのでしょう。

 Google マップで漢字を入れてみると、意外なことばが日中で共通に使われていて、楽しめます。なお、付図のような形で地図を出す知恵について、またGoogleマップの画面の保存については、第127回「Googleマップで見る関西弁の世界進出」をご覧ください。

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地域語の経済と社会 第132回 Googleマップによる”モータープール”の世界分布

2011年 1月 8日 土曜日 筆者: 井上 史雄

地域語の経済と社会―方言みやげ・グッズとその周辺―
第132回「Googleマップによる”モータープール”の世界分布」
Global distribution of “motor pool” by Google maps

 今回も、日本の方言について全世界と関連づけうる新手法を紹介します。インターネットのGoogleマップを使うと、言語地図が簡単に作れます。

(画像はクリックで拡大します)
図1 “モータープール”の日本地図(Googleマップによる)
【図1 “モータープール”の日本地図(Googleマップによる)】

 【図1】はGoogleマップを呼び出して、”モータープール”というカタカナで検索したときの日本地図です。関西にたくさんバルーンがあります。「モータープール」は駐車場の意味で、大阪付近で看板をよく見かけます。このシリーズのメンバーの日高さんが1979年に詳しく報告しました。他の地域だと「月極駐車場」または「月決駐車場」と書くところです。

 県単位、地方単位の地図にすると、もっと多くのバルーンが出ます。丹念に地域をずらして地図を保存すると、全国で使われていることが分かります。場所の説明を読むと、会社の業務用の車置き場の名前にも使われることが分かります。自衛隊でも使うそうです。さらに、Yahooなどで”モータープール”と入れて「画像」を検索すると、施設や場所の写真があり、実態が分かります。

 戦後まもなく作られた米軍の東京地図を見たら、大手町にmotor poolがありました。アメリカ陸軍の用語で、士官がジープを共用するための駐車場の意味でした。それが日本各地で、生き延びたのです。

 ふと思いついて、Google maps(アメリカ版)でアルファベットの”motor pool”を入れて、世界地図レベルで検索しました。【図2】のように、みごとにアメリカに集中分布します。またフィリピン、オーストラリア、ヨーロッパ、アフリカなど世界各地に点在します。アメリカ軍の配置と関係がありそうにも見えます。国内の気づかない方言が、意外に世界全体の違いに対応しているのです。

図2 “motor pool”の世界地図(Googleマップによる)
【図2 “motor pool”の世界地図(Googleマップによる)】

 皆さんも思いついた単語の言語地図を作ったらいかがですか? そして結果を教えてください。なお付図のような形で地図を出す知恵について、またGoogleマップの画面の保存については、第127回「Googleマップで見る関西弁の世界進出」をご覧ください。

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地域語の経済と社会 第127回 「Googleマップで見る関西弁の世界進出」Global expansion of Kansai dialect by Google maps

2010年 11月 27日 土曜日 筆者: 井上 史雄

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第127回「Googleマップで見る関西弁の世界進出」
Global expansion of Kansai dialect by Google maps

 今回は視野を広げて、方言について全世界を見渡す新手法を紹介します。Google mapを使うと、単語のグローバルな分布が地図上に示されます。

 付図は関西弁のお礼のことば「おおきに」の世界地図です。Googleマップでアルファベット“okini”で検索すると、国外の使用例も地図上に示されます。

 世界各地で“okini”という関西弁が使われていることは驚きでした。

図 dojo(道場)の世界地図(Googleマップによる)
【図 okini(大きに)の世界地図(Googleマップによる)】
(写真はクリックで拡大します)

 ただし図のような形で世界言語地図を出すには、ちょっとした知恵が必要です。まずGoogleマップを検索して、パソコンの画面に出します。左上の「Googleマップ」と書いてある空欄にokiniを入力して「地図を検索」をクリックします。たいていは狭い地域(場合によっては1軒の店)が地図上に出ます。地図左上の温度計のようなマークを下におろすと、アジア全体になり、世界全体の地図になります。

 また左側の店名一覧をスクロールして、末尾を出して、「okiniの検索結果をすべて表示(369件)」をクリックすると、他の店も地図に表れます。”okini”は店の名前ではなく、その店についてのクチコミや書き込みなどで使われていることもあるので、用心が必要です。

 Googleマップの画面の保存には、次の技法を使います。

1.保存したい地図を画面一杯に出して、PrintScreen(キーボードによってはPrtScr、PrtScrn、PRTSCRなど)というボタンとCtrl(または同じ色)のボタンを同時に押します。
2.次にワード(かワードパッドかエクセル)を開きます。そして「ホーム」の「貼り付け」を押してください。
3.適当な名前を付けて保存してください。

 Googleマップを使うと、単語の世界地図が数分でできます。これまで数百枚を作りました。ただ、地図に出す広さを変えたりすると、出る情報が違ったりします。みなさんも試してみてください。色々なことばを入れて検索すると、変わった言語地図ができます。ある語について、世界最初の言語地図を作ることになるでしょう。そして結果を教えてください。

 なお雑誌『日本語学』2010年12月号のエッセイ「日本語の世界分布図」には、dojo(道場)の地図が載っています。

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地域語の経済と社会 第122回 「イタリアの方言みやげ」 Dialect souvenirs of Italy

2010年 10月 23日 土曜日 筆者: 井上 史雄

地域語の経済と社会―方言みやげ・グッズとその周辺―
第122回「イタリアの方言みやげ」
Dialect souvenirs of Italy

 これまで何回か海外の方言みやげを紹介しました。今回はイタリアです。何度か行く機会があって、みやげ店などをのぞきましたが、見つかりませんでした。その後教え子がイタリアに滞在して見つけたのを、送ってくれました。

(写真はクリックで拡大します)
【写真1 表紙】
【写真1 表紙】
【写真2 10月のページ】
【写真2 10月のページ】

 イタリア北西部(トリノ周辺)のピエモンテ方言のカレンダーです。【写真1】表紙と【写真2】10月のページを示します。

 左上にotoberと書いてあります。イタリア語辞典に載っている10月はottobre で、8を指すラテン語octoの子音が単純化されたものです。オットと発音します。どうやらこの方言では短くなってオトと発音すると、見当がつきます。

 細かい字の説明文の半分もピエモンテ方言で書かれているようです。イタリア標準語で書かれても、ド素人には分からないのですが、辞書に出ていないつづりで書かれていますから……。補助記号(文字飾り)で発音を表す工夫をしています。

 イタリア語、フランス語、スペイン語、ポルトガル語とルーマニア語などは、ローマ帝国のラテン語からのちに分かれた言語で、ロマンス語と呼ばれて、お互いによく似ています。イタリアは、中世の封建領主の力が強かったので、方言差が大きくなったと言われています。

 曜日の名もイタリア語とフランス語に似ています。曜日や月の名前はカトリック教の影響を受け、宗教的な命名が広がりました。国境を越えて隣国に広がったので、言語の境界と一致しない方言差が見られます。ヨーロッパ全体の「土曜日」の地図は、拙著『変わる方言 動く標準語』(2007.2)筑摩新書p.85に再録してあります。残り約100冊で絶版予定だそうです。新本がほしいならお早めに。もっともAmazonか何かで1円で出るのを待つ手もありますが。

 ふと思いついて、インターネットでdialettoと入れて画像を検索してみました。イタリア語の方言についての画像が出るのを期待したのです。昔の方言絵はがきの画像が見つかりました。また最近のもありました。方言を使ったみやげ品や広告は、もっとあるに違いありません。今度イタリアに行く機会があったら、じっくり時間をかけましょう。

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【筆者プロフィール】

言語経済学研究会 The Society for Econolinguistics
 井上史雄大橋敦夫田中宣廣日高貢一郎山下暁美(五十音順)の5名。日本各地また世界各国における言語の商業的利用や拡張活用について調査分析し,言語経済学の構築と理論発展を進めている。
(言語経済学や当研究会については,このシリーズの第1回後半部をご参照ください)

『社会方言学論考―新方言の基盤』『日本語ウォッチング』井上史雄(いのうえ・ふみお)
明海大学外国語学部教授。博士(文学)。専門は、社会言語学・方言学。研究テーマは、現代の「新方言」、方言イメージ、言語の市場価値など。
履歴・業績 http://www.tufs.ac.jp/ts/personal/inouef/
英語論文 http://dictionary.sanseido-publ.co.jp/affil/person/inoue_fumio/ 
「新方言」の唱導とその一連の研究に対して、第13回金田一京助博士記念賞を受賞。著書に『日本語ウォッチング』(岩波新書)『変わる方言 動く標準語』(ちくま新書)、『日本語の値段』(大修館)、『言語楽さんぽ』『計量的方言区画』『社会方言学論考―新方言の基盤』(以上、明治書院)、『辞典〈新しい日本語〉』(共著、東洋書林)などがある。

* * *

【編集部から】
皆さんもどこかで見たことがあるであろう、方言の書かれた湯のみ茶碗やのれんや手ぬぐい……。方言もあまり聞かれなくなってきた(と多くの方が思っている)昨今、それらは味のあるもの、懐かしいにおいがするものとして受け取られているのではないでしょうか。
方言みやげやグッズから見えてくる、「地域語の経済と社会」とは。方言研究の第一線でご活躍中の先生方によるリレー連載の始まりです。

* * *

この連載への質問、また「ここでこんな方言みやげ・グッズを見た」などの情報は、問い合わせフォーム( http://dictionary.sanseido-publ.co.jp/support/question.html )から、「地域語の経済と社会」への質問・情報である旨を記してご投稿ください。

地域語の経済と社会 第117回 北海道の方言みやげ―新方言「なまら」の増殖

2010年 9月 18日 土曜日 筆者: 井上 史雄

地域語の経済と社会―方言みやげ・グッズとその周辺―
第117回「北海道の方言みやげ―新方言「なまら」の増殖」
Dialect souvenirs of Hokkaido — Proliferation of new dialect “namara”

 北海道には方言がないと思っている人が、以前にはいました。しかし、方言みやげはちゃんとあります。去年と今年の夏、続いて札幌に行きました。行動圏はほぼ同じなのに、目にするものは違っていました。方言グッズは転変が激しいのです。

 今年新しくコレクションに加えたのは扇子です。たくさんのことばが並んでいたのですが、文字を記してみたら、5種類だけでした。【写真1】

【写真1 北海道の方言扇子】
【写真1 北海道の方言扇子】
(クリックで拡大します)

 「めんこい したっけねぇ♡ だべ? なんまら わやっ」

 ハンカチも4枚同じ売り場にありました。

 「めんこい したっけねぇ♡ だべ? なんまら」です。

 同じ店で目についたのはTシャツです。それぞれ次の5単語ですが、書き方が違います。

 「めんこいしょ♡ したっけね♡ だべさ♡ なまらっ♡ わやっ」

 売り場の訳語付きのパネルでは、意味がこう書いてありました。

 「かわいい そしたらね でしょう すんごい ひどい」

 小樽のみやげ店には当店特製というTシャツがあり、親切に、本体に訳が付いていました。

  なまら めんこい(凄くかわいい)
  たいした あずましい(とても落ち着く)
  しばれて ゆるくない(寒くてつらい)

 以上の方言グッズの多くに登場したのが強調語「なまら」です。固有名詞にも採用されています。

【写真2 無料宣伝誌namara】
【写真2 無料宣伝誌namara】
(クリックで拡大します)

  無料宣伝誌namara【写真2】
  ホルモン焼き店 なまら

 また地下鉄吊り広告のパチスロ店の広告に「なまら凄い1週間」とありましたし、観光客向けのリーフレットの呑み屋の広告には「なんまら旨い海鮮丼」と書いてありました。

 ちょうどモスバーガーで地域限定の品を出しており、北海道は「ザンギバーガー」(鶏唐あげの北海道弁)。そのトレイシートには「なまら、うまい」と書いてありました。

 北海道と新潟で使われている新方言「なまら」。今勢いが強まっているようです。そうなると別の言い方も増殖させます。「なんまら」です。さらに「なんま」が広がっているそうで、2008年にNHK北海道で番組を作りました。街の景観の文字としてはまだ見ていません。目撃した方、教えてください。

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明海大学外国語学部教授。博士(文学)。専門は、社会言語学・方言学。研究テーマは、現代の「新方言」、方言イメージ、言語の市場価値など。
履歴・業績 http://www.tufs.ac.jp/ts/personal/inouef/
英語論文 http://dictionary.sanseido-publ.co.jp/affil/person/inoue_fumio/ 
「新方言」の唱導とその一連の研究に対して、第13回金田一京助博士記念賞を受賞。著書に『日本語ウォッチング』(岩波新書)『変わる方言 動く標準語』(ちくま新書)、『日本語の値段』(大修館)、『言語楽さんぽ』『計量的方言区画』『社会方言学論考―新方言の基盤』(以上、明治書院)、『辞典〈新しい日本語〉』(共著、東洋書林)などがある。

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地域語の経済と社会 第112回 北アイルランドの方言みやげ

2010年 8月 14日 土曜日 筆者: 井上 史雄

地域語の経済と社会―方言みやげ・グッズとその周辺―
第112回「北アイルランドの方言みやげ」
Dialect souvenirs of Northern Ireland

 第107回のスコットランドの方言についての補いですが、スコットランドの方言ではwikipediaも作られています。方言版wikipediaは珍しいです。つづりが標準英語と違いますから、解読にチャレンジしてみてください。
 http://sco.wikipedia.org/wiki/

【写真 北アイルランドの方言絵はがき】
【写真 北アイルランドの方言絵はがき】
(クリックで拡大します)

 前回はスコットランドの方言の写真は載せず、代わりにTシャツの写真を載せました。実は北アイルランドのベルファストのK教授のおみやげです。国際会議でちょっとしたジョークを交わしたのがきっかけで親しくなり、次の会で会ったときに現物をいただいたのです。そのときに、北アイルランドの方言絵はがきもいただきました。

 Beefed to the oxters (slightly overweight)
 と書いてあります。
 Oxterというのは「わきの下」armpitで、英国北部(北イングランド、スコットランド、北アイルランド)とアイルランドで使われています。Beef は動詞で、「(牛を)太らせる」の意味から、「増強する」などの意味に変わったようです。つまり「わきの下まで肉付きがいい」というひゆ的な方言表現なのです。絵に哺乳瓶が見えますから、若いお母さんなのでしょう。( )の中の英語は「ちょっと太りすぎ」ですが、「ちょっと」どころか堂々たる体格です。

 スコットランドと北アイルランドの英語は、イングランドからのちに広がったので、よく似ています。アイルランドは、20世紀はじめにイギリスから独立したのですが、北アイルランドは、イギリスに残りました。それがかつてのアイルランド紛争の原因だったのです。ことばが似ていても仲間意識は生まれないようです。

 数年前にアイルランドの首都ダブリンに行ったときに、英語の方言みやげや方言表示を探したのですが、見当たりませんでした。今回インターネットで検索しても、成功しませんでした。英語はアイルランドの本来の言語ではないので、英語の方言みやげは売れないのかもしれません。

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『社会方言学論考―新方言の基盤』『日本語ウォッチング』井上史雄(いのうえ・ふみお)
明海大学外国語学部教授。博士(文学)。専門は、社会言語学・方言学。研究テーマは、現代の「新方言」、方言イメージ、言語の市場価値など。
履歴・業績 http://www.tufs.ac.jp/ts/personal/inouef/
英語論文 http://dictionary.sanseido-publ.co.jp/affil/person/inoue_fumio/ 
「新方言」の唱導とその一連の研究に対して、第13回金田一京助博士記念賞を受賞。著書に『日本語ウォッチング』(岩波新書)『変わる方言 動く標準語』(ちくま新書)、『日本語の値段』(大修館)、『言語楽さんぽ』『計量的方言区画』『社会方言学論考―新方言の基盤』(以上、明治書院)、『辞典〈新しい日本語〉』(共著、東洋書林)などがある。

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地域語の経済と社会 第107回

2010年 7月 10日 土曜日 筆者: 井上 史雄

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第107回「スコットランドの英語方言と赤いヒース」
English dialect in Scotland and red heath

 1990年イギリス滞在中に、イギリス各地の方言についての資料を集めました。スコットランド方言のカセットテープが目についたので、発行元Scotsounを訪問することにしました。尋ねあてたら、住宅地の一角の個人の家でした。いろいろ話をうかがい、「経済的に成り立ちますか」と尋ねたら、「興味深い質問です」と答え、具体的な説明をしませんでした。個人の資金をつぎ込んでいるだろうと判断しました。

 お別れの記念にヒースの赤い花をくれました。『嵐が丘』でも登場するヒースの花は、実物を確かめたかったのですが、もう季節を過ぎていて、車窓からは見えませんでした。単純に喜んで、ありがたく頂戴し、「赤いヒースは珍しい。大事に飾る」と言ったら、説明してくれました。赤いヒースを手にした人はもう一度その地を訪れることになるそうです。でもその後スコットランドに足を伸ばす機会はありませんでした。

 今インターネットでScotsounを検索すると、組織は大きくなり、Scots Language Societyのホームページ(Hame Page)の中にあります。ScotsounはScot soundの方言風のつづりです。解説文のつづりもスコットランド英語を写しています。
   http://www.lallans.co.uk/audio_cds.html

 たくさんのCDが出て、しかもマークのあるCDをクリックすると、スコットランド方言の音声が聞けます。例えば下のページです。
   Largo by Sydney Goodsir Smith, read by Neil MacCallum (from SSC 142)
   http://www.lallans.co.uk/sscd%20069%20-%20Lang%20Syne%20in%20the%20East%20Neuk.html

 Scotsounのホームページの中に人物写真がありました。その人に見覚えがあります。20年後にインターネット経由でその地を訪れたわけです。一方的ですが……。

 ちなみに、スコットランドの方言みやげも、Googleで“Scottish dialect”と入力して「画像」をクリックすると、実例が見られます。ティータオル、コースター、マグカップ、エプロンなど色々あります。

 スコットランドの方言グッズは手元に適切なものがないので、代わりに北アイルランド、ベルファストのTシャツをお目にかけます。全体と拡大版です。

北アイルランド、ベルファストのTシャツ 北アイルランド、ベルファストのTシャツ イラスト部分の拡大

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明海大学外国語学部教授。博士(文学)。専門は、社会言語学・方言学。研究テーマは、現代の「新方言」、方言イメージ、言語の市場価値など。
履歴・業績 http://www.tufs.ac.jp/ts/personal/inouef/
英語論文 http://dictionary.sanseido-publ.co.jp/affil/person/inoue_fumio/ 
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