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古語辞典でみる和歌 第30回 係り結びを含む和歌

2016年 11月 1日 火曜日 筆者: 古語辞典編集部

古語辞典でみる和歌 第30回

八重葎茂れる宿のさびしきに人こそ見えね秋は来(き)にけり

出典

拾遺・秋・一四〇・恵慶法師(ゑぎやうほふし) / 百人一首

重にも葎が生い茂った寒々しい宿に、訪れる人の姿は見えないが、秋は訪れて来たことだ。

「こそ」は係助詞。「ね」は打消の助動詞「ず」の已然形。「こそ…ね」で係り結びになっているが、文脈上逆接の意で下につながっている。

今月は、係り結びを含む和歌の例をご紹介いたします。

【ぞ】

この世をばわが世と思ふ望月(もちづき)のかけたることもなしと思へば
〈小右記(せういうき)・藤原道長(ふぢはらの/みちなが)
[訳]この世を自分の世と思い、この夜も私のための夜と思う。今宵(こよい)の満月が欠けたところがないように、私にも何一つ満ちたらぬことがないと思うので。
[技法]「このよをば」の「よ」は、「世」と「夜」をかける。二句切れ。
[参考]『小右記』は、藤原実資(ふじわらの/さねすけ)の日記。それによれば、藤原道長が、三女威子(いし)が後一条天皇の中宮になった日、寛仁二(一〇一八)年十月十六日に、宴席で詠んだ歌。娘の彰子(しようし)・妍子(けんし)・威子が后となり、自らも太政大臣(だいじようだいじん)として位をきわめたという満ち足りた思いを詠む。(〔和歌〕この世をば・・・)

竜田河(たつたがは)色紅(くれなゐ)になりにけり山の紅葉(もみぢ)今は散るらし
〈後撰・秋下・四一三〉
[訳]竜田川は色が紅になったことだよ。山の紅葉は、今は散っているらしい。
〔注〕「らし」は「ぞ」の係り結び。(「らし」(推量の助動詞「らし」の連体形))

【こそ】

春の夜の闇(やみ)はあやなし梅の花色こそ見えね香(か)やはかくるる
〈古今・春上・四一・凡河内躬恒(おほしかふちのみつね)
[訳](闇とはあらゆるものをすっぽりと隠すものだが)春の夜の闇はどうも筋の通らないことをしている。梅の花の、色こそ見えはしないが、その香は隠れているか、いや隠れていないではないか。
[技法]二句切れ。
〔注〕「色こそ見えね」の「こそ」は強調の係助詞。「ね」は打消の助動詞「ず」の已然形。係り結びの形で逆接的に下へ続く。「香やはかくるる」の「やは」は、反語の係助詞。「かくるる」は結びで、動ラ下二「かくる」の連体形。(〔和歌〕はるのよのやみはあやなし…)

【や】

住江の岸に寄る波よるさへ夢の通(かよ)ひ路(ぢ)人目(ひとめ)よくらむ
〈古今・恋二・五五九・藤原敏行(ふぢはらのとしゆき) / 百人一首
[訳]住江の岸に寄る波、その「よる」ではないが、夜までも夢の中の通い路で、あの人は人目を避けているのだろう
[技法]上二句は「よる」の同音反復で「夜」を導く序詞。
〔注〕「さへ」は、添加を表す副助詞。「や」は、疑問の係助詞。「らむ」は、現在推量の助動詞「らむ」の連体形(係り結び)。(〔和歌〕すみのえの…)

【か】

(いも)が家(へ)に雪も降ると見るまでにここだも紛ふ梅の花かも
〈万葉・五・八四四〉
[訳]恋人の家に雪が降るのと見まごう程に、こんなにも紛らわしく散る梅の花であることよ。
〔注〕「か」が疑問を表し、係り結びが成立して連体形「降る」で結ばれる。文末の「かも」は詠嘆の終助詞の用法。(「か」[係助]一)

なお、係助詞の「なむ」は、和歌ではほとんど例が見られません。従って、和歌で「なむ」が出てきた場合は、終助詞の「なむ」、あるいは「完了+推量のなむ」とまずは考えて良いでしょう。以下に①願望の終助詞の「なむ」、②「完了+推量のなむ」の和歌の例を挙げます。「なむ」の見分け方は、『三省堂 全訳読解古語辞典』888pに載っていますので、ご活用下さい。

①願望の終助詞「なむ」の例

あかなくにまだきも月の隠るるか山の端(は)逃げて入れずもあらなむ
〈古今・雑上・八八四・在原業平(ありはらのなりひら)、伊勢・八二〉
[訳]まだ満足しておらず、もっともっと眺めていたいのに、こんなにも早く月が隠れてしまうのでしょうか。山の端よ、逃げて月を入れないでおくれ
[技法]三句切れ。
〔注〕「隠るるか」の「か」は詠嘆を表す終助詞で、「まだきも」の「も」と呼応している。「入れずもあらなむ」の「なむ」は他に対する願望を表す終助詞。
[参考]業平が惟喬(これたか)親王の供をして狩りに出かけ、宿所に帰って一晩中酒宴を開いたとき、親王が寝所へ入ろうとするのを見て、親王を月になぞらえて、おやすみになるのはまだ早すぎます、と引きとめた歌。(〔和歌〕あかなくに…)

高砂の尾の上(へ)の桜咲きにけり外山(とやま)の霞(かすみ)立たずもあらなむ
〈後拾遺・春上・一二〇・大江匡房(おほえのまさふさ) / 百人一首〉
[訳](高砂の)高い峰の桜がようやく咲いたことだなあ。人里近い山々の霞よ、どうか立たないでほしい
[技法]三句切れ。
〔注〕「にけり」は完了の助動詞「ぬ」の連用形「に」+過去(気づき)の助動詞「けり」の終止形で、心待ちにしていた桜がようやく咲いたことだなあ、と気づいて詠嘆している。「なむ」は、願望を表す終助詞。
[参考]「尾の上」は、山の頂(いただき)のこと。「外山」は、人里に近い、手前にある低い山。「尾の上」と「外山」を対照させ、遠近感のある広大な景を詠んでいる。(〔和歌〕たかさごの…)

人知れぬ我が通ひ路(ぢ)の関守(せきもり)は宵宵(よひよひ)ごとにうちも寝(ね)なむ
〈伊勢・五、古今・恋三・六三二・在原業平(ありはらのなりひら)
[訳]人には秘密の、私の恋の通い路を守る番人は、夜ごと夜ごと、ほんの少しの間でもよいから、眠ってほしい
〔注〕「うちも寝ななむ」の「うち」は接頭語、ほんの少しの間でもよい、という意を添える。「な」は完了の助動詞「ぬ」の未然形。「なむ」は他に対する願望を表す終助詞。(〔和歌〕ひとしれぬ…)

小倉山峰のもみぢ葉心あらば今ひとたびのみゆき待たなむ
〈拾遺・雑秋・一一二八・藤原忠平(ふぢはらのただひら)/ 百人一首〉
[訳]小倉山の峰のもみじの葉よ。もしおまえに心があるなら、今一度のお出ましがあるときまで、(散らずにその美しさのまま)待っていてほしい
〔注〕「なむ」は、他に対する願望を表す終助詞。
[参考]詞書(ことばがき)によれば、宇多上皇が都の西にある大堰(おおい)川(=上流は保津川、下流は桂川)にお出ましになったとき、紅葉の美しさに感嘆され、わが子醍醐(だいご)天皇にも見せたいとおっしゃったので、お供をしていた作者が、天皇に申し上げましょうと言って詠んだ歌。(〔和歌〕をぐらやま…)

②「完了」+「推量」のなむの例

君をおきてあだし心をわが持たば末の松山波も越えなむ
〈古今・東歌・一〇九三・よみ人しらず〉
[訳]あなたをさしおいて、ほかの人を思う浮気心を私がもちましたなら、あの末の松山を波も越えてしまうことでしょう
〔注〕「わが持たば」の「ば」は、未然形に接続して順接の仮定条件を表す。「波も越えなむ」の「なむ」は、完了(確述)の助動詞「ぬ」の未然形+推量の助動詞「む」の終止形。
[参考]「末の松山」は、陸奥(みちのく)の歌枕。絶対に波が越えることのない山と考えられていた。(〔和歌〕きみをおきて…)

この世にし楽しくあらば来(こ)む世には虫に鳥にも我はなりなむ
〈万葉・三・三四八・大伴旅人(おほとものたびと)
[訳]この世で楽しく過ごせるならば、あの世では虫にでも鳥にでも私はきっとなりましょう
〔注〕「虫に鳥にも」は「虫にも鳥にも」であり、音数の関係で、上の係助詞「も」が略されている。「なむ」は、完了(確述)の助動詞「ぬ」の未然形+推量の助動詞「む」。ここでは強い意志を表す。
[参考](ちよう)になることは『荘子』に故事がある。仏教の輪廻転生(りんねてんしよう)思想を逆手にとって、現世享楽をうたう。(〔和歌〕このよにし…)

今回で、この『三省堂 全訳読解古語辞典』を引いて和歌を紹介するシリーズは、ひとまず終了となります。これまでのご愛読ありがとうございました。引き続き、古典作品を読むために古語辞典をご活用頂ければ幸いです。

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古語辞典でみる和歌 第29回 「らむ」「けむ」を含む和歌

2016年 10月 4日 火曜日 筆者: 古語辞典編集部

古語辞典でみる和歌 第29回

推量の表現を含む和歌:ひさかたの月の桂(かつら)も秋はなほ紅葉(もみぢ)すればや照りまさるらむ

出典

〈古今・秋上・一九四・壬生忠岑(みぶのただみね)

(ひさかたの)地上の木々ばかりでなく、月の世界にある桂の木も、秋にはやはり紅葉するので、月の光がいちだんと照り輝くのだろうか。

技法

「ひさかたの」は「月」の枕詞。

「月の桂も」の「も」は、他に類例があることを示す係助詞。地上の木々だけでなく、月の桂も、の意。「もみぢすればや」の「ば」は、順接確定条件の接続助詞。「や」は疑問の係助詞。「照りまさるらむ」の「らむ」は、現在理由推量の助動詞「らむ」の連体形で「や」の結び。

参考

月の世界には桂の木が生えているという中国の伝説をふまえ、秋の月の美しさを詠んでいる。

今月は、「らむ」と「けむ」を含む和歌を取り上げます。「む」が未来の事柄についての推量を表すのに対し、「けむ」は過去の事柄についての推量を、「らむ」は現在の事柄についての推量を表します。

以下に、和歌の例を取り上げます。末尾の( )内に、辞書での掲出項目をお示しします。

【らむ】

あきしのや外山(とやま)の里やしぐるらん生駒(いこま)のたけに雲のかかれる
〈新古今・冬・五八五・西行(さいぎやう)
[訳]秋篠(あきしの)の外山の里はいまごろしぐれているのだろうか。生駒山に雨雲がかかっているよ。
〔注〕初句の「や」は感動を示す間投助詞。二句の「や」は疑問の意の係助詞。「らん」は「らむ」に同じで、眼前にない現在の事柄を推量する助動詞。
[参考]「外山」は、里に近い山。「深山(みやま)」は、奥深い山。「端山(はやま)」は、連山の端の人里近い山。「秋篠」は奈良市秋篠町。「生駒」は奈良県と大阪府の境にある山。(「あきしのや」)

ひさかたの光のどけき春の日にしづ心なく花の散るらむ
〈古今・春下・八四・紀友則(きのとものり)〉/ 百人一首
[訳](ひさかたの)日の光がこんなにものどかな春の日に、どうして落ちついた心もなく桜の花は散っているのだろう
[技法]「ひさかたの」は「光」の枕詞。
〔注〕「花の散るらむ」の「の」は主格の格助詞。述語が言い切りとなる場合には、連体形終止になる。「らむ」は現在理由推量の助動詞「らむ」の連体形で、どうして…なのだろう、の意。
[参考]桜の花を擬人化して、散りゆく桜を惜しむ気持ちを詠んだ歌である。のどかな春の日と、しきりに散る桜を対比する。(「ひさかたのひかりのどけき」)

【けむ】

(あ)を待つと君が濡(ぬ)けむあしひきの山のしづくにならましものを
〈万葉・二・一〇八・石川郎女(いしかはのいらつめ)
[訳]わたしを待っていてあなたが濡れたという、(あしひきの)そういう山のしずくになれたらよかったのに。
[技法]「あしひきの」は「山」にかかる枕詞。
〔注〕「けむ」は過去に関する伝聞の助動詞「けむ」の連体形。「ましものを」は、反実仮想の助動詞「まし」に、逆接の助詞「ものを」が付いて、…だったらよかったのに、の意を表す。(「あをまつと…」)

よそにのみ聞かましものを音羽川渡るとなしにみなれそめけむ
〈古今・恋五・七四九〉
[訳]あの人のことは最初から他人事と思って聞くだけにしておけばよかったなあ。どうして(音に聞くという名を持つ)音羽川を渡る(=世間に公然と関係を示す)ことなしに、ひそかになじみはじめてしまったのだろう
〔注〕「音羽川」の「音」は「聞く」の縁語。「みなれ」は「見馴(な)れ」と「水(み)馴れ」の掛詞。(「けむ」)

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古語辞典でみる和歌 第28回 願望の表現を含む和歌

2016年 9月 6日 火曜日 筆者: 古語辞典編集部

古語辞典でみる和歌 第28回

願望の表現を含む和歌:飽かなくにまだきも月の隠るるか山の端(は)逃げて入れずもあらなむ

出典

古今・雑上・八八四・在原業平(ありはらのなりひら)、伊勢・八二

まだ満足しておらず、もっともっと眺めていたいのに、こんなにも早く月が隠れてしまうのでしょうか。山の端よ、逃げて月を入れないでおくれ。

技法

三句切れ。

「隠るるか」の「か」は詠嘆を表す終助詞で、「まだきも」の「も」と呼応している。「入れずもあらなむ」の「なむ」は他に対する願望を表す終助詞。

参考

業平が惟喬(これたか)親王の供をして狩りに出かけ、宿所に帰って一晩中酒宴を開いたとき、親王が寝所へ入ろうとするのを見て、親王を月になぞらえて、おやすみになるのはまだ早すぎます、と引きとめた歌。

(『三省堂 全訳読解古語辞典〔第四版〕』「あかなくに…」)

今回は、願望の終助詞を取り上げます。

願望を表す終助詞には、「なむ」「もが」「もがな」「ばや」「てしか(てしが)な」「にしか(にしが)な」などがあります。
「なむ」は、他に対して、自分の考えにそった動作・状態になることを願望する意を表すのに対して、「もが」「もがな」は、他に対して実現不可能に近い空想的なことを願望する意を表します。
「ばや」は、他人ではなく自分の行為についての願望を表し、「てしか(てしが)な」「にしか(にしが)な」は、多く、実現の困難なことがらへの自分の願望を表し、和歌に頻出します。
以下に和歌の用例を挙げ、末尾の( )カッコ内に、辞書での掲出項目を示します。なお『三省堂 全訳読解古語辞典』では、「なむ」の「読解のために」や、「もがな」の「補説」などでも、これらの違いについて詳しい解説がなされています。

【なむ】

山桜霞の衣あつく着てこの春だにも風つつまなむ
〈山家集〉
[訳]山桜よ、たなびく霞をあつく身にまとって、せめてこの春は、風を包んで、花びらを散らさないでいてほしい
〔注〕「なむ」は願望の意の終助詞。(「かすみのころも」)

まどろまぬ壁にも人を見つるかなまさしからなむ春の夜の夢
〈後撰・恋一・五〇九〉
[訳]まどろむこともないのに夢にあの人を見たことだ。現実のまちがいないものであってほしい。この(はかない)春の夜の夢が。(「かべ」)

【もがな】

名にしおはば逢坂山(あふさかやま)のさねかづら人に知られでくるよしもがな
〈後撰・恋三・七〇〇・藤原定方(さだかた)〉/ 百人一首
[訳]逢坂山のさねかずら、といって逢って寝るという名をもっているのなら、そのさねかずらを手繰(たぐ)るように、人には知られないで逢いに来る方法があればよいのになあ
[技法]「逢坂山」に「逢ふ」を、「さねかづら」に「さ寝」を、さらに「繰る」に「来る」をかける。「逢坂山」は歌枕。
〔注〕「人に知られで」の「で」は、打消の接続助詞。「もがな」は、願望の終助詞。(「なにしおはばあふさかやまの…」)

今はただ思ひ絶えなむとばかりを人づてならでいふよしもがな
〈後拾遺・恋三・七五〇・藤原道雅(みちまさ)〉/ 百人一首
[訳]今となってはただ、(あなたを)あきらめてしまおうということだけを、人づてではなく、(あなたに直接)言う方法があったらなあ
〔注〕「今はただ」は「人づて…もがな」にかかる。「思ひ絶えなむ」の「な」は完了(確述)の助動詞「ぬ」の未然形、「む」は推量の助動詞。「なむ」の形で強い意志を表す。「とばかりを」の「と」は「思ひ絶えなむ」を引用する格助詞。「もがな」は願望の終助詞。
[参考]詞書(ことばがき)によれば、伊勢(いせ)の斎宮(さいぐう)を辞任して帰京した皇女、当子(とうし)内親王との恋を、内親王の父三条天皇に禁じられたときに詠んだ歌。「人づて…もがな」と詠んでいるところに、相手への深い執着が読みとれる。(「いまはただ…」)

【ばや】

見せばやな雄島(をじま)の海人(あま)の袖(そで)だにもぬれにぞぬれし色は変はらず
〈千載・恋四・八八六・殷富門院大輔(いんぷもんゐんのたいふ)〉/ 百人一首
[訳]見せたいものですよ。あの雄島の漁夫の袖さえ、私の袖と同じく、ひどく濡(ぬ)れているのに、色までは変わりません。
〔注〕「ばや」は願望を表す終助詞。「な」は詠嘆の終助詞。「だに」は程度の軽いものを挙げ他を類推させる副助詞。「濡れし」の「し」は「ぞ」の結びで、過去の助動詞「き」の連体形。
[参考]「雄島」は松島の雄島。涙で袖の色が変わるのは、恋の悲しみで血の涙を流すため。歌は、血の涙に染まった私の袖を冷淡な恋人に見せたいという意。血の涙とは漢詩の「血涙」から来た修辞。(「〔和歌〕みせばやな…」)

恋ひしとよ君恋ひしとよゆかしとよ、逢(あ)ばやばやばや見えばや
〈梁塵秘抄〉
[訳]恋しいよ、あなたが恋しいよ、慕わしいよ、逢いたいよ、見たいよ、見たいよ見られたいよ。(「ゆかし」)

【てしか(てしが)な】

磯馴(そな)れ木のそなれそなれてふす苔(こけ)のまほならずとも逢(あ)ひてしがな
〈千載・恋三・八〇四〉
[訳]地に傾きはえた木が潮風のために、地面にはうように隠れて苔むしているように、たとえちゃんとした形ではないにしても、あなたと結婚したいものです。(「ふす」)

思ひつつまだ言ひそめぬわが恋を同じ心に知らせてしがな
〈後撰・恋六・一〇一二〉
[訳]恋しく思いつづけながらも、まだお伝えしていない私の恋を、(私と)同じ心になるようにお知らせしたいものです。(「いひそむ」)

【にしか(にしが)】

伊勢の海に遊ぶ海人(あま)ともなりにしか(なみ)かきわけて見るめかづかむ
〈後撰・恋五・八九一〉
[訳]伊勢の海で気楽に過ごす海人にでもなりたいものだなあ。海人が波をかき分けてもぐり、海松布(みるめ)を採るように、私も、こっそりと恋しい人にあう機会を得られるでしょうから。
〔注〕海藻の「海松布」に女性にじかにあう機会の意の「見る目」をかける。(「にしか」)

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古語辞典でみる和歌 第27回 逆接の表現を含む和歌

2016年 8月 9日 火曜日 筆者: 古語辞典編集部

古語辞典でみる和歌 第27回

逆接の表現を含む和歌:やすらはで寝(ね)なましものを小夜(さよ)ふけて傾(かたぶ)くまでの月を見しかな

出典

後拾遺・恋二・六八〇・赤染衛門(あかぞめゑもん)〉/百人一首

(来てくださらないとわかっておりましたなら)ためらうことなく寝てしまったでしょうに、あなたの(来てくださるという)おことばをたよりにして、夜がふけて西の空に傾くまでの月をながめつづけたことです。

「寝なましものを」の「な」は、完了(確述)の助動詞「ぬ」の未然形、「まし」は、推量(反実仮想)の助動詞の連体形、「ものを」は、逆接の接続助詞。

参考

『後拾遺和歌集』の詞書によると、作者の姉妹のところに通っていた男性(=藤原道隆(みちたか))が、かならず行くとあてにさせておいて来なかったとき、作者が姉妹に代わって詠んだ歌。

(『三省堂 全訳読解古語辞典〔第四版〕』「やすらはで…」)

今回は、「逆接」の表現を用いた和歌を特集します。和歌を作る際、逆接の表現を取り入れると、内容により深みが出ることがあります。以下の和歌の意味も、辞書を引きながら確認してみましょう。
本コラムでは今月から数回にわたって、いわば現代語から古語へ逆引きする発想で、いくつかの文法事項を取り上げ、辞書に掲載されている和歌の用例を取り上げます。末尾の( )カッコ内に、辞書での掲出項目をお示ししております。和歌だけではなく、文法学習のまとめなどにお役立て頂ければ幸いです。

【ど】

しのぶれ色にいでにけりわが恋はものや思ふと人のとふまで
〈拾遺・恋一・六二二・平兼盛(たひらの/かねもり)〉/百人一首
[訳]だれにも知られないように心に秘めていたのだけれど、とうとう顔に出てしまったよ、私の恋は。何か物思いでもしているのですかと人がたずねるほどに。
[技法]倒置法。「わが恋は」が主語である。
〔注〕「いでにけり」の「に」は、完了の助動詞「ぬ」の連用形。「けり」は、過去の助動詞の終止形。「ものや思ふと」の「や」は、疑問の係助詞。「思ふ」は「や」の結びで連体形。「と」は引用の格助詞。
[参考]「天徳四年内裏歌合(だいりうたあはせ)」において「忍ぶ恋」の題で詠まれた歌。同じ題で詠まれた壬生忠見(みぶのただみ)の歌「こひすてふ…」と優劣が争われ、なかなか判定がつかず、村上天皇の判断でこの歌が勝ちとなった。(〔和歌〕「しのぶれど…」)

【ども】

都にはまだ青葉にて見しかども紅葉(もみぢ)散り敷く白河(しらかは)の関
〈千載・秋下・三六五・源頼政(みなもとのよりまさ)
[訳]都ではまだ青葉として見ていたのに、紅葉が散り敷いているよ、ここ白河の関では。
〔注〕「しか」は過去の助動詞「き」の已然形。接続助詞「ども」がつき、逆接の確定条件を表す。(〔和歌〕「みやこには…」)

【ながら】

ながら空より花の散りくるは雲のあなたは春にやあるらむ
〈古今・冬・三三〇・清原深養父(きよはらのふかやぶ)
[訳]冬だというのに、空から花が散ってくるのは、たぶん雲のむこうはもう春だからなのだろうか。
〔注〕「冬ながら」の「ながら」は、逆接の接続助詞。「春にやあるらむ」の「に」は断定の助動詞「なり」の連用形、「や」は疑問の係助詞。「らむ」は現在理由推量の助動詞「らむ」の連体形で「や」の結び。目に見えない世界を想像しているのである。
[参考]『古今和歌集』の詞書(ことばがき)には、「雪の降りけるをよみける」とある。空から降る雪を花に見立て、その花から、雲のむこうはもう春なのか、と想像したのである。春を待望する心が、このような想像を生んだのである。(〔和歌〕「ふゆながら…」)

【ものゆゑ】

恋すれば我が身はかげとなりにけりさりとて人に添はぬものゆゑ
〈古今・恋一・五二八〉
[訳]恋い慕うので、わたしの身はやつれた姿になってしまったよ。とはいっても、(影法師のように)あの人に寄り添えるわけでもないのに。(「かげ」一⑥)

【ものを】

(あ)を待つと君が濡(ぬ)れけむあしひきの山のしづくにならましものを
〈万葉・二・一〇八・石川郎女(いしかはのいらつめ)
[訳]わたしを待っていてあなたが濡れたという、(あしひきの)そういう山のしずくになれたらよかったのに
[技法]「あしひきの」は「山」にかかる枕詞。
〔注〕「けむ」は過去に関する伝聞の助動詞「けむ」の連体形。「ましものを」は、反実仮想の助動詞「まし」に、逆接の助詞「ものを」が付いて、…だったらよかったのに、の意を表す。(〔和歌〕「あをまつと…」)

【「こそ…已然形」(係り結び)】

恋すてふわが名はまだき立ちにけり人知れずこそ思ひそめしか
〈拾遺・恋一・六二一・壬生忠見(みぶのただみ)〉/百人一首
[訳]恋をしているという私の評判は、こんなにも早く広まってしまったことだ。だれにも知られぬようにとひそかに思い始めたのに
[技法]三句切れ。
〔注〕「恋すてふ」の「てふ」は、格助詞「と」に動詞「いふ」が接続した「といふ」が変化した語。「思ひそめしか」の「しか」は、過去の助動詞「き」の已然形。係助詞「こそ」を受け、逆接の条件句となっている。(〔和歌〕「こひすてふ…」)

八重葎茂れる宿のさびしきに人こそ見え秋は来(き)にけり
〈拾遺・秋・一四〇・恵慶法師(ゑぎやうほふし)〉/百人一首
[訳]幾重にも葎が生い茂った寒々しい宿に、訪れる人の姿は見えない、秋は訪れて来たことだ。
〔注〕「こそ」は係助詞。「ね」は打消の助動詞「ず」の已然形。「こそ…ね」で係り結びになっているが、文脈上逆接の意で下につながっている。(〔和歌〕「やへむぐら…」)

わが袖は潮干(しほひ)に見えぬ沖の石の人こそ知ら(かわ)く間(ま)もなし
〈千載・恋二・七六〇・二条院讃岐(にでうゐんのさぬき)〉/百人一首
[訳]私の袖は、潮が引いた時でも姿を現さない沖の石のように、人は知らないけれども、涙のために乾くひまもないことです。
〔注〕「沖の石の」の「の」は比喩(ひ/ゆ)の格助詞。…のように。「人こそ知らね」の「ね」は打消の助動詞「ず」の已然形で「こそ」の結び。逆接の意を含む用法。→「こそ」 (〔和歌〕「わがそでは…」)

*

逆接の意味になるものには、上に挙げたもののほかに「とも」「に」「を」「が」「なくに」「ものの」「ものから」などもあります。それぞれ辞書を引いて、意味を確認してみましょう。

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古語辞典でみる和歌 第26回 「ま日(け)長く…」

2016年 7月 5日 火曜日 筆者: 古語辞典編集部

古語辞典でみる和歌 第26回

ま日(け)長く川に向き立ちありし袖(そで)今夜(こよひ)まかむと思はくのよさ

出典

万葉・一〇・二〇七三

何日もの間、川に向かって立っていた妻の袖を今夜枕(まくら)にしようと思うことのうれしさよ。

「七夕(たなばた)」の歌で、彦星(ひこぼし)が織女星との逢瀬を詠んだ形。

(『三省堂 全訳読解古語辞典〔第四版〕』「思はく」)

今回は、七夕と「袖」に関わる歌を選びました。『三省堂 全訳読解古語辞典』では、七夕の習俗について、「あまのがは」「きかうでん(乞巧奠)」「たなばた」などの項目で詳しく解説されています。たとえば、「ほしあひ」を引くと、以下のようなコラムが載っています。

[読解のために]一年に一度、天空の出会い「星合ひ」
七月七日の七夕の夜、牽牛星と織女星が天の川を渡って、一年に一度の出会いをするという伝説が中国には古くからあった。この伝説は奈良時代になって日本に広まり、日本古来の棚機(たなばた)つ女(め)の信仰と結合して星祭りとなり、宮廷での行事の一つとなった。『万葉集』には二つの星の出会いに関する歌が多くみられ、巻八には、山上憶良(やまのうえのおくら)の七夕歌十二首がある。

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古語辞典でみる和歌 第25回 「さつきまつ…」

2016年 6月 7日 火曜日 筆者: 古語辞典編集部

古語辞典でみる和歌 第25回

五月まつ花橘(はなたちばな)の香(か)をかげば昔の人の袖(そで)の香ぞする

出典

古今・夏・一三九・よみ人しらず / 伊勢・六〇

五月を待って花開く橘の花の香りをかぐと、昔親しんだ人のなつかしい袖の香りがするよ。

「香をかげば」の「ば」は、順接確定条件、ここは偶然的条件を表す。

参考

平安時代の貴族は、男も女も衣服に香(こう)をたきしめていた。「昔の人」は、橘の花の香りに似た香をたきしめていたのだろう。この歌以来、橘の花の香りは昔を思い出させるものとされた。

(『三省堂 全訳読解古語辞典〔第四版〕』「さつきまつ…」)

今回は、袖を詠んだ歌のうち、五月(今の6月頃)の橘の香りに関わる歌を取り上げました。『三省堂 全訳読解古語辞典』で「袖」を引くと、「橘の花の香りから昔の恋人の袖の香を思いおこすという叙情性豊かな歌であるが、「恋の部」ではなく、「夏の部」に収められている。選者の意識には「花橘」に重点が置かれていたのであろう。」と書かれています。

この「橘の香」がどんなイメージだったのか、『三省堂 全訳読解古語辞典』辞書で「たちばな」を引いてみると、以下のようなコラムがあります。

(たちばな 2016年5月 編集部撮影)

[読解のために]香りと生命力が賞賛された「橘」
時じくの香の木の実 橘の実は古くは「時(とき)じくの香(かく)の木の実(=季節を問わずいつも香ぐわしい木の実)」といった。大伴家持の「橘の歌」〈万葉・一八・四一一一〉によれば、「橘」は次のようなものだという。五月の初花の枝を娘たちへの贈り物にし、袖にしごいて香りを移し、果実は緒に通して腕輪とする。また、ほかの植物がかれる秋の時雨(しぐれ)、冬の霜雪(そうせつ)にもたえて、果実はいよいよ黄金の輝きを増し、葉も枯れない。
橘姓の由来 そのような季節を超えた生命力が賞賛されて、元明(げんめい)天皇は葛城王(かずらきのおおきみ)(=橘諸兄(もろえ))らに橘姓を賜ったという〈万葉・六・一〇〇九〉。
橘の花 平安京の内裏(だいり)にある紫宸殿(ししんでん)の右近(うこん)の橘は有名だが、個人の家の庭にも好んで植えられた。和歌用語の「花橘(はなたちばな)」は、初夏の季節感や懐旧の情を連想させ、ほととぎすと取り合わされる。

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古語辞典でみる和歌 第24回 「あかねさす…」

2016年 5月 10日 火曜日 筆者: 古語辞典編集部

古語辞典でみる和歌 第24回

あかねさす紫野(むらさきの)行き標野(しめの)行き野守(のもり)は見ずや君が袖(そで)振る

出典

万葉・一・二〇・額田王(ぬかたのおほきみ)

(あかねさす)紫草を栽培している野を行き、御料地の野を行って、野の番人は見ているのではないでしょうか、あなたが(あっちへ行き、こっちへ行きして)袖を振るのを。

技法

「あかねさす」は「紫」の枕詞。

参考

「紫野」は染料をとるための紫草を栽培した野で、そこは「標(しめ)」を張って一般の立ち入りが禁止された「標野」であった。題詞に「天皇、蒲生野(かまふの)に遊猟(みかり)する時に額田王の作る歌」とあり、近江国(おうみのくに)の蒲生郡の野であり、山城国の紫野とは別の地。

(『三省堂 全訳読解古語辞典〔第四版〕』「あかねさす…」)

今回は、『万葉集』から、天智天皇の時代の五月五日(旧暦)に詠まれた歌を取り上げました。

『全訳読解古語辞典』で「袖振る」という見出しを引くと、以下のようなコラムが付いています。

[読解のために]「袖振る」が合図となるときの意味とは
袖を振って、愛の思いを伝えることは、上代だけではなく、平安時代においても同様であった。『源氏物語』〈紅葉賀〉において、光源氏は「青海波」を舞いながらそれとなく個人的思いを藤壺(ふじつぼ)に向かって発している。「もの思ふに立ち舞ふべくもあらぬ身の袖うちふりし心知りきや」([訳]もの思いの苦しさに、立って舞うことなどできそうにないこの身ですが、袖を振って舞った意味がおわかりになりましたか。)

「袖を振る」という表現の例は、『三省堂 全訳読解古語辞典』768p「づ(出)」(=「いづ」の短縮形」)の例文でも見られます。

「恋しけば袖も振らむを武蔵野のうけらが花の色になゆめ」〈万葉・一四・三三七六〉[訳]恋しかったなら(私が)袖を振ってあげますから、武蔵野(むさしの)のうけらの花のように(人目につくように)顔色に出さないでくださいよ、きっとですよ。

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古語辞典でみる和歌 第23回 「見渡せば…」

2016年 4月 5日 火曜日 筆者: 古語辞典編集部

古語辞典でみる和歌 第23回

見渡せば柳桜をこきまぜて都ぞ春の錦(にしき)なりける

出典

古今・春上・五六・素性法師(そせいほふし)

はるかに見渡すと、緑の柳と薄紅の桜をまじり合わせて、ほかならぬこの都こそが、春の錦(の織物)だったのだ。

「都ぞ春の」の「ぞ」は、強調の係助詞。「都が」の意を強めている。「錦なりける」の「ける」は、気づきの助動詞の連体形。はじめて気づいたという驚きを表す。

参考

『古今和歌集』の詞書(ことばがき)によれば、都に近い山に行き、都の春景色を一望して詠んだ歌である。和歌の世界において「錦」といえば、秋山の紅葉をさすのがふつうである。作者は、その「秋の錦」に対して、「春の錦」があるとしたら、それは何なのだろうと考えていた。そして、都の春景色を一望して、自分の住むこの都こそが、さがし求めていた「春の錦」だったのだ、と気づき驚いているのである。

(『三省堂 全訳読解古語辞典〔第四版〕』「みわたせばやなぎさくらを…」)

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弊社では、昨春より募集してまいりました「三省堂 高校生創作和歌コンテスト」の2015年度入賞作品を、2016年2月25日に発表いたしました。ご応募くださった高校生の皆様、そしてご高配くださいました先生方に、心よりお礼を申し上げます。入賞作品の詳細は、以下のバナーからご覧いただけます。なお、2016年度の募集要項は、4月下旬に弊社HP上に掲載予定です。奮ってご応募ください。

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古語辞典でみる和歌 第22回 「春の夜の…」

2016年 3月 8日 火曜日 筆者: 古語辞典編集部

古語辞典でみる和歌 第22回

春の夜の闇(やみ)はあやなし梅の花色こそ見えね香(か)やはかくるる

出典

古今・春上・四一・凡河内躬恒(おほしかふちのみつね)

(闇とはあらゆるものをすっぽりと隠すものだが)春の夜の闇はどうも筋の通らないことをしている。梅の花の、色こそ見えはしないが、その香は隠れているか、いや隠れていないではないか。

技法

二句切れ。〔注〕「色こそ見えね」の「こそ」は強調の係助詞。「ね」は打消の助動詞「ず」の已然形。係り結びの形で逆接的に下へ続く。「香やはかくるる」の「やは」は、反語の係助詞。「かくるる」は結びで、動ラ下二「かくる」の連体形。

参考

「春の夜の闇」を擬人化し、闇はあらゆるものを隠すものなのに、梅の香は隠れないじゃないか、と笑うことによって、梅の香の高さを詠んだのである。

(『三省堂 全訳読解古語辞典〔第四版〕』「はるのよの・・・」)

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弊社では、昨年春より募集して参りました「三省堂 高校生創作和歌コンテスト」の入賞作品を、このほど発表いたしました。このたびは、多くのご応募を賜り、誠にありがとうございました。ご応募くださった高校生の皆様、そしてご高配くださいました先生方に、心よりお礼を申し上げます。入賞作品の詳細は、以下のバナーから御覧頂けます。

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古語辞典でみる和歌 第21回 「梅の花…」

2016年 2月 9日 火曜日 筆者: 古語辞典編集部

古語辞典でみる和歌 第21回

梅の花散らす春雨いたく降る旅にや君がいほりせるらむ

出典

万葉・一〇・一九一八

梅の花を散らす春雨がたいそう降っている。(いまごろ)旅先であなたは仮の宿りをしているのだろうか。

(『三省堂 全訳読解古語辞典』〔第四版〕「いほり」)

今回は、梅の花を詠んだ歌を取り上げました。

『全訳読解古語辞典』第四版では、「いたし」のような多義語にあたる重要語に、特別に「図解チャート」を設けてあります。チャートに添えられた解説を読むと、「いたし」が「いたく降る」のように連用形となっている場合、多くは「たいそう」という意味で考えると良いことが、重要なポイントとしてまとめられています。

また、「いたく」は、つい、現代語から「痛く」という意味を連想してしまいがちですが、『全訳読解古語辞典』で「いたし」を引いてみると、以下のような「語義要説」が冒頭に付いており、現代語の「いたく感激した」という用例の語感と結びつけながら、古語の意味を学習することができます。

[語義要説]「いた」は「いと」「いち」などと同源で、程度がはなはだしいの意、すなわち「いたし」は「甚(いた)し」が本義と考えられる。程度のはなはだしさがよい面に表れると、すばらしい、りっぱだの意になり、精神的・肉体的に与える苦痛がはなはだしいなど悪い面に表れると「痛(いた)し」となる。動詞形は「痛む」。なお、「甚し」の連用形「いたく」は、あとにくる動詞を修飾して副詞的に用いられることが多く、程度を表す副詞「いたく」が生まれた。現在でも、「いたく感激した」などという表現で用いる。

このような語義の整理は、たとえば、高校教科書でよく取り上げられる『竹取物語』の「かぐや姫、いといたく泣きたまふ」などという用例の理解にも、役立つでしょう。

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三省堂では、「三省堂 高校生創作和歌コンテスト」を行っております。今年度の募集「題詠:もみぢ」は11月20日をもって締め切らせて頂きました。たくさんのご応募、ありがとうございました。結果は、2016年2月25日(木)12時に弊社ホームページ上にて発表予定です。

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