著者ごとのアーカイブ

WISDOM in Depth: #26

2008年 4月 11日 金曜日 筆者: 成田 あゆみ
【編集部より】
『ウィズダム英和辞典』の紙面には収めきれなかった情報を,WISDOM in Depth と題して,編者・編集委員・執筆者の先生方にお書きいただきます。第26回は,好評のコラム「読解のポイント」を担当した成田あゆみ先生の3回目です。

論理展開を表す意外な表現~colonとnow

『ウィズダム英和辞典』では、「読解のポイント」と題して、論理展開の把握において重要な語句をピックアップして解説を加えています。今回はそのなかでも「盲点」とも言うべき、意外な項目を2点ご紹介します。

colon (言い換え)

英和辞典でcolonを引くと一言、「コロン」と書かれているものも少なくありませんが、『ウィズダム英和辞典』では、「コロン」という訳語にとどまらず、コロンの用法までもが説明されています。semicolon、dashにも用法の説明があります。
つまり、辞書が文法書としての側面を持っているのです。

xmhfurfj37mxxcefmjmokrkb_400.png

さらにご注目頂きたいのは、論理展開上の役割に関する説明がある点です。

コロンやセミコロンは単に文の切れ目を示す記号ではなく、「文と文の関係を示す機能」も持っています。具体的には

  • colon:「言い換え」「例示」
  • semicolon:「対比」「言い換え」
  • dash:「例示」

つまりこれらは、for exampleやon the other handと同じ、論理展開を示す表現なのです。
そこでcolon、semicolon、dashの項では、それぞれの論理展開上の機能を簡単に紹介するとともに、関係する「読解のポイント」への参照を記載しました。

コロンやセミコロンの用法を含む「パンクチュエーション」は、高度な内容の文章を読み始めた学習者が一度は疑問を抱く分野のようです。
そんな学習者がコロンやセミコロンの用法を知りたいとき、文法書ではなく英和辞典を引こうと思う学習者は少ないのではないでしょうか。まして、これらの記号に論理展開上の機能があることを期待して辞書を開く人は少ないでしょう。上記のcolonの語法説明、そして「読解のポイント」としての位置づけは、かなり意表を突いた説明だと思われます。

now (時の対比)

英文で非常によくみられる論理展開のひとつに「対比」があります。そこで「読解のポイント」では、on the other HANDで「対比」について説明しています。
英文の対比表現の大きな特徴は、「対比の後半要素に力点が置かれる」場合が多い点です。対比は多くの場合、後半要素こそが本筋と関係が深く、前半要素は後半を際立たせるための「前置き」であることが少なくありません。前半要素が「譲歩」に近く、後半に対比された要素によって否定されるほどの例も多々あります。こうした後半に力点を置く対比の用法は、英語では非常に一般的ですが、日本語ではあまり意識されないため、特に注意が必要です。

しかし「読解のポイント」では、こうした通常の対比から一歩進めて、日本語から発想した際にとりわけ見えづらい対比に焦点を当てました。それは「時の対比」とも言うべき、2つの時点や期間に関する対比です。「昔」と「今」、「今」と「10年後」の対比などがこれにあたります。
こうした「時の対比」は、In former times, . . . but nowのように、明確な時の表現を置いた上で使われることもありますが、それ以上に多いのが、時制によって「時の対比」を表す方法です。例えば、過去完了形と過去形、現在完了形と現在進行形などの対比などは、論説文や新聞記事などで好んで使われます。
日本語は英語と比べて時制の認識があいまいなせいか、学習者は時制の持つニュアンスに意識を向けにくいようです。このため、「時の対比」はともすると素通りされる傾向が見られます。

そんな「時の対比」に注意を喚起すべく、『読解のポイント』では「時の対比」という項目を設け、nowの項目中で説明を加えています。

xmhfurfj37my0n6dh8hx3uf4_400.png
xmhfurfj37my1j5phorntcnh_400.png

「時の対比」は、対比のなかでも特によく見られ、かつ、盲点になりやすいものですが、この点を学習者向けに強調した説明は、寡聞にして知りません。nowに掲載した「時の対比」を、逆接や譲歩、列挙と並ぶ重要な論理展開として、学習者にぜひとも認識してもらいたいと思っています。


【筆者プロフィール】
成田あゆみ(なりた・あゆみ)

『ウィズダム英和辞典』『ウィズダム和英辞典』の執筆者。
英日翻訳者、英語講師。
大学受験予備校のほか、企業英語研修、翻訳学校で授業を行っている。
著書に『ディスコースマーカー英文読解』『[自由英作文編]英作文のトレーニング』(以上共著)『大学入試 英語総合問題のトレーニング』、訳書に『ハーゲドン 情熱の生涯』(共訳)など。

WISDOM in Depth: #23

2008年 3月 28日 金曜日 筆者: 成田 あゆみ
【編集部より】
『ウィズダム英和辞典』の紙面には収めきれなかった情報を,WISDOM in Depth と題して,編者・編集委員・執筆者の先生方にお書きいただきます。第23回は,好評のコラム「読解のポイント」を担当した成田あゆみ先生です。

「譲歩」について〜「保留し、判断しながら」英語を読むために

前回の本コラムでは、論理展開を示す表現 (however, on the other hand など) が、文脈に依存せずに意味を決定できるほとんど唯一の語であるため、英文の文脈判断の出発点になることを述べました。

しかし、こうした表現のなかでもとりわけ重要な「譲歩」表現に限っては、文脈によって意味が決定します。今回はこの「譲歩」についてご紹介したいと思います。

「譲歩」とは何か

「読解のポイント」では「譲歩」を、「筆者の主張の前に、筆者の主張と対立する事実・意見を置くことで、筆者の主張により説得力を持たせる論理展開の型」という意味で使っています*。例えば、

Teaching computer skills may help to develop creativity among children, but firsthand experience should be emphasized above all in children’s education.

では前半部分、Teaching computer skills may help to develop creativity among children が「譲歩」にあたります。
この部分は but を介して、firsthand experience should be emphasized above all in children’s education という主張をより際立たせる働きを持っています。そして、筆者が前半部分を「譲歩」と意図していることは、may の存在が示しています。

* 論理展開中のこうした段階を「譲歩」と呼ぶべきかどうかは、迷うところがありました。英文法では no matter how SV(「どんなに…であろうとも」)を「譲歩節」と呼んだり、また Poor as he was の as(「…であるが」)を「譲歩のas」と呼ぶのが一般的です。しかし、アカデミックライティングの本でこうした機能が言及される場合、to concede と呼んでいるものもあることから、「読解のポイント」でも「譲歩」と呼ぶことにしました。

「譲歩」の表現は、文脈によっては「主張」を表す

しかし、論理展開において譲歩の表現のほとんどは、「主張を控えめに述べる」際にも使用されます。例えば、

Oil consumption levels remain high. Therefore, in the near future it is likely that known oil reserves will be used up.

では、is likely that が、主張を控えめに表す文で使われています。

文中に may が出てきたとき、それが譲歩の意味で使われているのか、それとも筆者の主張を控えめにしているのかは、どうやって判断するのでしょうか。それは「後に逆接表現があるかどうか」がカギとなります。続く部分に however や but があれば、その前にあった may を含む文は「譲歩」であり、ある程度先に読み進めても逆接表現が登場しなければ「控えめな主張」である。そう判断することができます。つまり、may が「譲歩」かどうかは、逆接表現の存在いかんにかかっており、文脈に依存していると言えます。

「読解のポイント」で譲歩を説明する難しさ

このように、譲歩を表す表現はほとんどの場合、主張も表しますが、このことをどう説明すべきかは、「読解のポイント」執筆上最も難しい点でした。may など特定の単語に、「譲歩」と「主張を控えめに述べる」の2つの意味があると説明するのであれば問題ありません。しかし「読解のポイント」は単語ではなく、論理展開の機能別に項目を立てています。そのため「譲歩」という項目を立て、「譲歩表現には may, can, could . . . がある」と書いてしまうと、こうした表現が主張を控えめに述べる働きを持つという情報が伝わらない恐れがありました。

そこで、「読解のポイント」では、「推量・可能性の表現」という項目を立て、そこで「譲歩→逆接→筆者の主張」の展開で、推量・可能性を表す表現が、(a)譲歩、または(b)筆者の主張の目印となることがある、と説明することにしました。

「推量・可能性の表現」、言いかえれば譲歩も主張も表しうる表現として、「読解のポイント」では以下をあげています。

●推量・可能性の表現

  • may
  • can
  • could
  • might
  • would
  • seem
  • likely
  • perhaps
  • possibly
  • presumably
  • probably
「譲歩は文脈依存的である」と教えることの意義

may が「譲歩」と「主張を控えめに述べる」の2つの意味を持ち、その意味は文脈によって決定する。この説明は、切れ味がいまひとつであることは確かです。しかし、この一見したところの分かりにくさこそが、生徒にとっては、英語の理解を深めるきっかけになるようです。

譲歩表現を教えることの意義には、以下があります。

(1) 筆者の意図した通りに、英文が読めるようになる。
筆者は明確な意図をもった上で、譲歩表現を使っています。そうである以上、読み手の側でも譲歩表現に関する知識を持って読むことは、筆者の意図を把握するためには非常に有用です。

(2) 助動詞全般の理解を深めるきっかけになる。
譲歩の表現には接続詞もありますが、最も多いのは may や might, could, would などの助動詞です。
助動詞、特に推量の助動詞は、英語学習者にとって正確なニュアンスを把握しづらい分野です。なかには、助動詞の存在をほとんど無視する学習者もいます。そんななか、譲歩表現に注意を喚起することは、文中の助動詞全般に注目させるための一歩となり、この点でも有用と言えます。

(3) 「保留・予測しながら読む」という姿勢につながる。
最大の意義として、「後に however があるから、さかのぼって前出の may を譲歩とする」という考え方は、英文読解全般に不可欠な「保留・予測して読む」姿勢につながる点があります。

「この文には may が使われている。この段階では、この文が〈譲歩〉か〈主張〉かわからないが、判断を保留したまま先に読むと、次の文に however があり、その次の文に〈主張〉と思える内容があった。だから先ほどの may はさかぼって〈譲歩〉と判断する」
と説明したとき、ある生徒に
「そういうふうに『解釈を保留したまま先に読む』のは、英語すべてに見られることですよね、which が来たらどこで節が終わるのだろうかと思ったり、Sが来たら間に挿入が入ってもいずれはVが来ると予測したり…」
と指摘され、驚かされたことがあります。

確かに、英文を読むというのは、判断を保留して先に読み、予想があたって最終的な解釈としたり、予想が外れて判断を修正したりの繰り返しです。しかもこれを、論理展開に加えて、構文や文脈判断のレベルでも行う必要があります。英語を読むには「判断を保留して読み進める」という、主体的で姿勢が欠かせません。そのことに気づくためにも、譲歩表現の文脈依存度について知ることは重要な一歩となるようです。


【筆者プロフィール】
成田あゆみ(なりた・あゆみ)

『ウィズダム英和辞典』『ウィズダム和英辞典』の執筆者。
英日翻訳者、英語講師。
大学受験予備校のほか、企業英語研修、翻訳学校で授業を行っている。
著書に『ディスコースマーカー英文読解』『[自由英作文編]英作文のトレーニング』(以上共著)『大学入試 英語総合問題のトレーニング』、訳書に『ハーゲドン 情熱の生涯』(共訳)など。

WISDOM in Depth: #20

2008年 3月 14日 金曜日 筆者: 成田 あゆみ
【編集部より】
『ウィズダム英和辞典』の紙面には収めきれなかった情報を,WISDOM in Depth と題して,編者・編集委員・執筆者の先生方にお書きいただきます。第20回は,第2版で初登場した好評のコラム「読解のポイント」を担当した成田あゆみ先生です。

「読解のポイント」について~文脈把握の出発点として

『ウィズダム英和辞典』では、英語の書き言葉で用いられる論理展開を示す表現を「読解のポイント」という欄で解説しています。接続語・接続表現・つなぎ言葉・論理マーカー・ディスコースマーカー等々、さまざまな呼び方がありますが、どれも基本的に意味は同じです。「読解のポイント」では接続語だけでなく成句も幅広く含める形で、以下の展開を示す表現を解説しています。

■「読解のポイント」一覧

  • 強調 (actuallyの項で、以下同)
  • 列挙・追加 (in ADDITION)
  • 逆接 (but)
  • 例示 (for EXAMPLE)
  • 対比 (on the other HAND)
  • 推量・可能性 (may)
  • 時の対比 (now)
  • 類似 (similarly)
  • 結果・結論 (therefore)
  • 言い換え (in other WORDS)

これ以外にも、例えばhoweverのように
(→but 【読解のポイント】)
と参照を示したものを含めると、100近い語・句にこうした「論理展開を示す語」としての役割について説明を加えています。学習用英和ではもちろん、英和辞典全体として見ても、本邦初の試みです。

■英文の論理展開のルール

論理立った英文には明確な「型」があるとはよく言われます。こうした型は英語ネイティブと言えども自然に体得することはなく、高校や大学などの「アカデミック・ライティング」の授業等を通じて学習した後、レポートや論文でその型を使って実際に書いていくことで身につけるものです。この型の詳細については、アカデミック・ライティングについての教科書に譲りますが、日本の高校生・大学1~2年に教える場合、以下の6点に集約することができます。

(1) 1つのパラグラフでは、1つのことしか述べてはならない

(2) パラグラフ内、また本論の各パラグラフ間は、原則として「抽象的な内容から具体的な内容」の順に論を展開する。(主張が先、根拠が後)

(3) 上記の最大の例外として、「そのパラグラフで最も言いたいこととは逆の内容を一度提示してから、それを否定する形で自説を述べる」というものがある 
(譲歩→逆接→主張→理由の展開)

(4) これに似たものとして「対比」の存在がある。すなわち、言いたいことことを際立たせるために、対比的な内容を先に述べてから自説を展開する。特に時の対比(昔は……一方今は……)はよく使われる

(5) 「抽象→具体」以外の論理展開については、論理の転換を示す語を正しく使う必要がある。一方、「抽象→具体」の論理展開は英文の基本形なので、論理の転換を示す語は不要だが、あってもよい(for example、becauseなど)。

(6) 論文の場合、序論・本論・結論 (Introduction/Body/Conclusion) の三部構成とする

読解のポイントは、上記の(5)を、役割別に詳解したものと位置付けることができます。

■接続表現は、文脈把握の出発点である

こうした英文の論理展開の説明をすると必ず受ける反論の一つが、「こうしたことは日本語だろうと英語だろうと、何かを読むときには無意識のうちにやっていることなのだから、あえて英文読解のなかで教える必要はない」というものです。

でも本当にそうなのでしょうか。もちろん、一部の優秀な人はあえて指示されなくても自然に論理展開に注意しながら読めるのかもしれません。が、そもそも英語のネイティブスピーカーでさえ、論理展開の型は母語の話し言葉のように自然に習得することはありません。ましてや外国語として英語を学ぶ日本の高校生や大学生に、接続表現への注意を喚起することは、助けにこそなれ、害になることは決してないでしょう。

しかし、英文の論理展開において接続表現に注意が必要な最大の理由は、これとは別にあります。

それは英語という、多義語が非常に多い言語において、一部の専門用語を除いてほとんど唯一「文脈に依存せずに意味を決定できる語」が、こうした接続表現だという点にあります。上にあげた接続表現は、いわば「文脈判断の出発点」なのです。

英語が多義語の多い言語、言いかえれば文脈依存度の高い語が多いことはよく知られています。
例えばoperationという単語ひとつとっても、
1 手術  2 活動  3 企業  4 演算処理  5 作動  6 軍事行動
と分野によって大きく異なる意味を持ちます。

このため、he had an operation / our operation here began in 2004
だけでは、上記のどの意味で使われているのか、定かではありません。

しかし、これが

  • My father had a heart attack; however, he had an operation and is totally fine now.
  • Our operation here began in 2004, and now we are planning to set up a new plant in the suburbs of Shanghai.

という文脈とともに示されたとき、読み手は
「heart attackと〈逆接〉でつながるようなoperationなのだから、このoperationはきっと『手術』のことなのだろう」
「2004年にoperationが始まり、現在は上海郊外に新工場を検討中という〈時の対比〉なのだから、このoperationは「操業、企業活動」といった意味だろう」
という具合に思考を働かせます。

論理展開を示す語の文脈依存度が低いということは、文脈によって意味がぶれないことを意味します。そのため、これらの語を文脈判断の出発点にして、文脈依存度の高い語の意味を決定していくというのが英語の読み方です。
こうしたことから、英文においては接続表現に注目することが非常に重要であり、読み手は接続表現の意味を手助けにしながら、文脈のなかでの単語の意味を決定していくのです。

このことをよりよく理解するため、日本語の文と比較してみたいと思います。

上記の文を日本語にした場合、
「父は心臓発作を起こした[ ]、手術を受けて今は元気だ」
「当地での操業は2004年にスタートした[ ]現在は上海郊外に新工場を計画している」
となります。

[ ]には「そして」も「が」も入りますし、何も入れないことも可能です。接続表現はほとんど意味を持っていないことがわかります。

日本語は個々の単語の意味が非常に具体的で細分化されているので、単語が文脈を決めていくようなところがあります。接続表現は使われていてもあまり意味がなく、少なくとも英語における「文脈把握の出発点」のような重要性はありません。

英語と日本語の接続表現は一対一対応しているように見えますが、実は文脈把握における重要性は英語と日本語とではまったく異なります。「英文では、接続表現こそが文脈把握の出発点になる」。このことを特に学習者に強調することは、英文の内容把握を助けるという点で非常に有意義であり、また英語と日本語の単語の意味範囲の違いに目を開かせるきっかけともなることでしょう。


【筆者プロフィール】
成田あゆみ(なりた・あゆみ)

『ウィズダム英和辞典』『ウィズダム和英辞典』の執筆者。
英日翻訳者、英語講師。
大学受験予備校のほか、企業英語研修、翻訳学校で授業を行っている。
著書に『ディスコースマーカー英文読解』『[自由英作文編]英作文のトレーニング』(以上共著)『大学入試 英語総合問題のトレーニング』、訳書に『ハーゲドン 情熱の生涯』(共訳)など。

次のページ »