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地域語の経済と社会 第151回 東日本大震災の被害

2011年 5月 21日 土曜日 筆者: 田中 宣廣

地域語の経済と社会―方言みやげ・グッズとその周辺―
第151回「東日本大震災の被害」

 3月11日の東日本大震災により,たいへん悲しいことながら,これまで紹介してきた,方言の有効活用例や関連企業などに大きな被害が出ました。今回は,その報告をします。

(画像はクリックで拡大します)
【写真1 本社跡を説明するタクミ印刷の熊谷千洋社長(NHKテレビより)】
【写真1 本社跡を説明するタクミ印刷の熊谷千洋社長
(NHKテレビより)】

 第131回の「とびゃっこメモ帳」を発行していた岩手県陸前高田市のタクミ印刷は,本社を失いました【写真1】。

 津波の後の陸前高田市中心部の壊滅状況をテレビ等でご覧になった人も多いと思います。同社の本社はその中央部にありました。社員の皆さまは全員無事であったことが,インターネット情報やテレビ報道で伝えられました。

【写真2 津波の直撃でなぎ倒された宮古市役所前庭ポール(筆者撮影;白い粉は消毒用の消石灰)】
【写真2 津波の直撃でなぎ倒された宮古市役所前庭ポール
(筆者撮影;白い粉は消毒用の消石灰)】

 第101回「『市』を挙げての方言メッセージ~『おおきに』と『おでんせ』」の岩手県宮古市役所前庭の「おおきにとおでんせ」のポールは,無惨になぎ倒されました【写真2】。

 方言メッセージの書かれた面は,ほんのわずか残りました【写真3】。

【写真3 わずかに残ったメッセージ(筆者撮影;右は第101回の【写真1】で,残ったのは,オレンジ色の線で囲まれた部分)】
【写真3 わずかに残ったメッセージ(筆者撮影;右は
第101回
【写真1】で,残ったのは,オレンジ色の線で囲まれた部分)】

 市役所本館は,津波が直撃して大きく損傷しました【写真4】。宮古市役所は,第121回「かだる」で紹介した「宮古゛さ かだれんせ」の山車を出したところでもあります。

【写真4 裏側から津波が貫通した宮古市役所正面玄関(筆者撮影)】
【写真4 裏側から津波が貫通した宮古市役所正面玄関(筆者撮影)】

 第46回「『かきくけこ』―5文字で完結する観光の方言メッセージ―」の岩手県山田町は,津波で町の中心部が壊滅したあと,火災も発生し,まさに焼け野原となってしまいました。牡蠣祭りの開催場所である魚市場は,海に面しているため大破しました。歓迎の方言メッセージを掲げていたJR山田線「陸中山田」駅は焼失し,方言メッセージも灰燼に帰しました【写真5】【写真6】。

【写真5 陸中山田駅の惨状(筆者撮影;①印が第46回の【写真4】の看板のあった位置~クリックで全体表示)】【写真6 陸中山田駅駅舎(筆者撮影;②印が第46回の【写真5】の横断幕のあった位置)】
左:【写真5 陸中山田駅の惨状(筆者撮影;①印が第46回の【写真4】の看板のあった位置)】
(クリックで周辺の様子も拡大表示します)
右:【写真6 陸中山田駅駅舎(筆者撮影;②印が第46回の【写真5】の横断幕のあった位置)】

 これまでの紹介にはないものですが,陸中山田駅近くの飲食店のネーミング袖看板「おでんせ」【写真7】も火災で焼失しました。残念ながら,この写真が貴重な記録となってしまいました。

【写真7 飲食店「おでんせ」(震災前に筆者撮影)】
【写真7 飲食店「おでんせ」
(震災前に筆者撮影)】

 

 ところで,震災からこの地方の復興が成し得たと言えるのはどの時点なのでしょうか? 私は,とびゃっこメモ帳の続きが発行されたり,失われた方言メッセージが戻ったときが一つの節目かと思います。

 例えば,駅の歓迎メッセージなら,町を再建する位置が決まって,町が出来,それに合わせて駅や線路を新たに造り,それが完成してから掲げられるからです。

 つまり,方言の有効活用例の復活のは,震災からの復興に大きな意味を持つのです。その実現を確信して再建の原動力としたいと思います。全国の皆さんもぜひ応援してください。

 なお,第146回で紹介した復興の方言メッセージは,その後さらに増えています。それらは第156回で報告する予定です。

* * *

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【筆者プロフィール】

言語経済学研究会 The Society for Econolinguistics
 井上史雄大橋敦夫田中宣廣日高貢一郎山下暁美(五十音順)の5名。日本各地また世界各国における言語の商業的利用や拡張活用について調査分析し,言語経済学の構築と理論発展を進めている。
(言語経済学や当研究会については,このシリーズの第1回後半部をご参照ください)

『付属語アクセントからみた日本語アクセントの構造』田中宣廣(たなか・のぶひろ)
 岩手県立大学 宮古短期大学部 准教授。博士(文学)。日本語の,アクセント構造の研究を中心に,地域の自然言語の実態を捉え,その構造や使用者の意識,また,形成過程について考察している。東京都立大学大学院人文科学研究科修士課程修了。東北大学大学院文学研究科博士課程修了。著書『付属語アクセントからみた日本語アクセントの構造』(おうふう),『近代日本方言資料[郡誌編]』全8巻(共編著,港の人)など。2006年,『付属語アクセントからみた日本語アクセントの構造』により,第34回金田一京助博士記念賞受賞。『Marquis Who’s Who in the World』(マークイズ世界著名人名鑑)掲載。

* * *

【編集部から】
皆さんもどこかで見たことがあるであろう、方言の書かれた湯のみ茶碗やのれんや手ぬぐい……。方言もあまり聞かれなくなってきた(と多くの方が思っている)昨今、それらは味のあるもの、懐かしいにおいがするものとして受け取られているのではないでしょうか。
方言みやげやグッズから見えてくる、「地域語の経済と社会」とは。方言研究の第一線でご活躍中の先生方によるリレー連載。

* * *

この連載への質問、また「ここでこんな方言みやげ・グッズを見た」などの情報は、問い合わせフォーム( http://dictionary.sanseido-publ.co.jp/support/question.html )から、「地域語の経済と社会」への質問・情報である旨を記してご投稿ください。

地域語の経済と社会 第146回 『地域語の力』~東日本大震災復興の方言メッセージ

2011年 4月 16日 土曜日 筆者: 田中 宣廣

地域語の経済と社会―方言みやげ・グッズとその周辺―
第146回「『地域語の力』~東日本大震災復興の方言メッセージ」

 3月11日午後2時46分の激しい揺れから始まった「東日本大震災」,地震本震とその約30分後の大津波の大きな被害は,皆さんも報道等で既によくご存知だと思います。尊い命をなくされた多くの方々に謹んで哀悼の意を表するとともに,被災された方々にお見舞い申し上げます。私の住む岩手県宮古市でも,甚大な被害を受けました。あれから1ヵ月経ちましたが,時が止まったようで,まだ昨日のことのようです。

(画像はクリックで拡大します)
【写真1 筆者撮影】
【写真1 筆者撮影】
【写真2 YOMIURI ONLINE(読売新聞:3月29日)より】
【写真2 YOMIURI ONLINE
(読売新聞:3月29日)より】
【写真3 IBC「じゃじゃじゃTV」より】
【写真3 IBC「じゃじゃじゃTV」より】
【写真4 みやこコミュニティ放送研究会提供】
【写真4 みやこコミュニティ放送研究会提供】
【写真5 筆者撮影(2枚とも)】
【写真5 筆者撮影(2枚とも)】
【写真6 いわき市役所「がんばっぺ!いわき」応援サイトより】
【写真6 いわき市役所「がんばっぺ!いわき」
応援サイトより】
【写真7 あなたの,私の街・いばらき~I love IBARAKI♪~より】 【写真8 岩手県中小企業家同友会のサイトより】
左:【写真7 あなたの,私の街・いばらき
~I love IBARAKI♪~より】
右:【写真8 岩手県中小企業家同友会
のサイトより】

 そのなかで,地域語が大きな力となっています。被災民や復旧支援者が,各地の地域語で,復興の方言メッセージを掲げ,精神力を高め,体力を振り絞り,不自由な生活のなか奮闘しています。今回は,それらのほんの一部の例を紹介します。

 大きく3種類になります。各々説明します。

 ①自衛隊の災害派遣部隊:全国各地からの大勢の支援隊が被災地を助けてくださっています。そのなかで自衛隊の災害派遣隊は,派遣先の地域語による方言メッセージをヘルメット側面に掲げています。「けっぱれ!岩手」【写真1】というわけです。宮城県では「がんばっぺ!みやぎ」【写真2】や「まけねど!女川・石巻」です。

 ②マスコミや企業,行政など:「がんばっぺし!いわて!!」(IBC岩手放送)【写真3】,「がんばっぺし宮古!」(みやこ災害エフエム)【写真4】,「みんなでがんばっぺす」(ジョイス宮古千徳店)【写真5】,「がんばっぺ三陸」(マルホンカウボーイ宮古店)【同】,「がんばっぺ!いわき」(福島県:いわき市役所)【写真6】,その他です。

 ③被災者など個人の手作り:「がんばっぺ!いばらき」(個人のブログ)【写真7】,「がんばっぺぇーす宮古」(岩手県宮古市:グリーンピア三陸みやこ避難所),「がんばっぺ高田!!」(岩手県:陸前高田市立第一中学校避難所)【写真8】,その他です。

 こういう厳しい時にも,地域の力となり,人々を元気づける底力が,方言にはあるのです。

 なお,この大震災により,これまで紹介した方言の有効活用例や関連企業にも被害が及び,中には消失したものもあります。その状況は第151回で報告する予定です。

 

《謝辞》
 陸上自衛隊第11旅団,および,みやこコミュニティ放送研究会におかれては,当回の資料につきまして,特別の便宜を図ってくだされました。被災地での活動中にもかかわらず,ご協力を賜りましたことに対しまして,深甚なる謝意を表します。ありがとうございました。

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【筆者プロフィール】

言語経済学研究会 The Society for Econolinguistics
 井上史雄大橋敦夫田中宣廣日高貢一郎山下暁美(五十音順)の5名。日本各地また世界各国における言語の商業的利用や拡張活用について調査分析し,言語経済学の構築と理論発展を進めている。
(言語経済学や当研究会については,このシリーズの第1回後半部をご参照ください)

『付属語アクセントからみた日本語アクセントの構造』田中宣廣(たなか・のぶひろ)
 岩手県立大学 宮古短期大学部 准教授。博士(文学)。日本語の,アクセント構造の研究を中心に,地域の自然言語の実態を捉え,その構造や使用者の意識,また,形成過程について考察している。東京都立大学大学院人文科学研究科修士課程修了。東北大学大学院文学研究科博士課程修了。著書『付属語アクセントからみた日本語アクセントの構造』(おうふう),『近代日本方言資料[郡誌編]』全8巻(共編著,港の人)など。2006年,『付属語アクセントからみた日本語アクセントの構造』により,第34回金田一京助博士記念賞受賞。『Marquis Who’s Who in the World』(マークイズ世界著名人名鑑)掲載。

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【編集部から】
皆さんもどこかで見たことがあるであろう、方言の書かれた湯のみ茶碗やのれんや手ぬぐい……。方言もあまり聞かれなくなってきた(と多くの方が思っている)昨今、それらは味のあるもの、懐かしいにおいがするものとして受け取られているのではないでしょうか。
方言みやげやグッズから見えてくる、「地域語の経済と社会」とは。方言研究の第一線でご活躍中の先生方によるリレー連載。

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地域語の経済と社会 第141回 『いちびり精神』による天保山登頂記

2011年 3月 12日 土曜日 筆者: 田中 宣廣

地域語の経済と社会―方言みやげ・グッズとその周辺―
第141回「『いちびり精神』による天保山登頂記」

 「日本一の山」はどこか? の質問に,多くの人は「日本一『高い』山」(また『美しい』)の意で「富士山」と答えるでしょう(80歳以上では,つい新高山と言うかも……)。

(画像はクリックで拡大します)
【写真1 上:天保山山頂(中央の四角形表示が三角点)/下:植え込みの中にある看板】
【写真1】
上:天保山山頂
(中央の四角形表示が三角点)
下:植え込みの中にある看板
【写真2 天保山「登山証明書」】
【写真2】天保山「登山証明書」

 それでは皆さん,「日本一『低い』山」はご存知でしょうか?テレビその他で取り上げられて意外と有名です。大阪市港区の「天保山(てんぽうざん)」で,現在の標高は4.53mです。(「現在の~」というのは,以前の高さから削られたり地盤沈下で低くなったからです)

 天保山の頂上には「二等三角点」【写真1】が設置されていて法的に「山」なのです。「山岳会」もありますし,万一に備えて「山岳救助隊」も編成されています(http://www5.ocn.ne.jp/~tenpo45/参照)。

 私も先頃,長年の念願叶って登頂に成功しました。また,山岳会より「登山証明書」【写真2】の発行を受けました。この証明書が,大阪方言の方言グッズになっています。後半に「よって,その快挙を称えあなたを「いちびり精神」の持ち主であることを証明します。」とあり,天保山登山=いちびり精神の持ち主=の証明となっています。

 「いちびり」について山岳会の橋本会長から「大阪弁で,ふざけて,はしゃぎまわる という意味です」とのご教示を戴きました。あり得ないと分かっていても,それをあえて受け入れることのユーモアを楽しむ心です。大阪方言の言語行動の思想的基軸をなすとも言えましょう。インターネット検索でヒット件数,約354,000件でした。

【写真3 天保山公園の山頂付近;赤矢印の先が「写真1」の山頂,左のオベリスク様の塔は明治天皇行幸記念碑】
【写真3】天保山公園の山頂付近
赤矢印の先が「写真1」の山頂,
左のオベリスク様の塔は
明治天皇行幸記念碑

 天保山は,上で紹介した標高で,全体が公園です【写真3】。一般に理解される山の遭難もほぼありません。そこを『山』として楽しむのが,この場合の「いちびり」です。

 私も,登山証明書発行申請書では,一行を「登山隊」,宿泊ホテルを「ベースキャンプ」,安倍川の対岸からの大阪市営渡船の天保山渡船場を「ファイナルキャンプ」,三角点まで歩くのを「頂上アタック」などと,登山用語を使いました。登山隊員の一人(長女)が,旅行後に少し熱を出したのは「低山病」(高山病でなく)と書いたりしました。山岳会からの添え状も,「田中登山隊様」(「登山隊」は印刷)の宛名で,別に「下山後の苦難の数々……涙なくしてお便り拝見できませんでした」とのお手紙も戴きました。

《付記》
 天保山山岳会より,登山証明書発行時に本文に示したご教示を賜りました。ここに記して感謝の意を表します。

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 井上史雄大橋敦夫田中宣廣日高貢一郎山下暁美(五十音順)の5名。日本各地また世界各国における言語の商業的利用や拡張活用について調査分析し,言語経済学の構築と理論発展を進めている。
(言語経済学や当研究会については,このシリーズの第1回後半部をご参照ください)

『付属語アクセントからみた日本語アクセントの構造』田中宣廣(たなか・のぶひろ)
 岩手県立大学 宮古短期大学部 准教授。博士(文学)。日本語の,アクセント構造の研究を中心に,地域の自然言語の実態を捉え,その構造や使用者の意識,また,形成過程について考察している。東京都立大学大学院人文科学研究科修士課程修了。東北大学大学院文学研究科博士課程修了。著書『付属語アクセントからみた日本語アクセントの構造』(おうふう),『近代日本方言資料[郡誌編]』全8巻(共編著,港の人)など。2006年,『付属語アクセントからみた日本語アクセントの構造』により,第34回金田一京助博士記念賞受賞。『Marquis Who’s Who in the World』(マークイズ世界著名人名鑑)掲載。

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地域語の経済と社会 第136回 大雪に負けない方言看板と方言メッセージ

2011年 2月 5日 土曜日 筆者: 田中 宣廣

地域語の経済と社会―方言みやげ・グッズとその周辺―
第136回「大雪に負けない方言看板と方言メッセージ」

 夏が暑かったとき,そのすぐ後の冬は寒くて雪が多いと言われます。今シーズンは,それがよく当てはまっています。この冬は,全国的に寒く,しかも,積雪量の観測最大値を更新した地点が多く出ているくらいの大雪です。

【写真1 酒飲み運転は許さない】
【写真1 酒飲み運転は許さない】

 そういうなかでも,方言看板は,がんばって交通安全を呼びかけています。

 秋田県仙北郡美郷町の国道13号線沿い(横手から大曲方向に北上する車線の左側)に,「なんぼ言えばわがる 飲んだら乗るな」(何回言ったら理解できるのか。「(酒を)飲んだら,(自動車に)乗るな」)の,とても大きな看板があります。【写真1】=《付記》に撮影に関する説明=

 美郷町のある秋田県の内陸部は,もともと雪の多い地方です。その中心地は,美郷町の南隣で,「かまくら」で有名な横手市です。街中すら除雪が追いつかないほどの大雪です。

 看板も,雪まみれになりながらも文字をしっかり見せてその役目を立派に果たしています。飲酒運転による悲惨な事故が,たびたび報道されています。皆さんも,酒飲み運転は絶対にしないでください。

 「なんぼ言えば…」は,非営利的な言語の拡張活用ですが,雪の中,商業的利用の方言メッセージも頑張っています。

【写真2 ちょっと寄りたくなる方言メッセージ】
【写真2 ちょっと寄りたくなる方言メッセージ】

 美郷町の北隣の大仙市の国道105号線沿いの「道の駅なかせん」に「よってたんせ きてたんせ!」(寄ってください。来てください!)の歓迎メッセージがあります。【写真2】

 なお,「なかせん」は,漢字では「中仙」で,平成の大合併で大仙市になる前は,中仙町だった地区です。年配者には懐かしい「ドンパン節」が生まれたところで,この道の駅も,愛称を「ドンパン節の里」としています。

 方言看板も方言メッセージも,雪の中,ますます元気です。皆さんも,寒さを吹き飛ばして頑張りましょう。

* * *

《付記》
 今回の2枚の写真は,私のゼミの学生で,大仙市出身の者に撮影してきてもらったものです。第126回で,この地域の方言みやげなどを紹介しましたが,私は,今回の2例とも,その取材の時に見付けたものの,事情により写真の撮影ができませんでした。そういうところ,学生の冬休みの帰省のときに卒業論文の資料収集を兼ねて撮影をしてくれました。ここに記して感謝の意を表します。

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地域語の経済と社会 第131回「とびゃっこメモ帳」

2010年 12月 25日 土曜日 筆者: 田中 宣廣

地域語の経済と社会―方言みやげ・グッズとその周辺―
第131回「とびゃっこメモ帳」

 夏の猛暑に日本中がやられてしまった今年も,もうすぐ終わりですね。寒くなってきた最近は,それも懐かしく思われます。

【写真1】どびゃっこメモ帳(おだづなよー)表紙:クリックで全8種を表示
【写真1】とびゃっこメモ帳
(おだづなよー)表紙
(クリックで全8種を表示)

 さて,今年最初の記事は,「第81回:ケセン語メッセージ」でした。「ケセン語」とは,,現在の行政区域で,釜石市唐丹(とうに)町・気仙郡住田町・大船渡市・陸前高田市の,岩手県の旧「気仙(けせん)郡」の方言です。大船渡市の医師で方言研究家の山浦玄嗣(やまうらはるつぐ)さんによる呼び方です。

 年の結びの今回も,「ケセン語」の記事です。ケセン語で始まり,ケセン語で終わる年となりました。

 今回紹介するのは,ケセン語のメモ帳「とびゃっこメモ帳」です。

 陸前高田市のタクミ印刷有限会社http://www.takumi-in.co.jp/による8種のメモ帳です。1冊100枚綴りです。

【写真2】表紙裏の解説1コマ漫画(たねる)
【写真2】表紙裏の解説1コマ漫画(たねる)

 方言の使われ方は,以下のとおりです。
[1]8種の各々に,ケセン語の題名が付いていて,表紙には,その題名となった単語を理解するためのストーリーの漫画と共通語訳も添えられています【写真1】(【写真1】をクリックで全8種を表示)。
 以下に紹介します。( )内は,表紙に添えられた共通語訳です。その後ろの〔 〕内は,適宜付けた私の解説です。

  • 「がふ」(大きい。ぶかぶか。)〔靴がブカブカなど,大きすぎて使いづらい様子〕
  • 「おだづなよ」(ふざけるな。)〔相手の言動を否定する表現〕
  • 「たんまげたー」(びっくりした。おどろいた。)
  • 「おしょしー」(恥ずかしい。)
  • 「たねる」(探す。たずねる。)〔「たずねる」からの変化で「たねる」です〕
  • 「かっつぐ」(追いつく。)
  • 「けなり」(うらやましい。)
  • 「かばねやみ」(めんどくさがり屋。めんどうな事。)〔怠け者〕
【写真3】その他のケセン語:クリックで拡大表示
【写真3】その他のケセン語
(クリックで全体を表示)
【写真4】メモ用紙面のケセン語:クリックで拡大表示
【写真4】メモ用紙面のケセン語
(クリックで全体を表示)

[2]「たんまげたー」と「おしょしー」を除く6種の表紙の裏には,各々の題名の方言を,表紙とともに解説する1コマ漫画が付いています。【写真2】

[3]表紙の裏に,「あど,こんなのもあんのす。(他に,このようなものもあります)」として,8種各々ごとに,数例のケセン語の単語と共通語訳が出ています。【写真3】

[4]メモ帳の全ページに,[3]のなかから選んだ語例と解説の1コマ漫画が,筆記を妨げないよう,ページの端に薄刷りであしらわれています。【写真4】

 このメモ帳は,気仙地区や岩手県内での販売のほか,ネット通信販売も取り扱いがあります。(よろしければ,上のURLで)

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(言語経済学や当研究会については,このシリーズの第1回後半部をご参照ください)

『付属語アクセントからみた日本語アクセントの構造』田中宣廣(たなか・のぶひろ)
 岩手県立大学 宮古短期大学部 准教授。博士(文学)。日本語の,アクセント構造の研究を中心に,地域の自然言語の実態を捉え,その構造や使用者の意識,また,形成過程について考察している。東京都立大学大学院人文科学研究科修士課程修了。東北大学大学院文学研究科博士課程修了。著書『付属語アクセントからみた日本語アクセントの構造』(おうふう),『近代日本方言資料[郡誌編]』全8巻(共編著,港の人)など。2006年,『付属語アクセントからみた日本語アクセントの構造』により,第34回金田一京助博士記念賞受賞。『Marquis Who’s Who in the World』(マークイズ世界著名人名鑑)掲載。

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【編集部から】
皆さんもどこかで見たことがあるであろう、方言の書かれた湯のみ茶碗やのれんや手ぬぐい……。方言もあまり聞かれなくなってきた(と多くの方が思っている)昨今、それらは味のあるもの、懐かしいにおいがするものとして受け取られているのではないでしょうか。
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地域語の経済と社会 第126回 「“気づいた”方言の方言みやげ―地域言語的用法の共通語視から―」

2010年 11月 20日 土曜日 筆者: 田中 宣廣

地域語の経済と社会―方言みやげ・グッズとその周辺―
第126回「“気づいた”方言の方言みやげ―地域言語的用法の共通語視から―」

【写真1 方言ライター「とうきょう」】
【写真1 方言ライター
「とうきょう」】

 秋田県で,ちょっと変わった方言みやげを見つけてきました。

 それは,方言ライターです。

 方言は「とうきょう」,共通語訳は「関東方面」とあります【写真1】。

 秋田県で「とうきょう」と言えば,神奈川県,埼玉県,千葉県の,東京通勤圏程度の範囲を指す,というものです。

 秋田の人たちは,この用法について,『方言』であること,つまり,地域性のあることを,あまり認識していないようです。私のゼミの学生で,秋田県出身者も,同様でした[注1]

 こういう『方言用法を共通語だと思い込む』ことを,「地域言語的用法の共通語視」と言います。これは私の術語です。この連載を一緒にしている井上史雄先生は,「気づかない方言」と呼んでいます[注2]

【写真2 方言ライター「なんぼこれだぁ」】【写真3 「まめでらが~」ステッカー】
左:【写真2 方言ライター「なんぼこれだぁ」】
右:【写真3 「まめでらが~」ステッカー】

 だから,「とうきょう」(関東方面)を,方言みやげに採用したのは,この用法について,『方言』だと“気づいた”というわけです。方言みやげの掲載方言では『変わり種』です。

 秋田の他の方言ライターには,「なんぼ これだぁ」(他家訪問時の挨拶「ごめんください」「こんにちは」の意)【写真2】があり,また,関連の方言みやげに,「(道の駅)十文字限定『まめでらが~』(元気ですか?)ステッカー」などがあります【写真3】[注3]

【写真4 道の駅十文字の包装紙】
【写真4 道の駅十文字の包装紙】
【写真5 店内の方言メッセージ「やすんでたんせ」】
【写真5 店内の方言メッセージ
「やすんでたんせ」】
(クリックで後の方言のれんも表示)

 皆さんも,こういう方言みやげにも“気づいた”ら,地域語の有効活用を,より興味深く見ることができると思います。

[注1] 実は,方言ライター「とうきょう」は,入手の前日に横手市(道の駅十文字)で見つけて,私は,迂闊にも『これは方言みやげではない』と誤解し,他の方言みやげを購入しました。その後“気づいて”,仙北市の岩手県との境に近いところで入手したものです。

[注2] 方言に対する類似の観方は,研究者ごとに定義と用語が異なります。ここの本文の2用語のほか,「方言らしくない方言」「えせ標準語」「気づかれにくい方言」「変容方言」「地方共通語」など,全部で14種を確認しています。私は『言語科学の百科事典』(丸善)p.396で整理しました。

[注3] 「まめでらが~」は,この道の駅のキャッチフレーズにもなっています【写真4】。店内には他の方言みやげや,方言メッセージがあります【写真5】。横手市のインターネットサイトにも道の駅十文字のページがあります。URLは,http://www.city.yokote.lg.jp/kakuka/tiiki_jumonji/sangyo/mitieki1.jspです。

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【筆者プロフィール】

言語経済学研究会 The Society for Econolinguistics
 井上史雄大橋敦夫田中宣廣日高貢一郎山下暁美(五十音順)の5名。日本各地また世界各国における言語の商業的利用や拡張活用について調査分析し,言語経済学の構築と理論発展を進めている。
(言語経済学や当研究会については,このシリーズの第1回後半部をご参照ください)

『付属語アクセントからみた日本語アクセントの構造』田中宣廣(たなか・のぶひろ)
 岩手県立大学 宮古短期大学部 准教授。博士(文学)。日本語の,アクセント構造の研究を中心に,地域の自然言語の実態を捉え,その構造や使用者の意識,また,形成過程について考察している。東京都立大学大学院人文科学研究科修士課程修了。東北大学大学院文学研究科博士課程修了。著書『付属語アクセントからみた日本語アクセントの構造』(おうふう),『近代日本方言資料[郡誌編]』全8巻(共編著,港の人)など。2006年,『付属語アクセントからみた日本語アクセントの構造』により,第34回金田一京助博士記念賞受賞。『Marquis Who’s Who in the World』(マークイズ世界著名人名鑑)掲載。

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【編集部から】
皆さんもどこかで見たことがあるであろう、方言の書かれた湯のみ茶碗やのれんや手ぬぐい……。方言もあまり聞かれなくなってきた(と多くの方が思っている)昨今、それらは味のあるもの、懐かしいにおいがするものとして受け取られているのではないでしょうか。
方言みやげやグッズから見えてくる、「地域語の経済と社会」とは。方言研究の第一線でご活躍中の先生方によるリレー連載。

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この連載への質問、また「ここでこんな方言みやげ・グッズを見た」などの情報は、問い合わせフォーム( http://dictionary.sanseido-publ.co.jp/support/question.html )から、「地域語の経済と社会」への質問・情報である旨を記してご投稿ください。

地域語の経済と社会 第121回 「かだる」

2010年 10月 16日 土曜日 筆者: 田中 宣廣

地域語の経済と社会―方言みやげ・グッズとその周辺―
第121回「かだる」

 岩手県の方言に,「仲間に入る」という意味の「カダル」という語があります。

 (あとに[言語説明]がありますので,押さえておいてください)

【写真1 サークルの会報「かだる」】
【写真1 サークルの会報「かだる」】
(クリックで他の号のものも表示)

【写真2 若者も仲間に「かだる」】
【写真2 若者も仲間に「かだる」】

 さて,この「カダル」には,有効活用の例がいくつか見られます。共通語の「仲間に入る・仲間になる」を,一言で表す方言なので,なかなか良い使い方ができるからだと思います。今回は,岩手での活用例を3例紹介します。

 まず,盛岡市の高齢者の社会参加情報誌(季刊)のネーミングです【写真1】。高齢者に懐かしいことばを使ったものですね。

 次に,やはり盛岡市の,学生と社会人の交流企画のポスターのメッセージです【写真2】。国立岩手大学内に掲示されてあったものです。

【写真3 宮古に「かだれんせ」】
【写真3 宮古に「かだれんせ」】
(クリックで全体を表示)

 また,今年の宮古秋祭りで出された,宮古市役所の鮭の形の山車(この祭りでは,港町宮古ならではの,船形や魚形の山車が出ます。鮭は市の魚)です【写真3】。西隣の(旧)川井村(かわいむら)と合併したことにちなむメッセージ「宮古゛さ、かだれんせ!!」で使われました。なお,「古」の字の右上の「゛」は語中カ行音の濁音化による「ゴ」を表そうとした工夫です。

[言語説明]
[1] 「カダル」は自動詞です。岩手には,対応する他動詞に「カデル」(仲間に入れる)があり,それと同じような意味で使役法を用いた「カダラセル」もあります。
[2] 「カダル」は,岩手県だけでなく,東北地方各地,また,関東や中部,そして,関西や九州の各地方で使われています。 インターネットで検索すると,それぞれ「〇〇の方言」(〇〇は地名)と,各々,自分の土地の独特の言い方だとして説明されています。
[3] 『日本国語大辞典 第二版』では,語源は「語る」で,「いつも語り合っているように親しくする。親しくまじわる。かたらう。」との説明で,初出用例は1013年『御堂関白記』,関西では1703年『曽根崎心中』までの用例が示されています。方言では,「仲間入りする。加入する。」の意味で,使用地点に[2]の各地点が挙げられています。
[4] 岩手の「カダル」の第2音節の「ダ」は,他の地方での語形や『日本国語大辞典 第二版』の記述から,東北方言の語中タ行音の濁音化現象によるものだと考えられます。

【写真4 東北でも大阪弁】
【写真4 東北でも大阪弁】
(クリックで全使用例を表示)

《第116回の補足》

 第116回で「大阪弁の威力」を説明しましたが,公開後に見つけた使用例を紹介します。

 岩手県盛岡市の自動車用品店です。大阪市発祥の会社なので,大阪方言のメッセージを使っています。東北の人にも大阪弁で呼びかける,というわけです。

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 岩手県立大学 宮古短期大学部 准教授。博士(文学)。日本語の,アクセント構造の研究を中心に,地域の自然言語の実態を捉え,その構造や使用者の意識,また,形成過程について考察している。東京都立大学大学院人文科学研究科修士課程修了。東北大学大学院文学研究科博士課程修了。著書『付属語アクセントからみた日本語アクセントの構造』(おうふう),『近代日本方言資料[郡誌編]』全8巻(共編著,港の人)など。2006年,『付属語アクセントからみた日本語アクセントの構造』により,第34回金田一京助博士記念賞受賞。『Marquis Who’s Who in the World』(マークイズ世界著名人名鑑)掲載。

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皆さんもどこかで見たことがあるであろう、方言の書かれた湯のみ茶碗やのれんや手ぬぐい……。方言もあまり聞かれなくなってきた(と多くの方が思っている)昨今、それらは味のあるもの、懐かしいにおいがするものとして受け取られているのではないでしょうか。
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地域語の経済と社会 第116回 大阪弁の威力

2010年 9月 11日 土曜日 筆者: 田中 宣廣

地域語の経済と社会―方言みやげ・グッズとその周辺―
第116回「大阪弁の威力」

 1993年から放映されたテレビCMのキャッチコピー「勉強しまーっせ。引っ越しのー○○○。」は,かなりのインパクトをもって全国に届きました。出演していた俳優さんも,その後多くの映画やテレビドラマで大活躍していますが,今でも「引っ越しの○○○の人」と言えば分かってもらえるくらい,多くの人の記憶に残っています。

 (注)「勉強する」は,商業やサービス業で「値引きする」意です。関西発祥の表現ですが,現代では他地方でもよく使われています。

【写真1 新宿の大阪弁】 【写真2 高田馬場の大阪弁】
左:【写真1 新宿の大阪弁】
右:【写真2 高田馬場の大阪弁】
【写真3 ラーメンでっせ】
【写真3 ラーメンでっせ】
(クリックで全6種類を表示)
【写真4 パンの大阪弁】
【写真4 パンの大阪弁】
(クリックで全体を表示)

 このインパクトの強さの理由は,いくつかあると思いますが,やはり,このCMコピーが大阪弁=大阪方言であったこともそのうちの重要な一つであると思います。
 この会社は,たしかに大阪で発祥しましたが,このCMは大阪の人だけに向けたものではなく,また,特に大阪に引っ越して来てほしいというわけでもありません。
 つまり,大阪方言に「全国の人に強い印象を植え付ける」効果を認めることができるのです。CM作者がこういう大阪方言の使用目的を持っていたかどうかは確認していませんが,結果として,この効果が出ているのは確かです。

 この大阪方言の使い方は,上で述べたとおり,方言メッセージの基本の使い方とだいぶ異なるもので,大阪方言の威力が認められます。今回は,このような例を紹介します。

 まず,東京で見つけた大阪方言のメッセージ2例です。新宿駅近く(想い出横丁付近)の金券ショップの案内「…ありまっせ!!」【写真1】と,JR高田馬場駅戸山口(新大久保寄りの小さな改札口)すぐそばの飲食店の案内「…あげてまっせ」【写真2】です。東京で大阪方言のメッセージは,確かに目立ちますね。

 次は,明星食品株式会社のカップ麺の方言ネーミング「○○でっせ」です【写真3】。6種類あります>>【写真3】をクリック。「すうどん」は,関西料理ですが,他の5種類は,麺自体の名称は全国共通のものですし,この6種とも関西地域限定販売ではありません。名称とともに,「麺もスープ[つゆ]もめっちゃ旨い!」という説明も大阪方言です。

 もう一つ,山崎製パン株式会社のパンの方言メッセージ「うちら…ええ感じに…ってなんでやねんっ!」【写真4】も紹介しておきます。このシリーズで,他のものは,共通語が使われているようですし,やはり,全国販売品です。

 この“大阪弁の威力”,ものすごい!と思いますが,皆さん如何でしょう?

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 岩手県立大学 宮古短期大学部 准教授。博士(文学)。日本語の,アクセント構造の研究を中心に,地域の自然言語の実態を捉え,その構造や使用者の意識,また,形成過程について考察している。東京都立大学大学院人文科学研究科修士課程修了。東北大学大学院文学研究科博士課程修了。著書『付属語アクセントからみた日本語アクセントの構造』(おうふう),『近代日本方言資料[郡誌編]』全8巻(共編著,港の人)など。2006年,『付属語アクセントからみた日本語アクセントの構造』により,第34回金田一京助博士記念賞受賞。『Marquis Who’s Who in the World』(マークイズ世界著名人名鑑)掲載。

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地域語の経済と社会 第111回 方言メッセージで大観光キャンペーン

2010年 8月 7日 土曜日 筆者: 田中 宣廣

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第111回「方言メッセージで大観光キャンペーン」

 日本の国宝第1号は岩手県にあります。平泉の中尊寺金色堂です。奥州藤原氏四代(清衡,基衡,秀衡,泰衡)の墓所・廟所でもあり,深い仏教的思想のもとに建立された文化財です。松尾芭蕉の『奥の細道』に「五月雨の降り残してや光堂」と詠まれるなど,古くから広く知られています。

【写真1 キャンペーンのポスター】
【写真1 キャンペーンのポスター】
(クリックで全3種を拡大表示)
【写真2 昨年のわんこきょうだいと「おでんせ」】
【写真2 昨年のわんこきょうだいと「おでんせ」】
【写真3 方言メッセージの部分】
【写真3 方言メッセージの部分】
(クリックで全3種を拡大表示)

 岩手県では,この金色堂を含む寺院群の「世界文化遺産」への登録を目指しています。この夏も,昨年と同期間7月1日から9月30日まで「いわて・平泉 観光キャンペーン」を大規模に展開しています。

 広告方法は,ネットでの案内http://www.iwatetabi.jp/cp/index.php,パンフレットやグッズの配布のほか,ポスター【写真1】3種類の掲示などです。

 わんこそばのキャラクター,5(人)の「わんこきょうだい」【写真2(2009年版)】が,このキャンペーンで活躍しています。http://www.iwatetabi.jp/wanko/

 今年は,ポスターに長い文章の方言メッセージを入れました【写真3】。共通語訳なしでもある程度意味が伝わるように,共通語の表現や漢字を入れるなどの工夫もあります。

 ポスターの方言メッセージを紹介します。ここで『タイトル』のみ共通語訳を付けます。“ / ”はポスターでの改行箇所です。

(緑)じゃじゃ どでんした (あらあら おどろいた)
むがすむがす平泉にはな / 黄金文化が栄えでいだんだど。 / ほがにもいわでにはな, / 縄文の遺跡だの,神楽だの,昔話だの, / 歴史の浪漫や伝統文化があふれでんのす。 / むがすのものを大事にしてきたがらな。 / いわでも,ながながたいしたもんだよ。

(赤)まんず おあげんせ(まあまあ めしあがってください)
いわではな,まんず / うんめぇのぁいっぺあっから / とびぎり新鮮な海の幸だべ,
お日さんの恵みをまんまんど受げだ / 山の幸や里の幸も絶品だ。 / おらほ自慢のいわでの味を, / 腹いっぺぇ,おあげんせ。

(青)『たいした いいながめだ』(とても,いいながめだ)
いわてはな,どこさいっても / ためいぎでるよな眺めさ会えっから / 海だの,山だの,高原だの, / なんもかんも,きれいだがら / いわでさ来たら,うんめぇ空気吸って / のーんびりしでげばいいんだ / まんず,いわでさあべ。

 まんず,いわでさおでってくたせんせ。

 みやごでゃーば,なずも,すずすごぜぁんすー。

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 岩手県立大学 宮古短期大学部 准教授。博士(文学)。日本語の,アクセント構造の研究を中心に,地域の自然言語の実態を捉え,その構造や使用者の意識,また,形成過程について考察している。東京都立大学大学院人文科学研究科修士課程修了。東北大学大学院文学研究科博士課程修了。著書『付属語アクセントからみた日本語アクセントの構造』(おうふう),『近代日本方言資料[郡誌編]』全8巻(共編著,港の人)など。2006年,『付属語アクセントからみた日本語アクセントの構造』により,第34回金田一京助博士記念賞受賞。『Marquis Who’s Who in the World』(マークイズ世界著名人名鑑)掲載。

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地域語の経済と社会 第106回

2010年 7月 3日 土曜日 筆者: 田中 宣廣

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第106回「『方言』と『しゃれ』のコラボ」

 北国の北海道は涼しいはずですが,先月6月のおしまい,北海道の暑さはすさまじいものでした。特に26日には30年ぶりの記録更新となる足寄の37.1℃をはじめ,帯広,北見など15地点で最高気温35℃以上の「猛暑日」を記録しました。

 これで思い出したのが,今から十数年前の夏のことです。1997年7月末,北日本は連日の猛暑に襲われました。そのときの『北海道新聞』の大見出しが「あついっ暑」でした。北海道方言の代表のような,確認の「―ッショ」と「暑」が掛けられているのは,北海道の人ならすぐに分かりますね。

 今回は,このように,『方言』と『しゃれ』を併せて使用した方言の有効活用例を取り上げます。

【写真1】じっ茶ばっ茶
【写真1】じっ茶ばっ茶
(クリックで全体を表示)

 岩手県の方言で,おじいさんを「ジッチャ」,おばあさんを「バッチャ」と呼ぶ地域があります。北部で優勢のようです。

 これを,ペットボトルのお茶の名にした商品が,岩手県岩泉町の株式会社岩泉産業開発から発売されています。その名も「じっ茶ばっ茶」【写真1】です。内容は,岩手県産の豆や雑穀を焙煎した烏龍茶です。

【写真2】いずこ…えずこ
【写真2】いずこ…えずこ

 もう一つ,第13回で紹介されている,宮城県の「えずこホール」の関連です。これ自体は施設名の方言ネーミングで,第13回で紹介された例の他にも多数あり,最近では特に珍しくはないものです。

 このホールの『方言』と『しゃれ』は,ホールの紙のパンフレットにある「いずこの人も えずこに来たれ。」のメッセージ【写真2】です。このホールを活動の場にしている多くの住民創造グループへの参加募集のメッセージで,第13回でもリンクしているインターネットの案内には認められないものです。

 また,第43回の「自転車を『降りチャリ、押しチャリ』」も,『方言』と『しゃれ』による,方言看板・ポスター類ですね。

 沖縄県那覇市に「ニーフェーデービル」(那覇の方言で「ありがとう」の意)という名のビル(建物)があるという情報も戴いています。これについては現在確認中です。

 皆さん,言語の商業的利用には,こういう「楽しみ」もあります。

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