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地域語の経済と社会 第90回
2010年 3月 13日 土曜日 筆者: 大橋 敦夫地域語の経済と社会―方言みやげ・グッズとその周辺―
第90回「よう来てくったっせ―手作りポスターでお出迎え(新潟県村上市)―」
昨秋から今冬にかけて、JR村上駅の待合室や駅前の観光案内所などに、村上の方言を紹介するポスターが掲示されました。
制作は、新潟県村上地域振興局の職員の方々5名による手作り。
単語を一覧にした「村上ことば」は、バックの柄を変えて2種類作られ、お持ち帰り用のA4サイズも設置されました。
さらに、「村上ことば その1~5」と題して、会話文を示したポスターも5種類作られました。
①「村上にはうんめもんがふっとつあるすけ、腹くっちょなるまで食べていげっしゃ。」
訳:村上にはおいしいものがたくさんあるので、お腹いっぱい食べていってください。②「村上によう来てくったっせ。まず、上がってねまれっしゃ。」
訳:村上によく来てくださいました。まず、上がって座ってください。③「そろそろ帰ります。」「おおきにはや、また村上にけぇ。」
訳:そろそろ帰ります。どうもありがとう。また村上に来てください。④「村上はいいところですね。」「だーまた、そうらっせ。山もあるし、海もあるし、また遊びにこいっしゃ。」
訳:村上はいいところですね。もちろんそうですよ。山もあるし、海もあるし、また遊びに来てください。⑤「さあっす、電車に乗り遅れたなあ。」「おらこに泊まればいいすけ、あんじことないっせ。」
訳:さあ大変。電車に乗り遅れてしまった。私のところに泊まればいいから、心配することないですよ。
こちらも、地元の方々との会話を楽しんでもらいたいとの思いが込められた力作です。
ところで、村上の「うんめもん」となると、まず鮭に注目したいところですが、いただく前に、「イヨボヤ会館」に足を運んで、しっかり勉強もしておくと、味わいが深まるのでは。
鮭を「イヨボヤ」と称する村上方言では、鮭に関する方言が「カナ」[雄鮭]・「メナ」[雌鮭]・「アソビザケ」[正月過ぎにくる鮭]など、20語以上もあって、鮭に本当に親しんでいることがわかります。
3月に開催される「人形さま巡り」に向けて、村上地域振興局の職員の方々の間では、あらたにポスター制作や方言のテープ吹き込みも予定されているとの由。
春休みは、村上に「行こかね~」。
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【筆者プロフィール】
言語経済学研究会 The Society for Econolinguistics
井上史雄,大橋敦夫,田中宣廣,日高貢一郎,山下暁美(五十音順)の5名。日本各地また世界各国における言語の商業的利用や拡張活用について調査分析し,言語経済学の構築と理論発展を進めている。
(言語経済学や当研究会については,このシリーズの第1回後半部をご参照ください)
大橋敦夫(おおはし・あつお)
上田女子短期大学総合文化学科教授。上智大学国文学科、同大学院国文学博士課程単位取得退学。
専攻は国語史。近代日本語の歴史に興味を持ち、「外から見た日本語」の特質をテーマに、日本語教育に取り組む。共著に『新版文章構成法』(東海大学出版会)、監修したものに『3日でわかる古典文学』(ダイヤモンド社)、『今さら聞けない! 正しい日本語の使い方【総まとめ編】』(永岡書店)がある。
【編集部から】
皆さんもどこかで見たことがあるであろう、方言の書かれた湯のみ茶碗やのれんや手ぬぐい……。方言もあまり聞かれなくなってきた(と多くの方が思っている)昨今、それらは味のあるもの、懐かしいにおいがするものとして受け取られているのではないでしょうか。
方言みやげやグッズから見えてくる、「地域語の経済と社会」とは。方言研究の第一線でご活躍中の先生方によるリレー連載の始まりです。
この連載への質問、また「ここでこんな方言みやげ・グッズを見た」などの情報は、問い合わせフォーム( http://dictionary.sanseido-publ.co.jp/support/question.html )から、「地域語の経済と社会」への質問・情報である旨を記してご投稿ください。
地域語の経済と社会 第85回
2010年 2月 6日 土曜日 筆者: 大橋 敦夫地域語の経済と社会―方言みやげ・グッズとその周辺―
第85回「もてなしの方言(長野・新潟/落穂ひろい)」
JRグループが各地の観光関係者と協力して進めている「デスティネーションキャンペーン」。2010年の今年一年は、新潟県から長野県へ、バトンが渡ってきました。昨秋から、前ぶれとしてのチラシを見かけるようになり、年が改まってからは、駅構内のPRを見ると、いよいよ力が入ってきた感じがします。
そこで、JR線の各駅をフィールドワークの対象にし、さらに地域の観光案内パンフレット等を集めてみました。
| 1 | おいでなして | 長野市 | 長野 |
| 2 | おでやれ | 長野市鬼無里 | |
| 3 | *ちょっ蔵おいらい館 | 長野市 | |
| 4 | ※歩いてみましょ | 松本市 | |
| 5 | 来てくんないね | 上越市直江津 | 新潟 |
| 6 | *キナーレ | 十日町市 |
1「おいでなして 長野」は、ながの観光コンベンションビューローが関係する催しのポスターの壁紙として、使われています。同ビューローでは、PR上、長野市内を善光寺・松代・飯綱・鬼無里・戸隠の5地域に分け、そのブランド化を進めており、2009年は、「鬼無里イヤー」にあわせ、2「おでやれ 鬼無里」をキャッチコピーにしたとのことです。
なお、長野市内には、江戸時代の商家を展示ギャラリーに利用した3「ちょっ蔵おいらい館」(長野市立博物館付属施設)があります。「ちょっとお出でください」の語呂合わせによる命名です。
また、JR松本駅にある駅スタンプを置いた机には、4「さあ、ずくだして歩いてみましょ」の標語を掲げた地図が無料配布でおかれ、松本平の方言も数語紹介されています。「ましょ」は、敬意を込めた勧誘です。(「ずく」は第5回参照)。
5「直江津の祇園祭にも来てくんないね」は、直江津地区連合青年会作成の案内パンフレットに掲げられています。
6「越後妻有交流館キナーレ」は、温泉付観光施設。十日町の方言で、この場所に来てくださいという意味の「来なされ」と、地域の特産品である着物を着てくださいという意味である「着なされ」とをかけて名づけられたそうです。
取り急ぎ第44回の落穂ひろいをしましたが、まだまだ、見つけられそうな気もします。
今年は、ぜひ信州においでなして!
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【筆者プロフィール】
言語経済学研究会 The Society for Econolinguistics
井上史雄,大橋敦夫,田中宣廣,日高貢一郎,山下暁美(五十音順)の5名。日本各地また世界各国における言語の商業的利用や拡張活用について調査分析し,言語経済学の構築と理論発展を進めている。
(言語経済学や当研究会については,このシリーズの第1回後半部をご参照ください)
大橋敦夫(おおはし・あつお)
上田女子短期大学総合文化学科教授。上智大学国文学科、同大学院国文学博士課程単位取得退学。
専攻は国語史。近代日本語の歴史に興味を持ち、「外から見た日本語」の特質をテーマに、日本語教育に取り組む。共著に『新版文章構成法』(東海大学出版会)、監修したものに『3日でわかる古典文学』(ダイヤモンド社)、『今さら聞けない! 正しい日本語の使い方【総まとめ編】』(永岡書店)がある。
【編集部から】
皆さんもどこかで見たことがあるであろう、方言の書かれた湯のみ茶碗やのれんや手ぬぐい……。方言もあまり聞かれなくなってきた(と多くの方が思っている)昨今、それらは味のあるもの、懐かしいにおいがするものとして受け取られているのではないでしょうか。
方言みやげやグッズから見えてくる、「地域語の経済と社会」とは。方言研究の第一線でご活躍中の先生方によるリレー連載の始まりです。
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地域語の経済と社会 第80回
2009年 12月 26日 土曜日 筆者: 大橋 敦夫地域語の経済と社会―方言みやげ・グッズとその周辺―
第80回「北信濃方言に親しめるお店」
そのお店は、「游学城下町」として売り出し中の長野市松代(まつしろ)町にあります。「おやき」(第40回)はもちろん、和菓子から洋菓子までを幅広く製造販売する蔦屋本店。

【かりんとう饅頭 大名のおこびれ】
その最近のヒット作が「かりんとう饅頭 大名のおこびれ」です。カリカリとした皮に、しっとり餡が包まれ、まさに絶妙の食感です。
「おこびれ」とは、おやつのことで、「こびり」とも言い、長野県内の他地域では、「こびる(小昼)」(木曽・伊那)「こびれ」(更埴・小県)と言ったりもします。漢字で、「小昼」と書くことができるように、語源のハッキリした語です。
「城下町にはおいしい和菓子(屋)がある」というセオリーをふまえ、お茶のおともにというねらいがネーミングに込められているようです。
このお店には、もう一つ、商品のほかに方言グッズがあります。それは、店員さんお手製の方言一覧(チラシ)です。
作成のねらいを伺ってみると、同じ長野県内から嫁いできたものの、日常会話の中に飛び交う方言に戸惑うこともしばしば。はてなと思う語を書き留めて、おもしろいと思われるものを一覧にし、お店で配ったところたいへん好評だったとのこと。帰省の際に、お店を訪れた松代町を離れた方にも、喜ばれたとの由。何度かのバージョンアップを重ね、今の版に至っているそうです。
地元・松代町を愛する社長さんのもと、地域の方はもとより、たくさんの観光客をおもてなしすることに努めているお店の力作2点でした。
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大橋敦夫(おおはし・あつお)
上田女子短期大学総合文化学科教授。上智大学国文学科、同大学院国文学博士課程単位取得退学。
専攻は国語史。近代日本語の歴史に興味を持ち、「外から見た日本語」の特質をテーマに、日本語教育に取り組む。共著に『新版文章構成法』(東海大学出版会)、監修したものに『3日でわかる古典文学』(ダイヤモンド社)、『今さら聞けない! 正しい日本語の使い方【総まとめ編】』(永岡書店)がある。
【編集部から】
皆さんもどこかで見たことがあるであろう、方言の書かれた湯のみ茶碗やのれんや手ぬぐい……。方言もあまり聞かれなくなってきた(と多くの方が思っている)昨今、それらは味のあるもの、懐かしいにおいがするものとして受け取られているのではないでしょうか。
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地域語の経済と社会 第75回
2009年 11月 21日 土曜日 筆者: 大橋 敦夫地域語の経済と社会―方言みやげ・グッズとその周辺―
第75回「信州・松本に、えべや!」

【スポーツプラザ ヤマトヤ】
その看板とロゴは、松本市内の老舗スポーツ用品店「スポーツプラザ ヤマトヤ」(松本市大手)の一角を占めています。
「えべや」は、「えぶ・えーぶ[=歩く]」の命令形に「や」がついたもので、「(歩いて)行こう」といった意味合いになります。この「や」は第15回で取り上げた「遊べや」の「や」と同じです。同じ音にかけて、この「や」の部分を「家」と表記しているのは、人が集まるお店を意図してのことだそうです。

【えべ家のロゴ】
また、ロゴが歩く人をイメージしているのも、ウォーキングシューズを扱うお店ならではの凝った部分です。
お店のご主人のお話では、先代が松本市の北方、安曇野のご出身で、よく「えんでく[=歩いて行く]」という語を使っていたとの由。地元への愛着をこめて、方言による命名とロゴの一工夫をされたとのことでした。
ちなみに、「えぶ・えーぶ」の語源をたずねると、「あゆむ(=一歩一歩の足取り。馬や人が一歩一歩足を運んでいく意)」にたどり着き、その変化の過程は、「あゆむ→あゆぶ・あよぶ→あいぶ・あえぶ→えーぶ」となります。第71回に登場の「あいべ[=(いっしょに)行こう]」と同類ですね。
お店でオススメのシューズを履いて城下町の散策に出ると、軽やかで何かいいことがありそうな気がしてきます。
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大橋敦夫(おおはし・あつお)
上田女子短期大学総合文化学科教授。上智大学国文学科、同大学院国文学博士課程単位取得退学。
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地域語の経済と社会 第70回
2009年 10月 17日 土曜日 筆者: 大橋 敦夫地域語の経済と社会―方言みやげ・グッズとその周辺―
第70回「地域で愛されている「方言手ぬぐい」」
上越観光物産センター(新潟県上越市)で
一昨年のGACKT謙信に続いて、今年は妻夫木兼続で熱く燃えている上越。その熱気に誘われ、当地を訪れ、例によってお土産品を物色していると……。ありました! 方言グッズの元祖「方言手ぬぐい」が。
「越後高田方言同友会」謹製の方言手ぬぐい
この手ぬぐいの製作に関わられ、現在も販売を続けていらっしゃる小川祐右氏(小川呉服店/上越市南本町)にお話を伺いました。それによると、この手ぬぐいは、25年前に、高田東ロータリークラブ20周年の記念引き出物として作られたのだそうです。選者10名くらいで、数の多い言葉から順位を決めたとのこと。
残念ながら、現在は「越後高田方言同友会」の活動は行われていないそうですが、手ぬぐいの息は長く、法事の引き出物・同期会の手土産として求められているとのことでした。
信州の「海」、上越海岸
山に囲まれた地域に住む信州人にとって、海はあこがれの行楽地。夏場を中心に長野ナンバー・松本ナンバーの車が上越地域を行き交います。
長野市を中心とする北信地方の方ならば、番付を見て「ああ、これなら知ってる」という語も、「オマン・セウ・ズル・バラコクタイ」など、3分の1くらいあるのでは?
旅行者の立ち寄るセンターのお土産としては、方言グッズ愛好家にはもちろんのこと、広く信州人にも受けそうな気がします。
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大橋敦夫(おおはし・あつお)
上田女子短期大学総合文化学科教授。上智大学国文学科、同大学院国文学博士課程単位取得退学。
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【編集部から】
皆さんもどこかで見たことがあるであろう、方言の書かれた湯のみ茶碗やのれんや手ぬぐい……。方言もあまり聞かれなくなってきた(と多くの方が思っている)昨今、それらは味のあるもの、懐かしいにおいがするものとして受け取られているのではないでしょうか。
方言みやげやグッズから見えてくる、「地域語の経済と社会」とは。方言研究の第一線でご活躍中の先生方によるリレー連載の始まりです。
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地域語の経済と社会 第65回
2009年 9月 12日 土曜日 筆者: 大橋 敦夫地域語の経済と社会―方言みやげ・グッズとその周辺―
第65回「「に」の王国・南信州」

【うまいんだに】
やさしい南信の方言
南北に長い長野県では、方言も南信(飯田市・伊那市を中心とする地域)と北信(長野市を中心とする地域)とで、その雰囲気も違う面があります。一般的な印象では、北信の方言に比べて、南信の物言いは、やさしいと評されます。その理由を探っていくと、文末の「に」の使用があげられます。
「に」の効用
「に」は、文末にあって軽い敬意と親愛の気持ちをこめて余情を含む確認を表します。
初対面でも、この「に」を使って話しかけられると、気持ちが和らぐのを感じます。
「に」の実例
地元の方も、この効用にお気づきのようで、伊那谷と称される南信地域には、「に」を全面に押し出した看板や商品が見いだされます。
まず、松川町の町営保養施設・清流苑の男性トイレの壁には、次のような注意書きが掲げられています。
お便所の心得
飯田弁
◎いきれてすると、あっちこっちにとびちるに 「いきれる」=いきり立つ ◎べったりに、おつゆをこぼしちゃいかんに ◎服につくと、びしょったいで 気ーつけないよ 「びしょったい」=汚い ◎やたらと便器へものを、びちゃっちゃいかんに 「びちゃる」=捨てる ◎用をたしたら、けっこにしてかえるんだに 「けっこ」=きれい ◎せんしょに、となりを見ちゃいかんに 「せんしょ」=物好き ◎息子がしとなっとる時は、体の向きに気ーつけないよ 「しとなる」=成長する
飯田弁はわからずとも、心得を読みながら、現在の状況をふまえると、その意味するところは、ようく理解できます。
さらに南へ足を伸ばして、飯田市内に入ると、みなみ信州農業協同組合の掲げた大看板「うまいに!」(きのこの宣伝、飯田インター付近)が目につきます。
続いて、市内の土産物店には、これまた、みなみ信州農業協同組合の特産品「うまいんだに」(紅茶)が並びます。地元農協の特産品だけあって、独特の香りの逸品です。ペットボトルも商品化されているのですが、今夏は霜にあって茶葉のみになりそうだとか。今年の「うまいんだに」は、貴重品だに!
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地域語の経済と社会 第60回
2009年 8月 8日 土曜日 筆者: 大橋 敦夫地域語の経済と社会―方言みやげ・グッズとその周辺―
第60回「共通語に訳しにくい方言でコマーシャル」
1970年代、ドリンク剤のテレビコマーシャルで用いられたキーワード「ちかれたびー」。ヒットCMともなったこのコマーシャルは、今日の方言をたのしむ気運のさきがけとも評価できるでしょう。ヒットの背景には、共通語にしてしまうと、抜け落ちてしまう微妙なニュアンスがあることをわかりやすく表現し、そこに方言に対する共感が集まったこともあると思われます。
先日、地元のJR小海線に乗っていたところ、車内広告に「ちかれたびー」の系譜につらなる例を見つけました。
「ごしたいは、こわい?」をキャッチコピーとして、地元の方ならわかる「ごしたい[=疲れた]」をもとに、他地域の類義の方言「こわい」をかけて説明が続きます。長野県内では、他に疲れた時に「てきない」も使いますが、南部の方が主となります。
「ごしたい」によって、PRされているのは、健康補助食品で、感情を表現する形容詞の方言を用いて訴えている点に工夫が見られます。
製品の製造元である王子木材緑化株式会社によると、この「お国ことば中吊り広告」は、次の4種作成されたそうです。
①「ごしたいは、こわい?」……JR小海線
②「こわいは、えらい?」……JR日光線
③「かいだりいは、こわい?」……JR名松線
④「きつかーは、えらい?」……筑豊電気鉄道
お近くの方、ぜひ車内でもご覧ください。列車にゆられながら、広告をながめていると、健康への気づかいが必要だとしみじみ感じられてきます。
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方言みやげやグッズから見えてくる、「地域語の経済と社会」とは。方言研究の第一線でご活躍中の先生方によるリレー連載の始まりです。
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地域語の経済と社会 第55回
2009年 7月 4日 土曜日 筆者: 大橋 敦夫地域語の経済と社会―方言みやげ・グッズとその周辺―
第55回「信州人の好きなことば―『ずく』をめぐって―」(その2)

【即席みそ汁「ずくいらず」】
インスタント食品の種類が豊富で、その味も本格的なものが増えている現代の生活。
手間ひまかけずに本物の味わいが楽しめる様子を、ひと言で表現した商品が、今回ご紹介する「ずくいらず」(即席みそ汁)です。
PR用のチラシには、次のような宣伝文が載っています。
器に入れ、お湯をそそぐだけで本格的なみそ汁が味わえると大好評の「ずくいらず」。(【ずく】とは、信州の代表的な方言で「根気」や「やる気」を意味します。)
具材は、とき玉・エリンギ・甘えびの3種。地元の山の幸(信州生まれのエリンギと数種のきのこ)とともに、信州人あこがれの海の幸(甘えび)が選ばれており、飽きのこない選択が可能です。肝心の味噌は、老舗として有名な製造元ご自慢のものが使用され、上品な味わいに仕上がっています。
まさにお味噌屋さんの作ったお味噌汁として、信頼のおける商品です。
ところで、ネーミングに使われた「ずく」ですが、ふだんの会話では、「ずくを出せ[=やる気を出せ]」のように使われることが多く、「ずくなし[=無精者]」と非難されないようにお互いに気づかいをしています。
信州を代表する方言といっていい語ですが、市町村誌の類を見ると、当事者はそれぞれ、違った意味づけをしていることがわかります。
市町村誌に見る「ずくなし」の語釈
①労働をいとう人・骨惜しみ・怠け者
【北信】上水内郡誌・下水内郡誌・信州新町誌・松代町史・浅川村郷土誌など
【東信】北佐久郡志・南佐久郡志・小海町誌・川上村誌など
【中信】小谷村誌・東筑摩/松本市/塩尻市誌・伊那市誌
【南信】南信濃村遠山・大鹿村誌
②寒がり
【北信】長沼村誌(長野市)
③勇気がない
【北信】とよさか誌(松代町)
つねになれ親しんでいる語も、このような意味の広がりがあることを知ると、新鮮に感じられます。
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地域語の経済と社会 第50回
2009年 5月 30日 土曜日 筆者: 大橋 敦夫地域語の経済と社会―方言みやげ・グッズとその周辺―
第50回「信州弁をあしらった紙袋」
しなの鉄道の屋代(やしろ)駅に降り立ち、駅を背にして歩を進めると、きれいな商店が軒を連ねています。その一角を占める「屋代西沢書店」でお買い物をすると、ほのぼのとした味わいを持つ版画と方言が印刷されたオリジナルの紙袋【写真1】に商品を入れてもらえます。
版画に添えられた方言を、あらためて見てみましょう。
「ぎんだれ猫・へっつい猫」=[かまどのそばをうろうろしている寒がり屋のネコ 目やにを出したうすぎたないネコ]
「本屋で本買わず」=[本屋で本を買おう]
「月みにいかず 花みにいかず」=[月を見に行こう、花を見に行こう]
「づくなし づくだせ」=[無精者め やる気を出せ]
「おらやだ われいけ」=[俺はいやだ お前行け]
「もうらしこんだし」=[かわいそうなことだなあ]
「おじょここくな」=[生意気なことを言うな]
版画の作者は、地元・千曲(ちくま)市出身の「板画家」森貘郎(もり・ばくろう)氏です。地元の方言をこよなく愛する森氏には、『オラホの憲法9条』(川辺書林〈長野市〉 2005.5)という作品もあります。ページをめくると作品に添えられている条文は、
この国の人間(もん)は、これっきし
なにが あらずが よその国と 戦争
やったり よその国の 人間(もん)を
殺したり しねだしど。
屋代西沢書店の明るい店内を見回すと、森氏の著作はもちろん、郷土出版物が充実していることがわかります。『ちょうま』『屋代』といった郷土雑誌のバックナンバーも手に取って見ることができ、郷土を愛する好学の風土がしのばれます。今回ご紹介の紙袋は、そうした文化活動を支援するお店ならではのオリジナル袋と言えるでしょう。
惜しいことには、在庫が少なくなっているとのこと(貴重な一枚を、今回いただいてしまいました)。
森氏のファンと信州弁の愛好者は、屋代西沢書店へ急ぎましょう。
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【筆者プロフィール】
言語経済学研究会 The Society for Econolinguistics
井上史雄,大橋敦夫,田中宣廣,日高貢一郎,山下暁美(五十音順)の5名。日本各地また世界各国における言語の商業的利用や拡張活用について調査分析し,言語経済学の構築と理論発展を進めている。
(言語経済学や当研究会については,このシリーズの第1回後半部をご参照ください)
大橋敦夫(おおはし・あつお)
上田女子短期大学総合文化学科教授。上智大学国文学科、同大学院国文学博士課程単位取得退学。
専攻は国語史。近代日本語の歴史に興味を持ち、「外から見た日本語」の特質をテーマに、日本語教育に取り組む。共著に『新版文章構成法』(東海大学出版会)、監修したものに『3日でわかる古典文学』(ダイヤモンド社)、『今さら聞けない! 正しい日本語の使い方【総まとめ編】』(永岡書店)がある。
【編集部から】
皆さんもどこかで見たことがあるであろう、方言の書かれた湯のみ茶碗やのれんや手ぬぐい……。方言もあまり聞かれなくなってきた(と多くの方が思っている)昨今、それらは味のあるもの、懐かしいにおいがするものとして受け取られているのではないでしょうか。
方言みやげやグッズから見えてくる、「地域語の経済と社会」とは。方言研究の第一線でご活躍中の先生方によるリレー連載の始まりです。
この連載への質問、また「ここでこんな方言みやげ・グッズを見た」などの情報は、問い合わせフォーム( http://dictionary.sanseido-publ.co.jp/support/question.html )から、「地域語の経済と社会」への質問・情報である旨を記してご投稿ください。
地域語の経済と社会 第45回
2009年 4月 25日 土曜日 筆者: 大橋 敦夫地域語の経済と社会―方言みやげ・グッズとその周辺―
第45回「お隣さんの方言の流入―「じょんのび」を例に―」


【居酒屋「じょんのび」】
長野市内に、「じょんのび」(新潟方言で[気分ののんびりゆったりしたさまや、ゆったりした気分]の意)という名前の居酒屋さんがあります。
新潟県上越出身のご主人が営むお店は、明るい雰囲気で、おいしい肴と新潟の地酒をいただくことができます。のんびりとくつろげる店内は、まさに「じょんのび」の名にふさわしいものです。しめの「長岡ラーメン」も、新潟の気分を盛り上げてくれます。
ところで、信州になぜ新潟の方言が?と思われるかもしれません。が、もともと上越地域と交流の深い長野県の北部(北信地方)では、新潟とほぼ同じように「じょんのび」を使う地域(とくに飯山以北)もあり、なじみやすい表現でもあるのです。
2004年には、JR飯山線(長野市内と新潟県の越後川口を結ぶ)を、「快速飯山線じょんのび風っ子号」が走りました(長野駅~十日町駅間)。また、現在はなくなってしまいましたが、飯山市内で「じょんのび祭り」という市民祭が行われていたこともありました。
新刊の『方言と地図』(井上史雄監修 フレーベル館 2009.2)は、「おもわず声に出したくなる47都道府県のじまんの方言」がキャッチフレーズですが、長野県のページに「じょんのびだ(楽だ)」、新潟県のページにも「じょんのび してくんないかい(ゆっくりしてくださいね)」が取り上げられています。
ここで、「じょんのび」の本家・新潟県内に目を向けてみると、事業所にその名を冠する所が数か所見つかります。
新潟市
じょんのび館……食堂の経営
柏崎市
じょんのび村協会……温泉施設の経営
糸魚川市
じょんのび……グループホームなどの名(ハローページより)
そういえばかつて、90年代にはやった大手メーカーによる、いわゆる「ご当地」ビールでも、新潟県限定ビールは、「じょんのび」(キリン)の名で売られていました。また、長岡出身の女優星野知子さんが、地元紙の新潟日報に連載されたエッセイも「じょんのび」を冠したものでしたね。
お隣さんの方言の流入では、松本市に「やっとかめ」(名古屋方言で[お久しぶり]の意)という居酒屋さんがあり、北信の「じょんのび」と好一対です。
ところで、長野県外に「出ていった」方言には、どんな語があるのだろうか、という興味がわいてきます。
(今回は「年齢確認の必要な」例が多く、失礼をいたしました。)
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【筆者プロフィール】
言語経済学研究会 The Society for Econolinguistics
井上史雄,大橋敦夫,田中宣廣,日高貢一郎,山下暁美(五十音順)の5名。日本各地また世界各国における言語の商業的利用や拡張活用について調査分析し,言語経済学の構築と理論発展を進めている。
(言語経済学や当研究会については,このシリーズの第1回後半部をご参照ください)
大橋敦夫(おおはし・あつお)
上田女子短期大学総合文化学科教授。上智大学国文学科、同大学院国文学博士課程単位取得退学。
専攻は国語史。近代日本語の歴史に興味を持ち、「外から見た日本語」の特質をテーマに、日本語教育に取り組む。共著に『新版文章構成法』(東海大学出版会)、監修したものに『3日でわかる古典文学』(ダイヤモンド社)、『今さら聞けない! 正しい日本語の使い方【総まとめ編】』(永岡書店)がある。
【編集部から】
皆さんもどこかで見たことがあるであろう、方言の書かれた湯のみ茶碗やのれんや手ぬぐい……。方言もあまり聞かれなくなってきた(と多くの方が思っている)昨今、それらは味のあるもの、懐かしいにおいがするものとして受け取られているのではないでしょうか。
方言みやげやグッズから見えてくる、「地域語の経済と社会」とは。方言研究の第一線でご活躍中の先生方によるリレー連載の始まりです。
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2007年









