著者ごとのアーカイブ

三省堂辞書の歩み センチュリー英和辞典

2015年 9月 16日 水曜日 筆者: 境田 稔信

三省堂辞書の歩み 第44回

センチュリー英和辞典

昭和8年(1933)2月5日刊行
三省堂編輯所編/本文1606頁/三六判変形(縦191mm)

センチュリー英和辞典 skid_44_a_s.png
左:【センチュリー英和辞典】25版(昭和9年)
右:【本文1ページめ】(クリックで拡大)

 本書は、昭和3年刊行の『三省堂英和大辞典』より本文は1000頁ほど少なく、大正8年刊行の『模範新英和大辞典』に近い規模の辞典である。サイズは昭和4年刊行の『新訳和英辞典』(本文1502頁)にほぼ等しい。

 内容は、『三省堂英和大辞典』をもとに簡約化しているが、意味分類や用例などに手を入れ、分かりやすくなっている。例えば、「猫」の意味分類は9つから5つに減り、「犬」のほうは9つから8つとなった。熟語(慣用句)は、「猫」が33から17に、「犬」は29から15に減った。

 しかし、単純に減らしただけではなく、語釈に「備考」を設けたり、新たな熟語を加えたりもしている。また、動物の鳴き声、花ことばや宝石の石ことば(玉詞)が英語で掲げられた。

 発音記号は、三省堂の大型辞典として初めて国際音声記号(ジョーンズ式)を採用。語釈は、従来どおりカタカナ交じり文で表記されていて、外来語は平仮名にしている。

 付録には、「固有名一覧」30頁、「動詞ノ語形変化」7頁、「名詞ノ語形変化」3頁、「形容詞及副詞ノ比較」4頁、「常用略語解」12頁がある。

 定価は3円50銭、普及定価は2円だった。『三省堂英和大辞典』の定価7円、特価5円50銭に比べると、かなり割安な印象である。

 なお、「センチュリー」といえば、アメリカの『センチュリー辞典』(1889~91年、12巻)がある。イギリスの『オックスフォード英語辞典』(1884~1928、12巻)が完成するまでは、世界最大の英語辞典だった。書名の関連性について、序文では触れられていないが、当然知っていたうえで「センチュリー」を用いたものと思われる。

●最終項目(画像はクリックで拡大)

●「猫」の項目(画像はクリックで拡大)

●「犬」の項目(画像はクリックで拡大)

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【筆者プロフィール】

境田稔信(さかいだ・としのぶ)

1959年千葉県生まれ。辞書研究家、フリー校正者、日本エディタースクール講師。
共著・共編に『明治期国語辞書大系』(大空社、1997~)、『タイポグラフィの基礎』(誠文堂新光社、2010)がある。

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【編集部から】

2011年11月、三省堂創業130周年を記念し三省堂書店神保町本店にて開催した「三省堂 近代辞書の歴史展」では、たくさんの方からご来場いただきましたこと、企画に関わった側としてお礼申し上げます。期間限定、東京のみの開催でしたので、いらっしゃることができなかった方も多かったのではと思います。また、ご紹介できなかったものもございます。
そこで、このたび、三省堂の辞書の歩みをウェブ上でご覧いただく連載を始めることとしました。
ご執筆は、この方しかいません。
境田稔信さんから、毎月1冊(または1セット)ずつご紹介いただきます。
現在、実物を確認することが難しい資料のため、本文から、最終項目と「猫」「犬」の項目(これらの項目がないものの場合は、適宜別の項目)を引用していただくとともに、ウェブ上で本文を見ることができるものには、できるだけリンクを示すこととしました。辞書の世界をぜひお楽しみください。
毎月第2または第3水曜日の公開を予定しております。

三省堂辞書の歩み 婦人家庭百科辞典

2015年 8月 19日 水曜日 筆者: 境田 稔信

三省堂辞書の歩み 第43回

婦人家庭百科辞典

昭和12年(1937)4月20日刊行
三省堂百科辞書編輯部(代表者斎藤精輔)/本文1614頁/菊判(縦224mm)

コンサイス独和辞典
左:【婦人家庭百科辞典】初版(昭和12年)
右:【本文1ページめ】(クリックで拡大)

内容見本の表紙・裏表紙(クリックで拡大)

 本書は、昭和9年刊行の『新修百科辞典』『学習百科辞典』に続く、百科事典の三部作として出版された。一般的な項目はもちろん、家庭生活のうえで必要な衣食住に関する事項に重点を置き、育児・衛生・療病・美容・趣味・礼儀・娯楽などの常識を備えるための事典となっている。

 内容見本には「七大特色」として、「一巻で完結していること」「内容が頗る豊富なること」「検索が格別容易なること」「内容に責任が持てること」「図版が誠に重宝であること」「索引が完備していること」「製本印刷が優美なること」が挙がっている。

 書名に「家庭」を使った百科事典は、冨山房の『日本家庭百科事彙』(明治39年)、『日本家庭大百科事彙』(4巻、昭和2~6年)があった。また、女性を対象にしたものは、婦女界社から『家庭百科重宝辞典』(昭和8年)が出ていた。これは月刊誌「婦女界」の附録になった6分冊を1冊にまとめたものである。

 本書の見出し方式は『新修百科辞典』と同様で、発音式仮名遣いに歴史的仮名遣いをカタカナで小さく添え、長音符号の「ー」は読まない。解説文は、重要度に応じて大小の活字を使い分け、詳説を加える場合も小活字を用いた。また、振り仮名を多めに付け、小活字の場合は括弧内にカタカナで読み仮名を入れている。

 項目ごとに執筆者名があり、『日本百科大辞典』(明治41年~大正8年)を思わせる形式である。解説が詳しくなったり衣食住に関する項目が増えたりしたためか、あまり百科的ではない「辞書」「辞典」のような項目は載せない傾向にある。

 「味の素」の解説は『新修百科辞典』よりも詳しく書いてあり、さらに「特長」という詳説が付いている。以下に、『婦人家庭百科辞典』と『日本家庭大百科事彙』の「味の素」の解説を比較しよう(『家庭百科重宝辞典』には項目がない)。

『婦人家庭百科辞典』
調味料の一種。小麦粉・大豆その他の蛋白質を分解してつくった白色の結晶で、主成分はグルタミン酸ナトリウム塩である。明治四十一年池田菊苗博士が昆布の味を研究し、アミノ酸の一種のグルタミン酸塩類が昆布の美味の根源であることを知り、蛋白質を分解してグルタミン酸曹達をつくることに成功してできたもので、故鈴木三郎が右発明を工業的に実施し、世に供給し始めた。(詳説の「特長」は省略)

『日本家庭大百科事彙』
池田菊苗博士が昆布の味を研究してアミノ酸の一種グルタミン酸を含むことを知り、その結果発明した一種の調味料で、小麦粉からグルテン(麩素)を分離して塩酸で加水分解した後アルカリで中和すれば得られる個体である。化学上の成分はグルタミン酸のナトリウム塩である。グルタミン酸塩は我々に甘い味覚を起させるもので調味料としての生命はこの点にある。(詳説の「味の素の用ひ方」は省略)

 本文途中にある写真やカラー彩色図版は、『新修百科辞典』より2点多い71点が挟み込まれている。犬の写真は15点あって、『図解現代百科辞典』(昭和6~8年)の21点よりは少ないが、『新修百科辞典』の8点から大幅に増えた。本文のページ数は500頁ほど減ったものの、39頁にわたる索引が付き、定価10円、特価7円は同じである。

 なお、本書は2005年に筑摩書房(ちくま学芸文庫)から復刻本が刊行された。

●最終項目(画像はクリックで拡大)

●「猫」の項目(画像はクリックで拡大)

●「犬」の項目(画像はクリックで拡大)

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【筆者プロフィール】

境田稔信(さかいだ・としのぶ)

1959年千葉県生まれ。辞書研究家、フリー校正者、日本エディタースクール講師。
共著・共編に『明治期国語辞書大系』(大空社、1997~)、『タイポグラフィの基礎』(誠文堂新光社、2010)がある。

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【編集部から】

2011年11月、三省堂創業130周年を記念し三省堂書店神保町本店にて開催した「三省堂 近代辞書の歴史展」では、たくさんの方からご来場いただきましたこと、企画に関わった側としてお礼申し上げます。期間限定、東京のみの開催でしたので、いらっしゃることができなかった方も多かったのではと思います。また、ご紹介できなかったものもございます。
そこで、このたび、三省堂の辞書の歩みをウェブ上でご覧いただく連載を始めることとしました。
ご執筆は、この方しかいません。
境田稔信さんから、毎月1冊(または1セット)ずつご紹介いただきます。
現在、実物を確認することが難しい資料のため、本文から、最終項目と「猫」「犬」の項目(これらの項目がないものの場合は、適宜別の項目)を引用していただくとともに、ウェブ上で本文を見ることができるものには、できるだけリンクを示すこととしました。辞書の世界をぜひお楽しみください。
毎月第2または第3水曜日の公開を予定しております。

三省堂辞書の歩み 常用漢字新辞典

2015年 7月 15日 水曜日 筆者: 境田 稔信

三省堂辞書の歩み 第42回

常用漢字新辞典

昭和7年(1932)7月5日刊行
三省堂編輯所編/本文227頁/三五判変形(縦138mm)

コンサイス独和辞典
左:【常用漢字新辞典】5版(昭和7年)
右:【本文1ページめ】(クリックで拡大)

 本書は、大正12年(1923)刊行の『常用漢字の字引』を元にした改訂版である。前著は常用漢字1962字+常用略字154字=計2116字だったが、常用漢字1858字+略字155字=計2013字になった。今回の常用漢字は、臨時国語調査会による昭和6年6月発表の「常用漢字表(修正)」に基づいている。

 本文の漢字の配列は総画数順で、同画数内は『康熙字典』の部首順。巻頭に部首順の「常用漢字の表」を掲載している。巻末には「発音索引」があり、ほかに「部首の順序」「部首の名称」「字音仮名遣一覧」があるのも変わりない。

 前著と同様に、音が複数ある場合にのみ「読例」として熟語を載せ、それ以外に熟語は掲載していない。また、各漢字の草書体も載せているが、筆書きのような字形からペン字になった。

 大きな変化は、上製本から並製本になったことである。定価は50銭から20銭になり、いっそう購入しやすくなった。

 本文では、表記の変更や字義の追加などをしている。例えば「一」の8番目では、「ことばのうへにおいてそのいみをつよめる字」から「ことばの上(ウヘ)においてその意味(イミ)をつよめる字」となった。

 また、「乙」に3番目の字義「気(キ)のきいてゐること」が加わった。なお、「気」には略字が使われていて、現行の新字体とは異なる「气+ノ」である。現在、この字体を載せている漢和辞典は、ほとんどない(『新潮日本語漢字辞典』には掲載)。

 「丁」では、「一 テイ」の字義の最初に「干(カン)の第四(ダイシ)。ひのと」が加わっている。十干(じっかん)の4番目ということだ。当時は、成績評価などに「甲・乙・丙・丁」が使われていた。

 ちなみに、干支(えと)は「十干」(甲乙丙丁戊己庚辛壬癸)と「十二支」(子丑寅卯辰巳午未申酉戌亥)の組み合わせによって60通りがある。大正13年(1924)は「甲子」(きのえね)にあたり、阪神甲子園球場が竣工された年だった。最初の「甲」と「子」の組み合わせが再び現れるのは61回目だから、「還暦」とは数え年で61歳のことである。阪神タイガースの初優勝は、甲子園球場ができて62年目の1985年、乙丑(きのとうし)だった。

●最終項目(画像はクリックで拡大)

●「猫」の項目(画像はクリックで拡大)

●「犬」の項目(画像はクリックで拡大)

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境田稔信(さかいだ・としのぶ)

1959年千葉県生まれ。辞書研究家、フリー校正者、日本エディタースクール講師。
共著・共編に『明治期国語辞書大系』(大空社、1997~)、『タイポグラフィの基礎』(誠文堂新光社、2010)がある。

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三省堂辞書の歩み コンサイス独和辞典

2015年 6月 17日 水曜日 筆者: 境田 稔信

三省堂辞書の歩み 第41回

コンサイス独和辞典

昭和11年(1936)4月5日刊行
山岸光宣編/本文1148頁/三五判変形(縦152mm)

コンサイス独和辞典
左:【コンサイス独和辞典】210版(昭和16年)
右:【本文1ページめ】(クリックで拡大)

 本書は三省堂における3冊目の独和辞典で、『大正独和辞典』(大正元年・1912)から24年ぶりの新刊だった。

 前著まで、ドイツ語にはドイツ文字(亀の甲文字)が使われていたが、本書にはラテン文字しか使われていない。語釈の漢字カタカナ交じり文は変わらず、外来語は「もんたーぢゅ」というふうに平仮名書きだった。「狼狽ス」「狼狽セル」といった文語形も多い。難読語における括弧に入れた2行の読み仮名は、まだ縦書きのままである。

 新たな点は、万国音標文字で発音を表示したことだ。独和辞典では、昭和2年の『最新独和辞典』(有朋堂書店)が最初に採用した。三省堂の英和辞典では、『袖珍コンサイス英和辞典』(大正11年・1922)から採用されていた。

 収録語彙は、社会科学・自然科学・軍事などの現代語や新語を豊富に採用し、重要な地名・人名も収録している。「コンサイス」とはいえ、「我ガ国ノ如何ナル既刊大辞典ヲモ凌駕シテヰルコトハ断言シテ憚ラナイ」と緒言にある。専門用語については80あまりの分野別に略語を記し、その数は『大正独和辞典』より倍増した。

 編者の山岸光宣(1879~1943)は東京帝国大学独文科を卒業し、早稲田大学で教鞭を執った。戯曲などのドイツ文学に造詣が深く、ドイツ学研究の第一人者である。

 昭和16年に出版物の配給業務が一元化され、その影響で総羊革製だった本書の装丁は擬革になった。しかし、定価は3円90銭のままである。昭和19年3月に発行された212版(4円50銭)の奥付には「100,000部」の記載があるから、戦時中にもかかわらず、売れ行きは好調だったようだ。

●最終項目(画像はクリックで拡大)

●「猫」の項目(画像はクリックで拡大)

●「犬」の項目(画像はクリックで拡大)

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境田稔信(さかいだ・としのぶ)

1959年千葉県生まれ。辞書研究家、フリー校正者、日本エディタースクール講師。
共著・共編に『明治期国語辞書大系』(大空社、1997~)、『タイポグラフィの基礎』(誠文堂新光社、2010)がある。

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三省堂辞書の歩み 学習百科辞典

2015年 5月 13日 水曜日 筆者: 境田 稔信

三省堂辞書の歩み 第40回

学習百科辞典

昭和9年(1934)9月15日刊行
三省堂百科辞書編輯部/本文1526頁/菊判(縦222mm)

学習百科辞典
左:【学習百科辞典】13版(昭和9年)
右:【本文1ページめ】(クリックで拡大)

 本書は、『新修百科辞典』(昭和9年)刊行の半年後に出版された。主な対象を小学校上級生とし、実業補習や中等諸学校初級も含め、一般国民の常識を養う目的で編集されている。

 見出しは、『図解現代百科辞典』(昭和6~8年)と同様、すべてカタカナである。また、発音式の仮名遣いとし、歴史的仮名遣いを小さく添え、長音符号「ー」は読まない配列も同じだった。

 解説文には振り仮名が多く付けられ、総ルビに近い。文語体ではなく口語体で書かれ、序文では「くだけた書きかた」としているが、「かみ砕いた書き方」ということだろう。

 例えば「味の素」は、以下のようになっている。

『新修百科辞典』
調味料の一種。小麦粉の麩素から製造したもので、主成分はグルタミン酸ナトリウム塩である。池田菊苗博士が昆布の味を研究して、其美味の根源がアミノ酸の一種グルタミン酸であることを知って発明したもの。

『学習百科辞典』
調味料の一種。小麦粉の蛋白質を分解して造った白色の粉で、よく湯水に溶け、ごく少量でも食物の風味を増す。

 なお、『図解現代百科辞典』では「辞典」がなく「辞書」の項目のみだった。『新修百科辞典』では「辞典」を空見出しにして「辞書」の項目に詳しく書かれている。本書では「辞書」の項目がなく「辞典」だけ、といった変遷も興味深い。

 本文の途中には、アート紙による写真やカラー彩色図版が48点挟み込まれている。『新修百科大辞典』より点数は減ったが、猫は写真がない代わりに図版が載り、犬の写真は8点から28点に増え、『図解現代百科辞典』の21点より多い。

 本書の定価は3円50銭で、特価3円だった。昭和14年の121版からは増補版として47頁分の補遺が追加され、定価4円80銭、特価3円90銭になった。

●最終項目

ワンリュウ〔湾流〕 「メキシコ湾流」に同じ。その項を見よ。

●「猫」の項目(画像はクリックで拡大)

●「犬」の項目(画像はクリックで拡大)

◆辞書の本文をご覧になる方は

近代デジタルライブラリー『学習百科辞典』のページへ

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境田稔信(さかいだ・としのぶ)

1959年千葉県生まれ。辞書研究家、フリー校正者、日本エディタースクール講師。
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三省堂辞書の歩み 新修百科辞典

2015年 4月 15日 水曜日 筆者: 境田 稔信

三省堂辞書の歩み 第39回

新修百科辞典

昭和9年(1934)3月20日刊行
三省堂百科辞書編輯部(代表者斎藤精輔)/本文2132頁/菊判(縦222mm)

新修百科辞典
左:【新修百科辞典】24版(昭和11年)
右:【本文1ページめ】(クリックで拡大)

 本書は、『図解現代百科辞典』(昭和6~8年)刊行の1年後に出版された、1冊ものの百科事典である。

 序文によると、「繁に流れず簡に失せず、いかなる場合も当座即刻に、手に取るやうに世人の諮問に応ずる手頃の辞典」で、しかも価格が安く何人にも得やすいものであることを意図していた。

 『図解現代百科辞典』を基に作られているため、内容の多くを流用し、時には項目を増やしたり、内容を書き換え、写真や図を新たなものに変更したりもしている。「猫」「犬」の項目は、解説文に変化なく、猫は写真がなくなり、犬の写真は21点から8点に減った。

 見出しは、『図解現代百科辞典』と同様に発音式の仮名遣いで、歴史的仮名遣いを小さく添え、長音符号「ー」は読まない。外来語のみをカタカナとした点が異なっている。

 本文の途中には、アート紙による写真やカラー彩色図版が69点挟み込まれている。これは『日本百科大辞典』(明治41年~大正8年)と同じ方式である。

 三省堂は、百科事典においても着々と地歩を固めつつあったが、同年4月10日に博文館から『新修百科大辞典』が刊行された。この『新修百科大辞典』は刊行日も近く、書名も大きさも似ていたので紛らわしかった。

 本書は定価10円で、5月15日まで特価7円と内容見本にある。しかし、『新修百科大辞典』(本文1494頁)が定価8円50銭だったせいか、その後も本の奥付に特価7円と載っていた。ページ数が多いだけではなく、天金・背革の装丁だっただけに、不利になったかもしれない。昭和13年の61版からは増補版として41頁分の補遺が追加され、天金・背革ではなくなり、特価8円になった。

 なお、博文館は昭和10年2月に新村出編『辞苑』(定価4円50銭、特価3円20銭)を刊行した。そのため、昭和9年3月刊行の『広辞林』新訂版も、定価4円80銭、特価3円90銭だったのを特価2円90銭にすることで対抗したのだった。

●最終項目

わんりょくそうば(腕力相場) 人為的につくられた相場。有力筋が単に市場での売買だけで生ぜしめた相場で、売叩き、買占めなどは是。

●「猫」の項目(画像はクリックで拡大)

●「犬」の項目(画像はクリックで拡大)

◆辞書の本文をご覧になる方は

新修百科辞典:

近代デジタルライブラリー『新修百科辞典』のページへ

新修百科辞典 増補版:

近代デジタルライブラリー『新修百科辞典』増補版のページへ

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境田稔信(さかいだ・としのぶ)

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三省堂辞書の歩み 新漢和大字典

2015年 3月 18日 水曜日 筆者: 境田 稔信

三省堂辞書の歩み 第38回

新漢和大字典

昭和7年(1932)2月6日刊行
宇野哲人編/本文1743頁/四六判変形(縦191mm)

新漢和大字典a_s.png
左:【新漢和大字典】32版(昭和11年)
右:【本文1ページめ】(クリックで拡大)

 本書は、昭和2年(1927)刊行の『明解漢和辞典』と同じく、宇野哲人が編者である。収録親字数は9111。字源の説明はないが、親字数も熟語数も増え、出典・用例もある。

 前著と同様に呉音・漢音・唐音の表示はなく、音がふたつ並んでいるときは右が漢音、左が呉音である。慣用音や通用音は「(慣)(通)」としている。さらに、「延音・促音・唐宋音・広東音」の表示もある。

 巻頭には部首が分かりにくい漢字を引くための「検字」(総画索引)があり、巻末には「音訓索引」がある。音訓索引は発音的仮名遣いだが、「じ・ぢ」「ず・づ」は使い分けている。

 前著では五十音順だった本文の配列を本書では部首順に戻し、間違えやすい部首の漢字は空見出しを設けた。

 それでも、現代的な熟語を載せる方針は変わっていない。例えば、「社」には「社家(しゃけ)」「社格」「社掌」の神道用語があり、日本語独自の熟語は「*」に似た記号を付けた。そのほかに、「社説」「社員」「社交性」「社会学」「社会党」「社会意志」「社会教育」「社会主義」「社会進化」「社会政策」「社会問題」なども掲載されている。

 術語には、「仏」(仏教)、「哲」(哲学)、「心」(心理学)、「法」(法律学)、「動」(動物学)といった表示がある。現代国語ではない漢文で使われた熟語には出典・用例を載せている。

 三省堂の漢和辞典で初の試みは、熟語項目の後に、親字が下に付く熟語の一覧を載せたことである。付録には、「常用漢字便覧」を兼ねた「草字便覧」が付けられた。

●最終項目(画像はクリックで拡大)

●「猫」の項目(画像はクリックで拡大)

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●「犬」の項目(画像はクリックで拡大)

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三省堂辞書の歩み 図解現代百科辞典

2015年 2月 18日 水曜日 筆者: 境田 稔信

三省堂辞書の歩み 第37回

図解現代百科辞典

昭和6年(1931)12月1日第1巻刊行/本文432頁
昭和7年(1932)3月25日第2巻刊行/本文488頁
昭和7年(1932)6月20日第3巻刊行/本文454頁
昭和7年(1932)9月25日第4巻刊行/本文476頁
昭和8年(1933)1月15日第5巻刊行/本文552頁
三省堂百科辞書編輯部(代表者斎藤精輔)/菊倍判変形(縦279mm)

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左:【図解現代百科辞典】初版(昭和6~8年)
右:【本文1ページめ】(クリックで拡大)

 本書は『日本百科大辞典』全10巻(明治41年~大正8年)に次ぐ、三省堂における百科事典の第二弾である。装丁は背革・天金。本文にアート紙を使い、1巻あたり500頁前後にすることで本が重くなることを防ぎ、他にはないスリムさが洒落た印象を与える。ただし、昭和10年には、全2巻に変更された。

 画期的なのは、書名に「図解」とあるとおり、写真や図をできる限り載せていることだ。ほとんどのページで、紙面の半分は図版が占めている。アート紙を使ったのは、写真を鮮明に見せるためだった。さらに、別刷りのカラー図版もある。

 内容見本では、「断然他の追従を許さず」「一見明瞭一読了解『図解と文字の合成』百科」「豪華版の風貌・普及版的廉価・時代を劃する編輯法」と謳っている。

 編集のヒントになったのは、イギリスの『I・SEE・ALL』(1928~30年)という10万点もの図版を掲載した百科事典。これは、文字より図版の占める割合が多かった。

 本書が『日本百科大辞典』と異なる点は、見出しがすべてカタカナで、仮名遣いは表音式になり、横に小さく歴史的仮名遣いを示したこと。また、長音符号の「ー」は「あ」の前ではなく、読まない方式で配列してある。表音式と長音符号については、『広辞林』(大正14年)からのものだが、和語の見出しまで表音式にしたのは本書が最初だった。

 「猫」「犬」の項目を『日本百科大辞典』と比較すると、犬のほうが詳しく書かれていて写真も多いことは変わらないものの、かなり簡潔な記述になっている。とにかく、『日本百科大辞典』は詳細を極めすぎたきらいがあった。そこで、文章を口語体に改め、内容や価格を万人向けにしたのである。

 本書の第1巻刊行と同年の11月から、平凡社が『大百科事典』全28巻(昭和6~10年)を刊行し始めている。また、冨山房は『日本家庭大百科事彙』全4巻(昭和2~6年)があり、のちに『国民百科大辞典』全15巻(昭和9~12年)を刊行する。競争相手が次々と現れた時期なのだった。

●最終項目(画像はクリックで拡大)

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●「猫」の項目(画像はクリックで拡大)

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●「犬」の項目(画像はクリックで拡大)

◆辞書の本文をご覧になる方は

図解現代百科辞典:

近代デジタルライブラリー『図解現代百科辞典』第1巻のページへ

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◆この連載のほかの回をお読みになる方は⇒「三省堂辞書の歩み」目次へ

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【筆者プロフィール】

境田稔信(さかいだ・としのぶ)

1959年千葉県生まれ。辞書研究家、フリー校正者、日本エディタースクール講師。
共著・共編に『明治期国語辞書大系』(大空社、1997~)、『タイポグラフィの基礎』(誠文堂新光社、2010)がある。

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【編集部から】

2011年11月、三省堂創業130周年を記念し三省堂書店神保町本店にて開催した「三省堂 近代辞書の歴史展」では、たくさんの方からご来場いただきましたこと、企画に関わった側としてお礼申し上げます。期間限定、東京のみの開催でしたので、いらっしゃることができなかった方も多かったのではと思います。また、ご紹介できなかったものもございます。
そこで、このたび、三省堂の辞書の歩みをウェブ上でご覧いただく連載を始めることとしました。
ご執筆は、この方しかいません。
境田稔信さんから、毎月1冊(または1セット)ずつご紹介いただきます。
現在、実物を確認することが難しい資料のため、本文から、最終項目と「猫」「犬」の項目(これらの項目がないものの場合は、適宜別の項目)を引用していただくとともに、ウェブ上で本文を見ることができるものには、できるだけリンクを示すこととしました。辞書の世界をぜひお楽しみください。
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三省堂辞書の歩み 新訳和英辞典

2015年 1月 21日 水曜日 筆者: 境田 稔信

三省堂辞書の歩み 第36回

新訳和英辞典

昭和4年(1929)10月25日刊行
三省堂編輯所編纂/本文1502頁/三六判変形(縦190mm)

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左:【新訳和英辞典】5版(昭和4年)
右:【本文1ページめ】(クリックで拡大)

 三省堂は明治42年(1909)に井上十吉編『新訳和英辞典』を刊行した。同規模の和英辞典としては20年ぶりの刊行となり、書名は同じままである。ただし、英語の書名に「COLLEGE」が加えられた点が異なる。

 本のサイズは、縦が22mm大きくなり、横も10mmほど広い。1段組だったのを2段組に変えて、活字は小さくなったが、非常にすっきりした印象である。

 外来語の見出しはローマ字を使わず、カタカナ表記にする工夫が見られる。

 一方、本文の漢字ひらがな交じり文は、漢字カタカナ交じり文になった。その文中に外来語があった場合、逆にひらがな表記となる。小書き仮名も用いられているが、「ウ」を小さくすることはなく、「ッ・ャ・ュ・ョ」だけである。

 序文によると、無理な日本語や無理な英語を除去し、日常の文章・会話にどう用いられるかを考え、実例に含まれる見出し語の意味を玩味してから徐々に訳語を選出したという。したがって、「会える」「飲まれる」といった、可能表現や連語の見出しも立てている。

 また、当時の国語辞典に載っていない見出し語も見られる。たとえば、「油ぎった」「油くさい」は『小辞林』(昭和3年)にはない。「アドレス」は、『小辞林』に「宛名。所書」とあるが、本書ではゴルフ用語として扱い、例文は「ごるふ棒デ球ヲあどれすスル」である。

 同様の「あばよ」「えへん」「ちょっくら」などは、前著から見出しになっているものの、訳語や文例が増えたりした。全面的な改訂にもかかわらず、書名が変わっていないのが不思議に思えるほどだ。

 和英辞典は、大正7年(1918)に『武信和英大辞典』(研究社)、大正10年(1921)に『井上和英大辞典』(至誠堂)、大正13年(1924)に『スタンダード和英大辞典』(宝文堂)というライバルが現れ、さらに文例が豊富な『斎藤和英大辞典』(日英社)が昭和3年(1928)に出た。大型の和英辞典が続出するなかで本書は学生向けを意識して作られたが、他社にない漢字カタカナ交じり文にしたのは差別化を図りたかったのかもしれない。

●最終項目(画像はクリックで拡大)

●「猫」の項目(画像はクリックで拡大)

●「犬」の項目(画像はクリックで拡大)

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【筆者プロフィール】

境田稔信(さかいだ・としのぶ)

1959年千葉県生まれ。辞書研究家、フリー校正者、日本エディタースクール講師。
共著・共編に『明治期国語辞書大系』(大空社、1997~)、『タイポグラフィの基礎』(誠文堂新光社、2010)がある。

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【編集部から】

2011年11月、三省堂創業130周年を記念し三省堂書店神保町本店にて開催した「三省堂 近代辞書の歴史展」では、たくさんの方からご来場いただきましたこと、企画に関わった側としてお礼申し上げます。期間限定、東京のみの開催でしたので、いらっしゃることができなかった方も多かったのではと思います。また、ご紹介できなかったものもございます。
そこで、このたび、三省堂の辞書の歩みをウェブ上でご覧いただく連載を始めることとしました。
ご執筆は、この方しかいません。
境田稔信さんから、毎月1冊(または1セット)ずつご紹介いただきます。
現在、実物を確認することが難しい資料のため、本文から、最終項目と「猫」「犬」の項目(これらの項目がないものの場合は、適宜別の項目)を引用していただくとともに、ウェブ上で本文を見ることができるものには、できるだけリンクを示すこととしました。辞書の世界をぜひお楽しみください。
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三省堂辞書の歩み 三省堂英和大辞典

2014年 12月 17日 水曜日 筆者: 境田 稔信

三省堂辞書の歩み 第35回

三省堂英和大辞典

昭和3年(1928)3月1日刊行
三省堂編輯所編纂/本文2634頁/菊判変形(縦197mm)


左:【三省堂英和大辞典】5版(昭和3年)
右:【本文1ページめ】(クリックで拡大)

 三省堂は明治21年(1888)の『ウヱブスター氏新刊大辞書 和訳字彙』以降、専門用語を充実させた英和辞典を目指し、改訂を続けていた。『日本百科大辞典』(明治40年~大正8年)を作ったのも、あらゆる専門分野の訳語を確かなものにするための一環だったという。そして、大正8年(1919)の『模範新英和大辞典』をさらに大改訂することによって完成したのが本書である。

 『三省堂英和大辞典』には、4頁にわたって「術語分担執筆者」が100名余り掲載された。執筆者のひとりだった坪内逍遥の手沢本は早稲田大学図書館に残されている。

 編集を担った三省堂編輯所の代表は、同年4月に還暦を迎える斎藤精輔だった。「巻頭の辞」にも4頁を費やし、「編者は茲に前後四十年間を俯迎して無量の感慨に禁へざると共に多年執筆の諸大家に対し深甚の敬意と無限の謝意とを表するものなり」と結んでいる。

 同規模の英和辞典は、前年に岡倉由三郎編『新英和大辞典』(研究社)が出ていた。研究社がイギリス・オックスフォード系の語学的な辞書を手本としたのに対し、三省堂はアメリカ・ウェブスター系の百科的な辞書を目指したのである。そのため、英語の書名には「ENCYCLOPÆDIC」が入っている。

 発音は、見出し語に表示するウェブスター式だった。複雑な場合だけ国際音声記号を補足してある。前付には、ウェブスター新国際辞典、センチュリー辞典、ニュースタンダード辞典、オックスフォード英語辞典、そしてジョーンズ式の5つを比較した「発音符号表」が掲載された。

 大正11年(1922)の『袖珍コンサイス英和辞典』や他社の英和辞典がのきなみ国際音声記号(ジョーンズ式)を採用したにもかかわらず、守旧的な方式に留まっていたのである。なお、本書をもとに約1000頁減らして作られた『センチュリー英和辞典』(昭和8年)ではジョーンズ式が採用されている。

 語釈は、従来どおりカタカナ交じり文で表記されていて、外来語は平仮名だった。『模範新英和大辞典』と比較すると、「猫」の意味分類は6つから9つに増え、「犬」のほうは7つから9つとなった。さらに、熟語(成句)は大幅な増加を見せている。

 ところが、内容を充実させたものの一般には向かない専門的傾向のせいか、売れ行きは思わしくなかった。『三省堂の百年』では「結果的には余り売れず、在庫消化に五、六年を費やした」と記されている。

●最終項目(画像はクリックで拡大)

Zyz.(自)〘英国Yorkshire〙. ヒュートイフ,シュートイフ.

●「猫」の項目(画像はクリックで拡大)

●「犬」の項目(画像はクリックで拡大)

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【筆者プロフィール】

境田稔信(さかいだ・としのぶ)

1959年千葉県生まれ。辞書研究家、フリー校正者、日本エディタースクール講師。
共著・共編に『明治期国語辞書大系』(大空社、1997~)、『タイポグラフィの基礎』(誠文堂新光社、2010)がある。

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【編集部から】

2011年11月、三省堂創業130周年を記念し三省堂書店神保町本店にて開催した「三省堂 近代辞書の歴史展」では、たくさんの方からご来場いただきましたこと、企画に関わった側としてお礼申し上げます。期間限定、東京のみの開催でしたので、いらっしゃることができなかった方も多かったのではと思います。また、ご紹介できなかったものもございます。
そこで、このたび、三省堂の辞書の歩みをウェブ上でご覧いただく連載を始めることとしました。
ご執筆は、この方しかいません。
境田稔信さんから、毎月1冊(または1セット)ずつご紹介いただきます。
現在、実物を確認することが難しい資料のため、本文から、最終項目と「猫」「犬」の項目(これらの項目がないものの場合は、適宜別の項目)を引用していただくとともに、ウェブ上で本文を見ることができるものには、できるだけリンクを示すこととしました。辞書の世界をぜひお楽しみください。
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