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地域語の経済と社会 第329回 地味な岐阜県を売り出すには

2015年 5月 30日 土曜日 筆者: 山田敏弘

地域語の経済と社会―方言みやげ・グッズとその周辺―
第329回 地味な岐阜県を売り出すには

 みなさん,「ぎふ」って書けますか。岐阜県ってどこにあるかご存じですか。

 毎年発表される『都道府県別魅力度ランキング』で,岐阜県は下位を低迷しています。2014年は,なんと40位。中途半端にさらに下位の県があるために,話題にもなりません。

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【写真1】高山駅前にある土産物屋の「歓迎」看板
【写真1】高山駅前にある
土産物屋の「歓迎」看板

 個性がないと思われているのは,観光だけではありません。方言もまた個性がないと捉えられているようです。私が項目を担当した方言辞典でも,名古屋市の記述があれば岐阜市は要りません。むしろ飛驒高山ならば,情緒もある言葉が取り上げられます。

 合掌集落で有名な白川郷や高山市のある県北部の飛驒地方では,過去にも,第155・69・59・54・44・41・39・37・32の各回(リンクは末尾)で取り上げられた方言看板が観光客を出迎えます【写真1】。「ようおいでんさった」〔ようこそいらっしゃいました〕の看板の裏には,これもまた方言で「あんきにはいってくれんさい」〔お気軽に入ってください〕と書いてあります。「あんき」は,漢字で「安気」。岐阜県では,この言葉がよく使われます。

 一方,岐阜県南部の美濃(みの)地方は,名古屋へのアクセスもよく,戦国時代以来,属国扱いでした。今でも,岐阜県南部は名古屋への通勤圏ですので,言葉の融合も進んでいると思われがちです。岐阜市内には,「それって名古屋弁やんか」と思わせる「-してちょう」〔-してください〕という中古自動車屋の看板もあり,岐阜県人自身が,「岐阜の方言って何?」と戸惑っている様もうかがえます。

 さて,そんな岐阜県では,子どもたちに郷土の方言を教えようと,毎年,県図書館で催し物をしています。その名も「楽習会(がくしゅうかい)~ことばしらべをしてみよう」です。今年で9回目を迎えます。苦労するのは集客です。毎年とはいきませんが,たまにちょっとした方言グッズを作成して県内の先生方へのアピールをしています。2014年度には,方言ファイル【写真2】を作りました。

【写真2】岐阜県図書館での催し物宣伝用クリアファイル
【写真2】岐阜県図書館での催し物宣伝用クリアファイル
 
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【筆者プロフィール】

言語経済学研究会 The Society for Econolinguistics
 井上史雄大橋敦夫田中宣廣日高貢一郎山下暁美(五十音順)の5名。日本各地また世界各国における言語の商業的利用や拡張活用について調査分析し,言語経済学の構築と理論発展を進めている。
(言語経済学や当研究会については,このシリーズの第1回後半部をご参照ください)

山田敏弘(やまだ・としひろ)
『日本語文法練習帳』 岐阜大学教育学部 教授。博士(文学・大阪大学)。国語教育における文法の応用を考えるかたわら,岐阜市出身の地の利を活かして岐阜方言に関する記述・研究をおこなっている。著書『日本語文法練習帳』(くろしお出版・近刊),『新版 日本語のしくみ』(白水社),『あの歌詞は,なぜ心に残るのか』(祥伝社新書),『その一言が余計です。』(ちくま新書),『国語教師が知っておきたい日本語文法』(くろしお出版),『みんなで使おっけ 岐阜のことば』(まつお出版)など。

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【編集部から】
皆さんもどこかで見たことがあるであろう、方言の書かれた湯のみ茶碗やのれんや手ぬぐい……。方言もあまり聞かれなくなってきた(と多くの方が思っている)昨今、それらは味のあるもの、懐かしいにおいがするものとして受け取られているのではないでしょうか。
方言みやげやグッズから見えてくる、「地域語の経済と社会」とは。方言研究の第一線でご活躍中の先生方によるリレー連載です。

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