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言語経済学研究会:地域語の経済と社会―方言みやげ・グッズとその周辺―

■目次
■筆者プロフィール

言語経済学研究会 The Society for Econolinguistics
 井上史雄大橋敦夫田中宣廣日高貢一郎山下暁美(五十音順)の5名。日本各地また世界各国における言語の商業的利用や拡張活用について調査分析し,言語経済学の構築と理論発展を進めている。

『経済言語学論考  言語・方言・敬語の値打ち』『日本語ウォッチング』井上史雄(いのうえ・ふみお)
国立国語研究所客員教授。博士(文学)。専門は、社会言語学・方言学。研究テーマは、現代の「新方言」、方言イメージ、言語の市場価値など。
履歴・業績 http://www.tufs.ac.jp/ts/personal/inouef/
英語論文 http://dictionary.sanseido-publ.co.jp/affil/person/inoue_fumio/ 
「新方言」の唱導とその一連の研究に対して、第13回金田一京助博士記念賞を受賞。著書に『日本語ウォッチング』(岩波新書)『変わる方言 動く標準語』(ちくま新書)、『日本語の値段』(大修館)、『言語楽さんぽ』『計量的方言区画』『社会方言学論考―新方言の基盤』『経済言語学論考 言語・方言・敬語の値打ち』(以上、明治書院)、『辞典〈新しい日本語〉』(共著、東洋書林)などがある。

大橋敦夫先生監修の本大橋敦夫(おおはし・あつお)
上田女子短期大学総合文化学科教授。上智大学国文学科、同大学院国文学博士課程単位取得退学。
専攻は国語史。近代日本語の歴史に興味を持ち、「外から見た日本語」の特質をテーマに、日本語教育に取り組む。共著に『新版文章構成法』(東海大学出版会)、監修したものに『3日でわかる古典文学』(ダイヤモンド社)、『今さら聞けない! 正しい日本語の使い方【総まとめ編】』(永岡書店)がある。

『付属語アクセントからみた日本語アクセントの構造』田中宣廣(たなか・のぶひろ)
岩手県立大学 宮古短期大学部 図書館長 教授。博士(文学)。日本語の,アクセント構造の研究を中心に,地域の自然言語の実態を捉え,その構造や使用者の意識,また,形成過程について考察している。東京都立大学大学院人文科学研究科修士課程修了。東北大学大学院文学研究科博士課程修了。著書『付属語アクセントからみた日本語アクセントの構造』(おうふう),『近代日本方言資料[郡誌編]』全8巻(共編著,港の人)など。2006年,『付属語アクセントからみた日本語アクセントの構造』により,第34回金田一京助博士記念賞受賞。『Marquis Who’s Who in the World』(マークイズ世界著名人名鑑)掲載。

日高貢一郎(ひだか・こういちろう)
大分大学名誉教授(国語学・方言学) 宮崎県出身。これまであまり他の研究者が取り上げなかったような分野やテーマを開拓したいと、“すき間産業のフロンティア”をめざす。「マスコミにおける方言の実態」(1986)、「宮崎県における方言グッズ」(1991)、「「~されてください」考」(1996)、「方言の有効活用」(1996)、「医療・福祉と方言学」(2002)、「方言によるネーミング」(2005)、「福祉社会と方言の役割」(2007)など。

『海外の日本語の新しい言語秩序―日系ブラジル・日系アメリカ人社会における日本語による敬意表現』『書き込み式でよくわかる 日本語教育文法講義ノート』山下暁美(やました・あけみ)
明海大学客員教授(日本語教育学・社会言語学)。博士(学術)。
研究テーマは、言語変化、談話分析による待遇表現、日本語教育政策。在日外国人のための「もっとやさしい日本語」構想、災害時の『命綱カード』作成に取り組んでいる。
著書に『書き込み式でよくわかる日本語教育文法講義ノート』(共著、アルク)、『海外の日本語の新しい言語秩序』(単著、三元社)、『スキルアップ文章表現』(共著、おうふう)、『スキルアップ日本語表現』(単著、おうふう)、『解説日本語教育史年表(Excel 年表データ付)』(単著、国書刊行会)、『ふしぎびっくり語源博物館4 歴史・芸能・遊びのことば』(共著、ほるぷ出版)などがある。

■このシリーズのねらい

 方言には,私たちのふだんの生活の会話で使うという,もともとのそして中心的な役割のほか,観光,営業,また,公共などの目的で,工夫された使い方の例が日本全国にあります。外国にもあります。

 例えば観光客向けの,方言を列挙した,のれん,湯のみ茶わん,手ぬぐい,絵はがき……などの,みやげもの商品があります。これらは「方言みやげ」また「方言グッズ」といい,私たちの研究会(後の方で説明します)では,まとめて「方言みやげ・グッズ」と呼んでいます。また,観光地のバスガイドが,お話のなかに土地の方言を入れることがあります。お客たちに,共通語とは異なる言語が話されている土地にいることを,ただの説明でなく,『実物』で知らせる演出です。

 観光産業は,遠くから来たお客に,その土地の特性を感じ取らせることで利益を得ます。これらは,その有力な手段の一つに言語を利用するものです。古いお寺やお城などの歴史的建造物,有名な山や海などの自然,名物の食べ物などと同様の,観光資源として,言語が利用されているのです。

 最近は,「方言みやげ・グッズ」の種類が増えています。方言を聞かせるのも,バスガイドのお話の付録だったものから発展して,時間をかけて語り聞かせる「方言パフォーマンス」が各地で毎日決まった時間に行われています。方言で歓迎のことばを書いた「方言メッセージ」が,地方の駅や街頭には珍しくなくなっています。

 観光資源でなくても言語の工夫された使い方はたくさんあります。おもにその土地の人々に向けた,親しみを深めてもらうための使い方です。営業目的で店の誘い文句や地方CMでの語りを方言にするなどの「方言メッセージ」です。お店や公共の建物,テレビやラジオの番組,映画,歌謡曲,また,芸能人の名前などに方言を使う「方言ネーミング」も同様です。その他にも大きく広がっています。

 「方言みやげ・グッズ」や「方言パフォーマンス」など,言語そのものを商品にして利益を得る利用と,「方言ネーミング」や「方言メッセージ」など,言語の工夫した使い方を通して利益にみちびく利用は,「言語の商業的利用」と言えましょう。言語の商業的利用や,それと似た拡張された活用を研究するのは,言語研究の新しい分野です。これを私たちは「言語経済学」と呼び,「言語経済学研究会」をつくって研究を進めています。

 このシリーズでは,私たち言語経済研究会が,今回のような方言の使い方などを例に,言語の,ふつうより工夫された使い方を紹介していきます。皆さん,楽しみにして読んでください。よろしくお願いします。