WISDOM in Depth: #31

2008年 6月 10日 火曜日 筆者: 井上 永幸
【編集部より】
『ウィズダム英和辞典』の紙面には収めきれなかった情報を,WISDOM in Depth と題して,編者・編集委員・執筆者の先生方にお書きいただきます。第31回は,編者の井上永幸先生の13回目です。

Corpus-BasedからCorpus-Drivenへ (6)

−定型句について−

定型句(phraseology)とは,一定の文脈に頻出する語群のことで,従来の成句(idioms)だけでなく,コロケーション(collocations)や慣習的に用いられる文(institutionalized sentences)をも含む概念である。

成句はそれを構成する1語1語の意味を足し合わせても全体の意味を表さない(opaque)ものを指し,日常英語では比較的使用頻度は高くない。定型句はその形式が定型であることに注目し,その意味は文字通りの意味の(transparent)ものから,語用論的にさまざまな発展を遂げたものまで含め,その範囲は広い。また,定型句は,日常英語で会話を始めたり,話題を転換したり,話題をまとめたりする談話辞(discourse markers)と呼ばれるつなぎ言葉としてもしばしば現れる。定型句を適切に使うことで,会話を流暢なものにするし,何よりも,定型句のような既成の語群を一切使わず,すべての語群がその場で組み立てられる言語活動というのは難しい。

『ウィズダム英和辞典』では,表現活動を豊かにする定型句は用例を太字の斜体にし,特に語用論的に発展を遂げたものには積極的に注記を与えて便宜を図った。以下の項目で確認されたい。

Thank you [Congratulations] again! とにかくありがとう[おめでとう], 改めてお礼[お祝い]申し上げます ([!](コーパス) 一度Thank you [Congratulations].とお礼[祝辞]を述べて関連する話をした後締めくくりとして用いる). [s.v. again (副) 1]

Breakfast in bed tomorrow for you. 明日は朝食を寝床に持っていってあげるわ ([!] breakfast in bedは大事にされることやぜいたくの象徴としてしばしば用いられる). [s.v. breakfast (名)]

It is hard [difficult] to imagine my father at a children’s party. 子供のパーティに出ているうちの父なんて想像するのは難しい ([!] it is C to imagine …の構文のCの主なものはhard, difficult, easy, impossible, possibleなど). [s.v. imagine (他) 1]

I wouldn’t [would never] dream of insulting you. ((話)) 君を侮辱(ぶじょく)しようなどとは夢にも思わない. [s.v. dream (自) 3]

You wouldn’t think it to look at her, but she writes all these romantic stories. ((主に英)) 彼女を見て見かけによらないと思うだろうが, 彼女がこれらの恋愛小説を全部書いているのだ ([!] itはbut以下の内容をさす). [s.v. think (他) 1f]


【筆者プロフィール】
井上 永幸 (いのうえ・ながゆき)

徳島大学総合科学部教授。
専門は英語学(現代英語の文法と語法),コーパス言語学,辞書学。
編纂に携わった辞書は『ジーニアス英和辞典初版』(大修館書店),『英語基本形容詞・副詞辞典』(研究社出版),『ニューセンチュリー和英辞典2版』(三省堂),『ジーニアス英和大辞典』(大修館書店)など多数。


英語辞書攻略ガイド (7)

2008年 5月 30日 金曜日 筆者: 関山 健治

英語辞書の重要度ランクと英語学習

いわゆる「英語名人」の武勇伝としてよく例に出されることですが,昔の英学者達の中には,辞書を最初のページから丸暗記し,覚えたページは食べてしまったという,強靱な胃袋を持っている人もいたそうです。学習英和辞典というものがほとんどなかった頃なら,辞書に載っている単語を闇雲に覚える人も珍しくなかったのかもしれませんが,最近の学習辞書には,非常に細かな重要度ランクが星印で記載されているので,胃腸の弱い人でも効率的に英語学習を進めることができます。

昔の学習英和辞典は,英語圏で何十年も前に構築された基本語彙リストや執筆者の直感などをもとに重要度ランクが決められているものが多くありました。そのため,私たちが日常的に目にする大学入試問題や資格試験,教科書等の英文の出現頻度とは少なからずずれがあったように思います。しかし,最近では,三省堂コーパスなど,日本人の英語学習に特化したコーパスを参考にすることで,より実際の出現頻度に近いランク付けがされています。一方で,従来よりも重要度ランクが細かく区分されるようになり,「どのランクの単語まで覚えればいいのか」と疑問を抱く学生や教員も多くいるのではないでしょうか。

今回は,前回考察した,『グランドセンチュリー英和辞典』『ウィズダム英和辞典』の全見出し語のカバー率データをより細分化し,重要度ランクごとのカバー率を算出してみました。結果は,以下のグラフの通りです。このグラフは,実用英語技能検定,センター試験のカバー率を,各英和辞典の重要度レベルごとの累計で示したものです。たとえば,グラフ1(グランドセンチュリー英和辞典)の場合,センター試験の「**」ランクのカバー率が約76%となっていますが,これは,『グランドセンチュリー英和辞典』の上位2ランク(「***」と「**」)の見出し語のみで,大学入試センター試験の長文問題で出現した単語の約76%がカバーできることを意味します。

(グラフ1)重要度ランク別累計カバー率(グランドセンチュリー英和辞典)
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(グラフ2)重要度ランク別累計カバー率(ウィズダム英和辞典)
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これらのグラフを見ると,とくに英検2級とセンター試験では,『グランドセンチュリー英和辞典』『ウィズダム英和辞典』ともに,「**」ランクでカバー率が急増していることが分かります。このランクは「高校学習語(高校必修相当語彙)」とされており,約2800語が含まれていますが,「中学学習語(中学必修相当語彙)」の「***」ランク(約900語)と合わせて約3700語をマスターすれば,センター試験をはじめとした標準レベルの大学入試や,英検2級などの高校卒業程度の資格試験においても,約8割の単語がカバーできることになり,必要十分な語彙力を身につけることができると言えます。“ウィズダム”,“グランドセンチュリー”とも,「***」「**」ランクの語は大活字で表示されていますので,「高校3年生までに,大きな活字の見出し語の単語をすべてマスターすること」というような指導をすることで,より効率のよい単語学習をすることができます。

最近は,受験用単語集を辞書のかわりに使う高校生も増えていますが,受験用単語集は,中学,高校初級レベルの基礎的な単語が出ていないことが多く,とくに英語が苦手な受験生の場合,重要な単語が漏れてしまうこともあります。一方,辞書の重要度表記は,中学1年レベルの単語から,英語を専門にする大学生でも知らない単語まで,もれなく記載されていますので,「知らない単語を辞書で引いたら,必ず重要度表記もチェックし,単語帳に書き写す」ということを習慣にさせるとよいのではないでしょうか。「この単語は受験でよく出ますか?」と教員に質問する生徒も多くいますが,未知語を辞書で引いた際,「覚えるべき単語かどうか」を,重要度表記を参考にして自分で選別させることも有効でしょう。

次回は,最近の英語辞書に見られる「使いやすさ」に焦点をあて,「辞書」という書物が「いまどきの英語学習者」にどう歩み寄ろうとしているのかを考えてみたいと思います。


【筆者プロフィール】

関山健治(せきやま・けんじ)
1970年愛知県生まれ。南山大学大学院外国語学研究科英語教育専攻修士課程修了(応用言語学),愛知淑徳大学大学院文学研究科英文学専攻満期退学(英語辞書学・語用論)。現在,沖縄大学法経学部准教授。

著書に『辞書からはじめる英語学習』(2007,小学館),『ウィズダム英和辞典第2版』(共同執筆,三省堂,2006),訳書に『英語辞書学への招待』(共訳,大修館書店,2004),『コーパス語彙意味論』(共訳,研究社,2006)などがある。


【編集部より】
新学期にあたり,英語辞書界にこの人ありと言われる関山健治先生に,英語の辞書に関する有益な情報を短期集中連載していただきます。
→これまでの連載記事一覧


WISDOM in Depth: #30

2008年 5月 27日 火曜日 筆者: 井上 永幸
【編集部より】
『ウィズダム英和辞典』の紙面には収めきれなかった情報を,WISDOM in Depth と題して,編者・編集委員・執筆者の先生方にお書きいただきます。第30回は,編者の井上永幸先生の12回目です。

コーパスで検証する (7)

−代用表現−

すでに出た話題についてふれる場合,it,this,thatなどの代名詞の他,soといった副詞が使われることがあるが,これらの使い分けは簡単そうに見えてなかなか一筋縄ではいかない。英英辞典でこれらの見出し語を検索してみて,かゆいところに手が届かないといった経験をした日本人英語学習者は少なくないであろう。ましてやthey,these,thoseといった項目では,単なるit,this,thatの複数形といった説明しか得られないことも多い。『ウィズダム英和辞典』(第2版;以下『ウィズダム英和』)では,日本人英語学習者が英語を発信する際に,だれもが疑問に思うような事項について,できるだけ専門用語を使わず丁寧な解説を試みた。

これらの基本的な用法を,『ウィズダム英和』の用例を使って,確認しておこう。itは一度話題に上ったものをさす人称代名詞である:

She took off her ring and gave it to me.(彼女は自分の指輪をはずして(それを)私にくれた)

thatとthisはそれぞれ物理的・心理的に遠くのものと近くのものをさす指示代名詞である:

Look at that house over there.(あそこにあるあの家を見て)

Do you remember Jane’s party? That was the worst party I’ve ever been to!(ジェーンのパーティ覚えてる? あれは今まで出た中で最悪のパーティだったわ)

“Is this your cell phone?” “Yes, it is.”(「これはあなたの携帯ですか」「はい,そうです」)([!]応答文ではitで対応する; ×Yes, this is. としない)

This is my first time.(これが初めてです)

soは先行する語・句・節の代用として用いられる。

I might be home late tonight. If so, don’t wait up for me.
(今夜は遅くなるかもしれない. もしそうなったら起きて待っていなくてもいいからね)([!] if notは「もしそうでなければ」の意味)

A: Will they give us a discount?(値引きしてくれるだろうか)
B: I hope so.(そうしてくれると思うよ)
([!] soは(that) they will give us a discountの代用)

それでは,次のような文脈では,{ } の中のどの代用表現を用いるのが最も自然であろうか。

She’s about ninety. She had somebody knocking at the door shouting “Fire! Fire!” and {it / this / that} was just a trick to get her out of the house.(彼女はほぼ90歳. 彼女の家の玄関を「火事だ火事だ」とノックする者がいたんだがそれはまさに彼女を家からおびき出そうとするわなだった)

「そうする」という日本語を英語で表現しようとすると,do it,do that,do soなどが考えられるが,どのように使い分ければよいであろうか。

You can’t do {that / it / so}.(君はそんなことをしてはいけない)

Ricky invited me to visit his family, and I did {so / it / that}.(リッキーが私を家族に会わせようと招待してくれたのでそうした)

答は,it (代) 2 (類義) をご覧いただきたい。


【筆者プロフィール】
井上 永幸 (いのうえ・ながゆき)

徳島大学総合科学部教授。
専門は英語学(現代英語の文法と語法),コーパス言語学,辞書学。
編纂に携わった辞書は『ジーニアス英和辞典初版』(大修館書店),『英語基本形容詞・副詞辞典』(研究社出版),『ニューセンチュリー和英辞典2版』(三省堂),『ジーニアス英和大辞典』(大修館書店)など多数。


英語辞書攻略ガイド (6)

2008年 5月 16日 金曜日 筆者: 関山 健治

学習英和辞典の収録語数

学生にとっても,教員にとっても,辞書を買おうとする時に最も気になることが,「どれぐらいたくさんの語が収録されているか」ということなのではないでしょうか。さすがに,「語数が一番多い辞書を買いなさい」などと言って,高校新入生に『グランドコンサイス英和辞典』などの一般英和辞典をすすめるようなことは最近はないと思いますが,同じ学習辞典であれば,少しでも語数の多い辞書を買わせたいと考える先生方は少なからずいらっしゃるようです。大学新入生を見ていても,英語が苦手な学生が,高校入学時に指定されたと言って『ウィズダム英和辞典』などの上級学習英和辞典を苦労して引いていたり,多くの電子辞書に収録されている,数十万語を収録した学習大英和を背伸びして使っている学生がかなりいます。

近年は,ネット掲示板などで「高校初級レベルの学習英和辞典では,センター試験や各種の資格試験には対応できないので,大学進学をめざすのであれば,上級学習辞典を使うべきだ」と言った風評も散見されます。たしかに,三省堂の学習辞書の場合,高校初級向けの『ビーコン英和辞典』の見出し語数が約47,300,上級向けの『ウィズダム英和辞典』が約90,000と,同じ学習辞典でも約2倍近い開きがあり,数値だけで見れば,収録語数の差は歴然としているように見えます。大辞典クラスの辞書が電子辞書に搭載される現在では,上級レベルの学習英和辞典でさえ,「難関大学の入試には対応できない」などと批判されかねない状況です。

しかし,実際にそのようなことがあり得るのでしょうか? 客観的な検証をするために,ビーコン,グランドセンチュリー,ウィズダムの全見出し語一覧をデータベース化し,手元にあるセンター試験長文(2000年度~2006年度までの本試験・追試験の大問4~6の本文)と英検長文(2004年度第3回~2007年度第3回までの1級~準2級の長文本文)のコーパスと突き合わせ,辞書ごと,試験種別ごとのカバー率を算出してみました。

算出にあたっては,長文問題本文の単語すべて(固有名詞,専門用語等も含む)を分析対象とし,変化形をすべて原形に置き換え(レマ化)た上で,各長文問題の出現語リストを作成しました。このリストと辞書ごとの見出し語一覧をコーパス分析ソフトで照合し,合致する語の割合を示したものがカバー率になります。たとえば,ある辞書のカバー率が100%であれば,長文問題に出てくる語のすべてがその辞書の見出し語に出ていることになります。

結果は,次の表の通りです。

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辞書執筆に携わる者として,収録語数に関わる様々な風評は,以前から眉唾だと感じてきましたが,この表を見ると,私の想像以上にカバー率が高いことに驚かされます。

収録語数が最も少ない『ビーコン英和辞典』でさえ,実際には,センター試験は言うまでもなく,英語母語話者でも手強い難語が出題されることで有名な英検1級の長文問題でも,カバー率は8割を優に超えています。高校生の多くが受験する英検2級やセンター試験レベルなら,どの辞書でも9割以上のカバー率をマークしており,収録語数に関しては,辞書間の格差はほとんどないことがうかがえます。

もっとも,カバー率にそれほど差がなくても,『ウィズダム英和辞典』をはじめとした上級レベルの学習辞典には,詳細な文法,語法解説や,用法上の様々なラベルなど,より詳しい情報が盛り込まれています。そのため,高校入学時に『ビーコン英和辞典』で基礎を身につけ,英語が得意になった生徒が,大学受験を前に『ウィズダム英和辞典』に買い替えるということはごく自然なことですし,無理に背伸びをすることなく,常に自分の実力にぴったり合った辞書を信頼して使うということは,英語学習を効率よく進める上でも重要なことでしょう。収録語数の数字で辞書の優劣を判断するのではなく,どの辞書でも高校の教科書は言うまでもなく,難関大学を含めた受験にも対応していることを生徒に理解させ,自分のレベルにあった辞書を自信を持って使わせたいものです。

次回は,今回の分析をもとに,辞書の頻度・重要度表示(星印)とカバー率の検証を行いたい,高校生の大きな関心事である,「このレベルの試験を受けるには,辞書のどの単語を覚えるといいか」ということに迫ってみたいと思います。


【筆者プロフィール】

関山健治(せきやま・けんじ)
1970年愛知県生まれ。南山大学大学院外国語学研究科英語教育専攻修士課程修了(応用言語学),愛知淑徳大学大学院文学研究科英文学専攻満期退学(英語辞書学・語用論)。現在,沖縄大学法経学部准教授。

著書に『辞書からはじめる英語学習』(2007,小学館),『ウィズダム英和辞典第2版』(共同執筆,三省堂,2006),訳書に『英語辞書学への招待』(共訳,大修館書店,2004),『コーパス語彙意味論』(共訳,研究社,2006)などがある。


【編集部より】
新学期にあたり,英語辞書界にこの人ありと言われる関山健治先生に,英語の辞書に関する有益な情報を短期集中連載していただきます。
→これまでの連載記事一覧


WISDOM in Depth: #29

2008年 5月 13日 火曜日 筆者: 井上 永幸
【編集部より】
『ウィズダム英和辞典』の紙面には収めきれなかった情報を,WISDOM in Depth と題して,編者・編集委員・執筆者の先生方にお書きいただきます。第29回は,編者の井上永幸先生の11回目です。

コーパスで検証する (6)

−方向性と距離感−

英語には意味の中に方向性や距離感を含意する語が存在する。そのような語の代表的なものはcomeとgoやbringとtakeであろう。それぞれのペアのうち,前者のcomeとbringは話題になっているものに近づく動作を表し,後者のgoとtakeは話題になっているものから遠ざかる動作を表す。また,同様の方向性や距離感を含意するものには動詞だけでなく,thisとthatといった代名詞や形容詞,hereとthere,upとdownといった副詞のペアも存在する。『ウィズダム英和辞典』では,このような含意をもつ語句については,できるだけ統一的な理解ができるように解説を加えることはもちろん,用例や注記にも工夫を凝らしてある。

(1)のように,comeの動詞用法冒頭ではgoの方向性と距離感について説明を行い,(2)や(3)のように,具体的な用例ではできるだけ文脈に沿った注記を示している。

(1) come (動)(語法)(1)
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(2) come (自)1a 第3用例
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(3) come (自)1a 第7用例
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(4)はgoの冒頭の説明で,(5)と(6)は用例と注記である。

(4) go (動)(語法)
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(5) go (自)1a 第4用例
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(6) go (自)1a 第5用例
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同じ種類の方向性や距離感をもつ語を組み合わせたcome hereやgo there,up hereやdown thereといった連結は自然に理解できるが,条件さえ整えば,異なる方向性や距離感をもつ語を組み合わせたcome thereやup thereといった連結も起こりうる。(7)と(8)を見られたい。

(7) there (副)2a 第4用例
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(8) weather (名)1 第4用例〔cf. up (副) 7a〕
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go [take] hereという連結については,日常英語でも出会うことがあるので,(コーパスの窓)で詳しくふれておいた。

(9) here (副)1 (コーパスの窓)
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【筆者プロフィール】
井上 永幸 (いのうえ・ながゆき)

徳島大学総合科学部教授。
専門は英語学(現代英語の文法と語法),コーパス言語学,辞書学。
編纂に携わった辞書は『ジーニアス英和辞典初版』(大修館書店),『英語基本形容詞・副詞辞典』(研究社出版),『ニューセンチュリー和英辞典2版』(三省堂),『ジーニアス英和大辞典』(大修館書店)など多数。


WISDOM in Depth: #28

2008年 4月 29日 火曜日 筆者: 井上 永幸
【編集部より】
『ウィズダム英和辞典』の紙面には収めきれなかった情報を,WISDOM in Depth と題して,編者・編集委員・執筆者の先生方にお書きいただきます。第28回は,編者の井上永幸先生の10回目です。

コーパスで検証する (5)

−相対的注記−

『ウィズダム英和辞典』では,「(…より)…の方が普通」といった相対的な注記を与えることがあるが,これには2通りの状況で使われている。1つ目は,シノニム〔=類義表現〕を示すときである。ほぼ同じような状況で使用可能な表現が存在するが,頻度の上でどちらが優勢かを示している。

(1) yet 成句 and [but] yet
and [but] yet* それでも, しかし ([!](コーパス)and yetの方が普通): I offered them still more, and yet they were not satisfied. 私はそれ以上出すと言ったが, 彼らは満足しなかった.

(2) best (形) 1a
the ten best [best ten, ((まれ)) top ten best] teams in the country その国の上位10チーム ([!](コーパス)bestのないthe top ten teams in the countryの方が圧倒的に普通)

(3) who (代) 2a
There’s no one who [that] visits me now. 今は私を訪ねてくれる人はだれもいない ([!]先行詞がnoなど強い指示を示す語を含むときはthatが好まれるとされるが, 先行詞が人の場合はwhoの方が普通でthatは2〜3割程度; →that (代) 6 (語法)(1))

もう1つは,英文の正誤情報を与える際,単純な○×式の用法指示では実態を正確に表しきれないときである。規範的に「こういう表現を使うべきで,こういう表現を使うべきでない」といった立場もあるわけであるが,言葉は生き物であるので,ある程度「使うべきでない」表現が広まってきてしまうと,辞書の立場としては,そのような表現をいつまでも無視するわけにもいかなくなる。下に挙げるのは,本来の規範的な形の他に,崩れた形が現れたものの,依然として本来の形が優勢である例である。

(4) if (接) 成句 if I were you
if I were you = ((くだけた話)) if I was you ((話)) もし私があなたの立場だったら([!]助言するときの定型表現なのでif I were youが最も普通): I wouldn’t do that if I were you. 私ならそうはしないだろう…

次の例は,本来の規範的な形より崩れた形が優勢となっている例である。

(5) after (接)
Susan moved to Seattle after she (((かたく))had) graduated from college. ≒ After she (((かたく)) had) graduated from college, Susan moved to Seattle. スーザンは大学を卒業後シアトルに引っ越した([!](1)afterにより出来事の順序は明らかなのでafter節中は過去形の方が普通↑(前) 1 (語法). …

最初に挙げた頻度における優勢を示す場合,効率的な学習が期待できるし,後者の正誤用法に関連する事項を示す場合は,実際の語法の実態を知ることができる。上のような編集意図をご理解の上,効果的にご活用いただければ幸いである。


【筆者プロフィール】
井上 永幸 (いのうえ・ながゆき)

徳島大学総合科学部教授。
専門は英語学(現代英語の文法と語法),コーパス言語学,辞書学。
編纂に携わった辞書は『ジーニアス英和辞典初版』(大修館書店),『英語基本形容詞・副詞辞典』(研究社出版),『ニューセンチュリー和英辞典2版』(三省堂),『ジーニアス英和大辞典』(大修館書店)など多数。


WISDOM in Depth: #27

2008年 4月 15日 火曜日 筆者: 井上 永幸
【編集部より】
『ウィズダム英和辞典』の紙面には収めきれなかった情報を,WISDOM in Depth と題して,編者・編集委員・執筆者の先生方にお書きいただきます。第27回は,編者の井上永幸先生の9回目です。

コーパスで検証する (4)

−新項目と行数削減項目に込められた思い−

新しい辞典であればだれでも期待するのが新語や新語義などの新項目であろう。『ウィズダム英和辞典』(第2版)でも多くの新項目を加えてある。それらの中には,目覚ましい技術革新によって生み出された語〔file sharing, organic electroluminescence, phishing, wiki, etc.〕や時代の要請・変化の中で生まれてきた語〔civil union, fat tax, etc.〕などがあるのは当然であるが,これまでの辞書記述に漏れていたものも存在する。

目覚まし時計の広告等を見れば必ず出てくるsnooze(→(名) 2)などは,あまりにも身近すぎて漏れていた日常生活語彙のひとつであろう。また,直接話法とともに用いられるlike(→(前) 4)やbe(→(自) 1c)はくだけた日常会話,特に若者の間ではしばしば現れる用法であるにもかかわらず,これまで辞書であまり取り上げられることのなかった語法である。さらに,earlierは,earlyの比較級ということで見出し語としては無視されていたが,many及びmuchの比較級であるmoreとともに,比較級の頻度が原級のそれの2分の1を超えるほど,珍しく有用度の高い比較級のひとつである。agoやbeforeとの使い分けの問題もあり,外国語として英語を学ぶ者であればだれもが身につけておきたい用法で,第2版で新たに加えた項目である。

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新項目をどんどん増やしてゆけば,当然スペースはふくらむ一方で辞書はパンクしてしまう。必要な記述を増やす一方で,古くなったりあまり使われなくなった語義・用法に当てられた行を削ってゆかなければならない。しかし,編者の立場としては,この作業は大変気を遣う。というのは,辞書に載っていないということは,「その用法はない」ということをユーザーにメッセージとして発信しているととられかねないし,「他の辞書にあるのにこの辞書にないのは,きっとこの辞書が劣っているからだ」といった辞書評価の基準として使われかねないからである。『ウィズダム英和辞典』では,古くなったりあまり使われなくなった語義・用法の場合,即座に削除するのではなく,ユーザーがその語義・用法に遭遇した際を想定して,行数の許す限りその語義・用法を今後使用する際の指針を示すようにした。下に挙げる成句make it a rule to do はその一例である。

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【筆者プロフィール】
井上 永幸 (いのうえ・ながゆき)

徳島大学総合科学部教授。
専門は英語学(現代英語の文法と語法),コーパス言語学,辞書学。
編纂に携わった辞書は『ジーニアス英和辞典初版』(大修館書店),『英語基本形容詞・副詞辞典』(研究社出版),『ニューセンチュリー和英辞典2版』(三省堂),『ジーニアス英和大辞典』(大修館書店)など多数。


WISDOM in Depth: #26

2008年 4月 11日 金曜日 筆者: 成田 あゆみ
【編集部より】
『ウィズダム英和辞典』の紙面には収めきれなかった情報を,WISDOM in Depth と題して,編者・編集委員・執筆者の先生方にお書きいただきます。第26回は,好評のコラム「読解のポイント」を担当した成田あゆみ先生の3回目です。

論理展開を表す意外な表現~colonとnow

『ウィズダム英和辞典』では、「読解のポイント」と題して、論理展開の把握において重要な語句をピックアップして解説を加えています。今回はそのなかでも「盲点」とも言うべき、意外な項目を2点ご紹介します。

colon (言い換え)

英和辞典でcolonを引くと一言、「コロン」と書かれているものも少なくありませんが、『ウィズダム英和辞典』では、「コロン」という訳語にとどまらず、コロンの用法までもが説明されています。semicolon、dashにも用法の説明があります。
つまり、辞書が文法書としての側面を持っているのです。

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さらにご注目頂きたいのは、論理展開上の役割に関する説明がある点です。

コロンやセミコロンは単に文の切れ目を示す記号ではなく、「文と文の関係を示す機能」も持っています。具体的には

  • colon:「言い換え」「例示」
  • semicolon:「対比」「言い換え」
  • dash:「例示」

つまりこれらは、for exampleやon the other handと同じ、論理展開を示す表現なのです。
そこでcolon、semicolon、dashの項では、それぞれの論理展開上の機能を簡単に紹介するとともに、関係する「読解のポイント」への参照を記載しました。

コロンやセミコロンの用法を含む「パンクチュエーション」は、高度な内容の文章を読み始めた学習者が一度は疑問を抱く分野のようです。
そんな学習者がコロンやセミコロンの用法を知りたいとき、文法書ではなく英和辞典を引こうと思う学習者は少ないのではないでしょうか。まして、これらの記号に論理展開上の機能があることを期待して辞書を開く人は少ないでしょう。上記のcolonの語法説明、そして「読解のポイント」としての位置づけは、かなり意表を突いた説明だと思われます。

now (時の対比)

英文で非常によくみられる論理展開のひとつに「対比」があります。そこで「読解のポイント」では、on the other HANDで「対比」について説明しています。
英文の対比表現の大きな特徴は、「対比の後半要素に力点が置かれる」場合が多い点です。対比は多くの場合、後半要素こそが本筋と関係が深く、前半要素は後半を際立たせるための「前置き」であることが少なくありません。前半要素が「譲歩」に近く、後半に対比された要素によって否定されるほどの例も多々あります。こうした後半に力点を置く対比の用法は、英語では非常に一般的ですが、日本語ではあまり意識されないため、特に注意が必要です。

しかし「読解のポイント」では、こうした通常の対比から一歩進めて、日本語から発想した際にとりわけ見えづらい対比に焦点を当てました。それは「時の対比」とも言うべき、2つの時点や期間に関する対比です。「昔」と「今」、「今」と「10年後」の対比などがこれにあたります。
こうした「時の対比」は、In former times, . . . but nowのように、明確な時の表現を置いた上で使われることもありますが、それ以上に多いのが、時制によって「時の対比」を表す方法です。例えば、過去完了形と過去形、現在完了形と現在進行形などの対比などは、論説文や新聞記事などで好んで使われます。
日本語は英語と比べて時制の認識があいまいなせいか、学習者は時制の持つニュアンスに意識を向けにくいようです。このため、「時の対比」はともすると素通りされる傾向が見られます。

そんな「時の対比」に注意を喚起すべく、『読解のポイント』では「時の対比」という項目を設け、nowの項目中で説明を加えています。

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「時の対比」は、対比のなかでも特によく見られ、かつ、盲点になりやすいものですが、この点を学習者向けに強調した説明は、寡聞にして知りません。nowに掲載した「時の対比」を、逆接や譲歩、列挙と並ぶ重要な論理展開として、学習者にぜひとも認識してもらいたいと思っています。


【筆者プロフィール】
成田あゆみ(なりた・あゆみ)

『ウィズダム英和辞典』『ウィズダム和英辞典』の執筆者。
英日翻訳者、英語講師。
大学受験予備校のほか、企業英語研修、翻訳学校で授業を行っている。
著書に『ディスコースマーカー英文読解』『[自由英作文編]英作文のトレーニング』(以上共著)『大学入試 英語総合問題のトレーニング』、訳書に『ハーゲドン 情熱の生涯』(共訳)など。


WISDOM in Depth: #25

2008年 4月 8日 火曜日 筆者: 赤野 一郎
【編集部より】
辞書の凝縮された記述の裏には,膨大な知見が隠れています。紙幅の関係で辞書には収めきれなかった情報を,WISDOM in Depth と題して,『ウィズダム英和辞典』の編者・編集委員の先生方にお書きいただきます。第25回は編者の赤野一郎先生の5回目です。

コーパスが英和辞典を変える (5)

類義語を使い分ける

意味の似た語を類義語 (synonym) という。たとえばoccurとhappenは「〈出来事が〉起こる」という意味で類義語だが,まったく同じ意味とは言えず,何らかの点で異なる。1億語のイギリス英語コーパスBritish National Corpusで,書きことばと話しことばにおける使用頻度と分布を調べてみると,下の図1,図2のようになる。

図1graph-happen-occur.jpg

図2graph-w-s.jpg

全体としてhappenはoccurにくらべ使用頻度が圧倒的に高く,比較的話しことばで好まれ,反対にoccurは話しことばより書きことばで好まれる傾向がある。といっても書きことば全般では図2が示すように,happenの使用頻度の方が高く,occurが4に対しhappenが6の比率である。occurの書きことばで好まれる傾向をさらに調べるために,書きことばの領域を自然科学・純粋科学および社会科学に限定し,happenとの分布の比率を調べてみると,occurが6割を占めhappenが4割になり,逆転する。つまり,occurは学術文書などのかなり堅い書きことばで特に好まれ,文脈を精査すると,特に化学や医学において現象などが「生じる,発生する」の意味で使われることがわかる。一方happenは,主語にthing, something, anythingなどをとり,とにかく何かが起こったことを述べるのに適している。happenの類義の囲み記事「happenとoccur」をご覧いただきたい。他の辞書の類義解説には見られない両者の意味上の相違についての解説が与えられている。

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このように使用領域によって頻度が異なる類義語もあれば,用法の異なる類義語もあり,外国語として英語を学んでいるわれわれにとって特に用法の違いを知ることが重要で,それによって使い分けが可能になる。類義語の意味の差は用法,特にコロケーションの差になって現れる。類義語におけるコロケーションの差は,コーパス分析の得意とするところである。たとえばalmostとnearlyを同時に検索し,右1語目で各列をアルファベット順に並べ替えると,almostとnearlyの両方と連結する語,almostと連結するがnearlyとは連結しない語,あるいはその逆の傾向を持つ語が即座にわかる。

いずれの語とも連結するケース
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almostとのみ連結するケース
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nearlyとのみ連結するケース
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almostの類義の囲み記事「almostとnearly」はこのようなコーパスに基づく分析結果に基づき作成されたものである。上に示した「almostのみと連結するケース」は(1a)~(1e)に対応していることに注意されたい。

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【筆者プロフィール】
赤野 一郎  (あかの・いちろう)

京都外国語大学教授。
専門は語用論,コーパス言語学,辞書学。
編著書には『英語コーパス言語学』(研究社出版)など多数。


WISDOM in Depth: #24

2008年 4月 1日 火曜日 筆者: 井上 永幸
【編集部より】
『ウィズダム英和辞典』の紙面には収めきれなかった情報を,WISDOM in Depth と題して,編者・編集委員・執筆者の先生方にお書きいただきます。第24回は,編者の井上永幸先生の8回目です。

コーパスで検証する (3)

−語義と訳語:putの場合−

英和辞典の利用目的の多くを占めるのが語義・訳語の確認であろう。ところが,特別な専門用語を除いて,複数の言語間で対応する語や語義が完全に一致することはまれである。たとえば,pneumoniaと「肺炎」,influenzaと「インフルエンザ」といった医学用語では,英語と日本語が全く同一語義でずれるところがないが,comeやgoといった例では,それぞれ「来る」や「行く」は訳語のひとつでしかなく,英語と日本語における物理的意味や文化的意味の分布に大きな違いが見られる。

このことは,それぞれの語を同規模の英和辞典と国語辞典を引き比べてみれば一目瞭然である。外国語学習の際にやっかいなのは,このように外国語と母語で対応する単語の意味用法にかなりの差が見られるものがあることである。特に,外国語に対応する母語の意味・用法や訳語が多岐にわたる場合は,早期から外国語の意味分布を概念化して,場面に応じた母語で表現できるようにしておくことが必要である。

たとえば,putの場合,「置く」というのはあくまで基本的概念であって,「載せる」,「入れる」,「付ける」,「しまう」など,「置く」の守備範囲をはるかに超える訳語を文脈に応じて使い分ける必要がある。putを使いこなすには,そのような文脈をより多く経験するしかないが,『ウィズダム英和辞典』では,語義の一部として与える訳語だけではなく,語源,コーパス頻度ランク,用例,表現欄などによって,全体像をつかみやすくする工夫を凝らしている。

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【筆者プロフィール】
井上 永幸 (いのうえ・ながゆき)

徳島大学総合科学部教授。
専門は英語学(現代英語の文法と語法),コーパス言語学,辞書学。
編纂に携わった辞書は『ジーニアス英和辞典初版』(大修館書店),『英語基本形容詞・副詞辞典』(研究社出版),『ニューセンチュリー和英辞典2版』(三省堂),『ジーニアス英和大辞典』(大修館書店)など多数。


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