人名用漢字の新字旧字:「无」と「無」と「𣠮」

2017年 1月 26日 木曜日 筆者: 安岡 孝一

第125回 「无」と「無」と「𣠮」

125nothing-old.png新字の「无」は、常用漢字でも人名用漢字でもないので、子供の名づけに使えません。旧字の「𣠮」も、常用漢字でも人名用漢字でもないので、子供の名づけに使えません。こんな妙なことになってしまった原因は、俗字の「無」が当用漢字になってしまったからなのです。なお、「无」と「𣠮」の新旧には議論があるのですが、ここでは「无」を新字、「𣠮」を旧字としておきましょう。

昭和17年6月17日、国語審議会は標準漢字表2528字を、文部大臣に答申しました。標準漢字表は、各官庁および一般社会で使用する漢字の標準を示したもので、火部に俗字の「無」が収録されていましたが、新字の「无」や旧字の「𣠮」は収録されていませんでした。文部省は12月4日に標準漢字表を発表しましたが、そこでも俗字の「無」だけが含まれていて、新字の「无」や旧字の「𣠮」は含まれていませんでした。

昭和21年4月27日、国語審議会に提出された常用漢字表1295字には、火部に俗字の「無」が含まれていて、新字の「无」や旧字の「𣠮」は含まれていませんでした。国語審議会が11月5日に答申した当用漢字表でも、俗字の「無」だけが含まれていました。翌週11月16日に当用漢字表は内閣告示され、俗字の「無」は当用漢字になりました。昭和23年1月1日に戸籍法が改正され、子供の名づけに使える漢字が、この時点での当用漢字表1850字に制限されました。当用漢字表には俗字の「無」が収録されていたので、「無」は子供の名づけに使ってよい漢字になりました。新字の「无」や旧字の「𣠮」は、子供の名づけに使えなくなってしまいました。

それから半世紀の後、平成16年3月26日に法制審議会のもとで発足した人名用漢字部会は、「常用平易」な漢字であればどんな漢字でも人名用漢字として追加する、という方針を打ち出しました。この方針にしたがって人名用漢字部会は、当時最新の漢字コード規格JIS X 0213(平成16年2月20日改正版)、文化庁が表外漢字字体表のためにおこなった漢字出現頻度数調査(平成12年3月)、全国の出生届窓口で平成2年以降に不受理とされた漢字、の3つをもとに審議をおこないました。新字の「无」は、全国50法務局のうち出生届を拒否された管区は無く、JIS第2水準漢字で、漢字出現頻度数調査の結果が106回でした。この結果、新字の「无」は「常用平易」とはみなされず、人名用漢字に追加されませんでした。一方、旧字の「𣠮」は、そもそもJIS第1~4水準漢字に含まれていないので、追加対象になりませんでした。

平成23年12月26日、法務省は入国管理局正字13287字を告示しました。入国管理局正字は、日本に住む外国人が住民票や在留カード等の氏名に使える漢字で、新字の「无」と俗字の「無」を含んでいました。しかし、入国管理局正字にも、旧字の「𣠮」は含まれていませんでした。この結果、日本で生まれた外国人の子供の出生届には、俗字の「無」に加え、新字の「无」も書けるようになりましたが、旧字の「𣠮」はダメなのです。これに対し、日本人の子供の出生届には、俗字の「無」はOKですが、新字の「无」や旧字の「𣠮」はダメなのです。

【筆者プロフィール】

安岡孝一(やすおか・こういち)

京都大学人文科学研究所附属東アジア人文情報学研究センター教授。京都大学博士(工学)。文字コード研究のかたわら、電信技術や文字処理技術の歴史に興味を持ち、世界各地の図書館や博物館を渡り歩いて調査を続けている。著書に『新しい常用漢字と人名用漢字』(三省堂)『キーボード配列QWERTYの謎』(NTT出版)『文字符号の歴史―欧米と日本編―』(共立出版)などがある。

http://srad.jp/~yasuoka/journalで、断続的に「日記」を更新中。


人名用漢字の新字旧字:「図」と「圖」

2017年 1月 12日 木曜日 筆者: 安岡 孝一

第124回 「図」と「圖」

旧字の「圖」は、常用漢字でも人名用漢字でもないので、子供の名づけに使えません。俗字の「图」は、「圖」の「啚」の代わりに「冬」を入れた形声文字ですが、常用漢字でも人名用漢字でもないので、子供の名づけに使えません。新字の「図」は、「图」がさらに省略されたと推測される文字ですが、常用漢字なので子供の名づけに使えます。

昭和17年6月17日、国語審議会は標準漢字表を、文部大臣に答申しました。標準漢字表は、各官庁および一般社会で使用する漢字の標準を示したもので、部首画数順に2528字が収録されていました。標準漢字表の囗部には「圖」が含まれていて、その直後に、カッコ書きで「図」が添えられていました。「圖(図)」となっていたわけです。簡易字体の「図」は、「圖」の代わりに使っても差し支えない字、ということになっていました。

昭和21年11月5日、国語審議会が答申した当用漢字表では、囗部に「図」が含まれていて、その直後に、カッコ書きで「圖」が添えられていました。「図(圖)」となっていたのです。翌週11月16日に当用漢字表は内閣告示され、新字の「図」は当用漢字になりました。昭和23年1月1日に戸籍法が改正され、子供の名づけに使える漢字が、この時点での当用漢字表1850字に制限されました。当用漢字表には、新字の「図」が収録されていたので、「図」は子供の名づけに使ってよい漢字になりました。旧字の「圖」や俗字の「图」は、子供の名づけに使えなくなりました。

昭和56年3月23日、国語審議会が答申した常用漢字表では、やはり「図(圖)」となっていました。これに対し、民事行政審議会は、常用漢字表のカッコ書きの旧字を子供の名づけに認めるかどうか、審議を続けていました。昭和56年4月22日の総会で、民事行政審議会は妥協案を選択します。常用漢字表のカッコ書きの旧字355組357字のうち、当用漢字表に収録されていた旧字195字だけを子供の名づけに認める、という妥協案です。昭和56年10月1日に常用漢字表は内閣告示され、新字の「図」は常用漢字になりました。しかし、旧字の「圖」は人名用漢字になれませんでした。旧字の「圖」は、常用漢字表のカッコ書きに入ってるけど当用漢字表に収録されてなかったからダメ、となったのです。

平成16年3月26日に法制審議会のもとで発足した人名用漢字部会は、常用漢字や人名用漢字の異体字であっても、「常用平易」な漢字であれば人名用漢字として追加する、という方針を打ち出しました。この方針にしたがって人名用漢字部会は、当時最新の漢字コード規格JIS X 0213(平成16年2月20日改正版)、平成12年3月に文化庁が書籍385誌に対しておこなった漢字出現頻度数調査、全国の出生届窓口で平成2年以降に不受理とされた漢字、の3つをもとに審議をおこないました。旧字の「圖」は、全国50法務局のうち出生届を拒否された管区は無く、JIS第2水準漢字で、漢字出現頻度数調査の結果が79回でした。この結果、旧字の「圖」は「常用平易」とはみなされず、人名用漢字に追加されませんでした。一方、俗字の「图」は、そもそもJIS第1~4水準漢字に含まれていないので、追加対象になりませんでした。

平成23年12月26日、法務省は入国管理局正字13287字を告示しました。入国管理局正字は、日本に住む外国人が住民票や在留カード等の氏名に使える漢字で、新字の「図」と旧字の「圖」を含んでいました。しかし、入国管理局正字にも、俗字の「图」は含まれておらず、「図」もしくは「圖」への書き換えが強制されました。この結果、日本で生まれた外国人の子供の出生届には、新字の「図」に加え、旧字の「圖」も書けるようになりましたが、俗字の「图」はダメなのです。これに対し、日本人の子供の出生届には、新字の「図」はOKですが、旧字の「圖」や俗字の「图」はダメなのです。

【筆者プロフィール】

安岡孝一(やすおか・こういち)

京都大学人文科学研究所附属東アジア人文情報学研究センター教授。京都大学博士(工学)。文字コード研究のかたわら、電信技術や文字処理技術の歴史に興味を持ち、世界各地の図書館や博物館を渡り歩いて調査を続けている。著書に『新しい常用漢字と人名用漢字』(三省堂)『キーボード配列QWERTYの謎』(NTT出版)『文字符号の歴史―欧米と日本編―』(共立出版)などがある。

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人名用漢字の新字旧字:干支と人名用漢字

2017年 1月 5日 木曜日 筆者: 安岡 孝一

特別編:干支と人名用漢字

今年2017年の干支は、丁酉(ひのととり)。さて、干支すなわち十干十二支の漢字は、子供の名づけに使えるのでしょうか。

十干は、甲(きのえ)・乙(きのと)・丙(ひのえ)・丁(ひのと)・戊(つちのえ)・己(つちのと)・庚(かのえ)・辛(かのと)・壬(みずのえ)・癸(みずのと)の漢字が、10年周期で巡っています。十二支は、子(ね)・丑(うし)・寅(とら)・卯(う)・辰(たつ)・巳(み)・午(うま)・未(ひつじ)・申(さる)・酉(とり)・戌(いぬ)・亥(い)の漢字が、12年周期で巡っています。これら22の漢字のうち、当用漢字表に含まれていたのは、甲・乙・丙・丁・己・辛・子・午・未・申の10字だけでした。1948年1月1日の戸籍法改正で、残りの12字(戊・庚・壬・癸・丑・寅・卯・辰・巳・酉・戌・亥)は、子供の名づけに使えなくなってしまったのです。ちなみに、1948年の干支は戊子(つちのえね)でした。

1951年5月14日、国語審議会は人名漢字に関する建議を発表し、丑・寅・卯・辰・巳・酉・亥を含む92字を、子供の名づけに使えるよう提案しました。翌週25日、この92字は人名用漢字別表として内閣告示され、結果として、十二支の漢字のうち戌を除く11字が、出生届に書いてOKとなりました。ちなみに、1951年の干支は辛卯(かのとう)でした。

2004年3月26日、法制審議会のもとで発足した人名用漢字部会は、「常用平易」な漢字であればどんな漢字でも人名用漢字として追加する、という方針を打ち出しました。この方針にしたがって人名用漢字部会は、当時最新の漢字コード規格JIS X 0213(2004年2月20日改正版)、文化庁が表外漢字字体表のためにおこなった漢字出現頻度数調査(2000年3月)、全国の出生届窓口で1990年以降に不受理とされた漢字、の3つをもとに審議をおこないました。戊はJIS第1水準漢字で、漢字出現頻度数調査の結果が260回でしたが、全国50法務局中で出生届を拒否された管区はありませんでした。庚は第1水準漢字で、頻度数が271回で、4つの管区で出生届を拒否されていました。壬は第1水準漢字で、頻度数が418回で、5つの管区で出生届を拒否されていました。癸は第2水準漢字で、頻度数が135回で、1つの管区で出生届を拒否されていました。戌は第2水準漢字で、頻度数が193回で、出生届を拒否された管区はありませんでした。

2004年9月8日、法制審議会は人名用漢字の追加候補488字を答申しました。この488字には、戊・庚・壬が含まれていましたが、癸・戌は含まれていませんでした。癸と戌は「常用平易」だと認められなかったのです。9月27日の戸籍法規則改正で、これら488字は全て人名用漢字に追加されました。この結果、干支の漢字22字のうち20字が、出生届に書いてOKとなりました。癸と戌は、現在も子供の名づけに使えません。癸戌(みずのといぬ)という干支が存在しないことが、不幸中の幸いと言えるでしょう。ちなみに、2004年の干支は甲申(きのえさる)でした。

なお、西暦から干支を計算する場合は、甲子(きのえね)は西暦を60で割った余りが4になる、ということを覚えておくと便利です。それはすなわち、十干が甲の年は西暦の末尾が4で、十二支が子の年は西暦を12で割った余りが4だということです。ただし、太陰暦と西暦はピッタリ一致しないので、その点は注意して下さいね。

【筆者プロフィール】

安岡孝一(やすおか・こういち)

京都大学人文科学研究所附属東アジア人文情報学研究センター教授。京都大学博士(工学)。文字コード研究のかたわら、電信技術や文字処理技術の歴史に興味を持ち、世界各地の図書館や博物館を渡り歩いて調査を続けている。著書に『新しい常用漢字と人名用漢字』(三省堂)『キーボード配列QWERTYの謎』(NTT出版)『文字符号の歴史―欧米と日本編―』(共立出版)などがある。

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人名用漢字の新字旧字:「灿」と「燦」

2016年 12月 22日 木曜日 筆者: 安岡 孝一

第123回 「灿」と「燦」

123sansan-new.png昭和17年6月17日、国語審議会は標準漢字表2528字を、文部大臣に答申しました。標準漢字表は、各官庁および一般社会で使用する漢字の標準を示したもので、火部に旧字の「燦」を収録していましたが、新字の「灿」は収録されていませんでした。昭和17年12月4日、文部省は標準漢字表を発表しましたが、そこでも旧字の「燦」だけが含まれていて、新字の「灿」は含まれていませんでした。

昭和21年11月5日、国語審議会は当用漢字表1850字を、文部大臣に答申しました。この当用漢字表で、国語審議会は、旧字の「燦」を削除してしまいました。「燦燦」以外の用例が少なく、当用漢字表には不要だと判断されたのです。当用漢字表は、翌週11月16日に内閣告示されましたが、やはり「燦」も「灿」も収録されていませんでした。そして、昭和23年1月1日に戸籍法が改正された結果、「燦」も「灿」も子供の名づけに使えなくなってしまったのです。

平成元年2月13日に発足した民事行政審議会では、人名用漢字の追加が議論されました。法務省民事局が全国の市区町村を対象におこなった調査(昭和63年5月)で、200以上の漢字が人名用漢字の追加候補として挙がっており、その中に旧字の「燦」も含まれていました。調査における「燦」の出現順位は、79位でした。昭和61年に美空ひばりが『愛燦燦』という唄を売り出し、「燦」を名に含む出生届が、日本のどこかで不受理になっていたのです。人名用漢字にどの漢字を追加すべきか決めるために、審議会委員28人は2回の投票(複数の漢字に投票可)をおこないました。「燦」は1回目の投票で7票、2回目の投票で6票を集めました。

民事行政審議会は平成2年1月16日、新たに人名用漢字に追加すべき漢字として、「燦」を含む118字を法務大臣に答申しました。平成2年3月1日、戸籍法施行規則が改正され、これら118字は全て人名用漢字に追加されました。この戸籍法施行規則は、平成2年4月1日に施行され、旧字の「燦」が子供の名づけに使えるようになりました。

平成23年12月26日、法務省は入国管理局正字13287字を告示しました。入国管理局正字は、日本に住む外国人が住民票や在留カード等の氏名に使える漢字で、旧字の「燦」を含んでいました。しかし、入国管理局正字にも、新字の「灿」は含まれておらず、旧字の「燦」への書き換えが強制されました。この結果、日本で生まれた子供の出生届には、日本人であっても外国人であっても、旧字の「燦」だけがOKで、新字の「灿」はダメなのです。

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安岡孝一(やすおか・こういち)

京都大学人文科学研究所附属東アジア人文情報学研究センター教授。京都大学博士(工学)。文字コード研究のかたわら、電信技術や文字処理技術の歴史に興味を持ち、世界各地の図書館や博物館を渡り歩いて調査を続けている。著書に『新しい常用漢字と人名用漢字』(三省堂)『キーボード配列QWERTYの謎』(NTT出版)『文字符号の歴史―欧米と日本編―』(共立出版)などがある。

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人名用漢字の新字旧字:「庄」と「荘」と「莊」

2016年 12月 8日 木曜日 筆者: 安岡 孝一

第122回 「庄」と「荘」と「莊」

新字の「荘」は常用漢字なので、子供の名づけに使えます。旧字の「莊」と俗字の「庄」は、いずれも人名用漢字なので、子供の名づけに使えます。どういう経緯で、子供の名づけに使えるようになったのでしょう。

昭和15年12月15日、国語協会は『標準名づけ読本』を発表しました。『標準名づけ読本』は、やさしくわかりやすい名前を子供につけることで国字運動の一翼を担おう、という意図のもとに編纂されたもので、端的に言えば、子供の名づけに用いる漢字を500字に制限しようとするものでした。この500字の中に、俗字の「庄」が含まれていました。

昭和17年6月17日、国語審議会は標準漢字表を、文部大臣に答申しました。標準漢字表は、各官庁および一般社会で使用する漢字の標準を示したもので、部首画数順に2528字が収録されており、艸部に、旧字の「莊」が含まれていました。昭和17年12月4日、文部省は標準漢字表を発表しましたが、そこでも旧字の「莊」が収録されていました。

昭和21年11月16日に内閣告示された当用漢字表にも、旧字の「莊」が収録されていました。ただし、当用漢字表のまえがきには「字体と音訓の整理については、調査中である」と書かれていました。当用漢字表の字体は、まだ変更される可能性があったのです。昭和23年1月1日に戸籍法が改正され、子供の名づけに使える漢字が、この時点での当用漢字表1850字に制限されました。当用漢字表には、旧字の「莊」が収録されていたので、「莊」は子供の名づけに使ってよい漢字になりました。新字の「荘」や俗字の「庄」は、子供の名づけに使えなくなりました。

昭和24年4月28日に内閣告示された当用漢字字体表では、新字の「荘」が収録されていました。当用漢字表にある旧字の「莊」と、当用漢字字体表にある新字の「荘」と、どちらが子供の名づけに使えるのかが問題になりましたが、この問題に対し法務府民事局は、旧字の「莊」も新字の「荘」もどちらも子供の名づけに使ってよい、と回答しました(昭和24年6月29日)。

昭和26年3月13日、国語審議会のもと発足した固有名詞部会では、子供の名づけに使える漢字を、当用漢字以外にも増やす方向で議論が進みました。固有名詞部会は『標準名づけ読本』の500字をチェックし、500字のうち75字が当用漢字に含まれていないことを確認しました。この75字の中に、俗字の「庄」が含まれていたのです。固有名詞部会は、この75字に17字を加えた92字を、追加すべき人名用漢字として国語審議会に報告しました。これを受けて、国語審議会は昭和26年5月14日、人名漢字に関する建議を発表しました。翌週25日、この92字は人名用漢字別表として内閣告示され、俗字の「庄」が子供の名づけに使えるようになりました。

昭和56年3月23日、国語審議会が答申した常用漢字表では、「荘(莊)」となっていました。昭和56年10月1日に常用漢字表は内閣告示され、新字の「荘」は常用漢字になりました。それと同時に、旧字の「莊」と俗字の「庄」は人名用漢字になりました。それが現在も続いていて、「庄」も「荘」も「莊」も出生届に書いてOKなのです。

【筆者プロフィール】

安岡孝一(やすおか・こういち)

京都大学人文科学研究所附属東アジア人文情報学研究センター教授。京都大学博士(工学)。文字コード研究のかたわら、電信技術や文字処理技術の歴史に興味を持ち、世界各地の図書館や博物館を渡り歩いて調査を続けている。著書に『新しい常用漢字と人名用漢字』(三省堂)『キーボード配列QWERTYの謎』(NTT出版)『文字符号の歴史―欧米と日本編―』(共立出版)などがある。

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人名用漢字の新字旧字:「舗」と「舖」と「鋪」

2016年 11月 24日 木曜日 筆者: 安岡 孝一

第121回 「舗」と「舖」と「鋪」

新字の「舗」は常用漢字なので、子供の名づけに使えます。旧字の「鋪」は、常用漢字でも人名用漢字でもないので、子供の名づけに使えません。ただ、「舗」と「鋪」の間には、俗字の「舖」があって、これが話をややこしくしているのです。

昭和17年6月17日、国語審議会は標準漢字表を、文部大臣に答申しました。標準漢字表は、各官庁および一般社会で使用する漢字の標準を示したもので、部首画数順に2528字が収録されており、金部に、旧字の「鋪」が含まれていました。昭和17年12月4日、文部省は標準漢字表を発表しましたが、 そこでも旧字の「鋪」が収録されていました。

ところが、昭和21年11月5日に国語審議会が答申した当用漢字表では、舌部に俗字の「舖」が収録されていて、旧字の「鋪」はどこにも収録されていませんでした。翌週11月16日に当用漢字表は内閣告示され、俗字の「舖」は当用漢字になりました。ただし、当用漢字表のまえがきには「字体と音訓の整理については、調査中である」と書かれていました。当用漢字表の字体は、まだ変更される可能性があったのです。

字体の整理をおこなうべく、文部省教科書局国語課は昭和22年7月15日、活字字体整理に関する協議会を発足させました。活字字体整理に関する協議会は、昭和22年10月10日に活字字体整理案を国語審議会に報告しました。この活字字体整理案では、「舖」を「舗」へと整理することが提案されていました。報告を受けた国語審議会では、昭和22年12月から昭和23年5月にかけて、字体整理に関する主査委員会を組織しました。この間、昭和23年1月1日に戸籍法が改正され、子供の名づけに使える漢字が、この時点での当用漢字表1850字に制限されました。当用漢字表には俗字の「舖」が収録されていたので、「舖」は子供の名づけに使ってよい漢字になりました。旧字の「鋪」や新字の「舗」は、子供の名づけに使えなくなりました。

昭和24年4月28日に内閣告示された当用漢字字体表では、新字の「舗」が収録されていました。活字字体整理案に従った結果、新字の「舗」が当用漢字となり、俗字の「舖」は当用漢字ではなくなってしまったのです。当用漢字表にある俗字の「舖」と、当用漢字字体表にある新字の「舗」と、どちらが子供の名づけに使えるのかが問題になりましたが、この問題に対し法務府民事局は、俗字の「舖」も新字の「舗」もどちらも子供の名づけに使ってよい、と回答しました(昭和24年6月29日)。つまり、昭和24年の時点で、俗字の「舖」も新字の「舗」も、どちらも出生届に書いてOKとなったのですが、旧字の「鋪」はダメだったのです。

昭和56年3月23日、国語審議会が答申した常用漢字表では、新字の「舗」が収録されました。旧字の「鋪」も俗字の「舖」も、カッコ書きにすら入っていなかったのです。昭和56年4月22日、民事行政審議会は、常用漢字表のカッコ書きの旧字355組357字のうち、当用漢字表に収録されていた旧字195字だけを子供の名づけに認めることにしました。俗字の「舖」はカッコ書きに入っていないので、今後は子供の名づけには認めない、と決定したのです。昭和56年10月1日に常用漢字表は内閣告示され、新字の「舗」は常用漢字になりました。同じ日に、俗字の「舖」は子供の名づけに使えなくなってしまいました。

平成23年12月26日、法務省は入国管理局正字13287字を告示しました。入国管理局正字は、日本に住む外国人が住民票や在留カード等の氏名に使える漢字で、「舗」も「舖」も「鋪」も収録していました。この結果、日本で生まれた外国人の子供の出生届には、新字の「舗」に加え、俗字の「舖」も旧字の「鋪」も書けるようになりました。でも、日本人の子供の出生届には、新字の「舗」はOKですが、「舖」や「鋪」はダメなのです。

【筆者プロフィール】

安岡孝一(やすおか・こういち)

京都大学人文科学研究所附属東アジア人文情報学研究センター教授。京都大学博士(工学)。文字コード研究のかたわら、電信技術や文字処理技術の歴史に興味を持ち、世界各地の図書館や博物館を渡り歩いて調査を続けている。著書に『新しい常用漢字と人名用漢字』(三省堂)『キーボード配列QWERTYの謎』(NTT出版)『文字符号の歴史―欧米と日本編―』(共立出版)などがある。

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人名用漢字の新字旧字:「年」と「秊」

2016年 11月 10日 木曜日 筆者: 安岡 孝一

第120回 「年」と「秊」

新字の「年」は常用漢字なので、子供の名づけに使えます。旧字の「秊」は常用漢字でも人名用漢字でもないので、子供の名づけに使えません。旧字の「秊」は「禾」の下に「千」を書きますが、この「千」に関しては、音の「ネン」を表すという説や、「人」が「千」に変化したという説があります。前者の立場なら形声文字、後者の立場なら会意文字である可能性が高いでしょう。

昭和17年6月17日、国語審議会は標準漢字表2528字を、文部大臣に答申しました。標準漢字表は、各官庁および一般社会で使用する漢字の標準を示したもので、干部に「年」を収録していましたが、旧字の「秊」は収録されていませんでした。昭和17年12月4日、文部省は標準漢字表を発表しましたが、そこでも新字の「年」だけが含まれていて、旧字の「秊」は含まれていませんでした。

昭和21年11月5日、国語審議会が答申した当用漢字表にも、やはり新字の「年」が収録されていて、旧字の「秊」はカッコ書きにすら含まれていませんでした。翌週11月16日に当用漢字表は内閣告示され、新字の「年」は当用漢字になりました。昭和23年1月1日に戸籍法が改正され、子供の名づけに使える漢字が、この時点での当用漢字表1850字に制限されました。当用漢字表には新字の「年」が収録されていたので、「年」は子供の名づけに使ってよい漢字になりました。旧字の「秊」は子供の名づけに使えなくなりました。

それから半世紀の後、平成16年3月26日に法制審議会のもとで発足した人名用漢字部会は、「常用平易」な漢字であればどんな漢字でも人名用漢字として追加する、という方針を打ち出しました。この方針にしたがって人名用漢字部会は、当時最新の漢字コード規格JIS X 0213(平成16年2月20日改正版)、文化庁が表外漢字字体表のためにおこなった漢字出現頻度数調査(平成12年3月)、全国の出生届窓口で平成2年以降に不受理とされた漢字、の3つをもとに審議をおこないました。旧字の「秊」はJIS第3水準漢字で、漢字出現頻度数調査の結果が4回で、全国50法務局のうち出生届を拒否された管区はありませんでした。この結果、旧字の「秊」は「常用平易」とはみなされず、人名用漢字に追加されませんでした。

その一方で法務省は、平成23年12月26日に入国管理局正字13287字を告示しました。入国管理局正字は、日本に住む外国人が住民票や在留カード等の氏名に使える漢字で、JIS第1~4水準漢字を全て含んでいました。この結果、日本で生まれた外国人の子供の出生届には、新字の「年」に加え、旧字の「秊」が書けるようになりました。でも、日本人の子供の出生届には、新字の「年」はOKですが、旧字の「秊」はダメなのです。

【筆者プロフィール】

安岡孝一(やすおか・こういち)

京都大学人文科学研究所附属東アジア人文情報学研究センター教授。京都大学博士(工学)。文字コード研究のかたわら、電信技術や文字処理技術の歴史に興味を持ち、世界各地の図書館や博物館を渡り歩いて調査を続けている。著書に『新しい常用漢字と人名用漢字』(三省堂)『キーボード配列QWERTYの謎』(NTT出版)『文字符号の歴史―欧米と日本編―』(共立出版)などがある。

http://srad.jp/~yasuoka/journalで、断続的に「日記」を更新中。


人名用漢字の新字旧字:「頼」と「賴」

2016年 10月 27日 木曜日 筆者: 安岡 孝一

第119回 「頼」と「賴」

昭和17年6月17日、国語審議会は標準漢字表を、文部大臣に答申しました。標準漢字表は、各官庁および一般社会で使用する漢字の標準を示したもので、部首画数順に2528字が収録されており、貝部に、旧字の「賴」が含まれていました。昭和17年12月4日、文部省は標準漢字表を発表しましたが、 そこでも旧字の「賴」が収録されていました。

昭和21年11月5日、国語審議会が答申した当用漢字表にも、旧字の「賴」が収録されていました。翌週11月16日に当用漢字表は内閣告示され、旧字の「賴」は当用漢字になりました。ただし、当用漢字表のまえがきには「字体と音訓の整理については、調査中である」と書かれていました。当用漢字表の字体は、まだ変更される可能性があったのです。

字体の整理をおこなうべく、文部省教科書局国語課は昭和22年7月15日、活字字体整理に関する協議会を発足させました。活字字体整理に関する協議会は、昭和22年10月10日に活字字体整理案を国語審議会に報告しました。この活字字体整理案では、「賴」を「頼」へと整理することが提案されていました。

報告を受けた国語審議会では、昭和22年12月から昭和23年5月にかけて、字体整理に関する主査委員会を組織しました。この間、昭和23年1月1日に戸籍法が改正され、子供の名づけに使える漢字が、この時点での当用漢字表1850字に制限されました。当用漢字表には旧字の「賴」が収録されていたので、「賴」は子供の名づけに使ってよい漢字になりました。新字の「頼」は、子供の名づけに使えなくなりました。

昭和24年4月28日に内閣告示された当用漢字字体表では、新字の「頼」が収録されていました。活字字体整理案に従った結果、新字の「頼」が当用漢字となり、旧字の「賴」は当用漢字ではなくなってしまったのです。当用漢字表にある旧字の「賴」と、当用漢字字体表にある新字の「頼」と、どちらが子供の名づけに使えるのかが問題になりましたが、この問題に対し法務府民事局は、旧字の「賴」も新字の「頼」もどちらも子供の名づけに使ってよい、と回答しました(昭和24年6月29日)。つまり、昭和24年の時点で、旧字の「賴」も新字の「頼」も、どちらも出生届に書いてOKとなったのです。

昭和56年3月23日、国語審議会が答申した常用漢字表では、「頼(賴)」となっていました。これに対し、民事行政審議会は、常用漢字表のカッコ書きの旧字を子供の名づけに認めるかどうか、審議を続けていました。昭和56年4月22日の総会で、民事行政審議会は妥協案を選択します。常用漢字表のカッコ書きの旧字355組357字のうち、当用漢字表に収録されていた旧字195字だけを子供の名づけに認める、という妥協案です。昭和56年10月1日に常用漢字表は内閣告示され、「頼」は常用漢字になりました。同時に「賴」は人名用漢字になりました。それが現在も続いていて、旧字の「賴」も新字の「頼」も、どちらも子供の名づけに使えるのです。

【筆者プロフィール】

安岡孝一(やすおか・こういち)

京都大学人文科学研究所附属東アジア人文情報学研究センター教授。京都大学博士(工学)。文字コード研究のかたわら、電信技術や文字処理技術の歴史に興味を持ち、世界各地の図書館や博物館を渡り歩いて調査を続けている。著書に『新しい常用漢字と人名用漢字』(三省堂)『キーボード配列QWERTYの謎』(NTT出版)『文字符号の歴史―欧米と日本編―』(共立出版)などがある。

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人名用漢字の新字旧字:「梨」と「棃」

2016年 10月 13日 木曜日 筆者: 安岡 孝一

第118回 「梨」と「棃」

新字の「梨」は常用漢字なので、子供の名づけに使えます。旧字の「棃」は、常用漢字でも人名用漢字でもないので、子供の名づけに使えません。「梨」は出生届に書いてOKですが、「棃」はダメ。どうして、こんなことになっているのでしょう。

昭和17年6月17日、国語審議会は標準漢字表を、文部大臣に答申しました。標準漢字表は、各官庁および一般社会で使用する漢字の標準を示したもので、部首画数順に2528字が収録されていました。標準漢字表の木部には、新字の「梨」が収録されていましたが、旧字の「棃」はカッコ書きにすらなっておらず、標準漢字表のどこにも収録されていませんでした。昭和17年12月4日、文部省は標準漢字表を発表しましたが、そこでも新字の「梨」だけが含まれていて、旧字の「棃」は含まれていませんでした。

昭和21年11月5日、国語審議会は当用漢字表を、文部大臣に答申しました。この当用漢字表で、国語審議会は、新字の「梨」を削除してしまいました。当用漢字表は「使用上の注意事項」で「動植物の名称は、かな書きにする」としており、このルールに従えば、新字の「梨」も旧字の「棃」も、当用漢字表には不要だと判断されたのです。当用漢字表は、翌週11月16日に内閣告示されましたが、やはり「梨」も「棃」も収録されていませんでした。そして、昭和23年1月1日に戸籍法が改正された結果、「梨」も「棃」も子供の名づけに使えなくなってしまったのです。

当用漢字1850字と人名用漢字92字では子供の名づけに足りない、という国民の声を受けて、法務省民事局は昭和50年7月、子供の名づけに使える漢字として追加すべきものを、全国の市区町村を対象に調査しました。さらに法務省民事局は、法務大臣の私的諮問機関として、人名用漢字問題懇談会を発足させ、人名用漢字に新たに28字を追加すべきだ、という結論を得ました(昭和51年5月25日)。この28字に、新字の「梨」が含まれていたのです。そして昭和51年7月30日、この28字は、人名用漢字追加表として内閣告示されました。この時点で、新字の「梨」が子供の名づけに使えるようになりましたが、旧字の「棃」はダメだったのです。

平成16年3月26日に法制審議会のもとで発足した人名用漢字部会は、当時最新の漢字コード規格JIS X 0213(平成16年2月20日改正版)、平成12年3月に文化庁が書籍385誌に対しておこなった漢字出現頻度数調査、全国の出生届窓口で平成2年以降に不受理とされた漢字、の3つをもとに審議をおこないました。旧字の「棃」は、出生届を拒否された管区は無く、漢字出現頻度数調査の結果が0回で、JIS第4水準漢字だったので、人名用漢字の追加候補になりませんでした。

その一方で法務省は、平成23年12月26日に入国管理局正字13287字を告示しました。入国管理局正字は、日本に住む外国人が住民票や在留カード等の氏名に使える漢字で、JIS第1~4水準漢字を全て含んでいました。この結果、日本で生まれた外国人の子供の出生届には、新字の「梨」に加え、旧字の「棃」が書けるようになりました。でも、日本人の子供の出生届には、新字の「梨」はOKですが、旧字の「棃」はダメなのです。

【筆者プロフィール】

安岡孝一(やすおか・こういち)

京都大学人文科学研究所附属東アジア人文情報学研究センター教授。京都大学博士(工学)。文字コード研究のかたわら、電信技術や文字処理技術の歴史に興味を持ち、世界各地の図書館や博物館を渡り歩いて調査を続けている。著書に『新しい常用漢字と人名用漢字』(三省堂)『キーボード配列QWERTYの謎』(NTT出版)『文字符号の歴史―欧米と日本編―』(共立出版)などがある。

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人名用漢字の新字旧字:韓国の人名用漢字は違憲か合憲か(最終回)

2016年 10月 6日 木曜日 筆者: 安岡 孝一

韓国の人名用漢字は違憲か合憲か(最終回)

第6回からつづく)

実際のところ、大法院における人名用漢字の追加過程は非公開で、どのような基準で新たな人名用漢字が追加されているのか、うかがい知ることができません。最近では2014年10月に、新しい人名用漢字をプレレビューにかけていましたが、それらの漢字の選定過程は公開されませんでした。その結果、「KSコード」との連携はおろか、Unicodeへの追加もままならず、独自の漢字コードで家族関係登録簿の電算システムを動かす、という状況なのかもしれません。

さて、ここまでの議論を、合憲派(法廷意見)は以下のようにまとめます。

以上の様々な事情を総合して見るに、審判対象条項は侵害の最小性原則に違反せず、通常使われない漢字の使用による当事者や利害関係者の不便を解消し、家族関係登録業務の電算化を通じた行政業務の効率性向上という公益との衡量にも、法益間の比例関係を維持していると見ることができる。
したがって、審判対象条項が過剰禁止原則に違反し、請求人が子の名を付ける自由を侵害していると見るには難しい。

一方、違憲派(反対意見)は以下のようにまとめます。

結局、漢字の全面的な使用を許容したとしても、必要に応じて例外規定を置くことでその立法目的を達成できるにもかかわらず、審判対象条項は、国民に対し国家が定めた「人名用漢字」という基準に合わせることを強制することで、基本権で保護される「両親が子の名を付ける自由」を一律的に制限しており、侵害の最小性原則に背いている。
当事者や利害関係人の不便の防止、あるいは行政の便宜を図るという公益に較べ、審判対象条項により両親が子の名を自由に付けられなくなることで生ずる基本権侵害が、はるかに重大だと見ることができるから、審判対象条項は法益の均衡性も備えていない。
したがって、審判対象条項は過剰禁止原則に違反し、請求人が子の名を付ける自由を侵害している。

当然ながら、全く逆の結論です。そして、合憲派6人、違憲派3人で、憲法裁判所としては「人名用漢字は合憲である」との決定に至りました。

主文
この事件審判請求を全部棄却する。

宣告日は2016年7月28日。2015年9月30日の審判請求から、ほぼ10ヶ月を要しました。

現実論として、いずれ「嫪」は、韓国の人名用漢字に追加されるのでしょう。KS X 1027-1に含まれていますし、Unicodeにも含まれているので、技術的に大きな問題は無いはずです。あとは、いつ大法院が、「家族関係の登録等に関する規則」の別表1を改正するのか、という点だけです。

その意味で韓国の人名用漢字は、いくつか問題はあるものの、日本の人名用漢字に比べれば、まだうまく運用されているように思えます。なかでも「救済措置」は、そこそこ動作しているらしく、「獠」が韓国の人名用漢字に追加されたのは、うらやましい限りです。日本の「戸籍法」における「常用平易」と、韓国の「家族関係の登録等に関する法律」における「通常使われる漢字」との間に、そんなに違いがあるとは思えないのですが、結果的には大きな差となっているのが現実のようです。

【筆者プロフィール】

安岡孝一(やすおか・こういち)

京都大学人文科学研究所附属東アジア人文情報学研究センター教授。京都大学博士(工学)。文字コード研究のかたわら、電信技術や文字処理技術の歴史に興味を持ち、世界各地の図書館や博物館を渡り歩いて調査を続けている。著書に『新しい常用漢字と人名用漢字』(三省堂)『キーボード配列QWERTYの謎』(NTT出版)『文字符号の歴史―欧米と日本編―』(共立出版)などがある。

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