人名用漢字の新字旧字:「庄」と「荘」と「莊」

2016年 12月 8日 木曜日 筆者: 安岡 孝一

第122回 「庄」と「荘」と「莊」

新字の「荘」は常用漢字なので、子供の名づけに使えます。旧字の「莊」と俗字の「庄」は、いずれも人名用漢字なので、子供の名づけに使えます。どういう経緯で、子供の名づけに使えるようになったのでしょう。

昭和15年12月15日、国語協会は『標準名づけ読本』を発表しました。『標準名づけ読本』は、やさしくわかりやすい名前を子供につけることで国字運動の一翼を担おう、という意図のもとに編纂されたもので、端的に言えば、子供の名づけに用いる漢字を500字に制限しようとするものでした。この500字の中に、俗字の「庄」が含まれていました。

昭和17年6月17日、国語審議会は標準漢字表を、文部大臣に答申しました。標準漢字表は、各官庁および一般社会で使用する漢字の標準を示したもので、部首画数順に2528字が収録されており、艸部に、旧字の「莊」が含まれていました。昭和17年12月4日、文部省は標準漢字表を発表しましたが、そこでも旧字の「莊」が収録されていました。

昭和21年11月16日に内閣告示された当用漢字表にも、旧字の「莊」が収録されていました。ただし、当用漢字表のまえがきには「字体と音訓の整理については、調査中である」と書かれていました。当用漢字表の字体は、まだ変更される可能性があったのです。昭和23年1月1日に戸籍法が改正され、子供の名づけに使える漢字が、この時点での当用漢字表1850字に制限されました。当用漢字表には、旧字の「莊」が収録されていたので、「莊」は子供の名づけに使ってよい漢字になりました。新字の「荘」や俗字の「庄」は、子供の名づけに使えなくなりました。

昭和24年4月28日に内閣告示された当用漢字字体表では、新字の「荘」が収録されていました。当用漢字表にある旧字の「莊」と、当用漢字字体表にある新字の「荘」と、どちらが子供の名づけに使えるのかが問題になりましたが、この問題に対し法務府民事局は、旧字の「莊」も新字の「荘」もどちらも子供の名づけに使ってよい、と回答しました(昭和24年6月29日)。

昭和26年3月13日、国語審議会のもと発足した固有名詞部会では、子供の名づけに使える漢字を、当用漢字以外にも増やす方向で議論が進みました。固有名詞部会は『標準名づけ読本』の500字をチェックし、500字のうち75字が当用漢字に含まれていないことを確認しました。この75字の中に、俗字の「庄」が含まれていたのです。固有名詞部会は、この75字に17字を加えた92字を、追加すべき人名用漢字として国語審議会に報告しました。これを受けて、国語審議会は昭和26年5月14日、人名漢字に関する建議を発表しました。翌週25日、この92字は人名用漢字別表として内閣告示され、俗字の「庄」が子供の名づけに使えるようになりました。

昭和56年3月23日、国語審議会が答申した常用漢字表では、「荘(莊)」となっていました。昭和56年10月1日に常用漢字表は内閣告示され、新字の「荘」は常用漢字になりました。それと同時に、旧字の「莊」と俗字の「庄」は人名用漢字になりました。それが現在も続いていて、「庄」も「荘」も「莊」も出生届に書いてOKなのです。

【筆者プロフィール】

安岡孝一(やすおか・こういち)

京都大学人文科学研究所附属東アジア人文情報学研究センター教授。京都大学博士(工学)。文字コード研究のかたわら、電信技術や文字処理技術の歴史に興味を持ち、世界各地の図書館や博物館を渡り歩いて調査を続けている。著書に『新しい常用漢字と人名用漢字』(三省堂)『キーボード配列QWERTYの謎』(NTT出版)『文字符号の歴史―欧米と日本編―』(共立出版)などがある。

http://srad.jp/~yasuoka/journalで、断続的に「日記」を更新中。


人名用漢字の新字旧字:「舗」と「舖」と「鋪」

2016年 11月 24日 木曜日 筆者: 安岡 孝一

第121回 「舗」と「舖」と「鋪」

新字の「舗」は常用漢字なので、子供の名づけに使えます。旧字の「鋪」は、常用漢字でも人名用漢字でもないので、子供の名づけに使えません。ただ、「舗」と「鋪」の間には、俗字の「舖」があって、これが話をややこしくしているのです。

昭和17年6月17日、国語審議会は標準漢字表を、文部大臣に答申しました。標準漢字表は、各官庁および一般社会で使用する漢字の標準を示したもので、部首画数順に2528字が収録されており、金部に、旧字の「鋪」が含まれていました。昭和17年12月4日、文部省は標準漢字表を発表しましたが、 そこでも旧字の「鋪」が収録されていました。

ところが、昭和21年11月5日に国語審議会が答申した当用漢字表では、舌部に俗字の「舖」が収録されていて、旧字の「鋪」はどこにも収録されていませんでした。翌週11月16日に当用漢字表は内閣告示され、俗字の「舖」は当用漢字になりました。ただし、当用漢字表のまえがきには「字体と音訓の整理については、調査中である」と書かれていました。当用漢字表の字体は、まだ変更される可能性があったのです。

字体の整理をおこなうべく、文部省教科書局国語課は昭和22年7月15日、活字字体整理に関する協議会を発足させました。活字字体整理に関する協議会は、昭和22年10月10日に活字字体整理案を国語審議会に報告しました。この活字字体整理案では、「舖」を「舗」へと整理することが提案されていました。報告を受けた国語審議会では、昭和22年12月から昭和23年5月にかけて、字体整理に関する主査委員会を組織しました。この間、昭和23年1月1日に戸籍法が改正され、子供の名づけに使える漢字が、この時点での当用漢字表1850字に制限されました。当用漢字表には俗字の「舖」が収録されていたので、「舖」は子供の名づけに使ってよい漢字になりました。旧字の「鋪」や新字の「舗」は、子供の名づけに使えなくなりました。

昭和24年4月28日に内閣告示された当用漢字字体表では、新字の「舗」が収録されていました。活字字体整理案に従った結果、新字の「舗」が当用漢字となり、俗字の「舖」は当用漢字ではなくなってしまったのです。当用漢字表にある俗字の「舖」と、当用漢字字体表にある新字の「舗」と、どちらが子供の名づけに使えるのかが問題になりましたが、この問題に対し法務府民事局は、俗字の「舖」も新字の「舗」もどちらも子供の名づけに使ってよい、と回答しました(昭和24年6月29日)。つまり、昭和24年の時点で、俗字の「舖」も新字の「舗」も、どちらも出生届に書いてOKとなったのですが、旧字の「鋪」はダメだったのです。

昭和56年3月23日、国語審議会が答申した常用漢字表では、新字の「舗」が収録されました。旧字の「鋪」も俗字の「舖」も、カッコ書きにすら入っていなかったのです。昭和56年4月22日、民事行政審議会は、常用漢字表のカッコ書きの旧字355組357字のうち、当用漢字表に収録されていた旧字195字だけを子供の名づけに認めることにしました。俗字の「舖」はカッコ書きに入っていないので、今後は子供の名づけには認めない、と決定したのです。昭和56年10月1日に常用漢字表は内閣告示され、新字の「舗」は常用漢字になりました。同じ日に、俗字の「舖」は子供の名づけに使えなくなってしまいました。

平成23年12月26日、法務省は入国管理局正字13287字を告示しました。入国管理局正字は、日本に住む外国人が住民票や在留カード等の氏名に使える漢字で、「舗」も「舖」も「鋪」も収録していました。この結果、日本で生まれた外国人の子供の出生届には、新字の「舗」に加え、俗字の「舖」も旧字の「鋪」も書けるようになりました。でも、日本人の子供の出生届には、新字の「舗」はOKですが、「舖」や「鋪」はダメなのです。

【筆者プロフィール】

安岡孝一(やすおか・こういち)

京都大学人文科学研究所附属東アジア人文情報学研究センター教授。京都大学博士(工学)。文字コード研究のかたわら、電信技術や文字処理技術の歴史に興味を持ち、世界各地の図書館や博物館を渡り歩いて調査を続けている。著書に『新しい常用漢字と人名用漢字』(三省堂)『キーボード配列QWERTYの謎』(NTT出版)『文字符号の歴史―欧米と日本編―』(共立出版)などがある。

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人名用漢字の新字旧字:「年」と「秊」

2016年 11月 10日 木曜日 筆者: 安岡 孝一

第120回 「年」と「秊」

新字の「年」は常用漢字なので、子供の名づけに使えます。旧字の「秊」は常用漢字でも人名用漢字でもないので、子供の名づけに使えません。旧字の「秊」は「禾」の下に「千」を書きますが、この「千」に関しては、音の「ネン」を表すという説や、「人」が「千」に変化したという説があります。前者の立場なら形声文字、後者の立場なら会意文字である可能性が高いでしょう。

昭和17年6月17日、国語審議会は標準漢字表2528字を、文部大臣に答申しました。標準漢字表は、各官庁および一般社会で使用する漢字の標準を示したもので、干部に「年」を収録していましたが、旧字の「秊」は収録されていませんでした。昭和17年12月4日、文部省は標準漢字表を発表しましたが、そこでも新字の「年」だけが含まれていて、旧字の「秊」は含まれていませんでした。

昭和21年11月5日、国語審議会が答申した当用漢字表にも、やはり新字の「年」が収録されていて、旧字の「秊」はカッコ書きにすら含まれていませんでした。翌週11月16日に当用漢字表は内閣告示され、新字の「年」は当用漢字になりました。昭和23年1月1日に戸籍法が改正され、子供の名づけに使える漢字が、この時点での当用漢字表1850字に制限されました。当用漢字表には新字の「年」が収録されていたので、「年」は子供の名づけに使ってよい漢字になりました。旧字の「秊」は子供の名づけに使えなくなりました。

それから半世紀の後、平成16年3月26日に法制審議会のもとで発足した人名用漢字部会は、「常用平易」な漢字であればどんな漢字でも人名用漢字として追加する、という方針を打ち出しました。この方針にしたがって人名用漢字部会は、当時最新の漢字コード規格JIS X 0213(平成16年2月20日改正版)、文化庁が表外漢字字体表のためにおこなった漢字出現頻度数調査(平成12年3月)、全国の出生届窓口で平成2年以降に不受理とされた漢字、の3つをもとに審議をおこないました。旧字の「秊」はJIS第3水準漢字で、漢字出現頻度数調査の結果が4回で、全国50法務局のうち出生届を拒否された管区はありませんでした。この結果、旧字の「秊」は「常用平易」とはみなされず、人名用漢字に追加されませんでした。

その一方で法務省は、平成23年12月26日に入国管理局正字13287字を告示しました。入国管理局正字は、日本に住む外国人が住民票や在留カード等の氏名に使える漢字で、JIS第1~4水準漢字を全て含んでいました。この結果、日本で生まれた外国人の子供の出生届には、新字の「年」に加え、旧字の「秊」が書けるようになりました。でも、日本人の子供の出生届には、新字の「年」はOKですが、旧字の「秊」はダメなのです。

【筆者プロフィール】

安岡孝一(やすおか・こういち)

京都大学人文科学研究所附属東アジア人文情報学研究センター教授。京都大学博士(工学)。文字コード研究のかたわら、電信技術や文字処理技術の歴史に興味を持ち、世界各地の図書館や博物館を渡り歩いて調査を続けている。著書に『新しい常用漢字と人名用漢字』(三省堂)『キーボード配列QWERTYの謎』(NTT出版)『文字符号の歴史―欧米と日本編―』(共立出版)などがある。

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人名用漢字の新字旧字:「頼」と「賴」

2016年 10月 27日 木曜日 筆者: 安岡 孝一

第119回 「頼」と「賴」

昭和17年6月17日、国語審議会は標準漢字表を、文部大臣に答申しました。標準漢字表は、各官庁および一般社会で使用する漢字の標準を示したもので、部首画数順に2528字が収録されており、貝部に、旧字の「賴」が含まれていました。昭和17年12月4日、文部省は標準漢字表を発表しましたが、 そこでも旧字の「賴」が収録されていました。

昭和21年11月5日、国語審議会が答申した当用漢字表にも、旧字の「賴」が収録されていました。翌週11月16日に当用漢字表は内閣告示され、旧字の「賴」は当用漢字になりました。ただし、当用漢字表のまえがきには「字体と音訓の整理については、調査中である」と書かれていました。当用漢字表の字体は、まだ変更される可能性があったのです。

字体の整理をおこなうべく、文部省教科書局国語課は昭和22年7月15日、活字字体整理に関する協議会を発足させました。活字字体整理に関する協議会は、昭和22年10月10日に活字字体整理案を国語審議会に報告しました。この活字字体整理案では、「賴」を「頼」へと整理することが提案されていました。

報告を受けた国語審議会では、昭和22年12月から昭和23年5月にかけて、字体整理に関する主査委員会を組織しました。この間、昭和23年1月1日に戸籍法が改正され、子供の名づけに使える漢字が、この時点での当用漢字表1850字に制限されました。当用漢字表には旧字の「賴」が収録されていたので、「賴」は子供の名づけに使ってよい漢字になりました。新字の「頼」は、子供の名づけに使えなくなりました。

昭和24年4月28日に内閣告示された当用漢字字体表では、新字の「頼」が収録されていました。活字字体整理案に従った結果、新字の「頼」が当用漢字となり、旧字の「賴」は当用漢字ではなくなってしまったのです。当用漢字表にある旧字の「賴」と、当用漢字字体表にある新字の「頼」と、どちらが子供の名づけに使えるのかが問題になりましたが、この問題に対し法務府民事局は、旧字の「賴」も新字の「頼」もどちらも子供の名づけに使ってよい、と回答しました(昭和24年6月29日)。つまり、昭和24年の時点で、旧字の「賴」も新字の「頼」も、どちらも出生届に書いてOKとなったのです。

昭和56年3月23日、国語審議会が答申した常用漢字表では、「頼(賴)」となっていました。これに対し、民事行政審議会は、常用漢字表のカッコ書きの旧字を子供の名づけに認めるかどうか、審議を続けていました。昭和56年4月22日の総会で、民事行政審議会は妥協案を選択します。常用漢字表のカッコ書きの旧字355組357字のうち、当用漢字表に収録されていた旧字195字だけを子供の名づけに認める、という妥協案です。昭和56年10月1日に常用漢字表は内閣告示され、「頼」は常用漢字になりました。同時に「賴」は人名用漢字になりました。それが現在も続いていて、旧字の「賴」も新字の「頼」も、どちらも子供の名づけに使えるのです。

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安岡孝一(やすおか・こういち)

京都大学人文科学研究所附属東アジア人文情報学研究センター教授。京都大学博士(工学)。文字コード研究のかたわら、電信技術や文字処理技術の歴史に興味を持ち、世界各地の図書館や博物館を渡り歩いて調査を続けている。著書に『新しい常用漢字と人名用漢字』(三省堂)『キーボード配列QWERTYの謎』(NTT出版)『文字符号の歴史―欧米と日本編―』(共立出版)などがある。

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人名用漢字の新字旧字:「梨」と「棃」

2016年 10月 13日 木曜日 筆者: 安岡 孝一

第118回 「梨」と「棃」

新字の「梨」は常用漢字なので、子供の名づけに使えます。旧字の「棃」は、常用漢字でも人名用漢字でもないので、子供の名づけに使えません。「梨」は出生届に書いてOKですが、「棃」はダメ。どうして、こんなことになっているのでしょう。

昭和17年6月17日、国語審議会は標準漢字表を、文部大臣に答申しました。標準漢字表は、各官庁および一般社会で使用する漢字の標準を示したもので、部首画数順に2528字が収録されていました。標準漢字表の木部には、新字の「梨」が収録されていましたが、旧字の「棃」はカッコ書きにすらなっておらず、標準漢字表のどこにも収録されていませんでした。昭和17年12月4日、文部省は標準漢字表を発表しましたが、そこでも新字の「梨」だけが含まれていて、旧字の「棃」は含まれていませんでした。

昭和21年11月5日、国語審議会は当用漢字表を、文部大臣に答申しました。この当用漢字表で、国語審議会は、新字の「梨」を削除してしまいました。当用漢字表は「使用上の注意事項」で「動植物の名称は、かな書きにする」としており、このルールに従えば、新字の「梨」も旧字の「棃」も、当用漢字表には不要だと判断されたのです。当用漢字表は、翌週11月16日に内閣告示されましたが、やはり「梨」も「棃」も収録されていませんでした。そして、昭和23年1月1日に戸籍法が改正された結果、「梨」も「棃」も子供の名づけに使えなくなってしまったのです。

当用漢字1850字と人名用漢字92字では子供の名づけに足りない、という国民の声を受けて、法務省民事局は昭和50年7月、子供の名づけに使える漢字として追加すべきものを、全国の市区町村を対象に調査しました。さらに法務省民事局は、法務大臣の私的諮問機関として、人名用漢字問題懇談会を発足させ、人名用漢字に新たに28字を追加すべきだ、という結論を得ました(昭和51年5月25日)。この28字に、新字の「梨」が含まれていたのです。そして昭和51年7月30日、この28字は、人名用漢字追加表として内閣告示されました。この時点で、新字の「梨」が子供の名づけに使えるようになりましたが、旧字の「棃」はダメだったのです。

平成16年3月26日に法制審議会のもとで発足した人名用漢字部会は、当時最新の漢字コード規格JIS X 0213(平成16年2月20日改正版)、平成12年3月に文化庁が書籍385誌に対しておこなった漢字出現頻度数調査、全国の出生届窓口で平成2年以降に不受理とされた漢字、の3つをもとに審議をおこないました。旧字の「棃」は、出生届を拒否された管区は無く、漢字出現頻度数調査の結果が0回で、JIS第4水準漢字だったので、人名用漢字の追加候補になりませんでした。

その一方で法務省は、平成23年12月26日に入国管理局正字13287字を告示しました。入国管理局正字は、日本に住む外国人が住民票や在留カード等の氏名に使える漢字で、JIS第1~4水準漢字を全て含んでいました。この結果、日本で生まれた外国人の子供の出生届には、新字の「梨」に加え、旧字の「棃」が書けるようになりました。でも、日本人の子供の出生届には、新字の「梨」はOKですが、旧字の「棃」はダメなのです。

【筆者プロフィール】

安岡孝一(やすおか・こういち)

京都大学人文科学研究所附属東アジア人文情報学研究センター教授。京都大学博士(工学)。文字コード研究のかたわら、電信技術や文字処理技術の歴史に興味を持ち、世界各地の図書館や博物館を渡り歩いて調査を続けている。著書に『新しい常用漢字と人名用漢字』(三省堂)『キーボード配列QWERTYの謎』(NTT出版)『文字符号の歴史―欧米と日本編―』(共立出版)などがある。

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人名用漢字の新字旧字:韓国の人名用漢字は違憲か合憲か(最終回)

2016年 10月 6日 木曜日 筆者: 安岡 孝一

韓国の人名用漢字は違憲か合憲か(最終回)

第6回からつづく)

実際のところ、大法院における人名用漢字の追加過程は非公開で、どのような基準で新たな人名用漢字が追加されているのか、うかがい知ることができません。最近では2014年10月に、新しい人名用漢字をプレレビューにかけていましたが、それらの漢字の選定過程は公開されませんでした。その結果、「KSコード」との連携はおろか、Unicodeへの追加もままならず、独自の漢字コードで家族関係登録簿の電算システムを動かす、という状況なのかもしれません。

さて、ここまでの議論を、合憲派(法廷意見)は以下のようにまとめます。

以上の様々な事情を総合して見るに、審判対象条項は侵害の最小性原則に違反せず、通常使われない漢字の使用による当事者や利害関係者の不便を解消し、家族関係登録業務の電算化を通じた行政業務の効率性向上という公益との衡量にも、法益間の比例関係を維持していると見ることができる。
したがって、審判対象条項が過剰禁止原則に違反し、請求人が子の名を付ける自由を侵害していると見るには難しい。

一方、違憲派(反対意見)は以下のようにまとめます。

結局、漢字の全面的な使用を許容したとしても、必要に応じて例外規定を置くことでその立法目的を達成できるにもかかわらず、審判対象条項は、国民に対し国家が定めた「人名用漢字」という基準に合わせることを強制することで、基本権で保護される「両親が子の名を付ける自由」を一律的に制限しており、侵害の最小性原則に背いている。
当事者や利害関係人の不便の防止、あるいは行政の便宜を図るという公益に較べ、審判対象条項により両親が子の名を自由に付けられなくなることで生ずる基本権侵害が、はるかに重大だと見ることができるから、審判対象条項は法益の均衡性も備えていない。
したがって、審判対象条項は過剰禁止原則に違反し、請求人が子の名を付ける自由を侵害している。

当然ながら、全く逆の結論です。そして、合憲派6人、違憲派3人で、憲法裁判所としては「人名用漢字は合憲である」との決定に至りました。

主文
この事件審判請求を全部棄却する。

宣告日は2016年7月28日。2015年9月30日の審判請求から、ほぼ10ヶ月を要しました。

現実論として、いずれ「嫪」は、韓国の人名用漢字に追加されるのでしょう。KS X 1027-1に含まれていますし、Unicodeにも含まれているので、技術的に大きな問題は無いはずです。あとは、いつ大法院が、「家族関係の登録等に関する規則」の別表1を改正するのか、という点だけです。

その意味で韓国の人名用漢字は、いくつか問題はあるものの、日本の人名用漢字に比べれば、まだうまく運用されているように思えます。なかでも「救済措置」は、そこそこ動作しているらしく、「獠」が韓国の人名用漢字に追加されたのは、うらやましい限りです。日本の「戸籍法」における「常用平易」と、韓国の「家族関係の登録等に関する法律」における「通常使われる漢字」との間に、そんなに違いがあるとは思えないのですが、結果的には大きな差となっているのが現実のようです。

【筆者プロフィール】

安岡孝一(やすおか・こういち)

京都大学人文科学研究所附属東アジア人文情報学研究センター教授。京都大学博士(工学)。文字コード研究のかたわら、電信技術や文字処理技術の歴史に興味を持ち、世界各地の図書館や博物館を渡り歩いて調査を続けている。著書に『新しい常用漢字と人名用漢字』(三省堂)『キーボード配列QWERTYの謎』(NTT出版)『文字符号の歴史―欧米と日本編―』(共立出版)などがある。

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人名用漢字の新字旧字:韓国の人名用漢字は違憲か合憲か(第6回)

2016年 9月 29日 木曜日 筆者: 安岡 孝一

韓国の人名用漢字は違憲か合憲か(第6回)

第5回からつづく)

次に、合憲派(法廷意見)は、人名用漢字以外の漢字に対する「救済措置」について触れています。

出生申告書に出生者の名が「人名用漢字」以外の漢字で記載され、家族関係登録簿に出生者の名をハングルのみで登載した場合は、当該市(区)・邑・面の長が、出生者の名として申告された「人名用漢字」以外の漢字の字体と発音を記載して翌月10日までに監督裁判所に報告することとし、監督裁判所はその内容を四半期ごとに整理して翌月20日までに法院行政処に報告することとするなど、家族関係登録規則の改正を通じて持続的に「人名用漢字」を追加できる方案も用意している(人名用漢字の制限に関連した家族関係登録事務処理指針(家族関係登録例規第111号)第4条参照)。
そして、出生申告時点で「人名用漢字」に含まれておらず使用できなかった漢字であっても、上のような家族関係登録規則の改正で追加された「人名用漢字」に含まれる場合には、改名許可手続によって希望する名を使用可能となる。特に、出生申告時に「人名用漢字」以外の漢字を申告した結果、家族関係登録簿の氏名欄に出生者の名がハングルのみで登載された場合には、改名許可手続を経る必要はなく出生申告人の追後補完申告だけで、それまでハングルのみで登載されていた名をハングルと漢字で登載できるような方案も用意されている(人名用漢字の追加にともなう家族関係登録事務処理指針(家族関係登録例規第322号)第1項参照)。

これに対し、違憲派(反対意見)は、人名用漢字が将来において本当に増えるかどうかわからないし、増やすくらいなら最初から使えるようにしておけばいい、と指摘しています。

法廷意見が説示するように、家族関係登録規則改正を通じて「人名用漢字」が追加される場合、当事者は改名許可手続または出生申告人の追後補完申告を経て、希望する名を使用できることになる。しかし、審判対象条項が漠然と将来に改正される可能性があるという点をもって、現在の基本権制限が緩和されたと見るべきではない。初めから希望する漢字を使用可能ならば、人名用漢字の追加にともなう改名許可手続や追後補完申告などの不必要な手続をおこなう必要もない。

一方、合憲派は、実際に過去ずっと増えてきたのだ、と主張します。

実際、審判対象条項が初めて導入された時点では、我が国の人名に使われる漢字調査結果などに基づき「漢文教育用基礎漢字」を含んだ合計2,731字が「人名用漢字」に指定されたが、その後9回にわたる大法院規則改正で「人名用漢字」の範囲を拡大してきた結果、現在は合計8,142字に至っているという点は、先にも述べたとおりである。
これは、人の名に使える漢字の範囲を一定の手順に基づいて継続的に拡大し続けることにより、名に漢字を使う際に不便が起こらないよう補完装置を作動し続けているのだとみなせる。

この「継続的に拡大」が逆鱗に触れたのか、違憲派は猛然と反論します。

かえって「人名用漢字」の範囲が9回の大法院規則改正を通じて拡大してきたという事情は、憲法第10条の幸福追求権によって保護される「両親が子の名を付ける自由」を一律的に制限するという手段を採択した審判対象条項が有する問題点を、自ら認めているに過ぎない。
さらに、人名用漢字で言うところの「通常使われる漢字」を誰が決めているのか、どの程度の使用頻度があればその範囲に入り得るのか、疑問である。人名用漢字が初めて導入された当時(1990年12月30日)は2,731字だったものが、9回の改正の結果、現在(2014年10月20日)は8,142字になったところ、我々の経験上、この20余年間に漢字の使用頻度が減少こそすれ増加したはずはないことに照らしてみても、人名用漢字あるいは通常使われる漢字の範囲というものが、どれほど作為的なものであるか見て取ることができる。人名用漢字は「プロクルステスの寝台」の変形である。

寝台とは違って、人名用漢字がどんどん伸びているという点で、ギリシア神話のプロクルステスにたとえるのは無理があるように思えるのですが、まあ、寝台のサイズに合わせて身体の方を切る、という話をしたかったのでしょう。

最終回につづく)

【筆者プロフィール】

安岡孝一(やすおか・こういち)

京都大学人文科学研究所附属東アジア人文情報学研究センター教授。京都大学博士(工学)。文字コード研究のかたわら、電信技術や文字処理技術の歴史に興味を持ち、世界各地の図書館や博物館を渡り歩いて調査を続けている。著書に『新しい常用漢字と人名用漢字』(三省堂)『キーボード配列QWERTYの謎』(NTT出版)『文字符号の歴史―欧米と日本編―』(共立出版)などがある。

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人名用漢字の新字旧字:韓国の人名用漢字は違憲か合憲か(第5回)

2016年 9月 22日 木曜日 筆者: 安岡 孝一

韓国の人名用漢字は違憲か合憲か(第5回)

第4回からつづく)

さらに合憲派(法廷意見)は、家族関係登録簿の「電算化」に関して、以下の主張を展開しています。

家族関係登録法第9条第1項および第11条第1項によれば、家族関係登録事務は電算情報処理システムによって処理することになるが、実際使われない珍しい漢字などその範囲さえ不明な漢字を、文献上で検証して家族関係登録電算システムに全て実現するのは、現実的に難しい。

韓国の家族関係登録簿は、全て電算システムで扱うことが法律で義務づけられているので、膨大な種類の漢字を扱おうとすると、漢字コードが膨大になってしまうという主張です。これに対して、違憲派(反対意見)は、こう反論します。

現在の技術水準において、漢字情報の電算化は難しくない。国際標準コードである「ユニコード」に登録されている韓・中・日統合漢字は約8万字、国内標準コードである「KSコード」に登録されている漢字は約1万8千字に達する。それならば、審判対象条項のように「人名用漢字」以外の漢字使用を一律に制限せずとも、名に使われる漢字を電算システムに実現するのは支障ないだろう。
基本的に、憲法第10条の幸福追求権によって保護される「両親が子の名を付ける自由」に政府の電算化技術を合わせるべきであって、両親が子の名を付ける自由を政府の電算化技術に合わせるべきではない。

hanja5-eun.png違憲派の主張は理解できなくもないのですが、正直なところUnicodeを過信しています。現時点においても、韓国の人名用漢字8142字のうち、少なくとも「さんずいに恩」はUnicodeに収録されていません。実は筆者は、この「さんずいに恩」をUnicodeに緊急追加すべく、以前Unicode Technical Committeeに働きかけたことがあるのですが、この時の提案は韓国側に潰された、という苦い思い出があります。「両親が子の名を付ける自由を政府の電算化技術に合わせるべきではない」として、ならばなぜ韓国は、人名用漢字をUnicodeへ追加する提案を潰すようなマネをするのか、いまだ納得ができません。

一方、「KSコード」は、もっと悲惨な状況です。ハングルと漢字の両方を収録するKS X 1001(漢字4888字)・KS X 1002(漢字2856字)に続き、漢字のみを収録するKS X 1027-1(7911字)・KS X 1027-2(1834字)・KS X 1027-3(172字)・KS X 1027-4(404字)・KS X 1027-5(152字)が現時点で制定されている「KSコード」ですが、韓国国内の漢字施策と全く連動していません。その結果、韓国の人名用漢字8142字のうち、「さんずいに恩」を初めとして、「荣」「壮」「青」「聡」「恵」など少なくとも250字が、「KSコード」未収録となってしまっています。たとえ「KSコード」に漢字18217字が収録されていても、それが人名用漢字8142字すら網羅できていないのです。

加えて合憲派は、日本や中国との比較をおこなっています。

審判対象条項は、子の名に使える漢字を定めるにあたって、教育科学技術部が中・高等学校教育の基準として使うために策定した「漢文教育用基礎漢字」を含め、合計8,142字を「人名用漢字」に指定している。
これは、日本において人名に使うことを許されている漢字が2,998字程度、漢字発祥の地である中国において、義務教育(初・中学校)課程で理解しなければならない漢字、出版物等に使われる漢字、人名・地名など固有名詞に活用される漢字など、日常生活でしばしば使われる漢字を選んで発表した「通用規範漢字表」が8,105字程度、この2つに照らしてみれば、決して少ないと見ることはできない。

中国の「通用規範漢字表」は、子の名づけに対する漢字制限ではないのですが、以下の違憲派の反論は、その点を誤解しているようです。

法廷意見は、中国と日本においても人名に使える漢字の範囲を制限しているという事情により、審判対象条項による基本権の制限が過剰ではないとしている。しかし我が国とは違い、中国と日本では人の氏名を書く際に漢字使用が基本(原則)であるから、漢字の数が膨大でその範囲が不明だという事実から、名に使える漢字の範囲を制限する必要性が導き出され得る。したがって、名に使える漢字の範囲の制限に関し、中国および日本と単純に比較するのは適切でない。

ただ、文字コード研究者である筆者の意見としては、中国は「通用規範漢字表」8105字を全てUnicodeに収録させるべく努力していますし、日本はJIS X 0213に常用漢字2136字と人名用漢字862字を全て収録しています。そのあたりの考え方が、そもそも韓国とは全く異なっているのです。

第6回につづく)

【筆者プロフィール】

安岡孝一(やすおか・こういち)

京都大学人文科学研究所附属東アジア人文情報学研究センター教授。京都大学博士(工学)。文字コード研究のかたわら、電信技術や文字処理技術の歴史に興味を持ち、世界各地の図書館や博物館を渡り歩いて調査を続けている。著書に『新しい常用漢字と人名用漢字』(三省堂)『キーボード配列QWERTYの謎』(NTT出版)『文字符号の歴史―欧米と日本編―』(共立出版)などがある。

http://srad.jp/~yasuoka/journalで、断続的に「日記」を更新中。


人名用漢字の新字旧字:韓国の人名用漢字は違憲か合憲か(第4回)

2016年 9月 15日 木曜日 筆者: 安岡 孝一

韓国の人名用漢字は違憲か合憲か(第4回)

第3回からつづく)

合憲派(法廷意見)は「名に通常使われない難しい漢字」の問題点に関して、以下の主張を展開しています。

漢字は象形文字・表意文字としての特性があり、中国はもちろん漢字文化圏に属した各国で過去永らく漢字を使ってきたことから、各国ごとに異なる字を作るなどの理由で、我々固有の文字であるハングルとは違い、その数が膨大で、範囲が不明だという特徴がある。
我が国は1948年に「ハングル専用に関する法律」(2005年1月27日法律第7368号「国語基本法」制定により廃止)を制定・公布して以来、おおむねハングル専用政策を主軸とし、漢字は漢字語の理解を助けるための補助道具として制限的に使用してきた。小中等教育課程においても漢字教育を必修科目に編成しておらず、漢字になじむことなく育った人々が増加している。
このような状況で、名に通常使われない漢字を使用すると、誤字が家族関係登録簿に登載される危険があり、日本式漢字など人名に不適合な漢字が使われる可能性が増大して、子の成長と福利に障害要素として作用する可能性も排除しがたく、その子と社会的・法律的関係を結ぶ人々が、その名を認識して使うのにも相当な不便を強いられることとなる。

これに対し、違憲派(反対意見)は、こう反論します。

我が国は1948年に「ハングル専用に関する法律」を制定・公布して以来、ハングル専用政策を主軸とし、全ての法令および公文書がハングル使用を原則としている。過去、戸籍簿に氏名を漢字のみで登載していた者も、1994年7月11日の旧戸籍法施行規則改正でハングルと漢字を併記するよう変更され、現行の家族関係登録簿でも「홍길동(洪吉童)」のようにハングルと漢字を併記している。また、現在の金融や不動産取引など各種司法上の法律関係においても、個人の同一性を識別し身分確認をおこなう際には、ハングルの氏名および住民登録番号を記載するのが通例であり、氏名を漢字のみで記載する場合は稀有である。したがって、名に通常使われない難しい漢字を使用すると言っても、それにより当事者や利害関係人が何の不便を被るということなのか理解しがたい。誤読の危険があるという理由で、名に使える漢字を制限するのも、説得力ある理由とはならない。初・中等教育課程で漢字教育を必修科目に編成していない現在の教育システムによる教育を受けた人々の場合、「人名用漢字」であっても、これをよく知った上で使用しているとみなすには難があるからである。

この論点に関して、筆者は、合憲派の不勉強を指摘せざるを得ません。「日本式漢字など人名に不適合な漢字」の「日本式漢字」が何を意味するのか、正確には理解しにくい文章なのですが、仮に「峠」や「笹」のような日本の国字を指しているのだとすると、これら2字は、すでに韓国の人名用漢字8142字に含まれています。あるいは「広」「徳」「頼」「歩」「穂」「児」「亜」「厳」「海」「顕」「恵」「勲」のような日本の当用漢字字体表由来の漢字を指しているのだとすると、少なくともこの12字は、すでに韓国の人名用漢字8142字に含まれています。なぜ、ここで合憲派が「日本式漢字」を引き合いに出す必要があったのか、筆者としては非常に疑問の残る部分です。

第5回につづく)

【筆者プロフィール】

安岡孝一(やすおか・こういち)

京都大学人文科学研究所附属東アジア人文情報学研究センター教授。京都大学博士(工学)。文字コード研究のかたわら、電信技術や文字処理技術の歴史に興味を持ち、世界各地の図書館や博物館を渡り歩いて調査を続けている。著書に『新しい常用漢字と人名用漢字』(三省堂)『キーボード配列QWERTYの謎』(NTT出版)『文字符号の歴史―欧米と日本編―』(共立出版)などがある。

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人名用漢字の新字旧字:韓国の人名用漢字は違憲か合憲か(第3回)

2016年 9月 8日 木曜日 筆者: 安岡 孝一

韓国の人名用漢字は違憲か合憲か(第3回)

第2回からつづく)

韓国の人名用漢字は、最初から8142字だったわけではありません。この点について決定文は、以下のように述べています。

「人名用漢字」が当初導入された時点では「漢文教育用基礎漢字」を含め合計2,731字が「人名用漢字」に指定されていたが、その後9回にわたる規則改正で「人名用漢字」の範囲がどんどん拡大し、現在は合計8,142字が「人名用漢字」に指定されている。

ただ、「その後9回にわたる規則改正」という部分については、筆者は疑問を感じます。筆者が調べた限り、人名用漢字に関する大法院規則の改正は、以下のようになっているからです。

規則番号 官報公示日 収録字数 施行日
第1137号 1990年12月31日 2731字 (施行されず)
第1159号 1991年3月29日 2915字 1991年4月1日
第1312号 1994年7月11日 3025字 1994年9月1日
第1484号 1997年12月2日 3124字 1998年1月1日
第1680号 2001年1月4日 4879字 2001年1月4日
第1848号 2003年9月17日 4875字 2003年10月20日
第1911号 2004年10月18日 5034字 2005年1月1日
第2069号 2007年2月15日 5174字 2007年2月15日
第2119号 2007年11月28日 5172字 2008年1月1日
第2181号 2008年6月5日 5176字 2008年6月5日
第2263号 2009年12月31日 5454字 2010年3月1日
第2470号 2013年6月5日 5761字 2013年7月1日
第2577号 2014年12月30日 8142字 2015年1月1日

1990年12月31日改正の大法院規則第1137号では、翌1月1日に予定されていた人名用漢字の施行が延期され、その次の大法院規則第1159号が1991年4月1日に施行されて、人名用漢字2915字が導入されました。その後、どうみても11回の改正がおこなわれて、現在の8142字に至っているのです。まあ、収録字数が減った改正(重複字を削除)が2回ほどあるので、それを数えたくないのかもしれません。

ここで決定文は、大きく2つに分かれます。「人名用漢字は合憲である」と主張する合憲派と、「人名用漢字は違憲である」と主張する違憲派とに分かれるのです。実際には、合憲派の意見は「法廷意見」として、違憲派の意見は「反対意見」として、それぞれまとめて書かれているのですが、ここでは、それぞれの意見をぶつけあう形で見ていくことにしましょう。合憲派は、以下のように主張します。

漢字は、その数が膨大で、その範囲が不明で、一般国民がこれを全部読んで使うには困難がある。審判対象条項は、名に通常使われない難しい漢字を使う場合、誤読あるいは誤字などによって当事者と利害関係人が被る不便を解消し、家族関係登録業務が電算化されるにあたり、名に使われる漢字は電算システムで全て表現されなければならない点を考慮して、名に使える漢字を通常使われる漢字に制限したのであるから、その立法目的の正当性および手段の適合性が認められる。

これに対し、違憲派がいきなり噛みつきます。

審判対象条項は、1990年12月31日戸籍法改正で初めて導入されたもので、それ以前は、子の名に使える漢字の範囲には何の制限も無かった。したがって沿革的に見ても、漢字の数が膨大でその範囲が不明だという事実から、通常使われない難しい漢字を名に書けないよう制限せねばならないという結論が、導き出されるわけではない。

韓国の人名用漢字は、実際には3ヶ月遅れで1991年4月1日から開始されたのですが、それ以前は、子の名づけに使える漢字に制限はありませんでした。日本に比べると、韓国の人名用漢字による制限は、ごく最近はじまったものなのです。

第4回につづく)

【筆者プロフィール】

安岡孝一(やすおか・こういち)

京都大学人文科学研究所附属東アジア人文情報学研究センター教授。京都大学博士(工学)。文字コード研究のかたわら、電信技術や文字処理技術の歴史に興味を持ち、世界各地の図書館や博物館を渡り歩いて調査を続けている。著書に『新しい常用漢字と人名用漢字』(三省堂)『キーボード配列QWERTYの謎』(NTT出版)『文字符号の歴史―欧米と日本編―』(共立出版)などがある。

http://srad.jp/~yasuoka/journalで、断続的に「日記」を更新中。


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