身体を使って漢字で遊ぶ(3)

2012年 2月 1日 水曜日 筆者: 鈴木 仁也

身体を使って漢字で遊ぶ(3)

<< 前々回(1 はじめに/2 実施に至る経緯)
<< 前回(3 指導の全体計画/4 「漢字の成り立ち」の授業)

5 漢字を題材とした演劇ワークショップ

 第2回目の演劇ワークショップは、「漢字の成り立ち」の授業が行われることから、漢字を題材とすることになりました。二日間にわたり、1学級ごとに2校時分(90分)を使ってのワークショップです。

 挨拶のあと、ウォーミングアップとしてのシアターゲームを行い、休憩を挟んで漢字を題材としたシーン創作による身体表現と展開します。ウォーミングアップでは、「拍手回し」「〈私―あなた〉ゲーム」「ろばゲーム」など相手を意識して届けることと意識して受け取ることに重点を置いたゲームを組み合わせ、相互の関係性の基礎を培いました。

 その基礎の上に立って、漢字を題材としたシーン創作による身体表現をグループで行う本題に移ります。各グループに、部首を書いたカード(木、水、火、手、人、口)を渡します。その部首を構成成分として持つ漢字をグループ内で挙げて、そのうちの1字を表現するシーン(台詞は無し)を創作します(当然、何か正解のある課題ではありません)。カードの部首と創作したシーンを発表し、他のグループが漢字を当てるというものです。ある学級で、実際に子どもたちが相談して決めた漢字は、「秋」「鳴」「村」「休」「持」「浅」でした。グループでの話合いにおける意見のすり合わせが、コミュニケーション教育の求める能力の育成に結び付く部分です。

【児童の創作漢字例3】
【お題:ドーナツ】
お題:ドーナツ】

 ワークショップの様子を見ると、習っていないものも含め、たくさんの漢字が挙げられ、活発な議論と積極的な協力の様子が見て取れました。子どもたちは、楽しい中にも、身体表現されている漢字が予想外のものであったことに驚いたり、どのように身体で表現するかで悩んだりしながらも、意欲的にかつ主体的に学んでいることが確認できました。

 また、3学級のうち、2学級は、漢字を題材とした演劇ワークショップを先に受けてから漢字の成り立ちの授業を受けました(以下、この2学級を「WS先行型」と呼びます)。1学級は、漢字の成り立ちの授業を受けてから漢字を題材とした演劇ワークショップを受けました(以下、この1学級を「授業先行型」と呼びます)。

 漢字の成り立ちの授業に関しては、3学年の縦割りで実施するというふだん経験しない形態であったこともあり、3学級ともに緊張感を伴ったかたさがありました。グループでの話合いの段階では、WS先行型の方が、4年生や6年生の発言の受け止め方は少し上手であった印象はありますが、大きな差があったとまでは言えませんでした。

 漢字を題材とした演劇ワークショップに関しては、与えられた部首からシーンを創作するときに考える漢字の候補の出方に差が見られました。授業先行型の方が明らかに多くの漢字が提案され、話合いも活性化していました。

 これは、漢字について、全体として漠と捉えるのでなく、部首と旁など部分部分で捉える意識が、漢字の成り立ちの授業を通して養われたことが影響してものと考えられます。

6 児童の変容

 「漢字の成り立ち」の授業を通して、部首や旁の意味を知っていることの必要性を感じた子どもたちは、漢和辞典に手を伸ばすようになりました。気になる漢字に出合うと漢和辞典を引き、その漢字だけを調べるのでなく、部首や旁、漢字の成り立ちについてもしっかりと目を通すようになったそうです。さらに、漢字の創作と創作した漢字の意味が伝わったときのうれしさから、全校集会の場で、創作漢字クイズが定番化することにもなりました。また、筆者に送られてきた授業の感想の中には、家族に対して創作漢字クイズをやっていると書いているものや、こんな漢字を創作してみましたと自作を紹介しているものも見受けられ、漢字を楽しんで学んでいる様子がうかがえるようになりました。

 漢字を題材とした演劇ワークショップを含む身体表現活動を学んだ5年生は、全体集会の場で、自分たちで創作した短い芝居を上演することに喜びを感じるようになり、少人数グループだけでなく、学級規模での話合いを通しての作品作りも行えるようになったそうです。

 こうした児童の変容を聞くと、漢和辞典を引くようになること、漢字の成り立ちの知識を活用できる形にすること、漢字をコミュニケーション教育と関連付けて扱うことという当初課題としていた3点が、克服できる道筋の見える実践であったと総括することができると考えています。

 なお、平成24年度「児童生徒のコミュニケーション能力の育成に資する芸術表現体験」の募集については、文部科学省HPで御確認ください。平成24年度の応募要領や申請書類のダウンロードは、こちらから。

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補足 >>

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【筆者プロフィール】

鈴木 仁也(すずき・まさなり)
文化庁文化部国語課国語調査官
文部科学省初等中等教育局コミュニケーション教育推進会議オブザーバー
1964年東京生まれ。筑波大学大学院博士課程中退。東京学芸大学附属高等学校教諭(国語科、演劇部顧問)を経て現職。
国語調査官として、文化審議会国語分科会の審議に関わるほか、「「言葉」について考える体験事業」、「国語に関する世論調査」など国語施策普及のための様々な取り組みに関わる。2010年からは、教育現場とワークショップ講師を含めた創作活動、さらには行政という三方面からの知見を持つことから、文部科学省コミュニケーション教育推進会議立ち上げと同時にオブザーバーとして会議に加わる。
主な著述に、『まんがで学ぶ敬語』(国土社2010)、『用字用語新表記辞典』(第一法規2011・編集協力)のほか、教員時代に携わった高等学校教科書(三省堂)や、国語教育、情報教育、古典教育等について多数のものがある。

* * *

【編集部から】
価値観が多様化し、また、急速に社会が変化していくなかで、どのような相手とも、どのような状況でも、協働して問題解決をはかっていけるような力が求められています。これに対し、教育現場では多様な取り組みが始まっています。
その実践を、多くの現場をご覧になり、自らもワークショップを行う鈴木仁也さんにご執筆いただくコラムです。
今回は、漢字辞典の使用につながる演劇ワークショップの授業のもようを3回に分けてご紹介いただきました。今後もいろいろな実践について、ご報告いただく予定です。


身体を使って漢字で遊ぶ(補足)

2012年 2月 1日 水曜日 筆者: 鈴木 仁也

身体を使って漢字で遊ぶ(補足)

 「身体を使って漢字で遊ぶ」と題して3回にわたる原稿を掲載していただきました。

 原稿の中で、なじみのない用語が出てきて、「これは何なんだろう?」とお感じになった方がいらっしゃるかと思います。ここで、補足説明が必要であると思われる用語について、紹介しておきます。

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《解説一覧》

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シアターゲーム

→ もともとはゲーム感覚で俳優としての技能を伸ばすプログラムのこと。俳優としての技能の中には、リラクゼーション、身体感覚などのほかに、他者認識力や想像力、集中力、協調性なども含まれる。このうち、他者認識力、想像力、協調性などを狙いとしたプログラムは、ウォーミングアップだけでなく、コミュニケーション能力の育成にもつながるものなので、俳優に限らず、児童生徒を対象に実施しても効果的である。

▲上の解説一覧へ

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お題で示された言葉

→ 各グループに与えられる、漢字1字を創作して表してもらうための言葉。外来語の名詞が使いやすい。

例:レインコート、マラソン、ドーナツ、コイン、トラック、ロッカー、UFO 等

▲上の解説一覧へ

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拍手回し

→ 受容と発信の両面で他者認識力を向上させるシアターゲームの一つ。他者認識力に加え、身体感覚やリズム感の向上にも効果がある。隣の人に拍手を渡す意識を持つように注意を促す。

【基本】

  • 円陣になる
  • 講師に指名された人が左隣の人に向かって拍手をする
  • 拍手された人は、その拍手を受け止めて、左隣の人に向かって拍手をする
  • 順番にリズムよく行うと、時計回りに拍手がリレーされていく
  • 慣れてきたら速度を上げる
  • さらに、拍手をするときに片足をあげるなどの動きを加えてもよい

【応用1】

  • 逆回りを同様に行う

【応用2】

  • 何か言葉とともに左隣の人に向かって拍手をする
  • 拍手された人は、その拍手を受け止めて、左隣の人に向かって同じ言葉とともに拍手をする
  • 順番にリズムよく行うと、時計回りに同じ言葉と拍手がリレーされていく
  • 慣れてきたら速度を上げる
  • さらに、拍手をするときに片足をあげるなどの動きを加えてもよい

【応用3】

  • 逆回りを同様に行う

【応用4】

  • 上記【応用2】と【応用3】を、初めにやる人をずらして同時に行う

▲上の解説一覧へ

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〈私―あなた〉ゲーム

→ 受容と発信の両面で他者認識力を向上させるシアターゲームの一つ。他者認識力に加え、身体感覚の向上にも効果がある。誰に対して「あなた」と投げ掛けたのかはっきりさせることを意識させる。

【基本】

  • 円陣になって椅子に座る
  • 講師に指名された人が、自分を指さしながら「私(わたし)」と言う
  • 同じ人が、誰かほかの人を指さしながら「あなた」と言って立ち上がる
  • すり足で「あなた」と指さした人の方にゆっくり進む
  • 「あなた」と指さされた人は、自分を指さしながら「私」と言う
  • 「あなた」と指さされた人は、誰かほかの人を指さしながら「あなた」と言って立ち上がる
  • すり足で「あなた」と指さした人の方にゆっくり進む
  • 初めに立ち上がって進んでいた人は、「あなた」と言って立ち上がった人の席に座る

※「あなた」と指さされた人が「私」「あなた」と言って立ち上がる前に、「あなた」と指さした人が、席まで到達して両肩に手を掛けたら、ゲームオーバー。

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ろばゲーム

→ 受容の面で他者認識力を向上させるとともに、注意深く聞く集中力を高めるシアターゲームの一つ。身体感覚の向上にも効果がある。言葉を投げ掛けられた人だけでなく、その両隣の人もよく聞いていないといけないことと、瞬間的に形を作るために他の人の多様な発想を尊重しないとうまくいかないことを意識させる。

【基本】

  • 円陣になって椅子に座る
  • 講師が中央に立つ
  • 講師は、誰かに向かって「ろば」と言う
  • 「ろば」と言われた人は立ち上がって、ろばのポーズをしてから座る
  • 講師は、誰かに向かってときどき「ロボ」と言う
  • 「ロボ」と言われた人は座ったまま何もしない
  • 「ろば」と「ロボ」を混ぜながら繰り返していく

【応用1】

  • 上記の【基本】の「ろば」「ロボ」と言うほかに、「トイレ」と言うことを混ぜる
  • 「トイレ」と言われた人は立ち上がり、両隣の二人で便器とレバーの形を作る
  • 立ち上がった人が、レバーを操作する動きをしてから3人着席する
  • 「ろば」「ロボ」「トイレ」を混ぜながら繰り返していく

【応用2】

  • 上記の【応用1】の「ろば」「ロボ」「トイレ」と言うほかに、任意の言葉を言うことを混ぜる
  • 任意の言葉を言われた人と両隣の二人が立ち上がり、言われた言葉を表す形を3人で協力して作ってから座る
  • 「ろば」「ロボ」「トイレ」「任意の言葉」を混ぜながら繰り返していく

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【筆者プロフィール】

鈴木 仁也(すずき・まさなり)
文化庁文化部国語課国語調査官
文部科学省初等中等教育局コミュニケーション教育推進会議オブザーバー
1964年東京生まれ。筑波大学大学院博士課程中退。東京学芸大学附属高等学校教諭(国語科、演劇部顧問)を経て現職。
国語調査官として、文化審議会国語分科会の審議に関わるほか、「「言葉」について考える体験事業」、「国語に関する世論調査」など国語施策普及のための様々な取り組みに関わる。2010年からは、教育現場とワークショップ講師を含めた創作活動、さらには行政という三方面からの知見を持つことから、文部科学省コミュニケーション教育推進会議立ち上げと同時にオブザーバーとして会議に加わる。
主な著述に、『まんがで学ぶ敬語』(国土社2010)、『用字用語新表記辞典』(第一法規2011・編集協力)のほか、教員時代に携わった高等学校教科書(三省堂)や、国語教育、情報教育、古典教育等について多数のものがある。

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【編集部から】
価値観が多様化し、また、急速に社会が変化していくなかで、どのような相手とも、どのような状況でも、協働して問題解決をはかっていけるような力が求められています。これに対し、教育現場では多様な取り組みが始まっています。
その実践を、多くの現場をご覧になり、自らもワークショップを行う鈴木仁也さんにご執筆いただくコラムです。
漢字辞典の使用につながる演劇ワークショップの授業のもようを3回に分けてご紹介いただきました。今回はそのなかで出てくる用語などについて、解説していただきました。今後もいろいろな実践について、ご報告いただく予定です。


身体を使って漢字で遊ぶ(2)

2012年 1月 11日 水曜日 筆者: 鈴木 仁也

身体を使って漢字で遊ぶ(2)

<< 前回(1 はじめに/2 実施に至る経緯)

3 指導の全体計画

 「児童生徒のコミュニケーション能力の育成に資する芸術表現体験」は、5年生の3学級それぞれ3回ずつ実施されます。この事業は、正解のない課題に対して、グループでの話合いを行って解決を図ることを通して、互いの違いを認め、受け入れ合いながら合意を形成する能力、すなわち「コミュニケーション能力」を育成しようとするもので、芸術表現のワークショップを主たる活動とするものです。

【児童の創作漢字例2】

お題:マラソン】

 第1回目は、身体を動かすことを主眼に置いた様々なシアターゲームと小グループによる身体表現を行う「導入」段階。第2回目は、シアターゲームを行った上で、漢字を題材とした小グループによる短いシーン創作を行う「展開」段階。第3回目は、シアターゲームを行った上で、小グループによる少し長いシーン創作を行う「展開」と「ふりかえり」段階。各回だけでなく、全3回を通して「導入→展開→ふりかえり」というワークショップの基本的な構造を踏まえ、小グループによる話し合いを重視し、相互鑑賞を伴う発表を盛り込んだ内容となっています。

 第2回目の3学級については、時間割の関係から、2学級がワークショップを先に行ってから「漢字の成り立ち」の授業を受けることになり、1学級が「漢字の成り立ち」の授業を先に受けてからワークショップを行うということになりました。このことによって、漢字のワークショップと漢字の授業と、どちらを先に行った方が効果的であるかが見えてきました。

4 「漢字の成り立ち」の授業

 授業は、4年生~6年生を縦割りにして、4~6年1組、4~6年2組、4~6年3組と同じ内容で3回実施しました。この授業においては、まず、漢字がいつ頃から使われているのかを含め、古い漢字の資料画像を示して紹介した上で、漢字の字数が大きな字典・辞典でどのくらいになっているのかを説明しました。導入として、漢字が非常に古くからあることと数が多いことを知ってもらうことを意図したものです。

 次に、漢字が表語文字(意味と音とを表すlogogram)であることから、字数の多さを説明した上で、漢字がどのようにできたのかについて紹介しました。「象形」「指事」「会意」「形声」の四種を例とともに話した後、漢字の成り立ちを知っているとどんなメリットがあるかを考えてもらいました。クイズに強くなるなど記憶された知識という面からの回答が出てきました。

 そこで、「瑠璃」と板書して、読み方を問いました。「瑠璃」は、平成22年11月の改定で常用漢字表に入った漢字で、学年別漢字配当表には含まれず、学習していません。しかし、「瑠」も「璃」も形声でできていることをヒントとして与え、音を表すのが「留」「离」であること、さらに「留守」「距離」などの目にしたことのありそうな熟語も挙げると、「瑠璃(るり)」という読み方に気付きます。

 他の学習していない熟語を示して同様に行ってみます。その上で、大人であっても全ての漢字を知っているわけではないから、読み方が分からない漢字に出会ったときには「形声」の知識を使って読み方を推測しているという話をしてまとめます。漢字の読み方が推測できるようになるということは、子どもたちにとって大きな進歩となり、漢字に対する抵抗感を少し軽減することにもつながります。教科書では、学習した漢字の成り立ちがどれに当たるか考えさせることが多いようですが、これでは漢字の成り立ちの知識は使えるようにならないのではないでしょうか。

 「形声」の知識の使い方を学んだ後、「会意」の知識を使う活動を盛り込みました。お題で示された言葉を表す漢字を創作するというものです(第1回第3回の当連載でも子どもたちが創作した漢字を1字ずつ紹介しています)。

 3学年混合のグループに分かれて、それぞれに与えられたお題を表す漢字を創作します。お題で示された言葉の特徴を挙げていき、その特徴を表す漢字の部分を考えて組み合わせるという手順となります。学年混合としたのは、4年生の自由な発想と5年生の知識とを6年生がまとめるという大まかな役割分担を期待してのものでした。

 この課題に正解はありません。しかし、文字である以上、その文字を見た人が何を表しているか分からなければ失敗作ということになります。ですから、グループワークに入る前に、難しくて誰も分からないものでは文字としての役割を果たしていないから、見た人がきちんと分かるものでなければいけないという条件を明示しています。

 話合いが停滞気味なグループには、先生方にも加わっていただきつつ、できあがった漢字(グループから何字提出しても可)を順に掲示して、出そろったところで他のグループに当ててもらうという形で進行しました。知らない漢字の意味を推測する方法として大人も「会意」の知識を使っていることをまとめとして伝えました。ただし、45分の予定であったものが、50~55分かかってしまったのが反省点です。

 この授業は、クイズ形式であることでの面白さだけでなく、漢字の部首や旁の意味についての知識を持っていた方がいいことを実感してもらう機会となりました。

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【筆者プロフィール】

鈴木 仁也(すずき・まさなり)
文化庁文化部国語課国語調査官
文部科学省初等中等教育局コミュニケーション教育推進会議オブザーバー
1964年東京生まれ。筑波大学大学院博士課程中退。東京学芸大学附属高等学校教諭(国語科、演劇部顧問)を経て現職。
国語調査官として、文化審議会国語分科会の審議に関わるほか、「「言葉」について考える体験事業」、「国語に関する世論調査」など国語施策普及のための様々な取り組みに関わる。2010年からは、教育現場とワークショップ講師を含めた創作活動、さらには行政という三方面からの知見を持つことから、文部科学省コミュニケーション教育推進会議立ち上げと同時にオブザーバーとして会議に加わる。
主な著述に、『まんがで学ぶ敬語』(国土社2010)、『用字用語新表記辞典』(第一法規2011・編集協力)のほか、教員時代に携わった高等学校教科書(三省堂)や、国語教育、情報教育、古典教育等について多数のものがある。

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【編集部から】
価値観が多様化し、また、急速に社会が変化していくなかで、どのような相手とも、どのような状況でも、協働して問題解決をはかっていけるような力が求められています。これに対し、教育現場では多様な取り組みが始まっています。
その実践を、多くの現場をご覧になり、自らもワークショップを行う鈴木仁也さんにご執筆いただくコラムです。
今回は、漢字辞典の使用につながる演劇ワークショップの授業のもようを3回に分けてご紹介いただきます。


身体を使って漢字で遊ぶ(1)

2011年 12月 21日 水曜日 筆者: 鈴木 仁也

身体を使って漢字で遊ぶ(1)

1 はじめに

 辞書引き学習が広まることで、紙の国語辞典の需要が増え、子どもたちが自ら国語辞典を引くことも増えてきたようです。一方、漢和辞典となると、需要が増えているという話や子どもたちが自ら漢和辞典を引くようになったという話を聞くことは少ないように感じます。子どもたちが、自ら漢和辞典に手を伸ばし、引くようになるきっかけを作ることはできないでしょうか。

【児童の創作漢字例1】

お題:レインコート】

 小学校における「漢字の成り立ち」の扱い方について、「象形・指事・会意・形声」という4種類があることを伝えることにとどまっている授業が多いように感じます。実社会において、この知識がいかに活用できるのかという観点で授業を行えないでしょうか。

 また、文部科学省のコミュニケーション教育推進会議が、審議経過報告「子どもたちのコミュニケーション能力を育むために~「話し合う・創る・表現する」ワークショップへの取組~」(2011年8月29日)を公表しました。ここで定義されたコミュニケーション能力(=いろいろな価値観や背景をもつ人々による集団において、相互関係を深め、共感しながら、人間関係やチームワークを形成し、正解のない課題や経験したことのない問題について、対話をして情報を共有し、自ら深く考え、相互に考えを伝え、深め合いつつ、合意形成・課題解決する能力)を育むワークショップを漢字と関連付けて展開できないでしょうか。

 「児童生徒のコミュニケーション能力の育成に資する芸術表現体験」(文化庁・文部科学省)の採択校である、福島県いわき市立勿来第一小学校において、5年生を対象に3学級それぞれ3回ずつの演劇ワークショップが行われました。その中の1回ずつを上記のような問題意識の下に実施し、効果が認められました。そのレポートをお届けします。

2 実施に至る経緯

 もともと、勿来第一小学校では、5年生を対象に学級ごとに演劇ワークショップを行うことを通して、他者認識と自己認識を改め、相互の違いを尊重し合える関係性を築くことを狙いとして「児童生徒のコミュニケーション能力の育成に資する芸術表現体験」に取り組むことにしていました。関係性の変化が、学級の人間関係の改善に結び付き、演劇的な手法を経験する中で、想像力や表現力が育まれるという効果を意図したものです。

 各学級の第2回目、筆者が同行することとなり、学校から「子どもたちに特別授業をしてもらえないか」との要望がありました。小学校5年生の国語に出ている「漢字の成り立ち」の扱い方について、その知識を実社会でどのように活用できるのかという観点を加えた授業も展開できるのではないかと考えていたところでもあり、「漢字の成り立ち」を扱う授業をやってみることにしました。そこで、演劇ワークショップの指導者である、わたなべなおこさん(劇作家・演出家、あなざーわーくす主宰)とも相談し、演劇ワークショップでも漢字を題材にして展開することとして当日を迎えました。

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次回(3 指導の全体計画 / 4 「漢字の成り立ち」の授業) >>

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【筆者プロフィール】

鈴木 仁也(すずき・まさなり)
文化庁文化部国語課国語調査官
文部科学省初等中等教育局コミュニケーション教育推進会議オブザーバー
1964年東京生まれ。筑波大学大学院博士課程中退。東京学芸大学附属高等学校教諭(国語科、演劇部顧問)を経て現職。
国語調査官として、文化審議会国語分科会の審議に関わるほか、「「言葉」について考える体験事業」、「国語に関する世論調査」など国語施策普及のための様々な取り組みに関わる。2010年からは、教育現場とワークショップ講師を含めた創作活動、さらには行政という三方面からの知見を持つことから、文部科学省コミュニケーション教育推進会議立ち上げと同時にオブザーバーとして会議に加わる。
主な著述に、『まんがで学ぶ敬語』(国土社2010)、『用字用語新表記辞典』(第一法規2011・編集協力)のほか、教員時代に携わった高等学校教科書(三省堂)や、国語教育、情報教育、古典教育等について多数のものがある。

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【編集部から】
価値観が多様化し、また、急速に社会が変化していくなかで、どのような相手とも、どのような状況でも、協働して問題解決をはかっていけるような力が求められています。これに対し、教育現場では多様な取り組みが始まっています。
その実践を、多くの現場をご覧になり、自らもワークショップを行う鈴木仁也さんにご執筆いただくコラムです。
今回は、漢字辞典の使用につながる演劇ワークショップの授業のもようを3回に分けてご紹介いただきます。


明解PISA大事典:高度ながら知識不問の「PISA型」問題の答え

2010年 3月 19日 金曜日 筆者: 北川 達夫

第34回 笑話による問題解決型読解教育――解答篇

 前回笑話を素材文にした場合の問題解決型読解について紹介した。最終課題は「笑話になるように、ほかの解決策を考えなさい」である。念のため、素材文のあらすじと、素材文における「問題―解決」を再掲する(*)

物語「くらのとびら」のあらすじ
 おまぬけ村のお父さんとお母さんの話である。お父さんは、野良仕事をしている間に蔵のお金がドロボウに盗まれるのではないかと心配していた。そこで、お母さんに、家事をしながら蔵の扉を見張っているように命じた。お母さんは蔵の扉を見張っていたが、話し相手のお父さんがいないので退屈である。畑に行けばお父さんと話せるのだが、それでは蔵の扉を見張ることができない。そこで、お母さんは蔵の扉を取り外し、それを背負って畑に行くことにした。お父さんはお母さんが畑に来たのでびっくりしたが、お母さんが蔵の扉を見張っていることがわかったので安心した。野良仕事を終え、家に帰った二人はびっくりした。蔵のお金がすっかり盗まれていたからである。

〈問題と解決〉
◎お父さんにとっての問題と解決
お金を盗まれるのではないか⇒お母さんに蔵の扉を見張っていてもらう。
◎お母さんにとっての問題と解決
退屈である。しかし蔵の扉を見張らなければならない⇒蔵の扉を背負って畑に行く。

 ポイントは、お父さんもお母さんも問題解決に大真面目に取り組んだつもりでいるのに、課題文のように「お金を盗まれてはならない」という大前提が崩れるか、新たな大問題が発生するように物語を書き換えることである。それができているかどうかが評価の対象であり、物語がおもしろいかどうかはそれほど重要ではない。

 当たり前のことだが、こういった課題に決まった正答はない。そこで、フィンランドと日本の実践例から、解答パターンを五つに分類して紹介することにしよう。

①見張っていたら盗まれた

 お母さんが蔵の扉「だけ」をずっと見張っていたために、ドロボウに蔵の壁を破られたり、窓を壊されたり、屋根をはずされたりしても気付かず、結局お金を盗まれてしまう――という解答パターンである。私の知るかぎり、フィンランドでも、日本でも、この解答パターンがいちばん多い。ただ、この場合は、お母さんにとっての「退屈である」という問題について、別の解決策を考える必要がある。お母さんにとって、蔵の扉を見張ることは退屈で仕方のないことなのだ。フィンランドでも、日本でも、ドロボウにお金を盗ませることにばかり熱中して、肝心のお母さんの問題を忘れてしまう場合が多い。その点を指摘すると、「お母さんは蔵の扉を見ているうちに楽しくなってきました。なんと蔵の扉がお母さんに話しかけてきたからです」などと、急にメルヘンな展開が始まったりするので、それはそれでおもしろい。

②ドロボウ登場

 物語の挿絵には二人組のドロボウのシルエットが描かれている(*)。そこから「ドロボウは二人組である」ということがわかる。この事実を利用しないテはない。たとえばドロボウの一人がお母さんの話し相手になって退屈をまぎらわし、もう一人が蔵の壁を破ったり、窓を壊したり、屋根をはずしたりしてお金を盗む(お母さんは世間話と『扉を見張ることだけ』に熱中していて気付かない)――というような解答パターンがある。お母さんの問題も自然に解決されており、①の改良型ともいえる。

 親切なドロボウがお母さんから事情を聞き、「かわりに蔵の扉を見張っていてあげましょう」と申し出る。お母さんはその提案をありがたく受け入れて畑に行き、結局お金を盗まれてしまう――というようなパターンもある。このあたりで、ちょっと別の問題の存在に気付く可能性があるのだが、これについては⑤で述べることにしよう。

③お母さん暴走

 お母さんは「蔵の扉を見張る」という行動に疑問を抱く。なぜこんなつまらないことをやらなければならないのか?「そうそう、蔵の中にお金があるからいけないんだわ」とかなんとか言って、「ドロボウさ~ん」などとドロボウを呼び寄せ、蔵の中のお金を全部持っていってもらう。そして「もう扉を見張る必要はなくなったわ」とかなんとか言って、お父さんのいる畑に向かうのである。そしてお父さんも「そうか、見張る必要がなくなったか」などと嬉しそうに言うのである――こういった凄まじい破壊力の解答を、たまにフィンランドの教室で聞くことができる。けっこうおもしろい。

④見張っていたら枯れちゃった

 お母さんの退屈をまぎらわすため、あるいはお母さんを信用できないために、お父さんも一緒に蔵の扉を見張ることになり、お父さんは野良仕事を一切しなくなってしまったために、畑の作物が全部枯れてしまう――というようなパターン。この物語の場合、フィンランドでも、日本でも、あまり新たな問題を発生させる余地がないようだ。

⑤余計なことに気付いちゃった

 世の中には気がつかないほうが幸せなことがある。だが、そういうことに必ず気がついてしまう人間はいるものだ。なぜ蔵の扉を見張らなければならないのか? 扉にカギはないのか? ここで挿絵を見る。なんと、お母さんの背負っている扉には、大きくて頑丈そうな錠前がついているのである(*)。こんな立派な錠前が付いているんだったら、扉を見張る必要はないんじゃないか! そう、その通り。挿絵も含めてクリティカルによく読むと、この物語はちょっとおかしいのである。

 お母さんが「錠前があるから大丈夫」と思って畑に行ったら、その間に錠前をこじあけられた/蔵の壁が破られた――というような解答パターンもあるが、これでは当たり前すぎて笑話にならない。お母さんかお父さんによる大真面目な問題解決が、直截的に大前提を崩したり、新たな大問題を引き起こしたりしていないと笑話にならないのである。

 たとえば、②の二番目の解答パターンを改良する。親切なドロボウが「かわりに蔵の扉を見張っていてあげましょう」と申し出る。そのとき、「お金が盗まれていないかどうか、蔵の中を確かめてみましょう」と言って、お母さんに錠前を開けさせる。そのあと一応は錠前を閉めさせるのだが、ドロボウは「私が見張っている間も、ときどき蔵の中にちゃんとお金があるかどうか確かめてあげましょう」などと言って、お母さんから錠前のカギを預かってしまうのだ――クラスの中で錠前の存在に気付いた児童がいて、「蔵の扉を見張ること」の意味に疑義が差し挟まれると、全員の話し合いによってこういった解決策を考えていくことになる。ただ、笑話の場合は、あまり細部をクリティカルに詰めすぎると、どんどんつまらなくなっていくことがあるので難しいところだ。

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(*) 『フィンランド国語教科書 小学3年生』pp82-83 メルヴィ・バレ他著/北川達夫訳/経済界 2006年

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【プロフィール】

北川達夫(きたがわ・たつお)
教材作家・教育コンサルタント・チェンバロ奏者・武芸者・漢学生
(財)文字・活字文化推進機構調査研究委員
日本教育大学院大学客員教授
1966年東京生まれ。英・仏・中・芬・典・愛沙語の通訳・翻訳家として活動しつつ、フィンランドで「母語と文学」科の教科教育法と教材作法を学ぶ。国際的な教材作家として日芬をはじめ、旧中・東欧圏の教科書・教材制作に携わるとともに、各地の学校を巡り、グローバル・スタンダードの言語教育を指導している。詳しいプロフィールはこちら⇒『ニッポンには対話がない』情報ページ
著書に、『知的英語の習得術』(学習研究社 2003)、『「論理力」がカンタンに身につく本』(大和出版 2004)、『図解フィンランド・メソッド入門』(経済界 2005)、『知的英語センスが身につく名文音読』(学習研究社 2005)、編訳書に「フィンランド国語教科書」シリーズ(経済界 2005 ~ 2008)、対談集に演出家・平田オリザさんとの対談『ニッポンには対話がない―学びとコミュニケーションの再生』(三省堂 2008)組織開発デザイナー・清宮普美代さんとの対談『対話流―未来を生みだすコミュニケーション』(三省堂 2009★新刊★)など。
『週刊 東洋経済』にて「わかりあえない時代の『対話力』入門」連載中。

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【編集部から】
学習指導要領の改訂に大きく影響したPISAってなに?
PISA型読解力ってどんな力なの?
言語力、言語活動の重視って? これまでとどう違う?
現代の教育観は変わってきたのか。変わってきたとしたら、そこにどんな経緯があるのか。
国際的に活躍する教材作家である北川達夫先生がやさしく解説する連載「明解PISA大事典」。金曜日に掲載しています。


明解PISA大事典:高度ながら知識不問の「PISA型」問題

2010年 3月 5日 金曜日 筆者: 北川 達夫

第33回 笑話による問題解決型読解教育

 前回はフィンランドの「分離・融合方式」について紹介した。分離段階(小学校5年生くらいまで)においては、相当に仕組まれた素材文を用い、学年相応の知識と経験のみを駆使してクリティカルに読むことが求められる。要するに、自分たちと同じような登場人物が、自分たちも経験したことのあるような問題に遭遇し、自分たちもやりかねない方法で解決する物語を読んで、ああだこうだと意見を言い合うようなやりかたである。いわゆる「PISA型読解力」を容易に習得できる方法ではあるが、「深さ」の感じられる方法ではないため、日本の国語の先生にとっては物足りなく感じられるようである。

 とはいえ、やりかたによっては、けっこう手ごたえのある課題を設定することもできる。

 一例を挙げよう。小学校3年生用の教科書に掲載されている事例である(1)

物語「くらのとびら」のあらすじ
 おまぬけ村のお父さんとお母さんの話である。お父さんは、野良仕事をしている間に蔵のお金がドロボウに盗まれるのではないかと心配していた。そこで、お母さんに、家事をしながら蔵の扉を見張っているように命じた。お母さんは蔵の扉を見張っていたが、話し相手のお父さんがいないので退屈である。畑に行けばお父さんと話せるのだが、それでは蔵の扉を見張ることができない。そこで、お母さんは蔵の扉を取り外し、それを背負って畑に行くことにした。お父さんはお母さんが畑に来たのでびっくりしたが、お母さんが蔵の扉を見張っていることがわかったので安心した。野良仕事を終え、家に帰った二人はびっくりした。蔵のお金がすっかり盗まれていたからである。

〈問題と解決〉
◎お父さんにとっての問題と解決
お金を盗まれるのではないか⇒お母さんに蔵の扉を見張っていてもらう。
◎お母さんにとっての問題と解決
退屈である。しかし蔵の扉を見張らなければならない⇒蔵の扉を背負って畑に行く。

 このように各人が各人の問題を解決しているにもかかわらず、大前提が崩れてしまった、つまり盗まれてはならないお金が盗まれてしまったのである。「おまぬけ村(Hölmölä)」の物語というのは、フィンランドでは定番の民話型笑話であり、だいたいこのパターンで笑いをとることになっている。

 この物語について、通常の問題解決型読解の方式(2)で話し合ってもあまり意味はない。「お金を盗まれてはならない」という大前提のもとで、「ほかに解決策はありませんか?」「あなただったらどうしますか?」と考えさせたところで、おまぬけ村の住人のようなアホな解決策をとらなければよいだけだからである。もちろん、小学校3年生が対象の課題なので、一応は確認のために「お金を盗まれないためには、どうすればよかったのですか?」と聞くことにはなっているが……。

 このように笑話が素材文の場合は、あくまでも笑話のルールに則って問題解決思考をすることになる。つまり「笑話になるように、ほかの解決策を考えなさい」というのが、この素材文を用いた場合の最終課題である。登場する各人が各人の問題を真面目に解決したにもかかわらず、そのために大前提が崩れるような解決策――お父さんかお母さんの解決策を考えなければならないのである。

 さて、この「おまぬけ村」の物語では、ほかにどのような解決策があるだろうか?

(解答例は次回)

* * *

(1) 『フィンランド国語教科書 小学3年生』pp82-83 メルヴィ・バレ他著/北川達夫訳/経済界 2006年
(2) 問題解決型読解については第16回を参照。

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【プロフィール】

北川達夫(きたがわ・たつお)
教材作家・教育コンサルタント・チェンバロ奏者・武芸者・漢学生
(財)文字・活字文化推進機構調査研究委員
日本教育大学院大学客員教授
1966年東京生まれ。英・仏・中・芬・典・愛沙語の通訳・翻訳家として活動しつつ、フィンランドで「母語と文学」科の教科教育法と教材作法を学ぶ。国際的な教材作家として日芬をはじめ、旧中・東欧圏の教科書・教材制作に携わるとともに、各地の学校を巡り、グローバル・スタンダードの言語教育を指導している。詳しいプロフィールはこちら⇒『ニッポンには対話がない』情報ページ
著書に、『知的英語の習得術』(学習研究社 2003)、『「論理力」がカンタンに身につく本』(大和出版 2004)、『図解フィンランド・メソッド入門』(経済界 2005)、『知的英語センスが身につく名文音読』(学習研究社 2005)、編訳書に「フィンランド国語教科書」シリーズ(経済界 2005 ~ 2008)、対談集に演出家・平田オリザさんとの対談『ニッポンには対話がない―学びとコミュニケーションの再生』(三省堂 2008)組織開発デザイナー・清宮普美代さんとの対談『対話流―未来を生みだすコミュニケーション』(三省堂 2009★新刊★)など。
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明解PISA大事典:学習者中心型指導法の欠陥

2010年 1月 22日 金曜日 筆者: 北川 達夫

第30回 実践適用の難しさ

 前回、フィンランドの「喚起・共有・探求」型授業について紹介した。OECDのPISAの関係の偉い人たちは、このような授業形態を「学習者中心型」ということで推奨している。だが、これをこのまま「型どおり」踏襲すると、致命的な欠陥のある指導法になってしまう。

 当たり前のことであるが、「学習者」がまったく知らない事がらについては、この指導法はまったく機能しない。まずは何らかの手段で基礎知識を注入するしかないだろう。また、ちょっと別の問題ではあるが、この指導法は学習者に意欲と関心がなければ、まるで機能しない。意欲と関心を持たせるのが指導者の役目と言ってしまえば、それまでのことではあるのだが……。

 指導法そのものにも、このままでは機能しえない欠陥がある。基本的な発問は「学習者が何を知っているか?」「学習者が何を知りたいか?」「学習者が何を調べたか?」であるが、このように並べてみると明らかなように、最初から最後まで「学習者」の視点しか存在しないからだ。指導者がうまく誘導するか、適当に知識を注入するかしないと、学習者は知識を体系的に身につけることができない。その意味では、同じく前回紹介した、説明文の指導事例のほうが「型」としては現実的である。説明文が基礎的な知識を体系的に注入する役割を果たしてくれるからだ。ただ、それでも指導者がうまく誘導しないと、学習者は自分の枠の中でしか知識と向き合えなくなってしまう。

 知識基盤社会においては学習者中心型の学びが必要なのだろうが、何もかも学習者に丸投げしてはマズいのである。もちろん、その程度のことは職業的な指導者であれば重々承知しているのだろうが、フィンランドでも承知していない職業的な指導者がたまに存在するので注意を要するのである。

 第12回第13回で述べたように、これからの時代は知識基盤社会であり、内部情報(自分の知っていること)と外部情報(他者の知っていること)の統合による「創造的問題解決」の能力が必要とされる。内部情報と外部情報を統合しなければならないのだから、創造的問題解決においても内部情報、つまり自分が持っている知識の質と量は重要である。ところが、PISAの「知識を問うテスト」ではないという売り文句のためか、いわゆる「PISA型の授業」というと、「絶対に知識注入という要素があってはならない」という印象があるようだ。また、いわゆる「PISA型読解力」というと、「文中から根拠さえ挙げられれば、どれほど素頓狂な解釈をしてもいい。どれほど非常識な意見を言ってもかまわない」という印象があるようだ。公開されたPISAのサンプル問題が、その印象をさらに強める効果を発揮していることも否めない。

 当初のPISAショックもフィンランド崇拝も薄らいできた昨今、「PISA的なもの」に対するアレルギーというか拒絶反応が強まってきたように感じられる。

 さて、どうしたものか。次回以降に考えることにしよう。

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明解PISA大事典:発問 劇にしてみましょう

2009年 9月 25日 金曜日 筆者: 北川 達夫

第20回 発問:最後の一問 ~本当に完結

 前3回(第17回第18回第19回)にわたって、フィンランドの国語教科書を用いて「問題解決方式の発問」について紹介してきた。前回で問題解決プロセスは完結したため、私としては「このシリーズはこれで終わり」と思っていたのだが、ある小学校の先生から「もう一つ残っているではないか」との指摘があった。たしかに残っている――。そこで今回は本当に完結させるため、最後の一問について説明することにしよう。しつこいようだが念のため素材文を再掲する(1)

●物語「ちょうど35キロ」のあらすじ●

 学校でバザーが開かれている。バザー会場に体重計があり、おじさんが呼びこみをやっている。料金1ユーロで体重を計測し、ちょうど35キロであれば賞品がもらえるとのこと。ユッシ少年の体重は36.5キロ、ラミ少年の体重は33.5キロで、いずれも賞品を獲得できない。そこでユッシは目的を告げぬまま、ラミにレモネードを1.5リットル飲ませる。わけのわからぬままラミはレモネードを飲み、体重計に乗る。ちょうど35キロ! みごと賞品を獲得する。レモネードを飲みすぎて気持ち悪くなったラミが受け取った賞品は、レモネード一箱だった。

最後の一問とは以下の通り。

この話を劇にしてみましょう。ラミの家にレモネードが届いてからのことも考えましょう。

 「劇にしてみましょう」というのは、フィンランドの初等教育の国語(1~5年生)における定番の課題である(2)。単元の終わりに、必ずといっていいほど「劇にしてみましょう」という課題があるのだ。これについては、劇作家の平田オリザさんがしきりに感心していた(3)。平田さんが数えたところによると(律儀な御仁である)、全単元のうち3分の2が「劇にしてみましょう」で終わっているという。日本で演劇教育を推進されている平田さんにしてみれば、こういう国語教科書はさぞかしうらやましいに違いない。

 読解教育の観点からしても「劇にしてみましょう」という課題には大きな意味がある。物語の場面や状況をよく把握し、登場人物のそれぞれについて深く理解していないと、演じることはできないからだ。

 日本で「『劇にしてみましょう』をやりましょう」と言うと、「とても時間が足りません」という答えが返ってくる。配役を決めて~/シナリオを作って~/それを覚えて~/練習を重ねて~/全員が発表に参加して~というのに、膨大な時間がかかるというのだ。

 一方、フィンランドでは、こういう活動にはぜんぜん時間がかからない。4~5人のグループで演じるとしても、15分あれば充分である。それはフィンランドのクラス全体の人数が少ないからではない。30人でも40人でも、15分あれば充分なのである。

 フィンランドの国語教育の発想からすると、物語の流れを大づかみに把握した上で、即興的に演じることを重視するため、シナリオを用意して~/それを覚えて~/練習を重ねて~ということにはならない。だから、この課題を実施する場合には、「4分で配役を決めて練習、1分で実演!」という指示を与えるのが一般的である。これなら、児童が30人いようが40人いようが、15分もあれば全グループが演じられるだろう。

 この課題では「レモネードがラミの家に届いてからのことも考えましょう」となっており、物語の続きを自分たちで創作しなければならない。ただ、創作といっても、それまでの話の流れにそったものでなければならないから、読解教育の「推論」としての要素が強い。それまでの話の流れを手がかりにして、物語の続きを推論するのである。そして、この「推論」と「創作」も含めて、「4分で配役を決めて練習」なのである。

 もちろん「4分で決めて練習、1分で実演!」というやりかたでは、演劇としてはヘタクソなものにならざるをえない。だが、限られた時間内にグループ全員で合意形成し、その決定に基づいて全員で行動するというところに、この課題の最大の目的があるのだ。

* * *

(1) 『フィンランド国語教科書 小学3年生』pp80-81 メルヴィ・バレ他著/北川達夫訳/経済界 2006年
(2) 教科書にもよるが、6年生以上では演劇教育は原則として別単元になる。
(3) 『ニッポンには対話がない』pp44-45 北川達夫・平田オリザ著/三省堂 2008年

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明解PISA大事典:発問 最善の解決策を模索する

2009年 9月 18日 金曜日 筆者: 北川 達夫

第19回 発問:問題解決プロセスの完結

 第17回第18回とフィンランド国語教科書(3年生)の素材文を用いて、問題解決プロセスについて説明してきたが、それも今回で完結である。念のため素材文を再掲する(1)

●物語「ちょうど35キロ」のあらすじ●

 学校でバザーが開かれている。バザー会場に体重計があり、おじさんが呼びこみをやっている。料金1ユーロで体重を計測し、ちょうど35キロであれば賞品がもらえるとのこと。ユッシ少年の体重は36.5キロ、ラミ少年の体重は33.5キロで、いずれも賞品を獲得できない。そこでユッシは目的を告げぬまま、ラミにレモネードを1.5リットル飲ませる。わけのわからぬままラミはレモネードを飲み、体重計に乗る。ちょうど35キロ! みごと賞品を獲得する。レモネードを飲みすぎて気持ち悪くなったラミが受け取った賞品は、レモネード一箱だった。

この物語の“問題と解決例”は「体重を35キロにすること」、解決策は「(体重33.5キロの)ラミにレモネードを1.5リットル飲ませる」と設定した。

 ここでフィンランド国語教科書に示された発問④を見てみよう。

「どうすればユッシは体重を1.5キロ軽くすることができますか」
「ラミが体重を1.5キロ重くする方法はほかにはありませんか」

 この発問の目的は「ほかの解決策を可能な限り模索すること」。できるだけたくさんの代案を出して、そこから最善の解決策を見出す。これで問題解決プロセスは完結である。いくつかの方法があるのだが(2)、ここでは小学生向けの定石を紹介することにしよう。

 まずは自由に代案を出させる。ブレイン・ストーミングと同じく、批判や抑制は一切禁止して自由にアイデアを出させることが肝要である。

 やはりラミを1.5キロ重くする方法のほうが思いつきやすい。「肉を1.5キロ分食べる」「服をたくさん着る」「1.5キロの石を隠し持つ」などなど。

 ユッシを1.5キロ軽くするのは難しい。「1.5キロ軽くなるまでサウナに入る」「校庭を走り回る」「服をぜんぶ脱ぐ」…苦しまぎれに「ぜい肉を1.5キロ切り落とす」などというアイデアまで出てきたりする。

 これらのアイデアから「最善の解決策」を決定するのだが、その前に評価基準を設定しなければならない。単に「みんなで話し合って、いちばん良い解決策を選びましょう」と指示するだけでは、何を基準に選んだらよいのか分からない。単に個人の好き嫌いで選ぶことになってしまう。そこで、まずはみんなで評価基準を定め、それに従って客観的に「最善の解決策」を見出していくのである。

 評価基準を設定するにあたって必要なのは、テキストに示された解決例の評価である。たとえば「ラミにレモネードを1.5リットル飲ませる」という方法の利点と難点を挙げる。利点としては「正確に体重を増やせる」「すぐに体重を増やせる」。体重計に乗るたびに1ユーロかかるのだから「正確さ」は重要な要素だ。また、このイベントの期間内に体重を増減できなければ賞品がもらえないのだから、「迅速さ」も重要な要素である。難点としては「レモネードを1.5リットル飲むのは苦しい」。もっと楽な方法はないだろうか?

 以上から、たとえば次の3つの評価基準を見出すことができる。

・確実に1.5キロ増やす/減らすことができる方法である。
・その場で1.5キロ増やす/減らすことができる方法である。
・レモネードを1.5リットル飲むよりも楽な方法である。

 以上の基準をすべて満たす方法であれば、テキストに示された方法(原案)との比較において、ある意味で「より良い方法」といえるだろう。わざわざ代案を考えたのだから、そこから何らかの基準に照らして「より良い方法」を見出さなければ意味がないのだ。

 実際のフィンランドの授業では、ここまでを一斉の授業で行い、あとはグループ作業に任せるのが一般的である。以上の3つの評価基準に、子どもたちは自分たちで考えた評価基準を加えていく。子どもたちから必ず出てくるのが「ズルはいけない」。ただ、その場合は「どこからがズルになるのか?」も併せて決めなければならない。

 また、フィンランドでも学級の状態によっては「ぜい肉を切り落とす」などというアイデアを放置しておくわけにはいかない場合がある。そういうときは、たとえば先生が「ユッシやラミが実際にできる方法である」という評価基準を加えることによって、そのような非常識なアイデアを排除するようにする。アイデア出しの段階ではなく、評価基準の段階で排除するあたりがポイントである。その一方で、「いちばん面白い方法である」「いちばんめちゃくちゃな方法である」という評価基準も“例示”することによって、できるだけ子どもの独創性を引き出そうとする先生もいる。

 評価基準を定めたうえで、グループごとに「最善の解決策」を決めていく(合意形成には様々な方略が必要なのだが、これについては回を改めて紹介しよう)。そして、自分たちなりの評価基準を示しつつ、自分たちにとっての「最善の解決策」を発表する。こうして問題解決プロセスは完結するのである。

* * *

(1) 『フィンランド国語教科書 小学3年生』pp80-81 メルヴィ・バレ他著/北川達夫訳/経済界 2006年
(2) たとえば先に評価基準を設定し、それに従ってアイデア出しをする方法もある。だが、小学生の場合は先にブレイン・ストーミングをしたほうが盛り上がることが多い。

* * *

◇この問題の最初へ⇒第17回 発問 問題解決型の読解問題作法「「なぜ?」の連鎖」

◇この問題の一つ前の問題へ⇒第18回 発問 結果から原因の推論「問題解決プロセスの続き」

◇この問題の最後の発問へ⇒第20回 発問 劇にしてみましょう「最後の一問 ~本当に完結」

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明解PISA大事典:発問 結果から原因の推論

2009年 9月 11日 金曜日 筆者: 北川 達夫

第18回 発問:問題解決プロセスの続き

 前回はフィンランド国語教科書(3年生)の素材文を用いて、問題解決の「きっかけ」づくりについて説明した。「きっかけ」だけを説明して終わるのも奇妙なので、引き続き問題解決プロセスの進めかたについて説明することにしよう。念のため素材文を再掲する(*)

●物語「ちょうど35キロ」のあらすじ●

 学校でバザーが開かれている。バザー会場に体重計があり、おじさんが呼びこみをやっている。料金1ユーロで体重を計測し、ちょうど35キロであれば賞品がもらえるとのこと。ユッシ少年の体重は36.5キロ、ラミ少年の体重は33.5キロで、いずれも賞品を獲得できない。そこでユッシは目的を告げぬまま、ラミにレモネードを1.5リットル飲ませる。わけのわからぬままラミはレモネードを飲み、体重計に乗る。ちょうど35キロ! みごと賞品を獲得する。レモネードを飲みすぎて気持ち悪くなったラミが受け取った賞品は、レモネード一箱だった。

 この物語の“問題と解決例”は「体重を35キロにすること」、解決策は「(体重33.5キロの)ラミにレモネードを1.5リットル飲ませる」と設定した。

 ここでフィンランド国語教科書に示された発問の②と③を見てみよう。

「ラミが素直な性格で、ほかの人に言われたとおりにすることは、この話の、どこの部分で分かりますか」
「ユッシが算数が得意であることは、この話の、どこの部分でわかりますか」

 このような発問を「結果から原因の推論」という。「ラミは素直な性格だ」という解釈の“結果”を示し、そのような解釈を成り立たせる“情報(原因)”を文中から探させるのである。文中から解釈の根拠となる情報を取り出させるのだから、いずれもPISAでいえば「情報の取り出し」の発問になる。

 日本であれば「ラミはどういう性格ですか?」と問うところだろう。このような発問を「原因から結果の推論」という。ラミがどういう性格かを推論するためには、まず文中からラミの性格を示す“情報(原因)”を拾い、それらの情報と自分の知識や経験とを関連付けて推論し、ラミの性格に関する解釈の“結果”を示さなければならないからだ。

 欧米の読解教育では、このような「結果から原因」「原因から結果」という双方向の推論が重視されている。特に小学校の低学年のうちは、「結果から原因」の推論が重要だとされている。「ラミはどういう性格ですか?」という発問よりも、「ラミが素直な性格で、ほかの人に言われたとおりにすることは、この話の、どこの部分で分かりますか」という発問のほうが重要ということだ。

 これには大まかにいって、次の二つの理由がある。

1.子どもの思考と語彙の枠を拡げる

 小学校低学年では使いこなせる語彙が限られている。そのため「ラミはどういう性格ですか?」と問われると、情報を縮約して答える傾向がある。つまり、「良い子です」とか「悪い子です」など、極端に単純化して答えてしまう。そこで、子どもが自力では思いつかないような解釈を示し、その解釈について考えさせることによって、子どもの思考の枠を拡げると同時に、使いこなせる語彙の枠も広げようというのである。

2.他者の意見の成り立ちを考える

 「結果から原因」の推論について、PISAなら次のように問うところである。

●この物語を読んだジョンは次のように言いました。
「ラミは素直な性格なんだね」
この意見の理由を言うとすると、ジョンはどのようなことを言ったらよいと思いますか。
文章の内容にふれながら答えてください。

 発問の求める作業内容はほとんど同じなのだが、発問の目的はこちらのほうが明確だろう。つまり、「他者の意見」を示し、その成り立ちを考えさせることが目的なのである。「自分の意見」を求めているのではない。「他者の意見」を成り立たせることを求めているのだ。これはコミュニケーション教育としての意味合いが強い。他者の意見の成り立ちを推論することは、コミュニケーションにおいては重要な技能だからだ。このあたりについて詳しくは、いずれ章を改めて紹介することにしよう。

 もうひとつ、ここでの問題解決プロセスにおいては、これらの発問には「解決策を成り立たせている条件に気付かせる」という意味がある。

3.解決策を成り立たせている条件

 「体重を35キロにする」という問題を解決するために「(体重33.5キロの)ラミにレモネードを1.5リットル飲ませる」という手段をとるには、「ラミが素直で、人に言われたとおりにすること」「ユッシは算数が得意であること」という二つの条件が必要である。どちらが欠けても物語通りには話が進まなくなってしまう。物語に示された解決策が特定の条件下で成り立っていることに気付くかどうか。その気付きへの“きっかけ”となる発問なのである。ここから派生する発問として次のようなものがある。

「ラミがレモネードを飲むのをいやがった場合、ユッシはどうしたらよいと思いますか」

 ラミについての条件が欠けた場合、ユッシはどうすればいいのか。ラミを説得してレモネードを飲ませるか(物語では『わけのわからぬまま』レモネードを飲んでいる)、それとも他の方法を考えるか。さまざまな答えが可能だろう。

 物語に示された解決策以外の方法を模索し、そこから最善の解決策を見出せれば問題解決プロセスは完結である。これについては次回

* * *

(*)『フィンランド国語教科書 小学3年生』pp80-81 メルヴィ・バレ他著/北川達夫訳/経済界 2006年

* * *

◇この問題の前へ⇒第17回 発問 問題解決型の読解問題作法「「なぜ?」の連鎖」

◇この問題の続きへ⇒第19回 発問 最善の解決策を模索する「問題解決プロセスの完結」

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【プロフィール】

北川達夫(きたがわ・たつお)
教材作家・教育コンサルタント・チェンバロ奏者・武芸者・漢学生
(財)文字・活字文化推進機構調査研究委員
日本教育大学院大学客員教授
1966年東京生まれ。英・仏・中・芬・典・愛沙語の通訳・翻訳家として活動しつつ、フィンランドで「母語と文学」科の教科教育法と教材作法を学ぶ。国際的な教材作家として日芬をはじめ、旧中・東欧圏の教科書・教材制作に携わるとともに、各地の学校を巡り、グローバル・スタンダードの言語教育を指導している。詳しいプロフィールはこちら⇒『ニッポンには対話がない』情報ページ
著書に、『知的英語の習得術』(学習研究社 2003)、『「論理力」がカンタンに身につく本』(大和出版 2004)、『図解フィンランド・メソッド入門』(経済界 2005)、『知的英語センスが身につく名文音読』(学習研究社 2005)、編訳書に「フィンランド国語教科書」シリーズ(経済界 2005 ~ 2008)、対談集に演出家・平田オリザさんとの対談『ニッポンには対話がない―学びとコミュニケーションの再生』(三省堂 2008)組織開発デザイナー・清宮普美代さんとの対談『対話流―未来を生みだすコミュニケーション』(三省堂 2009★新刊★)など。
『週刊 東洋経済』にて「わかりあえない時代の『対話力』入門」連載中。

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【編集部から】
学習指導要領の改訂に大きく影響したPISAってなに?
PISA型読解力ってどんな力なの?
言語力、言語活動の重視って? これまでとどう違う?
現代の教育観は変わってきたのか。変わってきたとしたら、そこにどんな経緯があるのか。
国際的に活躍する教材作家である北川達夫先生がやさしく解説する連載「明解PISA大事典」。金曜日に掲載しています。


明解PISA大事典:発問 問題解決型の読解問題作法

2009年 9月 4日 金曜日 筆者: 北川 達夫

第17回 発問:「なぜ?」の連鎖

 「問題解決方式」の読解問題作法においては、作中人物がどのような問題に遭遇し、それをどのように解決したのかをとらえさせるのが発問の第一ステップとなる。ここで、単純に「主人公はどういう問題に遭遇しましたか?」「その問題を主人公はどうやって解決しましたか?」と問えば、それこそ問題解決なのだが、これではいかにも工夫がない。テキストに示された問題と解決策をとらえながら、同時に問題と解決策の背景も探っていくような発問が望ましいのである。

 では、どうすればいいのか、具体例を挙げて説明しよう。フィンランドの小学校3年生用の教科書に掲載されている事例である(*)

●物語「ちょうど35キロ」のあらすじ●

 学校でバザーが開かれている。バザー会場に体重計があり、おじさんが呼びこみをやっている。料金1ユーロで体重を計測し、ちょうど35キロであれば賞品がもらえるとのこと。ユッシ少年の体重は36.5キロ、ラミ少年の体重は33.5キロで、いずれも賞品を獲得できない。そこでユッシは目的を告げぬまま、ラミにレモネードを1.5リットル飲ませる。わけのわからぬままラミはレモネードを飲み、体重計に乗る。ちょうど35キロ! みごと賞品を獲得する。レモネードを飲みすぎて気持ち悪くなったラミが受け取った賞品は、レモネード一箱だった。

 この物語における問題は、たとえば「体重を35キロにすること」、解決策は「(体重33.5キロの)ラミにレモネードを1.5リットル飲ませる」である。

 ここでフィンランドの教科書に掲載されている発問①を見てみよう。

「なぜ、ユッシはラミに、レモネードを飲ませたのですか?」

 実はこれが“作中人物がどのような問題に遭遇し、それをどのように解決したのかをとらえさせる”発問なのである。ただ、「問題は何か?」「解決策は何か?」と一問一答で答えさせるのではなく、「発問の連鎖」を生み出すための“きっかけ”となる発問である。

 この場合の「発問の連鎖」として、たとえば次のような展開が考えられる。

「なぜ、ユッシはラミに、レモネードを飲ませたのですか?」
「賞品をもらうため」
「なぜ、レモネードを飲ませれば賞品がもらえるのですか?」
「体重が35キロになれば賞品がもらえるから」
「なぜ、体重が35キロになれば賞品がもらえるのですか?」
「体重がちょうど35キロなら賞品をもらえるというイベントをやっているから」
「なぜ、ラミにレモネードを飲ませれば、体重が35キロになるのですか?」
「ラミの体重は33.5キロなので、レモネードを1.5リットル飲ませれば、ちょうど35キロになるから」……

 もちろん問いと答えの順序はさまざまになりうる。たとえば「なぜ、ユッシはラミにレモネードを飲ませたのですか?」に対して、「体重を35キロにするため」という答えが返ってくる可能性もあるからだ。こうなると、次の発問は「なぜ、体重を35キロにしようとしたのですか?」になり、それに対する答えは「体重を35キロにすれば賞品がもらえるから」となるだろう。順序はさまざまだが、結局は同じ方向に収束していくことになる。そして、この一連の問いと答えの連鎖から、テキストに示された問題と解決策を明らかにすることができると同時に、その背景事情も探ることができるのである。

 コツは「解決策の『なぜ?』を問う」ところにある。

 「なぜ(解決策となりうる)その行動をとったのか?」と問われれば、そもそもどのような問題が存在するのか、なぜその行動が問題の解決になりうるのかを答えていかなければならない。答えに応じて、さらに「なぜ?」を問う。それによって、テキストに示された問題と解決策を詳細に分析していくことができるのだ。

 もちろんテキストはさまざまであり、読解問題はテキストへの依存性が高いため、あらゆるテキストにこの方法が使えるわけではない。だが、「解決策の『なぜ?』を問う」ことによって“作中人物がどのような問題に遭遇し、それをどのように解決したのかをとらえさせる”のは、読解問題作法の定石なのである。

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(*)『フィンランド国語教科書 小学3年生』pp80-81 メルヴィ・バレ他著/北川達夫訳/経済界 2006年

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◇この問題の続きへ⇒第18回 発問 結果から原因の推論「問題解決プロセスの続き」

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【プロフィール】

北川達夫(きたがわ・たつお)
教材作家・教育コンサルタント・チェンバロ奏者・武芸者・漢学生
(財)文字・活字文化推進機構調査研究委員
日本教育大学院大学客員教授
1966年東京生まれ。英・仏・中・芬・典・愛沙語の通訳・翻訳家として活動しつつ、フィンランドで「母語と文学」科の教科教育法と教材作法を学ぶ。国際的な教材作家として日芬をはじめ、旧中・東欧圏の教科書・教材制作に携わるとともに、各地の学校を巡り、グローバル・スタンダードの言語教育を指導している。詳しいプロフィールはこちら⇒『ニッポンには対話がない』情報ページ
著書に、『知的英語の習得術』(学習研究社 2003)、『「論理力」がカンタンに身につく本』(大和出版 2004)、『図解フィンランド・メソッド入門』(経済界 2005)、『知的英語センスが身につく名文音読』(学習研究社 2005)、編訳書に「フィンランド国語教科書」シリーズ(経済界 2005 ~ 2008)、対談集に演出家・平田オリザさんとの対談『ニッポンには対話がない―学びとコミュニケーションの再生』(三省堂 2008)組織開発デザイナー・清宮普美代さんとの対談『対話流―未来を生みだすコミュニケーション』(三省堂 2009★新刊★)など。
『週刊 東洋経済』にて「わかりあえない時代の『対話力』入門」連載中。

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【編集部から】
学習指導要領の改訂に大きく影響したPISAってなに?
PISA型読解力ってどんな力なの?
言語力、言語活動の重視って? これまでとどう違う?
現代の教育観は変わってきたのか。変わってきたとしたら、そこにどんな経緯があるのか。
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