続 10分でわかるカタカナ語 第9回 ドメスティック

2017年 4月 29日 土曜日 筆者: もり・ひろし & 三省堂編修所

10分でわかる「ドメスティック」の意味と使い方

どういう意味?

 「家庭内の」「国内の」という意味です。

もう少し詳しく教えて

 ドメスティック(domestic)は、多く、他の語に付いて、「家庭内の」や「国内の」という意味を表します。

 メディアなどでよく耳にするのは、配偶者や恋人からの暴力を意味する「ドメスティックバイオレンス(domestic violence)」という語としてでしょう。この場合、ドメスティックは「家庭内の」を意味します。

 ドメスティックはまた、「国内の」という意味でも使われます。例えばファッション分野では、国内のブランドのことを「ドメスティックブランド(domestic brand)」と呼ぶ習慣があります。

 「ドメスティックな企業」のように、「~な」の形で使われることもあります。

どんな時に登場する言葉?

 おもに社会問題・ファッション・航空の分野でよく登場します。まず社会問題の分野ではドメスティックバイオレンスが、ファッションの分野ではドメスティックブランドがよく登場します。また航空業界では「国内線」を意味するドメスティックがよく登場します。

どんな経緯でこの語を使うように?

 古くは、大正時代に出版された外来語辞典に「家庭の。一家の。国内の。」という説明で「ドメスティック」という項目が見られます。また昭和の初期に出版された新語辞典にも「国産の」を意味するドメスティックが掲載されていました。

 ただし、一般社会でドメスティックが注目され始めた時期は、比較的最近です。例えば、新聞記事でドメスティックという言葉の登場回数が増えたのは、90年代の末期からゼロ年代(2000年〜2009年)の初期にかけてのことでした(注:朝日・読売・毎日・産経調べ)。この時期にドメスティックバイオレンス防止法(通称。2001年成立)に関する議論が活発化していたことが背景にあります。

ドメスティックの使い方を実例で教えて!

ドメスティックな○○

 おもに国内を意味する文脈で「ドメスティックな○○」と表現することが可能です。例えば「ドメスティックな商品」と言えば「国内製の商品」「国内向けの商品」といった意味です。「ドメスティックな会社」と言えば「海外展開をしていない会社」「日本的な企業風土の会社」というニュアンス、「ドメスティックな作品」と言えば「(内容、流通などの面で)国内市場向け、内向きの作品」ということになります。

ドメスティックブランド

 ファッションの分野では、海外ブランドに対する国内ブランドのことを「ドメスティックブランド」と呼びます。略して「ドメブラ」と言う場合もあります。

ドメスティックバイオレンス

 配偶者や恋人あるいは元配偶者や元恋人から受ける暴力のことです。「DV」と略される場合もあります。日本では、2001年にドメスティックバイオレンス防止法(正式には「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律」)が成立したことで、その対策が本格化しました。

 なおDVのうち、恋人間で行われるDVのことを特に「デートDV(和製英語)」と呼びます。

ドメス

 航空業界やその関連業界(旅行代理業など)では、飛行機の国内線を「ドメスティック」と呼ぶ習慣があります。これは英語の domestic line を略した表現です。会社によってはドメスティックをさらに略して「ドメス」「ドメ」などと表現するところもあるようです。

言い換えたい場合は?

 単純にドメスティックを言い換える場合は、「家庭内の」あるいは「国内の」を用いると良いでしょう。またファッションのドメスティックブランドは「国内ブランド」に、また航空のドメスティックは「国内線」に言い換えることが可能です。

 ドメスティックバイオレンスを言い換える場合は、ケースに応じて「配偶者間暴力」「配偶者や恋人による暴力」のような文章表現を試してみてください。

雑学・うんちく・トリビアを教えて!

GDP の D は? 国内総生産(一年間に国内で生み出された付加価値の総額)を意味する「GDP」という言葉。これは Gross Domestic Product を略した言葉です。つまり GDP の D とは、ドメスティックのDなのです。

ドメ男(お) 『現代用語の基礎知識』の若者用語欄に、1991年版から1994年版にかけて「ドメ男」という項目が載っていました。その解説を1994年版から引用しましょう。「英会話ができなくて、外国へも一回ぐらい観光旅行しただけの、もっぱら国内向きの男。海外勤務をする見込みのない会社員。ダメ男(だめな男)に通わせた表現。」

  *  

◆この連載の目次は⇒「続 10分でわかるカタカナ語」目次へ

◆以前の連載は⇒「10分でわかるカタカナ語」へ

* * *

【筆者プロフィール】

もり・ひろし & 三省堂編修所

■もり・ひろし
 新語ウォッチャー(フリーライター)。鳥取県出身。プログラマーを経て、新語・流行語の専門ライターとして活動。『現代用語の基礎知識』(自由国民社)の「流行観測」コーナーや、辞書の新語項目、各種雑誌・新聞・ウェブサイトなどの原稿執筆で活躍中。

*

【編集部から】

 「インフラ」「アイデンティティー」「コンセプト」等々、わかっているようで、今ひとつ意味のわからないカタカナ語を詳しく解説し、カタカナ語に悩む多くの方々に人気を博したコンテンツ「10分でわかるカタカナ語」が、ふたたび帰ってきました。
 「インテリジェンス」「ダイバーシティー」「エビデンス」など、日常生活の中で、新たなカタカナ語は引き続き、次々に生まれています。世の中の新しい物事は、カタカナ語となって現れてくると言っても過言ではありません。
 これら悩ましいカタカナ語をわかりやすく考え、解説してゆきます。
 毎週土曜日更新。

【関連書籍】

●『コンサイスカタカナ語辞典 第4版』
定評あるカタカナ語辞典の第4版。約56,300語収録。詳細は こちら

●『見やすいカタカナ新語辞典』
大きく見やすい活字でカタカナ新語が引ける。約13,000語収録。詳細は こちら


続 10分でわかるカタカナ語 第8回 ソーシャル

2017年 4月 22日 土曜日 筆者: もり・ひろし & 三省堂編修所

10分でわかる「ソーシャル」の意味と使い方

どういう意味?

 他の語に付いて、「社会的」「社交的」という意を表します。

もう少し詳しく教えて

 ソーシャル(social)は英語の形容詞で、「社会の」「社交の」を意味します。ソーシャルビジネス、ソーシャルメディアなどのように、他の語に付いて使われます。ソシアルダンス(社交ダンス)などのようにソシアルと表記される場合もあります。

どんな時に登場する言葉?

 社会・社交が関連する分野で登場します。特に近年では、福祉・環境などの社会的課題を取り扱う分野、心理・教育分野、さらには IT(情報通信技術)の分野で、ソーシャルを含む新概念が次々と生まれています。

どんな経緯でこの語を使うように?

 古くから使われている言葉です。例えば大正時代に出版された外来語辞典にはすでに「ソシアル」の項目が存在していました。

 近年では、主に「社会的課題」と「IT」の両分野で、ソーシャルを冠する新概念が数多く生まれ、注目を集めています。そのためマスメディアでソーシャルの語を見聞きする機会も増えています。例えば『現代用語の基礎知識』(自由国民社)では、1991年版でソーシャルを含む複合語の項目が11語だったのに対して、2016年版では延べ23語にまで増えています。

ソーシャルの使い方を実例で教えて!

ソーシャルスキル

 挨拶や意思表明、共感など、社会で人とかかわっていくなかで必要不可欠な技能を「ソーシャルスキル」といいます。そのような技能を訓練することは「ソーシャルスキルトレーニング」と呼ばれます。これらは心理・教育分野でよく登場する概念です。

ソーシャルワーカー

 社会的弱者(貧困・障害・差別などの問題で生活に困っている人)のために行う直接的または間接的な支援活動を「ソーシャルワーク(social work)」と呼びます。またこの活動を行う人を「ソーシャルワーカー(social worker)」と呼びます。学校を活動拠点とする場合は「スクールソーシャルワーカー(school social worker / SSW)」、保健・医療を専門とする場合は「医療ソーシャルワーカー(medical social worker / MSW)」となります。

社会的課題のソーシャル

 1987年に「持続可能な開発」という概念が世界的に注目されました。それ以来、国際社会は環境・資源・エネルギー・貧困・教育・人権といった「社会的課題」により大きな関心を向けています。その影響で、ソーシャルを冠した新概念も数多く日本語に入ってきました。

 例えば「ソーシャルビジネス(social business)」は、社会的課題をビジネスの手法で解決しようとする考え方。そのようなビジネスを行うベンチャー企業(革新的な小企業)を「ソーシャルベンチャー(social venture)」と呼びます。

 また「ソーシャルセクター(social sector)」とは、従来的な公共セクター(行政機関など)や民間セクター(民間企業など)とは異なる新たな組織区分のこと。NPO(非営利組織)や NGO(非政府組織)など、社会的課題の解決を目的とする非営利の民間組織を指します。このセクターは、近年、国際社会の中でも大きな存在感を示すようになりました。

ソーシャルネットワーキングサービス(SNS)

 IT(情報通信技術)の分野では、ゼロ年代(2000年~09年)の初頭から「ソーシャルネットワーキングサービス(social networking service)」、略して「SNS」が普及しました。インターネット上で結びついた人どうしが情報交換できるサービスです。日本でそのはしりとなったのはmixi(ミクシィ、2004年サービス開始)であり、2010年代に入ってからはスマートフォンの普及に伴ってFacebook(フェイスブック)、Twitter(ツイッター)、LINE(ライン)などの利用が急速に広がりました。

 この SNS を含めて、個人どうしの情報交換によって成り立つメディア(電子掲示板、ブログ、動画サイトなども含む)を「ソーシャルメディア(social media)」と総称します。いわばクチコミの電子版とも言える存在です。

言い換えたい場合は?

 複合語のソーシャルを言い換える場合は、まず定まった訳語があるかどうかを調べてみてください。例えばソーシャルワークには「社会福祉援助技術」、ソーシャルワーカーには「社会福祉士」、ソシアルダンスには「社交ダンス」という訳語が存在します。

 定訳の有無に関わらず、多くの場合、単純な言い換えが困難です。例えばソーシャルメディアを「社交媒体」と言い換えても、おそらく読み手や聞き手は意味を理解できないことでしょう。面倒ではありますが「ネットを通じた個人どうしの情報交換で成り立つメディア」といった具合に、概念を簡単に説明してみてください。

雑学・うんちく・トリビアを教えて!

CSRのS ビジネスでよく見聞きするアルファベット略語の中にも、ソーシャル(social)が含まれるものがあります。代表例は「企業の社会的責任」を意味する「CSR」でしょう。CSR は corporate social responsibility の略です。

社会は「仲間」から始まった 英語の social の語源をたどると「社交的な」を意味するラテン語 socialis に行き着きます。その socialis の語源は、同じくラテン語の socius。これは「仲間」を意味する言葉です。つまりソーシャルは「仲間」を語源とする言葉なのです。

  *  

◆この連載の目次は⇒「続 10分でわかるカタカナ語」目次へ

◆以前の連載は⇒「10分でわかるカタカナ語」へ

* * *

【筆者プロフィール】

もり・ひろし & 三省堂編修所

■もり・ひろし
 新語ウォッチャー(フリーライター)。鳥取県出身。プログラマーを経て、新語・流行語の専門ライターとして活動。『現代用語の基礎知識』(自由国民社)の「流行観測」コーナーや、辞書の新語項目、各種雑誌・新聞・ウェブサイトなどの原稿執筆で活躍中。

*

【編集部から】

 「インフラ」「アイデンティティー」「コンセプト」等々、わかっているようで、今ひとつ意味のわからないカタカナ語を詳しく解説し、カタカナ語に悩む多くの方々に人気を博したコンテンツ「10分でわかるカタカナ語」が、ふたたび帰ってきました。
 「インテリジェンス」「ダイバーシティー」「エビデンス」など、日常生活の中で、新たなカタカナ語は引き続き、次々に生まれています。世の中の新しい物事は、カタカナ語となって現れてくると言っても過言ではありません。
 これら悩ましいカタカナ語をわかりやすく考え、解説してゆきます。
 毎週土曜日更新。

【関連書籍】

●『コンサイスカタカナ語辞典 第4版』
定評あるカタカナ語辞典の第4版。約56,300語収録。詳細は こちら

●『見やすいカタカナ新語辞典』
大きく見やすい活字でカタカナ新語が引ける。約13,000語収録。詳細は こちら


続 10分でわかるカタカナ語 第7回 スマート

2017年 4月 15日 土曜日 筆者: もり・ひろし & 三省堂編修所

10分でわかる「スマート」の意味と使い方

どういう意味?

 「手際がいい」「洗練された」「ほっそりして格好がいい」に加えて、「賢い」という意味でも使われます。

もう少し詳しく教えて

 英語のスマート(smart)はもともと「洗練された」、「賢い」、「すばやい」など多くの意味をもっています。日本語では「手際がいい」「洗練された」「ほっそりした」「格好いい」という意味で使われます。近年では、「賢い」の意味での使用も見られるようになっています。

 「洗練された」という意味の「スマート」は、行動・態度・姿形(すがたかたち)を表現するときに登場します。例えば「彼の振る舞いはスマートだ」といえば、彼の行動・態度について「粋である」「気が利いている」といった意味を表します。また「彼の服装はスマートだ」だといえば、彼の姿形(服装)について「お洒落(しゃれ)だ」「格好いい」といったニュアンスを表しています。いずれも「洗練」という意味にまとめられるでしょう。

 この意味に付随するのが、「姿形がほっそりしている」「やせている」という意味です。例えば「彼はスマートな体型だ」とか「スマートな形の機体だ」と言えば、身体や機体が「細い(細くて格好いい)」ことを意味します。実は英語の smart には、この意味が存在しません。

 さらに近年では、「スマートフォン(smartphone)」のように英語の「賢い」の意味をもつ語が移入されて使われるようになりました。これらは、何かがIT(情報通信技術)によって高機能化している様子を表すものです。

どんな時に登場する言葉?

 「洗練」を意味するスマートは、行動・動作・態度・外見などを表現する場合に登場します。また「細い」ことを意味するスマートは、人や物の外見をほめる際に登場します。そして「賢い」を意味するスマートは、ITを応用した機能・製品・サービス・概念などを表現する際に登場します。

どんな経緯でこの語を使うように?

 「洗練」を意味するスマートは、少なくとも明治時代には使われていた表現だと思われます。また「細い」ことを意味するスマートも、少なくとも昭和初期には使われていた表現であるようです。

 いっぽう「賢い」という意味のスマートが盛んに使われるようになったのは、ごく最近のことです。具体的にはゼロ年代(2000年~09年)の後半以降に、マスメディアでスマートを含む複合語をよく見かけるようになりました。この時期は、スマートフォンが世界的に普及しはじめた時期にあたります。

スマートの使い方を実例で教えて!

スマートな行動

 「洗練されている」や「ほっそりして格好良い」を意味するスマートは、「スマートな」「スマートに」「スマートさ」などの形で使うことができます。例えば「スマートな行動」「長身でスマートな人」「彼のやり方はスマートさを欠く」といった具合です。

スマートフォン

 ITの世界には様々な「スマートデバイス(smart device)」、すなわち「ITによって高機能化した装置」が存在します。例えば「スマートフォン」は高機能化した携帯電話端末のこと。「スマート家電」といえば、自動節電機能のついたエアコンや、外出先から中身が確認できる冷蔵庫などが挙げられます。このほか「スマートウォッチ(smartwatch)」「スマートスピーカー(smart speaker)」「スマートグラス(smartglasses /眼鏡型のコンピューター端末)」などの装置も存在します。どれも、ITを応用することによって、自動で動作を制御したり、従来のものにはない高度な機能が付加されたりしていることが特徴です。

スマートグリッド

 環境やエネルギーの分野でも「ITによる高機能化」を意味するスマートが登場します。高機能化によって、エネルギー利用の効率化を図る取り組みが進んでいるためです。例えばその対象が送電網(電力の供給網)の場合は「スマートグリッド(smart grid)」、街全体の場合は「スマートコミュニティー(スマートシティー)(smart community)」、各家庭の場合は「スマートハウス(smart house)」と表現できます。

スマートキー

 自動車の分野でもスマートを冠する言葉があります。例えば「スマートカー(smart car)」はITで高機能化した自動車全般のこと(自動運転車など)。また「スマートキー(smart key)」は、鍵となる機器を持ち歩いて自動車に近づくだけで、自動的に解錠などを行う機能をさします。

言い換えたい場合は?

 行動・態度の「洗練」を意味するスマートは「洗練されている」「気が利いている」「手際が良い」「粋な」「颯爽(さっそう)としている」「格好良い」などと言い換えることができます。

 また外見の「洗練」を意味するスマートは「洗練されている」「格好良い」「洒落ている」「さっぱりしている」「粋な」「身奇麗な」などと言い換えることが可能です。またカタカナ語でもよければ「スタイリッシュな」「クールな」(→クール)「シックな」なども使えます。

 外見の洗練のうち「細い」を意味するスマートは「ほっそりしている」「やせている」「すらっとしている」などの言い換えが可能です。カタカナ語でもよければ「スリムな」とも表現できます。

 「賢い」を意味するスマートは、(擬人的に)「頭のいい」「利口な」、または「高機能」や「次世代」と言い換えることが多いようです。スマートフォンを「高機能携帯電話」、スマートグリッドを「次世代送電網」とする場合などがそうです。いっぽう高機能・次世代にこだわらない方法もあります。例えばスマートシティーを「環境配慮型都市」と言い換える用例も存在します。

雑学・うんちく・トリビアを教えて!

語源は「痛み」 英語の smart には「痛み」や「ひりひりする」といった意味もあります。実は smart のもともとの意味は「肉体的な痛み」なのです。それがいつしか「精神的な鋭さ」を指すようになり、やがて「洗練」や「賢さ」の意味に繋がっていきました。

  *  

◆この連載の目次は⇒「続 10分でわかるカタカナ語」目次へ

◆以前の連載は⇒「10分でわかるカタカナ語」へ

* * *

【筆者プロフィール】

もり・ひろし & 三省堂編修所

■もり・ひろし
 新語ウォッチャー(フリーライター)。鳥取県出身。プログラマーを経て、新語・流行語の専門ライターとして活動。『現代用語の基礎知識』(自由国民社)の「流行観測」コーナーや、辞書の新語項目、各種雑誌・新聞・ウェブサイトなどの原稿執筆で活躍中。

*

【編集部から】

 「インフラ」「アイデンティティー」「コンセプト」等々、わかっているようで、今ひとつ意味のわからないカタカナ語を詳しく解説し、カタカナ語に悩む多くの方々に人気を博したコンテンツ「10分でわかるカタカナ語」が、ふたたび帰ってきました。
 「インテリジェンス」「ダイバーシティー」「エビデンス」など、日常生活の中で、新たなカタカナ語は引き続き、次々に生まれています。世の中の新しい物事は、カタカナ語となって現れてくると言っても過言ではありません。
 これら悩ましいカタカナ語をわかりやすく考え、解説してゆきます。
 毎週土曜日更新。

【関連書籍】

●『コンサイスカタカナ語辞典 第4版』
定評あるカタカナ語辞典の第4版。約56,300語収録。詳細は こちら

●『見やすいカタカナ新語辞典』
大きく見やすい活字でカタカナ新語が引ける。約13,000語収録。詳細は こちら


続 10分でわかるカタカナ語 第6回 クール

2017年 4月 8日 土曜日 筆者: もり・ひろし & 三省堂編修所

10分でわかる「クール」の意味と使い方

どういう意味?

 「冷えている・冷たい」や「冷静・落ち着いている」、「かっこいい」という意味でも使われます。

もう少し詳しく教えて

 クール(cool)は、英語の形容詞で「涼しい」「冷えた」という意味を表します。例えば、冷蔵・冷凍による宅配サービスの名称に「クール」が登場するのも、その一例です。また、これも英語の意味からですが、「落ち着いた」「冷静な」という意味でも使われます。「クールな外見」「クールな態度」「クールな知性と熱い情熱を合わせ持つ」「自分は自分、他人は他人とクールに割り切る」や「クールな配色」などのように使われます。さらにまた近年では、英語のくだけた用法で「かっこいい」という意味でも使われるようになっています。「この曲は、最高にクールだ」「クールなクリエーター」「クールに着こなす」などです。

どんな時に登場する言葉?

 「冷たい・涼しい」という意味のクールは、温度が関係する幅広い場面で登場します。また「冷静である」という意味のクールは、性格・思考・態度などが関連する幅広い分野で登場します。そして「かっこいい」を意味するクールは、おもに文化(芸術・デザインなど)に関連する場面で登場します。

どんな経緯でこの語を使うように?

 温度や態度に使う「冷たい」「冷静な」などの用法は、古くから見られます。

 いっぽう「かっこいい」意味は、比較的最近使われるようになってきました。

 もともと英語の cool に「かっこいい」という意味が加わったのは、1930年代のことでした。1940年代後半にはジャズ音楽の世界にクールジャズ(cool jazz)とよばれる形態が登場。同時期に人気だった別形態・ビバップが「躍動感」を持っていたのに対し、クールジャズは「冷静なかっこよさ」を持っていました。このクールジャズの人気もあり「かっこいい」という意味でよく使われるようになりました。

 日本に「かっこいい」の意味のクールが広まったのは1990年代のことです。例えば検索サービスの『ヤフー!ジャパン』(1996年開設)では、スタッフが「素晴らしい」と認定したサイトへのリンクに「COOL マーク」を付記する取り組みを行っていました。また『現代用語の基礎知識』(自由国民社)では1998年版(97年発売)の若者欄に、かっこいい意味のクールが初めて登場しています。

クールの使い方を実例で教えて!

クールだ

 「冷静である」や「かっこいい」という意味のクールは、「クールだ」「クールな」「クールに」などのように使われます。例えば「この音楽はクールだ」「クールなナンバー(=曲)」「クールな装い」「どんな客にもクールに対応する」といった表現が可能です。

クールジャパン

 日本は、独自のサブカルチャー(アニメ・マンガ・ゲーム・音楽・ファッション・食などにおける新興の大衆文化)が開花している国です。この日本をさして、近年「クールジャパン」と表現する機会が増えました。これは1990年代後半に英国で流行した概念である「クールブリタニア」(Cool Britannia)に倣った表現で、ゼロ年代(2000年〜09年)の中期に広まった概念でした。もちろんこの場合のクールは「かっこいい」意味を持ちます。

クールビズ

 暑い夏を省エネルギーで快適に過ごすライフスタイルを「クールビズ」と呼びます。また、そのためのビジネス用軽装のことをさすこともあります。環境省が2005年に提唱した概念で、同年の新語・流行語大賞ではトップテンに入賞しました。このクールビズという語形のうち「ビズ(biz)」の部分は、ビジネス(business)を省略した言葉。いっぽう「クール」の部分は「涼しい」と「かっこいい」をかけた表現になっています

言い換えたい場合は?

 低温のクールは、意外なことに日常会話での登場機会があまり多くありません。したがって言い換えについては省略します。ただし「クールな色」のように、温度を比喩として用いる色彩表現はよく見かけます。その場合は「冷たい色」「涼しげな色」などの表現を使ってみてください。

 冷静のクールは「冷静である」「落ち着いている」「すましている」「冷淡である」「冷ややかである」「感情に左右されない」などの表現が使えます。例えば「クールな頭脳と温かい心を持つ」は「冷静な頭脳と温かい心を持つ」と置き換え可能です。

 かっこよさのクールは「かっこいい」「よい」「すごい」「決まっている」「お洒落な」「いけてる」「洗練されている」「見事な」「秀逸な」「面白い」「最高な」(よい意味で)「やばい」などと表現できます。例えば「この音楽は最高にクールだよ」という表現は「この音楽は最高にかっこいいよ」と言い換え可能です。

雑学・うんちく・トリビアを教えて!

テレビ業界の「クール」 日本のテレビ業界に固有の業界用語に「クール」があります。「あの番組は1クールで終わってしまった」という時のクールです。これは四半期(3か月)をひとまとまりとする放送期間の単位を意味します。一見すると「冷たさ」とも「冷静」とも「かっこよさ」とも関係しないため不思議に思えますが、それもそのはず。実はこの場合のクールは、英語の cool ではなく、フランス語の cours(クール)を語源とする言葉なのです。 cours とは「流れ」のこと。英語でいう course(コース)に近い意味だと考えれば、わかりやすいかもしれません。

  *  

◆この連載の目次は⇒「続 10分でわかるカタカナ語」目次へ

◆以前の連載は⇒「10分でわかるカタカナ語」へ

* * *

【筆者プロフィール】

もり・ひろし & 三省堂編修所

■もり・ひろし
 新語ウォッチャー(フリーライター)。鳥取県出身。プログラマーを経て、新語・流行語の専門ライターとして活動。『現代用語の基礎知識』(自由国民社)の「流行観測」コーナーや、辞書の新語項目、各種雑誌・新聞・ウェブサイトなどの原稿執筆で活躍中。

*

【編集部から】

 「インフラ」「アイデンティティー」「コンセプト」等々、わかっているようで、今ひとつ意味のわからないカタカナ語を詳しく解説し、カタカナ語に悩む多くの方々に人気を博したコンテンツ「10分でわかるカタカナ語」が、ふたたび帰ってきました。
 「インテリジェンス」「ダイバーシティー」「エビデンス」など、日常生活の中で、新たなカタカナ語は引き続き、次々に生まれています。世の中の新しい物事は、カタカナ語となって現れてくると言っても過言ではありません。
 これら悩ましいカタカナ語をわかりやすく考え、解説してゆきます。
 毎週土曜日更新。

【関連書籍】

●『コンサイスカタカナ語辞典 第4版』
定評あるカタカナ語辞典の第4版。約56,300語収録。詳細は こちら

●『見やすいカタカナ新語辞典』
大きく見やすい活字でカタカナ新語が引ける。約13,000語収録。詳細は こちら


続 10分でわかるカタカナ語 第5回 ガラパゴス

2017年 4月 1日 土曜日 筆者: もり・ひろし & 三省堂編修所

10分でわかる「ガラパゴス」の意味と使い方

どういう意味?

 「孤立した環境で独自に発達した物事やそのさま」のことです。

もう少し詳しく教えて

 ガラパゴス(Galápagos)は、孤島という閉じられた環境の中で、生物が独自の進化を遂げたガラパゴス諸島の名からきています。生物が他の影響を受けずに固有種に進化していくように、ある閉じられた社会環境で、技術・サービス・システムなどが独自に発達していくさまを表して使われます。また、内部だけに適応して、外部に対してはまったく通用しない、というニュアンスも含まれることがあります。

どんな時に登場する言葉?

 「ガラパゴス化」「ガラパゴス現象」などという言い方で、独自に発達した技術・サービス・システムなどを表す場合によく登場します。特に、日本の中だけで独特の発達の仕方をしたものが、世界標準のものとはかけ離れたものであったり、競争の中で淘汰(とうた)されたりする現象をさして使われることがあります。

どんな経緯でこの語を使うように?

 東太平洋の赤道上にあり、世界自然遺産としても知られるエクアドル領の島々、ガラパゴス諸島。ダーウィンが進化論を着想したきっかけとなった島々としてよく知られています。

 火山活動によってできたこの島々は、大陸と地続きになったことがなく、常に外の世界から隔離された環境にありました。そこで島々の生物は独自の進化を遂げ、多くの固有種が見られる特殊な生態系ができあがったのです。

 このように、外の世界と切り離され孤立した環境で独自に発達したものをたとえて、「ガラパゴス」と呼ぶようになりました。例えば、「小笠原は東洋のガラパゴスだ」のような使われ方から、さらに、「日本の携帯産業はガラパゴスだ」のように使われるようになりました。

 ところでガラパゴス諸島では生態系の破壊が問題になっています。外来生物が流入してしまったことが大きな原因のひとつです。これを踏まえて「ガラパゴス化」などの表現には「外部からの流入に弱い」「外部に淘汰されるかもしれない」といったニュアンスが含まれる場合もあります。

ガラパゴスの使い方を実例で教えて!

ガラパゴス化

 規制によって守られた国内市場のように、特異な環境の中で独特の発展を遂げた技術・サービス・システムなどが、その独特さゆえに、かえって国際市場など外の環境に対してはニーズを満たさず、競争力を持たなくなることを言います。「ガラパゴス化した日本的経営」「ガラパゴス化された技術開発」などのように使われます。

ガラパゴス携帯(ガラケー)

 インターネット、ワンセグ、おサイフケータイ、カメラ機能など日本国内のニーズにいち早く対応し、独自かつ高度な進化を遂げた携帯電話(フィーチャーフォン)のことをさして俗に言われる言葉です。略してガラケーとも言われます。結局、世界市場では受け入れられず、海外から入ってきたスマートフォンによって国内のシェアが奪われてしまいました。

言い換えたい場合は?

 ガラパゴスを言い換える場合は「(孤立した環境で)独自に発達した物事」「独自進化のため競争力を失った(失いつつある)物事」などの文章表現を試してみてください。このうち「孤立した環境」の部分を「日本」「日本市場」「国内環境」などに差し替える方法もあります。また「物事」の部分を「市場」や「機能」などに差し替える方法もあります。

 ガラパゴス化の場合は「独自進化」「独自化」「孤立」「タコツボ化」などと表現する方法があります。ガラケーについては「従来型携帯電話」という代替表現が定着しています。

雑学・うんちく・トリビアを教えて!

亀の諸島 ガラパゴス諸島のことを、スペイン語で Islas Galápagos と表現します。これを直訳すると「亀の諸島」となります。スペイン人司教がこの諸島にヨーロッパ人として初めて到達したのが1535年のこと。このとき司教は、同諸島だけに生息する巨大な亀、ガラパゴスゾウガメに初めて出会いました。この話をもとにオランダ人の地質学者が1570年製の地図に「亀の諸島」と記述。これがガラパゴス諸島の命名の由来となりました。なお同諸島の正式名称は Archipiélago de Colón(コロン諸島)。直訳で「コロンブスの群島」を意味します。(参考:『西和中辞典・第二版』小学館など)

  *  

◆この連載の目次は⇒「続 10分でわかるカタカナ語」目次へ

◆以前の連載は⇒「10分でわかるカタカナ語」へ

* * *

【筆者プロフィール】

もり・ひろし & 三省堂編修所

■もり・ひろし
 新語ウォッチャー(フリーライター)。鳥取県出身。プログラマーを経て、新語・流行語の専門ライターとして活動。『現代用語の基礎知識』(自由国民社)の「流行観測」コーナーや、辞書の新語項目、各種雑誌・新聞・ウェブサイトなどの原稿執筆で活躍中。

*

【編集部から】

 「インフラ」「アイデンティティー」「コンセプト」等々、わかっているようで、今ひとつ意味のわからないカタカナ語を詳しく解説し、カタカナ語に悩む多くの方々に人気を博したコンテンツ「10分でわかるカタカナ語」が、ふたたび帰ってきました。
 「インテリジェンス」「ダイバーシティー」「エビデンス」など、日常生活の中で、新たなカタカナ語は引き続き、次々に生まれています。世の中の新しい物事は、カタカナ語となって現れてくると言っても過言ではありません。
 これら悩ましいカタカナ語をわかりやすく考え、解説してゆきます。
 毎週土曜日更新。

【関連書籍】

●『コンサイスカタカナ語辞典 第4版』
定評あるカタカナ語辞典の第4版。約56,300語収録。詳細は こちら

●『見やすいカタカナ新語辞典』
大きく見やすい活字でカタカナ新語が引ける。約13,000語収録。詳細は こちら


続 10分でわかるカタカナ語 第4回 ガバナンス

2017年 3月 25日 土曜日 筆者: もり・ひろし & 三省堂編修所

10分でわかる「ガバナンス」の意味と使い方

どういう意味?

 「統治・支配・管理」のことです。

もう少し詳しく教えて

 ガバナンス(governance)は英語で「組織などをまとめあげるために方針やルールなどを決めて、それらを組織内にあまねく行き渡らせて実行させること」という意味で、「統治・支配・管理」という語に相当します。

 「統治」というと「権力者」が「国」を治めるイメージを思い浮かべますが、ガバナンスの主体は「権力者」とは限りませんし、ガバナンスの対象も「国」とは限りません。

 例えば近年では、コーポレートガバナンス(企業統治)という概念をよく見聞きします。この概念の場合、ガバナンスの主体は「株主」などで、ガバナンスの対象は「企業」ということになります。

どんな時に登場する言葉?

 政治や経営の分野でよく登場する語ですが、実は「統治すべき組織・仕組み」が存在するあらゆる分野で使われる言葉でもあります。例えば情報通信の分野では、国際的な通信ネットワークであるインターネットの運営や管理のことを「インターネットガバナンス」と呼んでいます。

どんな経緯でこの語を使うように?

 マスメディアでガバナンスという言葉をよく見かけるようになったのは1990年代のことでした。例えば新聞では、「ガバナンス」が登場する記事数が1990年代後半に増えました(注:毎日・朝日・産経・読売調べ)。これは当時、コーポレートガバナンスの概念が注目されたことが背景にあります。なぜ、この時代に注目度が高くなったのかは後述します。

ガバナンスの使い方を実例で教えて!

ガバナンスを強化する

 ガバナンスと結びつきやすい言葉には「強化・向上・改善・確立・改革・発揮」などがあります。例えば「強化」の場合は「ガバナンス(の)強化」とか「ガバナンスを強化する」などの表現が可能です。このような表現によって「統治の影響力を強める」ことを表現できるわけです。

ガバナンス体制

 結びつきやすい言葉は、ほかに「体制・機能・構造」などもあります。例えば「体制」の場合は「ガバナンス体制」という複合語を作ることができます。これは「統治のための体制」を意味します。

コーポレートガバナンス(企業統治)

 株主などの利害関係者が、企業の経営を監視することを言います。経営陣による経営の私物化(それに伴う不利益)を防ぐこと、さらには企業の不祥事を防ぐことを目的としています。この場合、ガバナンスの主体は「株主などの利害関係者」、ガバナンスの対象は「企業(狭義には経営陣)」となります。

 この概念は1960年代のアメリカで誕生しました。当時、企業の様々な非倫理的な行動(黒人の雇用差別など)が問題になっていたことが背景にあります。いっぽう、日本で同概念が注目されたのは1990年代のことでした。バブル崩壊で倒産する企業が相次ぎ、経営健全化の手段として米国型の企業統治が注目されたためです。2000年代には企業の不祥事が相次いだことから、それを防ぐ方法としての企業統治も注目されました。

グローバルガバナンス

 環境問題や難民問題などの国際的な問題に対処する際、従来のように「国家」だけが主体になるのではなく、国家・企業・NGO(非政府組織)などの多様な主体が関与する仕組みのことをグローバルガバナンスと呼びます。この概念が登場したのは1992年のこと。冷戦後の国際社会で、社会課題の複雑化や広範化が進んだことが概念誕生の背景にありました。

言い換えたい場合は?

 多くは「統治」で言い換え可能です。コーポレートガバナンスを「企業統治」と言い換える場合が好例でしょう。「統治」につきまといがちな「国を治めるイメージ」を避けたい場合は「管理」や「運営」を使った言い換えも試してみてください。

 なおガバナンスが登場する文脈によっては「統治」ではなく「統治能力」「統治手法」などと言い換えると良い場合もあります。「ガバナンスの向上」を「統治能力の向上」と言い換えたり、「ガバナンス改革」を「統治手法の改革」と言い換えたりする場合がそうです。

 グローバルガバナンスのように単純な言い換えが困難な概念もあります。その場合は文章などで意味を補足するのが良いでしょう。

雑学・うんちく・トリビアを教えて!

舵取り ガバナンス(governance)に近い語として、「政府」を意味するガバメント(government)があります。そしてこれらの語源をたどると、ギリシャ語の kubernan に行き着きます(参考:New Oxford American Dictionary)。「舵取(かじと)り」を意味する言葉です。

  *  

◆この連載の目次は⇒「続 10分でわかるカタカナ語」目次へ

◆以前の連載は⇒「10分でわかるカタカナ語」へ

* * *

【筆者プロフィール】

もり・ひろし & 三省堂編修所

■もり・ひろし
 新語ウォッチャー(フリーライター)。鳥取県出身。プログラマーを経て、新語・流行語の専門ライターとして活動。『現代用語の基礎知識』(自由国民社)の「流行観測」コーナーや、辞書の新語項目、各種雑誌・新聞・ウェブサイトなどの原稿執筆で活躍中。

*

【編集部から】

 「インフラ」「アイデンティティー」「コンセプト」等々、わかっているようで、今ひとつ意味のわからないカタカナ語を詳しく解説し、カタカナ語に悩む多くの方々に人気を博したコンテンツ「10分でわかるカタカナ語」が、ふたたび帰ってきました。
 「インテリジェンス」「ダイバーシティー」「エビデンス」など、日常生活の中で、新たなカタカナ語は引き続き、次々に生まれています。世の中の新しい物事は、カタカナ語となって現れてくると言っても過言ではありません。
 これら悩ましいカタカナ語をわかりやすく考え、解説してゆきます。
 毎週土曜日更新。

【関連書籍】

●『コンサイスカタカナ語辞典 第4版』
定評あるカタカナ語辞典の第4版。約56,300語収録。詳細は こちら

●『見やすいカタカナ新語辞典』
大きく見やすい活字でカタカナ新語が引ける。約13,000語収録。詳細は こちら


続 10分でわかるカタカナ語 第3回 オルタナティブ

2017年 3月 18日 土曜日 筆者: もり・ひろし & 三省堂編修所

10分でわかる「オルタナティブ」の意味と使い方

どういう意味?

 「既存・主流のものに代わる(何か)」のことです。「オルタネイティブ」「オルターナティブ」ともいいます。

もう少し詳しく教えて

 オルタナティブ(alternative)は、もともとは「AとBから1つを選ぶ」、すなわち「二者択一」という意味です。そこで日本語の文章でも、オルタナティブがこの意味で使われる場合があります。例えば「コストと安全性はオルタナティブな関係であってはならない」といった用例がこれにあたります。ただし日本語では、このような使われ方はまれです。

 いっぽう英語では「Aに代わるB」という意味もあります。このうちAは、多くの場合「既存・主流の何か」を意味します。そこでオルタナティブは「既存・主流のものに代わる何か」という意味でも使われます。例えば「オルタナティブな政策」とは「既存・主流のものに代わる政策」を意味します。

どんな時に登場する言葉?

 あらゆる分野で登場する言葉です。また技術・貿易・医療・教育・音楽・投資などの分野では、オルタナティブ○○という語形の専門用語も存在します。

どんな経緯でこの語を使うように?

 オルタナティブという概念が注目されたのは1960~1970年代のこと。この時代にオルタナティブテクノロジー、オルタナティブトレード、オルタナティブメディシン(オルタナティブメディスン)といった新概念が相次いで登場しました。

 このうちオルタナティブテクノロジーは「省エネルギーまたは無公害の技術」のこと。具体的には、再生可能エネルギー(風力・太陽光など)の利用技術などをさします。またオルタナティブトレードは、現在で言う「フェアトレード(公正貿易)」のこと。さらにオルタナティブメディシンとは「西洋医学とは異なる医療的手法」、すなわち漢方、鍼灸(しんきゅう)、ヨガなどをさします。いずれの概念も、既存・主流の手法とは異なる手法を提示しています。

オルタナティブの使い方を実例で教えて!

○○のオルタナティブ

 既存・主流のものではない何かを表現する場合に「○○のオルタナティブ」と表現することができます。例えば「既存・主流のものに代わる政策」のことを「政策のオルタナティブ」と表現できます。

オルタナティブな○○

 また同様の意味を「オルタナティブな○○」とも表現できます。例えば「既存・主流のものに代わる政策」のことは「オルタナティブな政策」とも表現できます。「オルタナティブな技術」「オルタナティブな働き方」などとも使われます。

オルタナティブ教育

 オルタナティブを含む複合語はたくさんあります。例えば「オルタナティブ教育」(代替教育)とは「伝統的または正規のものとは異なる教育方法や教育機関」を総称する概念です。日本におけるフリースクールなどがこれに該当します。

オルタナティブロック

 ロック音楽の世界では、オルタナティブロック(略称はオルタナ)と呼ばれるジャンルがあります。1980年代に「既存の商業主義的なロックへの対抗」として広まった音楽的傾向とされます。

オルタナティブ投資

 投資の世界では株式や債券への投資が、伝統的あるいは主流の投資手法とされます。そのいっぽうで「これに含まれない投資手法」のことを、オルタナティブ投資(代替投資)と呼んでいます。具体的には不動産、プライベートエクイティ(未公開株)などへの投資や、ヘッジファンド(投機的な運用を行う投資信託)の投資手法がこれに含まれます。

言い換えたい場合は?

 まず「オルタナティブな○○」を言い換えたい場合は「従来とは異なる○○」「主流とは異なる○○」「代替的な○○」「代わりの○○」「もうひとつの○○」「別の○○」などの表現を試してみてください。また名詞の「オルタナティブ」を言い換える場合は「代替(手段・手法・案…)」「別の可能性」「代わりの選択肢」などの表現を試してみてください。

 さらに複合語の言い換えについては、オルタナティブを「代替」に差し替える方法が定着しています。例えばオルタナティブ投資は「代替投資」と言い換えることが可能です。ただし単純な言い換えだけでは、言葉の背景を伝えることが難しいかもしれません。その場合は「言い換えようとする言葉が、従来の概念や主流の概念とどう違うのか」という点を考えて、文章を補足してみてください。

雑学・うんちく・トリビアを教えて!

ALT (オルト/アルト)キー  パソコンをお使いの方は、キーボードの中に「Alt」と刻印されているキーが存在することをご存知のことでしょう。この Alt とは、 alternate(=代替・交互)の省略形。つまり alternative の親戚ということになります。

  *  

◆この連載の目次は⇒「続 10分でわかるカタカナ語」目次へ

◆以前の連載は⇒「10分でわかるカタカナ語」へ

* * *

【筆者プロフィール】

もり・ひろし & 三省堂編修所

■もり・ひろし
 新語ウォッチャー(フリーライター)。鳥取県出身。プログラマーを経て、新語・流行語の専門ライターとして活動。『現代用語の基礎知識』(自由国民社)の「流行観測」コーナーや、辞書の新語項目、各種雑誌・新聞・ウェブサイトなどの原稿執筆で活躍中。

*

【編集部から】

 「インフラ」「アイデンティティー」「コンセプト」等々、わかっているようで、今ひとつ意味のわからないカタカナ語を詳しく解説し、カタカナ語に悩む多くの方々に人気を博したコンテンツ「10分でわかるカタカナ語」が、ふたたび帰ってきました。
 「インテリジェンス」「ダイバーシティー」「エビデンス」など、日常生活の中で、新たなカタカナ語は引き続き、次々に生まれています。世の中の新しい物事は、カタカナ語となって現れてくると言っても過言ではありません。
 これら悩ましいカタカナ語をわかりやすく考え、解説してゆきます。
 毎週土曜日更新。

【関連書籍】

●『コンサイスカタカナ語辞典 第4版』
定評あるカタカナ語辞典の第4版。約56,300語収録。詳細は こちら

●『見やすいカタカナ新語辞典』
大きく見やすい活字でカタカナ新語が引ける。約13,000語収録。詳細は こちら


続 10分でわかるカタカナ語 第2回 エビデンス

2017年 3月 11日 土曜日 筆者: もり・ひろし & 三省堂編修所

10分でわかる「エビデンス」の意味と使い方

どういう意味?

 「根拠」や「証拠」のことです。

もう少し詳しく教えて

 エビデンスは英語の evidence を由来とするカタカナ語です。英語の evidence には主に(1)根拠・証拠(2)証言などの意味がありますが、日本語のエビデンスはおおよそ(1)の意味で使われます。なお evidence の語源は、ラテン語の evidentia です。 evidentia は「明白であること」や「根拠」を意味します。

どんな時に登場する言葉?

 広い分野で使われる言葉です。例えばビジネス一般では「何かを裏付けるための具体的な情報・資料」や「言質(げんち:証拠になる約束の言葉)」などを指すことが多いようです。また医療の分野では「その治療法が良いといえる証拠」のことをエビデンスと言います。また近年では政治の分野でもエビデンスの登場機会が増えました。「政策の立案・評価のための(科学的)根拠」を指すことが多いようです。このほか様々な業界で、エビデンスが登場します。

どんな経緯でこの語を使うように?

 一般社会でこの言葉が普及した時期は、ゼロ年代(2000年〜2009年)のことでした。例えば新聞でこの言葉が登場する記事の数は、ゼロ年代後半に増えています(注:朝日・読売・毎日・産経調べ)。また『現代用語の基礎知識』(自由国民社)では、2007年版以降にエビデンスの項目が登場しました。エビデンスの登場機会が増えた背景には、医療分野で EBM (evidence-based medicine)とよばれる新概念が注目されたことが関係しています。詳細は後述します。

エビデンスの使い方を実例で教えて!

エビデンスがない、エビデンスがある

 根拠・証拠の有無を語る場合に「エビデンスがある」「エビデンスがない」などと表現をすることが可能です。また証拠・根拠に立脚することを「エビデンスに基づく」と表現することもできます。このほか「エビデンスを得る」「エビデンスを収集する」などの言い方もあります。

EBM(根拠に基づく医療)

 1990年代以降の医療界で、 EBM(evidence-based medicine:エビデンス・ベースド・メディシン)とよばれる新概念が定着しました。これは「病気にかかった人に実際に使って、その効果が確かめられている医療」のことです(参考:国立国語研究所「『病院の言葉』を分かりやすくする提言」)。従前の医療がともすれば理論先行になりがちだったことの反省から誕生した概念でした。概念が誕生したのが1990年代初頭のこと。日本の医療界で注目されるようになったのは1990年代中盤のことです。以来、一般社会でもエビデンスというカタカナ語への注目度が高まりました。

そのほかの業界では?

 IT 業界では「開発したシステムがうまく動作しているかどうかを示すための証拠資料」を、エビデンスとよぶ習慣があります。また銀行業界では、融資の可否を判断するための資料(住民票、源泉徴収票など)などをエビデンスとよんでいます。

言い換えたい場合は?

 多くの場合、エビデンスを言い換える場合は「根拠・証拠・拠り所・裏付け」などの言葉が使えます。根拠・証拠の実態が「資料や情報」である場合「根拠となる資料」「証拠となる情報」などの言い換えも可能です。いっぽう医療分野におけるエビデンスの場合、単純に「根拠」と言い換えるだけでは「背景となる EBM の考え方」が伝わりにくいかもしれません。少々面倒ではありますが「その治療法が良いといえる証拠」などの文章表現を試してみてください。

雑学・うんちく・トリビアを教えて!

理解率はわずか8.5%  国立国語研究所が2009年にまとめた「『病院の言葉』を分かりやすくする提言」によると、エビデンスの認知率(言葉を見聞きした人の割合)は23.6%。理解率(意味を知る人の割合)に至っては、わずか8.5%しか存在しませんでした。エビデンスは「適切な言い換え」や「理解率の向上」が求められるカタカナ語のひとつといえるでしょう。

  *  

◆この連載の目次は⇒「続 10分でわかるカタカナ語」目次へ

◆以前の連載は⇒「10分でわかるカタカナ語」へ

* * *

【筆者プロフィール】

もり・ひろし & 三省堂編修所

■もり・ひろし
 新語ウォッチャー(フリーライター)。鳥取県出身。プログラマーを経て、新語・流行語の専門ライターとして活動。『現代用語の基礎知識』(自由国民社)の「流行観測」コーナーや、辞書の新語項目、各種雑誌・新聞・ウェブサイトなどの原稿執筆で活躍中。

*

【編集部から】

 「インフラ」「アイデンティティー」「コンセプト」等々、わかっているようで、今ひとつ意味のわからないカタカナ語を詳しく解説し、カタカナ語に悩む多くの方々に人気を博したコンテンツ「10分でわかるカタカナ語」が、ふたたび帰ってきました。
 「インテリジェンス」「ダイバーシティー」「エビデンス」など、日常生活の中で、新たなカタカナ語は引き続き、次々に生まれています。世の中の新しい物事は、カタカナ語となって現れてくると言っても過言ではありません。
 これら悩ましいカタカナ語をわかりやすく考え、解説してゆきます。
 毎週土曜日更新。

【関連書籍】

●『コンサイスカタカナ語辞典 第4版』
定評あるカタカナ語辞典の第4版。約56,300語収録。詳細は こちら

●『見やすいカタカナ新語辞典』
大きく見やすい活字でカタカナ新語が引ける。約13,000語収録。詳細は こちら


続 10分でわかるカタカナ語 第1回 インテリジェンス

2017年 3月 4日 土曜日 筆者: もり・ひろし & 三省堂編修所

10分でわかる「インテリジェンス」の意味と使い方

どういう意味?

 「知能・知性」のことです。「諜報」「情報収集」の意味としても使われます。

もう少し詳しく教えて

 インテリジェンスは、英語の intelligence を由来とするカタカナ語です。基本的には「知能」や「知性」を意味します。

 intelligence の語源をたどると、おおもとはラテン語の inter と lego という言葉に行き着きます。このうち inter は「〜の間」、いっぽうの lego は「何かを集める、ひろい集める」という意味。これが組み合わさって「ものごとをうまく識別できる」つまり「理解力がある」という意味をもつようになりました。そこで intelligence は「知能・知性」を意味するわけです。

 いっぽう安全保障・軍事の世界でもインテリジェンスが登場します。この分野におけるインテリジェンスは、敵や国際情勢などに関する「情報収集」や「情報分析」の意味をもつのです。ラテン語で登場した「何かを集める」「ものごとをうまく識別する」というイメージが、一般とは異なる形で生きていることになります。

どんな時に登場する言葉?

 「知能」や「知性」を意味するインテリジェンスは、あらゆる分野で登場する言葉です。またインテリジェンスを含む複合語は、ビジネスや情報通信などの分野で登場することも多いようです。詳細は後で述べます。いっぽう「情報収集」を意味するインテリジェンスは軍事や政治の分野でよく登場します。

どんな経緯でこの語を使うように?

 日本語でインテリジェンスというカタカナ語が登場するようになったのは明治時代のことであるようです。ちなみに昭和初期の文献には、次のような用例が残っていました。物理学者で随筆家でもあった寺田寅彦が、顔の美醜について記した文章です。「おでこは心の広さを現わし、小さく格好よく引きしまった鼻はインテリジェンスとデリカシーの表象であり、下がった目じりは慈愛と温情の示現である、という場合もあるであろう。」(「破片」1934年11月)この場合のインテリジェンスは「知性」を意味します。

インテリジェンスの使い方を実例で教えて!

インテリジェンスを感じる

 何かに知性の高さを感じるような場合「インテリジェンスを感じる」「インテリジェンスが高い」などと表現できます。また「知的な」とか「賢い」という意味を表現する場合に、インテリジェンスを形容動詞化して「インテリジェンスな○○」などと表現する場合もあります。「インテリジェンスな機能を追加する」などの表現です。

情報収集機関

 インテリジェンス(情報収集・分析)には多くの複合語が存在します。例えばインテリジェンスサービスやインテリジェンスエージェンシーとは「情報収集機関」のこと(この場合のエージェンシーは機関・局などの意味)。またカウンターインテリジェンスとは「相手に対抗して行う情報収集」を意味します。さらに近年では「情報通信技術を利用した情報収集」を意味するサイバーインテリジェンスという概念も登場しました。ちなみにサイバーとは「コンピューターネットワーク」に関係することを意味する接頭語です。

ビジネスインテリジェンス

 ビジネス(経営)の分野では「企業が蓄積する情報を経営に活用すること」をビジネスインテリジェンス(BI)と表現します。またそのために利用する「データ分析用のソフトウェア」のことを、 BI ツール、 BI システムなどと呼んでいます。

インテリジェント

 intelligence(インテリジェンス)は英語の名詞です。これに対応する形容詞が intelligent (インテリジェント)。この言葉も「知性がある」とか「賢い」などを意味します。この言葉は、日本語では複合語として登場することが多いようです。例えばインテリジェントビルは「高度な情報通信機器の設置・利用に便利な設備を持つビルディング」という意味。インテリジェント材料は「環境変化に自動的に反応できる材料」という意味です。

言い換えたい場合は?

 知能・知性を意味する場合のインテリジェンスは「知能」や「知性」などと言い換えることができます。ただし「人工知能」のように定着した訳語が存在する場合は、それをそのまま使ってください。また「ビジネスインテリジェンス」のように言い換えが難しい概念も存在します。その場合は「企業が蓄積する情報を経営に有効活用すること」などの説明を加えてみてください。

 いっぽう安全保障・軍事分野のインテリジェンスは「情報収集」や「情報活動」「情報収集・分析」と言い換えることが可能です。実際、新聞や書籍などでは、このような言い換えがよく登場します。なお相手が専門家である場合は「諜報(ちょうほう)」という定まった訳語を使う方法もあります。

雑学・うんちく・トリビアを教えて!

インテリは何の略? 知識人や知識階級を意味する「インテリ」という言葉。一見するとインテリジェンスまたはインテリジェントの省略形のように見えます。しかしインテリの語源は英語でなく、ロシア語で知識階級を意味するインテリゲンチャ(интеллигенция)です。

IQ の I は? 知能指数を意味する IQ は、intelligence quotient の略。つまり IQ の I とはインテリジェンスのことなのです。

AI の I も? 人工知能を意味する AI は、artificial intelligence(アーティフィシャルインテリジェンス)の略です。アーティフィシャルとは「人工」を意味します。

  *  

◆この連載の目次は⇒「続 10分でわかるカタカナ語」目次へ

◆以前の連載は⇒「10分でわかるカタカナ語」へ

* * *

【筆者プロフィール】

もり・ひろし & 三省堂編修所

■もり・ひろし
 新語ウォッチャー(フリーライター)。鳥取県出身。プログラマーを経て、新語・流行語の専門ライターとして活動。『現代用語の基礎知識』(自由国民社)の「流行観測」コーナーや、辞書の新語項目、各種雑誌・新聞・ウェブサイトなどの原稿執筆で活躍中。

*

【編集部から】

 「インフラ」「アイデンティティー」「コンセプト」等々、わかっているようで、今ひとつ意味のわからないカタカナ語を詳しく解説し、カタカナ語に悩む多くの方々に人気を博したコンテンツ「10分でわかるカタカナ語」が、ふたたび帰ってきました。
 「インテリジェンス」「ダイバーシティー」「エビデンス」など、日常生活の中で、新たなカタカナ語は引き続き、次々に生まれています。世の中の新しい物事は、カタカナ語となって現れてくると言っても過言ではありません。
 これら悩ましいカタカナ語をわかりやすく考え、解説してゆきます。
 毎週土曜日更新。

【関連書籍】

●『コンサイスカタカナ語辞典 第4版』
定評あるカタカナ語辞典の第4版。約56,300語収録。詳細は こちら

●『見やすいカタカナ新語辞典』
大きく見やすい活字でカタカナ新語が引ける。約13,000語収録。詳細は こちら


次のページ »