続 10分でわかるカタカナ語 第16回 サステナブル

2017年 6月 24日 土曜日 筆者: もり・ひろし & 三省堂編修所

10分でわかる「サステナブル」の意味と使い方

どういう意味?

 「(環境・社会・経済の面で負荷が少なく)持続可能な」ということです。「サステイナブル」「サスティナブル」とも書きます。

もう少し詳しく教えて

 サステナブル(sustainable)はもともと英語で、「持続可能な」という意味です。

 この「持続可能な」とは「そのやり方が将来も継続できる」ことを意味します。多く、環境を中心とする分野において言われます。例えば「サステナブルな社会」と言った場合、それは「将来にわたって持続可能な社会」のことをさします。より具体的に言うと「環境を保護して資源も浪費しないことにより、将来世代も現役世代と同じように発展の恩恵を受けながら暮らせる社会」のことです。

どんな時に登場する言葉?

 環境問題などの「社会的課題」を語る際に、よく登場する言葉です。ここでいう社会的課題には、環境・資源・エネルギー・貧困・教育・人権などの課題が含まれます。

 例えば資源の分野では「サステナブルな水産資源の管理(=水産物の乱獲をやめること)が必要」などの文が登場します。また人権の分野では「工場をサステナブルに運営するため、劣悪な労働条件を見直した(=低賃金や過剰労働などを排した)」のような言い方も登場します。

 いっぽう経営分野で限定的に登場するサステナブルも存在します。例えば「サステナブル成長率」(持続可能成長率=内部投資のみで実現できる成長の比率:企業価値を評価する指標のひとつ)のように、会社の継続可能性について言う場合がこれに当たります。

どんな経緯でこの語を使うように?

 サステナブルという言葉が注目されたきっかけは「持続可能な開発(sustainable development)」という概念にありました。これは「『持続可能性』と『開発』は両立できる」という考え方、つまり「『環境保全』と『社会の発展』は両立できる」という考え方をさします。もっと言えば「『将来世代』と『現役世代』の利益は両立できる」とも言っているわけです。

 この概念が提唱されたのは1987年のことでした。国連の「環境と開発に関する世界委員会(通称、ブルントラント委員会)」が本概念を中核に据える提言を行ったのです。以後サステナブルという言葉は「環境」や「社会的課題」と深く結びつけて使われています。

 なお日本の新聞記事(注:毎日・朝日・産経・読売調べ)で、サステナブルの登場頻度が増えたのはゼロ年代(2000年〜09年)以降のことです。

サステナブルの使い方を実例で教えて!

サステナブルな社会

 持続可能性が求められる物事について「サステナブルな社会」「サステナブルなライフスタイル」などのように表現できます。

サステナブルケミストリー

 サステナブルを含む複合語もあります。例えばサステナブルケミストリー(sustainable chemistry)とは「持続可能な社会づくりに貢献する化学」のこと。環境保護に役立つあらゆる化学的手法(廃棄物・二酸化炭素排出の抑制、省エネ、エネルギーの効率化、自然エネルギーの利用、再利用素材の活用など)をさします。このほかサステナブル建築、サステナブルデザイン、サステナブル経営などの複合語もあります。

SDGs

 sustainable を含む略語(頭文字語)も存在します。例えば SDGs は Sustainable Development Goals の略で「持続可能な開発目標」のこと。国連が2015年に採択した国際目標を指します。これは2001年の MDGs(ミレニアム開発目標)を引き継ぐ新しい目標。「貧困の解消」「飢餓の解消」「健康や福祉の実現」「教育機会の確保」「ジェンダーの平等」など17の目標および169のターゲット(具体的な目標達成基準)が掲げられています。

サステナビリティー

 形容詞の sustainable に対して、名詞形である sustainability という言葉が存在します。カタカナ語で表すと「サステナビリティー」「サスティナビリティー」となります。多くの場合は「持続可能性」と言い換えることが可能です。

言い換えたい場合は?

 ほとんどの場合「持続可能」を使って言い換えることが可能です。例えば「サステナブルな発展」は「持続可能な発展」と表現できます。ただし「持続可能」と言い換えただけでは、「持続可能な開発」の概念が伝わらないかも知れません。その場合は適宜、「環境負荷の少ない」「将来にわたって利益享受できる」といった補足説明を加えると良いでしょう。

雑学・うんちく・トリビアを教えて!

ISO 26000 企業の社会的責任(CSR)という概念があります。これは企業が果たすべき責任を、経済的責任や法的責任だけでなく、より広範な社会的責任(すなわち「持続可能な開発」への寄与)に広げようとする考え方をさします。この社会的責任について、国際標準化機構(ISO)が2010年に ISO 26000と呼ぶガイドラインを策定しました。企業を始めとする「あらゆる組織」を対象に、持続可能性にかかわる項目を含めた、社会的責任の観点から遵守すべき事柄をまとめた手引書です。

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◆以前の連載は⇒「10分でわかるカタカナ語」へ

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【筆者プロフィール】

もり・ひろし & 三省堂編修所

■もり・ひろし
 新語ウォッチャー(フリーライター)。鳥取県出身。プログラマーを経て、新語・流行語の専門ライターとして活動。『現代用語の基礎知識』(自由国民社)の「流行観測」コーナーや、辞書の新語項目、各種雑誌・新聞・ウェブサイトなどの原稿執筆で活躍中。

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【編集部から】

 「インフラ」「アイデンティティー」「コンセプト」等々、わかっているようで、今ひとつ意味のわからないカタカナ語を詳しく解説し、カタカナ語に悩む多くの方々に人気を博したコンテンツ「10分でわかるカタカナ語」が、ふたたび帰ってきました。
 「インテリジェンス」「ダイバーシティー」「エビデンス」など、日常生活の中で、新たなカタカナ語は引き続き、次々に生まれています。世の中の新しい物事は、カタカナ語となって現れてくると言っても過言ではありません。
 これら悩ましいカタカナ語をわかりやすく考え、解説してゆきます。
 毎週土曜日更新。

【関連書籍】

●『コンサイスカタカナ語辞典 第4版』
定評あるカタカナ語辞典の第4版。約56,300語収録。詳細は こちら

●『見やすいカタカナ新語辞典』
大きく見やすい活字でカタカナ新語が引ける。約13,000語収録。詳細は こちら


続 10分でわかるカタカナ語 第15回 レジェンド

2017年 6月 17日 土曜日 筆者: もり・ひろし & 三省堂編修所

10分でわかる「レジェンド」の意味と使い方

どういう意味?

 「伝説」または「偉業を成し遂げた人」のことです。

もう少し詳しく教えて

 レジェンド(legend)とは英語で「伝説」のこと。つまり「人々に語り伝えられている話」をさします。日本語では「(伝説のように語り継がれるべき)すぐれた」といったニュアンスで、商品名などに使われています。

 また、「伝説的な人物」というニュアンスから、「偉業を成し遂げた人」といった意味でも使われます。端的に言えば「偉人」のことです。例えば「野球界のレジェンド」といった場合は「野球界の偉大な選手」を意味します。

 ちなみに legend の語源は、ラテン語で「聖人伝」を意味する legenda です。直訳では「読まれるべき」という意味を持っています(参考:『ランダムハウス英和辞典』小学館)。つまり「読まれるべき」ものが「伝説」であり、伝説のように語り伝えられるべき人物が「偉人」ということになるわけです。

どんな時に登場する言葉?

 「伝説」の意味のレジェンドは商品名・創作作品などの分野で、「偉人」の意味のレジェンドは、スポーツ・文化などの分野で登場します。

どんな経緯でこの語を使うように?

 日本語でレジェンドという言葉が好んで使われるようになったのは、1980年代以後のことです。普及の先導役となったのは商品名でした。

 例えば本田技研工業が乗用車のブランド名として「レジェンド」を使い始めたのが1985年のこと。また、宝酒造が焼酎のブランド名として「純レジェンド」(のちの「宝焼酎 レジェンド」)を使い始めたのが1988年のことでした。いずれも、「語り伝えられる(ほどすぐれた)もの」という意味合いによって、レジェンド(伝説)という言葉を「高級感」を演出する手段として使っている点で共通します。

 2014年に開かれたソチ冬季五輪で、7度目のオリンピック出場となるスキージャンプの葛西紀明(かさい・のりあき)選手(当時41歳)が銀メダルを獲得しました。このとき葛西選手に対する称号として、「レジェンド」が一躍注目を浴びました。「伝説的人物」という、この新しい意味の「レジェンド」は、同年の新語・流行語大賞のトップテン入りを果たしました。

リテラシーの使い方を実例で教えて!

「リビングレジェンド」

 存命中でありながら、生きる伝説となった人物は「リビングレジェンド」(living legend)と言われることがあります。

「○○界のレジェンド」

 また特定分野における偉人・巨匠などのことを「○○界のレジェンド」と表現することも可能です。例えば「角界のレジェンド」「ファッション界のレジェンド」といった具合です。スポーツや文化の世界でよく登場します。

レジェンドを使った命名(1)創作作品編

 創作作品の題名や設定にも、レジェンドがよく登場します。例えば音楽アルバムの題名(ボブ=マーリー『レジェンド』など)、映画の題名(2007年のアメリカ映画『アイ アム レジェンド』、2015年のイギリス映画『レジェンド 狂気の美学』など)、ゲームの題名(『レジェンド オブ レガシー』など)や設定(『妖怪ウォッチ』に登場するレジェンド妖怪など)、特撮・アニメの登場キャラクター(ウルトラマンレジェンドなど)といった例があります。

レジェンドを使った命名(2)スポーツ編

 スポーツ関係の命名でもよく登場します。例えば競馬の馬名(レジェンドハンターなど)、プロレスの選手名(ジョー=レジェンドなど)やグループ名(新日本プロレスのユニット、レジェンド軍など)といった事例が存在します。

言い換えたい場合は?

 「伝説」のレジェンドを言い換える場合は「伝説」「伝承」「言い伝え」などの言葉が使えます。

 いっぽう「偉人」のレジェンドを言い換える場合は「伝説の人物」「伝説的人物」「偉人」「巨匠」「大物」などが使えます。例えば「ファッション界のレジェンド」は「ファッション界の伝説的人物」「ファッション界の偉人」などと言い換えることができます。

雑学・うんちく・トリビアを教えて!

凡例 グラフなどに付記する凡例も「レジェンド」といいます。レジェンドの語源がラテン語の「読まれるべき」であることを考えれば、この意味の存在も理解できることでしょう。

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【筆者プロフィール】

もり・ひろし & 三省堂編修所

■もり・ひろし
 新語ウォッチャー(フリーライター)。鳥取県出身。プログラマーを経て、新語・流行語の専門ライターとして活動。『現代用語の基礎知識』(自由国民社)の「流行観測」コーナーや、辞書の新語項目、各種雑誌・新聞・ウェブサイトなどの原稿執筆で活躍中。

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【編集部から】

 「インフラ」「アイデンティティー」「コンセプト」等々、わかっているようで、今ひとつ意味のわからないカタカナ語を詳しく解説し、カタカナ語に悩む多くの方々に人気を博したコンテンツ「10分でわかるカタカナ語」が、ふたたび帰ってきました。
 「インテリジェンス」「ダイバーシティー」「エビデンス」など、日常生活の中で、新たなカタカナ語は引き続き、次々に生まれています。世の中の新しい物事は、カタカナ語となって現れてくると言っても過言ではありません。
 これら悩ましいカタカナ語をわかりやすく考え、解説してゆきます。
 毎週土曜日更新。

【関連書籍】

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定評あるカタカナ語辞典の第4版。約56,300語収録。詳細は こちら

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大きく見やすい活字でカタカナ新語が引ける。約13,000語収録。詳細は こちら


続 10分でわかるカタカナ語 第14回 リテラシー

2017年 6月 10日 土曜日 筆者: もり・ひろし & 三省堂編修所

10分でわかる「リテラシー」の意味と使い方

どういう意味?

 「読み書き能力」、「情報読解能力」「活用能力」のことです。

もう少し詳しく教えて

 リテラシー(literacy)とは、もともと英語で「文字を読み書きする能力」のことを意味します。いわゆる「識字(しきじ)」のことです。

 しかし現在日本語で登場するリテラシーは、多くの場合、あるものに関する知識やその「活用能力」を意味します。「○○リテラシー」のように複合語としても多く使われます。例えばメディアリテラシーとは「情報メディアの活用能力」、つまり「情報メディアが伝える内容を主体的に読み解く能力」を意味します。

どんな時に登場する言葉?

 「活用能力」の必要性が指摘されている分野で登場する言葉です。例えばメディア・情報・IT(情報通信技術)・教育などの分野で登場します。

どんな経緯でこの語を使うように?

 古くは1959年の学術誌に「識字」の意味での使用例が認められますが、登場機会が増えたのは、1980年代以降のことだと思われます。例えば1985年(昭和60)に郵政省(現総務省)が発表した『通信白書』には「主体的な選択により情報を活用できる情報化リテラシー(情報を使いこなす能力)のかん養」という表現も登場しました。

 また、経済協力開発機構(OECD)が義務教育修了段階(15歳)の生徒を対象に2000年から3年ごとに行っている学習到達度調査(PISA)では、調査する3つの分野として、「読解力」の他に、「数学的リテラシー」「科学的リテラシー」という分野名があります。

 今後も社会の中で、情報を読み解き活用する能力が必要とされる「新しいものごと」が登場するたび、それに対応する○○リテラシーが登場するものと思われます。

リテラシーの使い方を実例で教えて!

「リテラシーが高い」

 読解能力・活用能力の「程度や有無」について述べる場合、「リテラシーが高い(低い)」「リテラシーが不足している」「リテラシーがある(ない)」などの表現が可能です。

 またそうした能力の「獲得や育成」について述べる場合は「リテラシーを持つ」「リテラシーを身につける」「リテラシーを向上させる」「リテラシーを高める」「リテラシーを育成する」などの表現も可能です。

「○○リテラシー」

 特定分野における活用能力のことを「○○リテラシー」と表現できます。例えばメディアリテラシー(後述)、情報リテラシー(後述)、IT リテラシー(情報通信技術の活用能力)、デザインリテラシー(デザインについての知識や活用能力)、ネットリテラシー(インターネットの活用能力)、ヘルスリテラシー(健康維持のために必要となる情報やサービスの活用能力)、金融リテラシー(金融や経済に関して身につけるべき基本能力)などの表現があります。

「メディアリテラシー」

 新聞・雑誌・テレビ・インターネットなどの情報メディア(情報媒体)を利用する能力や、それらのメディアが伝える内容を主体的に読み解く能力のことを「メディアリテラシー」と呼びます。たとえばニュースとして伝わった情報を批判的に吟味したり、そこから自分自身の意見を形作ったりする能力をさします。

「情報リテラシー」

 情報を収集・分析・活用するための能力のことを「情報リテラシー」と呼びます。前述したメディアリテラシーも、情報リテラシーの一種と捉えることも可能です。

言い換えたい場合は?

 「読解能力」「読み解く力」「活用能力」などと表現できます。また「○○を活用する力」「○○を使いこなす力」などの表現も可能です。

雑学・うんちく・トリビアを教えて!

DHMO 読み手や聞き手の科学リテラシーや情報リテラシーを試す、有名なジョークのひとつに「DHMO(ジハイドロジェンモノオキサイド/一酸化二水素)」というネタがあります。「DHMO は酸性雨の主成分であり、地形の侵食を引き起こし、サビの原因にもなる物質だ。それにも関わらず DHMO の規制は不十分で、実際、多くの食品に DHMO が含まれている」といった内容です。
 実はこの DHMO とは「水(H2O)」のこと。前述した内容はいずれも水に関する事実を述べているだけですが、ことさら否定的側面だけを取り上げて、読み手や聞き手に偏った印象を与えています。

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続 10分でわかるカタカナ語 第13回 リソース

2017年 6月 3日 土曜日 筆者: もり・ひろし & 三省堂編修所

10分でわかる「リソース」の意味と使い方

どういう意味?

 「資源」のことです。

もう少し詳しく教えて

 リソース(resource)とは、英語で「資源」を意味する言葉です。すなわち「なにかに役立つものごと」のことです。

 具体的には、水・鉱物・化石燃料などの「天然資源」、景観・史跡・風物などの「観光資源」、人・物・金・時間などの「経営資源」、コンピューターにおける「計算資源」(後述)など、あらゆる資源のことを「リソース」と言えます。風物や時間のように「物質ではないもの」もリソースに含まれる点に注目してください。

どんな時に登場する言葉?

 あらゆる分野で登場する言葉です。

 例えば、「個別の資源を総称したい」場合。つまり人・物・金をまとめてひとつの言葉で表現したい場合などです。

 また、「資源という言葉を避けたい」場合。「天然資源」に対して、経営資源などの「非」天然資源をはっきり区別して言う場合に、リソースという言葉が用いられることも多いようです。

どんな経緯でこの語を使うように?

 古くから使われている言葉です。例えば大阪朝日新聞が1938年(昭和13)5月から6月にかけて掲載した連載記事「建設途上の満洲経済を語る」には、満州の水力発電に関するこんな記述が登場します。「しかも満洲にはこれ以外に将来開発さるべき水力電気のリソースは沢山あります」(参考:神戸大学経済経営研究所 新聞記事文庫)。この場合のリソースは「水力発電に適する場所」を意味しています。

 また1970年から80年代にかけて、技術書や論文などでリソースという言葉の登場機会が増えた時期もありました(参考:国立国会図書館サーチ)。この時期にコンピューターの社会利用が進み、リソース(計算資源)への言及も増えたことが背景にあります。

リソースの使い方を実例で教えて!

リソースと結びつきやすい言葉

 一般にリソースと結びつきやすい言葉には「活用」「集中」「追加」「管理」「不足」「確保」「消費」 などがあります。例えば「リソースを活用する」「リソースを集中させる」「リソース不足」「リソース確保」などと表現できます。

 またコンピューターの分野では、以上の一部に加えて「割り当て」「最適化」「配置」「統合」「共有」「定義」「制限」「解放」「拡張」「アクセス」などの言葉もよく使われます。 例えば「リソースを割り当てる」「リソースを解放する」「リソースにアクセスする」「リソース定義」などと表現できます。

「ヒューマンリソース」

 経営資源のうち人的資源(人材)のことを「ヒューマンリソース」(human resources)と呼びます。ただし、「資源=消費するもの」という印象を避けるために「ヒューマンキャピタル(human capital:人的資本)」と言い換える場合もあります。

コンピューターの「リソース」

 コンピューターの分野では「情報処理のために必要な能力」を総称して、リソース(計算資源)と呼んでいます。狭義には「CPU時間」(中央処理装置の占有時間)と「メモリー使用量」(記憶装置の占有量)を総称する概念なのですが、それ以外の資源を幅広く含める場合もあります(例:ハードディスクなどの容量、ネットワークの帯域幅など)。

 また基本ソフトによっては、その基本ソフトに特有である資源にリソースの語を使っている場合もあります(例:ウィンドウズのシステムリソースなど)。

言い換えたい場合は?

 基本的には「資源」と言い換えることが可能です。またリソースが指し示す対象によっては「天然資源」「経営資源」「観光資源」「計算資源」などの言葉を使うこともできます。さらに、具体的に「水・鉱物・化石燃料」(天然資源)、「景観・史跡・風物」(観光資源)、「人材・物資・予算・時間」(経営資源)、「CPU時間・メモリー占有量」(計算資源)などと言い換えてしまう方法もあります。

雑学・うんちく・トリビアを教えて!

URL の R ウェブページなどの住所(例:http://dictionary.sanseido-publ.co.jp/)を表現するために用いる URL。この URL は uniform resource locator を略した言葉です。ここでいう resource(リソース)とは 「資源」としてのウェブページやインターネット上の文書、画像などのこと。その1つ1つのありかを統一的な形式で示したものが URL ということになります。

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 「インテリジェンス」「ダイバーシティー」「エビデンス」など、日常生活の中で、新たなカタカナ語は引き続き、次々に生まれています。世の中の新しい物事は、カタカナ語となって現れてくると言っても過言ではありません。
 これら悩ましいカタカナ語をわかりやすく考え、解説してゆきます。
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大きく見やすい活字でカタカナ新語が引ける。約13,000語収録。詳細は こちら


続 10分でわかるカタカナ語 第12回 ユニバーサル

2017年 5月 27日 土曜日 筆者: もり・ひろし & 三省堂編修所

10分でわかる「ユニバーサル」の意味と使い方

どういう意味?

 「全世界にわたる」「すべてで通用する」という意味です。

もう少し詳しく教えて

 ユニバーサル(universal)とは「宇宙に関わる・世界的な」「普遍的な」「汎用・万人向け」などを表す言葉です。これらの意味の中核には「すべてで通用する」というイメージがあります。

 例えば「ユニバーサルな視野に立つ」という表現は、文脈にもよりますが「世界的な視野に立つ」とか「普遍的な視野に立つ」などを意味します。言い換えると、その視野が世界的あるいは普遍的に「通用する」様子を意味するわけです。これは、特に社会の国際化や環境問題の深刻化などとの関わりにおいてよく使われる意味です。

 また「ユニバーサルな機能」という表現は、「汎用の機能」とか「万人向けの機能」を意味します。言い換えると、その機能があらゆる用途やあらゆる利用者に「通用する」様子を意味するわけです。特に福祉分野でこの表現が登場する場合、その多くがノーマリゼーション(性別や年齢、身体能力等に関わらずすべての人がともに普通に暮らせる社会の実現)と関わる概念を表します。

 もともと英語の universal は、宇宙や森羅万象のことを意味する universe(ユニバース)の形容詞形です。また universe の語源はラテン語の ūniversum で、直訳で「ひとつになった」ことを意味する言葉でした(参考:「ランダムハウス英和辞典」小学館)。つまり universal という言葉には「ひとつ」というイメージが隠れています。これが「ひとつのことがすべてに通用する」イメージにつながっています。

どんな時に登場する言葉?

 あらゆる分野で登場する言葉です。またユニバーサルを含む複合語もあらゆる分野で登場します。例えば福祉(ユニバーサルデザイン)、情報(ユニバーサルアクセス)、社会基盤(ユニバーサルサービス)、電気(ユニバーサル電源)など、さまざまな分野に専門用語が存在します。

どんな経緯でこの語を使うように?

 古くから使われている言葉です。例えば明治時代に発行された外来語辞典『日用舶来語便覧』(棚橋一郎・鈴木誠一著/光玉館/1912年)には「ユニヴァーサル」の項目があり「全き(まったき=完全である)、全般の、普遍的」という解説が付いていました。

 また21世紀以降では、ゼロ年代(2000年〜2009年)前半のマスコミで、ユニバーサルという言葉の出現頻度が高まった時期がありました。電話事業におけるユニバーサルサービス(後述)について、議論が活発化したことが背景にあります。

 さらに、福祉関係で使われ始めていた「ユニバーサルデザイン」という言葉が一般に広がったのも、おおよそゼロ年代以降のことでした。

ユニバーサルの使い方を実例で教えて!

「ユニバーサルな観点」

 いずれの意味においても「ユニバーサルな」「ユニバーサルに」などの形を使うことができます。例えば「ユニバーサルな観点」「ユニバーサルに展開」といった具合です。

「ユニバーサルデザイン」

 障害の有無などに関係なく、すべての人が使いやすいように製品・建物・環境などを設計(デザイン)することを「ユニバーサルデザイン」といいます。ここでのユニバーサルは「万人向け」という意味です。似た概念に「バリアフリー」がありますが、こちらは「障害者・高齢者」などの視点を重視する概念。ユニバーサルデザインは「万人」の視点を重視する違いがあります。

「ユニバーサルアクセス」

 情報・通信・放送などの分野では「障害の有無や社会階層の違いなどに関わらず、誰でも情報や情報システムを利用できること」を「ユニバーサルアクセス」と呼びます。またその権利のことを「ユニバーサルアクセス権」とも呼んでいます。

「ユニバーサルサービス」

 また社会基盤(電話・電力・ガス・水道・郵便・放送・医療など)の分野では「社会全体で誰もが平等に享受できるようにすべき公共サービス」のことを「ユニバーサルサービス」と呼んでいます。ここでもユニバーサルが万人向けの意味で使われています。

 例えばNTT東日本・西日本には電話事業におけるユニバーサルサービス(固定電話の全国網の維持、緊急通報のシステム運用など)が義務付けられています。そのサービスを運営するための原資は、他事業者が拠出する(=他事業者の利用者が利用料金を通じて支払う)基金によって賄われています。

「ユニバーサル電源」

 汎用を意味するユニバーサルにも、さまざまな複合語が存在します。例えば電気・電子機器の分野では、世界各地の様々なプラグ形状や電圧に対応した電源装置のことを「ユニバーサル電源」と呼びます。またカメラの分野では、異なるメーカーでも共用できる交換用レンズの接続規格を「ユニバーサルマウント」と呼びます。

「ユニバーサルタイム」

 いわゆる世界時(学術的にはUTC = 協定世界時、UT0、UT1、UT2 の総称)のことを「ユニバーサルタイム」と呼びます。これは「世界の」という意味のユニバーサルの例です。

言い換えたい場合は?

 文脈によって「宇宙に関わる」「世界的な」「普遍的な」「汎用」「万人向け」などの表現から、適切な言葉を選び取って下さい。同じ「ユニバーサルな観点」という表現を言い換える場合でも、文脈によって「世界的な観点」を表す場合もありますし、「汎用性という観点」を表す場合もあります。

 なお国立国語研究所の『「外来語」言い換え提案』(2006年)では、ユニバーサルサービスを「全国一律サービス」「全国均質サービス」に、またユニバーサルデザインを「万人向け設計」「だれにでも使いやすい設計」に言い換える提案を行っています。

雑学・うんちく・トリビアを教えて!

USB の U パソコンとプリンターをつなぐ時や、スマホとコンセントをつなぐ時などに登場する「USB ケーブル」。この USB とは universal serial bus(ユニバーサルシリアルバス)の略。「汎用のシリアルバス」(注:シリアルバスは通信方式のひとつ)を意味します。「情報機器にあらゆる周辺機器を接続できる」という特徴が「ユニバーサル(汎用)」という名前に表されています。

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定評あるカタカナ語辞典の第4版。約56,300語収録。詳細は こちら

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続 10分でわかるカタカナ語 第11回 マネージメント

2017年 5月 20日 土曜日 筆者: もり・ひろし & 三省堂編修所

10分でわかる「マネージメント」の意味と使い方

どういう意味?

 「管理」や「経営」を意味します。「マネジメント」とも言います。

もう少し詳しく教えて

 マネージメント(management)の基本的な意味は「物事をうまく扱うこと」です。

 端的に言えば、ひとつには「管理」です。例えば「部下をマネージメントする」と言った場合は「部下の仕事について、監督し指示・指導などを行うこと」、すなわち「部下の仕事を管理すること」を意味します。

 もうひとつには、「経営」ということです。「事業をうまく扱うこと」イコール「経営」と考えれば、この意味もよく理解できることでしょう。例えば「企業のマネージメント」という表現は「企業経営」と置き換えることが可能です。

どんな時に登場する言葉?

 管理が関わるあらゆる分野で登場します。管理の対象は人・時間・お金・資源など多岐にわたります。特に経営分野では、この言葉がよく登場します。

どんな経緯でこの語を使うように?

 古くから使われている言葉です。例えば『最近野球術』(橋戸信著/博文館/1905年)という書籍では、野球チームの運営を意味する「マネーヂメント」が「総理法」という注釈とともに登場していました。この場合の「総理」とは「すべての事務をとりまとめて管理すること」(大辞林より)。つまり組織管理を意味するマネージメントが、明治時代にはすでに登場していたわけです。

 近年、マネージメントという言葉が注目された話題もありました。2010年、書籍『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの「マネジメント」を読んだら』(岩崎夏海著/ダイヤモンド社/2009年)、通称『もしドラ』がベストセラーとなったのです。その影響で、経営学の父とも称されるピーター・ドラッカーの名著『マネジメント―課題・責任・実践(Management: Tasks, Responsibilities, Practices)』(1973年、日本語版は1974年)が、雑誌・新聞・テレビなどのメディアであらためて注目されたのです。

マネージメントの使い方を実例で教えて!

「マネージメントする」

 動詞として使えます。例えば「組織をマネージメントする」と言った場合は「組織を管理・運営する」ことを意味します。

経営者を意味する「マネージメント」

 経営分野におけるマネージメントには「経営者」「経営陣」「経営体制」などの意味もあります。例えばトップマネージメントとは「最上位の経営者層」のこと。ミドルマネージメントとは「中間管理職」を意味します。

「マネージメント手法」のいろいろ

 経営手法を表す言葉のなかには、マネージメントを含む複合語が数多く存在します。例えば人材管理を行うための「人材マネージメント」、事業遂行を管理するための「プロジェクトマネージメント」、危機管理のための「リスクマネージメント」、知識を共有するための「ナレッジマネージメント」など、実に様々な経営手法が存在するのです。

「マネージメントシステム」

 そんな経営手法のうちシステム(体系的な仕組み)として確立したものを、特に「マネージメントシステム」と呼びます。このような仕組みの中には、個別の企業が開発・運用する仕組み(例:トヨタ自動車の「トヨタ生産方式」など)がある一方で、標準化組織が制定・要求する仕組みもあります。

 後者のうち有名なのが、ISO(国際標準化機構)が制定する「マネジメントシステム規格」でしょう。例えば「環境マネジメントシステム」(企業が環境保全を行うための仕組み)を規格化した ISO-14000シリーズや、「品質マネジメントシステム」(企業が品質管理を行うための仕組み)を規格化した ISO-9000シリーズが知られています。

そのほかの「マネージメント」

 経営以外の分野にも、マネージメントを含む複合語は数多く存在します。例えば資産管理を意味する「アセットマネージメント」、不動産管理を意味する「プロパティマネージメント」、怒りの感情を制御するための「アンガーマネージメント」、心理的ストレスを制御するための「ストレスマネージメント」、時間管理を意味する「タイムマネージメント」などがあります。

言い換えたい場合は?

 一般には「管理」または「経営」を使います。例えば「部下をマネージメントする」を言い換える場合は「部下を管理する」と表現できますし、「企業のマネージメント」を言い換える場合は「企業経営」と表現できます。なお「トップマネージメント」のように「経営陣」を当てるのが適切な場合もありますので、注意してください。

雑学・うんちく・トリビアを教えて!

馬を馴(な)らす そもそも英語の management は、動詞である manage(マネージ)の名詞形です。その manage の語源は、イタリア語で「馬を調教する」こと、言い換えると「馬を馴らす」ことを意味する maneggiare(マネジャーレ)という言葉でした。この「馬を馴らす」意味が転じて、マネージメントは「物事をうまく扱うこと」を意味するようになったのです。

マネージャー マネージメントの仲間の言葉にマネージャー(manager)があります。日本語では「レストランの支配人」や「芸能人のサポートを行う人」さらには「スポーツチームのサポートを行う人」などの意味で使われてきた言葉ですが、英語の manager から、「経営者」という意味でも使われるようになっています。
 前述した『もしドラ』は、野球部のマネージャーを任された女子高生が主人公となる物語でした。物語の冒頭、この女子高生はマネージャーの仕事を始めるにあたって、マネージャーの意味を辞書で調べます。その過程で彼女は「マネージメント」という言葉を発見しました。そして彼女はマネージメントの関連書籍を書店に探しに行き、経営学者ドラッカーの著作に出会うことになるのです。

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【筆者プロフィール】

もり・ひろし & 三省堂編修所

■もり・ひろし
 新語ウォッチャー(フリーライター)。鳥取県出身。プログラマーを経て、新語・流行語の専門ライターとして活動。『現代用語の基礎知識』(自由国民社)の「流行観測」コーナーや、辞書の新語項目、各種雑誌・新聞・ウェブサイトなどの原稿執筆で活躍中。

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【編集部から】

 「インフラ」「アイデンティティー」「コンセプト」等々、わかっているようで、今ひとつ意味のわからないカタカナ語を詳しく解説し、カタカナ語に悩む多くの方々に人気を博したコンテンツ「10分でわかるカタカナ語」が、ふたたび帰ってきました。
 「インテリジェンス」「ダイバーシティー」「エビデンス」など、日常生活の中で、新たなカタカナ語は引き続き、次々に生まれています。世の中の新しい物事は、カタカナ語となって現れてくると言っても過言ではありません。
 これら悩ましいカタカナ語をわかりやすく考え、解説してゆきます。
 毎週土曜日更新。

【関連書籍】

●『コンサイスカタカナ語辞典 第4版』
定評あるカタカナ語辞典の第4版。約56,300語収録。詳細は こちら

●『見やすいカタカナ新語辞典』
大きく見やすい活字でカタカナ新語が引ける。約13,000語収録。詳細は こちら


続 10分でわかるカタカナ語 第10回 バッファー

2017年 5月 13日 土曜日 筆者: もり・ひろし & 三省堂編修所

10分でわかる「バッファー」の意味と使い方

どういう意味?

 「衝撃を吸収するもの」または「余裕」「ゆとり」という意味です。「バッファ」ともいいます。

もう少し詳しく教えて

 バッファー(buffer)はもともと英語で「衝撃を吸収するもの」、すなわち「緩衝(かんしょう)」を意味する言葉です。

 この言葉が持つ中心的なイメージは「何かと何かの間に存在して衝撃を和らげる」というもの。例えば、昔の鉄道車両に付いていた緩衝器(バッファー)は「車両どうしがぶつかり合うときの衝撃を和らげる」ための装置でした。また大国に挟まれた緩衝国(バッファーステート)も「大国どうしの衝突を防ぐ」立ち位置にあります。

 コンピューター用語では、一時的にデータを蓄える記憶領域という意味で使われます。例えばキーボードなどの入力装置と、その入力情報を処理する装置の間に処理速度の差がある場合が考えられます。このようなとき、バッファーと呼ばれる一時的な記憶領域が間に入ることで、うまくその差が緩衝され、データを正しく処理できるというわけです。

 また、近頃ビジネスの世界では、予算・日程・人材・物資・在庫などに設ける「余裕」をバッファーと呼ぶことがあります。例えば日程の余裕がない事業の場合、個別の工程のどれかが長引くだけで事業全体の進行が遅れてしまいます。それを防ぐには、あらかじめ「余分な日程」を確保しておかなければなりません。言い換えるならば「個別の工程の間に、遅延を吸収できる予備の日程を差し込む」必要があるのです。その日程をバッファーと呼んでいます。

どんな時に登場する言葉?

 文字通りの「緩衝」を表すバッファーは、主としてコンピューター・政治・環境・化学・鉄道などの分野で登場します。予算・日程・人材・物資などの「余裕」を意味するバッファーは、ビジネスの場面で登場します。

どんな経緯でこの語を使うように?

 専門用語としては古くから用例が存在します。例えば大正時代のある新聞記事には、鉄道用語として「バッファー用発条(はつじょう=バネの意)」が登場しました(参考:神戸大学経済経営研究所 新聞記事文庫/大阪朝日新聞1913年2月25日「汽車製造の進境」)。また別の新聞記事では、緩衝国を意味する「バッファーステート」が登場した例もあります(参考:同/日本新聞1914年9月14日「今後の日露関係」)。

 いっぽうコンピューター用語のバッファーは最近の用法です。1994年初版発行の「コンサイスカタカナ語辞典」にはすでにこの意味が記されています。

 「余裕」の意味で使われるバッファーは、さらに新しい用法です。ちなみにウェブサイト『ほぼ日刊イトイ新聞』の人気投稿コーナー『オトナ語の謎』には、2003年6月18日公開分でビジネス用語としての「バッファ」が投稿されていました。

バッファーの使い方を実例で教えて!

「バッファーを持たせる」

 ビジネスの世界では「予算・日程・人材・物資・在庫などに設ける余裕」をバッファーと呼ぶ場合があります。またそのような余裕を確保することを「バッファーを持つ」「バッファーを持たせる」「バッファーをとる」などと表現できます。

「バッファーになる」

 「緩衝役・調停役になる人」をバッファーと呼ぶ場合もあるようです。「看護師が医師と患者のバッファーとなる」のような場合がそうです。

「バッファー処理中」

 コンピューター分野では「入力と出力の間に置いてデータを一時的に蓄える記憶領域」をバッファーと呼びます。(注:この分野では、カタカナ語において語尾の長音符号を省略する慣習があります。そのため、コンピューター関係の用語で「バッファ」という形もよく見られますが、本稿では「バッファー」という表記で統一します。)

 例えばネットで動画を観るとき「バッファー処理中」といった表示とともに再生が止まってしまうことがあります。これは「ネットからの入力が何らかの原因で途絶えたため、バッファーの中身も尽きてしまい、画面出力もできない」ことを意味します。

 バッファーを含む複合語も数多く存在します。たとえば、バッファーとして用いる記憶領域を「バッファーメモリ」、バッファー領域を超過する分量のデータを書き込む不具合(またそれに伴う脆弱(ぜいじゃく)性)のことを「バッファーオーバーフロー」と呼びます。キーボードで入力した情報を一時蓄える「キーバッファー」、プリントするデータを処理する「プリンターバッファー」などの語もあります。

「バッファーゾーン」

 異なる地域の間に存在して、互いの影響の緩衝する役割を持つ地域のことをバッファーゾーン(緩衝地帯)と呼びます。この言葉は政治(地政学)や環境などの分野で登場します。地政学では「大国に挟まれた緩衝地域」を指し、環境問題では「自然保護地域と人間の活動域の間に設定する緩衝地帯」を指します。また世界遺産(ユネスコ)の取り組みでは「保護される遺産を取り巻く地帯」を指します。

化学の「バッファー」

 化学分野では「緩衝液」のことをバッファーと呼びます。外部から酸や塩基を加えても pH(水素イオン指数)が大きく変化しない溶液のことです。

言い換えたい場合は?

 ビジネス分野のバッファーを言い換える場合は「余裕」「ゆとり」を用いるのが良いでしょう。対象に応じて「日程の余裕」「予算のゆとり」「人材の余裕」「物資の余裕」などと表現する方法もあります。在庫管理の場合は「予備」とも言い換えられます。

 専門用語のバッファーを言い換える場合は、定訳があるかどうかを探してみてください。例えば鉄道車両のバッファーは「緩衝器」、地政学のバッファーステートは「緩衝国」、地政学・環境のバッファーゾーンは「緩衝地帯」、化学のバッファーは「緩衝液」との定訳が存在します。

雑学・うんちく・トリビアを教えて!

爪磨(みが) 美容の分野では「爪を磨くための道具」をバッファーと呼んでいます。このバッファーも英語で buffer と綴るのですが、ここまでに述べた buffer とは別の語源を持つ言葉です。
爪磨きの buffer の場合は、「磨く」を意味する buff に「~するもの」を意味する -er が付いている構造。いっぽう緩衝を意味する buffer は、それ自体がひとつの言葉となります(柔らかいものを殴るときの音が語源とみられます)。

バファリン ブリストル・マイヤーズ社が開発、ライオンが販売している鎮痛・解熱薬『バファリン』。ライオンのウェブサイトによると、この商品名は buffer(バッファー)と Aspirin (アスピリン/アセチルサリチル酸)を合成した言葉だといいます。「胃にやさしいアセチルサリチル酸」という意味を込めているそうです。

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もり・ひろし & 三省堂編修所

■もり・ひろし
 新語ウォッチャー(フリーライター)。鳥取県出身。プログラマーを経て、新語・流行語の専門ライターとして活動。『現代用語の基礎知識』(自由国民社)の「流行観測」コーナーや、辞書の新語項目、各種雑誌・新聞・ウェブサイトなどの原稿執筆で活躍中。

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続 10分でわかるカタカナ語 第9回 ドメスティック

2017年 4月 29日 土曜日 筆者: もり・ひろし & 三省堂編修所

10分でわかる「ドメスティック」の意味と使い方

どういう意味?

 「家庭内の」「国内の」という意味です。

もう少し詳しく教えて

 ドメスティック(domestic)は、多く、他の語に付いて、「家庭内の」や「国内の」という意味を表します。

 メディアなどでよく耳にするのは、配偶者や恋人からの暴力を意味する「ドメスティックバイオレンス(domestic violence)」という語としてでしょう。この場合、ドメスティックは「家庭内の」を意味します。

 ドメスティックはまた、「国内の」という意味でも使われます。例えばファッション分野では、国内のブランドのことを「ドメスティックブランド(domestic brand)」と呼ぶ習慣があります。

 「ドメスティックな企業」のように、「~な」の形で使われることもあります。

どんな時に登場する言葉?

 おもに社会問題・ファッション・航空の分野でよく登場します。まず社会問題の分野ではドメスティックバイオレンスが、ファッションの分野ではドメスティックブランドがよく登場します。また航空業界では「国内線」を意味するドメスティックがよく登場します。

どんな経緯でこの語を使うように?

 古くは、大正時代に出版された外来語辞典に「家庭の。一家の。国内の。」という説明で「ドメスティック」という項目が見られます。また昭和の初期に出版された新語辞典にも「国産の」を意味するドメスティックが掲載されていました。

 ただし、一般社会でドメスティックが注目され始めた時期は、比較的最近です。例えば、新聞記事でドメスティックという言葉の登場回数が増えたのは、90年代の末期からゼロ年代(2000年〜2009年)の初期にかけてのことでした(注:朝日・読売・毎日・産経調べ)。この時期にドメスティックバイオレンス防止法(通称。2001年成立)に関する議論が活発化していたことが背景にあります。

ドメスティックの使い方を実例で教えて!

ドメスティックな○○

 おもに国内を意味する文脈で「ドメスティックな○○」と表現することが可能です。例えば「ドメスティックな商品」と言えば「国内製の商品」「国内向けの商品」といった意味です。「ドメスティックな会社」と言えば「海外展開をしていない会社」「日本的な企業風土の会社」というニュアンス、「ドメスティックな作品」と言えば「(内容、流通などの面で)国内市場向け、内向きの作品」ということになります。

ドメスティックブランド

 ファッションの分野では、海外ブランドに対する国内ブランドのことを「ドメスティックブランド」と呼びます。略して「ドメブラ」と言う場合もあります。

ドメスティックバイオレンス

 配偶者や恋人あるいは元配偶者や元恋人から受ける暴力のことです。「DV」と略される場合もあります。日本では、2001年にドメスティックバイオレンス防止法(正式には「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律」)が成立したことで、その対策が本格化しました。

 なおDVのうち、恋人間で行われるDVのことを特に「デートDV(和製英語)」と呼びます。

ドメス

 航空業界やその関連業界(旅行代理業など)では、飛行機の国内線を「ドメスティック」と呼ぶ習慣があります。これは英語の domestic line を略した表現です。会社によってはドメスティックをさらに略して「ドメス」「ドメ」などと表現するところもあるようです。

言い換えたい場合は?

 単純にドメスティックを言い換える場合は、「家庭内の」あるいは「国内の」を用いると良いでしょう。またファッションのドメスティックブランドは「国内ブランド」に、また航空のドメスティックは「国内線」に言い換えることが可能です。

 ドメスティックバイオレンスを言い換える場合は、ケースに応じて「配偶者間暴力」「配偶者や恋人による暴力」のような文章表現を試してみてください。

雑学・うんちく・トリビアを教えて!

GDP の D は? 国内総生産(一年間に国内で生み出された付加価値の総額)を意味する「GDP」という言葉。これは Gross Domestic Product を略した言葉です。つまり GDP の D とは、ドメスティックのDなのです。

ドメ男(お) 『現代用語の基礎知識』の若者用語欄に、1991年版から1994年版にかけて「ドメ男」という項目が載っていました。その解説を1994年版から引用しましょう。「英会話ができなくて、外国へも一回ぐらい観光旅行しただけの、もっぱら国内向きの男。海外勤務をする見込みのない会社員。ダメ男(だめな男)に通わせた表現。」

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続 10分でわかるカタカナ語 第8回 ソーシャル

2017年 4月 22日 土曜日 筆者: もり・ひろし & 三省堂編修所

10分でわかる「ソーシャル」の意味と使い方

どういう意味?

 他の語に付いて、「社会的」「社交的」という意を表します。

もう少し詳しく教えて

 ソーシャル(social)は英語の形容詞で、「社会の」「社交の」を意味します。ソーシャルビジネス、ソーシャルメディアなどのように、他の語に付いて使われます。ソシアルダンス(社交ダンス)などのようにソシアルと表記される場合もあります。

どんな時に登場する言葉?

 社会・社交が関連する分野で登場します。特に近年では、福祉・環境などの社会的課題を取り扱う分野、心理・教育分野、さらには IT(情報通信技術)の分野で、ソーシャルを含む新概念が次々と生まれています。

どんな経緯でこの語を使うように?

 古くから使われている言葉です。例えば大正時代に出版された外来語辞典にはすでに「ソシアル」の項目が存在していました。

 近年では、主に「社会的課題」と「IT」の両分野で、ソーシャルを冠する新概念が数多く生まれ、注目を集めています。そのためマスメディアでソーシャルの語を見聞きする機会も増えています。例えば『現代用語の基礎知識』(自由国民社)では、1991年版でソーシャルを含む複合語の項目が11語だったのに対して、2016年版では延べ23語にまで増えています。

ソーシャルの使い方を実例で教えて!

ソーシャルスキル

 挨拶や意思表明、共感など、社会で人とかかわっていくなかで必要不可欠な技能を「ソーシャルスキル」といいます。そのような技能を訓練することは「ソーシャルスキルトレーニング」と呼ばれます。これらは心理・教育分野でよく登場する概念です。

ソーシャルワーカー

 社会的弱者(貧困・障害・差別などの問題で生活に困っている人)のために行う直接的または間接的な支援活動を「ソーシャルワーク(social work)」と呼びます。またこの活動を行う人を「ソーシャルワーカー(social worker)」と呼びます。学校を活動拠点とする場合は「スクールソーシャルワーカー(school social worker / SSW)」、保健・医療を専門とする場合は「医療ソーシャルワーカー(medical social worker / MSW)」となります。

社会的課題のソーシャル

 1987年に「持続可能な開発」という概念が世界的に注目されました(→サステナブル)。それ以来、国際社会は環境・資源・エネルギー・貧困・教育・人権といった「社会的課題」により大きな関心を向けています。その影響で、ソーシャルを冠した新概念も数多く日本語に入ってきました。

 例えば「ソーシャルビジネス(social business)」は、社会的課題をビジネスの手法で解決しようとする考え方。そのようなビジネスを行うベンチャー企業(革新的な小企業)を「ソーシャルベンチャー(social venture)」と呼びます。

 また「ソーシャルセクター(social sector)」とは、従来的な公共セクター(行政機関など)や民間セクター(民間企業など)とは異なる新たな組織区分のこと。NPO(非営利組織)や NGO(非政府組織)など、社会的課題の解決を目的とする非営利の民間組織を指します。このセクターは、近年、国際社会の中でも大きな存在感を示すようになりました。

ソーシャルネットワーキングサービス(SNS)

 IT(情報通信技術)の分野では、ゼロ年代(2000年~09年)の初頭から「ソーシャルネットワーキングサービス(social networking service)」、略して「SNS」が普及しました。インターネット上で結びついた人どうしが情報交換できるサービスです。日本でそのはしりとなったのはmixi(ミクシィ、2004年サービス開始)であり、2010年代に入ってからはスマートフォンの普及に伴ってFacebook(フェイスブック)、Twitter(ツイッター)、LINE(ライン)などの利用が急速に広がりました。

 この SNS を含めて、個人どうしの情報交換によって成り立つメディア(電子掲示板、ブログ、動画サイトなども含む)を「ソーシャルメディア(social media)」と総称します。いわばクチコミの電子版とも言える存在です。

言い換えたい場合は?

 複合語のソーシャルを言い換える場合は、まず定まった訳語があるかどうかを調べてみてください。例えばソーシャルワークには「社会福祉援助技術」、ソーシャルワーカーには「社会福祉士」、ソシアルダンスには「社交ダンス」という訳語が存在します。

 定訳の有無に関わらず、多くの場合、単純な言い換えが困難です。例えばソーシャルメディアを「社交媒体」と言い換えても、おそらく読み手や聞き手は意味を理解できないことでしょう。面倒ではありますが「ネットを通じた個人どうしの情報交換で成り立つメディア」といった具合に、概念を簡単に説明してみてください。

雑学・うんちく・トリビアを教えて!

CSRのS ビジネスでよく見聞きするアルファベット略語の中にも、ソーシャル(social)が含まれるものがあります。代表例は「企業の社会的責任」を意味する「CSR」でしょう。CSR は corporate social responsibility の略です。

社会は「仲間」から始まった 英語の social の語源をたどると「社交的な」を意味するラテン語 socialis に行き着きます。その socialis の語源は、同じくラテン語の socius。これは「仲間」を意味する言葉です。つまりソーシャルは「仲間」を語源とする言葉なのです。

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続 10分でわかるカタカナ語 第7回 スマート

2017年 4月 15日 土曜日 筆者: もり・ひろし & 三省堂編修所

10分でわかる「スマート」の意味と使い方

どういう意味?

 「手際がいい」「洗練された」「ほっそりして格好がいい」に加えて、「賢い」という意味でも使われます。

もう少し詳しく教えて

 英語のスマート(smart)はもともと「洗練された」、「賢い」、「すばやい」など多くの意味をもっています。日本語では「手際がいい」「洗練された」「ほっそりした」「格好いい」という意味で使われます。近年では、「賢い」の意味での使用も見られるようになっています。

 「洗練された」という意味の「スマート」は、行動・態度・姿形(すがたかたち)を表現するときに登場します。例えば「彼の振る舞いはスマートだ」といえば、彼の行動・態度について「粋である」「気が利いている」といった意味を表します。また「彼の服装はスマートだ」だといえば、彼の姿形(服装)について「お洒落(しゃれ)だ」「格好いい」といったニュアンスを表しています。いずれも「洗練」という意味にまとめられるでしょう。

 この意味に付随するのが、「姿形がほっそりしている」「やせている」という意味です。例えば「彼はスマートな体型だ」とか「スマートな形の機体だ」と言えば、身体や機体が「細い(細くて格好いい)」ことを意味します。実は英語の smart には、この意味が存在しません。

 さらに近年では、「スマートフォン(smartphone)」のように英語の「賢い」の意味をもつ語が移入されて使われるようになりました。これらは、何かがIT(情報通信技術)によって高機能化している様子を表すものです。

どんな時に登場する言葉?

 「洗練」を意味するスマートは、行動・動作・態度・外見などを表現する場合に登場します。また「細い」ことを意味するスマートは、人や物の外見をほめる際に登場します。そして「賢い」を意味するスマートは、ITを応用した機能・製品・サービス・概念などを表現する際に登場します。

どんな経緯でこの語を使うように?

 「洗練」を意味するスマートは、少なくとも明治時代には使われていた表現だと思われます。また「細い」ことを意味するスマートも、少なくとも昭和初期には使われていた表現であるようです。

 いっぽう「賢い」という意味のスマートが盛んに使われるようになったのは、ごく最近のことです。具体的にはゼロ年代(2000年~09年)の後半以降に、マスメディアでスマートを含む複合語をよく見かけるようになりました。この時期は、スマートフォンが世界的に普及しはじめた時期にあたります。

スマートの使い方を実例で教えて!

スマートな行動

 「洗練されている」や「ほっそりして格好良い」を意味するスマートは、「スマートな」「スマートに」「スマートさ」などの形で使うことができます。例えば「スマートな行動」「長身でスマートな人」「彼のやり方はスマートさを欠く」といった具合です。

スマートフォン

 ITの世界には様々な「スマートデバイス(smart device)」、すなわち「ITによって高機能化した装置」が存在します。例えば「スマートフォン」は高機能化した携帯電話端末のこと。「スマート家電」といえば、自動節電機能のついたエアコンや、外出先から中身が確認できる冷蔵庫などが挙げられます。このほか「スマートウォッチ(smartwatch)」「スマートスピーカー(smart speaker)」「スマートグラス(smartglasses /眼鏡型のコンピューター端末)」などの装置も存在します。どれも、ITを応用することによって、自動で動作を制御したり、従来のものにはない高度な機能が付加されたりしていることが特徴です。

スマートグリッド

 環境やエネルギーの分野でも「ITによる高機能化」を意味するスマートが登場します。高機能化によって、エネルギー利用の効率化を図る取り組みが進んでいるためです。例えばその対象が送電網(電力の供給網)の場合は「スマートグリッド(smart grid)」、街全体の場合は「スマートコミュニティー(スマートシティー)(smart community)」、各家庭の場合は「スマートハウス(smart house)」と表現できます。

スマートキー

 自動車の分野でもスマートを冠する言葉があります。例えば「スマートカー(smart car)」はITで高機能化した自動車全般のこと(自動運転車など)。また「スマートキー(smart key)」は、鍵となる機器を持ち歩いて自動車に近づくだけで、自動的に解錠などを行う機能をさします。

言い換えたい場合は?

 行動・態度の「洗練」を意味するスマートは「洗練されている」「気が利いている」「手際が良い」「粋な」「颯爽(さっそう)としている」「格好良い」などと言い換えることができます。

 また外見の「洗練」を意味するスマートは「洗練されている」「格好良い」「洒落ている」「さっぱりしている」「粋な」「身奇麗な」などと言い換えることが可能です。またカタカナ語でもよければ「スタイリッシュな」「クールな」(→クール)「シックな」なども使えます。

 外見の洗練のうち「細い」を意味するスマートは「ほっそりしている」「やせている」「すらっとしている」などの言い換えが可能です。カタカナ語でもよければ「スリムな」とも表現できます。

 「賢い」を意味するスマートは、(擬人的に)「頭のいい」「利口な」、または「高機能」や「次世代」と言い換えることが多いようです。スマートフォンを「高機能携帯電話」、スマートグリッドを「次世代送電網」とする場合などがそうです。いっぽう高機能・次世代にこだわらない方法もあります。例えばスマートシティーを「環境配慮型都市」と言い換える用例も存在します。

雑学・うんちく・トリビアを教えて!

語源は「痛み」 英語の smart には「痛み」や「ひりひりする」といった意味もあります。実は smart のもともとの意味は「肉体的な痛み」なのです。それがいつしか「精神的な鋭さ」を指すようになり、やがて「洗練」や「賢さ」の意味に繋がっていきました。

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もり・ひろし & 三省堂編修所

■もり・ひろし
 新語ウォッチャー(フリーライター)。鳥取県出身。プログラマーを経て、新語・流行語の専門ライターとして活動。『現代用語の基礎知識』(自由国民社)の「流行観測」コーナーや、辞書の新語項目、各種雑誌・新聞・ウェブサイトなどの原稿執筆で活躍中。

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【編集部から】

 「インフラ」「アイデンティティー」「コンセプト」等々、わかっているようで、今ひとつ意味のわからないカタカナ語を詳しく解説し、カタカナ語に悩む多くの方々に人気を博したコンテンツ「10分でわかるカタカナ語」が、ふたたび帰ってきました。
 「インテリジェンス」「ダイバーシティー」「エビデンス」など、日常生活の中で、新たなカタカナ語は引き続き、次々に生まれています。世の中の新しい物事は、カタカナ語となって現れてくると言っても過言ではありません。
 これら悩ましいカタカナ語をわかりやすく考え、解説してゆきます。
 毎週土曜日更新。

【関連書籍】

●『コンサイスカタカナ語辞典 第4版』
定評あるカタカナ語辞典の第4版。約56,300語収録。詳細は こちら

●『見やすいカタカナ新語辞典』
大きく見やすい活字でカタカナ新語が引ける。約13,000語収録。詳細は こちら


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