大規模英文データ収集・管理術 第16回

2012年 1月 23日 月曜日 筆者: 富井 篤

6 「分類」の構成

今まで、折に触れ「トミイ方式」の「分類」について述べてきましたが、いよいよ今回からその本髄について述べていきます。

第13回第14回で、「トミイ方式」の分類には以下のとおり7つあることを述べました。

(1) アルファベット順 (75%、約260,000点)
(2) 50音順 (1%、約4,000点)
(3) 表現別 (7%、約25,000点)
(4) 品詞別 (4%、約13,000点)
(5) 構文別 (5%、約18,000点)
(6) 数量表現別 (4%、約15,000点)
(7) その他 (4%、約15,000点)

注:カッコ内の数字は、前者は全収集例文数350,000点の中に占める割合、後者はその例文の数を表しています。

これら7つの「分類」について、順に述べていきます。今回と次回は(1) アルファベット順です。

しかし厳密にいいますと、いみじくも上記した名称が示しているように、(1)(2)は「分類」ではなく「順番」です。すなわち、収集した英文データを「分類する」のではなく、そのデータが持つ属性、すなわち、(1)ならばそのデータの頭文字、をアルファベット順に、そして(2)ならばその言葉の最初の文字を50音順に「並べる」だけでよいものです。この「分類」と「順番」の違いは、(2) 50音順(3) 表現別にも関連していますので、この時点で確実に把握しておいてください。

もう一つ大事なことがあります。それは、今までにしばしば出てきていますので、繰り返しになりますが、「収集・分類作業」というものを完全に「トミイ方式」に切り替えていただきたいことです。

それは、この収集・分類作業が、英文データを、その中の収集しようとする、あるキーワードの場所に収納するということです。たとえば、ある英文の中の provide という言葉を収集しようとする場合、その文章全体に provide という表札を付け、英和辞書のように provide の場所に収納することです。中学生の単語カードのように、provide という単語だけを書き、それを provide の場所に収納することではありません。これは、データをカードにコピーするなり、プリントするなり、手書きするなりして転記する場合でも、コンピュータにセーブする場合でも同じです。

(1) アルファベット順

基本的には、どのような単語を収集したらよいのかということに尽きると思いますが、極端な言い方をすると、英単語すべてです。上にも示してありますように、全収集例文数350,000点のうち、このアルファベット順の例文数が75%も占めていることからもわかります。しかし time-effectiveness を考えると、そういうわけにもいきませんので、ここでは、初期の段階で――ここが大事です。あくまでも、「初期の段階では」ということです。ということは、収集活動が進んで来ると、いつの時点か、必ずや、収集対象を広めていきたくなる時がやってくるということです――収集すべき単語類だけを、Q&Aスタイルで述べていくことにします。

どのような単語を収集するのですか?

基本的には、ご自分の英語のレベルや収集目的などによって違いますが、収集するかしないか、するならばどのような単語をするのかについては、次の4つの基準があります。

(i) 取る必要のない単語、取っても無意味である単語
(ii) この「アルファベット順」にだけ取ればよい単語
(iii) この「アルファベット順」には取らず、他の「分類」の中に取るだけでよい単語
(iv) この「アルファベット順」と他の「分類」の両方に取った方がよい単語

これら4つについて、以下、順に説明します。

(i)  取る必要のない単語、取っても無意味である単語

この中には、次のように、意味や用法や活用などに何ら重要な情報や変化を含んでいない単語は、最初のうちは除きます。例えば、以下のような単語です。

boy、girl、desk、car、tree、train、motorなどの普通の名詞

しかし、理想的には、時間と気力さえあれば、これらの単語も最初から集めておいた方が賢明です。例えば、train という言葉も、例文を集めておくと、. . . on the train . . . . という形で使われているでしょうから、ともすると in を使ってしまいがちな train の前置詞は、この例文を見れば on であることが分かります。また、motor という単語も、収集しておくと、a big motor とか a large motor などという形で出てくることがよくありますので、big か large か迷った時、例文をよく見ると a big motor は寸法や図体が大きいことを、そして a large motor は馬力などの容量が大きいことを、それぞれ表していることもわかります。その意味では、単純な形容詞である big や large もやがては集めたくなってくるはずです。

さらには、「制作・発表」機能が高じていき、英和辞典を作りたいという気持ちになった時には、何の変哲もない単語でも、単語という単語はすべて必要になるでしょうから、最初から集めておかなかったとすると、その時点で、急きょ、収集対象の幅を広げていかなければなりませんが、大変な作業になります。

(ii)  この「アルファベット順」にだけ取ればよい単語

一般的には、(i)の範疇に入る単語以外はすべて取るべきです。その中でも、1つの単語が複数の意味を持っているものや、その用法に変化が富んでいるものや、活用の仕方が千変万化するものなど、すなわち、動詞、形容詞、副詞などは、ほぼすべて集め、この分類の中に入れます。例えば、以下のような単語です。

例:provide、apply、causeなどの動詞、available、possibleなどの形容詞、so、bestなどの副詞

(iii) この「アルファベット順」には取らず、他の「分類」の中に取るだけでよい単語

常識的にお分かりだと思いますが、すべての英単語をこの中に入れても意味はありません。下に示すように、他の「分類」の中に入れたほうがよい単語がいろいろあります。例えば、以下のように、それぞれ適切な「分類」の中に入れます。

a,theなど冠詞、at,in,of など前置詞、shall,will,can など助動詞は(4) 品詞別の中に、only,rather than,so that,too ~ to などは(5) 構文別の中に、number や、各種の物理量、例えば圧力、音頭、電圧、電流などは(6) 数量表現別の中に、さらには、ハイフン、コロン、セミコロンなどは(7) その他の中に、それぞれ入れます。

(iv)  この「アルファベット順」と他の「分類」の両方に取った方がよい単語

単語の中には、この「アルファベット順」の中にも入れ、他の「分類」の中にも入れたほうがよい単語もあります。この範疇に属する単語は、非常に数が多く、その重要度も非常に高いものです。したがって、逆の考え方をして、“他の「分類」の中に入れた単語も、できれば、すべて――ただし、(iii)の範疇に入る単語は除く――mother data であるという考え方をして、この「アルファベット順」の中にも入れる”という習慣を付けておくとよいと思います。該当する言葉は無限にあり、ここでは説明しきれませんので、1つだけ、「構文別」という大分類の中の「無生物主語構文」の例を挙げて説明します。

Experience has shown that dryer costs are optimized if inlet temperature is 100°F.

この場合、ともすると、この英文全体を「無生物主語構文」の中にだけ入れ、experience とか、show とか、optimize などをこの「アルファベット順」の中に入れ損なったりすることがあります。このような点を注意する必要があるわけです。もう1つ「無生物主語構文」の例を挙げます。

This proves that hysteresis cannot be eliminated by normal adjustment.

ここでは、その理由は説明しませんが、このThis proves that. . . も「無生物主語構文」のうちの1つであると理解してください。この英文も、「無生物主語構文」の中だけではなく、prove とか、hysteresis とか、eliminate なども大事な単語ですので、この「アルファベット順」の中に入れるようにしてください。

同じ単語は1例だけ集めればいいのですか?

そうではありません。同じ単語でも、意味や用法がよほど似ていない限り、いくつでも集めるとよいです。極端な言い方をすると、ご自分にとって重要と考えられる単語が出てきたら、すべて収集するぐらいの気持ちで日頃から取り組んでおくとよいと思います。
それにはいろいろな理由がありますが、それについては、次回述べることにします。

【筆者プロフィール】

富井篤(とみい・あつし)
技術翻訳者、技術翻訳指導者。株式会社 国際テクリンガ研究所代表取締役。会社経営の傍ら、英語教育および書籍執筆に専念。1934年横須賀生まれ。
主な著書に『技術英語 前置詞活用辞典』、『技術英語 数量表現辞典』、『技術英語 構文辞典』(以上三省堂)、『技術翻訳のテクニック』、『続 技術翻訳のテクニック』(以上丸善)、『科学技術和英大辞典』、『科学技術英和大辞典』、『科学技術英和表現辞典』(以上オーム社)など。


大規模英文データ収集・管理術 第15回

2012年 1月 9日 月曜日 筆者: 富井 篤

5 「トミイ方式」の機能と目的

(3) 制作・発表ツールとしての機能

これは一言で言うと、本を書いたり、国内外の会議などで講演をしたり、さらには講座を開いた時にテキストや課題集などを作成したりするときのネタになるものです。
今まで述べてきた「(1) 活用ツールとしての機能」と「(2) 学習ツールとしての機能」が英語を書く時や英語を勉強する時に大事な、どちらかというと実用的な側面を持つ機能であったのに対し、これから述べるこの「(3) 制作・発表ツールとしての機能」は、一方では、ややアカデミックな側面もありますが、どちらかというと、もっと俗っぽい、「お金儲けのためのアウトプット機能」と言えます。

以下の3つに分けて述べていきます。

(a) 著作(辞書、ハンドブック、参考書)
(b) 研究発表、記事投稿、講演
(c) 講座テキスト、演習課題

(a) 著作(辞書、ハンドブック、参考書)

これは、収集され、分類・整理されている英文データを使って、辞書やCDも含めた著作をおこなう活動です。紛れもない経済活動です。これには、十分な量のデータが必要になります。100点や200点、1,000点や2,000点のデータでは無理です。それでもテーマを絞り、そのテーマに関してデータが1,000点か2,000点集まっていれば、ものによってはできないことはないかもしれません。よく、映画というのは、実際に編集された出来上がりの時間の10倍も20倍もの長さのフィルムを撮るといわれています。この場合も同じで、あるテーマについて、仮に2,000点のデータを集めてあったとしても、本を書く時に実際に使えるデータは1/10から1/20になってしまいます。そうなると、いかに多くのデータが必要になるかということがおのずと分かると思います。

こう言うと、折角、大事な機能のうちの1つとして紹介しても、皆さんをディスカレッジさせるようなことになりかねません。しかし、私の言いたいことはむしろ逆で、確かに少ないデータ量では本は書けませんが、その代わり、データを潤沢に収集していただきたいということと、その気になればたくさんの量のデータを集めるということは、決してたいしたことではないということの2つです。第5回(8月15日(月)公開)の記事をお読みいただけると、本を書くということは、その気になればいたって簡単であることがお分かりいただけると思います。

そうはいっても、そのように簡単でもない一面があります。それは出版社探しです。これには、出会いというか運の問題もあります。この問題は、「トミイ方式」とは直接の関係はありませんので、ここでは触れないことにします。

筆者の例でいいますと、もう、35年近く前の話になりますが、恵まれた運がいくつも重なり、今では、CDや翻訳ものも含め、数え方にもよりますが、昨年出版した3冊で36冊になりました。その中には、同じテーマの本を切り口を変えて出した本も何冊かあります。これらすべて、「トミイ方式」で収集し、分類・整理してある、今では350,000点以上に及ぶ英文データに基づいて書いた本ばかりです。

37年前に脱サラしこの業界に入った時は、物書きになるなどということは、夢にも考えていませんでした。皆さんも、日々の生活とは別に目標をここにおいて、ぜひ、「トミイ方式」をとことんつき進めていただいたいと思います。準備さえしておくと、遠い将来、チャンスが訪れるかもしれません。

(b) 研究発表、記事投稿、講演

「トミイ方式」に基づいた英文データは、この中では、国際会議の講演やプレゼンテーションのネタとして使った場合が圧倒的に多いです。

アメリカに、American Translators Association(全米翻訳者協会)というのがありますが、1985年マイアミで開かれてコンベンションに初めて参加してプレゼンテーションを行い、その後、2001年のロスアンゼルス コンベンションまで連続17回参加し、15回のコンベンションでプレゼンテーションをしてきました。その時のネタは、当然、「トミイ方式」の産物ばかりです。その他、国内外の大学でも講演もしてきましたが、もちろん、これも「トミイ方式」の産物ばかりです。その後、自分自身、翻訳の仕事を辞めてしまいましたので、今は、ATAのコンベンションにはほとんど参加していません。

皆さんの中には、講演などには興味をお持ちでない方もたくさんいるでしょうが、これは、講演に備えて英文データを集めようとするものではなく、英文データをたくさん集めておけば、もし、自分から求めていった機会であろうと、他から依頼され、止むなく訪れて来た機会であろうと、このような機会が到来した時、泥縄式に準備することなく、即座に対応できます。これも「トミイ方式」の大きなメリットです。

(c) 講座テキスト、演習課題

これは、翻訳学校や翻訳教室などのような教育機関をすでに開いている方、またはこれから開こうとされている方、さらには、このような教育機関ですでに講師などをしておられる方やこれから講師になろうとしておられる方々にとっては、非常に大事な機能です。一方で、このような道に興味も関心も全然ない方々にとっては、全く関係ない機能です。しかし、今はそうであっても、遠い将来のことを考えると、今から準備しておくことは決して無駄にはならないと思います。

筆者の場合を例にとると、37年前に脱サラしこの業界に入った時は、上に書いた「物書き」になるなんて考えもしなかったのと同様、翻訳の講師になろうなどということは、微塵も考えていませんでした。

最初は、ネイティブの発想に近い、格調の高い英語が書けるようになるために集め始めた英文データが、時が経つに従ってその量が増えていき、「ことによると、このデータを使うと、前置詞の参考書が書けるのではないか」というところから始まり、さらには、「これらのデータを体系化していくと、英語教育ができるのではないか」ということになり、気がついてみれば、集まった英文データを使って自前のテキストを作り、社会人対象の翻訳教室を開いており、そのテキストを使って、大手企業の社員教育をするようにもなり、さらには国内外の大学で講義をするようにもなってもいました。もちろん、テキストのみならず、課題集の作成も、これらの英文データによることはもちろんです。

上記3つの機能の他に

(4)  説得機能
(5)  道楽機能

があります。

「説得機能」とは、この「トミイ方式」を採り入れている何人かの方たちからの情報で、自分の英語に上司からクレームが来た時、いくら説明しても上司は納得してくれなかったが、翌日、自宅にある「トミイ方式」で収集したデータを会社に持っていき、それに基づいて説明すると上司が納得してくれることがよくあるとのことから、「説得機能」として加えています。

また、「道楽機能」とは、やはり、この「トミイ方式」を採り入れている何人かのお年寄りの方たちのお話ですが、「自分は、これが日課になってしまい、一日、必ず何枚かのデータを集めている。これがないと、その日は食事もおいしくなく、夜の寝つきも悪いとのことです。そのため、半分以上はジョークですが、機能のうちの1つとして加えさせているものです。

長い人生です、これから何が起こるかわかりません。「トミイ方式」を通していろいろな英文データを根気よく、継続して収集していくと、きっと素晴らしい将来が待っているはずです。

次回からは、いよいよ「トミイ方式」の真髄である、“「分類」の構成”に入っていきます。

【筆者プロフィール】

富井篤(とみい・あつし)
技術翻訳者、技術翻訳指導者。株式会社 国際テクリンガ研究所代表取締役。会社経営の傍ら、英語教育および書籍執筆に専念。1934年横須賀生まれ。
主な著書に『技術英語 前置詞活用辞典』、『技術英語 数量表現辞典』、『技術英語 構文辞典』(以上三省堂)、『技術翻訳のテクニック』、『続 技術翻訳のテクニック』(以上丸善)、『科学技術和英大辞典』、『科学技術英和大辞典』、『科学技術英和表現辞典』(以上オーム社)など。


大規模英文データ収集・管理術 第14回

2011年 12月 19日 月曜日 筆者: 富井 篤

5 「トミイ方式」の機能と目的

(2) 学習ツールとしての機能

せっかく収集した多くのデータが、「活用機能」だけで終わるはずありません。「トミイ方式」の、ほぼ全工程で機能を発揮してくれるのが、この「学習ツール」です。この機能や効能はいくらでもありますが、ここでは次の3つに絞って述べます。

説明に入る前に、今回初めてこの連載をお読みになる方のために、この「(2) 学習ツールとしての機能」がどこに位置しているか理解できるように、前回使用した「機能・効能・分類」表を、もう一度、ここに表示します。

主な効能には、以下の3つがあります。

(a) 収集時に頭の整理
(b) 細分化分類、パターン化の際の学習
(c) 制作されたデータを参考書として学習

(a) 収集時に頭の整理

すでに“「トミイ方式の」の変遷”で述べましたように、最初は、英文を書く時や和英翻訳をする時にネイティブの発想に近い英語が書けるようになるようにいろいろな英文データを収集していただけですが、だんだん月日が経っていくと、そこだけにとどまらず、品詞の使い方、文の構築のし方、表現のし方、数量表現のルール、ハイフンやパンクチュエーションなどなど、多岐に広がっていきました。それに伴い、データの収集時にも目が肥えていき、常に、眼(まなこ)を大きく開いていき、興味と関心のあるデータを大量に集めるようになります。言いかえると、集まった英文データを学習することよりも、問題意識をたくさん持って収集に当たることのほうが、はるかに、はるかに学習をしていることになります。

この「トミイ方式」は、よくいろいろな機会に受講生に伝授していますが、よく出る質問に、「先生、一体、何を集めたらいいのですか」というのがあります。これではスタート台以前の問題です。「何を集めるか」ではなく「何が欲しいのか」であり、結論として、簡単ですが、「その欲しいものを集めるのですよ」といことになるわけです。

収集時に何を集めたらよいのかわからないということは、眼が閉じてしまっていて、興味や関心のあるデータが「何も見えない」、すなわち「何もない」ということになります。やがて、眼を大きく開いていくと、徐々に興味や関心のあるデータが見えてきます。

眼が大きく開いてきた時の頭の整理というものには驚くほどの学習効果があります。

(b) 細分化分類、パターン化の際の学習

次は、データも十分集まり、それを中分類、小分類、細分類、極細分類していったり、分類したものをさらに各パターンに分けたりする、いわゆる「パターン化」の際の学習機能です。

筆者のように、すでにすべてのデータを40,000とか45,000の末端単位に細分類し終わっている場合には、細分化やパターン化の作業そのものは必要ありませんので、とくに細分化作業やパターン化作業が学習ツールとなるものではありませんが、まだこの工程が終わっていない人たちにとっては、この工程は、「トミイ方式」の持つ、最大の学習機能です。これこそが、筆者がよく言っているように、唯一無二の英語の独習法であって、「トミイ方式」の真髄というものです。

一例を挙げて説明します。

英文データを収集し、最初の大分類から説明していくと、なかなか本丸に到達しませんので、ここでは、大分類が「品詞別」、中分類が「前置詞」、小分類が「in」まで分類がすでになされている状態、すなわち、前置詞 in だけがまとまっている状態からさらに細分類していく状況を想定していただきます。

もともと、前置詞 in が使われている英文データと言っても、何の変哲もない用法の in を使った英文データは集めていないはずです。必ず、単なる前置詞ではなく、それ以上の意味に使われている、そのような英例文しか集めていないはずです。例えば

(i) 学校英語とは一味違うinの用法の英例文
(ii) この in の用法を使うと英語が簡潔に書けるようになる英例文
(iii) in が単なる前置詞ではなく、動詞的な意味に使われている英例文
(iv) 単なる前置詞 in が、「手段・方法」を表す意味で使われている英例文
(v) 「~が―する」とか「~が―である」などのように「~が」という限定を表している英例文

などなど、いろいろな意味や方法の in に分類でき、in の学習ができます。これほど、楽しく、効果的な英語の独習法は絶対にありません。

なお、これについては、第7回 (2) 技術翻訳の独習法としての「トミイ方式」(2011年9月12日公開)の「第1ステップ(小分類)」が参考になります。これは、大分類が「表現別」で、中分類が「影響」の場合ですが、この機会にぜひご覧ください。

(c) 制作されたデータを参考書として学習

これは、収集され、適切に分類・整理された英文データが、手作りの、自前の参考書、ハンドブック、データベースとして学習できる機能です。参考者やハンドブックという形になっていなくても、しっかりした分類ができていれば、「学習機能」のみならず、「活用機能」でも、次回述べることになっている「制作・発表」にも使うことができます。

次回は、「(3) 制作・発表ツールとしての機能」です。

【筆者プロフィール】

富井篤(とみい・あつし)
技術翻訳者、技術翻訳指導者。株式会社 国際テクリンガ研究所代表取締役。会社経営の傍ら、英語教育および書籍執筆に専念。1934年横須賀生まれ。
主な著書に『技術英語 前置詞活用辞典』、『技術英語 数量表現辞典』、『技術英語 構文辞典』(以上三省堂)、『技術翻訳のテクニック』、『続 技術翻訳のテクニック』(以上丸善)、『科学技術和英大辞典』、『科学技術英和大辞典』、『科学技術英和表現辞典』(以上オーム社)など。


大規模英文データ収集・管理術 第13回

2011年 12月 5日 月曜日 筆者: 富井 篤

5 「トミイ方式」の機能と目的

今まで、「トミイ方式」の目的として

何を集め、どのように整理・分類しておくと、どのような目的に活用できるか

ということを、繰り返し、述べてきました。そして、その延長として

どのような目的に活用するためには、何を集め、どのように整理・分類しておくべきであるか

ということも述べてきました。

そこでここでは、まず最初に、「機能」、「効能」、および「分類」を表示し、「機能」と「目的」を理解していただきます。

tomii13table.png

上表の「分類」欄に、7つの分類項目が示されていますが、これは、すでに何回か触れてきました、「トミイ方式」の7つの大分類です。それぞれの意味は下記のとおりです。

ABC:

収集した英例文を、その中にある当該単語をアルファベット順に分類してあるデータベースです。

50音:

収集した英例文を、その中にある当該単語を日本語に訳し、その訳語を50音順に分類してあるデータベースです。

表現:

収集した英例文を、その中にある当該単語を日本語に訳し、その訳語をあらかじめ決めてある表現別に分類してあるデータベースです。

品詞:

収集した英例文を、その中にある当該単語を品詞別に分類してあるデータベースです。

構文:

収集した英例文を、その中にある当該単語を構文別に分類してあるデータベースです。

数量:

収集した英例文を、その中にある当該数と量に関する表現を、あらかじめ決めてある数量表現別に分類してあるデータベースです。

他:

収集した英例文を、その中にある当該項目が上の6つの大分類に属していない全ての英例文を「その他」に分類してあるデータベースです。

「分類」の中の各欄に○で表示した個所がありますが、これは、それぞれの「機能」・「効能」を発揮させるためには○印で表示されている「分類」の英文データを収集すればよいことを示しており、また逆に、○印で表示されている「分類」の英文データは、それぞれの「機能」・「効能」を発揮させるために活用されることを示しています。

上表を見ながら

(1) 活用ツールとしての機能
(2) 学習ツールとしての機能
(3) 制作・発表ツールとしての機能

の3つの機能を、3回にわたり順に説明していきます。今回は「(1) 活用ツールとしての機能」です。

(1) 活用ツールとしての機能

「トミイ方式」がもともと、英文を作成する時や和英翻訳をする時、なるべくネイティブの発想に近い英語が書けるようになるために彼らの書いた英文データを収集しているわけですから、この「活用機能」が「トミイ方式」のメインの機能になります。この機能には、これ以外にもありますが、主な機能としては、以下に示すいろいろな効能があります。

(a) 和英辞典、表現辞典、参考書としての活用法

いかなる大辞典といえども、それぞれの英単語に対してすべての「意味」や「訳語」が載せられているというものではありません。ましてや、中辞典や小辞典にいたっては、おって知るべしです。そのようなとき、日頃、「このような意味や訳語は自分の持っている辞書には載っていないだろうな」とか「仮に載っていたとしても、別の表現だろうな」というものを収集し、手作りの和英辞典を作っておくと、よい言葉の選択ができることがよくあります。

もちろん、収集をし始めたたばかりで、データが100個や200個程度では、そのような機能は十分には発揮できませんが、何年も継続して収集を続けていると、思わぬ機能を発揮してくれるのが、このデータベースです。

(b) 英和辞典の補助としての活用法

英文を書いている時や和文英訳している時など、わからない日本語に出くわした時、普通、まず和英辞典で言葉を調べます。しかし、出てきた英単語をそのまま使うのではなく、その英単語がその場所に適切であるかどうか英和辞典とか英英辞典で確認し、適切であると確認してから使用しなければいけないといわれています。このような用途にうってつけのデータベースになります。

こんな嘘のような本当の話があります。

これは、昔、東大の農学部の先生と食事している時に聞いた話ですが、ある研究論文の和英翻訳を翻訳会社に出したのだそうです。翻訳されて戻ってきた翻訳を見ると、最初から酷くお粗末であったそうです。やむなく、逐一チェックをしていったところ、politelyという言葉が出てきました。そこで、元の原稿を調べてみたところ、その個所は「~を丁寧に摘果しなさい」というものであったそうです。

翻訳者は、おそらく「丁寧に」という日本語を和英辞書で調べたのでしょうが、その和英辞書では、「丁寧に」という個所の最初に出てきた英語がpolitely であったに違いありません。それを、英和辞典とか英英辞典で確認しないまま使ってしまったためにこのような珍奇な翻訳になってしまったのです。「丁寧に」を和英辞書で引いた時、carefullyという単語が出てくるかどうかかわかりません、出て来たとしても、おそらく、最後のほうだろうと思います。きっと、最初の訳に飛びついてしまい、この場合の「丁寧に」をpolitelyにしてしまったのではないかと思います。この場合の「丁寧に」は、やはりpolitelyではなくcarefullyでしょう。

(c) 単語の用法の確認用として

英文を書いている時、よく、「この動詞は前置詞をとるんだったかな?」とか、「この言葉の反意語ってなんだったかな? 接頭辞はdeかな、disかな、inかな、nonかな、unかな」などと考えてしまうことがあります。

前者の場合を例にとると、動詞の contact は A contact B. だったかな? それとも A contact with B. だったかな? とか、動詞の influence は A influence B. だったかな? それとも A influence to B. だったかな? などと迷うことがあります。そのような時、例文をたくさん集めておくと、動詞の場合には A contact B. とか A influence B. が正しく、A contact with B. とか A influence to B. などのように動詞の後ろには取らないことがわかります。後ろに前置詞を取るのは contact や influence が名詞として使われている場合で、その場合には A is in contact with B. とか A has an influence to B. などのように後ろに前置詞を使います。

後者の場合(反意語の場合)を例に取ると、possible のように誰でも知っているような単語ならば、反意語を作る場合には接頭辞 im を付け impossible とすることはよくわかっています。しかし、例えば、symmetric となると反対語を作るには、接頭辞は dis だとか、non だとか、un などのように迷ってしまいます。しかし、正しくは、a を付けて asymmetric としなければなりません。この場合は、日頃、反意語に出会ったら片っ端から収集し、「その他」という大分類の中に「反意語」という「お座敷」を作ってその中に入れておくと、肯定語に対して反意語がすぐに探せるようになります。

さらに、同じ単語が inhuman と nonhuman, imbalance と unbalance のように2つの接頭辞を取るものもあります。文章単位で収集しておくと、その言葉の前後関係でそれぞれの意味や用法がわかります。

次回は「(2) 学習ツールとしての機能」です。

【筆者プロフィール】

富井篤(とみい・あつし)
技術翻訳者、技術翻訳指導者。株式会社 国際テクリンガ研究所代表取締役。会社経営の傍ら、英語教育および書籍執筆に専念。1934年横須賀生まれ。
主な著書に『技術英語 前置詞活用辞典』、『技術英語 数量表現辞典』、『技術英語 構文辞典』(以上三省堂)、『技術翻訳のテクニック』、『続 技術翻訳のテクニック』(以上丸善)、『科学技術和英大辞典』、『科学技術英和大辞典』、『科学技術英和表現辞典』(以上オーム社)など。


大規模英文データ収集・管理術 第12回

2011年 11月 21日 月曜日 筆者: 富井 篤

「トミイ方式」の変遷・3

(4) コンピュータ時代

このコンピュータ全盛の時代に、わが「トミイ方式」の中の「コンピュータ方式」の採用は、筆者自身がITに弱かったこともあり、比較的遅く、わずか10数年前です。現にいろいろな友人・知人から、「何故コンピュータを採用しないのか」、しつこく問われ続きました。しかし、いかにコンピュータが賢くても、「カード方式」のすべてにとって代われるものであるとは、コンピュータ音痴の筆者でさえも、どうしても思えなかったため、「コンピュータ方式」に切り換えることはできませんでした。そこで、全面切り替えではなく、小出しにしながら部分的に「コンピュータ方式」を採用していきました。

「トミイ方式」の外層だけしか見ることができなかった人は、そのほとんどが、「いまや、人間にできることでコンピュータにできないことは何もない」というスタンスで、「コンピュータ方式」への全面的な切り替えを迫ってきました。しかし、「トミイ方式」のすべてを隅から隅まで理解していた筆者にとっては、「トミイ方式」はそれほど単純ではなく、もっともっと奥の深いものであり、おそらく、「トミイ方式」の90%はコンピュータに取って代われるかもしれないが、取って代われないものが10%あり、その10%が「トミイ方式」の真髄であるという信念は、最後まで揺るぎのないものでした。

というわけで、「コンピュータ方式」への完全な切り替えというわけにはいかず、これまでも何回となく述べてきたように、「コンピュータ方式」の一部採用という程度になっています。

それでは、何が「コンピュータ方式」への完全な切り替えを阻んでいるかというと、そこにはいろいろな理由がありますが、大きな理由を1つだけ挙げるならば、それは「分類の煩雑さ」です。第10回(10月24日公開)で述べたように、「トミイ方式」を始めてから35年余り経過している現在では、「分類工程」はすでに終わっており、すべての英文データは「分類」だけで43,000個から45,000個あります。“「分類」だけ”と言ったのは、「トミイ方式」には、実は、その考え方として、「分類」と「順序」の2つがあり、「順序」までも入れると、数えることのできないくらいの数になります。これをコンピュータに担わせるということは、筆者自身の経験から考えると、ほとんど不可能に近く、どうしてもやろうとするならば、「カード方式」の手法をかなり取り入れなければならないことになります。

詳しいことは、後の「コンピュータ方式」による「英文データの収集と分類・収納」(II)のところで述べることにします。

したがって、現在では、「トミイ方式」は「カード方式」と「コンピュータ方式」の併用となっています。原稿が電子化されている場合には、迷うことなく「コンピュータ方式」で英文データを収集し、すでに「分類」が終わっている43,000個から45,000個の末端単位――これを、昔、使っていた言葉である「お座敷」と言っています――の中に収納しています。しかし、原稿が英字の雑誌や新聞、原書などの場合には、パソコンに打ち込んだり、OCRで電子化したりすることがリーズナブルである場合には、その作業をしてから「コンピュータ方式」で英文データを収集・収納していますが、その一連の作業がリーズナブルではない場合には、ほとんどの場合、いまだにカードに収納しています。

実は、これらの点が「コンピュータ方式」に移行するかどうかの大きな分かれ目になります。

したがって、「コンピュータ時代」と言ってはいますが、実際には「コンピュータ方式」が「カード方式」におぶさっている「カード+コンピュータ時代」といったところです。

いずれにしても、「カード方式」であれ、「コンピュータ方式」であれ、収集したデータは、必ず「使いたい時にはいつでも使えるように分類・収納されていること」、これが必須です。「収集はしたが、使おうと思っても出てこない」では、そのデータはないのも同然です。

余談になりますが、筆者は、この「カード方式」を採用するようになってからは、この方式を英文データの収集・整理のみではなく、日本語のデータ収集・整理にも使っています。

日本語の新聞、雑誌、書物などを読んでいる時、上記したような対象データを貪欲に収集しています。その対象となる読み物によって、いつでも出せるように分類・整理しているものもあり、単に収集しているだけのものもありますが、決して赤で傍線を引いたままのものはありません。

これで“4「トミイ方式」の変遷”を終わり、次回からは、「トミイ方式」の実体により近づいた“5「トミイ方式」の機能と目的”に入っていきます。

【筆者プロフィール】

富井篤(とみい・あつし)
技術翻訳者、技術翻訳指導者。株式会社 国際テクリンガ研究所代表取締役。会社経営の傍ら、英語教育および書籍執筆に専念。1934年横須賀生まれ。
主な著書に『技術英語 前置詞活用辞典』、『技術英語 数量表現辞典』、『技術英語 構文辞典』(以上三省堂)、『技術翻訳のテクニック』、『続 技術翻訳のテクニック』(以上丸善)、『科学技術和英大辞典』、『科学技術英和大辞典』、『科学技術英和表現辞典』(以上オーム社)など。


大規模英文データ収集・管理術 第11回

2011年 11月 7日 月曜日 筆者: 富井 篤

「トミイ方式」の変遷・2

(3) カード時代

「ノート時代」の数々の弊害から脱出し、次にたどり着いたのが「カード時代」です。この時代は、英文データを図書カード(タテ7.5cm、ヨコ12.5cm)に収集・整理していました。この時代は、今から約10年前に「コンピュータ方式」を採用するようになるまで約20年近く続きましたが、これこそが、まさに、「トミイ方式」の黄金時代でした。

最初は、市販の100枚綴り300円とか400円のカードを使っていましたが、その消費量がどんどん増えていきましたので、一度に10万枚単位で特注するようになりました。容れ物も、最初はお菓子やクッキーの箱に入れていましたが、数が増えるに従って容れ物を上下に積み重ねなければならなくなり、1個の中に1,500枚のカードを収納できる、1個7,000円のカードケースを購入し、その中にカードを収納するようになりました。今では、そのカードケースの数も220個になり、35万枚のカードを擁し、筆者の仕事場の中央に鎮座ましましています。

「カード方式」にたどり着いたとは言え、そこでもまた試行錯誤があり、最終的な姿に落ち着くまでには、以下のような変遷がありました。いずれの方式にしても、この「カード方式」が前回述べた「ノート方式」と決定的に違うところは、この「カード方式」は物理的な収納場所が必要になるということです。その収納場所というのが、上に述べたお菓子やクッキーの箱であったり、カードケースであったりするわけです。

(a) 複件一葉式
(b) 1件一葉式
(c) 複文一葉式
(d) 1節一葉式

それぞれの方式についての詳しい説明は後に譲りますが、ごく簡単に説明すると下記のとおりです。

(a) 複件一葉式

これは、「1枚のカードに複数の同種の英文データを記入する」というやり方です。前回述べた「ルーズリーフノート方式」の轍を踏まないように、末端単位の分類もかなり細かくして、1枚のカードには、なるべく同類のものを記入することに決めてスタートしました。しかし、記入した時は同種のデータだと思っていても、件数が増え、分類も細かくなっていくと、その中のあるデータは別のカードに移籍しなければならなくなってしました。例えば、「このカードには、前置詞 in を使った英文例を収納する」と決めて1枚のカードには in を使った英文例だけを記入して行ったのですが、それでも、やがてそのカードの中のデータを精査してみると、キーワードが in であることには変わりないのですが、意味や用法の違う in を使った英文例が混淆していることにぶつかってしまい、その中のデータをいくつかの別のカードに分けなければならない必要性にせまられることになります。
そこで、次の「1件一葉式」に切り替えざるをえませんでした。

(b) 1件一葉式

これは、「1枚のカードには絶対に1件の英文データしか記入しない」というやり方です。この方式だと、カードに空きスペースができ、もったいない気がしましたが、これに徹しました。この方式ですと、データの行き詰まりには直面しませんでしたが、暫く続けて行くと、対象収集項目が増えて行き、この側面から、また、新たな問題が発生してしまいました。それは、ある一つの文章の前後にある文章との連続性の途絶です。これには、以下に示すいくつかの理由があります。

○ 前の文章との関連性から
英文では、前の文章のある名詞を受け、いきなり It とか They 等で文章が始まることがよくあります。その時、その It や They が何を表しているかわからないと文章全体がうまく訳せないことがあります。そのため、1文だけで文章を収集しておくと、後々、その処理に困ることになります。これを回避するため、できる限り前の文章も一緒に収集しておいた方がよいことになります。

○ 前後の文章との関連性から
よく、英語は「同一文の中ではもちろんのこと、隣接した文の中でも、同じ言葉や言い回しを使うことは、筆者のインテリジェンスの低さを表す。したがって、できる限り、表現にはバライエティを富ませた方がよい」と言われています。「トミイ方式」では、この表現のバリエーションも収集対象になっていますので、この目的のためには、できる限り多くの前後の文章も一緒に収集しておいた方がよいことになります。

この「表現のバリエーション」にご興味をお持ちの方は、「技術英語構文辞典(富井篤著)」(三省堂)をご参照ください。「2.4 表現の変化と統一」(p.352からp.378まで)に詳しく書かれています。

○ 全体の文脈から
件(くだん)の言葉や言い回しが使われている文が、どのような文脈の中で、どのように使われているか理解するためにも、カードのスペースが許す限り、できるだけ多くの前後の文章も一緒に収集しておいた方がよいことになります。

このようないろいろな理由に促され、どうしても、複数の文を1枚のカードに収集する必要性に迫られてきます。そこで、行きついたのが、次に説明する「複文一葉式」です。

(c) 複文一葉式

これは、上にも述べたように、件の言葉や言い回しが使われている文に対し、その前後にある文章を、カードのスペースが許す限り、たくさん収集する方式です。そしてそれは、究極的には、「1つのパラグラフ全体を1枚のカードに収集する」ことにつながります。これを、仮に、「1節一葉式」と呼んだとしますと、この「1節一葉式」こそ、今から約15年前から、「コンピュータ時代」に入っている現在でも、脈々と流れている「カード方式」です。

(d) 1節一葉式

「カード時代」になり、「(c) 複文一葉式」に進化したころから、カードに手書きしていた時代から原稿をコピーし、それを巧みに処理する収集法が採られました。この「1節一葉式」は、プリンタによるコピーを抜きにしては、絶対にできない方式です。

ただ、この章は、「トミイ方式の変遷」について述べているところですので、この収集法については、後ほど、「カード方式」による「英文データの収集と分類・収納」(I) のところで詳しく述べることにします。

次回は、「(4) コンピュータ時代」です。

【筆者プロフィール】

富井篤(とみい・あつし)
技術翻訳者、技術翻訳指導者。株式会社 国際テクリンガ研究所代表取締役。会社経営の傍ら、英語教育および書籍執筆に専念。1934年横須賀生まれ。
主な著書に『技術英語 前置詞活用辞典』、『技術英語 数量表現辞典』、『技術英語 構文辞典』(以上三省堂)、『技術翻訳のテクニック』、『続 技術翻訳のテクニック』(以上丸善)、『科学技術和英大辞典』、『科学技術英和大辞典』、『科学技術英和表現辞典』(以上オーム社)など。


‘That’s enough.’―『英語談話表現辞典』覚え書き(58)―

2011年 10月 27日 木曜日 筆者: 内田 聖二

今回は‘That’s enough.’あるいは‘That is enough.’という表現を考えてみたいと思います。

enough は数量的に十分な数、量を表しますが、一方で「必要なだけの数量」であることを表す意味もあります。たとえば、COBUILD英英辞典では次のように説明しています。

Enough means as much as you need or as much as is necessary.

‘as much as necessary’の意は enough に一般的に当てられる日本語「十分な」では表現しにくい意味です。

以上のふたつの意味は本辞典に記述してある語義1に相当します。

1 ちょうどよい, 十分だ:“How much salt should I add to this soup? This much?” “That’s enough.” 「スープに塩はどのくらい入れたらよいかしら. このくらい?」「そのくらいね」/ I finally found the right man and got married. That’s enough! Money can’t buy love. やっと自分にふさわしい人と出会って結婚したのよ. これぐらいでいいの. お金で愛は買えないし.

第1例は具体的な数量の例ですが、第2例はいわば比喩的な言い方になっています。さらに、相手がそのときしている行動に対して「十分である」と言えば、その行動を阻止する意味となります。

2 〈相手の行動を制止して〉やめなさい, もういいかげんにしなさい:“Look. I can jump from here. This wall is much higher than that.” “That’s enough! You are going to hurt yourself this time.” 「見て. ここから飛び降りることができるよ. あっちのよりこの塀の方がずっと高いし」「やめなさい. 今度は怪我をするわよ」 / That’s enough now, children. Put your toys away and go to bed. さあ, もういいかげんにしなさい. おもちゃを片づけて寝なさい.

次の語義3もその延長線上で、それ以上の発言を制止する言い方です。

3 〈相手の不愉快な発言に対して〉もうたくさんだ, やめてくれ:“I could go on with complaint after complaint. I could grumble all week.” “That’s enough!” 「文句だったらいくらだって言ってあげるわよ. 1週間だって大丈夫だわ」「もうたくさんだ. やめてくれ」.

語義2,3では enough の基本義のひとつ、「必要な数量」というポジティブな意味が消え、ネガティブな言動を止めるところに主眼が置かれています。

ちなみに、‘This is enough.’という言い方もみられ、三省堂コーパスに次のような例がありました。

‘How long do you want to stay president?’ ‘I will continue to be the president until the moment they will say to me “This is enough.”’「いつまで大統領の座にいたいと思われますか」「国民に「もう十分やった」と言われるまでは大統領でいたいと思います」

ここで、‘That is enough.’と言うと失政など悪いことが続いたあとで「もうたくさん」といったやや突き放した言い方になるでしょうが、‘This is enough.’ではそのようなニュアンスはなく、「十分責務を果たした」といった意味合いが出てくると思います。大統領自らの発言であることに注意しましょう。

* * *

今回をもちまして「『英語談話表現辞典』覚え書き」を終わらせていただきます。‘That’s enough.’と言われないうちに退きたいと思います。長い間ご愛読いただき、ありがとうございました。

【筆者プロフィール】

内田聖二(うちだ・せいじ)
奈良女子大学教授
専門は英語学、言語学(語用論)
主な業績:『英語基本動詞辞典』(1980年)研究社(小西友七編、分担執筆及び校閲)
『英語基本形容詞・副詞辞典』(1989年)研究社(小西友七編、分担執筆及び校閲)
『英語基礎語彙の文法』(1993年)英宝社(衣笠忠司、赤野一郎と共編著)
『関連性理論―伝達と認知―』(初版1993年、第2版1999年)研究社(共訳)
『小学館ランダムハウス英和大辞典』(第2版1994年)小学館(小西友七・安井稔・國廣哲弥・堀内克明編、分担執筆)
Relevance Theory: Applications and Implications, 1998, John Benjamins.(Robyn Carstonと共編著)
『英語基本名詞辞典』(2001年)研究社(小西友七編、分担執筆及び校閲)
『ユースプログレッシブ英和辞典』(2004年)小学館(八木克正編集主幹、編集委員)
『新英語学概論』(2006年)英宝社(八木克正編、共著)
『思考と発話』(2007年)研究社(共訳)
『子どもとことばの出会い』(2008年)研究社(監訳)
『語用論の射程』(2011年)研究社

【編集部から】

語用論的な情報をふんだんに盛り込んだ、日本発の本格的な発信型会話・談話表現辞典、『英語談話表現辞典』について、編者の内田聖二先生にご紹介いただきます。
書籍購入者は、http://dce.dual-d.netにて本辞典の全データを収録したウェブ版辞典を無料でお使いいただけます。


大規模英文データ収集・管理術 第10回

2011年 10月 24日 月曜日 筆者: 富井 篤

「トミイ方式」の変遷

ここでは35年近く前に産声をあげた「トミイ方式」が今日まで、どのような形の変遷をしてきたかについて、下に示す4つの時代に分けて述べます。

(1) 赤線時代
(2) ノート時代
(3) カード時代
(4) コンピュータ時代

今回は、“(1) 赤線時代”と“(2) ノート時代”について説明します。

(1) 赤線時代

「赤線時代」というと、一瞬、懐かしい、妙な響きがありますが、その「赤線時代」とは違います。データ収集方法の1つとして、「欲しいデータに赤い傍線を引く」というやり方をしていた、そのような時代のことです。

だれでも、日本語とか外国語とかに関係なく、物を読んでいて何かハッとするようなところに来ると、そこに赤色の傍線を引きます。

筆者が赤線を引くのは、英語に関しては、今まで述べてきたように7つの大分類に属するデータということになりますが、日本語に関しては、自分の知らなかった情報や、数値的なデータ、格言や諺、真似のできない妙なる表現、表現のバリエーション、蘊蓄のある考え方といったものに赤い傍線を引きます。人によって興味や関心の向く対象はそれぞれ異なりますが、ほとんどの人が実践していることと同じです。

しかし、赤線を引くだけでは、やがてその読み物はどこかへ消えてしまうでしょうし、消えなくとも、何の本の何ページにあったか思いだすには時間がかかったり、思い出せなかったりするものです。これでは、実は、赤い傍線を引いても、単に気休めになるというか安心感が得られるだけで、何の意味もありません。

このようなことをしている時代を、筆者の「トミイ方式」の変遷の中では、「赤線時代」と称しているわけです。しかし、それでは、時間が経つに従って、せっかく収集した――実は収集したわけではなく、収集したと思いこんでいるだけなのですが――データも散逸してしまいます。そこで、考え出したのが、収集したデータをノートに記録することです。

(2) ノート時代

収集した英文データをノートに書き取っていた時代です。データに赤線を引いておくだけではなく、なんとか記録にとどめておきたいという思いで始めたのが大学ノートに書き留めておく方法です。

最初は大学ノートに書き込んでいましたが、いろいろな理由から、すぐにルーズリーフノートに切り替えました。

(a) 大学ノートに

最初のしばらくは、データの量も少なかったこともあり、ただやみくもに、日付を付けて集まった順に、備忘録程度の気持ちで書き込んでいました。

しかし、それではすぐに行き詰ってしまい、1冊の大学ノートを数ページずつのグループに分け、最初からある程度の分類、例えば、商業文の英文例、技術的内容の英文例、各種表現の英文例、各種品詞の参考例文、コロンやセミコロンやハイフンなどの使用例、契約書や特許文などの英文例などなどに分類しながら記録できるように変えてみました。しかし、最初はこの程度に分類しただけでかなりの改善がなされたはずであると思って始めてみても、いざ実際に収集が進んでいくと、これも、すぐに行き詰まりを起こしてしまいました。

(b) ルーズリーフノートに

そこで、次に考え出したのが、ルーズリーフノートを使用する方法です。ルーズリーフノートならば、最初から考えられうるたくさんの分類をしておきさえすれば、新たな分類を加えるにしても、さらに分割するにしても、場所を移動させるにしても、簡単にできると考えたわけです。しかし、これも収集がさらに進むに従い、あっという間に行き詰まりをきたしてしました。

筆者は、数年前、ある必要から、全ての英文データを、仮に「トミイ方式」で分類した場合、その末端単位はいくつくらいあるか調査したことがあります。すると、43,000個から45,000個ありました。

このようにたくさんある分類単位を、たとえルーズリーフノートといえども、最後まで行き詰まりを起こすことなく機能を発揮できるはずなどありません。

そこで、次に考え付いたのが、図書カードを使った「カード方式」です。これについては次回述べますが、この「カード方式」にもいくつかの行き詰まりがあり、いろいろ試行錯誤しましたが、10年ほど前「コンピュータ方式」を採用するまで、実に20数年使ってきた、まさに「トミイ方式」の根幹を貫いてきた柱です。今になって考えてみますと、「赤線時代」はもちろんのこと、「ノート時代」などは有史前のことであり、この「カード時代」の到来こそが「トミイ方式」の歴史の始まりであったように思います。

今、上で、“「コンピュータ方式」を採用”と書き、あえて“「コンピュータ方式」への切り替え”とは書きませんでした。それにはわけがありまして、実は「コンピュータ方式」を採用した後も、「カード方式」の良さは「コンピュータ方式」にはないものがあり、筆者は今だに「カード方式」を使っているからです。その理由は、「第12回 (4) コンピュータ時代」で詳しく述べますが、簡単に言いますと、「コンピュータ方式」には、英文データそのものに、種類の制約、即応性の限界、「トミイ方式」の理解度などなど、いくつもの課題があるということです。

次は、第11回「(3) カード時代」です。

【筆者プロフィール】

富井篤(とみい・あつし)
技術翻訳者、技術翻訳指導者。株式会社 国際テクリンガ研究所代表取締役。会社経営の傍ら、英語教育および書籍執筆に専念。1934年横須賀生まれ。
主な著書に『技術英語 前置詞活用辞典』、『技術英語 数量表現辞典』、『技術英語 構文辞典』(以上三省堂)、『技術翻訳のテクニック』、『続 技術翻訳のテクニック』(以上丸善)、『科学技術和英大辞典』、『科学技術英和大辞典』、『科学技術英和表現辞典』(以上オーム社)など。


‘Hang [Hold] on.’―『英語談話表現辞典』覚え書き(57)―

2011年 10月 13日 木曜日 筆者: 内田 聖二

前回は‘Wait a moment.’を中心に「ちょっと待ってください」という意の言い方を考えてみました。この表現は文字通り「待ってくれ」という直接的に要請するものですが、次のように、電話口で待機を要請する表現としても用いられます。本辞典からの引用です。

5 〈電話で〉ちょっと待ってください:“I want to speak to the manager, please.” “Wait a moment, please. He isn’t here now, and I’m afraid he is at the meeting.” 「部長さんとお話がしたいのですが」「少々お待ちください. ただ今席をはずしておりますので, 会議中ではないかと思います」.

電話口での同じような意味は hold を使って表すこともできます。基本的な表現は‘hold the line’という言い方です。次は三省堂コーパスからの用例を改変したものです。

‘Hello, is Harry Bild there?’ ‘I’ll see if he’s in the office. Who’s calling?’ ‘George, George Jobs.’ ‘Hold the line, please.’ 「もしもし、ハリー・ビルドさんはおられますか」「在室かどうか確認してみます。どちら様でしょうか」「ジョージ、ジョージ・ジョブズです」「お待ちください」

‘the line’を省略した‘hold on’のほうがよく使われます。同じく三省堂コーパスからのものです。

(電話している母に)‘I’m going out for a few hours.’ (電話の相手に)‘Hold on a minute.’ (出かけようとしている息子に) ‘Where you going?’「しばらく出かけてくるよ」「ちょっと待ってね」「どこへ行くの?」

この電話口での言い方には‘hang on’という表現のほうも頻繁に用いられます。これは電話を受話器に置かないように要請する‘hang on the line’という言い回しからきています。本辞典からの引用です。

1 〈電話で〉切らずにそのまま待つ(◆しばしば命令文で):“Hello.” “Hello. Is Linda there?” “Hang on a second.” 「もしもし」「もしもし. リンダさんはおられますか?」「ちょっとお待ちください」 《サリーへの電話を取り次いで》 Sally is on the other phone. Would you like to hang on? サリーは別の電話に出ています. このままお待ちになりますか?

この hang on はほかにもいろいろな意味で広く用いられます。以下も本辞典からのものです。

2 待ってくれ(◆命令文で):Hang on! I’ll be with you in a minute! ちょっと待ってよ! すぐ行くから.

3 〈相手の言い方に抗議して〉ちょっと待ってよ, その言い方はないでしょう(◆命令文で):Hang on, who are you calling a liar? ちょっと, 誰をうそつき呼ばわりしてるのよ.

4 〈話題を転換して〉あれ, おやちょっと(◆命令文で):Good morning, Mr. Jones. Hang on, you’ve got something on your shirt. おはようございます, ジョーンズさん. あれ, シャツに何かついてますよ.

いずれも hold on で言い換え可能ですが、三省堂コーパスで‘Hang on a minute.’と‘Hold on a minute.’の頻度を比較してみますと、前者のほうがやや頻度が高いという結果が出ました。また、イギリス英語とアメリカ英語という観点からみますと、‘Hang on a minute.’ではほぼ互角ですが、‘Hold on a minute.’ではアメリカ英語のほうで頻度が高いようです。

【筆者プロフィール】

内田聖二(うちだ・せいじ)
奈良女子大学教授
専門は英語学、言語学(語用論)
主な業績:『英語基本動詞辞典』(1980年)研究社(小西友七編、分担執筆及び校閲)
『英語基本形容詞・副詞辞典』(1989年)研究社(小西友七編、分担執筆及び校閲)
『英語基礎語彙の文法』(1993年)英宝社(衣笠忠司、赤野一郎と共編著)
『関連性理論―伝達と認知―』(初版1993年、第2版1999年)研究社(共訳)
『小学館ランダムハウス英和大辞典』(第2版1994年)小学館(小西友七・安井稔・國廣哲弥・堀内克明編、分担執筆)
Relevance Theory: Applications and Implications, 1998, John Benjamins.(Robyn Carstonと共編著)
『英語基本名詞辞典』(2001年)研究社(小西友七編、分担執筆及び校閲)
『ユースプログレッシブ英和辞典』(2004年)小学館(八木克正編集主幹、編集委員)
『新英語学概論』(2006年)英宝社(八木克正編、共著)
『思考と発話』(2007年)研究社(共訳)
『子どもとことばの出会い』(2008年)研究社(監訳)
『語用論の射程』(2011年)研究社

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大規模英文データ収集・管理術 第9回

2011年 10月 10日 月曜日 筆者: 富井 篤

「トミイ方式」のきっかけ

今回は、もう、かれこれ40年近く前になりますが、「トミイ方式」との、そもそもの縁(えにし)についていろいろ思い出しながら述べてみたいと思います。それにより、読者の中には、「実は今、自分もそのような状況にいるんだ。それならば、自分にも合っている方法かもしれないぞ」と合点する人がいるかもしれません。その人たちの中で、一人でも「トミイ方式」をお始めくださる方がいらっしゃったらこれに勝る喜びはありません。

もちろん、最初から「トミイ方式」というものが実在していたわけではありません。必要に迫られていろいろなことを試行しているうちに「トミイ方式」というものが形作られてきたわけで、現に、「トミイ方式」というものを私自身が意識し始めたのは、スタートしてから10年近く経過してからのことです。

40年ほど前は、筆者はまだ商社に勤務していました。そこでは、毎日毎日おびただしい量の英文の手紙が送られてきました。まだe-mailなどがない時ですから、海外からの情報は、テレックスといって、会社間の電報のようなものもありましたが、そのほとんどは手紙という形でした。毎日それらの手紙を見ているうちに、彼らの書く英語と私たち日本人の書く英語との間に、わずかともいえない、埋めることのできない溝があることに気がつきました。この溝は、結局は物事の発想の違いからくるもので、私たちがいくら辞書や文法書や参考書で勉強しても永遠に埋めることのできないものであるように思われてなりませんでした。

余談になってしまいますが、今になって考えると、事件ともいえる、その象徴的な出来事が、第3回にも紹介しました、アメリカのあるバルブメーカーの輸出部の責任者から来た手紙との遭遇でした。

Present schedule will bring me to Tokyo on February 27.

という内容は、別にむずかしくも何ともない、ただ

現在の予定では、私は2月27日に東京に行くことになっています

というだけのことです。ところが私は

現在のスケジュールは、私を2月27日に東京に連れて行く

という発想、すなわち、日本語では、「人間を東京に連れて行く」という行為の主語には絶対になりえない「現在のスケジュール」を主語にしている発想に度肝を抜かしてしまったのです。この種の構文は、「物主構文」などとして取り上げている文法書もあり、特に珍しいものではありません。その文法書に載っている例文も、あくまでも文法書の中でしか存在しないような例文ではありましたが、それまでに何回となく目にはしていましたので、別に驚くほどのものではありませんでしたが、実際に仕事の中で遭遇してみると、それは驚きでした。早速その手紙を、周辺の同僚たちに示したのですが、誰一人感動するものはなく「責任者が2月27日に東京に着く」という事実の認識だけに終わってしまいました。

この構文は、後に筆者がのめり込むようになる「無生物主語構文」の一種ですが、この時この「無生物主語構文」に目を開いたことが、さらにそれから数年後に「トミイ方式」の「きっかけ」になったことは言うまでもありません。実は筆者は、この文章は、その後何回も使ったことがあります。

さて、話を元に戻します。彼我の発想の違いからくる英語の違いを克服しなければならないわけですが、それには、「私たちはいくら辞書や文法書や参考書で勉強してもこの違いは永遠に埋めることはできない。これからは彼らの書いた英文を片っ端から集め、それを使いやすいような形に整理しておいて、いざ英文を書くときに必要なものを取り出して来て書く方が手っ取り早く、かつ、彼らの発想に近い英文が書けるはずである」という、半ば敗北宣言に近い「諦めの気持ち」に落ち着いてしまったわけです。すなわち、前にも書きましたが、われわれ日本人にとっては、所詮「英作文は英借文に過ぎない」という達観というべきか、諦観というべきか、そのような境地に落ち着いてしまいました。

最初のうちは、収集したデータの中から典型的な語句や文章などをピックアップし、利用しやすいテーマごとに分類して、主にセンテンス単位で大学ノートにメモ程度に書き写していました。したがって、収集したデータは、そのほとんどが、自分には発想できない言い回し、以前に自分で英文を書いていて困ったことのある語句や表現や文章構造、和英辞書には載っていないような英単語や表現の妙な使い方などばかりでした。ということは、収集の対象になっていたデータは、すべて、英語を書く時、既成の和英辞書には載っていないようなものばかりでした。

しかし、月日が経つにつれ、徐々に筆者の関心事の幅が広くなり、深さも増していき、おのずと収集するデータの範囲も広がっていきました。アルファベット順に分類・収納しておいた方が後々利用価値があると思える英単語、例えばprovide,cause,allow,permitなどの因果動詞などを「アルファベット順」という分類の中に、増加・減少、変化・変動、原因・結果・理由・目的、異・同・類似、順序・順番・種類、性質・特性・特徴・特長・彫塑・短所、などの「表現別」、冠詞、前置詞、動詞、助動詞などの「品詞別」、無生物主語構文、否定構文、比例・比較構文、否定構文、強調構文、倒置構文、省略構文などの「構文別」、数と量に関する表現、以上・以下・超え・未満、単位、概略などの「数量表現別」、それに、上記の中に入らないその他すべてを「その他」などに分類していったのです。データの数も徐々に増え、その数は、2011年7月の時点で、およそ350,000点に上っています。

以上、「きっかけ」から始まり、その「質」「量」とも年月の経過に伴い、充実し、現在に至っています。

前回の繰り返しになりますが、これらのDBを使い、「活用機能」、「学習機能」にもっぱら使っており、最近の20年ほどは、3つ目の機能である「発表・制作機能」を謳歌?して、もっぱら著作業に専念しています。

【筆者プロフィール】

富井篤(とみい・あつし)
技術翻訳者、技術翻訳指導者。株式会社 国際テクリンガ研究所代表取締役。会社経営の傍ら、英語教育および書籍執筆に専念。1934年横須賀生まれ。
主な著書に『技術英語 前置詞活用辞典』、『技術英語 数量表現辞典』、『技術英語 構文辞典』(以上三省堂)、『技術翻訳のテクニック』、『続 技術翻訳のテクニック』(以上丸善)、『科学技術和英大辞典』、『科学技術英和大辞典』、『科学技術英和表現辞典』(以上オーム社)など。


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