‘Wait a moment.’―『英語談話表現辞典』覚え書き(56)―

2011年 9月 29日 木曜日 筆者: 内田 聖二

前回は‘Let me see.’を取り上げましたが、今回は類似表現の‘Wait [Just] a moment [minute / second].’を考えてみます。

‘Wait a moment.’の表現の基本は文字通り相手になんらかの行動を止めさせたり、待たせたりすることにあります。本辞典であげた語義1がそれに相当します。

1 〈相手のしようとする行動を止めて〉ちょっと待って:“I’m going to open this bottle now.” “Wait a second. I’ll get a glass first in case it froths over.” 「じゃ, このびんを開けるよ」「ちょっと待って. 泡があふれ出るといけないから先にグラスを持ってくるよ」/ “I’ll go now.” “Wait a moment. You’re leaving your lunch behind, aren’t you?” 「行ってきます」「ちょっと待って! お弁当忘れていない?」.

この語義1から相手の話や議論を中断させる語義2の用法へと発展しています。

2 〈抗議して〉おいおい待てよ:“The taxi driver wants 23.50.” “Wait a moment! He said he would only charge us 20 for the trip!” 「タクシー代は23ドル50だって」「おいおい待てよ. 20ドルしかかからないって運転手は言ってたじゃないか」.

実際の行動、話などの中断から、さらに、思考の中断まで求めるのに用いられます。次の語義3と4がそれに当たります。

3 〈思い出そうとして〉えーっと:“Look at that yacht over there. It’s beautiful, isn’t it?” “Wait a minute, isn’t that the Golden Angel?” 「あのヨットを見てごらん. きれいだね」「えーと, あれはゴールデンエンジェル号じゃなかったっけ?」.

4 〈何かおかしいことに気づいて〉ちょっと待ってください:“Just a minute.” “What’s the matter?” “I dropped my car keys.” 「あれ, ちょっと待って」「どうしたの?」「車のキーを落としたみたい」/《目的地に向かって歩いているときに》 “Just a minute.” “Why?” “I think we’re walking in the wrong direction. Let’s look at the map.” 「ちょっと待って」「どうしたの?」「道を間違っていると思うわ. 地図を見てみましょうよ」.

‘Wait [Just] a moment [minute / second].’と‘Let me see’は意味は似ていますが、後者は「見させてほしい」「考えさせてほしい」といったように自分の希望を相手に要請することが中核的意味で、このふたつの表現を並列して使うことも可能です。次は三省堂コーパスからの例です。

‘The third isn’t good for me. What about the day after that?’ ‘The fourth?’ ‘Yes, Wednesday, the fourth.’ ‘Hmm . . . let me see. Just a moment, please. Uh . . . yes, that’s all right for me.’「3日は都合が悪い。その次の日はどうかな」「4日?」「そう、4日の水曜日」「えーと、予定をみてみるので、ちょっと待って。うん、大丈夫です」

なお、‘Wait a moment [minute / second].’の形で三省堂コーパスの「口語」で文頭にくるものを検索しますと、minute の頻度が一番高く、次いで second,moment となっています(BNCコーパスではminute, moment, secondの順)。また、minute は米語での割合も高いのですが、second に至っては米語107例、英語2例と米語が圧倒的です。一方、動詞が省略された、‘Just a moment [minute / second].’では、moment と minute の頻度が拮抗しています。また、second の頻度はその半分ほどになっています。

【筆者プロフィール】

内田聖二(うちだ・せいじ)
奈良女子大学教授
専門は英語学、言語学(語用論)
主な業績:『英語基本動詞辞典』(1980年)研究社(小西友七編、分担執筆及び校閲)
『英語基本形容詞・副詞辞典』(1989年)研究社(小西友七編、分担執筆及び校閲)
『英語基礎語彙の文法』(1993年)英宝社(衣笠忠司、赤野一郎と共編著)
『関連性理論―伝達と認知―』(初版1993年、第2版1999年)研究社(共訳)
『小学館ランダムハウス英和大辞典』(第2版1994年)小学館(小西友七・安井稔・國廣哲弥・堀内克明編、分担執筆)
Relevance Theory: Applications and Implications, 1998, John Benjamins.(Robyn Carstonと共編著)
『英語基本名詞辞典』(2001年)研究社(小西友七編、分担執筆及び校閲)
『ユースプログレッシブ英和辞典』(2004年)小学館(八木克正編集主幹、編集委員)
『新英語学概論』(2006年)英宝社(八木克正編、共著)
『思考と発話』(2007年)研究社(共訳)
『子どもとことばの出会い』(2008年)研究社(監訳)
『語用論の射程』(2011年)研究社

【編集部から】

語用論的な情報をふんだんに盛り込んだ、日本発の本格的な発信型会話・談話表現辞典、『英語談話表現辞典』について、編者の内田聖二先生にご紹介いただきます。
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大規模英文データ収集・管理術 第8回

2011年 9月 26日 月曜日 筆者: 富井 篤

「トミイ方式」とは (3)

(3) データベースのツールとしての「トミイ方式」

前回(第7回)、英文データの収集方法として、大きく分けて次の3つがあることを説明しました。

1) 辞書添記方法
2) カード使用方法
3) パソコン活用方法

データベース(以下、DBと略称します)のツールとして使用できるデータは、まだここでは取り上げていませんが、「3) パソコン活用方法」で収集したデータだけです。

昨今では、英文データとして入ってくる情報はほとんどが電子化されたものですので、コンピュータに取り込むのは、比較的容易です。しかし、電子化されているデータだからといって、そのままDBのツールとして活用できるわけではありません。大分類、中分類、小分類など、できる限り細かく分類されてコンピュータの中に収納されていなければなりません。「分類」について取り上げるのは、この連載の第16回あたりになりますので、ここでは、「データベースのツールとしての分類」という切り口で述べて行きます。

データや情報が、すべて「カード」に記載ないしはコピーされていて、そのカードが分類されてカードケースに収納されている場合は、前回(第7回)、「影響」を例にとって説明しましたように、分類作業は、極めて楽です。しかし、コンピュータの中に収納されている場合には、全データの分類が先に終わっていて、ちょうど化学記号表のようにデータの「分類表」が作られている場合には、毎日毎日集まって来るデータを、その決められた場所――これを、これからは「お座敷」と呼ぶことにします――に流し込んでいけばよいわけですが、肝心のデータが十分な数だけ収集できていないうちに、先に「分類表」を作成するということは不可能であり、やはり、大量のデータを収集して初めて「分類」が可能になるわけです。

例えば、このような場合を想像してみてください。

大分類が「表現別」、中分類が「影響」までは分類してあって、その「影響」の中に、「影響」という英単語が内包されている文章が100点、言葉は汚いですが、味噌もくそも一緒に入っていたとします。そして今、その100の文章に「全員集合」(検索)をかけたとします。そうすると、100の文章が、PCの画面上に後から後からランダムに出てきて表示されるわけです。そのような状態で、一体どのように分類作業ができるでしょうか? 後から後から出てくる文章を瞬間的に記憶し、前方にあった類似した文章のそばに移動させたり、後ろへ移動させたり、気の遠くなるような分類作業を繰り返していかなければなりません。

それでも、今、例に取り上げた、大分類が「表現別」、中分類が「影響」の分類くらいならば、まだ、やってできないことはありません。ところが、大分類が「アルファベット順」、中分類が provide のような厄介な英単語だとしたらどうでしょうか? 翻訳を手がけるほとんどすべての人がご存じのように、この provide にはいろいろな「意味」や「用法」があり、したがって、その「訳語」となると、極端な言い方をすると、“文章の数ほど「訳語」がある”と言っても決して過言ではないほど始末の悪い言葉です。

provide という単語はそのような言葉ですので、私は、若干誇張して言うと、出くわすたびに集めています。そのため、provideという言葉を使っている文章の数は1,300以上あります。このような言葉を、PCの画面上で、記憶に頼っての分類など、不可能に近いことです。

しかし、その作業を容易にするための良い方法が2つあります。

そのうちの1つは、上に述べた「影響」を例にとって述べると、その100の文章をプリントアウトし、具象化することです。そして、その100の文章を1つずつカットして短冊状にし、それを分類していくわけです。ということは、なんてことはありません。分類の手法そのものは、「 2) カード使用方法」と何ら変わるものではありません。しかし、それでは、「 3) パソコン活用方法」ではなく「 2) カード使用方法」になってしまいますので、なんとか、歯を食いしばってでも「 3) パソコン活用方法」にしがみつかなければなりません。

そこで、もう1つの方法です。これは、邪道といえば邪道かもしれませんが、私がすでに作っている「トミイ式分類表」を使うことです。時間と労力を節約するのは、決して悪いことではありません。来年の1月ごろから掲載する“6「分類」の構成”という節で取り上げます。それまでお待ちいただく間は、読者の皆さんは、皆さんなりの方法でデータを収集し、分類・収納する方法を確立していただきたいと思います。

最後に、DBをどのようにして構築するかについては後に譲るとして、仮に出来上がったDBはどのように活用されるかについて、簡単に述べておきます。

この連載の第1回に、「トミイ方式」の大きな機能のうちの1つに

どのようなものを収集し、それをどのように分類・収納しておくと、どのような目的に使うことができる

ということがあることを述べました。収集・分類したDBの用途はたくさんあります。詳細は、今年の12月ごろ、“5「トミイ方式」の機能と目的”で説明しますが、ここに簡単に述べますと、次のことが考えられます。

  1. 手作りの辞書が作成、英文作成や和文英訳の際の強力な補助ツール作成
  2. 収集・分類の結果としてできたDBで技術英語・技術翻訳の独習
  3. 機関紙や雑誌への投稿、講演活動、翻訳関連国際会議でのプレゼンテーション活動
  4. 著作活動や語学教育における指導

やや手前味噌になるかもしれませんが、これらは、すべて筆者が実際にDBを活用してきた例ばかりです。ただ、これらは、すべて、十分な「質」と「量」に裏打ちされたDBでなければなりません、換言すると、かなり長期間にわたって収集活動を続けなければなりません。そうすると、お歳を召されている方には不向きかもしれません。しかし、若干、不謹慎であるかもしれませんが、現実に私の周辺にはそのような方々が多くいらっしゃいますので、あえて、もう一つ挙げさせていただくと

  1. 老化防止対策と道楽のすすめ

があります。

次回は“3「トミイ方式」のきっかけ”です。

【筆者プロフィール】

富井篤(とみい・あつし)
技術翻訳者、技術翻訳指導者。株式会社 国際テクリンガ研究所代表取締役。会社経営の傍ら、英語教育および書籍執筆に専念。1934年横須賀生まれ。
主な著書に『技術英語 前置詞活用辞典』、『技術英語 数量表現辞典』、『技術英語 構文辞典』(以上三省堂)、『技術翻訳のテクニック』、『続 技術翻訳のテクニック』(以上丸善)、『科学技術和英大辞典』、『科学技術英和大辞典』、『科学技術英和表現辞典』(以上オーム社)など。


‘Let me see’―『英語談話表現辞典』覚え書き(55)―

2011年 9月 15日 木曜日 筆者: 内田 聖二

今回は‘Let me see’にかかわる表現を考えてみたいと思います。

この表現は忘れていたことを思い出そうとするときや次に言うことばを考えるときに時間をかせぐために前もって断りを入れておく言い方です。ちょっとした間であれば、たとえば、well を挿入することですみますが、この‘let me see’は考える時間がかなり必要であることを示唆する言い方です。本辞典から引用します。

1 〈忘れていたことを思い出そうとして〉えーっと:Let me see, where did I put the car keys? えーっと, 車の鍵はどこに置いたかなあ.

2 〈質問に対する正確な答えを探して〉えーっと, ちょっと待ってください:“How long have you been living together?” “Let me see, it’s about four years now.” 「何年ご一緒に住んでおられますか」「えーっと, そうですね, 4年ほどになりますか」.

3 〈人の注意を引きつけて〉さあ, それでは見てみましょう, 確かめましょう:《手品やまじないなどの前に》 Let me see what the tea leaves say about you. . . . There’s a trick my grandmother taught me. さあ, お茶の葉っぱのお告げを見てみましょう. 私の祖母が教えてくれた占いです.

語義1は記憶をたどろうとして話している途中に‘let me see’が挿入されています。次も類例で三省堂コーパスからのものです。

‘Tell me about depression. How did it come on? When was this?’ ‘ Well, it was while I was still doing pretty good. It was about ―― let me see ―― I’ve been out of it 4 1/2 years and it was eight years so we’re talking 12 years approximately.’「うつ病のことについて知りたいのですが、どのように病状が出てきたのですか。いつごろだったのですか」「そうですね、まだとてもうまくいっていたときでした。およそ、そうですね、回復して4年半、その前が8年ですから都合12年前ということになるでしょうか」

すぐには答えが出ないために‘let me see’の登場となっています。上の語義2でもまさに頭の中で計算していることが暗示されています。次も類例です。

‘How did you get into show biz?’ ‘Oh, let me see. . . I started when I was 6 years old, doing my first play in elementary school.’「ショービジネスの世界に入ったのはどのような経緯なのでしょうか」「そうですね、6歳のとき小学校で劇をしたのが最初でしょうか」

また、語義3は see の視覚に関する基本義から出てくる用法で、ここでは see の目的語が続いていますが、実際には‘let me see’だけでもよく生起します。用例数としてはこの用法が一番多いように思います。次も三省堂コーパスから改変した用例です。

‘Galen, let me see.’ He held her head and looked closely for bruises on her face. ‘What happened?’「ゲイレン、見せてごらん」と彼は彼女の顔に手をそえて傷を注意深くみた。「どうしたんだい」/‘Could you give me the address of that person you mentioned last week? You know, the woman who’s got that office in Manila.’ ‘Ah, you mean Maria Edwardes. Now let me see. Umm. I don’t know her address offhand.’「先週話してた人物の住所、わからないかな、あのマニラに事務所をもっている女性なんだけど」「ああ、マリア・エドワルデスのことね。えーと、ちょっと待って。うーん、すぐにはわからないわ」

最初の例は実際に目で確認しており、第2例は調べてみた結果その場では住所がわからないことが判明したことを表しています。これらはいわば直接知覚からの情報ですが、語義1と語義2では心の中を間接知覚していると考えることもできるかと思います。

【筆者プロフィール】

内田聖二(うちだ・せいじ)
奈良女子大学教授
専門は英語学、言語学(語用論)
主な業績:『英語基本動詞辞典』(1980年)研究社(小西友七編、分担執筆及び校閲)
『英語基本形容詞・副詞辞典』(1989年)研究社(小西友七編、分担執筆及び校閲)
『英語基礎語彙の文法』(1993年)英宝社(衣笠忠司、赤野一郎と共編著)
『関連性理論―伝達と認知―』(初版1993年、第2版1999年)研究社(共訳)
『小学館ランダムハウス英和大辞典』(第2版1994年)小学館(小西友七・安井稔・國廣哲弥・堀内克明編、分担執筆)
Relevance Theory: Applications and Implications, 1998, John Benjamins.(Robyn Carstonと共編著)
『英語基本名詞辞典』(2001年)研究社(小西友七編、分担執筆及び校閲)
『ユースプログレッシブ英和辞典』(2004年)小学館(八木克正編集主幹、編集委員)
『新英語学概論』(2006年)英宝社(八木克正編、共著)
『思考と発話』(2007年)研究社(共訳)
『子どもとことばの出会い』(2008年)研究社(監訳)
『語用論の射程』(2011年)研究社

【編集部から】

語用論的な情報をふんだんに盛り込んだ、日本発の本格的な発信型会話・談話表現辞典、『英語談話表現辞典』について、編者の内田聖二先生にご紹介いただきます。
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大規模英文データ収集・管理術 第7回

2011年 9月 12日 月曜日 筆者: 富井 篤

「トミイ方式」とは (2)

(2) 技術翻訳の独習法としての「トミイ方式」

「トミイ方式」は、唯一無二の、技術英語ないしは技術翻訳の「独習法」だと思っています。ただ、それには「継続」という二文字が必須条件になります。データを10点や20点、100点や200点、1,000点や2,000点収集しただけでは、分類もできませんし、分類した結果を学習することもできません。一に継続、二に継続、三、四なくて五に継続、このくらいの気概を持って収集活動を続けていただきたいと思います。

昔、「一粒で二度おいしい」というお菓子のキャッチフレーズを見たことがありますが、「トミイ方式」にも「二度おいしい学習の機会」があります。

○ 最初の機会
最初の学習機会は、英語の原文に目を凝らし、何を収集しようかなという段階です。収集しようとするデータが決まり、それを収集した瞬間にささやかではありますが学習をしたことになります。「トミイ方式」の話をしていると、よく、「何を集めればいいんですか?」と問うてくる人がいます。何を収集するか人に聞くのではなく、「私はあれを集めたい、これを集めたい」という気持ちが先に来なければ最初の1歩の出しようがありません。しかし、そうはいっても、私の出だしのころを思い出してみますと無理のないことです。

筆者の初期のころを思い出すと、欲しい単語や用法や言い回しなど1ページの中に数点しかありませんでした。それはほとんどが、その前に英文を書いたり、和文英訳をしたりしていた時に、適切な言葉や気の利いた言い回しがなくて困った経験のある言葉や言い回しだけでした。たまに、自分には発想のできない簡潔な表現であったりすることもありましたが、ほとんどありませんでした。しかし、だんだん進んでいくと、関心事項がどんどん幅広くなり、さらに深みを増していき、やがては、ページ全体がほとんど欲しいデータで埋め尽くされるようになりました。私は、このことを、当時の受講生には「最初は物を見るも目が細くなっており、大きなものしか見えなかったが、だんだんやっているうちに、目が大きく開いてきて、小さいものでも、かすれたものでも、何でも見えるようになるのと似ています」と説明していました。

ですから、やはり「継続」が大切です。

○ 2つ目の機会

2つ目の学習機会は、収集の数も徐々に増えていき、その増えていった英語の語や句や節などを大分類、中分類、小分類、などに細分するときです。前回(第6回)、収集方法として、大雑把に、次の3つの方法を紹介しました。

1) 辞書添記方法
2) カード使用方法
3) パソコン活用方法

集まったデータの分類という作業では、1) の方法で収集してあるデータは無理ですので 2) か 3) の方法で収集してあるデータに限定されます。さらに、分類しなければならないデータの収集済み点数(または、枚数)の数が少ない時には3) の方法で収集してあるデータでも分類できますが、30点とか50点になると3)によって収集してあるデータではむずかしくなりますので、2)の方法で収集してあるデータ、すなわち、カードに収められているデータを分類することになります。

後で『「トミイ方式」の変遷』――今年の10月の終わりごろの予定――のところで述べますが、筆者は「トミイ方式」の開始直後から10年ほど前にコンピュータ方式を取り入れるまでほとんどのデータをカードに収納してきました。したがって、分類作業は、広い机の上や、座敷の畳の上などで行っていました。

この段階が、実は、技術英語や技術翻訳の学習ができる大きなチャンスなのです。以下に、どのように技術英語や技術翻訳の学習になるかということを、実例を以って紹介したいと思います。

今、大分類が「(3) 表現別」で、その中の中分類「影響」という中に100枚のカードがあったと仮定し、そこから分類を始めることにします。

第1ステップ(小分類):
100枚のカードを小分類してみた結果、「影響」という名詞形が25枚、「影響を及ぼす」という動詞形が40枚、「影響を受ける~」という形容詞形が15枚、「影響を及ぼすことなく」という副詞形が10枚、「悪影響」が10枚あったとします。

第2ステップ
それぞれの小分類を、さらに細分類してみました。
まず25枚の名詞形を細分類してみました。その結果、次のカードがあることがわかりました。

1) 影響(単体) が10枚
2) ―― の影響 が7枚
3) …… への影響 が5枚
4) ―― の …… への影響 が3枚

次に40枚の動詞形を細分類してみました。その時、動詞形の場合には

1) 影響を及ぼす(能動態)
2) 影響を受ける(受動態)

の2つに細分類しなければならないことが分かりました。この2つの細分類を、さらに、それぞれ細々分類してみました。次のような結果が得られました。

1) 影響を及ぼす(能動態)
 a) ―― は …… に影響を及ぼす
 b) ―― は …… に影響は及ぼさない

2) 影響を受ける(受動態)
 a) ―― は …… の影響を受ける
 b) ―― は …… の(によって)影響を受ける
 c) ―― は影響を受けない
 d) ―― は …… の影響を受けない

さらに、「形容詞形」や「副詞形」も細かく分類していかなければなりませんし、さらに英単語によっても極細分類していかなければなりません。英語では名詞形だけでも effect,influence,impactなどがあり、動詞も affect,influence などを使って単純に

―― affect ……
―― influence ……

などと書く表現もありますし、節を使った

an effect that ―― has on ……

という表現もあります。

このように、英語の単語や表現方法などにより極細分類していくと、その表現はおびただしい数になります。

あることを英語で表現する場合、「表現方法を1つ知っていれば、他の表現方法は、とくに覚える必要はない」という考え方があることはあります。しかし、英語というのは、隣接したところや同じパラグラフの中で同じ言葉や表現を繰り返し使うことは、「筆者のインテリジェンスの低さを表す」ものであるという考え方があります。その意味からも、同じことをいうのに、いろいろな表現方法を知っていたほうが「インテリジェンスの低さ」を表さないですみます。これについては、後ほど「分類の構成」の「表現のバリエーション」というセクションで改めて述べます。

同一の項目に、分類するに耐えうるだけの数が集まっていることが前提になりますが、この分類の段階こそが、「トミイ方式」の一番大きな学習の機会です。

○ 3つ目の機会
これは、あえて「機会」と呼ぶほどのものではありませんが、「最初の機会」や「2つ目の機会」が瞬間的な学習の機会であるのに対し、この3つ目の機会は、どちらかというと分類が終わってから、生涯ずっと訪れる継続的な学習の機会です。上に例として挙げた「影響」のみではなく、7つの大分類の中の、分類したすべての言葉、表現、構文、テクニカルライティングの諸ルールなどを、参考書、学習書、文法書、辞書として、毎日、飽くことなく学習することができます。

【筆者プロフィール】

富井篤(とみい・あつし)
技術翻訳者、技術翻訳指導者。株式会社 国際テクリンガ研究所代表取締役。会社経営の傍ら、英語教育および書籍執筆に専念。1934年横須賀生まれ。
主な著書に『技術英語 前置詞活用辞典』、『技術英語 数量表現辞典』、『技術英語 構文辞典』(以上三省堂)、『技術翻訳のテクニック』、『続 技術翻訳のテクニック』(以上丸善)、『科学技術和英大辞典』、『科学技術英和大辞典』、『科学技術英和表現辞典』(以上オーム社)など。


‘Perhaps’と‘Perhaps not’―『英語談話表現辞典』覚え書き(54)―

2011年 9月 1日 木曜日 筆者: 内田 聖二

今回はよく耳にする‘Perhaps’と‘Perhaps not’について、おもに丁寧表現の観点から考えてみたいと思います。

もともと perhaps は「…かもしれない」という推量を表す言い方ですが、別の観点から言うと、自信のなさを示唆する語ということもできます。このあたりが丁寧表現と関連してきます。

まず第一に、自分の意見を強く主張したり強要しない言い方になります。本辞典からの引用です。

1 〈自分の意見に付加して〉…かもしれない, …じゃないかな:《携帯電話の盗聴問題を考えて》 Perhaps the only way change will occur is for consumers to have a greater awareness and to call for measures to be taken to prevent phone tapping. 携帯電話の使用者がより高い意識を持って, 盗聴防止のための対策の実施を求めてゆくことが, 変革への唯一の方法だろうと思う.

この用法は実際に自信のないときにも使われますが、perhaps を入れると遠慮した言い方になります。

また、相手に対して言いにくいことを述べるときにも用いられます。

4 〈遠回しに〉…だろうね, …みたいですね(◆断定を避けることから丁寧表現にもなる):《気にする相手に何気なく》 Perhaps you’ve gained a little weight. ちょっと太ったみたいですね.

この例はどうみても太ったことが明らかな場合にも使います。この perhaps は頼みにくいことを要請する際にも使われます。

5 〈相手の様子をうかがいながら要請して〉…していただきたいのですが(◆遠慮した依頼表現):Perhaps you would open the window? 窓を開けていただけませんか.

普通は頼みごとなどはできないような相手であったり、そのことを頼むと相手に不都合なことが生じることが予想されるときによく用いられます。

同様に、店員が客に商品を勧めるような場合などにもよくみられます。

6 〈商品などを勧めて〉…されてはどうですか(◆相手の気持ちを推し量ることからやや堅い丁寧表現):《迷っている客に》 Perhaps you would like to try it on. ご試着なさってみてはいかがでしょうか.

この場合は「ひょっとしたら…とお考えでは」といったようなニュアンスがあり、ある種の上下関係がはっきりしているややあらたまった状況で使われます。

ちなみに、perhaps の同義語に maybe がありますが、興味深いことに、maybe には語義4,5,6のような丁寧表現にかかわる用法はありません。

また、否定的に応答するときには‘Perhaps not.’という言い方があります。以下はいずれも perhaps が含まれている前言に対して遠まわしに断定を避けたり依頼や勧誘を断っている例です。

2 〈遠回しに相手の発言を打ち消して〉…でないかもしれない, …でないと思うけど:“Perhaps you’ve lost a little weight.” “Perhaps not.” 「ちょっとやせたみたいね」「そんなことないと思うけど」.

3 〈相手の依頼を遠回しに断って〉遠慮しておきます:“Perhaps you’d be good enough to lend me $10.” “Perhaps not.” 「10ドル貸していただけるとありがたいのですが」「いや, やめとくよ」.

4 〈相手の勧め・申し出に対して〉まあ遠慮しておきます:“Perhaps you’d like to try some natto.” “Perhaps not.” 「納豆を食べてみたら」「まあ, 遠慮しとくよ」.

たとえば、語義3や4では、直接断るよりも柔らかく聞こえます。

なお、前言が否定文であれば‘Perhaps not.’は相手に同意する言い方になることを付け加えておきます。三省堂コーパスからの例です。

“There is nothing honorable about killing or being killed.” “Perhaps not. But sometimes it has to be done.”「殺したり殺されたりなどには名誉なんてものはないのです」「その通りかもしれません。でもときにそういうことは起こるのです」

‘Perhaps not.’のあとに But が続いていることからわかりますように、この人は相手と同意しながらも But 以下で自分の意見を述べています。

型にはまった丁寧な言い方だけでなく、このような身近な副詞を使った簡便な丁寧表現にも慣れておきましょう。

【筆者プロフィール】

内田聖二(うちだ・せいじ)
奈良女子大学教授
専門は英語学、言語学(語用論)
主な業績:『英語基本動詞辞典』(1980年)研究社(小西友七編、分担執筆及び校閲)
『英語基本形容詞・副詞辞典』(1989年)研究社(小西友七編、分担執筆及び校閲)
『英語基礎語彙の文法』(1993年)英宝社(衣笠忠司、赤野一郎と共編著)
『関連性理論―伝達と認知―』(初版1993年、第2版1999年)研究社(共訳)
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『思考と発話』(2007年)研究社(共訳)
『子どもとことばの出会い』(2008年)研究社(監訳)
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大規模英文データ収集・管理術 第6回

2011年 8月 29日 月曜日 筆者: 富井 篤

「トミイ方式」とは

今回から「トミイ方式」の持つ特性を3回にわたって詳しく述べていきます。

(1) 手作り辞書としての「トミイ方式」

この3回の主テーマは、一言でいうと、「トミイ方式」を通してさまざまな英文データを収集すると、自分の手元にある市販の辞書の足りないところを補うことができる、「自分の」、「自分による」、「自分のための」手作りの辞書を作ることができるということです。

ただし、ここで述べるのは、手作り辞書を作るための方法ではなく、その1つ手前の工程である、「何」を収集していくかという「対象」についてです。単語単位のデータがメインになります。いくつかの例を挙げながら具体的に述べていきます。実際の辞書の作り方については、後ほど詳しく説明します。

「手作り辞書」には、英和辞書と和英辞書があります。これら両者は表裏の関係にあり、1つの英単語について調べたら英和・和英の両方に使える情報が得られます。ここでの記述方法は以下のような形式とします。

a) まず「英単語」を示し、英語の例文を引用しながら辞書に載っていない「訳語」を解説する
b) 次にその「訳語」を手元の英和辞書の該当箇所に書き込む。これは「アクションEJ」として示す
c) a)で例に挙げた「英単語」を手元の和英辞書の該当箇所に書き込む。これは「アクションJE」として示す

本論に入る前に、辞書というものの構成について簡単に触れておきます。例えば、英和辞書の場合でいうならば、原単語(entry word)、発音記号、品詞、意味・訳語(definition)、例文などで構成されています。問題は「意味・訳語」です。「意味」とはその原単語が持つ、文字通り根本の「意味」であり、「訳語」とは、その「意味」の範囲内でそれぞれのシチュエーションごとに与えられる、これも文字通り「訳語」です。英文和訳した和文を見ると、直訳調で、自然な日本語になっていないことがよくあります。それは、辞書の「訳語」だけに頼って翻訳しているからであって、「意味」から逸脱しない範囲内でシチュエーションにあった「訳語」を当てはめればこのようなことは絶対に起きません。

ここでは、収集したデータを、どこに、どのように収納するかについては詳しくは触れませんが、大雑把に、次の3つの方法があります。

1) 辞書添記方法
2) カード使用方法
3) パソコン活用方法

ベストの方法ではありませんが、better than nothing という考え方に徹し、手軽に始められる方法として

1) 辞書添記方法 

を推奨します。これは、辞書の中の上下・左右の空スペースに新しい訳語などを書き込んでいく方法で、すぐに行き詰まりを来たしてしまうものではありますが、元の書物や原稿に赤で傍線を引いておくだけよりははるかに良いので、暫定的な収集方法としてこのやり方を前提に説明を続けます。

それでは、across, figure [figure eight], include および porous の4つの英単語を例に挙げて説明していきます。

across(~を横切って、~の向こう側に、~の全体にわたってなど)+(前後、両端)

注:見出しは、entry word(辞書中の「意味・訳語」)+(新たな「訳語」)を表しています。

次の例文を見てください。

Pressure drop across the connector determines minimum size.

辞書の中の「訳語」を使って直訳した訳文は次のようになります。

コネクタを横切る圧力降下は最小寸法を決める

しかし、across を「~前後の」とし、さらに determines という言葉を若干意訳すると、訳文は次のようになります。

コネクタ前後の圧力降下によって最小寸法が決まってくる (新しい「訳語」は「~前後の」という形容詞形用法)

次の例文を見てみましょう。上で述べたように、across を「~前後で」として訳すと、訳文は次のようになります。

To obtain the flow measurement, the square root is extracted from the differential pressure monitored across the orifice.

オリフィス前後で測定した差圧から 「(新しい「訳語」は「~前後で」という副詞形用法)

すなわち、水やオイルや空気などのように「流体」の場合には「前後」という「訳語」が、辞書には出ていませんが、ぴったりすることが分かります。

次の例文も前置詞 across を使った例です。

However, a high field-discharge resistance results in a high induced voltage across the field winding.

これも、acrossの周辺だけを直訳すると

界磁巻線を横切る高い誘導電圧

となります。across を「~両端の」と訳すと

界磁巻線両端の高い誘導電圧 「(新しい「訳語」は「~両端の」という形容詞形用法)

となります。across を使った英文をもう1つ見てみましょう。

The collector current is 75 times this and the output voltage developed across RL is 3,300 x 75 x v/1,000.
負荷抵抗RL両端に発生する出力電圧 「(新しい「訳語」は「~の両端に」という副詞形用法)

すなわち、電流や電圧などのように「電気」の場合には「~の両端の」とか「~の両端に」などいう言葉を使うのが自然であることが分かります。

アクションEJ:
手元の英和辞書の across の近くの空きスペースに鉛筆かボールペンで小さく「前後」と「両端」を添記する
アクションJE:
手元の和英辞書の「前後」や「両端」の近くの空きスペースに鉛筆かボールペンで小さく across を添記する

figure eight、figure-8-shaped(辞書になし)+(8の字、8の字型の)

技術文において、それほど頻出する言葉ではありませんが、この表現を知っておくと、8以外の言葉にも使えるので便利です。次のような使われ方をしています。

In early versions of the stellarator, the twist was accomplished by actually constructing the tube in the form of a figure eight.

It consists of a conventional core and support member, both of which are enclosed in a figure-8-shaped plastic sheath.

アクションEJ:
英和辞書の figure の近くの空きスペースに小さく「8の字」あるいは「8の字型の」を添記する

アクションJE:
和英辞書の「はちのじ」の場所に figure eight や figure-8-shaped などを添記する

include(含む、包含する、勘定に入れる)+(―― には~がある)

これは非常に頻繁に出てくる言葉ですが、「ある」という「訳語」を載せている辞書はほとんどありません。以下のような例文でよく使われます。

These accessories include fuel and lube-oil pumps, tachometer, and an electric starter generator.

アクションEJ:
英和辞書の include の近くの空きスペースに小さく「ある」を添記する

アクションJE:
和英辞書に「ある」の場所に include を添記する

porous(多孔質の、小穴の多い、窓の多い)+(穴だらけの)

これは、この連載の第2回で、別の切り口で取り上げたものです。英和辞書には「穴だらけ」という意味を載せているものもありますが、ほとんどは載せていません。載せている辞書でも、「穴だらけの守備」というような比喩的用法まで考えているかどうか、ことによると、「穴だらけの紙」とか「穴だらけの靴下」などのような用法かもしれません。したがって、porous defense という言葉で取っておくと、応用範囲が広くなります。

アクションEJ:
英和辞書の porous の近くに小さく「穴だらけの」と添記する

アクションJE:
和英辞書に「穴」の場所に「穴だらけ」という項目を作り、そこに porous と添記する

ここで取り上げたのは4点だけですが、英文を和訳する時、英字新聞や英文雑誌を読んでいる時、さらには原書を調べている時などに、精力的に収集していくと、非常に凝縮度の高いデータがたくさん収集できるはずです。つねに旺盛な意欲をもって収集作業を続けていくことが肝心です。

【筆者プロフィール】

富井篤(とみい・あつし)
技術翻訳者、技術翻訳指導者。株式会社 国際テクリンガ研究所代表取締役。会社経営の傍ら、英語教育および書籍執筆に専念。1934年横須賀生まれ。
主な著書に『技術英語 前置詞活用辞典』、『技術英語 数量表現辞典』、『技術英語 構文辞典』(以上三省堂)、『技術翻訳のテクニック』、『続 技術翻訳のテクニック』(以上丸善)、『科学技術和英大辞典』、『科学技術英和大辞典』、『科学技術英和表現辞典』(以上オーム社)など。


「実は」:franklyとto tell (you) the truth―『英語談話表現辞典』覚え書き(53)―

2011年 8月 18日 木曜日 筆者: 内田 聖二

前回は、相手の話を受けて「実はそうなんです」という肯定的な応答と「実はそうではないんです」といった否定的な応答のふたつの意味に使うことができる in fact と actually について考えてみました。今回は同じく「実は」に意味が重なる、frankly と to tell (you) the truth を中心に述べたいと思います。

Frankly I can’t help you.’にみられる文修飾語としての frankly は frankly speaking の speaking が省略されたものですが、話しことばでは通例 speaking が省かれます(三省堂コーパスの話しことばでは speaking frankly の例は2例しかありません)。次に続くことを言う前に「率直に言えば」という前置きをして、これから言うことが相手にとって必ずしも好意的な内容ではないことを示唆する言い方です。本辞典から引用します。

2 実を言うと 《インタビューに答えて》 Frankly I am hesitant to respond to the matter for the present. 正直言いまして, 現段階ではそのことについてお答えすることは控えさせていただきます.

インタビューは質問に対して答えることが前提になっていますが、それを拒否することばが frankly のあとに続いています。

次の語義3では、前に言った内容に反することが続いています。

3 本当のところ, 実は Many people think singing in front of people is embarrassing. But frankly speaking, I love karaoke. 人前で歌を歌うのは恥ずかしいって思う人は多いよね. けれど, 実を言うと, 僕はカラオケが大好きなんだ.

これは、「僕」は「一般の人たち」とは違い人前で歌うことを恥ずかしいとは思わない、という前言と逆の内容を述べています。

なお、日本語の「率直に言えば」では speaking に相当する「言えば」をとると不自然な言い方になります。これは興味深い現象の一端で、たとえば、コンマで区切られたあとの because や等位接続詞の for には speaking にあたる語はありませんが、日本語の訳語が前の文を受けて「と言うのは」になることと似ています。

一方、to tell (you) the truth は否定的な言い方が続くことを暗示する傾向があります。本辞典からの引用です。

2 〈相手の期待に反することを言う前置きとして〉実は…なんだ “Who sent you that letter?” “Well, to tell the truth, I have no idea.” 「誰からの手紙なの?」「うーん, 実は見当もつかないんだ」
3 〈相手が期待していることと反対のことを言う前置きとして〉実は…だ, ところが…だ “How do you like that hat?” “To tell the truth, the hat you picked out doesn’t go with my blue suit.” 「あの帽子どう?」「実は, せっかく選んでくれたけど, 僕のブルーのスーツには合わないんだ」.

語義2では手紙の送り主が誰かわかっていると思って質問しているのですが、その前提を否定しています。また、語義3では「気に入ってくれている」のではと思って質問しているのですが、そのことと反対の応答が続いています。

同じような意味を伝える truth を用いた言い方に‘The truth is that. . . .’という構文があります。本辞典からの引用です。

2 〈衝撃的な事実を強調して〉実際のところは, 本当のことは “How old do you think Mary is? She says she’s thirty.” “Well, the truth is that she’s almost 50.” 「メアリーっていくつだと思う? 自分では30だって言ってるけど」「いやあ, 実際のところは, もう50才だよ」

これも先行する発話内容を否定する趣旨のことが続いており、「実は」にかかわる表現です。

【筆者プロフィール】

内田聖二(うちだ・せいじ)
奈良女子大学教授
専門は英語学、言語学(語用論)
主な業績:『英語基本動詞辞典』(1980年)研究社(小西友七編、分担執筆及び校閲)
『英語基本形容詞・副詞辞典』(1989年)研究社(小西友七編、分担執筆及び校閲)
『英語基礎語彙の文法』(1993年)英宝社(衣笠忠司、赤野一郎と共編著)
『関連性理論―伝達と認知―』(初版1993年、第2版1999年)研究社(共訳)
『小学館ランダムハウス英和大辞典』(第2版1994年)小学館(小西友七・安井稔・國廣哲弥・堀内克明編、分担執筆)
Relevance Theory: Applications and Implications, 1998, John Benjamins.(Robyn Carstonと共編著)
『英語基本名詞辞典』(2001年)研究社(小西友七編、分担執筆及び校閲)
『ユースプログレッシブ英和辞典』(2004年)小学館(八木克正編集主幹、編集委員)
『新英語学概論』(2006年)英宝社(八木克正編、共著)
『思考と発話』(2007年)研究社(共訳)
『子どもとことばの出会い』(2008年)研究社(監訳)
『語用論の射程』(2011年)研究社

【編集部から】

語用論的な情報をふんだんに盛り込んだ、日本発の本格的な発信型会話・談話表現辞典、『英語談話表現辞典』について、編者の内田聖二先生にご紹介いただきます。
書籍購入者は、http://dce.dual-d.netにて本辞典の全データを収録したウェブ版辞典を無料でお使いいただけます。


大規模英文データ収集・管理術 第5回

2011年 8月 15日 月曜日 筆者: 富井 篤

「トミイ方式」の素晴らしさ(3)

今回は、「連載を始めるにあたって」の中の最後のセクションとして、3) 発表・制作機能という切り口から見たエピソードを、「前置詞」を例にとってお話しすることにします。

読者の中には、筆者が三省堂から技術英語に関する『前置詞活用辞典』を出版していることはご存じの方がいらっしゃると思います。この本の前身は、1987年に別の出版社から出版した『前置詞の研究』という本です。自慢めいた話をするわけではありませんが、「トミイ方式」を効果的に実践すると、読者の皆さんにとっても、本の出版は、必ずしも夢のように遠いものではなく、その気になりさえすれば、誰にでも実現できるものだということを強調しておきます。

もともとこの本は、1979年1月から12月まで、12回にわたって「工業英語」という月刊誌に連載したものが、翌1980年8月に書籍となって出版されたものです。私が脱サラして技術翻訳の世界に入ったのが1974年8月ですから、雑誌に連載を始めたのは脱サラして4年少々経ってからということになります。連載の準備期間も若干あったので、脱サラ後4年足らずで、「前置詞」の連載を始めたことになります。しかも、連載を始める前には、12か月分の目次もできあがっていましたので、連載をスタートした時点では、12か月先の例文もすべて収集されていたことになり、連載内容すべての章建ても終わっていたわけです。

脱サラしてからは、ほとんど、英文和訳の翻訳をしながら、ひたすら英文データを集めまくりました。しかし、この間、前置詞だけを集めていたわけではありません。大分類、中分類、小分類、細分類、細々分類まで合わせると、末端単位の項目数は何千、何万になりますが、ほとんどすべての末端単位の英文データを、満遍なく集めていたわけです。その中で、「品詞別」という大分類の中の1つに過ぎない「前置詞」という中分類のうちの1つに過ぎない英文データが、わずか数年のうちに連載ができるほどの量で、集まっていたわけです。これは、今考えてみると、奇跡としか思えません。

このように書いてきますと、何か自慢話をしているように聞こえるかもしれません。しかし、私が今ここで力説したいのは、自分の自慢ではなく、わずかこのような短期間の間でも、やる気になってやれば、1冊の本を書くだけの十分なデータが集められるということです。

読者の中には、「そんなこといったって、現代では、すでにあらゆる本が出回っているから、いくら十分な量のデータを集めたとしてしても、今さら自分の出番はない」と思っている方がいるかもしれません。しかし、本なんてものは、切り口を変えれば、同じテーマの本でも何冊でも書くことができます。仮に新しく本を書くことができなくても、ご自分の専門分野のデータを大量に収集していけば、ご自分の自前のデータ集を作ることができ、本にして発表する以上の素晴らしい結果を創り出すことができます。

この「トミイ方式」というのは、ただ継続あるのみです。継続さえしていけば、昨日よりは今日、今日よりは明日、という具合にどんどんデータは増えていきます。

そうはいっても、時には継続できないこともあります。しかし、決して焦ったり、諦めたりすることはありません。それは、スポーツでいう「累積記録」というものと同じで、決して減っていくものではないからです。野球でいうならば、打者の場合にはホームラン、ヒット、打点、盗塁、塁打など、また投手の場合には勝利数、奪三振数、セーブ数などのように、たとえある期間、試合に出られなくなったり、2軍に落とされたりしても、決してそれまでに残した数は減らないのと同じように、「トミイ方式」というのは、ある期間データ収集活動を休んだとしても、それまでに収集したデータの数は絶対に減っていきません。そのため、仕事などの関係で、一時、データ収集活動を中止してもあせることなく、再開できるときに再開すれば、またいつでもデータ収集を継続することができます。

ここで、「前置詞」に関連して、「トミイ方式」はどのようなことをもたらしてくれたかについてお伝えします。

「前置詞」とは、単に日本語の「てにをは」に相当するものではなく、それ以上に大事な品詞であることはご存じだと思います。しかし一方では、「前置詞」というのは、もともと、名詞、動詞、形容詞、副詞などのような content words とは異なり、冠詞、助動詞、接続詞などのような structure words ですので、あまり気にかけなくともよいようにも思われています。たしかに、「前置詞」をちょっと間違えたところで、情報の伝達に致命的な影響を及ぼすというものではありません。しかし、適切な「前置詞」を使うと、簡潔かつ適格な表現ができ、文章が引き締まり、かつ格調の高い、達意な文章が書けるようになります。

ここでは、「トミイ方式」を通して収集して初めて知った

(1) 動詞的に訳さなければいけない「前置詞」
(2) 手段・方法を表す意外な「前置詞」
(3) 前置詞以外の情報を持っている「前置詞」

などを、ごくごく簡単に披露します。

(1) 動詞的に訳さなければいけない「前置詞」

以下の英例文を見てください。

They harden chemically to a smooth, tile-like surface.
The uranium239 in turn decays to neptunium239 and then to plutonium239.

いずれも to を前置詞のまま「~へ」と訳したのでは日本語にはなりません。「~になる」というように動詞的に訳さなければなりません。これ以外に、このような意味に使われる前置詞には in や into があります。

(2) 手段・方法を表す意外な「前置詞」

Before re-assembling, wash all disassembled parts in clean machine oil.
Clean the filter in a warm soapy solution.

これらの in はいずれも、日本語では「~で」という手段とか方法を表しています。普通この場合にはそのような物質を使って「洗浄する」わけですから with でよさそうなのですが、(i)「~で」(すなわち、~を使って)という情報と、(ii)「~の中で」という2つの情報のうち(ii)の情報だけで表現しているわけです。この種の前置詞の使い方は、集めてみると、against, between, from, on, over, through, under, within などいろいろな語に見られます。

(3) 前置詞以外の情報を持っている「前置詞」

Check the cylinder for leakage.

これは、「漏れがないかどうかシリンダをチェックしてください」という日本文の英訳です。この場合 for は、単なる前置詞ではなく、「(漏れが)ないかどうか」という意味を持っています。この用法を知らないと

Check the cylinder to ascertain whether or not there is any leakage.

などと書いてしまいます。決して間違いではありませんが、いかにも冗長な英語になります。

以下に挙げたのは、for の持つもう一つの用例です。

It is essential for best results that ample space be provided in the housings.
For optimum performance, safety valves must be serviced regularly and maintained.

この場合の for は、いずれも単なる「~のため」ではなく、もっと踏み込んで「最高の結果を得るためには」とか「最適な性能を発揮させるためには」などと訳さないと日本語にはなりません。

ちょっと長くなりましたが、これで「連載を始めるにあたって」を終え、次回からは本論に入っていきます。

【筆者プロフィール】

富井篤(とみい・あつし)
技術翻訳者、技術翻訳指導者。株式会社 国際テクリンガ研究所代表取締役。会社経営の傍ら、英語教育および書籍執筆に専念。1934年横須賀生まれ。
主な著書に『技術英語 前置詞活用辞典』、『技術英語 数量表現辞典』、『技術英語 構文辞典』(以上三省堂)、『技術翻訳のテクニック』、『続 技術翻訳のテクニック』(以上丸善)、『科学技術和英大辞典』、『科学技術英和大辞典』、『科学技術英和表現辞典』(以上オーム社)など。


「実は」:in factとactually―『英語談話表現辞典』覚え書き(52)―

2011年 8月 4日 木曜日 筆者: 内田 聖二

日本語の「実は」は相手の話を受けて「実はそうなんです」という肯定的な応答と「実はそうではないんです」といった否定的な応答のふたつの意味に使うことができます。この日本語にほぼ対応する英語表現に in fact があります。in fact についてはこの「『英語談話表現辞典』覚え書き」の第27回に解説があります。詳しくはそちらを参照していただきたいのですが、簡潔に言えば、「肯定的な」用法では、前言より強い言い方やほかの補足的事実が続き、「否定的な」用法では、前言と逆の事実を述べるということです。典型的な例をひとつずつあげておきます。

1 〈前言を強調して〉それどころか, むしろ:I don’t like sake much, in fact I hate it. 日本酒はさほど好きじゃない. むしろ, 嫌いな方だ.
2 〈前言を否定して〉ところが実際は:The issue sounds rather simple, but in fact it’s very difficult to solve. その問題は一見容易そうだが, 実際は, 解決するのはとても難しい

この例は同じ発話内の用例ですので、会話のやりとりの例を三省堂コーパス(改変)から付け加えておきます。ひとつ目は相手のことばをさらに強調している例で、ふたつ目はそれまでの流れとは異なる展開であることを示唆する in fact の例です。

‘Kate never told us she had friends like him.’ ‘In fact, we never knew she had any friends.’「ケイトに彼のような友だちがいるなんて、彼女一言も言ってなかった」「それどころか、彼女に友だちがいるなんて知らなかったよね」/‘Somebody knocks on the door. We thought it was somebody coming round to rob us or something like that, so we actually phoned the police.’ ‘In fact it was the police, wasn’t it?’「誰かがノックをしたので、物とりかなんかと思って警察に電話したんだ」「ところが、ノックしてたのが警察だったんだな」

この in fact のほかに会話でよく耳にする語に actually という副詞があります。この語にも肯定的意味と否定的意味の両方があります。本辞典からの引用です。

1 実際に, 現実に(◆文頭・文中・文尾で) “Do you have an alarm system in this building?” “Yes, actually we do . . . but we haven’t been using it.” 「このビルには警報装置はありますか」「はい, あることはあるんですが, ずっと使っていないのです」
2 〈相手に注意を喚起して〉実は(◆文頭・文中・文尾で) “Do you still live in downtown Tokyo?” “Oh, no, we actually moved to Yokohama last year.” 「今も東京の都心部に住んでいるの?」「あ, いえ, 実は去年横浜に引越しました」
3 〈相手の予測に反して〉実は, 本当のところは(◆下降上昇調で) “Something’s wrong with this computer. You didn’t use it?” “I did, actually.” 「このコンピュータ, 調子が悪いなあ. 君, 使わなかったよね」「使ったけど」

語義1は肯定的な用法で、yes とともに用いられています。また、語義2は yes/no 疑問文に否定文で応答し、語義3では相手の予想とは逆の答え方になっています。この語義3の文尾にくる actually に注目してみましょう。この actually は「下降上昇調で」とありますように、独特のイントネーションで言われます。ことばではなかなかそのニュアンスを伝え切れないのが残念ですが、一度聞くと忘れないと思います。

アメリカ英語よりむしろイギリス英語でよく観察されるようですが、相手の言ったことを何気ない調子で否定したり修正したりします。三省堂コーパスから改変した例を付け加えておきます。

‘You could have insisted.’ ‘I couldn’t, actually.’ 「強く言おうと思ったら言えたんじゃないか」「いや、言えなかったよ」/‘There was no way that we could have done at the time.’ ‘Well there was, actually.’「あのときはなにもできなかった」「いや、実はできたさ」

【筆者プロフィール】

内田聖二(うちだ・せいじ)
奈良女子大学教授
専門は英語学、言語学(語用論)
主な業績:『英語基本動詞辞典』(1980年)研究社(小西友七編、分担執筆及び校閲)
『英語基本形容詞・副詞辞典』(1989年)研究社(小西友七編、分担執筆及び校閲)
『英語基礎語彙の文法』(1993年)英宝社(衣笠忠司、赤野一郎と共編著)
『関連性理論―伝達と認知―』(初版1993年、第2版1999年)研究社(共訳)
『小学館ランダムハウス英和大辞典』(第2版1994年)小学館(小西友七・安井稔・國廣哲弥・堀内克明編、分担執筆)
Relevance Theory: Applications and Implications, 1998, John Benjamins.(Robyn Carstonと共編著)
『英語基本名詞辞典』(2001年)研究社(小西友七編、分担執筆及び校閲)
『ユースプログレッシブ英和辞典』(2004年)小学館(八木克正編集主幹、編集委員)
『新英語学概論』(2006年)英宝社(八木克正編、共著)
『思考と発話』(2007年)研究社(共訳)
『子どもとことばの出会い』(2008年)研究社(監訳)
『語用論の射程』(2011年)研究社

【編集部から】

語用論的な情報をふんだんに盛り込んだ、日本発の本格的な発信型会話・談話表現辞典、『英語談話表現辞典』について、編者の内田聖二先生にご紹介いただきます。
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大規模英文データ収集・管理術 第4回

2011年 8月 1日 月曜日 筆者: 富井 篤

「トミイ方式」の素晴らしさ(続々)

今回は、残った下記の2つの大分類について説明します。

(6) 数量表現別
(7) その他

(6) 数量表現別から

この大分類では、技術文において決して避けて通ることのできない、「数」と「量」に関するさまざまな英文データを収集します。「以上・以下、超え・未満」、「数詞と単位」、「数と量の概念」など、大事なことがたくさんありますが、ここではmore than one ―― について述べます。

なお、以下の説明で「数」とか「量」などとあるのは、英語において、それぞれ「数」または「量」の概念でとらえられる名詞のことを意味しています。「数」でとらえられるならば「可算名詞」、「量」でとらえられるならば「不可算名詞」ということになります。

○ more than one ――

技術文によく出てくる表現としてmore than one ―― があります。この表現を正しく理解するためには、more thanは「以上」ではなく「超え」であること、そして「以上」とは、例えば「5以上」といった場合「5を含んでそれより大きい」ことであり、「超え」とは、例えば「5を超え」といった場合「5を含まないでそれより大きい」ことであること、この2つのことをしっかりと理解しなければなりません。そしてもう1つ大事なことは、―― に「量」ではなく「数」でとらえられる名詞が来た場合、たとえば「車」とか「コンピュータ」などが来た場合には、more than one carとかmore than one computerは、決して「1台以上の車」とか「1台以上のコンピュータ」ではなく、「2台以上の車」とか「2台以上のコンピュータ」とすることです。なぜならば、more than oneが「oneを含まないでそれより大きい数字」ということは、more than one即「2」となるからです。

ところが、―― に「量」でとらえられる名詞が来た場合、例えば、more than one poundという場合、「1ポンドを超えること」即「2ポンド以上」とはなりません。なぜならば、1ポンドと2ポンドの間には、無限の数があるからです。

もう少しつっこんで考えてみましょう。――に「数」でとらえられる名詞が来た場合には、ニュアンスは若干違いますが、数値的に考えた場合、意味的にはmore than one ―― はtwo or more ――sと同じであることが分かりました。それならば両者は、全く同じなのか、どこか違うところはないのかということになります。筆者も、最初は両者の違いがわかりませんでした。ネイティブにも何人かに聞いてみました。しかし、違いを分かりやすく説明してくれるネイティブには、ついにお目にかかることはできませんでした。中には、「違いますよ。more than one ―― はmore than one ―― であり、two or more ――s はtwo or more ――sですよ」といって、決して筆者をばかにしているのではなく、真剣な顔でそのようにいうわけです。よく考えてみると、彼らにとってはそうとしか理解しようがないのです。それを、日本人は、意味がどちらも「2つ以上の ――」であるから、この両者を同じものと考えてしまうわけです。

この両者の違いに行きつくまでは、大分、時間がかかりました。ここでお決まりの「トミイ方式」が出てくるわけですが、この疑問が出てきてから

more than one ―― とtwo or more ――sの例
more than two ――s とthree or more ――sの例
more than three ――s とfour or more ――sの例
more than x ――s とx+1 or more ――sの例

を徹底的に集め、それぞれの英文を精査してみました。その結果、ついに発見しました。more than one ―― は、1を強く意識した上での「2つ以上」であり、two or more ――sは、普通の「2つ以上」であるということが分かりました。

次の例文は「トミイ方式」で集めたものです。

Often, they give more than one name to the same thing.

中・上級者の方は、ニュアンスから考えると次の文ではおかしいことが分かると思います。

Often, they give two or more names to the same thing.

英文を読んでいるとmore than one ―― という表現にはよく出合いますので、「トミイ方式」で片っ端から集めて吟味するとmore than one ―― とtwo or more ――sとはニュアンスが違うということが分かります。このことを理解するには、例文をたくさん集める以外方法はありません。

(7) その他から

この分類は、上記の6つの分類に属さないすべてのデータを入れていますが、ここではパンクチュエーションの中の1つ、「セミコロン」についてお話します。

「セミコロン」の用法には大きく分けて

句や節や文を分割する用法
接続詞としての用法

の2つがあります。ここでは後者の「接続詞としての用法」についてお話しします。

日本語にはセミコロンが無いため、英文和訳の際など、英語に使われているセミコロンを無視してしまったり、日本語にもセミコロンをそのまま使って澄ましてしまったりする人がいます。しかし、セミコロンにはちゃんとした意味があるわけですから、その意味に訳出しなければおけません。ただ、厄介なことに、筆者が今までに集めた範囲内だけでも、therefore(したがって)、however(しかし)、that is(すなわち)、because(なぜならば)、on the other hand(一方)、rather(むしろ)、for instance(たとえば)、補足説明、追加説明、but also(~もまた)、furthermore(さらに)、otherwise(さもないと)など11個の意味に使われます。中には、therefore(したがって)とhowever(しかし)のように、全く反対の意味に使われていることすらあります。

詳しくは、後日、当該セクションの中で例文を挙げて説明しますが、ぜひ「トミイ方式」を駆使してたくさんの例文を集め、ご自分でそれぞれのセミコロンに訳を与えてみてください。そうすれば、英文和訳の際には正しい、自然な日本語に訳すことができ、それよりも大きな収穫は、英文を書く時とか、和文英訳するときなど、セミコロンを上手に使うことができ、ストレスの抜けた格調のある英文を書くことができるようになります。ことによると、さらなる用法も発見できるかもしれません。

これで、この連載の第1回に述べたように、7つの大分類を、1) 学習機能および2) 活用機能から見たエピソードのご紹介を終えることにします。そして次回の第5回では、3) 発表・制作機能という切り口から見たエピソードを、「前置詞」を例にとってお話しすることにします。

【筆者プロフィール】

富井篤(とみい・あつし)
技術翻訳者、技術翻訳指導者。株式会社 国際テクリンガ研究所代表取締役。会社経営の傍ら、英語教育および書籍執筆に専念。1934年横須賀生まれ。
主な著書に『技術英語 前置詞活用辞典』、『技術英語 数量表現辞典』、『技術英語 構文辞典』(以上三省堂)、『技術翻訳のテクニック』、『続 技術翻訳のテクニック』(以上丸善)、『科学技術和英大辞典』、『科学技術英和大辞典』、『科学技術英和表現辞典』(以上オーム社)など。


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