新しい英語語彙指導と辞書(最終回)

2014年 9月 12日 金曜日 筆者: 投野 由紀夫

――新指導要領、CAN-DOリスト、CEFR-Jをふまえて――

 前回は「受容語彙」を中心に単語の増やし方を考えてみました。最終回は、新しい学習指導要領、新しい英語教育を見据えながら、語彙学習の包括的なアプローチを考えてみましょう。

大きな英語教育改革の方向性

 この2,3年の間に、文部科学省や政府がトップダウンで矢継ぎ早に英語教育政策を打ち出しています。その大きな方向は、入口・中間・出口の総合的な改革です。図1を見てください。

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(図1)

 入口は小学校への英語教科の正式導入です。現在、英語活動として小5,6年で週1時間(30時間)ですが、これが小3,4年に前倒しされ、5,6年では正式教科として導入されるのがほぼ確実です。出口としては、大学入試改革があります。TOEFL を受験させるという報道に象徴されるように、大学入試センター試験のような一発勝負の入試を撤廃し、高校2-3年の時期に英語検定試験を受けてそのベスト・スコアで勝負する、というものです。と同時にテスト内容を現在のリーディング、リスニングなどの受容技能に偏ったものから、スピーキング、ライティングなどの発表技能も加味するように4技能パフォーマンステスト、という新しい観点を打ち出しています。

 さらに小中高の連携の要としては、「CAN-DOリスト」の導入があります。これは「ことばを使って何ができるか」を記した文ですが、従来のバラバラな観点別評価や文法事項の目標ではなく、CAN-DOによる到達目標の設定や評価をすることで、ことばを身につけて使うという側面への意識を高め、これを2020年の次期学習指導要領の一部に組み込む計画があります。

増える学習量、それでも不変のルール

 平成24年の学習指導要領の改訂で、中学は3時間から4時間に増え、目標の語彙量も900語から1,200語になりました。高校も「英語で教える」という目標のもと、3,000語という設定になりました。CAN-DOリスト作成のガイドラインが出てから、中高では学校単位、自治体単位で CAN-DOリスト作成が本格化しています。このような状況で、英語教師が生徒に身に着けさせるべき英語力とはどのようなものでしょうか? 接する英語の分量が多くなること自体は大賛成ですが、その増えた英語のテキストをどう扱うか、教師の力量が問われています。今までより分量の多い英語を一定時間で終わらせるためには、いくつかの決断が必要です。

 まず、全部いちいち読んで訳すことはせず、黙読して概要をつかむ、という自然なリーディング・スキルを養成します。同時に、テキストの大意を知っている英語で英問英答して「テキストの内容をもとに英語を使わせる機会を与える」ということです。これらのことを達成するには、その素地として、生徒に自分でテキストの内容を調べられる「自学自習の習慣づけ」が重要になってきます。自学自習の三種の神器は、「辞書+文法書+問題集(単語集)」です。取り組むテキストに対して、自分で「意味だけではだめで使いこなしが必要な単語」、「意味だけ知っていればいい単語」、「覚えなくていい単語」の目利きをし、それらの単語の種類に応じた語彙学習ストラテジーを駆使していけるような学習者を育てていければ、おのずと基礎力がしっかりした骨太の英語の土台ができ、4技能の運用能力も飛躍的に伸びるのです。

『エースクラウン英和辞典』の試み

 三種の神器の1つ、辞書の編集において、私の1つのチャレンジは「英語の基礎基本を作る基礎語彙にフォーカスした辞書」でした。『エースクラウン英和辞典』はその1つの答えです。会話の7割近くを占める高頻度トップ100語を「フォーカスページ」で特集。高校修了時に最低ここまではできてほしいというエッセンスを提示しました。そして初版では2,000語、5,000語レベルを区切り、2,000語までは活用語彙、5,000語は認識語彙として、テキストで単語を調べたら、2,000語まではチャンクで覚え、5,000語までは1対1で意味だけ覚える、というストラテジーを徹底させるように講習会などで指導しました。『エースクラウン英和辞典第2版』では、それをCAN-DOを意識した CEFR ベースの語彙レベル表示に切り替え、A2レベル(約2,300語)を活用語彙に、B1レベル(約4,400語)、B2レベル(約6,700語)をそれぞれ大学基本・難関レベルとして再定義しました。

『クラウン チャンクで英単語』の開発

 辞書指導による単語の目利きと語彙学習ストラテジーの活用は、自立した学習者を育てるのに大変有効でした。しかし、やはりいろいろな学校の実態をお聞きすると、『エースクラウン英和辞典』の思想、言い換えれば私の英語語彙学習の思想を具体化する語彙学習教材が欲しいという声が多くありました。三省堂編集部と協議を重ねた結果、語彙学習プロセスを具体的に助ける「発信語彙力をつけるための教材」、『クラウン チャンクで英単語』を開発することにしました。『エースクラウン英和辞典』で、受容語彙と産出(発信)語彙の違いを明示したら、実際にどのような練習をすればいいのかを具体的に示しています。基本的なコンセプトは図2のようになります。

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(図2)

 受容語彙と産出語彙で大別し、前者は「英語→日本語」、後者は「日本語→英語」という方向で意味から形へのマッピングを練習します。特に産出語彙の場合、最初は「単語→チャンク」というフレーズレベルでの発表スキルですが、第2段階として、「チャンク→文→パラグラフ」という、その表現を使うためのより大きな談話構造へのシフトを意図しているところがもう1つのポイントです。

学習プロセスの可視化

 『クラウン チャンクで英単語』の学習プロセスは非常に明確です。そのステップは、『エースクラウン英和辞典』で提案した、受容語彙、産出語彙のタイプ別学習法をそのまま活用しているのです:

① 受容語彙:チャンクで意味を確認する

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(図3)

② 単語を取り出して意味を確認する

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(図4)

③ 単語が日本語の意味から出てくるようにする(産出語彙レベルⅠ)

④ 単語からフレーズを作れる(産出語彙レベルⅠ)

⑤ チャンクを埋め込んだ文を作ってみる (産出語彙レベルⅡ)

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(図5)

 一見、単語集と同じようなページレイアウトですが、『クラウン チャンクで英単語』はチャンク学習を基軸にしている点が特徴で、そこから受容語彙モードに落ちるか、より発展的な産出語彙にステップアップするか、という練習モードの多様化を、できるだけ可視化する工夫をしています。

終わりに

 「学問に王道なし」といいますが、英語学習、とりわけ語彙学習はやみくもに量をこなすだけではいけません。100語の土台、2,000語の活用については明確な区切りと方法がありました。つまり「学問に王道あり」ということですねと、三省堂の編集長が言われました。そうかもしれません。そして、その正しい方法に適切な量の反復と実際に使ってみる機会が提供されれば、英語力は確実に使える力として、「ことばを使って何ができるか」という問いに自信をもって答えられるスキルへと育っていくに違いありません。

(了)

【筆者プロフィール】

投野由紀夫(とうの・ゆきお)

東京外国語大学大学院教授。専門はコーパス言語学、辞書学、第2言語語彙習得。
東京学芸大学大学院修士課程を修了後、東京都立航空高専、東京学芸大学を経て、渡英、ランカスター大学博士課程でコーパス言語学を修める。言語学博士。その後、明海大学をへて現職。
2003年、NHK『100語でスタート!英会話』講師で「コーパスくん」というキャラクターが人気爆発。日本ではじめてコーパス言語学の成果を英会話番組に本格的に応用した。同時に、JACET8000, ALC SVL12000などの語彙表の作成を主導するなどコーパスに基づく英語教材開発を推進。代表的なものに、『コーパス練習帳』、『コーパス1800/3000/4500』(東京書籍)、『エースクラウン英和辞典』『同英和辞典第2版』(三省堂)、『プログレッシブ英和中辞典第5版』(小学館)など。また学習者コーパス研究では世界的に著名で、JEFLLコーパス、NICT JLEコーパス、ICCIなどのコーパス構築プロジェクトを主導。現在はCEFR-Jという新しい英語到達度指標を開発し、CAN-DOリストとコーパス分析による英語シラバスの科学的構築に関する研究で世界中駆け回っている。International Journal of Lexicography (OUP), Corpora, International Journal of Learner Corpus Research (Benjamins) などの国際学術ジャーナルの編集委員、Lexicography (Springer)の編集長、英語コーパス学会副会長、アジア辞書学会元会長。

【編集部から】

三省堂では『エースクラウン英和辞典』の編者としておなじみの投野由紀夫先生の連載です。第2・第4金曜日の午前に掲載する予定です。
この連載への質問や感想は、問い合わせフォーム( http://dictionary.sanseido-publ.co.jp/support/question.html )から、「新しい英語語彙指導と辞書」への質問・感想である旨を記してご投稿ください。

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新しい英語語彙指導と辞書(6)

2014年 9月 8日 月曜日 筆者: 投野 由紀夫

――新指導要領、CAN-DOリスト、CEFR-Jをふまえて――

 前回は教科書の本文に隠れている発信語彙として身につけたい基本単語の使いこなしを,動詞を例にして考えてみました。今回は「受容語彙」を中心に単語の増やし方を考えてみましょう。

接する量を増やす

 語彙学習の急所として,「英語に接する量を増やす」「英語の接し方を多様にする」ということが挙げられます。まず何よりも接する量を増やすことが重要です。さて,日本の教科書はほかのアジアの国と比較して,どのくらいの厚さなのか,ご存じでしょうか。図1,2を見てください。図1は異なり語の比較,図2は教科書の本文の総語数の比較です。実際に調べてみると,日本の中学校の教科書は非常に薄いことが分かります。旧学習指導要領の教科書では,異なり語が韓国・台湾・中国の教科書に比べて,2分の1~3分の1です(図1参照)。総テキストサイズでは,何と3分の1~6分の1しかありません(図2参照)。

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(図1)

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(図2)

 平成24年4月から中学校学習指導要領が全面実施になりました。これに伴い,外国語教育に関しては,大きな変更点があります。1つは小学校5,6年に週1時間(年間35時間)の「外国語活動」を導入、聞くこと、話すことを中心に指導する,ということが正式に決定,そして中学校では聞く・話す・読む・書く技能を総合的に充実する,という趣旨で週3時間(105時間)から週4時間(140時間)に増加。それに伴って,学習語彙も「900語程度まで」から「1200語程度」と増加しました。特に従来の学習指導要領は語彙の「まで」と語彙の「上限」を設定していたのですが,今回からは上限設定はなくなり,1200語程度という概数を示すに留めました。これによって,検定教科書の語彙数は軒並み増加して,New Horizon, New Crown とも約1500語(固有名詞なども含む)が3年間で導入されています。

 しかし,量が増えても教え方が変わらないのは問題です。教え方が変わらないと,量をカバーできないからです。英語教員は従来型のテキストの指導法ではなく,まとまった英語を一定時間内で読み取り,その内容に関してやりとりできるような,量をカバーできる教え方を考えなければなりません。

 図3は高等学校の教科書の比較結果を示しています。高等学校の教科書は,量的には韓国とほぼ同じくらいです。語彙量もかなり多いことが分かります。

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(図3)

 要約すると,日本の中学校の教科書は薄く,高等学校の教科書では無理矢理一定の語彙レベルに到達させようとして、少ない分量のテキストに詰め込みすぎ、という感じです。これでは、一部の能力の高い生徒しかこなせず,ほとんどの生徒はあまり力をつけずに大学へ進学してしまうでしょう。中学の少ない分量の英語で身につけたか弱い英語の素地と、高校の少ない分量に多くの語彙を詰め込む感じの教科書作りのギャップがあまりに大きいからです。もちろん一部の生徒はこのギャップを他の手段で埋めています。塾や予備校、問題集をたくさんやる、など「接する量」を確保しているのです。しかし大多数の生徒は、あまり基礎力がないまま高校に行き、急に難しくなった教科書でついていけずに、わかったような、わからないような英語の説明を丸暗記して定期考査を受ける、そんな感じで高校でも英語力が伸びずに失敗し、大学に行っても実力的には中学校の英語がよくわかっていない、という学生を大量に生産しているのが現状なのです。

英語に接する量の問題

 外国語に接する量に関して,興味深い資料があります(図4)。1970年代の資料ですが,米国の国務省研修生(英語を母語とする人)が外国語を習うのに要する時間をまとめたものです。フランス語・ドイツ語・スペイン語の習得に要する時間と比べて,日本語・朝鮮語・中国語・アラビア語には何と約3倍以上の時間がかかっています。

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(図4)

 これを日本人が英語を学ぶことにあてはめると,日本人が英語を勉強して身に付けるのには時間がかかるということが言えます。ところが,中国や韓国が時間をたくさんかけて,量をいっぱいこなしているのに,日本だけが英語に接する量が非常に少ないというのが実情です。何とかこれを変えないといけないというのが,英語教育に携わる多くの者の認識です。その一環として,小学校で英語教育を始められたのだと思います。残念なのは,まだ足並みがそろっていないことです。このまま足並みがそろわず,旧来の思考で英語教育を考えていると,いろいろな弊害が出てくるかもしれません。大学を変えることも必要です。高等教育の英語の教え方が変わらなければ,出口管理ができません。中国では大学を卒業するときに,英語の試験があります。全員が受けなければなりません。級による証明を受けます。日本の大学でも,そのような試験を行った方がよいのかもしれません。

量が少ないから英語の全体像がつかめない

 図5はこのような日本人の英語力の典型的なパターンを図示したものです。

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(図5)

 正しい英語力は,真ん中(=幹の単語とその使う力)がどんどん伸びていって,裾野(=枝葉の単語)がどんどん広がります。しかし,日本人の英語力は裾野が広がっているようですが,背が伸びない感じです。核になる英語の力がきちんとできていないから,基本語彙があまり使えず,なかなか強くなれません。

自分で語彙学習ストラテジーを試し選んでいく

 中学校では英語が週4時間になり,教科書のテキストの量が増えました。自分で調べる力や勉強の仕方を工夫する力が大事になってきます。自分で語彙学習ストラテジーを試し,選んでいかなければなりません。英語教員はいろいろな勉強の方法を紹介して,生徒が自分でつかみとっていくように自学自習の力を育てなければなりません。

 新学習指導要領は辞書指導について述べています。中学生の辞書指導は1年生から継続的に行った方がよいと思います。しかし,実際は「辞書はこう使うんだぞ」と1時間ぐらいお印程度の辞書指導をして,あとは何もしないことが多いのではないでしょうか。そのような辞書指導では,生徒が辞書を絶対に引くようにはなりません。1時間の授業の中で必ずどこか1か所,目的を持って辞書を引かせる,ということを英語教員は工夫するべきです。

(つづく)

【筆者プロフィール】

投野由紀夫(とうの・ゆきお)

東京外国語大学大学院教授。専門はコーパス言語学、辞書学、第2言語語彙習得。
東京学芸大学大学院修士課程を修了後、東京都立航空高専、東京学芸大学を経て、渡英、ランカスター大学博士課程でコーパス言語学を修める。言語学博士。その後、明海大学をへて現職。
2003年、NHK『100語でスタート!英会話』講師で「コーパスくん」というキャラクターが人気爆発。日本ではじめてコーパス言語学の成果を英会話番組に本格的に応用した。同時に、JACET8000, ALC SVL12000などの語彙表の作成を主導するなどコーパスに基づく英語教材開発を推進。代表的なものに、『コーパス練習帳』、『コーパス1800/3000/4500』(東京書籍)、『エースクラウン英和辞典』『同英和辞典第2版』(三省堂)、『プログレッシブ英和中辞典第5版』(小学館)など。また学習者コーパス研究では世界的に著名で、JEFLLコーパス、NICT JLEコーパス、ICCIなどのコーパス構築プロジェクトを主導。現在はCEFR-Jという新しい英語到達度指標を開発し、CAN-DOリストとコーパス分析による英語シラバスの科学的構築に関する研究で世界中駆け回っている。International Journal of Lexicography (OUP), Corpora, International Journal of Learner Corpus Research (Benjamins) などの国際学術ジャーナルの編集委員、Lexicography (Springer)の編集長、英語コーパス学会副会長、アジア辞書学会元会長。

【編集部から】

三省堂では『エースクラウン英和辞典』の編者としておなじみの投野由紀夫先生の連載です。第2・第4金曜日の午前に掲載する予定です。
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新しい英語語彙指導と辞書(5)

2014年 8月 22日 金曜日 筆者: 投野 由紀夫

――新指導要領、CAN-DOリスト、CEFR-Jをふまえて――

 前回は教科書の本文を見て,「使いこなすべき単語」,「意味だけ知っていればいい単語」,「忘れていい単語」という区別をしっかりつけて,その区別に従って語彙学習の戦術を練る,ということをお話ししました。今日は具体的にテキストにある重要な基本動詞を料理する方法を考えてみます。

テキストに基本動詞の応用例を

 ほかにも先にあげたテキストを見ると,break,call,getなど,基本100語に含まれる単語がいろいろな形で使われています。

If the mosquito likes you, she lands on your skin very gently, and she breaks it with her proboscis tip. Proboscis tip? What’s that? It’s a kind of mouth and it is just under the mosquito’s eyes. It contains six sharp instruments called stylets. She pushes all six stylets into your skin at once, and if she hits a blood vessel, she’ll get a full dinner in about a minute. All this usually takes place so quickly and quietly that you may not have noticed anything was happening.

 下線部の単語と一緒に覚えることも1つの方法です。例えば,get a full dinner(ごちそうを食べる)のように,基本語と周辺の語を組み合わせた表現の練習をたくさん仕込むことができます。それは,英語教員が先に示した語彙力のイメージをつかんで,どんな語彙力をつけたらよいかという目利きができているかによるわけです。

単独ではなく「幹+枝葉」をセットで覚える

 単語を単独で覚えるのではなく,「幹」と「枝葉」をセットで覚えられるとよいでしょう。前にお話しした基本100語や1,000語の単語は中央にあり,情報量もたくさんあります。周辺の2,000語や3,000語の情報量は少ないです。しかし,それらを個々に覚えるのではなく,何度もいろんなところに出てくる基本語彙と周辺の「枝葉」の語彙をセットにして覚えると効果的です。

単語は単独では存在しない

 例えば,先にあげたテキストには take place や notice が出ています。これらは高校初級レベルでは覚えておきたい表現です。従来の単語学習のイメージだと,take place「起こる,行われる」,notice「気付く」のように,つづりに対して意味を覚えてテストをして終わりです。もちろん,英語教員の中には5,6個の例文を覚えさせる方もいるでしょう。もちろん受容語彙ならばそれで構いません。中学生は notice の意味を知っているだけでよいでしょう(図1)。

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(図1: 単語は単独では存在しない)

 ただ,高校3年生の発信語彙になると,創意工夫が必要です。図2を見てください。take place や notice がどんな語句と結びついて使われるかということに注目しましょう。take place ならば,何が「起きる」のかということです。いろんなものが take place します。皆さんは take place するものを10個くらいまとめて書けますか。これは英語力と関係があります。どんなものが take place するかという語感が大切で,take placeだけ知っていてもあまり意味がありません。
 notice の場合ならば,何に「気付く」のでしょうか。notice の目的語の典型例を少しでも知っていた方が得です。

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(図2:単語を使いこなすための情報)

 これらのことはコーパスを調べるとよく分かります(図3)。take place の主語を分析し,統計情報をもとに典型的なパターンを見つけて,生徒に練習させるとよいでしょう。event(行事),meeting(会議),ceremony(儀式)などが take place の主語になります。The discussion takes place.(議論が行われています)は,日本人にはなかなか出てこない英文ではないでしょうか。この中には,レベルが少し高いものもありますが,このようなリストさえあればチャンクで覚えさせた方がよいです。そうすると,take place が何と一緒に起こるかということ,何が起こるかというイメージがすごく湧きます。take place のように「幹」になる表現と,ceremony,event のように「枝葉」になる単語がマッチするわけです。これらのことは,最近よく紹介されるチャンクやフレーズ学(phraseology)にも通じています。

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(図3:「枝葉の語」+take place)

 同じことが notice にも言えます(図4)。notice と difference(違い,差),change(変化),problem(問題)をセットにして覚えておくと,「あっ,なるほど! 『違い』に『気付く』というようなことをよく言うんだなあ!」ということが分かり,語感が身に付いてきます。単純に notice を「気付く」と覚えるだけでは,日本語のイメージが刷り込まれてしまいます。いくつかの英語のフレーズで覚えておくように練習ができると,発信語彙を習得する上では効果的でしょう。

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(図4:notice +「枝葉の語」)

(つづく)

【筆者プロフィール】

投野由紀夫(とうの・ゆきお)

東京外国語大学大学院教授。専門はコーパス言語学、辞書学、第2言語語彙習得。
東京学芸大学大学院修士課程を修了後、東京都立航空高専、東京学芸大学を経て、渡英、ランカスター大学博士課程でコーパス言語学を修める。言語学博士。その後、明海大学をへて現職。
2003年、NHK『100語でスタート!英会話』講師で「コーパスくん」というキャラクターが人気爆発。日本ではじめてコーパス言語学の成果を英会話番組に本格的に応用した。同時に、JACET8000, ALC SVL12000などの語彙表の作成を主導するなどコーパスに基づく英語教材開発を推進。代表的なものに、『コーパス練習帳』、『コーパス1800/3000/4500』(東京書籍)、『エースクラウン英和辞典』『同英和辞典第2版』(三省堂)、『プログレッシブ英和中辞典第5版』(小学館)など。また学習者コーパス研究では世界的に著名で、JEFLLコーパス、NICT JLEコーパス、ICCIなどのコーパス構築プロジェクトを主導。現在はCEFR-Jという新しい英語到達度指標を開発し、CAN-DOリストとコーパス分析による英語シラバスの科学的構築に関する研究で世界中駆け回っている。International Journal of Lexicography (OUP), Corpora, International Journal of Learner Corpus Research (Benjamins) などの国際学術ジャーナルの編集委員、Lexicography (Springer)の編集長、英語コーパス学会副会長、アジア辞書学会元会長。

【編集部から】

三省堂では『エースクラウン英和辞典』の編者としておなじみの投野由紀夫先生の連載です。第2・第4金曜日の午前に掲載する予定です。
この連載への質問や感想は、問い合わせフォーム( http://dictionary.sanseido-publ.co.jp/support/question.html )から、「新しい英語語彙指導と辞書」への質問・感想である旨を記してご投稿ください。


新しい英語語彙指導と辞書(4)

2014年 8月 8日 金曜日 筆者: 投野 由紀夫

――新指導要領、CAN-DOリスト、CEFR-Jをふまえて――

前回までに,基本100語,2,000語の区切りと受容語彙,発信語彙という区別を「幹」と「枝葉」の喩えでとらえ,その重要度に応じた「メリハリのある」語彙学習を意図的に行うべきということを述べました。今回は具体的な教材の料理の仕方を例にこのポイントを振り返ってみましょう。

あるSELHi(スーパー・イングリッシュ・ランゲージ・ハイスクール)校での話

これはあるSELHi校での話です。私はSELHiのアドバイザーをしていて,あるとき研究授業に呼ばれました。教科書はD社のA教科書(Ⅱもの)を使っていました。授業では次の一節を扱っていました。

If the mosquito likes you, she lands on your skin very gently, and she breaks it with her proboscis tip. Proboscis tip? What’s that? It’s a kind of mouth and it is just under the mosquito’s eyes. It contains six sharp instruments called stylets. She pushes all six stylets into your skin at once, and if she hits a blood vessel, she’ll get a full dinner in about a minute. All this usually takes place so quickly and quietly that you may not have noticed anything was happening.

これを読めば分かるとおり,高校2年生で触れる英語として,少し難しいと思われる単語がいくつか入っています。

教科書本文を「語彙」の視点で見直す

単語を語彙レベルで分類して一見して分かるように示すと,次のようになります。

If the mosquito likes you, she lands on your skin very gently, and she breaks it with her proboscis tip. Proboscis tip? What’s that? It’s a kind of mouth and it is just under the mosquito’s eyes. It contains six sharp instruments called stylets. She pushes all six stylets into your skin at once, and if she hits a blood vessel, she’ll get a full dinner in about a minute. All this usually takes place so quickly and quietly that you may not have noticed anything was happening.

濃い色:1,000語レベル
薄い色:2,000語レベル
  :1万語以上レベル

濃い色の単語が1,000語レベルです。薄い色の単語が2,000語レベルです。ところが,proboscis,styletsという単語は,10,000語レベル以下です。本文を読んで,「恥ずかしい。私が知らない単語がある」と思った読者の方がいるかもしれません。しかし,全然恥ずかしくありません。私も,実はこの単語を知らず,研究授業のときに「あの単語は何だろう?」と思いました。このように高校の英語の教科書には,ときどき見たこともない単語も出てきます。

どこに焦点を置くか?

教科書本文の英文をどのように料理したらよいでしょうか。英語教員はテキストをどのように練習させたり解説したりするべきでしょうか。研究授業では,先にあげたテキストを次のように練習させていました。

(    )(    ) is a kind of mouth and it is just under the mosquito’s eyes.

これは空所補充問題です。このような問題がスクリーンに映し出されていて,空所を埋めさせるような口頭練習をさせていました。これは教科書本文中の英文です。空所にはproboscis tipが入ります。確かに後ろの部分のa kind of mouth ~という説明を読めば,「あの単語だ」と思い出して入れることはできるかもしれません。実際,生徒たちは正答を答えていました。この活動を否定するわけではありませんが,proboscisという単語は,JACET8000のランク外,おそらく大学入試問題にも出る可能性のほとんどない単語です。蚊(mosquito)に関するトピックなので,たまたま教科書に出ている単語だと言えるでしょう。

教科書の単語を網羅的に覚えさせる指導はよくありません。私は研究授業をとてもすばらしいと感じましたが,語彙指導の部分を少し見直した方がよいと思いました。私はこの研究授業の講評をするときに,正直に「私はproboscis tipという表現を知りませんでした。このような単語を発信語彙になることを念頭に口頭練習させることは見直した方がよいです。語彙の力のイメージを変えてはどうでしょうか」と提案しました。

正しい「単語の目利き」とは?

そこで正しい「単語の目利き」が必要になります。基本100語,あるいは1,000語ぐらいまでで使われる表現がテキストの中にどのように使われているかという視点で目利きをします。次の英文を見てください。

If the mosquito likes you, she lands on your skin very gently, and she breaks it with her proboscis tip. Proboscis tip? What’s that? It’s a kind of mouth and it is just under the mosquito’s eyes. It contains six sharp instruments called stylets. She pushes all six stylets into your skin at once, and if she hits a blood vessel, she’ll get a full dinner in about a minute. All this usually takes place so quickly and quietly that you may not have noticed anything was happening.

蚊に関する内容自体は重要だと思いません。proboscis tipよりも,むしろproboscis tipを説明している部分に注目すべき表現が隠れています。このテキストを学習したときに大事なのは,次のような説明をするための英語です。

(    )? What’s that?
 ―It’s a kind of (    ) and it is (    ).
 ―It contains (    ) called (    ).

何かを最初の空所に与えて,What’s that?と尋ねられたときに,このような文を使って説明できるような基礎英語力。これこそが語彙を発信的に使う時に威力を発揮します。そしてこのテキストはそれに関して素晴らしい素材を提供しているのです。
例えば,空所にblood vessel(血管)を与えるとすると,どう説明したらよいでしょうか。

( Blood vessel )? What’s that?
―It’s a kind of ( tube ) and it is ( in your body ).
―It ( carries blood all around your body ).

相手が知らないことについてWhat’s that?と尋ねたときに,こういう文を使って説明する練習をさせます。生徒がIt’s a kind of tube and it is in your body. It carries blood all around your body.(それは一種の管で,あなたの体内にあります。それは身体中の血液を運びます)と説明できれば,すばらしいことです。やさしい単語でblood vesselが説明できています。私は講評で「易しくて良質の表現がテキストにたくさん出てきています。それに注目して表現がパッと出てくるように,素材のテキストを料理してはどうでしょうか」と言いました。例えば,こけし,たくわん,三味線など,日本の風物や文化を説明させたりする活動にも展開できるでしょう。

Kokeshi [ Takuwan / Shamisen ]? What’s that?
―It’s a kind of doll [food, musical instrument].

このような基本語彙の表現にフォーカスした練習は非常に大事だと思います。proboscis tipを覚えるよりも,基本語彙を使いこなす運用能力を養ってあげたいなと,研究授業を見て感じました。

(つづく)

【筆者プロフィール】

投野由紀夫(とうの・ゆきお)

東京外国語大学大学院教授。専門はコーパス言語学、辞書学、第2言語語彙習得。
東京学芸大学大学院修士課程を修了後、東京都立航空高専、東京学芸大学を経て、渡英、ランカスター大学博士課程でコーパス言語学を修める。言語学博士。その後、明海大学をへて現職。
2003年、NHK『100語でスタート!英会話』講師で「コーパスくん」というキャラクターが人気爆発。日本ではじめてコーパス言語学の成果を英会話番組に本格的に応用した。同時に、JACET8000, ALC SVL12000などの語彙表の作成を主導するなどコーパスに基づく英語教材開発を推進。代表的なものに、『コーパス練習帳』、『コーパス1800/3000/4500』(東京書籍)、『エースクラウン英和辞典』『同英和辞典第2版』(三省堂)、『プログレッシブ英和中辞典第5版』(小学館)など。また学習者コーパス研究では世界的に著名で、JEFLLコーパス、NICT JLEコーパス、ICCIなどのコーパス構築プロジェクトを主導。現在はCEFR-Jという新しい英語到達度指標を開発し、CAN-DOリストとコーパス分析による英語シラバスの科学的構築に関する研究で世界中駆け回っている。International Journal of Lexicography (OUP), Corpora, International Journal of Learner Corpus Research (Benjamins) などの国際学術ジャーナルの編集委員、Lexicography (Springer)の編集長、英語コーパス学会副会長、アジア辞書学会元会長。

【編集部から】

三省堂では『エースクラウン英和辞典』の編者としておなじみの投野由紀夫先生の連載です。第2・第4金曜日の午前に掲載する予定です。
この連載への質問や感想は、問い合わせフォーム( http://dictionary.sanseido-publ.co.jp/support/question.html )から、「新しい英語語彙指導と辞書」への質問・感想である旨を記してご投稿ください。


新しい英語語彙指導と辞書(3)

2014年 7月 28日 月曜日 筆者: 投野 由紀夫

――新指導要領、CAN-DOリスト、CEFR-Jをふまえて――

前回までに英語の語彙力のうち,最も中核となる100語,運用能力のベースを作る2,000語の話をしました。今回はそれらの語彙を身につけるための語彙指導の急所について考えてみます。

II 真の英語力を培う語彙指導の急所とは?

研修会などで痛切に感じること

英語教員の研修で語彙指導のことを話す機会が多くありますが,最も先生方に共通して欠落しているのは「英語力のイメージ」です。どんな力を生徒につけさせたいか,ということの全体像があるかないか,でその先生の指導方法は大きく変わってきます。そしてその全体像がこの20年くらいでコーパス分析などにより具体的にわかってきている様子をお知らせすることで,先生たちの目の輝きが違ってきます。自分たちの教えるべきポイントが明確になってくるからです。

英語教員の先生方は英語の語彙に関するイメージがはっきりすると,ご自身の授業について「あっ,ちょっと待てよ」と振り返ることができるようになります。英語の力をつけるとしたら,何が重要か考えることができます。そうすると,教材の料理の仕方,力点の置き方や置き場所などが変わってきます。

語彙指導の急所として今回は次の2点を考えてみましょう:

・「幹」の単語と「枝葉」の単語の「学習方法を分ける」
「幹」:意味だけでなく,「使いこなし」を学ぶ ⇒ 発信力をつける
「枝葉」:基本的に「意味」だけでよい ⇒ 受信力,数多く覚える
・先生が「幹」と「枝葉」を分けられる。生徒が分ける方法を知っている。

「幹」と「枝葉」を分ける

まず,「幹」の単語と「枝葉」の単語の学習方法を分けましょう。基本100語とそれ以下の単語に関して述べましたが,「幹」となる基本100語の場合は意味だけではなく「使いこなし」を覚えます。一方,「枝葉」の場合は基本的に意味だけ覚えればよいのです。図1を見てください。

3-figure1.png

(図1)

ベタな単語学習をさせてはいけません。基本100語もそれ以外の単語も同じように教えてしまう英語教員がいます。どちらも同じ種類の単語だと思い込んで勉強してしまう生徒がいます。しかし,これらの英語教員や生徒は情報量が多く核になる基本語彙とそれ以外を分けて考える必要があります。基本語彙は数が少ないけれども,しっかり深く学びます。そして周辺語彙は意味だけ知っていればよいもの,または基本語彙と一緒に使いこなしたい語に分けて,大量に覚えます。これが大事なことです。

語彙学習の分野では,偶発的語彙学習(incidental vocabulary learning)と意図的な語彙学習(intentional vocabulary learning)という区別があります。偶発的語彙学習とは、特に意図して学習しようとしているわけではなく、何か他の言語学習(あるいは言語を使った活動)の過程で、偶然にある語彙を学ぶ、ということです。最も良い例は多読です。多読で知らない単語にたくさん触れるうちにたまたま身に付けるという現象があると言われています。日本でも多読を推奨する先生は多く、私も英語力の向上のために是非必要だと思いますが、語彙学習を多読だけでできるかといえば、研究成果を見る限り、少々疑問です。

いろいろな研究を総合すると、多読をしてある単語が頭に入るためには10?20回程度出会う必要があり、それでもその単語のスペリングだとか意味のごく一部分しか頭に残らないことが多いのです。そしてその後、出会わなければかなりの確率で忘れてしまいます。Hill & Laufer (2003)では、2,000語の獲得のためには約800万語に相当するテキスト(平均的な小説で約420冊)に触れる必要があると言っています。これは正直言って中高の現状のカリキュラムではどうやっても無理です。つまり、偶発的語彙学習だけでは語彙はなかなか身に付かない、ということの証拠だと言ってよいでしょう。たまたまいっぱい触れているうちに語彙が身に付くことは極めてまれです。したがって,意図的な語彙学習(intentional vocabulary learning)が必要です。つまり,意図的に自分で計画してやらないといけません。英語教員が「こういう語彙をこう覚えなさい」と指導しなければ,生徒が語彙を身に付けることは厳しいでしょう。

「幹」と「枝葉」を分けられる

そして,英語教員が「幹」と「枝葉」を分けられる,生徒が分ける方法を知っていることが大事です。そのためには100語,2,000語の区切りに関する情報をチェックリストのような形で先生と生徒が共有しいていることが大事です。『エースクラウン英和辞典第2版』では,トップ100語のうちの動詞・前置詞・疑問詞・接続詞など文法的活用度の高い基本語に関して,フォーカスページを設けています。これによって,最重要の100語以内の単語のふるまいと最低限身に付けたい用法を解説しています。

さらにトップ2,000語に関するレベルを CEFR(Common European Framework of Reference for Languages 欧州言語共通参照枠)の A1, A2 の2レベルで示しました。まずはこのレベルの単語は使えるようにならないといけない,という仕切りとして使ってみてください。
さらに現在以下のようないろいろな資料類が出ています。適宜参考にしてください。

・投野由紀夫『コーパス超入門』(小学館)
トップ100語の詳しい内容の解説。トップ2,000語の分類と使い分けの解説などが出ている。
・BNC を分析した語彙表
私の分析の基となった British National Corpus の語彙統計です。
何種類か出ていますが,以下の物は無料で使えます:

・WordSmith の Mike Scott 作成のリスト(WordSmithというソフトで開けます):
http://www.lexically.net/downloads/version4/downloading%20BNC.html
・Adam Kilgarriff の lemma list (活用形などをまとめて辞書形に整理したリストです。上位6,318語が閲覧できます。1億語の BNC の中から800回以上の頻度があった単語のみを選んであります)
http://www.kilgarriff.co.uk/BNClists/lemma.al
・Lancaster BNC Frequency Lists
Leech, Rayson, & Wilson (2001) Word Frequencies in Written and Spoken English (Routledge) のコンパニオンサイトの情報
全体,話し言葉,書き言葉,品詞別などのリストが取り出せます
http://ucrel.lancs.ac.uk/bncfreq/flists.html

(つづく)

【筆者プロフィール】

投野由紀夫(とうの・ゆきお)

東京外国語大学大学院教授。専門はコーパス言語学、辞書学、第2言語語彙習得。
東京学芸大学大学院修士課程を修了後、東京都立航空高専、東京学芸大学を経て、渡英、ランカスター大学博士課程でコーパス言語学を修める。言語学博士。その後、明海大学をへて現職。
2003年、NHK『100語でスタート!英会話』講師で「コーパスくん」というキャラクターが人気爆発。日本ではじめてコーパス言語学の成果を英会話番組に本格的に応用した。同時に、JACET8000, ALC SVL12000などの語彙表の作成を主導するなどコーパスに基づく英語教材開発を推進。代表的なものに、『コーパス練習帳』、『コーパス1800/3000/4500』(東京書籍)、『エースクラウン英和辞典』『同英和辞典第2版』(三省堂)、『プログレッシブ英和中辞典第5版』(小学館)など。また学習者コーパス研究では世界的に著名で、JEFLLコーパス、NICT JLEコーパス、ICCIなどのコーパス構築プロジェクトを主導。現在はCEFR-Jという新しい英語到達度指標を開発し、CAN-DOリストとコーパス分析による英語シラバスの科学的構築に関する研究で世界中駆け回っている。International Journal of Lexicography (OUP), Corpora, International Journal of Learner Corpus Research (Benjamins) などの国際学術ジャーナルの編集委員、Lexicography (Springer)の編集長、英語コーパス学会副会長、アジア辞書学会元会長。

【編集部から】

三省堂では『エースクラウン英和辞典』の編者としておなじみの投野由紀夫先生の連載です。第2・第4金曜日の午前に掲載する予定です。
この連載への質問や感想は、問い合わせフォーム( http://dictionary.sanseido-publ.co.jp/support/question.html )から、「新しい英語語彙指導と辞書」への質問・感想である旨を記してご投稿ください。


新しい英語語彙指導と辞書(2)

2014年 7月 14日 月曜日 筆者: 投野 由紀夫

――新指導要領、CAN-DOリスト、CEFR-Jをふまえて――

前回は、トップ100語が動詞+機能語で会話の約7割弱を占め大活躍する、という話をしました。今回はもう少し語彙レベルを下げて行くとどうなるか、を見てみましょう。

■■2000語ごとに増えていったら…

トップ2,000語では、話し言葉の約9割、書き言葉データの約8割をカバーしますが、それ以降語数を増加させてもカバー率はあまり増えなくなります。図1を見てください。これは約4億語規模の書き言葉コーパスでの上位ランク語のカバー率です。

2-figure1.png
(図1)

トップ2,000語で書き言葉データ全体の83%をカバーするのですが、最初の2,000語に比べると次の2,001~4,000語レベルではたった5%しかカバー率は増えません。同様に、続く4,001~6,000語レベル、6,001~8,000語レベル、8,001~10,000語レベルではそれぞれ3%、2%、1%増加するだけ。それほど、最初の2,000語とそれ以降の単語との重要度は格段に異なります。

トップ2,000語で約8割というのは書き言葉の場合です。話し言葉では、トップ2,000語は約9割をカバーします。話し言葉の方が限られた単語で身の回りのことを表し、単語が少ないからです。これでトップ2,000語は非常に重要だということが理解できるでしょう。

■■英語基本語彙の仕事量

英語基本語彙の構造図を再度見て下さい(図2)。

1-figure2.png
(図2)

この円の中心にあった100語に注目してください。100語が小さい割合のように見えますが、とんでもありません。実は一番重要なのはこの100語です。この100語の基礎語彙がものすごく重要な役割を果たしていて、ついで重要なのがトップ2,000語です。この英語基本語彙の「仕事量」をイメージで示したのが図3です。

2-figure3.png
(図3)

特に覚えておいていただきたいのは、この100語の中身が動詞と機能語が中心だということです。動詞で文の骨組みを作り、機能語群は文を組み立てるパーツになります。

次の基本2,000語を含めると書き言葉の8割を占めます。面白いのは、2,000語のうちの半分は名詞だということです。つまり、トップ100語に内容語はほとんどなく、文を作っています。ところが、次の2,000語に関しては、半分以上が内容を表す言葉になります。これらが大体、高校2年生ぐらいまでに出ます。その2,000語はとても重要です。次の2,000語、次の2,000語と足しても、役割的にはほんの少ししか増えません(図3の右下のグラフを参照)。これはトップ2,000語がいかに重要かを示していると言えるでしょう。

ちなみに、書き言葉の9割をカバーするには、どれくらいの語数が必要でしょうか。大体6,000語ぐらいです。したがって、書き言葉の8割以上をカバーするためには、かなりたくさんの単語を覚えなければなりません。もちろんこれはネイティブ・スピーカーの読む文章を対象にしています。高校修了レベルまでは語彙を統制しているので、もっと語彙レベルの低いテキストに接することになります。

■■2,000語の中身は?

トップ2,000語の内訳は図4のとおりです。

2-figure4.png
(図4)

半分は名詞です。それから主要な内容語になる形容詞や副詞も含まれます。また、機能語もたくさん見られます。表1を見てください。例えば基本副詞は時間・頻度・様態を表すものです。stance wordとは、会話のときに相手との距離をとって、ダイレクトにならないようにしたり、少し表現を緩和したりするような単語です。それから、たくさん出てくるのは、指示語(deictic)です。会話では、名詞を使わずに略すことが多く、this、thatのような指示語がたくさん出てきます。それから談話標識(discourse marker)もたくさんあります。

表1:2000語の単語群の顔

名詞 person, thing, way, time, etc.
形容詞 lovely, nice, different, good, bad, etc.
法助動詞 may, must, will, should, etc.
動詞 give, leave, stop, help, feel, put, etc.
  軽動詞 do, make, take, get, etc.
副詞 時間 today, tomorrow, yesterday, etc.
   頻度 always, usually, sometimes, etc.
   様態 quickly, suddenly, etc.
stance word just, whatever, bit, actually, really, etc.
指示語 this, that, here, there, now, then, etc.
談話標識 you know, I mean, right, well, so, etc.
■■「幹」と「枝葉」―語彙は立体構造

図5は、高校までの学習語彙3,000語を立体的に捉えています。トップ100語は少ししか面積がないように見えますが、ものすごく仕事をするので、語彙知識としては非常に深くなっています。使い方が複雑で、用法に厚みがある単語と言えます。そして、次の1,000語ぐらいも、そういう意味ではかなり使い出があって、そのあとはだんだん薄くなります。周辺に行くほど使い方は単純です。高校で学習する3,000語レベルの単語について言えば、意味だけを知っていればよい単語群になります。

2-figure5.png
(図5)

注意したいのは、3,000語ぐらいでも大学よりも上級のレベルに行くと、発信語彙になりえます。そして、おそらくそのような人は7,000~8,000語ぐらいを受容語彙として持ち、より上位に行くほど語彙力に広がりが見られるでしょう。

■■受容語彙と発信語彙のメリハリ

上位までいくと、語彙はどのくらいの語数になるのでしょうか。図6を見て下さい。

2-figure6.png
(図6)

大学では3,000~6,000語のアカデミック語彙というものが必要になります。そして、6,000語以上のレベルは分野別の語彙になります。例えば、理科系・経済・法律など、専門分野で英語を使える力になります。これを「ESP(English for Specific Purposes)語彙」と言います。

中学校・高等学校では、話し言葉の9割、書き言葉の8割をしっかり使えるように、まず基本2,000語を学習しなければなりません。さらに1,000~2,000語ぐらいの単語を上乗せして、大学受験の基礎に備えるというのが現実的です。

大事なのは、ピラミッドの厚くなっている土台部分です。ところが、土台をしっかり作れず、逆三角形になっている生徒がたくさんいます。上の部分を高くしても、土台がしっかり作れていなければ、英語は身に付きません。そういう視点から、私たち英語教員がどんなふうに語彙指導をしているか振り返る必要があるのではないでしょうか。

(つづく)

【筆者プロフィール】

投野由紀夫(とうの・ゆきお)

東京外国語大学大学院教授。専門はコーパス言語学、辞書学、第2言語語彙習得。
東京学芸大学大学院修士課程を修了後、東京都立航空高専、東京学芸大学を経て、渡英、ランカスター大学博士課程でコーパス言語学を修める。言語学博士。その後、明海大学をへて現職。
2003年、NHK『100語でスタート!英会話』講師で「コーパスくん」というキャラクターが人気爆発。日本ではじめてコーパス言語学の成果を英会話番組に本格的に応用した。同時に、JACET8000, ALC SVL12000などの語彙表の作成を主導するなどコーパスに基づく英語教材開発を推進。代表的なものに、『コーパス練習帳』、『コーパス1800/3000/4500』(東京書籍)、『エースクラウン英和辞典』『同英和辞典第2版』(三省堂)、『プログレッシブ英和中辞典第5版』(小学館)など。また学習者コーパス研究では世界的に著名で、JEFLLコーパス、NICT JLEコーパス、ICCIなどのコーパス構築プロジェクトを主導。現在はCEFR-Jという新しい英語到達度指標を開発し、CAN-DOリストとコーパス分析による英語シラバスの科学的構築に関する研究で世界中駆け回っている。International Journal of Lexicography (OUP), Corpora, International Journal of Learner Corpus Research (Benjamins) などの国際学術ジャーナルの編集委員、Lexicography (Springer)の編集長、英語コーパス学会副会長、アジア辞書学会元会長。

【編集部から】

三省堂では『エースクラウン英和辞典』の編者としておなじみの投野由紀夫先生の連載です。第2・第4金曜日の午前に掲載する予定です。
この連載への質問や感想は、問い合わせフォーム( http://dictionary.sanseido-publ.co.jp/support/question.html )から、「新しい英語語彙指導と辞書」への質問・感想である旨を記してご投稿ください。


「Sanseido Word-Wise Web」連載にあたって

2014年 6月 27日 金曜日 筆者: 投野 由紀夫

新しい英語語彙指導と辞書――新指導要領、CAN-DOリスト、CEFR-Jをふまえて――(1)

この1~2年ほど、国のさまざまなレベルで英語教育政策の根幹にかかわるような大きな動きがありました。2011年7月に「国際共通語としての英語力向上のための5つの提言と具体的施策」がとりまとめられ、その提言の1つ目が「生徒に求められる英語力について、その達成状況を把握・検証する」というものでした。ここから国としての学習到達目標をCAN-DOリストの形で設定すること、という提案が明示されて、欧州言語共通参照枠(CEFR)の考え方がクローズアップされ、高校・中学でのCAN-DOリスト作成の流れが生まれてきます。

昨年春には「大学入試にTOEFLを」という国会議員の提言に端を発して、大学入試に代わる4技能テスト導入の可能性が議論され、秋には教育再生実行会議第4次提言で「達成度テスト」という表現で一発勝負の大学受験に代わるシステムの提案がされ、テスト開発会社は4技能テストの構築にしのぎを削っています。

さらに小学校への本格的な英語導入、小中高一貫の到達度指標の構築の必要性などが議論され、日本は現在、国をあげてグローバル人材育成という課題のもと、英語教育を入口・中間・出口のそれぞれで同時に抜本的改革に乗りだそうとしているのです。このような流れの中で、英語教師は何を考え、どう対処していかねばならないのでしょうか?

この連載では、このような激動の時代だからこそ英語教員として確実に理解しておきたい「英語力の本質」について、科学的なデータに基づいて解説をすると同時に、そうした英語力を身につけるための指導を具体的にどうするか、という点を一緒に考えていきたいと思います。

英語基本語彙の構造とその重要度

■■学習指導要領の改訂

新学習指導要領が施行されて、中学校の教科書が2012年度から、高校も2013年度から改訂されました。表1は新学習指導要領の学習語彙に関する資料です。ご覧になればお分かりになるとおり、中学校の学習語彙は900語から1,200語、そして高等学校の場合は最低2,200語だったところから3,000語と、語彙量はかなりアップしています。高等学校の「コミュニケーション英語Ⅰ」、「コミュニケーション英語Ⅱ」、「コミュニケーション英語Ⅲ」では400語、700語、700語と増えていきます。旧学習指導要領の学習語彙を2,200語だとすると、約800語の差があります。

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(表1)

学習語彙増加の背景には、従来の「ゆとり教育」見直しがあり、また福田内閣時代の教育再生懇談会などでの答申で日本の英語にかける時間や教科書の分量の少なさが指摘されたことによります。ただ、これを見た皆さんの印象はどうでしょうか? 900語から1,200語、2,200語から3,000語という増加率はわかっても、その変化が実際どのくらい英語の力を高めるか、自分の教え方がどの程度変わるか、ということについてイメージできるでしょうか? おそらくぼんやりとしかわからない、というのが偽らざるところでしょう。ここでは、私の調査で明らかになった英語基本語彙の重要なポイントをお話ししましょう。

■■コーパスにみる英語基本語彙の構造

英語基本語彙の構造について、図1のような円を使って説明しましょう。まずは中心の100語、それから1,000語と1,200語、そして2,000語という区切りがあります。1,200語は中学終了時、3,000語は高校終了時の区切りであるということを頭に入れてください。実際のところ、新学習指導要領では上限がなくなります。程度を表しているだけで、これ以上学習しても構いません。

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(図1)

では、この最もよく使う100語、1,000語、2,000語、3,000語で何ができるのかということを一緒に考えたいと思います。

■■会話コーパストップ100の単語の内訳

実は英語の語彙というのは基本100語ぐらいで、かなりのことができます。図2を見てください。大量に英語の会話などを集めたデータがあるとします。そして、いろんな場所で話されているものをコンピュータに入れて解析します。1,000万語のデータを集めますと、例えば、異なり語(同じ語が何度出現しても1と数えた語数)が57,000語ぐらいあります。これはかなり多いです。主見出しの数で数えると、『エースクラウン英和辞典第2版』の倍近く、『ウィズダム英和辞典第3版』よりもすこし多いくらいです。

1-figure2.png
(図2)

57,000語のトップの100語をとると、どのぐらいになるでしょうか。何とこの1,000万語のデータ全体の7割近く(67%)を占めます。つまり、この100語の働きはすごく、57,000語からなる会話の中で大活躍しているということです。

では、一番よく使う100語はどんな単語でしょうか。主要な動詞20くらいと助動詞、接続詞、代名詞、前置詞、副詞などの機能語、つまり動詞と文法関係を示す単語がほとんどです。面白いことに、名詞と形容詞のような内容語は10語しかありません。すなわち、これら会話データ全体の6~7割を占めるトップ100語は、英語の文の骨組みを作っているということです。まず、この100語の単語をしっかりと使いこなせるということがとても重要です。

この100語を使えているどうかの差は非常に大きいです。これらの100語を使いこなす訓練をきちんとしていなければ、英語ができるようにはなりません。とても大事な部分をおろそかにして、難しい単語の勉強ばかりさせる語彙指導は見直さなければなりません。

(つづく)

【筆者プロフィール】

投野由紀夫(とうの・ゆきお)

東京外国語大学大学院教授。専門はコーパス言語学、辞書学、第2言語語彙習得。
東京学芸大学大学院修士課程を修了後、東京都立航空高専、東京学芸大学を経て、渡英、ランカスター大学博士課程でコーパス言語学を修める。言語学博士。その後、明海大学をへて現職。
2003年、NHK『100語でスタート!英会話』講師で「コーパスくん」というキャラクターが人気爆発。日本ではじめてコーパス言語学の成果を英会話番組に本格的に応用した。同時に、JACET8000, ALC SVL12000などの語彙表の作成を主導するなどコーパスに基づく英語教材開発を推進。代表的なものに、『コーパス練習帳』、『コーパス1800/3000/4500』(東京書籍)、『エースクラウン英和辞典』『同英和辞典第2版』(三省堂)、『プログレッシブ英和中辞典第5版』(小学館)など。また学習者コーパス研究では世界的に著名で、JEFLLコーパス、NICT JLEコーパス、ICCIなどのコーパス構築プロジェクトを主導。現在はCEFR-Jという新しい英語到達度指標を開発し、CAN-DOリストとコーパス分析による英語シラバスの科学的構築に関する研究で世界中駆け回っている。International Journal of Lexicography (OUP), Corpora, International Journal of Learner Corpus Research (Benjamins) などの国際学術ジャーナルの編集委員、Lexicography (Springer)の編集長、英語コーパス学会副会長、アジア辞書学会元会長。

【編集部から】

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