オンライン辞書『三省堂 Web Dictionary』
スマートフォン版サービス開始

2012年 4月 3日 火曜日 筆者: 辞書ウェブ 編集部
オンライン辞書『三省堂 Web Dictionary』 スマートフォン版サービス開始

 ときは2001年、時代はまだ「ブロードバンド」が全国に普及し始めたばかりの頃(筆者は当時ISDN回線)、または「ブログ」ということばを耳にし始めた頃でしょうか。

 今は隆盛を極めつつある「ソーシャルネットワーキング」などは存在せず「掲示板(BBS)」での交流が一般的だった頃の話です。

 Web上で辞書を引くということがまだ目新しかった当時、本格的な電子辞書の普及が始まる以前に、『三省堂Web Dictionary』は日本初のオンライン総合辞書検索サービスとして世に登場しました。

 辞書出版社が独自でこのようなサービスを始めるということは、世間的にも画期的に捉えられたらしく、全国紙の1面を飾るなど各種メディアにも取り上げられ、トップページのPV数はピーク時、月間で500万アクセスを超える状況でした。

 それから11年、2012年の世の中には、2001年当初では想像もしなかったことばやサービスがあふれています。「スマホ」ということばも、当時の人間が耳にすれば、某アイドルグループの新番組かと勘違いしたかもしれません。

 現在、そのような勘違いをする方はいらっしゃらないと思いますが、パソコンに準じる機能を持つ携帯電話端末「スマートフォン」は、辞書というコンテンツをより一層我々にとって身近にしてくれるでしょうか?

 11年目の『三省堂 Web Dictionary』、まだまだ進化中ですが、
このたび4/2より「スマホ」に最適化したサービスを開始いたしました。

 時代に合った新たなサービスをご提供できる辞書出版社として、
三省堂は取組みを続けてまいります。

『三省堂 Web Dictionary』 スマートフォン版の詳細はこちら


英語辞書の将来と利用者の役割 (2)

2008年 9月 26日 金曜日 筆者: 関山 健治

英語辞書攻略ガイド (14)

連載の最終回は,主に利用者,教員の視点から,これからの英語辞書について考えてみたいと思います。

インターネット時代の辞書批評のあり方

一昔前の英語辞書は,いわゆる「英語名人」「辞書名人」と称されるような,天才的な辞書執筆者,編集者のライフワークとして編纂されていたものがほとんどでした。そのためか(専門家による研究書等での書評,分析を除けば)多くの英語学習者は辞書の内容を絶対視し,辞書の内容に疑問を唱えることをタブー視する雰囲気さえあったように思います。

しかし,最近では,ネット掲示板やブログの普及により,一般の英語学習者でも辞書の内容についての批評や,時には悪意に満ちた誹謗中傷さえも簡単にできるようになりました。辞書執筆者,編集者にとっては,利用者の意見を収集したり,誤植や誤記の指摘を受け,増刷時に修正をする機会が今まで以上に増えたことで,英語辞書の発展にも大きな影響を及ぼしていますが,一方で,一部の心ない書き込みにより,辞書の改善とは関係ないレベルでの不毛な議論が今まで以上にはびこっているのは大変残念です。

とくに,同レベルの辞書の新刊,改訂が相次いだときなどは,「○○という単語はX, Y辞書には載っているのにZ辞書には載っていない。だからZ辞書は劣っている」といった論調での,木を見て森を見ない辞書批評や,さらには「X辞書の編集主幹は○○大学の教授だから,××大学の教授が編纂しているY辞書よりも信頼できる」といったトンデモ発言が,一晩で何十件という単位で匿名掲示板に書き込まれることもあります。

辞書の内容と全く関係のない,出版社や編者の誹謗中傷や,恣意的に選別した特定の語や語義が収録されているか否かで辞書全体を評価するような風潮などは,決して好ましいことであるとは言えません。利用者である私たちは,辞書の内容を常に批判的にとらえる一方で,よりよい辞書に発展していく「種まき」としての,健全な辞書批評をしたいものです。

ことばを尊ぶ姿勢を伝える辞書指導をめざして

従来の辞書指導は,辞書の引き方や情報の読み取り方を教える,いわば技能重視の内容が中心でした。しかし,ネットの普及により,誰もが無料で膨大な情報を得られるのが当然という今の世の中では,ことばの大切さや,ことばに対する畏敬の気持ちも伝えていくことが必要なのではないでしょうか。

私を含め,辞書に携わっている研究者の中には,中学生や高校生の頃,知りたいことをいつでも的確に教えてくれる辞書を「偉い」と感じ,人一倍辞書を引く中でことばへの興味を深めていった人もたくさんいます。辞書の重さに文句を言いつつも,その重さが,ことばに対する畏敬の気持ちにつながっていたと言えます。しかし,どんなにたくさんの辞書が入っていてもポケットに収まってしまう電子辞書からは,冊子辞書のような,通常の書籍とは一線を画した「重厚さ」や「特別感」といった,辞書という書物独特の「オーラ」を感じることはできません。英語以前に,「ウザい」「キモい」に代表される,人を傷つける日本語が氾濫していることも,辞書メディアの変化と少なからず関係があるというのは言い過ぎでしょうか。

「ハレ」の日の賞品に冊子辞書を

こんな時代だからこそ,(時代錯誤だとお叱りを受けるかもしれませんが)皆勤や成績優秀者への副賞や卒業記念品として,生徒,学生に冊子辞書を贈呈してみてはいかがでしょうか。

私のクラスでは,週2回の講義に1年間無遅刻無欠席で皆勤した学生全員に,『ウィズダム英和辞典』を進呈しています。最初は,「電子辞書を持っているのに冊子辞書なんて…」と言っていた学生も,冊子辞書の良さに気づくと「覚えた単語にアンダーラインが引けるし,カバンに押し込んでも壊れないし,一生の記念になる紙の辞書もいいものですね」などと好意的な評価を寄せるようになります。今までの努力をねぎらい,よりいっそうの勉学を期待する象徴として,膨大な情報が目で見え,身体で感じることのできる形になって凝縮された冊子辞書は,ことばの大切さを伝える上でも最適なものと言ってよいでしょう。

おわりに

連載の最初にもお話ししましたが,英語学習が「辞書に始まり,辞書に終わる」ことは,昔も今も変わりません。技能としての英語運用力を養うことに加え,ことばを尊び,ことばを使う人間を尊ぶことをめざした指導が,これからの英語教育現場では望まれています。折しも,相撲界が大麻騒動で揺れる中,「心技体」のバランスのとれた能力を身につけさせることは,相撲の稽古だけでなく,英語教育においても同様に求められているのではないか,ということを強く感じます。

半年間という限られた期間の連載ですので,舌足らずな点も多かったかと思いますが,本連載が,諸先生方の英語教育現場での辞書指導に何かのご参考になりますことを祈念しております。なお,本連載で詳しく扱うことができなかった,辞書の情報の詳しい読み取り方などについては,拙著『辞書からはじめる英語学習』(2007年,小学館)もあわせてごらんいただければ幸いです。


【筆者プロフィール】

関山健治(せきやま・けんじ)
1970年愛知県生まれ。南山大学大学院外国語学研究科英語教育専攻修士課程修了(応用言語学),愛知淑徳大学大学院文学研究科英文学専攻満期退学(英語辞書学・語用論)。現在,沖縄大学法経学部准教授。

著書に『辞書からはじめる英語学習』(2007,小学館),『ウィズダム英和辞典第2版』(共同執筆,三省堂,2006),訳書に『英語辞書学への招待』(共訳,大修館書店,2004),『コーパス語彙意味論』(共訳,研究社,2006)などがある。


【編集部より】
英語辞書界にこの人ありと言われる関山健治先生に,英語の辞書に関する有益な情報を集中連載していただきました。ご愛読ありがとうございました。
→これまでの連載記事一覧


英語辞書の将来と利用者の役割 (1)

2008年 9月 12日 金曜日 筆者: 関山 健治

英語辞書攻略ガイド (13)

連載のまとめとして,今までにお話ししたことをふまえながら,これからの英語辞書はどうなっていくのか,また,辞書利用者である私たちは英語辞書とどのように向き合っていくべきかについて,2回に分けて私見も交えながらお話ししたいと思います。

これからは,冊子辞書が再評価される時代!

「これからの辞書」というと電子辞書を思い浮かべる人が多いかもしれません。たしかに,ここ数年の電子辞書の急速な進化は目を見張るものがあり,とくに教員や研究者は,分厚い大型辞書を肌身離さず持ち歩けるようになったことで,大きな恩恵を受けているのも事実です。しかし,学習者,それも中学や高校で英語を学んでいる人にとっての「文房具」として考えたとき,最近の電子辞書の進化は本当に手放しで喜べることなのでしょうか?

モデルチェンジのたびにコンテンツ数が増え,よく使う辞書が逆に引きにくくなったり,動作が重くなったりと,電子辞書の使い勝手にはまだまだ課題が山積しています。収録語数の多い辞書を搭載することが優先され,英語が苦手な学習者でも使いこなせる初級,中級レベルの学習辞典が搭載されている機種が少ないのも,学校現場での電子辞書の弊害と言えます。

一方,冊子辞書は,そんな電子辞書の進化を横目で見ながら,虎視眈々と進化を続けています。オールカラー化,ウェブ版の無料提供,囲み記事や付録の拡充など,とくに電子辞書化されていない冊子辞書は,ここ数年で急速に発展を遂げました。電子辞書の進化が一段落した今だからこそ,冊子辞書の良さをもう一度見直す時期に来ていると言っても過言ではありません。

「情報量の制約」こそが冊子辞書のメリット

電子辞書と比較した冊子辞書のデメリットとしてよく言われることに,冊子辞書は製本上の制約のため,収録情報量に限りがあるということがあります。たしかに,収録項目数何百万という,オンライン専用辞書のような芸当は冊子辞書には真似できませんが,むしろこのことが冊子辞書の良さであると言えるのではないでしょうか。コーパスが普及した今なら,昔の辞書と違い,情報量を増やすこと自体は比較的容易です。だからこそ,物理的に情報量を精選せざるをえない冊子辞書に存在意義があると言えます。

Googleで検索し,何百件,何千件というヒットがあっても,ほとんどの人は最初の数件,数十件しか見ないでしょう。同様に,せっかく情報量の多い辞書が搭載されていても,多くの学習者は上位語義の訳語をざっと見るだけで終わらせているのが現状です。使用域が限定される俗語や専門用語まで網羅した専門家向けの辞書を,電子辞書に入っているからというだけで常用し,情報が多すぎて難しく感じる英語学習者は多くいますが,このような学習者にこそ,情報を精選した初級,中級レベルの冊子学習辞書を手にとってほしいと思います。

情報を増やす以上に減らす勇気を

辞書の情報を精選するにあたっては,辞書執筆者,編集者は,類書に載っている単語だからと無批判に追加収録するのでなく,コーパスの出現頻度などをもとに,必要ないと判断した語や語義を積極的に削除することも必要になります。分量の制約の中で,新語,新語義を収録しつつ,学習辞典として必要ないと判断した語を削らないといけないというジレンマは,辞書に携わる者なら誰もが経験することだと思います。私も,『ウィズダム英和辞典』の改訂作業に携わった際,一番苦労したのが,旧版に収録されている語をコーパスなどで精査し,そのまま載せるべきか否かを判断する作業でした。

「収録語数至上主義」に陥りがちな辞書業界の中で,せっかく収録されている情報を削るというのは相当の勇気がいりますが,「利用者にとっての使い勝手という点では,必要以上に情報が多いことはマイナスになりうる」「闇雲に収録情報量を増やすことは機械でもできるが,収録の是非を吟味し,不要と判断した情報を削ることは生身の人間しかできない」ということを,私を含め,辞書に携わる者は常に頭に入れておく必要があるのではないでしょうか。

辞書が改訂されると,必ず追加語,語義の例が紹介されますが,逆に旧版から削除された語が公表されることはまずありません。しかし,先にもふれたように,最新のデータをもとに既存の情報を吟味し,必要に応じて削るということは,辞書執筆者の「匠」としての腕の見せ所であり,毎日のように新語が追加されるオンライン辞書が決して真似できない,冊子辞書ならではの特徴と言えます。これからの冊子辞書は,新規収録された情報量に加え,収録を取りやめた情報量も競い合う時代になることが望まれます。

次回は,主に利用者,英語教員の立場から,辞書指導,辞書批評のあり方について考えてみたいと思います。


【筆者プロフィール】

関山健治(せきやま・けんじ)
1970年愛知県生まれ。南山大学大学院外国語学研究科英語教育専攻修士課程修了(応用言語学),愛知淑徳大学大学院文学研究科英文学専攻満期退学(英語辞書学・語用論)。現在,沖縄大学法経学部准教授。

著書に『辞書からはじめる英語学習』(2007,小学館),『ウィズダム英和辞典第2版』(共同執筆,三省堂,2006),訳書に『英語辞書学への招待』(共訳,大修館書店,2004),『コーパス語彙意味論』(共訳,研究社,2006)などがある。


【編集部より】
英語辞書界にこの人ありと言われる関山健治先生に,英語の辞書に関する有益な情報を集中連載していただきます。
→これまでの連載記事一覧


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