英語辞書の将来と利用者の役割 (2)

2008年 9月 26日 金曜日 筆者: 関山 健治

英語辞書攻略ガイド (14)

連載の最終回は,主に利用者,教員の視点から,これからの英語辞書について考えてみたいと思います。

インターネット時代の辞書批評のあり方

一昔前の英語辞書は,いわゆる「英語名人」「辞書名人」と称されるような,天才的な辞書執筆者,編集者のライフワークとして編纂されていたものがほとんどでした。そのためか(専門家による研究書等での書評,分析を除けば)多くの英語学習者は辞書の内容を絶対視し,辞書の内容に疑問を唱えることをタブー視する雰囲気さえあったように思います。

しかし,最近では,ネット掲示板やブログの普及により,一般の英語学習者でも辞書の内容についての批評や,時には悪意に満ちた誹謗中傷さえも簡単にできるようになりました。辞書執筆者,編集者にとっては,利用者の意見を収集したり,誤植や誤記の指摘を受け,増刷時に修正をする機会が今まで以上に増えたことで,英語辞書の発展にも大きな影響を及ぼしていますが,一方で,一部の心ない書き込みにより,辞書の改善とは関係ないレベルでの不毛な議論が今まで以上にはびこっているのは大変残念です。

とくに,同レベルの辞書の新刊,改訂が相次いだときなどは,「○○という単語はX, Y辞書には載っているのにZ辞書には載っていない。だからZ辞書は劣っている」といった論調での,木を見て森を見ない辞書批評や,さらには「X辞書の編集主幹は○○大学の教授だから,××大学の教授が編纂しているY辞書よりも信頼できる」といったトンデモ発言が,一晩で何十件という単位で匿名掲示板に書き込まれることもあります。

辞書の内容と全く関係のない,出版社や編者の誹謗中傷や,恣意的に選別した特定の語や語義が収録されているか否かで辞書全体を評価するような風潮などは,決して好ましいことであるとは言えません。利用者である私たちは,辞書の内容を常に批判的にとらえる一方で,よりよい辞書に発展していく「種まき」としての,健全な辞書批評をしたいものです。

ことばを尊ぶ姿勢を伝える辞書指導をめざして

従来の辞書指導は,辞書の引き方や情報の読み取り方を教える,いわば技能重視の内容が中心でした。しかし,ネットの普及により,誰もが無料で膨大な情報を得られるのが当然という今の世の中では,ことばの大切さや,ことばに対する畏敬の気持ちも伝えていくことが必要なのではないでしょうか。

私を含め,辞書に携わっている研究者の中には,中学生や高校生の頃,知りたいことをいつでも的確に教えてくれる辞書を「偉い」と感じ,人一倍辞書を引く中でことばへの興味を深めていった人もたくさんいます。辞書の重さに文句を言いつつも,その重さが,ことばに対する畏敬の気持ちにつながっていたと言えます。しかし,どんなにたくさんの辞書が入っていてもポケットに収まってしまう電子辞書からは,冊子辞書のような,通常の書籍とは一線を画した「重厚さ」や「特別感」といった,辞書という書物独特の「オーラ」を感じることはできません。英語以前に,「ウザい」「キモい」に代表される,人を傷つける日本語が氾濫していることも,辞書メディアの変化と少なからず関係があるというのは言い過ぎでしょうか。

「ハレ」の日の賞品に冊子辞書を

こんな時代だからこそ,(時代錯誤だとお叱りを受けるかもしれませんが)皆勤や成績優秀者への副賞や卒業記念品として,生徒,学生に冊子辞書を贈呈してみてはいかがでしょうか。

私のクラスでは,週2回の講義に1年間無遅刻無欠席で皆勤した学生全員に,『ウィズダム英和辞典』を進呈しています。最初は,「電子辞書を持っているのに冊子辞書なんて…」と言っていた学生も,冊子辞書の良さに気づくと「覚えた単語にアンダーラインが引けるし,カバンに押し込んでも壊れないし,一生の記念になる紙の辞書もいいものですね」などと好意的な評価を寄せるようになります。今までの努力をねぎらい,よりいっそうの勉学を期待する象徴として,膨大な情報が目で見え,身体で感じることのできる形になって凝縮された冊子辞書は,ことばの大切さを伝える上でも最適なものと言ってよいでしょう。

おわりに

連載の最初にもお話ししましたが,英語学習が「辞書に始まり,辞書に終わる」ことは,昔も今も変わりません。技能としての英語運用力を養うことに加え,ことばを尊び,ことばを使う人間を尊ぶことをめざした指導が,これからの英語教育現場では望まれています。折しも,相撲界が大麻騒動で揺れる中,「心技体」のバランスのとれた能力を身につけさせることは,相撲の稽古だけでなく,英語教育においても同様に求められているのではないか,ということを強く感じます。

半年間という限られた期間の連載ですので,舌足らずな点も多かったかと思いますが,本連載が,諸先生方の英語教育現場での辞書指導に何かのご参考になりますことを祈念しております。なお,本連載で詳しく扱うことができなかった,辞書の情報の詳しい読み取り方などについては,拙著『辞書からはじめる英語学習』(2007年,小学館)もあわせてごらんいただければ幸いです。


【筆者プロフィール】

関山健治(せきやま・けんじ)
1970年愛知県生まれ。南山大学大学院外国語学研究科英語教育専攻修士課程修了(応用言語学),愛知淑徳大学大学院文学研究科英文学専攻満期退学(英語辞書学・語用論)。現在,沖縄大学法経学部准教授。

著書に『辞書からはじめる英語学習』(2007,小学館),『ウィズダム英和辞典第2版』(共同執筆,三省堂,2006),訳書に『英語辞書学への招待』(共訳,大修館書店,2004),『コーパス語彙意味論』(共訳,研究社,2006)などがある。


【編集部より】
英語辞書界にこの人ありと言われる関山健治先生に,英語の辞書に関する有益な情報を集中連載していただきました。ご愛読ありがとうございました。
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英語辞書の将来と利用者の役割 (1)

2008年 9月 12日 金曜日 筆者: 関山 健治

英語辞書攻略ガイド (13)

連載のまとめとして,今までにお話ししたことをふまえながら,これからの英語辞書はどうなっていくのか,また,辞書利用者である私たちは英語辞書とどのように向き合っていくべきかについて,2回に分けて私見も交えながらお話ししたいと思います。

これからは,冊子辞書が再評価される時代!

「これからの辞書」というと電子辞書を思い浮かべる人が多いかもしれません。たしかに,ここ数年の電子辞書の急速な進化は目を見張るものがあり,とくに教員や研究者は,分厚い大型辞書を肌身離さず持ち歩けるようになったことで,大きな恩恵を受けているのも事実です。しかし,学習者,それも中学や高校で英語を学んでいる人にとっての「文房具」として考えたとき,最近の電子辞書の進化は本当に手放しで喜べることなのでしょうか?

モデルチェンジのたびにコンテンツ数が増え,よく使う辞書が逆に引きにくくなったり,動作が重くなったりと,電子辞書の使い勝手にはまだまだ課題が山積しています。収録語数の多い辞書を搭載することが優先され,英語が苦手な学習者でも使いこなせる初級,中級レベルの学習辞典が搭載されている機種が少ないのも,学校現場での電子辞書の弊害と言えます。

一方,冊子辞書は,そんな電子辞書の進化を横目で見ながら,虎視眈々と進化を続けています。オールカラー化,ウェブ版の無料提供,囲み記事や付録の拡充など,とくに電子辞書化されていない冊子辞書は,ここ数年で急速に発展を遂げました。電子辞書の進化が一段落した今だからこそ,冊子辞書の良さをもう一度見直す時期に来ていると言っても過言ではありません。

「情報量の制約」こそが冊子辞書のメリット

電子辞書と比較した冊子辞書のデメリットとしてよく言われることに,冊子辞書は製本上の制約のため,収録情報量に限りがあるということがあります。たしかに,収録項目数何百万という,オンライン専用辞書のような芸当は冊子辞書には真似できませんが,むしろこのことが冊子辞書の良さであると言えるのではないでしょうか。コーパスが普及した今なら,昔の辞書と違い,情報量を増やすこと自体は比較的容易です。だからこそ,物理的に情報量を精選せざるをえない冊子辞書に存在意義があると言えます。

Googleで検索し,何百件,何千件というヒットがあっても,ほとんどの人は最初の数件,数十件しか見ないでしょう。同様に,せっかく情報量の多い辞書が搭載されていても,多くの学習者は上位語義の訳語をざっと見るだけで終わらせているのが現状です。使用域が限定される俗語や専門用語まで網羅した専門家向けの辞書を,電子辞書に入っているからというだけで常用し,情報が多すぎて難しく感じる英語学習者は多くいますが,このような学習者にこそ,情報を精選した初級,中級レベルの冊子学習辞書を手にとってほしいと思います。

情報を増やす以上に減らす勇気を

辞書の情報を精選するにあたっては,辞書執筆者,編集者は,類書に載っている単語だからと無批判に追加収録するのでなく,コーパスの出現頻度などをもとに,必要ないと判断した語や語義を積極的に削除することも必要になります。分量の制約の中で,新語,新語義を収録しつつ,学習辞典として必要ないと判断した語を削らないといけないというジレンマは,辞書に携わる者なら誰もが経験することだと思います。私も,『ウィズダム英和辞典』の改訂作業に携わった際,一番苦労したのが,旧版に収録されている語をコーパスなどで精査し,そのまま載せるべきか否かを判断する作業でした。

「収録語数至上主義」に陥りがちな辞書業界の中で,せっかく収録されている情報を削るというのは相当の勇気がいりますが,「利用者にとっての使い勝手という点では,必要以上に情報が多いことはマイナスになりうる」「闇雲に収録情報量を増やすことは機械でもできるが,収録の是非を吟味し,不要と判断した情報を削ることは生身の人間しかできない」ということを,私を含め,辞書に携わる者は常に頭に入れておく必要があるのではないでしょうか。

辞書が改訂されると,必ず追加語,語義の例が紹介されますが,逆に旧版から削除された語が公表されることはまずありません。しかし,先にもふれたように,最新のデータをもとに既存の情報を吟味し,必要に応じて削るということは,辞書執筆者の「匠」としての腕の見せ所であり,毎日のように新語が追加されるオンライン辞書が決して真似できない,冊子辞書ならではの特徴と言えます。これからの冊子辞書は,新規収録された情報量に加え,収録を取りやめた情報量も競い合う時代になることが望まれます。

次回は,主に利用者,英語教員の立場から,辞書指導,辞書批評のあり方について考えてみたいと思います。


【筆者プロフィール】

関山健治(せきやま・けんじ)
1970年愛知県生まれ。南山大学大学院外国語学研究科英語教育専攻修士課程修了(応用言語学),愛知淑徳大学大学院文学研究科英文学専攻満期退学(英語辞書学・語用論)。現在,沖縄大学法経学部准教授。

著書に『辞書からはじめる英語学習』(2007,小学館),『ウィズダム英和辞典第2版』(共同執筆,三省堂,2006),訳書に『英語辞書学への招待』(共訳,大修館書店,2004),『コーパス語彙意味論』(共訳,研究社,2006)などがある。


【編集部より】
英語辞書界にこの人ありと言われる関山健治先生に,英語の辞書に関する有益な情報を集中連載していただきます。
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特殊辞典の世界(2)-類語辞典(シソーラス)-

2008年 8月 29日 金曜日 筆者: 関山 健治

英語辞書攻略ガイド (12)

舌を噛みそうな名前ですが,シソーラス(thesaurus)は,ある単語と似たような意味を持つ語を羅列した辞書です。Thesaurusという語は,ギリシャ語のthesauros(「宝庫」)に由来しますが,文字通り,「ことばの宝箱」と言ってもよい辞書です。

英語は,同じ表現の繰り返しを好まないため,似たような語で言いかえる必要が頻繁に生じます。最近になって,『三省堂類語新辞典』をはじめ,優れた日本語のシソーラスもいくつか出てきていますが,英語のシソーラスは,その代名詞にもなっているロジェ (Peter Mark Roget) が編纂した Roget’s Thesaurus of English Words & Phrases 以来,実に150年以上もの歴史を誇ります。

シソーラスには,ロジェの伝統を受け継いだトピック(概念)別のものと,通常の辞書の感覚で使えるアルファベット順のものがあります。前者は,電話帳にたとえるならタウンページ(職業別)のようなもので,似たような概念の語をまとめてグループ化しています。たとえば,foodの項には,eatの類義語から始まって,調理法や摂食障害,肉,デザート,果物,野菜の種類に至るまで,「食」に関する何百という語が約5ページに渡ってリストされています(下図)。それぞれの概念は哲学的な配列にしたがって分類されているので,あるイメージに近い語を一覧するには便利ですが,個々の語から引く場合は,巻末の索引を使う必要があります。類語辞典というより,類語カタログといったほうがしっくりくるかもしれません。

roget.jpg

一方,アルファベット順のシソーラスは,通常の辞書と同じ感覚で引けるので,英語を書く際に類義語を知りたい場合などはトピック別シソーラスよりも簡単に検索できます。多くの電子辞書に搭載されている Oxford Thesaurus of English (OTE)Concise Oxford Thesaurus (COT) もその例ですが,これらのシソーラスは,単にある語の類義語を羅列するだけでなく,トピック別に「ある単語の仲間」を一覧したセクションもあります。

外国人学習者向けシソーラス

多くのシソーラスは,類語が羅列してあるだけであり,各類語ごとの細かなニュアンスの差までは分かりません。そのため,外国人学習者にとっては,かなり英語力のある者でも使いこなすのは難しいでしょう。留学へ行き,シソーラスに頼ってタームペーパー等を書いても,ネイティブに直された経験のある人は多いのではないでしょうか。

最近では,外国人学習者に特化したシソーラスも出てきています。Longman Language Activator (LLA2)Oxford Learner’s Thesaurus (OLT) 等がその例ですが,母語話者向けシソーラスにくらべ,類語の数を厳選するかわりに,類語間の意味の違いを学習英英辞典のような平易な定義で解説しています。口語的な表現を重視した LLA と,アカデミックライティングを意識し,フォーマルな語を豊富に収録した OLT は,それぞれの特徴がありますので,英語教員なら両方を座右において使いこなしたいものです。

(LLA2)
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(OLT)
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英語教育の現場でシソーラスをどう活用させるか

LLAOLT が収録された電子辞書はほとんどありませんし,冊子版の学習者向けシソーラスは高価なので,日本人の英語学習者にはあまり知られていません。もっとも,多くの電子辞書に搭載されている母語話者向けシソーラスも,工夫次第では英語学習に活用することも可能です。

先ごろオリンピック北京大会が開かれたばかりですが,各競技の名前を英語で何と言うか知りたいときは,和英辞典で1つ1つの競技を調べるより,OTE のトピック別セクションを見れば,たちどころに分かります(以下は,陸上競技のリストです)。

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電子辞書なら,それぞれの語から英和辞典や英英辞典にジャンプすることで,意味も簡単に分かります。犬好きの学生ならdog(犬の種類)を,音楽関係のサークルの学生ならmusical direction(演奏記号の種類)を OTE で検索させ,1つ1つの語句を調べさせるのも,夏休みの自由研究に最適かもしれません。

シソーラスを通して,「辞書のおもしろさ」を知る

多くの英語学習者は,「英語の辞書なんて,どれでも無味乾燥なアルファベット順に単語を並べ,意味を載せているだけなので,面白くも何ともない」と思っているようです。しかし,「意味」という観点で単語を並べ替え,それぞれの語の間に有機的なつながりをもたせたシソーラスは,一見単語の羅列のように見えますが,じっくり読むと意外と面白いものです。シソーラスを使いこなすと,一見同じような顔をしている単語も,よくよく見ると姿形はそれぞれ異なり,それぞれの語に独特な個性があることに気づくのではないでしょうか。

次回は,今までの連載のまとめとして,英語辞書のこれからの動向と,辞書利用者に何が期待されるかについて,英語辞書学の最新動向もふまえながらお話ししたいと思います。


【筆者プロフィール】

関山健治(せきやま・けんじ)
1970年愛知県生まれ。南山大学大学院外国語学研究科英語教育専攻修士課程修了(応用言語学),愛知淑徳大学大学院文学研究科英文学専攻満期退学(英語辞書学・語用論)。現在,沖縄大学法経学部准教授。

著書に『辞書からはじめる英語学習』(2007,小学館),『ウィズダム英和辞典第2版』(共同執筆,三省堂,2006),訳書に『英語辞書学への招待』(共訳,大修館書店,2004),『コーパス語彙意味論』(共訳,研究社,2006)などがある。


【編集部より】
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特殊辞典の世界(1)-連語(コロケーション)辞典-

2008年 8月 22日 金曜日 筆者: 関山 健治

英語辞書攻略ガイド (11)

今回は,主に先生方の教材研究や,英語を専門に学んでいる大学上級生を対象に,一般にはあまり知られていない特殊辞典の中から,連語(コロケーション)辞典と,類語辞典(シソーラス)について,2回に分けてご紹介します。

一昔前までは,このような特殊辞典は,学生にとっては高嶺の花でした。英語研究者の書斎には必ずあるといわれ,コロケーション辞典の代名詞でもある『新編英和活用大辞典』(研究社)は,とくに英語を書く際には欠かせない辞書ですが,大部であることに加え,冊子版では1万数千円もするため,学生時代の私は,大学の図書館のものを使うしかありませんでした。コーパスなど影も形もなかった昭和初期に,勝俣銓吉郎氏が独自に何十万という用例を収集して編まれた「英活」の初版は,日本の英語辞書史に刻まれる名著であり,その「英活」をどこにでも持ち歩けたら…と願っていた英語教員,研究者は,私だけではなかったはずです。

英和辞典や英英辞典とは別次元のような,いかめしいイメージのあった英活ですが,最近は大学生向けの電子辞書のほとんどに搭載されるようになり,誰もがポケットに入れて持ち歩けるようになりました。それに伴い,英語を専門にしているのに,英活の使い方を知らない学生や教員が以前よりも増えているように感じます。先日も,電子辞書版の英活を使っていた学生に,「なぜこの辞書は英和辞典なのに発音記号が出ていないのか?」ときかれましたが,『“英和”活用大辞典』という書名から,英和辞典の一種だと思っている学生は,意外と多いのかもしれません。

こんな時にコロケーション辞典を

人間と同じで,ことばにも語と語の「相性」のようなものがあります。たとえば,日本語で将棋は「指す」ものですが,囲碁は「打つ」と言います。「将棋を打つ」「囲碁を指す」と言っても意味は通じますが,母語話者にとっては明らかに不自然な日本語です。英語にも,単語同士の「相性」があります。たとえば,(お茶が)「濃い」場合はstrongを使いますが,スープなどにはthickを使うことが普通です。このような,単語と単語の慣用的な結びつき(コロケーション)は,文法や語法の知識だけでは解決できないため,上級レベルの学習者でも非常に難しいものです。

英活は,コロケーションに特化した辞書で,38万という膨大な用例が収録されています。たとえば,soupを引き,「形容詞・名詞+」の項目を探すと,thick soup, thin soup, homemade soup…など,soupの直前にどういった形容詞が来るかがたちどころに分かります。

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このように,英活を使えば,ある名詞がどんな形容詞や動詞,前置詞と共起するかといったことや,動詞を修飾する副詞の種類など,通常の英和辞典,英英辞典の用例以上の情報が得られますので,私たちが自然な英語を書く際には手放せない辞書と言えます。また,ほぼすべての用例には訳も併記されているので,発信用としてだけでなく,英語から日本語への翻訳の際などに,より自然な日本語を求める際にも役立ちます。

最近の電子辞書の中には,英活に加え,Oxford Collocations Dictionary for Students of English (OCD) を搭載した機種もあります。英活と異なり,用例は少なめで訳文もついていませんが,最新のコーパスデータをもとにした自然な連語を厳選しているのが特徴です。

電子辞書でコロケーション辞典をコーパスとして使う

電子辞書の例文検索機能を使うと,これらのコロケーション辞典に収録されている豊富な用例を自在に検索することができますので,英語を書く際の「お手本」を探すためのちょっとしたコーパスがわりにも使えます。和英辞典に頼りすぎないで,自分の知っている単語をコロケーション辞典で検索し,より自然な文例を探してみるようにさせることは,英作文などの指導をする上でも有効でしょう。


【筆者プロフィール】

関山健治(せきやま・けんじ)
1970年愛知県生まれ。南山大学大学院外国語学研究科英語教育専攻修士課程修了(応用言語学),愛知淑徳大学大学院文学研究科英文学専攻満期退学(英語辞書学・語用論)。現在,沖縄大学法経学部准教授。

著書に『辞書からはじめる英語学習』(2007,小学館),『ウィズダム英和辞典第2版』(共同執筆,三省堂,2006),訳書に『英語辞書学への招待』(共訳,大修館書店,2004),『コーパス語彙意味論』(共訳,研究社,2006)などがある。


【編集部より】
英語辞書界にこの人ありと言われる関山健治先生に,英語の辞書に関する有益な情報を集中連載していただきます。
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英英辞典をどう使わせるか (2)

2008年 7月 25日 金曜日 筆者: 関山 健治

英語辞書攻略ガイド (10)

前回に引き続き,応用編として,主に英語を専門とする学科,コースの高校生,大学生や先生方を対象に,一般にはあまり知られていない英英辞典の使い方をお話しします。

Step 3:英和辞典でぴんとこないときに引いてみる

『リーダーズ英和辞典』(研究社)などの一般英和辞典では,翻訳の便を考え,なるべく多くの訳語を載せるようにしています。たとえば,interestingを引いてみると,「興味深い,おもしろい,人の関心をひく,珍しい,変わった,奇妙な」とあります。しかし,「興味深い,おもしろい」と「奇妙な,変わった」という,一見何の脈絡もない語義が並んでいると,戸惑う人も多いのではないでしょうか。

英英辞典でinterestingを引くと“attracting your attention because it is special, exciting or unusual”(OALD7)とあります。すなわち,「特別で変わっているからわくわくして興味を引く」という語義がinterestingの本質であることが分かります。

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(OALD7)

このように,英和辞典を引き,すでに意味を知っているはずなのに,どうもぴんとこないというときが英英辞典の出番です。意味を知っている(つもりの)単語を引くようにすると,英英辞典の定義にこめられている細かなニュアンスまで理解できることでしょう。毎回の授業で,生徒がすでに知っている単語を数語英英辞典で引かせてみて,知っているつもりの単語が持つ意外な意味やニュアンスに気づかせることは,語彙力をつける上でも有効です。

Step 4:和英辞典のかわりに英英辞典を引いてみる

英英辞典は,英語を読んだり,単語の意味をより深く理解したいときだけに使うものではありません。慣れてくると,英語を書くときなどに和英辞典のかわりとして使うこともできます。

たとえば,「(扇風機の)羽根」を英語で何というか知りたい場合,「羽根」を和英辞典で引く人が多いと思いますが,英英辞典でfanを引いても調べられます。

fan.jpg
(LDOCE4)

同様に,「ぶちの(=斑点のある)犬」は,「斑点のある動物」が何であるかを考え,英英辞典でleopardなどを引いてみると分かります。

leopard.jpg
(OALD7)

「辞書を引く」というと,自分が調べたい単語そのものを英和辞典や和英辞典で引く人が多いのですが,ともすれば機械的な作業になり,興味が持てなくなってしまう生徒も多いでしょう。英英辞典を使えば,調べたい語そのものを引くのではなく,調べたい語に関係のある単語は何であるかを自分の頭で考える必要がありますので,より主体的な英語学習をすることができます。

(英語教員にとっての英英辞典)教える内容を取捨選択する手がかりとして

以前にもふれたように,最近の英和辞典は,高校生向けと謳っている辞書でも,大学入試のレベルをはるかに超える詳細な情報が満載されています。そのため,教育実習生など,不慣れな教員が学習英和辞典で教材研究をすると,高度な内容も盛り込んでしまい,実際の授業で消化不良になってしまうことがあります。

一方,とくに最近の外国人学習者向け英英辞典は,情報量を競うというよりは,見やすさ,引きやすさを競うようになっており,全世界の英語学習者が身につけるべき内容に限って分かりやすく提示しています。教育実習生には,教案を書いた後で学習英英辞典を引き,教える内容に無理がないかを確認するように指導してはいかがでしょうか。

(番外編)「定義しりとり」で楽しく英英辞典に親しむ

正課の授業内では難しいでしょうが,英語研究部やESSの活動の一つとして,英英辞典を使った「定義しりとり」はいかがでしょうか。

2人ペアとなり,どちらかが「お題」の単語(最初のうちは,重要語の名詞に限るなど,出題範囲を制限するとうまくいきます)を言い,もう一方の人は,その単語を自分なりに英語で説明(定義)し,その後,英英辞典で「お題」の語を引き,答え合わせをします。今度は,逆に定義をした人が,前の「お題」の末尾の語で始まる語から新たな「お題」を出し,相手の人が定義を言います。

このような活動を通して,身近なものを英語で説明する力が身につきます。身近に英語母語話者がいない環境でも,自分で定義するのに苦労した箇所を,英英辞典という「ネイティブ・スピーカー」に確認することで,英語を書いたり話したりするよい勉強になるでしょう。

「英語を話す活動」として,自由英会話などを行っている英語サークルは多いと思いますが,話す内容がありきたりになってしまったり,日本人同士という気安さで,fluencyを重視するあまり,accuracyへの意識が弱くなってしまうこともあります。「定義しりとり」なら,説明する内容が「お題」としてあり,しかもそれは毎回変わるので,マンネリになることはありませんし,英英辞典という「お手本」で自分の説明した内容を常にチェックできるのですから,表現力を身につけるためにうってつけであると言えます。

次回は,類語辞典(シソーラス)や連語辞典といった,一般にあまり知られていない辞書を紹介し,英語学習,教育で活用する方法を考えてみたいと思います。


【筆者プロフィール】

関山健治(せきやま・けんじ)
1970年愛知県生まれ。南山大学大学院外国語学研究科英語教育専攻修士課程修了(応用言語学),愛知淑徳大学大学院文学研究科英文学専攻満期退学(英語辞書学・語用論)。現在,沖縄大学法経学部准教授。

著書に『辞書からはじめる英語学習』(2007,小学館),『ウィズダム英和辞典第2版』(共同執筆,三省堂,2006),訳書に『英語辞書学への招待』(共訳,大修館書店,2004),『コーパス語彙意味論』(共訳,研究社,2006)などがある。


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英英辞典をどう使わせるか (1)

2008年 7月 4日 金曜日 筆者: 関山 健治

英語辞書攻略ガイド (9)

私が高校生だった頃,『英語の辞書を使いこなす』(笠島準一著,講談社現代新書)を読み,英英辞典というものの存在を知りました。電子辞書が影も形もなかった当時は,高校生はもちろん,英語を専門にする大学生でさえも,英英辞典を持っているという学生はそれほど多くなく,雲の上の存在である英英辞典を手にすることで,何となく大人になったような優越感を感じたものでした。
時代は流れ,最近ではほとんどの電子辞書に英英辞典が搭載されるようになりました。自分の使っている電子辞書に英英辞典が入っていることすら知らない学生も珍しくありません。英英辞典に特別な気持ちを抱く学習者が少なくなったのは残念ですが,教員にとっては,英英辞典を新たに買わせなくても,今持っている電子辞書で英英辞典を使わせる指導ができるのですから,ありがたい時代になったとも言えます。
一方で,英英辞典に関して正しい知識を持っている英語教員はまだまだ少ないように思います。「英和辞典1冊あれば十分なのに,なぜ英英辞典が必要なのか?」という素朴な疑問を持つ先生も多いかもしれません。
今回は,英英辞典の特徴と,実際の教育現場での使わせ方について,2回に分けてお話ししたいと思います。「英英辞典など,普通の高校生には難しすぎて使いこなせない」と考える先生方も多いと思いますが,英英辞典の語義を読みこなすだけが英英辞典を「使いこなす」ことではありません。英英辞典の活用というと,高尚な方法論を想像されるかもしれませんが,まずは,英英辞典の用例を読むことから始めてみましょう。

Step 1:英英辞典の用例を読み,意味を考えてみる

コロンブスの卵的なアイディアですが,英英辞典の用例には訳がないので,新出単語を予習させる際に,英英辞典を引き,出ている用例の意味を考えさせてはいかがでしょうか。「単語は文の中で覚えよ」とよく言われますが,英和辞典だとつい用例の訳を見てしまうので,「分かったつもり」になってしまいます。高校の授業で英英辞典の用例に親しませることで,大学入試で求められる長文読解の基礎力をつけることもできます。
教員が授業の中で用例を提示する際は,MacMillan English Dictionary for Advanced Learners (MED)やCambridge Advanced Learner’s Dictionary (CALD)など,電子辞書に搭載されていない(=生徒がほとんど使っていない)英英辞典の用例を利用するのも効果的です。

Step 2:意味を知っている単語を引いてみる

英語英文学系学科の大学生や,英語科,国際コースなどの高校生なら,英英辞典を本格的に使わせることも可能でしょう。英語教員の中には,「英和辞典を使っていては英語力がつかないから,新出単語の予習は英英辞典を使い,英語だけで考える習慣をつけなさい」と指導をする先生もいますが,英英辞典を「英和辞典の上級版」ととらえると,使いこなせなくて挫折してしまう生徒も出てきます。
初めのうちは,意味をすでに知っている単語を引かせるとよいでしょう。beautifulやkangarooといった,中学で習うような基本語は,高校生なら英和辞典で引くことはあまりないと思いますが,わかりきった単語でも英英辞典で引いてみると,様々な発見があります
たとえば,beautifulを引くと,“having beauty; pleasing to the senses or to the mind” (OALD7)と定義されています(下図)。日本語の「美しい」と異なり,感覚的な美しさだけにとどまらず,精神をも楽しませるような,より強い「美」を意味することがうかがえます。

beautiful.jpg
(OALD7)

kangarooを引いてみると,“an Australian animal that moves by jumping and carries its babies in a pouch (=a special pocket of skin) on its stomach” (LDOCE4)となっています(下図)。lionは,a large animal of the cat family that lives in Africa and parts of southern Asia. Lions have gold-coloured fur and the male has a mane (=long hair around its neck)とあります(下図)。カンガルーの「ポケット」はpocketではなくpouchと言うこと,ライオンの「たてがみ」がmaneであることなどは,英和辞典では得られにくい情報です。

kangaroo2.jpg
(LDOCE4)

mane.jpg
(LDOCE4)

このように,日本語の意味をすでに知っている単語を引いてみると,思いもしなかった発見があり,辞書を引くことが楽しくなるのではないでしょうか。単語の小テストに英英辞典の定義を取り入れたり,英英辞典の定義から見出し語を推測させるゲームをするのも,英英辞典に興味を持たせる手段として有効だと思います。


【筆者プロフィール】

関山健治(せきやま・けんじ)
1970年愛知県生まれ。南山大学大学院外国語学研究科英語教育専攻修士課程修了(応用言語学),愛知淑徳大学大学院文学研究科英文学専攻満期退学(英語辞書学・語用論)。現在,沖縄大学法経学部准教授。

著書に『辞書からはじめる英語学習』(2007,小学館),『ウィズダム英和辞典第2版』(共同執筆,三省堂,2006),訳書に『英語辞書学への招待』(共訳,大修館書店,2004),『コーパス語彙意味論』(共訳,研究社,2006)などがある。


【編集部より】
英語辞書界にこの人ありと言われる関山健治先生に,英語の辞書に関する有益な情報を集中連載していただきます。
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「ひとに優しい」辞書をめざして-英語辞書の「操作性」を考える-

2008年 6月 13日 金曜日 筆者: 関山 健治

英語辞書攻略ガイド (8)

Windowsが影も形もなかった約15~20年前のパソコンの多くは,ファイルをコピーする際には “copy bunsho.jxw a:\doc” というように,MS-DOSコマンドを手入力する必要がありました。「パソコンを使いたければ,時間をかけて操作を覚えなさい」という考えが当たり前だった時代なら,それでもよかったのかもしれません。しかし,最近では,パソコンはごく一部の専門家のものではなく,鉛筆やノートと同じような文房具として,「誰でも直感的に使える」ということが求められるようになってきました。アイコンをドラッグ&ドロップするだけでコピーできるようになったのも,パソコンがユーザー(利用者)に歩み寄った結果と言えます。

辞書についても同じことが言えます。たとえば,学習者向け英英辞典の中でも最も歴史のあるOALD (Oxford Advanced Learner’s Dictionary)の第3版(1974年)では,目的語に-ing形をとる他動詞は「VP (=Verb Pattern) 6D」と表記されていました(図1)。これだけでは何のことかさっぱり分かりませんが,巻末の動詞形一覧表で6Dのところを見ると,目的語に-ing形をとる形であることが分かります。辞書ユーザーにとっては,いちいち文型一覧表と照合しないといけないというのは非常に不便ですが,大量の情報を圧縮して収録することが辞書編纂で最優先されていた当時は,ユーザー側が努力して辞書の記述になじむしかなかったのです。

図1:OALD3(1974年)
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しかし,1980年代以降,各社から学習英英辞典が新刊行されるようになり,英語辞書学でも,辞書の「扱いやすさ」(user-friendliness)が盛んに議論されるようになってくると,辞書の記述も大きく変わってきます。たとえば,1989年に改訂されたOALDの第4版では,Tg(他動詞=vt.+-ing)のようになり(図2),さらに,第5版(1995年)は,V.ingと表記され(図3),初めて英英辞典を使う人でも直感的に理解できるようになりました。

日本の英和辞典の文型表記も,以前は5文型をもとにした表記がほとんどでしたが,最近の辞書は,海外の学習英英辞典にならい,英文法の知識がそれほどなくても理解できるような記述をした辞書が増えています。

図2:OALD4(1989年)
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図3:OALD5(1995年)
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文型表記に限らず,英和辞典の見やすさ,使いやすさは,ここ数十年で急速に改善されてきています。図4は1983年に刊行された『グローバル英和辞典』,図5は2004年に改訂された『グランドセンチュリー英和辞典』の紙面ですが,『グランドセンチュリー英和辞典』では,重要語,重要語義を色刷りにして大活字にしたり,多義語は冒頭に見取り図(「意味の窓」)を設けることで必要な語義を素早く検索できるようにするなど,使い勝手が大きく向上していることがわかります。

図4:『グローバル英和辞典』(初版:1983年)
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図5:『グランドセンチュリー英和辞典』(第2版:2004年)
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電子辞書は“ユーザーフレンドリー”か?

冊子辞書の操作性が急速に進歩する一方で,最近は電子辞書が中学,高校の教育現場まで浸透してきています。「求める単語を素早く引きたい」という,昔から辞書ユーザーが誰でも抱く根本的なニーズに応えた電子辞書は,辞書の操作性を大幅に向上させたと言えるかもしれません。

しかし,電子辞書は,液晶画面というハードウェアの制約もあり,冊子辞書の見やすさには足元にも及びません。意外に感じるかもしれませんが,数十万色を再現できるカラー液晶を搭載した高級機種でも,カラーで表示されるのは主に図版に限られており,冊子辞書のように重要な見出し語や語義がカラーで表示される機種はまだ出ていません。冊子辞書がこの20年間で格段に見やすくなっているのに,最新の電子辞書でさえ,それにまだ追いつけていないのです。検索時間が速くなっても,辞書の情報を読み取るのに冊子辞書以上に時間がかかっては元も子もありません。

私たち教員は,「辞書をじっくり読みなさい」と授業で口を酸っぱくして言いますが,電子辞書の液晶画面に表示される膨大な情報を持てあまし,結局は受験単語集と同じように訳語だけざっと見て終わりにする生徒が昔以上に増えているように思います。電子辞書の時代だからこそ,冊子辞書ならではの「ユーザーにとっての使いやすさ」を生徒に紹介し,「冊子辞書は,思ったより見やすい,使いやすい」と生徒に感じてもらう辞書指導が望まれているのではないでしょうか。

次回は,日本の英和辞典にも大きな影響を及ぼした,海外各社の学習英英辞典をとりあげながら,高校生でも使える英英辞典の使い方,英和辞典との使い分け方などをとりあげたいと思います。


【筆者プロフィール】

関山健治(せきやま・けんじ)
1970年愛知県生まれ。南山大学大学院外国語学研究科英語教育専攻修士課程修了(応用言語学),愛知淑徳大学大学院文学研究科英文学専攻満期退学(英語辞書学・語用論)。現在,沖縄大学法経学部准教授。

著書に『辞書からはじめる英語学習』(2007,小学館),『ウィズダム英和辞典第2版』(共同執筆,三省堂,2006),訳書に『英語辞書学への招待』(共訳,大修館書店,2004),『コーパス語彙意味論』(共訳,研究社,2006)などがある。


【編集部より】
英語辞書界にこの人ありと言われる関山健治先生に,英語の辞書に関する有益な情報を集中連載していただきます。
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英語辞書攻略ガイド (7)

2008年 5月 30日 金曜日 筆者: 関山 健治

英語辞書の重要度ランクと英語学習

いわゆる「英語名人」の武勇伝としてよく例に出されることですが,昔の英学者達の中には,辞書を最初のページから丸暗記し,覚えたページは食べてしまったという,強靱な胃袋を持っている人もいたそうです。学習英和辞典というものがほとんどなかった頃なら,辞書に載っている単語を闇雲に覚える人も珍しくなかったのかもしれませんが,最近の学習辞書には,非常に細かな重要度ランクが星印で記載されているので,胃腸の弱い人でも効率的に英語学習を進めることができます。

昔の学習英和辞典は,英語圏で何十年も前に構築された基本語彙リストや執筆者の直感などをもとに重要度ランクが決められているものが多くありました。そのため,私たちが日常的に目にする大学入試問題や資格試験,教科書等の英文の出現頻度とは少なからずずれがあったように思います。しかし,最近では,三省堂コーパスなど,日本人の英語学習に特化したコーパスを参考にすることで,より実際の出現頻度に近いランク付けがされています。一方で,従来よりも重要度ランクが細かく区分されるようになり,「どのランクの単語まで覚えればいいのか」と疑問を抱く学生や教員も多くいるのではないでしょうか。

今回は,前回考察した,『グランドセンチュリー英和辞典』『ウィズダム英和辞典』の全見出し語のカバー率データをより細分化し,重要度ランクごとのカバー率を算出してみました。結果は,以下のグラフの通りです。このグラフは,実用英語技能検定,センター試験のカバー率を,各英和辞典の重要度レベルごとの累計で示したものです。たとえば,グラフ1(グランドセンチュリー英和辞典)の場合,センター試験の「**」ランクのカバー率が約76%となっていますが,これは,『グランドセンチュリー英和辞典』の上位2ランク(「***」と「**」)の見出し語のみで,大学入試センター試験の長文問題で出現した単語の約76%がカバーできることを意味します。

(グラフ1)重要度ランク別累計カバー率(グランドセンチュリー英和辞典)
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(グラフ2)重要度ランク別累計カバー率(ウィズダム英和辞典)
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これらのグラフを見ると,とくに英検2級とセンター試験では,『グランドセンチュリー英和辞典』『ウィズダム英和辞典』ともに,「**」ランクでカバー率が急増していることが分かります。このランクは「高校学習語(高校必修相当語彙)」とされており,約2800語が含まれていますが,「中学学習語(中学必修相当語彙)」の「***」ランク(約900語)と合わせて約3700語をマスターすれば,センター試験をはじめとした標準レベルの大学入試や,英検2級などの高校卒業程度の資格試験においても,約8割の単語がカバーできることになり,必要十分な語彙力を身につけることができると言えます。“ウィズダム”,“グランドセンチュリー”とも,「***」「**」ランクの語は大活字で表示されていますので,「高校3年生までに,大きな活字の見出し語の単語をすべてマスターすること」というような指導をすることで,より効率のよい単語学習をすることができます。

最近は,受験用単語集を辞書のかわりに使う高校生も増えていますが,受験用単語集は,中学,高校初級レベルの基礎的な単語が出ていないことが多く,とくに英語が苦手な受験生の場合,重要な単語が漏れてしまうこともあります。一方,辞書の重要度表記は,中学1年レベルの単語から,英語を専門にする大学生でも知らない単語まで,もれなく記載されていますので,「知らない単語を辞書で引いたら,必ず重要度表記もチェックし,単語帳に書き写す」ということを習慣にさせるとよいのではないでしょうか。「この単語は受験でよく出ますか?」と教員に質問する生徒も多くいますが,未知語を辞書で引いた際,「覚えるべき単語かどうか」を,重要度表記を参考にして自分で選別させることも有効でしょう。

次回は,最近の英語辞書に見られる「使いやすさ」に焦点をあて,「辞書」という書物が「いまどきの英語学習者」にどう歩み寄ろうとしているのかを考えてみたいと思います。


【筆者プロフィール】

関山健治(せきやま・けんじ)
1970年愛知県生まれ。南山大学大学院外国語学研究科英語教育専攻修士課程修了(応用言語学),愛知淑徳大学大学院文学研究科英文学専攻満期退学(英語辞書学・語用論)。現在,沖縄大学法経学部准教授。

著書に『辞書からはじめる英語学習』(2007,小学館),『ウィズダム英和辞典第2版』(共同執筆,三省堂,2006),訳書に『英語辞書学への招待』(共訳,大修館書店,2004),『コーパス語彙意味論』(共訳,研究社,2006)などがある。


【編集部より】
新学期にあたり,英語辞書界にこの人ありと言われる関山健治先生に,英語の辞書に関する有益な情報を短期集中連載していただきます。
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英語辞書攻略ガイド (6)

2008年 5月 16日 金曜日 筆者: 関山 健治

学習英和辞典の収録語数

学生にとっても,教員にとっても,辞書を買おうとする時に最も気になることが,「どれぐらいたくさんの語が収録されているか」ということなのではないでしょうか。さすがに,「語数が一番多い辞書を買いなさい」などと言って,高校新入生に『グランドコンサイス英和辞典』などの一般英和辞典をすすめるようなことは最近はないと思いますが,同じ学習辞典であれば,少しでも語数の多い辞書を買わせたいと考える先生方は少なからずいらっしゃるようです。大学新入生を見ていても,英語が苦手な学生が,高校入学時に指定されたと言って『ウィズダム英和辞典』などの上級学習英和辞典を苦労して引いていたり,多くの電子辞書に収録されている,数十万語を収録した学習大英和を背伸びして使っている学生がかなりいます。

近年は,ネット掲示板などで「高校初級レベルの学習英和辞典では,センター試験や各種の資格試験には対応できないので,大学進学をめざすのであれば,上級学習辞典を使うべきだ」と言った風評も散見されます。たしかに,三省堂の学習辞書の場合,高校初級向けの『ビーコン英和辞典』の見出し語数が約47,300,上級向けの『ウィズダム英和辞典』が約90,000と,同じ学習辞典でも約2倍近い開きがあり,数値だけで見れば,収録語数の差は歴然としているように見えます。大辞典クラスの辞書が電子辞書に搭載される現在では,上級レベルの学習英和辞典でさえ,「難関大学の入試には対応できない」などと批判されかねない状況です。

しかし,実際にそのようなことがあり得るのでしょうか? 客観的な検証をするために,ビーコン,グランドセンチュリー,ウィズダムの全見出し語一覧をデータベース化し,手元にあるセンター試験長文(2000年度~2006年度までの本試験・追試験の大問4~6の本文)と英検長文(2004年度第3回~2007年度第3回までの1級~準2級の長文本文)のコーパスと突き合わせ,辞書ごと,試験種別ごとのカバー率を算出してみました。

算出にあたっては,長文問題本文の単語すべて(固有名詞,専門用語等も含む)を分析対象とし,変化形をすべて原形に置き換え(レマ化)た上で,各長文問題の出現語リストを作成しました。このリストと辞書ごとの見出し語一覧をコーパス分析ソフトで照合し,合致する語の割合を示したものがカバー率になります。たとえば,ある辞書のカバー率が100%であれば,長文問題に出てくる語のすべてがその辞書の見出し語に出ていることになります。

結果は,次の表の通りです。

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辞書執筆に携わる者として,収録語数に関わる様々な風評は,以前から眉唾だと感じてきましたが,この表を見ると,私の想像以上にカバー率が高いことに驚かされます。

収録語数が最も少ない『ビーコン英和辞典』でさえ,実際には,センター試験は言うまでもなく,英語母語話者でも手強い難語が出題されることで有名な英検1級の長文問題でも,カバー率は8割を優に超えています。高校生の多くが受験する英検2級やセンター試験レベルなら,どの辞書でも9割以上のカバー率をマークしており,収録語数に関しては,辞書間の格差はほとんどないことがうかがえます。

もっとも,カバー率にそれほど差がなくても,『ウィズダム英和辞典』をはじめとした上級レベルの学習辞典には,詳細な文法,語法解説や,用法上の様々なラベルなど,より詳しい情報が盛り込まれています。そのため,高校入学時に『ビーコン英和辞典』で基礎を身につけ,英語が得意になった生徒が,大学受験を前に『ウィズダム英和辞典』に買い替えるということはごく自然なことですし,無理に背伸びをすることなく,常に自分の実力にぴったり合った辞書を信頼して使うということは,英語学習を効率よく進める上でも重要なことでしょう。収録語数の数字で辞書の優劣を判断するのではなく,どの辞書でも高校の教科書は言うまでもなく,難関大学を含めた受験にも対応していることを生徒に理解させ,自分のレベルにあった辞書を自信を持って使わせたいものです。

次回は,今回の分析をもとに,辞書の頻度・重要度表示(星印)とカバー率の検証を行いたい,高校生の大きな関心事である,「このレベルの試験を受けるには,辞書のどの単語を覚えるといいか」ということに迫ってみたいと思います。


【筆者プロフィール】

関山健治(せきやま・けんじ)
1970年愛知県生まれ。南山大学大学院外国語学研究科英語教育専攻修士課程修了(応用言語学),愛知淑徳大学大学院文学研究科英文学専攻満期退学(英語辞書学・語用論)。現在,沖縄大学法経学部准教授。

著書に『辞書からはじめる英語学習』(2007,小学館),『ウィズダム英和辞典第2版』(共同執筆,三省堂,2006),訳書に『英語辞書学への招待』(共訳,大修館書店,2004),『コーパス語彙意味論』(共訳,研究社,2006)などがある。


【編集部より】
新学期にあたり,英語辞書界にこの人ありと言われる関山健治先生に,英語の辞書に関する有益な情報を短期集中連載していただきます。
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英語辞書攻略ガイド (5)

2008年 5月 2日 金曜日 筆者: 関山 健治

こんなにある英和辞典の種類(その3)

前回前々回に引き続き,英和辞典を種類別に見ていきます)

上級学習英和辞典

難関大学の英語系学科を受験する高校生,予備校生や大学生,英語教員をはじめとした専門家を対象とした,学習英和辞典の最高峰です。これ1冊あれば,大学受験生から社会人,英語の専門職まであらゆる用途に対応します。以下は『ウィズダム英和辞典』の例ですが,文法書,語法書顔負けの詳しい囲み記事やコーパスを検索した結果に基づいた詳細な記述は,他のタイプの辞書の追随を許しません。統語論,意味論,語法研究といった,英語学の最新の知見が惜しみなく本文に反映されているため,私を含め,研究者が真っ先に手をのばす辞書でもあります。

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ただ,英語の苦手な高校生には情報量が多すぎて使いにくいと感じるかもしれません。たとえば,『ウィズダム英和辞典』ではgoの項目は句動詞を含めると実に10ページにわたっており,二カ国語辞書としては,日本国内はもちろん,全世界の辞書の中でも有数の詳しさです。そのため,必要な情報を取捨選択して迅速に探し出すには,ある程度の慣れが必要になるでしょう。「語数が多く,文法・語法の解説が詳しい辞書でないと英語力がつかない」と考える先生方も少なくないようですが,必要な情報を見つけるのに時間がかかり,英語が嫌いになってしまっては元も子もありません。

英語に興味のある学生や,外国語大学などで英語を専門に学ぼうとしている人には非常に役に立つタイプの辞書であり,肌身離さず持ち歩いて引きこなしてほしいと思いますが,教員が常用しているからといって,普通の高校生にそのまますすめてしまうと消化不良になることもありますので注意が必要です。

一般英和辞典

今までご紹介した辞書は,いずれも学習英和辞典とよばれるものであり,レベルごとに内容の差はあっても,用例や文法,語法の注記といった,英語を総合的に学ぶ際に役立つ情報が豊富に収録されています。とりあえず学習英和辞典が1冊あれば,英語を読むときはもちろん,書くときにも役立つので,辞書のコンビニとでも呼べる存在です。

一方,一般英和辞典は,英語を読むことに特化した「辞書のブティック」であり,用例や各種の解説が少ないかわりに上級学習辞典の2~3倍の語数を収録しています。『グランドコンサイス英和辞典』などがその例ですが,上級学習辞典にさえ出ていないような固有名詞や人名,専門用語などが豊富に収録されています。私が大学在学中に交換留学で訪れた,ランドルフ・メイコン大学(Randolph-Macon College)は学生数が千数百人の小規模な大学ですが,『グランドコンサイス英和辞典』には出ています。

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一般英和辞典は学習英和辞典とは比較にならない語数を収録していますが,その大半は専門用語や固有名詞であり,一般語に関しては上級学習辞典でも十分です。しかし,専門的な文献などを正確に解釈する必要がある場合は,複合語や成句の充実した一般英和辞典に頼ることも多くなるでしょう。たとえば,航空関係の統計資料などを見ていると,general aviationという語がよく出てきます。『ウィズダム英和辞典』にも出ていない複合語ですが,「一般航空」とそのまま訳してしまうと,(軍用機などと対比して)民間機(航空会社)のことなのかと解釈してしまうかもしれません。

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『グランドコンサイス英和辞典』を引くと「定期航空を除き,スポーツ・農薬散布飛行などを含む」という注記があります。すなわち,航空会社がスケジュールを決めて運行するフライトではなく,個人が小型機を操縦したり,宣伝や写真撮影,曲技飛行等,特定の目的で不定期に飛ばす運航形態を意味することが分かります。

★これまで2回に分けて,英和辞典には様々な種類があることをみてきました。語数が多い辞書にむやみに飛びつくのでなく,自分の英語レベルにあった辞書を選び,力がつくにしたがってより収録語数の多い辞書に買い換えていくことが,辞書を快適に使う上での鉄則と言えます。「この辞書は易しすぎるから,資格試験や難関大学の入試には対応できない」と判断し,背伸びして難しい辞書を求める高校生も多いようですが,実際には,中級学習英和辞典1冊あれば,英検の上位級(準1級,1級)でも対応できますし,英検2級レベルなら,『ビーコン英和辞典』などの初級学習英和辞典でも十分です。

…と言っても半信半疑の先生も多いかもしれませんので,次回は,過去約10回の英検で実際に出題された長文,文法問題のコーパスデータをもとに,各タイプの学習英和辞典に収録されている語がどれぐらい英検の問題をカバーするのかを客観的に検証してみたいと思います。


【筆者プロフィール】

関山健治(せきやま・けんじ)
1970年愛知県生まれ。南山大学大学院外国語学研究科英語教育専攻修士課程修了(応用言語学),愛知淑徳大学大学院文学研究科英文学専攻満期退学(英語辞書学・語用論)。現在,沖縄大学法経学部准教授。

著書に『辞書からはじめる英語学習』(2007,小学館),『ウィズダム英和辞典第2版』(共同執筆,三省堂,2006),訳書に『英語辞書学への招待』(共訳,大修館書店,2004),『コーパス語彙意味論』(共訳,研究社,2006)などがある。


【編集部より】
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