広告の中のタイプライター(11):Sholes & Glidden Type-Writer

2017年 7月 13日 木曜日 筆者: 安岡 孝一

タイプライターに魅せられた男たち・補遺

『The Nation』1875年12月16日号

『The Nation』1875年12月16日号(写真はクリックで拡大)

「Sholes & Glidden Type-Writer」は、1874年にE・レミントン&サンズ社が製造を開始したタイプライターです。当初はデンスモア(James Densmore)が販売権を握っていましたが、すぐに立ち行かなくなり、1875年11月にはロック・ヨスト&ベイツ社(David Ross Locke, George Washington Newton Yost & James Hale Bates)に販売権が移っています。ロック・ヨスト&ベイツ社は、「Sholes & Glidden Type-Writer」の販売をテコ入れするため、あちこちの雑誌や新聞に広告を掲載しました。上に示した広告もその一つなのですが、発明者のショールズ(Christopher Latham Sholes)やグリデン(Carlos Glidden)に断りなく、広告のブランド名を「Type-Writer」に縮めてしまっています。というのも、この時点の「Sholes & Glidden Type-Writer」には、筐体のどこにも、ブランド名が記されていなかったのです。

「Sholes & Glidden Type-Writer」は、44キーのアップストライク式タイプライターです。外見は足踏み式のミシンに似ており、専用の台の上にマウントされていて、フットペダルがついています。フットペダルを踏み込むと、プラテンが右端に移動し、いわゆるキャリッジリターン動作をおこないます。キー配列は下図に示すとおりです。このキー配列は、最終的にはショールズが決定したものですが、決まるまでには、かなりの紆余曲折があったようです。

「Sholes & Glidden Type-Writer」のキー配列

「Sholes & Glidden Type-Writer」には、小文字は無く、大文字しか打つことができません。また、数字の「1」は大文字の「I」で、数字の「0」は大文字の「O」で、代用することになっていました。しかも打った文字は、その場では見ることができません。キーを押すと、対応する活字棒(type bar)が跳ね上がってきて、プラテンの下に置かれた紙の下側に印字がおこなわれます。プラテン下の印字面は、そのままの状態ではオペレータからは見えず、プラテンを持ち上げるか、あるいは数行分改行してから、やっと印字結果を見ることができるのです。

大文字しか印字できない「Sholes & Glidden Type-Writer」は、モールス符号の受信には使えるものの、一般的なビジネス分野への導入には無理がありました。もちろん、クリスマス・プレゼントとしても、かなり無理のあるものだったのですが、ロック・ヨスト&ベイツ社は、あえてそこからスタートしたようです。

【筆者プロフィール】

安岡孝一(やすおか・こういち)

京都大学人文科学研究所附属東アジア人文情報学研究センター教授。京都大学博士(工学)。文字コード研究のかたわら、電信技術や文字処理技術の歴史に興味を持ち、世界各地の図書館や博物館を渡り歩いて調査を続けている。著書に『新しい常用漢字と人名用漢字』(三省堂)『キーボード配列QWERTYの謎』(NTT出版)『文字符号の歴史―欧米と日本編―』(共立出版)などがある。

http://srad.jp/~yasuoka/journalで、断続的に「日記」を更新中。


広告の中のタイプライター(10):Fox Visible Typewriter No.24

2017年 6月 29日 木曜日 筆者: 安岡 孝一

タイプライターに魅せられた男たち・補遺

『Popular Mechanics』1911年4月号

『Popular Mechanics』1911年4月号(写真はクリックで拡大)

「Fox Visible Typewriter No.24」は、フォックス(William Ross Fox)率いるフォックス・タイプライター社が、1908年頃に発売したフロントストライク式タイプライターです。1888年にフォックス・マシン社を創業して以来、フォックスは、トリマーや製粉機あるいは自転車などを、ミシガン州グランドラピッズで作り続けてきました。加えて、フォックス・タイプライター社を併設し、アップストライク式タイプライターを製造・販売していたのですが、「Underwood Standard Typewriter No.5」の爆発的ヒットに触発されたのか、フロントストライク式タイプライターの製造も始めたのです。

「Fox Visible Typewriter No.24」は、44キーのフロントストライク式タイプライターで、円弧状2列に配置された44本の活字棒(type arm)と、その上にかぶさる「THE FOX」の金文字が特徴的です。活字棒は、タイプバスケットの手前に26本、奥に18本が配置されています。各キーを押すと、対応する活字棒が立ち上がって、プラテンの前面に置かれた紙の上にインクリボンごと叩きつけられ、紙の前面に印字がおこなわれます。これにより、打った文字がその瞬間に見えるのです。44本の活字棒には、それぞれ活字が2つずつ埋め込まれていて、シフト機構により、88種類の文字が印字できます。通常は小文字や数字が印字されるのですが、キーボード最下段の左右端にある「SHIFT KEY」を押すと、タイプバスケット全体が持ち上がって、大文字が印字されるようになるのです。

キー配列は基本的にQWERTY配列で、上の広告のキーボードでは、最上段の数字側は23456789-¢/、シフト側は“#$%_&’()@⅛と並んでいるようです。次の段は、小文字側がqwertyuiop½⅞、大文字側がQWERTYUIOP¼¾と並んでいます。その次の段は、小文字側がasdfghjkl;⅝、大文字側がASDFGHJKL:⅜と並んでいます。最下段は、小文字側がzxcvbnm,.=、大文字側がZXCVBNM?.+です。また、黒赤2色のインクリボンにより2色の印字が可能で、キーボード最上段の左端(「2」の左側)にある赤いキーで印字を赤に、その次の段の左端(「Q」の左側)にある黒いキーで印字を黒に、それぞれ切り替えることができます。キーボード最上段の右端(「/」の右側)が「MARGIN RELEASE」キー、その上方のフロントパネル前面にあるのが「BACK SPACER」キーです。

フォックス・タイプライター社は、「Fox Visible Typewriter No.24」の標準価格を、100ドルに設定していました。500日間で割ると、1日20セント。ただ、日曜や祝日を除いて500日間となると、約20ヶ月が必要となるはずなのですが、上の広告では、そこまでは触れていなかったようです。

【筆者プロフィール】

安岡孝一(やすおか・こういち)

京都大学人文科学研究所附属東アジア人文情報学研究センター教授。京都大学博士(工学)。文字コード研究のかたわら、電信技術や文字処理技術の歴史に興味を持ち、世界各地の図書館や博物館を渡り歩いて調査を続けている。著書に『新しい常用漢字と人名用漢字』(三省堂)『キーボード配列QWERTYの謎』(NTT出版)『文字符号の歴史―欧米と日本編―』(共立出版)などがある。

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広告の中のタイプライター(9):Corona 3

2017年 6月 15日 木曜日 筆者: 安岡 孝一

タイプライターに魅せられた男たち・補遺

『Popular Science Monthly』1921年7月号

『Popular Science Monthly』1921年7月号(写真はクリックで拡大)

1912年にスタンダード・フォールディング・タイプライター社が発売した「Corona 3」は、ポータブル・タイプライター市場に一大センセーションを巻き起こし、同社はコロナ・タイプライター社に社名を変更しました。「Corona 3」は、フロントストライク式にもかかわらず、タイプライター本体を小さく折りたたむことが可能で、本体の重さが8ポンド(3.6kg)、キャリーケースが2ポンド(0.9kg)と、出張先や旅行先などへも携帯可能だったのです。

「Corona 3」は、28キーのフロントストライク式タイプライターです。基本となるキー配列はQWERTY配列で、各キーに大文字・小文字・記号(あるいは数字)の3種類の文字が配置されています。上段の10個のキーには、大文字のQWERTYUIOPと、小文字のqwertyuiopと、数字の1234567890が、それぞれ配置されています。中段の9個のキーには、大文字のASDFGHJKLと、小文字のasdfghjklと、記号の@$%!_*/=#が、それぞれ配置されており、左端には「FIG」キーがあります。下段の9個のキーには、大文字側にZXCVBNM.&が、小文字側にzxcvbnm,-が、記号側に()?’”:;.¢が、それぞれ配置されており、左端には「CAP」キーがあります。

28個の各キーを押すと、対応する活字棒(type arm)が立ち上がって、プラテンの前面に置かれた紙の上にインクリボンごと叩きつけられ、紙の前面に印字がおこなわれます。通常の状態では小文字が印字されますが、「CAP」キーを押すとプラテンが持ち上がって大文字が、「FIG」キーを押すとプラテンがさらに持ち上がって記号や数字が、それぞれ印字されます。「FIG」キーのすぐ左側にはシフトロック・ノブがあり、「FIG」キーや「CAP」キーを押しっぱなしで固定できるようになっています。また、本体を折りたたむ際には、「FIG」も「CAP」も押さずに、シフトロック・ノブを固定します。これにより折りたたみ時に、プラテンシフト機構が動かないようにできるのです。

プラテンには、キャリッジリターンのためのノブ等は付いておらず、プラテンそのものを右へ押すことで、キャリッジリターンをおこないます。ただし、プラテンを支える2本のシャフトのうち、向かって右側のシャフトに「BACK SPACE」キーが付いており、これを押すことでプラテンを1文字分戻すことができます。また、黒赤2色のインクリボンにより、2色の印字が可能なのですが、切り替えツマミが左のインクリボン・スプールの右下という、かなり分かりにくいところに付いていました。さらには、本体を折りたたむ手順も、マニュアル無しでは分かりにくいものでした。

それもあって、上の広告にも見える通り、「HOW TO USE CORONA ― The Personal Writing Machine」という16ページの小冊子が、「Corona 3」のキャリーケースに添付されていました。この小冊子には、各部分の機能、折りたたみの手順、さらには、メンテナンスの方法や注意点までが詳細に書かれており、各オペレータが「Corona 3」の機構を自習できるようになっていたのです。

【筆者プロフィール】

安岡孝一(やすおか・こういち)

京都大学人文科学研究所附属東アジア人文情報学研究センター教授。京都大学博士(工学)。文字コード研究のかたわら、電信技術や文字処理技術の歴史に興味を持ち、世界各地の図書館や博物館を渡り歩いて調査を続けている。著書に『新しい常用漢字と人名用漢字』(三省堂)『キーボード配列QWERTYの謎』(NTT出版)『文字符号の歴史―欧米と日本編―』(共立出版)などがある。

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広告の中のタイプライター(8):Royal Signet

2017年 6月 1日 木曜日 筆者: 安岡 孝一

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『Popular Science Monthly』1932年10月号

『Popular Science Monthly』1932年10月号(写真はクリックで拡大)

1932年10月、ロイヤル・タイプライター社は「Royal Signet」の発売を記念して、「5000ドルを現金で163名様に」という1ヶ月間限定のキャンペーンを打ちました。

お近くのロイヤル・タイプライター社の代理店で、「Royal Signet」をお試し下さい。その上で、簡単な御意見を、たったの50ワード、代理店の準備した用紙に打ち込んで下さい。期限は10月31日のミッドナイトです。一等賞は1名様に1000ドル、二等賞は1名様に500ドル、三等賞は1名様に250ドル、四等賞は10名様に100ドルずつ、五等賞は50名様に25ドルずつ、六等賞は100名様に10ドルずつ、現金で差し上げます。一二三等賞が引き分けの場合は、双方に1000・500・250ドルを差し上げます。審査は、御意見の面白さのクオリティでおこない、受賞者には、遅くとも12月15日には通知いたします。

「Royal Signet」は、44キーのフロントストライク式タイプライターで、小型軽量を売りにしていました。ただし、シフト機構が無く、大文字しか印字できなかったのです。キー配列は、最上段が123456789-?$、上段がQWERTYUIOP’、中段がASDFGHJKL;:、下段がZXCVBNM,./のQWERTY配列でした。数字の0は、大文字のOで代用することが想定されていました。44本の活字棒(type arm)の先端には、等幅のスラント体(斜体)活字が埋め込まれていました。また、インクリボンは黒一色のみで、紙幅の設定も出来なければ、バックスペースも無い、という、当時としても、かなりシンプルすぎるタイプライターだったのです。

ロイヤル・タイプライター社は、「Royal Signet」を入門機として位置づけていました。タイプライターというものに触れたことがない学生や一般の人々に、初めてのタイプライターとして「Royal Signet」を使ってもらい、ゆくゆくは、大文字小文字が打てるタイプライターへとステップアップしていく、というプランだったのです。ただ、このプランは、代理店には不評でした。「Royal Signet」は、定価29ドル50セントという低価格に設定されていたため、代理店にはほとんどマージンが無かったのです。マージンが無いのに、1ヶ月限定とはいえキャンペーンを手伝わされ、しかも、現実のステップアップがいつになるのか、よくわからないプランでした。また、仮にステップアップが起こったとしても、その際にロイヤル・タイプライター社を選ぶとは限りません。大文字小文字が打てる他社のタイプライターに乗り換える可能性だって、十分に考えられるのです。実際、ロイヤル・タイプライター社は、1934年には「Royal Signet」の生産を終了し、大文字小文字が打てる他のモデルに、注力していったようです。

【筆者プロフィール】

安岡孝一(やすおか・こういち)

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広告の中のタイプライター(7):Underwood Standard Typewriter No.5

2017年 5月 18日 木曜日 筆者: 安岡 孝一

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『Rotarian』1922年9月号

『Rotarian』1922年9月号(写真はクリックで拡大)

「Underwood Standard Typewriter No.5」は、ワーグナー・タイプライター社が1900年6月に発売したタイプライターです。ワーグナー・タイプライター社は、ワーグナー親子(Franz Xaver Wagner & Herman Lewis Wagner)が、アンダーウッド(John Thomas Underwood)と共に設立した会社で、設立当初からフロントストライク式タイプライターのみをターゲットに、開発・製造をおこなってきていました。「Underwood Standard Typewriter No.5」の爆発的ヒットにより、ワーグナー・タイプライター社は、傘下のアンダーウッド・タイプライター・マニュファクチャリング社をアンダーウッド・タイプライター社に改組し、さらに、ワーグナー・タイプライター社をアンダーウッド・タイプライター社に吸収合併しました(1903年1月29日)。その後、約30年間に渡り、アンダーウッド・タイプライター社は、「Underwood Standard Typewriter No.5」を製造・販売し続けたのです。

「Underwood Standard Typewriter No.5」は、42キーのフロントストライク式タイプライターで、円弧状に配置された42本の活字棒(type arm)が特徴的です。各キーを押すと、対応する活字棒が立ち上がって、プラテンの前面に置かれた紙の上にインクリボンごと叩きつけられ、紙の前面に印字がおこなわれます。30年以上に渡る歴史の中で、様々なキー配列の「Underwood Standard Typewriter No.5」が製造されたのですが、基本的にはQWERTY配列のものが多く、また、最上段の数字キーは234567890-と並んでいるのが基本配列でした。最下段の「Z」の左横と、「/」の右横には、それぞれ「SHIFT KEY」が配置されています。通常の状態では小文字が印字されるのですが、「SHIFT KEY」を押すとプラテンが持ち上がって、大文字が印字されるようになります。右側の「SHIFT KEY」の上には「SHIFT LOCK」キーがあり、「SHIFT KEY」を下げたままにできるようになっています。最上段の「-」の右横には「TABULATOR」キーが、「2」の左上には「BACKSPACER」キーがあります。

上の広告に掲載されている「Underwood Standard Typewriter No.5」は、黒赤2色のインクリボンが使えるモデルで、黒赤を切り替えるボタンが、「TABULATOR」キーのさらに上に付いています。この切り替えボタンは、左右にシーソーの形になっていて、左を下げると黒い文字が、右を下げると赤い文字が、それぞれ印字されます。ちなみに、初期の「Underwood Standard Typewriter No.5」には、この切り替えボタンが付いておらず、黒一色での印字だったようです。

【筆者プロフィール】

安岡孝一(やすおか・こういち)

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広告の中のタイプライター(6):Rex Visible Typewriter No.4

2017年 4月 27日 木曜日 筆者: 安岡 孝一

タイプライターに魅せられた男たち・補遺

『Popular Mechanics』1915年12月号

『Popular Mechanics』1915年12月号(写真はクリックで拡大)

「Rex Visible Typewriter No.4」は、ハリス(De Witt Clinton Harris)率いるレックス・タイプライター社が、1915年から1922年にかけて製造販売したタイプライターです。ハリスはそれまで、ウィスコンシン州フォンデュラックのハリス・タイプライター社で、「Harris Visible Typewriter No.4」などを製造していましたが、シカゴに本社を移した時点でレックス・タイプライター社に社名を変え、「Rex Visible Typewriter No.4」を製造販売しはじめました。

「Rex Visible Typewriter No.4」は、28キーのフロントストライク式タイプライターです。キー配列はいわゆるQWERTY配列で、各キーに大文字・小文字・記号(あるいは数字)の3種類の文字が配置されています。上段の10個のキーには、大文字のQWERTYUIOPと、小文字のqwertyuiopと、数字の1234567890が、それぞれ配置されており、その右側に「BACK SPACER」キー(上の広告では赤字の6)があります。中段の9個のキーには、大文字のASDFGHJKLと、小文字のasdfghjklと、記号の@$%^*=/¢#が、それぞれ配置されており、左右の端には「FIG」キーがあります。下段の9個のキーには、大文字側にZXCVBNM&.が、小文字側にzxcvbnm-,が、記号側に()?’”:;_.が、それぞれ配置されており、左右の端には「CAP」キーがあります。

28個の各キーを押すと、対応する活字棒(type arm)が立ち上がって、プラテンの前面に置かれた紙の上にインクリボンごと叩きつけられ、紙の前面に印字がおこなわれます。通常の状態では小文字が印字されますが、「CAP」キーを押すとタイプバスケットが持ち上がって大文字が、「FIG」キーを押すとタイプバスケットが下がって記号や数字が、それぞれ印字されます。「SHIFT LOCK」キー(上の広告では赤字の5)も準備されており、「CAP」キーもしくは「FIG」キーを押しっぱなしにできます。黒赤2色のインクリボンにより2色の印字が可能で、それを強調すべく、上の広告も2色刷りです。黒赤の切り替えは、本体右側のツマミ(上の広告では赤字の4)でおこないます。また、上の広告で赤字の3で示されているのは、改行幅を変更するためのレバーで、シングル・1½・ダブルスペーシングが設定可能だったようです。

この時点のレックス・タイプライター社は、自前の販売網を持たず、広告で各地の代理店を募る、という状態でした。ハリス・タイプライター社の時代には、シアーズ・ローバック社(Sears, Roebuck & Company)が代理店を務めており、全米に渡ってカタログ通信販売がおこなわれていたのですが、レックス・タイプライター社は、シアーズ・ローバック社以外の独自販路を開拓する、という経営判断をおこなったようです。

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広告の中のタイプライター(5):Oliver No.9

2017年 4月 13日 木曜日 筆者: 安岡 孝一

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『Popular Science Monthly』1919年2月号

『Popular Science Monthly』1919年2月号(写真はクリックで拡大)

「Oliver No.9」は、シカゴのオリバー・タイプライター社が、1915年から1922年頃にかけて製造したタイプライターです。この時期のオリバー・タイプライター社は、奇数No.を国内向けモデル、偶数No.を輸出向けモデルとしていました。この「Oliver No.9」はアメリカ国内向けであり、次の「Oliver No.10」は輸出向けでした。

「Oliver No.9」は、28キーのダウンストライク式タイプライターで、左右に14個ずつ翼のようにそびえ立った活字棒(というよりは活字翼)が特徴的です。28個のキーからは、左右14個ずつのキーに分かれて、背面の奥へとシャフトが伸びています。各シャフトは、それぞれが活字翼に繋がっており、キーを押すと対応する活字翼が打ち下されて、プラテンの上に置かれた紙の上面に印字がおこなわれます。これにより、打った文字がその瞬間に見えるのです。28個の活字翼には、それぞれ活字が3つずつ埋め込まれていて、プラテン・シフト機構により、84種類の文字が印字できます。キーボード下段の左右端にある「CAP」を押すと、プラテンが奥に移動し、大文字が印字されるようになります。キーボード中段の左右端にある「FIG」を押すと、プラテンが手前に移動し、数字や記号が印字されるようになります。この活字翼と印字機構は、創業者オリバー(Thomas Oliver)の発明によるものですが、オリバーは1909年2月9日に亡くなっており、「Oliver No.9」そのものにはタッチしていません。

「Oliver No.9」は、重さが約28ポンド(13キログラム)もあり、当時としても、かなり重たいタイプライターでした。そのためか、本体下部の左右には、持ち上げるための取っ手がついています。また、2色インクリボン(通常は赤と黒)を装着可能だったのですが、それは、上の広告からは読み取れません。ちなみに、右活字翼の枠の上に付いているのは、ペンホルダーです。

「打った文字がその瞬間に見える」タイプライターは、1910年代には、もはや珍しくなくなっていました。「Oliver No.9」は、その意味では時代遅れになりつつあったのです。「Oliver No.9」の発売当時の価格は100ドルだったのですが、1917年には49ドルに値下げし、1919年には57ドルに値上げしています。上の広告にもあるとおり、月々3ドルずつの月賦払いも可能でした。ただ、月々3ドルだと、総額49ドルでは割り切れないので、割り切れる57ドルに値上げしたのだろうか、という憶測も働いてしまいます。また、57ドルはアメリカ国内向けの価格で、対カナダ向けは72ドルだったようです。

【筆者プロフィール】

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広告の中のタイプライター(4):Hammond Multiplex

2017年 3月 30日 木曜日 筆者: 安岡 孝一

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『Time』1925年4月6日号

『Time』1925年4月6日号(写真はクリックで拡大)

創業者のハモンド(James Bartlett Hammond)が1913年1月27日に死去し、ハモンド・タイプライター社の経営は、当時29才だったベッカー(Neal Dow Becker)の手に委ねられました。ベッカーは、ハモンドが残した技術のうち、タイプ・シャトルと呼ばれる印字機構を中心に、「Hammond Multiplex」を完成・発売しました。

「Hammond Multiplex」には、キーボードが曲がっている(Curved Keyboard)モデルと、キーボードが直線的な(Straight Keyboard)モデルがあり、いずれも1913年に製造を開始しました。その後1916年には、筐体の上面を金属板のカバーでくるんだ(Metal Cover)モデルになりました。上の広告に掲載されている「Hammond Multiplex」は、直線キーボード金属板カバーモデル(Straight Keyboard, Metal Cover Model)です。キーボードの上段が13キー、中段が12キー、下段が12キーなので、下段の左右端が「CAP.」キー、中段の左右端が「FIG.」キー、上段の左端がロックキー、上段の右端のキーがバックスペース、そのすぐ左側のキーがマージンリリースだと考えられます。「Hammond Multiplex」には、「CAP.」と「FIG.」のロックキーがそれぞれ独立しているモデルもあるのですが、この広告のモデルでは一体化しているようです。

中央の円筒内部に組み込まれたタイプ・シャトルには、30行×3列=90字の活字が埋め込まれています。タイプ・シャトルの3列の活字のうち、下の列には「FIG.」に対応する数字その他の記号が、真ん中の列には「CAP.」に対応する英大文字等が、上の列には英小文字等が、それぞれ埋め込まれています。残る30個の各キーを押すと、タイプ・シャトルの対応する活字が紙の方へと移動し、紙の背面からハンマーが打ち込まれることで、紙の前面に印字がおこなわれるのです。また、円筒内部には、2枚のタイプ・シャトルをセットしておくことができます。タイプ・シャトルの切り替えは、円筒の真ん中にあるツマミを、180度回転させることでおこないます。この機構により、「Hammond Multiplex」は、最大180種類の文字を打ち分けることが可能でした。

ただし、1920年代においては、フロントストライク式タイプライターが全盛を極めていて、「Hammond Multiplex」のタイプ・シャトル機構は、すでに時代遅れとなっていました。紙の背面からハンマーを打ち込む機構では、紙の厚みによって印字の濃さが左右され、そもそも分厚い紙への印字が不可能です。ベッカーは、フェデラル・アディング・マシン社を1921年に買収し、同社のフロントストライク式タイプライター「Federal Visible」の技術を、「Hammond Multiplex」に援用すべく試みたようです。しかしながら、現実には、ハモンド・タイプライター社において、フロントストライク式の技術が実用化されることはありませんでした。

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広告の中のタイプライター(3):Remington Noiseless No.10

2017年 3月 16日 木曜日 筆者: 安岡 孝一

タイプライターに魅せられた男たち・補遺

『Fortune』1934年2月号

『Fortune』1934年2月号(写真はクリックで拡大)

1927年2月9日、レミントン・タイプライター社はランド・カーデックス社などと合併し、レミントン・ランド社になりました。レミントン・ランド社のタイプライター部門は、基本的にそれまでのレミントン・タイプライター社のモデルを踏襲しましたが、1933年3月のタイプライター60周年イベントと前後して、新たなモデルを発表しました。1933年12月に発売された「Remington Noiseless No.10」も、その1つです。「Remington Noiseless No.10」は、42キーのフロントストライク式タイプライターで、「Noiseless」の名の通り、静かさを売りにしていました。アーム(type arm)とプラテンの間が近接していて、印字の際の音が小さくなっており、さらにアームの上にカバーをかぶせることで、音が部屋に響かないよう設計されていたのです。

「Remington Noiseless No.10」のキー配列は、基本的にQWERTYです。キーボードの最下段の左右の端に「SHIFT KEY」が配置されており、それぞれ少し上に「SHIFT LOCK」があって、いずれのキーもプラテンを上下させることで、大文字小文字を打ち分けます。キーボードの最上段は、234567890-のシフト側に“#$%_&’()*が配置されているのが、上の広告から見て取れます。数字の「1」にあたるキーは無く、小文字の「l」で代用したようです。「2」の左側にあるキーは「BACK SPACE」(1文字戻す)、「-」の右上に少し離れているキーは「MARGIN RELEASE」(右端のマージンを越えてさらに右側に打つ)です。「3」と「0」のすぐ上にある赤いキー(広告はモノクロ)は、それぞれ「CLEAR KEY」と「SET KEY」で、タブ位置の解除と設定をおこないます。設定したタブ位置への移動は、「CLEAR KEY」と「SET KEY」の間にある長い「TABULATOR」キーでおこないます。「TABULATOR」キーのすぐ上にある金属製のツマミは、印字濃度を変化させます。ツマミを左端の0にすると、印字が薄くなり、その結果として、印字音が小さくなります。逆にツマミを右端にすると、印字音は大きくなりますが印字が濃くなり、カーボン紙を挟んだ複数枚の紙に印字できるようになります。

当時、レミントン・ランド社は、CBS(Columbia Broadcasting System)の金曜夜のラジオ番組『March of Time』に、スポンサーの1つとして名を連ねていました。番組の終わりには、もちろん「Remington Noiseless No.10」の広告も流れました(音声)。ただ、静かさが売りのはずの「Remington Noiseless No.10」を、どのようにしてラジオというメディアで広告するのか、なかなかに苦労があったようです。

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広告の中のタイプライター(2):Royal KMM

2017年 3月 2日 木曜日 筆者: 安岡 孝一

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『Life』1942年10月26日号(写真はクリックで拡大)

18台の「Royal KMM」を前に演説する男。演説台には、アメリカ海軍を象徴するかのような白頭鷲の模型と、アメリカ国旗をデフォルメした装飾。左上には「A message to the typewriters we sold before Pearl Harbor」の文字。18台の「Royal KMM」のラインフィード・レバーは、あたかも右腕を振り上げているかのようです。この広告は、何を意味しているのでしょう。

「Royal KMM」は、ロイヤル・タイプライター社が1938年に発売したフロントストライク式タイプライターです。それまでのロイヤル・タイプライター社のモデルと異なり、インクリボンが剥き出しになっておらず、金属製のカバーに「ROYAL」のロゴが特徴的です。キー数は42で、基本的にはQWERTY配列です。ただし、映画『ドボラック簡素化タイプライターキーボードにおける動作研究』(A Motion Study of the Dvorak Simplified Typewriter Keyboard)には、ドボラック式配列の「Royal KMM」も登場するので、他のキー配列もオプションで注文可能だったと考えられます。

1941年12月7日、日本軍はハワイ真珠湾(Pearl Harbor)を奇襲攻撃し、日米は開戦しました。これに伴い、ロイヤル・タイプライター社は、「Royal KMM」など民間向けタイプライターの生産を停止、軍需向け「Royal Arrow Portable」の生産に注力することになりました。そんな中、ロイヤル・タイプライター社は、いわゆる愛国主義的な広告を、各誌に掲載しました。その一つが、上の広告です。「A message to the typewriters we sold before Pearl Harbor」(真珠湾以前に我々が販売したタイプライターへのメッセージ)と題するこの広告は、その名のとおり、1941年以前にロイヤル・タイプライター社が販売したタイプライターに向けたメッセージでした。

12月7日以前に我々が販売した全てのロイヤル・タイプライターたちよ、聴き給え。君たちのもとには、今まさに「本当の仕事」がある。君たちは、この戦争が終わるその日まで、踏ん張ってもらわねばならない。君たちは、アメリカのビジネスにおける極めて重要な一翼を担っているとともに、しばらくの間、君たちの後釜となるマシンは無い。というのも、我々は今、軍需品の生産に忙殺されているからだ。

君たちが堂々と仕事をおこなえるよう、君たちには、かの有名な、信頼すべき、ロイヤルのサービスがついている。君たちが今現在どれほど古びてしまっているとしても、どれほど長期に渡って酷使されてきたとしても、今後も君たちは使わなければならない。この戦争に勝つまでは!

実際、1945年末まで、「Royal KMM」の生産は再開されませんでした。アメリカの対日戦争を、このような形で、ロイヤル・タイプライター社は支えていたのです。

【筆者プロフィール】

安岡孝一(やすおか・こういち)

京都大学人文科学研究所附属東アジア人文情報学研究センター教授。京都大学博士(工学)。文字コード研究のかたわら、電信技術や文字処理技術の歴史に興味を持ち、世界各地の図書館や博物館を渡り歩いて調査を続けている。著書に『新しい常用漢字と人名用漢字』(三省堂)『キーボード配列QWERTYの謎』(NTT出版)『文字符号の歴史―欧米と日本編―』(共立出版)などがある。

http://srad.jp/~yasuoka/journalで、断続的に「日記」を更新中。


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