題詠部門:「待つ恋」
「待つ恋」をテーマに、五・七・五・七・七の形で和歌を作ってみましょう。 なるべく多くの古語(『全訳読解古語辞典〔第四版〕』 に載っている語)を用いること。
- なるべく修辞技巧(掛詞や枕詞など)を入れましょう。
- 古語辞典を引いて、古語の意味や、活用、文法を確認しながら作りましょう。
- 歌を作るきっかけとなった出来事やエピソードを、一〇〇字程度で紹介してください。
歌枕部門:
あなたの住んでいる地域・学校のある土地・生まれ故郷・旅先など、身近な名所(古典和歌の歌枕だけに限りません)を詠み込んで、五・七・五・七・七の形で和歌を作ってみましょう。なるべく多くの古語(『全訳読解古語辞典〔第四版〕』に載っている語)を用いること。
- なるべく修辞技巧(掛詞など)を入れましょう。
- 古語辞典を引いて、古語の意味や、活用、文法を確認しながら作りましょう。
- 歌を作るきっかけとなった出来事やエピソードを、一〇〇字程度で紹介してください。
「優秀賞」(各部門3名)
題詠部門「待つ恋」
中山貴史(鳥取県・鳥取県立鳥取西高等学校2年)
100字エピソード:
夏が早くも来てしまい、言うに言えない自分の想いは長い時間をかけて山のようになってしまった。久松山を「久し」、「松」、「山」と分解し、歌にしてみたら面白いだろうと思いこの歌を詠んだ。鳥取にちなんで鳥に告げさせてみた。
國政椋太郎(鳥取県・鳥取県立鳥取西高等学校2年)
100字エピソード:
待ち合わせの場所にあった桜が枯れてしまったように、相手の心も離れてしまい、あの子はもう来ないのに、桜のもとで日が暮れるまで立ちつくしている友人の切ない感情を、折句「かたおもひ」(片思ひ)や掛詞(「かる」)を用いて表現してみました。
香月よしの(神奈川県・神奈川県立多摩高等学校1年)
100字エピソード:
昔近くに住んでいて、仲の良かった人が引っこしてしまい、手入れのされていない家や庭をふとした瞬間に見た時に遠くにいるその人を思いだして、今ごろどのように過ごしているのか、また会いたいと思ってしまう気持ちを歌にしました。
題詠部門 選評
古典の世界では、「待つ恋」は女性が詠む歌でした。妻問婚という結婚制度のもと、女性は男性の訪れを待つからでした。しかし、現代の男子高校生は、逆に女子からの働きかけを待つ身になっているようで、微笑ましく思いました。
中山さんの歌は、下の句に鳥取市を象徴する「久松山」を詠み込んで、「歌枕」部門にも通用します。しかし、「松」に「待つ」を掛けて「待つ恋」の歌にしています。古典の世界でも「夏」は恋の季節でした。その到来を鳥が告げている私の想いということなのでしょう。そして、恋の想いは、待つことを強いられて、山のようになってしまったと気づいたことになります。
國政さんの歌は、修辞技巧をこらしています。「かたおもひ」を折句にして、初句の「かれ」は「枯れ」と「離れ」の掛詞になります。さらに初句切れと二句切れになり、「立ちたる桜、枯れぬるや」という倒置になっています。「や」は詠嘆のようです。枯れた桜のもとを訪ねて、もの思いにふけるけれど、離れてしまった人は会ってくれるだろうかというのでしょう。「待つ恋」のもの思いになります。
香月さんの歌は、人が離れて荒れてしまった隣の家を見ると、遠くに行ってしまった人のことが自然と思いやられるとして、再会を願う気持ちが込められています。ここから「待つ恋」の歌になっていると言えます。なお、平安時代には「離る」は「ある」とも読まれましたので、「荒れ」は「離れ」と掛詞になっています。結句の自発の助動詞「るる」も正しく使われていて、古典和歌らしい発想です。(倉田 実)
歌枕部門
藤原耕平(山梨県・山梨県立甲府南高等学校1年)
100字エピソード:
富士河口湖町へ旅行へ行った時、目の前にそびえていた富士山の大きさに驚いた時の気持ちを詠んだ。不二は不尽、富士と掛け、下の句は、「裾野に広がる富士山の文化が古くから、今に至ってもなお廃ることなく続く」という驚きも込め、全体を折り句でまとめた。
田原知佳(鹿児島県・鹿児島県立鹿屋高等学校2年)
100字エピソード:
私は月を眺めるのが好きである。特に、冬の月光はどこか冷たく、格別美しい。私の住む町にある吾平山陵に祀られている神武天皇の母君である玉依姫も、時を超えてどこかでこの月を眺めているのではないだろうかとふと思ったことから、この歌を詠んだ。
門前菜々(神奈川県・神奈川県立多摩高等学校1年)
100字エピソード:
テレビで姫路城をみたときに、たくさんの鮮やかな桜がたくさん咲いていて、城を守っているような力強さを感じたので、この歌を詠みました。
歌枕部門 選評
歌枕は、地方の名所のことで、特定のイメージや風物などが詠まれていなければなりません。今回は古典和歌の歌枕になくても可としましたので、新しい歌枕がたくさん詠まれていました。また、伝統的な歌枕に新たなイメージも付け加えていました。
藤原さんの歌は、初句に工夫を凝らしています。二つとない意に、富士を掛け、さらに富士山は「不尽山」とも表記されましたので、尽きない意味も添えています。また、長い意の「八尺」の「八」の字は富士山の形も暗示しているようです。そして、「ふじのやま」を折句にしています。雪をかぶって、尽きない裾野の光景がよく詠まれています。
田原さんの歌は、鹿児島県鹿屋市の吾平を新たな歌枕にしました。美しい里の月を玉依姫も眺めているだろうということで神話を踏まえています。吾平には、神武天皇の両親を祀る「吾平山陵」があって、記紀神話に登場する玉依姫が母親です。第三句が微妙な働きをしていて、「月のうるはしき」と「うるはしき玉依姫」の二つの意が汲み取れます。
門前さんの歌は、枕詞と掛詞、それに言葉の対比に工夫が見られます。「しろ」に「城」と「白」が掛けられ、白鷺城という姫路城の異称も暗示しています。また、「白」と「紅」の色彩の対比もあります。「紅」が桜であることはやや分かりにくいですが、紅く咲いた春の花に囲まれた白鷺城がその色に染まって、浮かび上がって見える光景をよく捉えています。(倉田 実)
「入選」(各部門5名)
題詠部門「待つ恋」
稲田慎太郎(福岡県・福岡県立北筑高等学校1年)
南日菜子(福岡県・福岡県立北筑高等学校1年)
井上朗江(静岡県・静岡北高等学校1年)
小林蒼(山梨県・山梨県立甲府南高等学校1年)
松田遥子(鳥取県・鳥取県立鳥取西高等学校2年)
歌枕部門
野澤陽彩(山梨県・山梨県立甲府南高等学校1年)
若杉明日香(神奈川県・神奈川県立多摩高等学校1年)
間柴亮太(福岡県・東海大学付属第五高等学校3年)
岩下えりか(熊本県・玉名女子高等学校3年)
大瀧智広(東京都・立教池袋高等学校3年)
「奨励賞」
このたびは、入賞には及ばなかったものの、 学習成果や創意工夫などの点で一定の評価の得られた方を、特別に「奨励賞」として表彰いたします。
池田光毅(愛知県・愛知県立一色高等学校3年)/小宮山彩香(愛知県・愛知県立一色高等学校3年)/上仮屋利津美(鹿児島県・鹿児島県立鹿屋高等学校2年)/國井希美(神奈川県・白鵬女子高等学校2年)/日下颯平(神奈川県・神奈川県立多摩高等学校1年)/田中美緒(神奈川県・神奈川県立多摩高等学校1年)/鳥越涼芳(神奈川県・神奈川県立多摩高等学校1年)/安井亮暢(神奈川県・神奈川県立多摩高等学校1年)/清田優美(熊本県・玉名女子高等学校3年)/坂田鈴華(熊本県・玉名女子高等学校3年)/福元菫(高知県・高知県立高知西高等学校3年)/杉本啓歌(高知県・高知県立山田高等学校3年)/中村佳祐(埼玉県・埼玉県立越谷東高等学校3年)/青木優佳(広島県・広島県立海田高等学校1年)/冨田雅和(広島県・広島県立海田高等学校1年)/宇田敦也(福岡県・福岡県立北筑高等学校1年)/楠野綾乃(福岡県・福岡県立北筑高等学校1年)/徳永ふみ(福岡県・福岡県立北筑高等学校1年)/原田和(福岡県・福岡県立北筑高等学校1年)/齊藤佳亮(山梨県・山梨県立甲府南高等学校1年)
「団体賞」(上位10校)
神奈川県立多摩高等学校(神奈川県)
福岡県立北筑高等学校(福岡県)
玉名女子高等学校(熊本県)
愛知県立一色高等学校(愛知県)
山梨県立甲府南高等学校(山梨県)
鹿児島県立鹿屋高等学校(鹿児島県)
広島県立海田高等学校(広島県)
東海大学付属第五高等学校(福岡県)
鳥取県立鳥取西高等学校(鳥取県)
白鵬女子高等学校(神奈川県)
総評
応募作品は、それぞれに古語を使い、修辞技巧も工夫して、自分の思いや感動を歌にしていました。たくさんの力作の中から、応募要項の「選考の観点」によって各賞を選びましたが、この他にも入賞にしたい歌が多くありました。「字余り」や「字足らず」など、「五七五七七」の定型になっていない歌は、面白く詠まれていても「優秀賞」と「入選」の選考から除外しました。次回に応募される場合は、この点に十分注意してください。また、同じ語句や意味を二度も使用している歌も目立ちましたので、なるべく重複は避け、他の言葉を探して歌の世界を広げるようにしてみましょう。多くの高校生たちは、初めて古語を使った歌を詠んだと思います。その過程で、改めて自覚的に古語に親しんだことでしょう。それによって、古文に対する親しみも湧いたことと思います。これをきっかけにして、これからも古語を使った歌を詠んでみるようにしてください。(倉田 実)
【三省堂より】
このたびは、多くのご応募を賜り誠にありがとうございました。ご応募くださった高校生の皆様、
そしてご高配くださいました先生方に、心よりお礼を申し上げます。