2015年 募集題材

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題詠:「もみぢ」

「もみぢ」を題にした歌を、なるべく多くの古語(『三省堂 全訳読解古語辞典 〔第四版〕』に載っている語)を用いて、五・七・五・七・七の形式で詠んでみましょう。また、歌を詠むきっかけとなった出来事やエピソードを一〇〇字程度で紹介してください。

2014年 選考結果(2015 年2月23日発表) 

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「優秀賞」(3名)

 

風ふけばもみぢば揺れて離れぬるを黄の足跡ぞ地にとどめける

目野柚葉(神奈川県・神奈川県立多摩高等学校1年)

100字エピソード:
この歌は、もみじの葉がところどころに落ちている風景を想像しながら詠みました。その様子が、木が残していった足跡のような感じがしたので、木からもみじの葉が落ちていく瞬間を自分なりに表現してみました。

恋ひ恋ひて今日逢坂の月明かし染まるもみぢは散らずもあらなむ

川上真生(愛知県・名古屋市立菊里高等学校2年)

100字エピソード:
恋しく思っていて、やっと今日逢うことができた。今夜は月が明るく、赤く染まったもみじは散らないで欲しい、という意味です。より良い時間を過ごしたいという思いを込めました。「明かし」と「赤し」、「逢坂」と「逢ふ」をかけました。

妻を恋ふ鹿の気配に戸を開けば望月の夜に映えゆくもみぢ

和田純奈(京都府・京都府立鳥羽高等学校3年)

100字エピソード:
私の家は山の近くにあって夜にはよく鹿の鳴き声が聞こえてくる。ある時、いつもは一、二回で鳴き止む声が何度も何度も聞こえてきたので気になって窓を開けて外を見た。すると、満月に照らされるもみぢが見えた。この出来事が歌を作るきっかけとなった。

選評

 今回のお題「もみぢ」は、黄葉も含まれるように「紅葉」としないで、「もみぢ」としました。ただし、平安時代には「紅葉」と表記しても、「黄葉」を意味することもありました。「花紅葉」という言い方がありますように、春の花に対して、秋の景物を代表するのが紅葉になります。しかし、古典和歌の世界では、晩秋から初冬にかけての時節で詠まれ、このころに降るとされる時雨によって、色づくと考えられていました。色づいた紅葉は、鹿と取り合わせられ、月に映える様子も好まれました。また、紅葉は、枯れるとされることはあまりなく、花と同じく、風によって「散る」ものでした。優秀作は、こうしたことが、きちんと踏まえられていました。

 目野さんの歌は、細やかな観察力によって、ユニークな発想の歌に仕立てています。「風」によって「揺れて離れぬる」というように、散る様子をうまくとらえています。「離れぬるを」の「を」もただしく使用されています。また、落葉を「木の足跡」と「黄の足跡」との掛詞にしたのが独自です。この「もみぢ」は、銀杏(いちょう)なのでしょう。風に散ってしまったが、地面に黄色の木の足跡が残っていたと気づいた歌になります。

 川上さんの歌は、歌枕の「逢坂」と「もみぢ」を取り合わせた恋歌になっています。「逢坂」は、男女の出会いを連想させますので、恋い続けてきた相手と、やっとデートすることになったのでしょう。「月明かし」には、はずむ心がうかがわれます。また、木の葉が散るのは、男女の別れを意味しますので、「散らずもあらなむ(散らないでほしい)」とすることで、デートがうまくいきますようにと願う気持ちがうまく託されています。

 和田さんの歌は、実体験に即しながら、「鹿」と「もみぢ」という伝統的な取り合わせで詠まれています。鹿は離れている妻を恋い慕って鳴くとするのも伝統的な発想ですので、古語の知識をしっかり踏まえています。ある夜に鹿の鳴くような声が聞こえたので、戸を開けてみると、満月に照り映えた「もみぢ」が見えたというわけです。鹿は、その「もみぢ」に向かって鳴いていたことになります。(倉田実)

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「入選」(3名)

山づとに拾ふ手の中秋燃えてかざす紅葉映ゆるかんばせ

村井日向子(京都府・京都光華高等学校2年)

茜さす日の暮るるまでもみぢ葉をふみわけ遊ぶ妹のほほ

礒部円花(大阪府・大阪府立佐野高等学校1年)

まだ青き葉よくれなゐに染むころは何を思ひて日々を送らむ

柏木蛍瑠(神奈川県・神奈川県立多摩高等学校1年)

「奨励賞」

入賞には及ばなかったものの、 学習成果や創意工夫などの点で一定の評価の得られた方を、特別に「奨励賞」として表彰いたします。

中原健(愛知県・名古屋市立菊里高等学校2年)/白銀ゆい(青森県・青森県立弘前高等学校3年)/橘悠介(神奈川県・神奈川県立多摩高等学校2年)/奥田悠真(神奈川県・神奈川県立横浜栄高等学校2年)/重村優佳(熊本県・玉名女子高等学校1年)/大熊薫乃(熊本県・文徳高等学校1年)/井上朗江(静岡県・静岡北高等学校2年)/武沙佑美(東京都・渋谷教育学園渋谷高等学校2年)/吉本里菜(東京都・豊島岡女子学園高等学校1年)/溝上壽人(東京都・立教池袋高等学校3年)/佐藤由理(福岡県・福岡県立北筑高等学校2年)

「団体賞」(10校)

神奈川県立多摩高等学校(神奈川県)
名古屋市立菊里高等学校(愛知県)
福岡県立北筑高等学校(福岡県)
玉名女子高等学校(熊本県)
神奈川県立横浜栄高等学校(神奈川県)
京都府立鳥羽高等学校(京都府)
青森県立弘前高等学校(青森県)
静岡北高等学校(静岡県)
立教池袋高等学校(東京都)
文徳高等学校(熊本県)

総評

このコンテストでは、まず古文に関する基礎的な知識が身についているかどうかが審査の大きなポイントとなっています。具体的には応募要項の「選考の観点」をご覧ください。第2回目の「創作和歌コンテスト」にも、古語を使って「もみぢ」を詠んだ力作がたくさん寄せられ、入賞にしたい歌が多くありました。一方で、「五七五七七」の定型からはずれているもの、口語的な表現になっているもの、基本的な文法に関して明らかな間違いがあるもの、分かりにくい言い回しになっているものなども、多少目につきました。少し手直しすれば、入賞可能な歌もありましたので、とても残念です。短詩型のもの(和歌や俳句)は、特に「推敲」が大切ですね。古語を使用するのですから、古語辞典を何回も確認して最もふさわしい言葉を選び、ただしい用法で使用するように「推敲」に心がけて詠んでください。それによって、古語の理解が深まるだけでなく、和歌への親しみが増すことでしょう。(倉田実)

【三省堂より

このたびは、多くのご応募を賜り誠にありがとうございました。ご応募くださった高校生の皆様、
そしてご高配くださいました先生方に、心よりお礼を申し上げます。

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