日本語音声学入門

補足説明・資料

p.4

国際音声記号(IPA)の表す音声を聞く

本書に紹介したもの以外に次のものがあります。
https://www.internationalphoneticassociation.org/IPAcharts/inter_chart_2018/IPA_2018.html
(Interactive clickable IPA chart, International Phonetic Association)

次のページの A 1. Learning the IPA symbols のところにもいくつか紹介されています。
https://www.internationalphoneticassociation.org/content/links-phonetics-resources
(Links to Phonetics Resources, International Phonetic Association)

検索して次のものを見たという人もいるかもしれませんが、[h] の発音、[r] の一部の発音が間違っていたりするので要注意です(2025年8月現在)。
http://australianlinguistics.com/speech-sounds/all-consonants-2/
(Phonetics: An Interactive Introduction, University of New England)

pp.20-21

有声と無声

次のページの下から3番目の動画では有声([z])と無声([s])が交互に発せられています。
http://australianlinguistics.com/phonation-modes/voiced-mode/
(Phonetics: An Interactive Introduction, University of New England)

声帯の動きを見ることのできる動画はいろいろ出ているようですが、早い時期から鮮明な映像を提供してくれている静岡県島田市の牧野耳鼻咽喉科医院のものを紹介します。次のページにある「正常声帯のビデオ像」を見てみてください。
http://www.venus.dti.ne.jp/~memikami/hoarse.html
(「音声外科(牧野耳鼻咽喉科医院)」)

p.41

コラム−2

[t] [d] [n] の記号で表される子音ですが、日本語、朝鮮語、中国語などの場合は歯音に近いです(舌端は歯と歯茎の前部に触っている)。ヨーロッパの言語では、ロマンス系(スペイン語、イタリア語、フランス語など)とスラブ系(ロシア語、ポーランド語、チェコ語など)では歯音に近く、ゲルマン系(ドイツ語、英語など)では歯茎音に近いです。p.4で紹介したMRI動画で英語母語話者が発音しているIPAのこれらの音もよく聞くと日本語などより後ろで発音しているのがわかります(ただし、MRIの画像には歯が写っていないので、見る場合にははっきりしないかもしれません)。破裂音に「歯音」「歯茎音」「後部歯茎音」を区別する言語はないと言われているので、それぞれにわざわざ特別な記号が用意されておらず、必要な場合に補助記号を使用することで対応しています。

pp.43-45

[r] と [ɾ]

[r]

ロシア語 http://www.coelang.tufs.ac.jp/mt/ru/pmod/practical/01-02-17-02.php(ここの上の段のもの)

スペイン語 http://www.coelang.tufs.ac.jp/mt/es/pmod/practical/01-03-01.php(ここの「犬」という単語)

カンボジア語 http://www.coelang.tufs.ac.jp/mt/km/pmod2/5-2/1.html(ここの下から2番目の「〜な」)

[ɾ]

日本語のラ行子音(ただし、語頭や母音間でさっと発音した場合)や朝鮮語の r(ハングルのㄹに相当する部分)が母音に挟まれたときにこの音が出ます。

朝鮮語 http://www.coelang.tufs.ac.jp/mt/ko/pmod/practical/01-10-02.php(ここの右側の単語)

スペイン語ではこの [ɾ] と上の [r] を区別します。
http://www.coelang.tufs.ac.jp/mt/es/pmod/practical/01-03-01.php(ここの「しかし」と「犬」)

p.43以降

ヨーロッパの言語では、書かれたときに r の文字に対応する部分の子音に歯茎音([r])と口蓋垂音([ʀ] [ʁ])があります。口蓋垂音を使用するのはフランスから始まったと言われていますが、それがドイツ、デンマークを通って、現在はスウェーデン南部のスコーネ地方まで広がっています。

p.48

[v]

スペイン語は綴りに v を持つ語がありますが、[v] は何百年か前に [b] に合流してしまったので、現代スペイン語に [v] はありません。

p.51

[ʃ]

これは日本語のシの子音と似ているようですが、少し違います。日本語のものは64ページの [ɕ] です。次は英語の例です。(英語などでは後舌面が盛り上がったり唇が少し丸くなったりしていることもあります。)
https://www.oxfordlearnersdictionaries.com/definition/english/ship_1?q=ship
https://www.oxfordlearnersdictionaries.com/definition/english/fish_1?q=fish

p.59

[ɬ]

ウェールズ語では表記として ll を使います。連合王国(UK)などにおける人名や地名でウェールズ語起源のものには、Lloyd(ロイド)のように ll を綴りに持っているものがあります。
 次はモンゴル語(モンゴル国)の例です。л の文字に相当するところがそれです。2にある単語はこの音ではないようです。1と4にある単語がわかりやすいです。
http://www.coelang.tufs.ac.jp/mt/mn/pmod/practical/01-04-02.php

p.60

[ɭ]

朝鮮語の例です。ハングルのㄹに相当する部分の子音が音節末に来たときにこの音が出ます。
http://www.coelang.tufs.ac.jp/mt/ko/pmod/practical/01-10-02.php (ここの左側の単語)

p.61

[ʎ]

イタリア語の例です。 http://www.phonetics.ucla.edu/course/chapter7/italian/italian.html

p.61

[ʟ]

メルパ語の例です。 http://www.phonetics.ucla.edu/vowels/chapter13/melpa.html

pp.65-67

吸着音

吸着音の説明です。2:30あたりまで聞いてみてください。
https://www.youtube.com/watch?v=4e6DLwEVb6I
(Click consonants)

南アフリカのコサ語の吸着音です。
https://www.youtube.com/watch?v=31zzMb3U0iY
(How to say "click" sounds)

コン語という言語は非常に多くの吸着音を持っています。
https://www.youtube.com/watch?v=xIPrQYtUNaI&t=22s
(!Xóõ)

吸着音を多く含んだ歌詞の歌を歌って欧米で有名になった南アフリカ出身の歌手の歌です。0:30あたりから始まります。
https://www.youtube.com/watch?v=vhgb60Qsjrs
(Miriam Makeba - Click Song)

吸着音は、次の地図の♦︎♦︎で示された言語にあります。
https://wals.info/feature/19A#2/19.3/152.8
(Feature 19A, The World Atlas of Language Structures)

pp.67-69

放出音

次のページの Ejectives というところにリンクしてある以下の言語の音を聞いてみてください。
http://www.phonetics.ucla.edu/index/sounds.html#Anchor-Ejectives-47857
  ケチュア語(Quechua) 一番下
  モンタナサリシュ語(Montana Salish) 右側
  ラコタ語(Lakhota)  一番上

次のビデオの後半にも実際の言語の例が出てきます。
https://www.youtube.com/watch?v=mfrAlv-5P1c
https://www.youtube.com/watch?v=Rdn3YdsQN8U
https://www.youtube.com/watch?v=UEDqwSQ64VA
(Glossika Phonics)

放出音は、次の地図の♦︎♦︎で示された言語にあります。(ただし、朝鮮語のところは間違いなので、無視してください。)
https://wals.info/feature/7A#2/19.3/152.8

(Feature 7A, The World Atlas of Language Structures)

p.67

注14

放出音は英語(特にイギリスやオーストラリア)の一部の話者が個人的な癖で語末に発音することがあります。(ただし、そういう人も毎回必ず出すというわけではありません。)次のビデオの1:00以降を聞いてみてください。
https://www.youtube.com/watch?v=rP0-MfE4zbA
(Ejective Consonants in English)

pp.69-70

入破音

次のページの Implosives というところにリンクしてある言語の音を聞いてみてください。 http://www.phonetics.ucla.edu/index/sounds.html#Anchor-Implosives-14210

ベトナム語の例です。次のページの表の真ん中の b- と đ- を聞いてみてください。(ここの説明に「息を吸いながら」とありますが、これは呼吸をするときの「息を吸う」という意味とは違います。)
http://www1.lang.osaka-u.ac.jp/user/qingshui/vn_pron/bai04.html
(ベトナム語発音コース)

スィンディー語の例です。
http://www.phonetics.ucla.edu/course/chapter6/sindhi/sinhi.html

次のビデオの終わりの方に実際の言語の例が出てきます。
https://www.youtube.com/watch?v=edU6cGBXtTQ
https://www.youtube.com/watch?v=47alW1vW9-E
(Glossika Phonics)

入破音は、次の地図の♦︎♦︎で示された言語にあります。(上の放出音と同じ地図です。)
https://wals.info/feature/7A#2/19.3/152.8
(Feature 7A, The World Atlas of Language Structures)

pp.70-71

両唇と軟口蓋の二重調音(破裂音)

アフリカのエウェ語やイドマ語などに見られます。中部アフリカの人名や地名で kp とか gb という綴りがあったらその音である可能性があります。

イドマ語
http://www.phonetics.ucla.edu/appendix/languages/idoma/idoma.html

ベトナム語にもありますが、破裂を伴わずに2か所で閉鎖したまま終わるというタイプのものだけです。
ベトナム語
http://www1.lang.osaka-u.ac.jp/user/qingshui/vn_pron/bai06.html(表の一番右の -c と -ng)
(ベトナム語発音コース)

p.71

両唇と軟口蓋の二重調音(摩擦音)

[ʍ]

次の動画の5:05あたりでこの子音を発音しています。
https://www.youtube.com/watch?v=VsjGaXZgMc0
(British English Pronunciation - The Scottish Accent)

p.72

後部歯茎と軟口蓋の二重調音(摩擦音)

[ɧ]

次のページの真ん中あたりにあるこの記号のところをクリックしてみてください。
https://www.omsvenska.se/uttal/vokaler-och-konsonanter/
(Svenskans vokaler och konsonanter)

pp.74-75

咽頭化

アラビア語学の伝統的な用語で「強調子音」と言われているものがよく知られています。
アラビア語
http://www.phonetics.ucla.edu/appendix/languages/arabic/arabic.html

pp.75-76

破擦音

日本語でザやズをそれだけで発音すると [z] ではなく [dz] が現れるので、日本語母語話者は例えば英語の zoo などの単語を発音する時に [z] とすべきところを間違って [dz] と発音している人がいます。ロシア語などでは [z] と [dz] ははっきりと区別されます。英語でも cars と cards の語末の子音はそれぞれ摩擦音と破擦音です。

pp.81

表2-2

有声有気音(voiced aspirated)と言われるものがありますが、ここで説明した原理からはありえず、この原理によるものとは別の息もれ声という発声の子音を指します。ただし、子音は短いので息もれ声の発声は次の母音の始めまで及び、その部分が気音のように聞こえます。

ヒンディー語
http://www.phonetics.ucla.edu/vowels/chapter12/hindi.html
(ここの上の3段が表2-2にある3種類の違い)

p.82

発声の違い

ネワリ語の息もれ声
http://www.phonetics.ucla.edu/appendix/languages/newari/newari.html(右側のもの)

ヒンディー語の息もれ声
http://www.phonetics.ucla.edu/vowels/chapter12/hindi.html(一番下の voiced aspirated、すなわち有声有気音となっているもの)

ハウサ語のきしみ声
http://www.phonetics.ucla.edu/course/chapter6/hausa/hausa.html(一番右下の daughter という意味の語)

p.83

無声鼻音

ビルマ語
http://www.phonetics.ucla.edu/vowels/chapter12/burmese.html(上の段のもの)

物理的な音声を観察・測定するための装置のひとつにサウンド・スペクトログラフというものがあります。音を分析した結果はスペクトログラムと呼ばれる図に表されます。スペクトログラムは縦軸に周波数(Hz)、横軸に時間(msec)が表され、強さは濃淡によって示されています。
 以下はそれぞれビルマ語の有声鼻音の [maː] と無声鼻音の [m̥aː] の音声波形(上半分)とスペクトログラム(下半分)です。(私の手持ちの資料によるものですが、録音してくれた人と連絡が取れていないので、音声を出すことができません。)

img

 

p.83

注31

物理的な音声を観察・測定するための装置のひとつにサウンド・スペクトログラフというものがあります。音を分析した結果はスペクトログラムと呼ばれる図に表されます。スペクトログラムは縦軸に周波数(Hz)、横軸に時間(msec)が表され、強さは濃淡によって示されています。
 以下は英語の peace と peas の音声波形(上半分)とスペクトログラム(下半分)です。この2語は、全体の長さはほとんど変わりませんが、中の母音と子音の長さが異なっています。(竹林滋 他『改訂新版 初級英語音声学』大衆館書店 2013 に付属の録音資料を使わせてもらいました。実際の音声はこの本に付属のCDで聞いてみてください。)

img

[p] は無声破裂音なので、声帯振動がなく唇を閉じている間は音が出ません、従って、上の図では破裂の瞬間まで何も現れず、真っ白です。 声帯の振動がある場合は、音声波形にもそれが現れ、スペクトログラムでは一番下のところ(低い周波数帯のところ)に黒い棒状の模様がはっきりと出ますが、どちらの語も最後の子音にそれが見られないので、無声子音([s])で終わっています。

pp.86-87

母音

病気で声帯を摘出してしまった人は声が出せませんが、人工的に作った音を外から喉頭の軟骨に伝えて口の中に送ると声が出せます。その際に声道の形を変えるとさまざまな母音を出すことができます。口の中で音を作り出さない母音がいくつも区別されるのは舌や唇を動かして声道の形を変えているからです。
https://www.youtube.com/watch?v=vXGixHaFPgo
(電気式人工喉頭ユアトーン 音声サンプル)

声道と同じ形の空間であれば人間の体でなくても母音に聞こえる音が出ます。次の動画では同じ笛の音を異なった形の空間に通すことで日本語の母音と同じ音を作り出す実験をしています。
https://www.youtube.com/watch?v=tWniYnv8n64

(しゃべる笛 : 声道模型をストロー笛で鳴らす)

https://splab.net/apd/ja/g200
(声道形状(Vocal-tract Configuration)-その1-、上智大学 荒井研究室)

p.94

咽頭腔の広さ

アカン語
http://www.phonetics.ucla.edu/appendix/languages/akan/akan.html

次のものはモンゴル語のMRI画像です。口腔の形はほぼ同じなのに咽頭腔の広さが異なってるのが分かります。

image-20250910142220370

p.98

発声の違い

有声と無声

上の20-21ページのところに紹介したのと同じページです。下から3番目の動画では有声と無声が交互に発せられています。
http://australianlinguistics.com/phonation-modes/voiced-mode/

息もれ声(有声の1種)

次のページはヒンディー語の音声ですが、一番下の段のものが息もれ声です。ただし、用語が voiced aspirated(有声有気音)となっています。一番上のvoicedと聞き比べてください。
http://www.phonetics.ucla.edu/vowels/chapter12/hindi.html

次のページにもあります。画面左側のバーの Bhāt ‘rice' の方が息漏れ声です。もうひとつの Bāt ‘talk' と聞き比べてください。
http://australianlinguistics.com/phonation-modes/breathy-voice/

グジャラティー語

http://www.phonetics.ucla.edu/vowels/chapter12/gujarati.html

きしみ声(有声の1種)

次のページの下の声帯の動画をクリックするときしみ声の i が聞こえます。
http://australianlinguistics.com/phonation-modes/creak-mode/

ムピ語

ここの tense voice が近いです。tense かそうではないかで意味が変わります。
http://www.phonetics.ucla.edu/vowels/chapter12/mpi.html

ベトナム語でも方言によってはこの違いによる語の区別があります。次の図の右の語のほうは音声波形が途中で乱れていて、スペクトログラムでも縦に線が見えます。それはきしみ声になっているところです。(私の手持ちの資料によるものですが、録音してくれた人と連絡が取れていないので、音声を出すことができません。)

image-20250910141530308

ささやき声

次のページの声帯の動画をクリックするとささやき声が聞こえます。
http://australianlinguistics.com/phonation-modes/whisper-mode/

modal voice というのは声帯の振動がきれいになめらかに行われている状態の声を指しますが、日本語でいい訳語がありません。「地声」と書いている本もありますが、それは一般的に使われている「地声」の意味とは異なります。

マサテコ語は3種類の発声による有声を区別します。
http://www.phonetics.ucla.edu/vowels/chapter12/mazatec.html

p.104

サ行子音

[θ] は日本語にはないことになっていますが、実際にはサ・ス・セ・ソの子音をこの音で発音する人がいます。100%そのような発音になっている人も見たことがあります。店で「いらっしゃいませ」「ありがとうございます」と言われたときにこの音だったことが何回もあります。周りの人のサ・ス・セ・ソの子音を自分でも観察してみてください。

p.105

コラム-7

ガ行鼻音の全国的な分布や変化について次の1:05あたりから解説があります。
https://www.youtube.com/watch?v=amscTH7z3iM
(国語研教授が語る「濁る音の謎」 (1) 鼻濁音)

pp.129-130

声調

広東語
http://www.phonetics.ucla.edu/vowels/chapter2/cantonese/recording2.2.html

タイ語
http://www.phonetics.ucla.edu/course/chapter10/thai/thai.html