[コラム]辞書を編む人が気になることば

[コラム]辞書を編む人が気になることば

  1. 「ゲリラ〇〇」小野 正弘 選考委員
  2. 「苦言」飯間 浩明 選考委員

1. 「ゲリラ〇〇」 小野 正弘 選考委員

ゲリラ〈接頭〉[guerrilla][隠れていたものが]急に現われたり生じたりして、はげしい衝撃を与えたのち、なにごともなかったかのように終わるもの。「―豪雨・―ライブ」

「ゲリラ」とは、もともと、「小人数で、敵の不意をついたりしてかきみだす戦法。また、そのような(正式の軍隊ではない)一隊。」という意味の名詞です。これが、近年、特に「ゲリラ豪雨」というかたちでよく用いられるようになりました。

接頭語の用法は、『三省堂現代新国語辞典 第五版』にはすでに掲載されていて

「[俗語]予告なしの。突然の。「―ライブ・―豪雨」

のように記述されています。しかし、今では「俗語」というには、通常のニュースなどでもごく普通に用いられていますし、「予告なしの。突然の。」という意味説明だけでは、「ゲリラ」のニュアンスが十分に伝わらないように思えます。

「ゲリラ」は「新語」とは言えませんが、「新しい実感」をより表現したいと思わせる言葉として気になるのです。

2. 「苦言」 飯間 浩明 選考委員

く げん[苦言](名・自他サ)①正論を述べて、相手をしかることば。相手にとって苦しいことば。「若い者への―・マスコミに対する―」②単に、批判や非難。「選手が監督(カントク)に―」〔二〇一〇年代から目立つ用法〕▽「―を呈(テイ)する〔=述べる〕」

「苦言」は、一般的には、①のように、経験や常識に基づいて正論を述べ、相手を叱ることばです。目上の人や友人などが、説教や忠告の形で述べる例が多く目につきます。たとえば、「力士の振る舞いに対し、理事長が苦言を呈する」のように。

ところが、最近は、スポーツ新聞やネットの芸能ニュースなどで、単に「批判」「非難」の意味で使うことが多くなりました。②の「選手が監督に苦言」という例は、従来であれば「監督のやり方に疑問を呈した」などと言ったところです。「苦言」はちょっと偉そうな感じがします。

ワイドショーの司会者が芸能人やスポーツ選手などに「苦言を呈した」と書かれることもありますが、本人はべつに偉そうに言うつもりはなかったかもしれません。

「苦言」の意味の拡大は注目に値します。

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