1. 声調
●声調とは
日本語でも「はし(橋)」と「はし(箸)」のように音の高低が意味の違いと関係していますが,中国語はこれがもっと徹底され,ほぼあらゆる音節に音の高低が指定されています.この高低のメロディーのことを「声调 shēngdiào」といいます.中国語の発音を学ぶ上で最も重要なのがこの声調であると言ってもよいでしょう.
私たちが中国の標準語として学ぶ「普通话 pǔtōnghuà」には声調のパターンが4種類あります.そして「第一声」から「第四声」までその順番が決まっていて,母音の上に記号を付けることで区別します.まずはそれぞれの声調と符号を確認しましょう.
[第一声] 高い音で始めてそのまま音高をキープする.誰もいない部屋でピアノのキーをぽーんと鳴らした感じ.
[第二声] 低い音で始めて音高を上げていく.抜き打ちテストを宣告された生徒たちの「えぇー!?」という抗議の声のように.
[第三声] 低い音で始めてそのまま低音をキープする.全くお手上げなテストを目の前にして「あーぁ」とあきらめのため息をつく感じ.
[第四声] 高い音で始めて力を抜き一気に下がる.温泉で湯船に浸かり「ふぅー」と脱力する要領.
これらを一つの図でまとめると次のようなイメージになります.縦軸の1~5は音の高さを表し,1が最も低く,5が最も高いことを表します.
●声調の違いは意味の違い
上に示したローマ字(「ピンイン」と言います)には母音の上に声調を表すための記号が付いています.この符号は「声调符号」といい,それぞれ第一声から第四声まで対応しています.
声調の違いは漢字の違い,ひいては意味の違いに結びつくのでしっかり区別してマスターする必要があります.例を見てみましょう.
<声調> | <ピンイン> | <漢字(簡体字)> | <意味> |
第一声 | mā | 妈 | お母さん |
第二声 | má | 麻 | アサ |
第三声 | mǎ | 马 | ウマ |
第四声 | mà | 骂 | ののしる |
漢字を見れば分かるつもりでも,音声になると急に難しく感じられるのが中国語です.何度も聞いて中国語の四種の声調に耳を慣らしましょう.
●二音節の声調パターン ― 急がば回れ
中国語の単語は漢字一字だけのものばかりではありません.この辞書を少しめくれば分かるとおり,実際は漢字二字の単語の方が多いといってもいいくらいです.
したがって,漢字一字の場合の4パターンの声調に加え,漢字二字の場合の声調パターンをも併せてマスターした方が結果的には効率的だ,ということになります.以下に全パターンを挙げます.
①māmā | ⑥mámā | ⑪mǎmā | ⑯màmā |
②māmá | ⑦mámá | ⑫mǎmá | ⑰màmá |
③māmǎ | ⑧mámǎ | ⑬mǎmǎ | ⑱màmǎ |
④māmà | ⑨mámà | ⑭mǎmà | ⑲màmà |
⑤māma | ⑩máma | ⑮mǎma | ⑳màma |
例えば「中国 Zhōngguó」は②の声調パターン,「日本 Rìběn」は⑱の声調パターンになります.
●軽声 ― さっと軽く
上の表を見ますと,四声×四声で本当は16パターンしかないはずでは? と思うかも知れません.しかし,最後の行(⑤⑩⑮⑳)の後半のピンインを見ると声調符号がないことに気づきます.これは「軽声」と呼ばれ,独自の声調パターンを持たない音節です.つまり,前に第何声が来るかによって音の高さが違ってきます.なお,軽声で始まる単語はありません.
●半三声 ― 低いまま我慢
音声を何度も聞くと,③⑧⑬⑱の後半部分の第三声と,⑪⑫⑭⑮の前半部分(下線部)の第三声のメロディーが若干違うことに気づきます.③⑧⑬⑱の第三声は後半部分がやや上昇するのに対して,⑪⑫⑭⑮の第三声はその上昇部分がありません.
ここからわかるように,第三声はやや特殊な声調です.漢字二字の語で前半が第三声の場合,「あーぁ」という後半の「ぁ」は消え,低いままの「あー」だけが残ります.これを「半三声」といいます.実際はこの「半三声」を使うことが多くなります.⑪⑫⑭⑮の下線部は半三声の部分です.
●三声+三声→二声+三声 ― 一緒はイヤ(1)
⑬をよく聞くと,前半のmǎが第三声でないことに気づきます.声調は明らかに上昇しています.実は,第三声は二つ続くと前半の第三声が第二声に変化します.ですから,⑬は実際には⑧と同じ声調パターンになります.例えば,おなじみの「你好 Nǐ hǎo」は「你」が第二声になって実際は「Ní hǎo」のような声調パターンを持つことになります.ただし,声調記号はもとのままNǐとしておきます.
2. 母音
●基本母音
中国語の母音は七つ.全部長母音のつもりで長めに発音するときれいです.
もちろん,それぞれに四種の声調が付きます.
a [a] 日本語より意識的に口を開いて「アー」.
o [o] 日本語より意識的に口の両端を寄せて「オー」.
e [ɤ] 上のoから脱力してあいまいに「オァ」.ただしこの発音は-e, -engの時だけ使い,-ei, -ie, -enなどの時は日本語の「エ」でかまいません.
i [i] 日本語より意識的に口の両端を引いて「イー」.
u [u] 突然腹を殴られたような感じで口の両端を寄せ,舌を奥に引いて「ウー」.
ü [y] 上のiで舌の位置を保ちつつ唇の両端を寄せて「イュー」.
er [ɚ] 上のeを発音しつつ舌の根っこを引っ込める.舌先はどこにもつきません.「アーㇽ」.
●二重母音
ai ei ao ou
ia(ya) ie(ye) ua(wa) üe(yue)
ひとつひとつの母音をはっきり発音しましょう.ouが長い「オー」にならないように.またia, ua, üeでは「ヤ」「ワ」「ユ」ではなく最初のi, u, üもはっきり発音します.また,前に子音が付かず母音だけで音節をなす場合は( )内のように綴ります.例えば「牙 yá」「月 yuè」など.
●三重母音
iao(yao) iou(you) uai(wai) uei(wei)
「ヤオ」「ヨウ」などではなく一字一字を明瞭に,かつ一息に発音します.また,前に子音が付かず母音だけで音節をなす場合は( )内のように綴ります.例えば「有 yǒu」「歪 wāi」など.
ここで,ピンインの綴り方としてiouとueiは前に子音が来ると真ん中のoとeを落とします.例えば「酒」 j+iǒu→jiǔ,「最」 z+uèi→zuì.ただし,発音としてはiou, ueiのままで構いません.
●声調符号の付け方
原則は「口の縦の開きの大きい母音の上」です.従って,優先順位は
a>e, o>i, u です.
例えばa(代 dài,花 huā)>e, o(决 jué,口 kǒu)>i, u(回 huí,流 liú)
eとoは同じ音節に出てきません.iとuは同じ音節に出ることがありますが,その時は後ろに付けます.母音一つの場合は迷わずその上に付けます.なお,iの上に声調符号を付けるときはiの上の点を取った上で付けましょう.
●-n, -ngがある母音
中国語は英語と同様に末尾の-n, -ngを区別します.-nで終わるものは日本語の「カンナ」「縁日」の「ん」のように舌先が前歯の裏あたりにくっついて終わります.この辞書の仮名表記では「ヌ」または「ぬ」と記しています.
-ngは日本語の「案外」「歓迎」の「ん」のように舌先がどこにも付きません.-ngの前の母音を軽く鼻声にするとよりはっきりngが出るでしょう.この辞書では「ン」または「ん」としています.
-n, -ngで終わるのは以下の16種類です.
an | ang | en② | eng | ong |
ian(yan)① | iang(yang) | in(yin) | ing(ying) | iong(yong) |
uan(wan) | uang(wang) | uen(wen)③ | ueng(weng) | |
üan(yuan) | ün(yun) |
①のianはこのまま読むと「イアヌ」ですが,ここだけ例外的に「イエヌ」と読みます.例えば「炎 yán イエヌ」,「见 jiàn チエヌ」.
また,②のen, ③のuenは単母音のeとは違い日本語の「エ」で構いません.しかし右隣のeng, uengでは単母音のeを発音します.
( )内のピンインは他の子音と結びつかず母音のみで音節をなすときの書き方です.例えば「王 wáng」,「影 yǐng」.
最後に,③のuenは子音と結合する時にeを省くことになっています.例えば「春」ch+uēn→chūn.
3. 子音
●無気音と有気音
子音は全部で21種類です.
無気音 | 有気音 | |||||
1 | 唇音 | b(o) | p(o) | m(o) | f(o) | |
2 | 舌尖音 | d(e) | t(e) | n(e) | l(e) | |
3 | 舌根音 | g(e) | k(e) | h(e) | ||
4 | 舌面音 | j(i) | q(i) | x(i) | ||
5 | 捲舌音(そり舌音) | zh(i) | ch(i) | sh(i) | r(i) | |
6 | 舌歯音 | z(i) | c(i) | s(i) |
普通は( )内の母音を付けて練習します.
この表の縦列を見ますと,左側二列が「無気音」「有気音」と名付けられています.実は中国語では日本語や英語のような清音と濁音ではなく,息を漏らすか漏らさないかで子音を区別します.ですから上の表にあるピンインのb⇔p, d⇔tという表記に騙されてはいけません.これはあくまで方便で,実際は清濁の区別ではないというのが非常に重要です.bとpでいえば,boは[po],poは息を意識して吐き出すようにしましょう.
右図のようにして練習するとよいでしょう.boを発音する時は,息がもれないので紙は動きません.一方poでは息が大きく吐き出されるので,紙が大きく動きます.図では,息がもれることをhであらわしています.
●j, q, x ― qi-は「チ」
上の表の4行目にはj, q, xという子音があります.舌先を下の前歯の裏(右の図の1)にあてて「ちー」「しー」です.xi-は見慣れないつづりかもしれませんが,日本語の「し」の要領で構いません.
qで始まる音節というのは一見奇妙ですが中国語ではj-とペアをなす大事な子音です.jとペアですからqをカ行で読まないように.基本は有気音で「チ」です.
また,j-, q-, x-と-ü, -üe, -üan, -ünが結合するとüの上の点が消えます.
例えば「去」 q+ǜ→qù,「学」 x+üé → xué.
●捲舌音(そり舌音)
上の表の5行目にはzh, ch, sh, rという子音があります.これらには捲舌音(けんぜつおん)(そり舌音)という名前がついています.この辞書ではひらがなで発音を記すことで区別しています.zh, ch, sh, rの舌の位置に慣れるためには,少し準備が必要です.
1. 舌先を上の前歯の尖端 2に付けます(右図参照).
2. その舌先をずり上げて上の前歯の裏と歯茎との境目3まで持ってきます.
3. その勢いで舌先をそのまま舌の厚み三枚分ほど歯茎側4に動かします.
4. その場所で「ちー」と発音するとzhiが出ます.日本語の「ち」よりかなりくぐもった音になっていれば正解です.
舌先が通常の「ち」よりかなり上にある=そり上がっていることから「捲舌音」「そり舌音」の名があります.chiはzhiとペアをなす有気音,shiはzh, chと同様に右図4の位置で「しー」,riも同じく4の位置で「い゛ー」のつもりで発音します.捲舌音のrは日本語のラ行と違って舌先はどこにも接触しないので注意.
なお,捲舌音zhi, chi, shi, riの場合はiが付いていますが口をそんなに横に引かなくてもかまいません.
●zi, ci, si ― ズィー・ツィー・スィーにあらず
子音の表の6行目にはz, c, sという子音があります.まずz, cは日本語の「ツ」の系統です.特にc-は読み間違えやすいので注意しましょう.ピンインのcはzとペアですから,例えば「才 cái」は「カイ」ではなく有気音の「ツァイ」です.
そしてzi, ci, siのiは口の両端を引いて出す単母音のiではありません.z, c, sと普通の単母音iは結びつきませんので,「ズィー」「スィー」のような音は中国語にはありません.実はzi, ci, siの3つだけは例外的な発音をします.口の両端を引くところまでは普通のiと同じですが,その構えで「うー」と発音します.ですから口の両端を寄せる単母音のuと結びついたzu, cu, suと区別する必要が出てきます.
例えば「四 sì」≠「素 sù」.慣れないとどちらも「スー」にしか聞こえませんので,唇を大いに動かし意識して発音し分けましょう.
4. 変調
●特殊な声調変化 ― 一緒はイヤ(2)
「…ではない」を意味する否定詞「不 bù」はもともと第四声ですが,後ろに第四声の字が来るとbúと第二声に変化します.声調符号も普通は書き換えます(辞書等によっては第四声のままにしているものもあるので注意).
例えば「不是(…ではない)」はbù+shì→bú+shì.
また,「一 yī」はもともと第一声ですが,後ろに来る語の声調などによって声調変化が起こります.
一 yī+第一声「杯 bēi」 →yì+bēi 第四声に
一 yī+第二声「瓶 píng」 →yì+píng 第四声に
一 yī+第三声「本 běn」 →yì+běn 第四声に
一 yī+第四声「件 jiàn」 →yí+jiàn 第二声に
ただし,「一番目」を意味する時や単語の末尾に来た時は変化しません.
・一番目 「第一」 dìyī,「一月」 yīyuè
・単語末 「统一」 tǒngyī,「三十一」 sānshiyī
5. アル化
音節の最後にerの音が加わることがあります.このことを「アル化」(“儿化” érhuà)といいます.ピンインでは最後にrを加えます.このrは捲舌音のrとは関係ありません.また,このことによって音に変化が生じることがあります.以下の②~④を参照.
①変化なし | 花儿 huār | 那儿 nàr |
②-n+r→nを読まない | 玩儿 wánr | 一点儿 yìdiǎnr |
③-i+r→iを読まない | 袋儿 dàir | 小孩儿 xiǎoháir |
④-ng+r→rが鼻声に | 声儿 shēngr | 有空儿 yǒu kòngr |
名詞がr化すると小さいかわいい感じをそえることもありますし,一部の語ではr化の有無で品詞が変わることもあります.
例えば「画 huà」(動詞:絵をかく),「画儿 huàr」(名詞:絵).