
【序】第二版
『大辞林』は、古代から現代に至るまでの日本語を、現代語の視点からとらえて記述した、いわば現代人のための国語辞典である。さらに、本辞典は国語語彙だけではなく、各専門領域のいわゆる百科分野の用語をも多数収録し、百科辞典的な機能をも兼ねそなえている。
本辞典の初版は長期にわたる編集を経て1988年11月に刊行されたが、その二ヶ月後には昭和天皇が崩御され、六十余年つづいた昭和の時代も終わり、平成という新しい時代へと移った。この間、中国における天安門事件、ベルリンの壁崩壊と東西ドイツの統合、東欧諸国における民主化革命の推進、湾岸戦争、さらには、ソビエト社会主義共和国連邦の解体など、世界的にも、人々の耳目を驚かすような大事件が相次いで勃発した。このような激動を経て、二十一世紀という新しい時代へと向かいつつある今日、わたくしたちの周囲には、あらたな情報や言葉が満ちあふれている。
初版は、幸いにして好評をもって迎えられ、今日まで、多くの刷を重ねてきた。その間、大勢の読者からいろいろの御意見や要望が寄せられた。それらをも十分参考にしつつ、内容の整備や改訂の作業をすすめてきた。また、国際化・情報化社会といわれる今日の社会的状況をふまえて、新しく増補すべき項目の選定を行い、ここに、第二版を世に送るにいたった。
『大辞林』の編集方針については、すでに初版の序文に記したが、この第二版においては、初版の内容の一層の充実と、辞典としての機能を高めることに主眼を置いた。現代語に重きをおく本辞典の立場から、日常的な言葉を重視し、慣用的な用法についての記述を充実させたこと、また、言葉に関する知識をまとめた特別ページを拡充したことなどが、その一端である。さらに、1990年代という時代を反映した新しい項目を増補するとともに、今日一般的となったアルファベット略語や、漢字・難読語一覧などを巻末に増補したことも、総合的な国語辞典としての『大辞林』の機能性を一段と高めることになったと思う。これらの増補の結果、第二版では総項目数が23万余を数えることになった。
本辞典が読者諸賢の御叱正と御支援を仰ぎつつ、さらに発展していくことを願ってやまない。
1995年8月
松村 明