2016年の選評
6. 「神ってる」は選外に
選外 神ってる
今回、投稿数が一番多かったことばは「神ってる」でした。広島カープの緒方孝市監督が鈴木誠也選手の好調を評して語ったのが流行語になりました。でも、選には漏れました。
以前、大修館書店の新語キャンペーンでは、2008年に「神」がベストテンに現れ、その後、09年~11年(この年でキャンペーン終了)まで「神、神る、神い」がランクインしていました。当時、すでに「神ってる」は多用されていたことが分かります。それが今年、緒方監督の発言によって、一気に広まったわけです。
したがって、「神ってる」を「今年の新語2016」に入れることは、当然検討されました。ランクインしなかった理由は、現時点での「神ってる」の使われ方は、緒方監督の発言を念頭に置いた流行語という性格が強いと考えたからです。一時的に脚光を浴びていることばは、私たちの「今年の新語」のカラーに合わないのです。とは言え、「今年最も流行した動詞」であることは確かです。ここに「選外」として言及しておきます。
ベストテン入りするにはやや力不足で、惜しくも選外になったことばを、もう2つ挙げましょう。
選外 チャレンジ
選外 IoT
「チャレンジ」。スポーツで、ルールに基づいて審判の判定に異議を申し込むことです。今年のリオデジャネイロ五輪でも、バレーボールなどでこの制度が実施されました。これまで、「チャレンジ」と言えば〈挑戦(すること)〉(『三省堂現代新国語辞典』第5版)の意味で広く使われ、「ケーキ作りにチャレンジ」のようにtryに近い(日本語的な)意味でも使われました。最近、スポーツでの用法により、「抗議・異議」という意味が英語にあると知られはじめたことは注目すべきです。
「IoT」。これもよく聞くようになったことばです。「internet of things」(モノのインターネット)で、家電などをインターネットにつないで便利に使うことを指します。現在のところは、まだ「ことば先行」という印象もありますが、家電をネットにつなぐのが当然という時代が、遠からず来るでしょう。
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大量の候補語を前にして、選考委員会での話は尽きませんでした。「国語辞典では『盛り土(つち)』が本見出しになっているが、東京都の豊洲市場への移転問題を機会に『盛り土(ど)』が広まるのではないか」「ドラマの『地味にスゴイ!校閲ガール・河野悦子』がヒットし、『地味に』の新用法が知られるようになった。でも、『三省堂国語辞典』第7版には載っており、『今年の新語』には選びにくい」「『グランピング』(贅沢なキャンプ)が人気だが、誰もが体験するほどにはなっていない」「東京五輪を控えて『民泊』の業者が増えているが、ことばは前回の東京五輪の時からあった」「『アモーレ』(恋人)という呼び名は一般化するか」……。
やはり、全部は紹介しきれません。新語の選考委員会とは言いながら、辞書の編集会議とほとんど変わらない真剣なやりとりが続きました。
来年もまた、こんな議論ができればいいと、今から楽しみにしています。皆さんにも引き続きご支援いただけますよう、お願い申し上げます。