『三省堂国語辞典』編集主幹の見坊豪紀(けんぼう・ひでとし、1914〜1992)は、「三国(サンコク)」編纂のために、生涯をかけて現代日本語の用例採集(ワードハンティング)に力を注ぎ、新聞・雑誌などから140万枚にのぼる言葉を採集しカードに残しました。それらは「見坊カード」と呼ばれ、現在は三省堂の資料室に保管されています。
『三省堂国語辞典 第三版』の序文に、見坊はこう記しています。
辞書は“かがみ”である--これは、著者の変わらぬ信条であります。
辞書は、ことばを写す“鏡”であります。同時に、
辞書は、ことばを正す“鑑(かがみ)”であります。
見坊はまた、『月刊言語』(1975年4月号)にこう残しています。
「かがみはものをあるがままに映し出すものであり、そのことを手がかりとして人は己れの形を正しうる。かがみとは、まず鏡であることによって鑑(規準)となりうるものである。」
辞書は“かがみ”という理念は、『三省堂国語辞典』が長年の編纂過程で編み出した基本姿勢です。今回の改訂でもその方針を受け継ぎ、日々たゆまずワードハンティングを続けております。現在ではワードハンティングの記録媒体はカードからデジタルデータへと変化し、その対象はあらゆる活字・音声媒体に及びます。常に目を光らせ、耳を傾け、足で集めてきた、それらの最新の成果を『三省堂国語辞典 第八版』としてようやく皆様にお届けすることになりました。
これまで培ってきた伝統と、第八版での新展開を、「要はね、」「実はね、」というメッセージに込めてご紹介します。