2017年の選評


4. 「○○ロス」が造語力を獲得

4位の「○○ロス」は、好きな人などを失って寂しい気持ちを表すことばです。『三省堂国語辞典』『三省堂現代新国語辞典』などには、すでに「失うこと」の意味が載っており、「ペットロス」の例が出ています。  

4位 〇〇ロス

『三省堂現代新国語辞典』風

ロス〈接尾〉[loss]あるものがなくなったことで、喪失感のあまり無気力になってしまうこと。「ペット―」[二〇一三年に放送されたNHK連続テレビ小説「あまちゃん」が終了したことによる喪失感を「あまロス」と言ったことなどから広まり、「○○ロス」という造語がさまざまに行なわれるようになった]

ところが、近年、この「ロス」が造語力(新しいことばを生産する力)を獲得しはじめました。2013年、NHKの人気ドラマ「あまちゃん」の放送終了後、皆が「あまロス」に陥ったと話題になりました。その後、2014年にフジテレビ系「笑っていいとも!」が終了した時は「タモロス」(タモリさんの名から)、2015年に福山雅治さんが結婚した時は「ましゃロス」(福山さんの愛称から)ということばが生まれました。今年は、安室奈美恵さんの引退表明により「アムロス」の人々が発生しました。

「○○ロス」は、「あまロス」の頃はそれほど応用が利かないことばでした。それが今は、いろいろな人やものの名前と結びついて意味を添えるようになりました。こういう性質を持つことばを「造語成分」と言います。これまで表現の難しかった喪失感が、「ロス」という造語成分で表現できるようになった点を評価し、4位に選びました。  

5位の「フェイクニュース」(嘘ニュース)は、2016年、アメリカのトランプ大統領が自分に不都合な報道をこの呼び名で批判したことで広まりました。それだけなら流行語で終わるところですが、SNSの発達とともに、ネット上でデマが容易に拡散するようになった現在、誰もがフェイクニュースを警戒しなければならなくなりました。今後のネット社会で無視できない危険因子を表すことばとして、ランキングの上位に入れました。  

5位 フェイクニュース

『新明解国語辞典』風

フェイク ニュース 4〔fake news〕〔フェイクは偽物の意〕何らかの意図があって、故意に流された虚偽の情報。〔大統領選挙や重要な外交交渉に連動して流されることが多い。また、自分に不利な報道を戦略的に虚偽だと主張する際にも用いられることがある〕「―を巧みに利用して選挙戦を有利に進める」

6位の「」は、「笑うこと、笑えること」を表すことばです。笑いを表す「w」の記号を重ねて「wwww」とすると草原に見えるところから使われだしました。「草生える」(笑える)などとも言います。  

6位 草

『三省堂国語辞典』風

くさ[草](名)〔俗〕笑うこと。笑えること。「一問も わからなくて―・―生える〔=笑ってしまう〕」〔二〇一〇年代に広まった用法。笑いを表す記号「w」を「www」のように重ねた様子が草原に見えることから〕

このことばには、いささか歴史があります。「ウィキペディア」では、2009年3月、「草」の項目に〈インターネットスラングのひとつ〉という説明が加えられました。かなり前から使われていたことは確かです。選考委員のひとりも、2015年10月にツイッターで「草生える」の文字の入った画像を公表しています。したがって、「今年使われだしたことば」でないのはもちろんです。

ただ、「草」が一般化するまでには時間がかかりました。当初は「気持ち悪いよね」「うざい」という評価も目につきました。最近まで認知度は必ずしも高くなく、2、3年前まで「『草』って何ですか」という質問をネット上でよく見かけました。今はどうかというと、若い人は普通に「人多すぎて草」などと使っています。  

かつて、「笑い」ということばは、ネット掲示板で「ワラ」「藁」などと表記され、さらに「w」とアルファベット1字まで簡略化されました。それで終わるかと思ったら、「wwww」から「草」という表現が生まれ、「草生える」という成句(?)も一般化しました。このことばの激動の歴史を称えたいと思います。

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