2015年の選評
4. 関西発の「言(ゆ)うて」
4位の「インバウンド」(=外国人観光客)、5位の「ドローン」(=小型無人飛行機)は、ニュースで数多く報道されているので、詳しい説明は不要でしょう。政府は2020年のインバウンド数の目標を2000万人から3000万人へ引き上げました。関連して、「爆買い」をする中国人観光客も話題になりました。また、この4月にドローンが首相官邸に落下しているのが見つかって以来、この飛翔体の規制問題に関心が集まりました。
『新明解国語辞典』風
インバウンド〔inbound〕 〔閉じられた空間の中にいる意〕⇔アウトバウンド ①観光客などとして招く外国人。「━業務に力を注ぐ観光業者」〔広義では、本国に向かう船舶便や航空便をも指す〕 ②インターネットで、自社のウェブサイトに関心を抱かせること。 ③コールセンターで、△着信(受信)の業務。
『三省堂国語辞典』風
ドローン(名)〔drone〕 無線で操縦する小型の飛行物体。カメラをのせて撮影(サツエイ)したりできる。小型無人(飛行)機。
話題性から言えば、「インバウンド」も「ドローン」も大賞を狙えそうです。ただ、ニュースではよく聞くのですが、人々の日常生活に深く関わることばかというと、必ずしもそうではありません。この点がやや足を引っ張りました。
ちなみに、「爆買い」もランキングに入れることが検討されましたが、結局外れました。「中国人観光客による大量買い」がこの先どのくらい長く続くか見極めがつかず、ことばの定着の度合いが予測しにくいからです。中国人観光客の場合に限らず、単なる「大量買い」を指すということであれば、「爆売れ」「爆食い」「爆睡」など、「爆」で強調する、以前からの語法のひとつで、新味も薄れます。
6位の「着圧」は、特に女性になじみ度が高いでしょう。靴下などの着用時の圧力のことです。数年前から「着圧ソックス」「着圧ストッキング」などが知られるようになりました。足のむくみの解消などのためにはく人が多いようです。
『新明解国語辞典』風
ちゃく あつ【着圧】 女性用のストッキング・肌着などで、着用した部分の皮膚にかかる適度の圧力。血行をよくする効果が期待される。「━△ストッキング(ソックス・レギンス)」
「着圧」は、「Googleトレンド」では2008年あたりから検索されたデータがあります。選考委員が把握したのは2014年11月で、いささか後れを取りました。でも、このことばは、この先まだまだ広まる可能性を示しています。今にもっと多くの人が知るようになるでしょう。今後編集される国語辞典には「着圧」を載せてもいいだろうと判断した、それが今年であった、というふうにご理解ください。
7位の「言(ゆ)うて」は関西などの方言から入ったことばです。「そうは言っても」と、但し書きを添える言い方。一般の話しことばでは「なーんて」「なんちゃって」などとも言います。
『三省堂国語辞典』風
ゆう て[▽言うて](接)〔もと、関西などの方言〕〔俗〕と言っても。ゆーて(も)。「よっぱらっちゃった。━、いつもと変わりませんが」
選考委員の観察では、2014年頃から、同意を表す「それな」「あーね」ということばが会話で特によく使われるようになりました。前者はもと関西方言、後者はもと九州方言です。
それと同じ頃、関西方言の「言うて」も、東京の若者が会話で違和感なく使うようになりました。まあ、今年の新語の下位打線には入れてもいいでしょう。