「今年の新語2019」の選評


「今年の新語2019」選考委員会の様子

1. 「百科語寄り」のことばが大賞に

国語辞典に載ることばは、大きく分けて「一般語」「百科語」の2種類があります。一般語とは、「山」「川」「勉強」「仕事」「歩く」「食べる」など、誰もが使うことば。百科語とは、「産業革命」「冥王星」「内燃機関」「協奏曲」「オフサイド」「ビッグデータ」など、専門的で、百科事典で調べるようなことばです。  

いろいろな新語のうち、「日本語を新しく変えているなあ」と思わせることばの多くは一般語です。「ガチで疲れた」「違和感ハンパない」の「ガチ」「ハンパない」などがその典型です。一方、百科語のほうは、「猛暑日」「イベリコ豚」「コモディティー」など、新語がいくら増えても、あまり日本語を変えている感じがしません。百科語は日本語の根幹にかかわることばではないからです。  

そういうわけで、「今年の新語」の選考委員としては、その年、特に広まったと感じられる一般語は、絶対に取り逃すまいという気持ちがあります。これまでの大賞を見ると、「じわる」(2015年)、「ほぼほぼ」(2016年)、「忖度」(2017年)、「ばえる(映える)」(2018年)と、一般語が続いています。これらのことばは、日本語を使う人々の言語生活を確かに変えているという実感があります。  

さて、今回(2019年)の新語を選ぶに当たって感じられたのは、「これという一般語があまり見つからなかった」ということでした。一般語が少ないランキングは、印象が堅くなるのは否めません。

もっとも、投稿内容を見ると、一般語も少なくありませんでした。今回の投稿総数は2,017通、語数は837語。そのうち投稿数が最も多かったのは「タピる」(254通)でした。タピオカドリンクなどを飲む意味で、誰もが使った一般語です。投稿数の2位は「令和」(131通)、そして3位は、これも一般語と言える「ワンチーム」(60通)でした。ただ、これらは、後に述べる理由でランクインが見送られました。  

選考委員が個人的に注目していた一般語もありました。たとえば、「レベチ」。「レベルが違う」の略で、「彼は私とは能力がレベチだ」のように使います。2015年「ギャル流行語大賞」の第7位に入り、2019年になって、観察の網に多く引っかかるようになりました。ウェブでの検索数も、この1年ほどは上向き傾向にあります。それでも、一般的には、まださほど定着したとは言えません。  

あるいは、「呪い」。考え方や生き方を縛る観念のことで、上西充子さんの著書『呪いの言葉の解きかた』で知られるようになりました。「『二重まぶたでなければモテない』という呪い」のように、テレビ番組などでも使われます。ただ、今のところ、この「呪い」の用法が広く認知されているとまでは言えません。

結果として、大賞に輝いたのは、サービスの名称の一部に使う「—ペイ」でした。一般語というよりは、どちらかと言えば、百科語に寄ったことばです。これまでとは少し違う性質のことばが選ばれました。

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