「今年の新語2019」の選評

6. 動詞連用形に音読みの1字

9位 置き配

『三省堂現代新国語辞典』小野正弘先生

おきはい 【置き配】〈名〉宅配する際に、品物を対面して渡すのではなく、指定された場所に置くことで配達すること。「━で玄関前を指定する」[再配達による時間や労力の無駄を防ぐために始められた]

9位の「置き配」は、宅配便の受け取り人が不在のとき、宅配ボックスなど指定された場所に荷物を置いておくサービスです。2019年3月に日本郵便が始めたことから一般に知られるようになりました。再配達のむだを省くための方法として歓迎されています。

「置き配」は、ネットショッピング社会を反映したことばというだけでなく、「置き」という動詞連用形から来た名詞に、「配」という、普通は単独では使わない音読みの1字がくっついている点でも興味を引かれます。「宅配」のような音読みの2字熟語でもないし、「置きみやげ」のような訓読みの複合語でもありません。  

似た作り方のことばの例としては、「泣き売(ばい)」(売り手が不幸な身の上だと思わせて物を売る詐欺)、「やめ検」(検事をやめて弁護士になった人)などがあります。「置き配」はまだ始まって間もないサービスですが、語構成の面からも特筆しておきたいことばです。

10位 ASMR

『新明解国語辞典』編集部

エー エス エム アール 7【ASMR〔←Autonomous Sensory Meridian Response=自律感覚絶頂反応〕聴覚や視覚への刺激によって、脳に快感を覚える反応・感覚。科学的根拠には乏しいが、多くはその人が経験し気持ちよいと感じられた音を耳にすることによって、気持がやすらいだり 快感をえられたり、また、痛みがやわらいだりするとされる。主にインターネット動画を通してひろまり、タイピング音や咀嚼(ソシ
ヤク
)音など様々なものがある。〔聞きようによっては雑音にしか聞こえないものも多い〕

10位の「ASMR」は、正直言って、選考委員もあまりよく理解していません。ネットでは「自律感覚絶頂反応」などとも訳されています。YouTubeなどの動画サイトには、「ASMR」の投稿が多数あって、食べ物をかんだり、何事かをささやいたりする音声が記録されています。これが「音フェチ」の人には心地よくて、睡眠を誘ったりするのだそうです。ここ数年ほどの間に、次第に関心が高まってきました。

アルファベットの組み合わせで、何やら意味ありげだけれど、その実よく分からない。そういった特徴は、「UFO」(未確認飛行物体)や「ESP」(超感覚的知覚)などのことばと通ずるものがあります。当落線上のことばと言えますが、正体がよく分からないだけに物珍しさもあり、10位に入りました。

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今回は「タピる」「ワンチーム」が選外となりました。「タピる」は、タピオカドリンクの大ブームとともに、しきりに使われました。ただ、ブームはいつまで続くか分からず、「タピる」が今後とも使われるかどうか、現時点では判断できません。また、「ワンチーム」は、ラグビーワールドカップ日本大会で、一丸となって戦うチームの意味で使われました。今後「一致団結」に代わって定着する可能性はありますが、現在のところは、まだ流行語的な色合いが強いと考えられます。

このほか、忘れてはならないことばとして「令和」があります。新しい元号であり、この先も長く使われることは確実です。しかしながら、「令和元年の新語」を選ぶに当たって、その「令和」そのものをランキングに入れるのは自己言及的です。元号は固有名詞と見て立項しない辞書もあります。一般のことばとは別格と考え、ランキングからは外しておきます。代わりに特別賞を贈り、新しい時代への期待を込めることにしました。令和の時代が、負の感情ではなく協調の行き渡る時代になってほしいと願います。

 

 

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