2. 各社がなぜか使う「—ペイ」
大賞 ―ペイ
2019年は「—ペイ」ということばがメディアにあふれた年でした。7月、スマートフォンによる決済サービスのひとつ「7pay(セブンペイ)」が大規模な不正利用の被害を生み、9月末をもってサービスを終了してしまいました。決済サービスの普及のためには大きな禍根を残したわけですが、一方で、「—ペイ」ということばが繰り返し人々の耳に入り、認知されるきっかけのひとつになりました。
スマホ決済サービス(キャッシュレス決済サービスの一形態)は、日本では5年ほどで急速に一般化しました。2014年にLINE Pay、2015年にAmazon Pay、2016年にOrigami Pay、楽天ペイ、Apple Pay、Google Payなどがサービス開始。2018年末にはPayPayが高いポイントを還元するキャンペーンを実施し、大きな話題になりました。これでスマホ決済サービスを利用するようになった人も多いはずです。2019年になると、メルペイ、ゆうちょPay、ファミペイなどのサービスが始まり、スマホ決済は花盛りといった趣があります。
これらのサービスをことばの面から観察すると、面白いことがあります。各社がなぜか、申し合わせたように「—ペイ」を使っているのです。「—ペイ」の名称を使わないサービスもあるため、この名称は義務でないことが分かります。にもかかわらず、多くの会社が「—ペイ」を使っています。
海外では、Alipay(2004年)、Amazon Pay(2007年)あたりが「-pay」という名称を使った先駆者です。最初、この「-pay」は固有名詞の一部にすぎませんでした。ところが、先駆者にあやかって「-pay」「—ペイ」を使う会社が増えると、このことばは、「スマホ決済サービス」の意味を表す要素として機能するようになります。三省堂の辞書では、ことばを作るこうした要素を「造語成分(造語要素)」と呼んでいます。
2019年は消費税増税の年でもあります。増税に伴って、特定の店でスマホ決済をするとポイントが還元される制度も、期限つきで導入されました。スマホ決済は今後広がっていくでしょう。「キャッシュレス社会」「ポイ活」(=ポイント活動)などのことばもよく使われます。それらのことばのうち、とりわけ「—ペイ」は、日々の買い物で接する頻度が高い身近なことばであり、大賞にふさわしいと判断しました。
ところで、この「—ペイ」は、動詞・名詞の「pay」(支払う・報酬)から来たのか、それとも名詞の「payment」(支払い)の略か、はたまた、カタカナ語「ペイメント」の略かということが、選考会議のメンバーの間で議論になりました。経済用語として「マイクロペイメント」「ペイメントサービス」などのことばがあります。その「ペイメント」を略したとも考えられます。また、「pay」という要素が、動詞から直接に造語成分になったとも考えられます。それぞれの考え方の違いが、今回公表された語釈の違いに反映されています。そんなところも、ぜひ読み比べてみてください。